前書きは前編の方に書かせてもらっています。
では、中編どうぞ!
羽丘学園、野球部部室…
そこで練習を終えた健太と大河が次の練習試合の話をしていた。
「…江戸川橋高校?」
「あぁ。今度の対戦相手だ」
聞いたことのない高校に、健太は頭をひねらせた。
かくいう大河も、正直知らないと言っているが…
「どうやら、去年夏の都大会で準決勝まで行った高校らしい」
大河は最近知り合いから聞いた話を健太にした。
とそこへ、
「お疲れ」
「お、俊哉、お疲れ」
ちょうど練習が終わった俊哉が部室に入ってきた。
「あ、俊哉、今大河から聞いたんだけどさ、今度の練習試合の相手、決まったらしいぜ?」
「知ってる。江戸川橋高校だろ?」
「あー、もう知ってたか」
俊哉がとっくに知っていることに、少し悔しそうな顔をする健太と大河。
その様子を見たのか見てないのか、立て続けにこう言ってきた。
「というか、もう分析は終わっている。お前らもマネージャーからビデオとかもらっておけ」
「マジかよ!?んで、主軸とか、エースとかわかったか?」
「ビデオを見てからにしろ」
先に分析を終えていることに、少し興奮している大河に、俊哉は一蹴した。
それでも、健太もかなり気になるようで…
「まぁ、言ってもいいじゃねえか?情報共有ということで」
「はぁ…わかった。あくまでも俺の分析だから、あとは自分で何とかしろよ?」
俊哉はいやいやながらも、自分の分析結果を2人に教えることにした。
「まずは、主要メンバーだな…チームの中で、エースと呼ばれているのは、辻上康介。こいつが投げるスローカーブは、スラーブ気味の変則的な球筋だから注意すること。4番は夏までは山本健介っていうやつが務めてたんだけど、今は1年の川端尚之が務めている」
「なんだよ、1年が4番って…ちょっと拍子抜けだな」
「それが案外そうでもなくて、パワーがあるし、肩があるし、広角に打ち分けるから、なかなかの逸材だぜ?あと、俺個人で気になったのは…秋山流星ってやつだな」
「秋山流星?」
秋山流星という名前に、健太はちょっと聞き覚えがあった。
それは、大河も同じだった。
「こいつは、俺とは真逆のタイプのキャッチャーでね…チームでも存在感があるし、感情むき出しでピッチャーを引っ張っているから、気になったんだ」
「なるほど…そんな感じか?」
「だろうな…あとはピンと来る奴はあまり…」
「なら楽勝だな!」
「そうだな」
健太と大河は、互いに笑いあった。
絶対に勝てる…そう思っていたが、まさか1回から波乱が起きるとは、この時誰も思ってもみなかった…
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「セーフ!」
この時、会場にいた者…厳密にいえば、相手の江戸川橋高校のベンチを除いては、このプレーを誰も予想できなかっただろう…
健太はもちろん、大河も、俊哉も、監督の城ヶ原先生も、予想なんてできなかった。
…ホームスチール…初回からこんなことをしてくるなんて、相当な馬鹿にしかなせないようなものだ。
それを…やってのけたのだ。
「…しゃあっ!」
みんながあっけに取られている中、ただ一人、雄たけびを上げていた。
「ナイススチール」
「おうよ!」
バッターボックスから離れていた、4番の川端尚之が、流星とハイタッチした。
「マジかよ…」
(こんなところでホームスチールするなんて…)
(こいつは…かなり予想外だな…)
健太たちは、かなり動揺をしていた。
とはいえ、先攻で1回表の時に1点を入れていたので、そこまでのダメージはなかった…
「…けんた君…大丈夫かな…」
あこは、今グラウンドの外でけんた君たちが勝つ祈るように手を合わせている…
「大丈夫だよ」
と、隣で声をかけてくれたのはリサ姉。
リサ姉もけんた君たちの応援に駆けつけてくれたんだ。
それだけじゃない。
友希那さん達も今日はけんた君たちのために応援に駆けつけてくれたんだ。
あとね…
「健太達、ここで終わるわけないからな!」
お姉ちゃんやお姉ちゃんの友達まで応援しにきてくれたんだ。
だから、けんた君たちは勝てる…そう思っていたけど…
「流星くん、すごーい!」
「今のホームスチール!?凄すぎ!」
今日は流星さんの応援も来ているんだ。
流星さんの友達の香澄さん達が応援しに来ていて、知り合いが今日全員来ていることになっちゃった。
あこも流星さんと知り合いだから、流星さん達も応援したいけれど、実は昨日…
『明日は気になってる人を応援してきな』
と、流星さんからメールが来たんだ。
だから、今日はけんた君を思いっきり応援するんだ。
「頑張れー!けんた君ー!」
あこの声が聞こえて、健太は我に返った。
「全く…今日は練習試合だっていうのに…」
健太はそう呟きながら笑ったあと、4番の尚之を見た。
(この前、ビデオで確認したけど…こいつはなかなかの打撃力だからな…)
健太はそう警戒しながらも、自信満々の顔を見せた。
(…笑ってる?)
尚之は健太の様子を見て、改めて気持ちを引き締めた。
健太は4番の尚之を、2球目のチェンジアップで詰まらせて3アウトチェンジ。
「とりあえず、1回は乗り切れたかな?」
帰ってきたナインに、城ヶ原先生が笑顔で迎えた。
その一言に、健太達は黙ってしまった。
「そこまで落ち込むことはないよ。今のは誰も予想はしていなかった。今は次の回をどうやって切り抜けるかを考えよう」
「はい!」
城ヶ原先生の激励で、羽丘学園ナインは士気を取り戻した。
「…すげえなぁ…さすが、春の関東ベスト4に入る実力校」
「ああいうところも、羽丘学園の特徴だろうな」
羽丘学園ベンチを見ながら感嘆していたのは、秋山流星と川端尚之だ。
2人はそう言った後、それぞれ守備に入った。
その時に…
「流星が取った1点だ!大事に守っていくぞ!」
と、尚之が大声を上げて、チームの士気を上げた。
しかし、江戸川橋高校はすぐにピンチを迎えることになった。
雄介が6番バッターに投げた球は肩に当たり、デッドボール。
続く7番には四球と、荒れ始めてきた。
(…ちょっと荒れてるな…緊張してんのか?)
「タイムお願いします」
流星はすぐにタイムを要求した。
「あー…あれはちょっと緊張してるな」
健太は雄介の様子を見て、ふとそう呟いた。
それを聞いていた大河が話してきた。
「緊張?」
「あいつ、確か1年だろ?多分、先発としては初めてだろうな…」
「なるほど…多分、お前が言いたいのは、せっかく同点にしてもらったことによる、責任の重さってことか」
「そういうこと。まだ序盤だろうけど、抑えなきゃいけないところで取られて、それでも取り返してくれたから…っていう心理が働いてるんだろ」
「俊哉は多分、ここで相手チームの秋山ってやつの捕手としての実力が試されるって言うだろうな」
「違いない」
健太と大河がそう話をしている一方、流星と雄介はマウンドで話をしていた。
「大丈夫か?」
「あぁ…申し訳ねぇ」
「謝ることなんかねぇよ。また1点取られてもいいんだから」
「え?」
「変なことで気を落とすな。まだ序盤。1点取られたら俺らがちゃんと取り返すから。お前は俺の指示がない限り、バッターに集中して投げろ。いいな?」
「あぁ、すまない…」
そう話し合った後の雄介の様子は、少し余裕が出来たような感じだった。
「顔が変わった…余裕が出来たな」
雄介の様子にいち早く気がついた健太は、ニヤリと笑った。
続く8番、俊哉に対してスロースライダーで空振りを取ると、雄介は続く健太、大河を三者三振に倒すことに成功した。
これにはちょっと予想外だった健太だが…
(これくらいにしてもらわないと、俺らとしてもあまり歯ごたえがないんだよね)
と、闘争心を燃やした。
2回裏の攻撃は、5番セカンドの須藤麻里弥(オネエ)が、センター前にヒットを打った。
この時、キャッチャーの俊哉が…
「いくわよーん…オラァ!」
…と叫んだのが聞こえたらしく、トラウマになりかけそうになったらしい。
その後は健太も三者三振で流れを渡さなかった。
その結果、4回まで1-1のまま試合が進んでいったのだった…
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「…あーあ、つまんない」
あこはどちらも引けを取らない試合に、少し飽きてきていた。
「こらこら!試合見るたびいつもそういうこと言うから」
と、リサ姉がいつものように注意してきた。
でも、本当につまんないもん…
「まぁ、仕方ないよ。野球の試合、結構こういうの多いから」
そう言ってきたのは、流星さんの友達の沙綾さん。
お姉ちゃんの友達でもあって、『やまぶきベーカリー』の看板娘さんなんだ。
「へぇ、そうなんだ、沙綾」
と、沙綾さんに声をかけたのも、流星さんの友達で有咲さん。
少し怖いところあるけれど、優しいところもあるんだ。
でも、そこまで関わってなかったから正直わからないところもあるけど…
「うん。プロ野球や公式の大会だと、球場とかに売店とかあるからそこを巡って時間を潰すなんてことができるけど、今回は練習試合だから、近くのコンビニで我慢するくらいかな?でも、見てて面白いと思うよ」
「へぇ…今度、私も連れて行っていい?」
「うん、いいよ!」
…沙綾さん達は結構盛り上がっている。
でも、あこはあまり野球のルールってわからないんだ。
何度もけんた君の試合を見に行っても、ちんぷんかんぷん…
「あこ!何考えてんだ?」
「あ、お姉ちゃん」
そっか、今日はお姉ちゃん達も来てたんだっけ。
確か、お姉ちゃんの友達が誘って、たまたまそれがこの試合だったって…
「また健太の事考えてただろ?」
「え!?」
「へへ、顔に出てるぞ?」
「そ、そんな事ないよ!」
お姉ちゃん!今そういう事言わないで!
リサ姉も笑ってないで、何か言って!
「…何やってんだ?あいつら…」
「あこちゃん達…健太さんの話してるな?」
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…試合が動いたのは、5回表…
雄介が2アウトランナーなしの場面で、打席には健太…
(…健太さんは2打席目…ピッチャーだし、読みもうまいはず…ここは早めの勝負で)
流星は雄介にそうサインを出して、続いて投げる球とコースを伝えた。
(まずは…フォーク!)
雄介が低めのフォークを投げ、それが決まった…かに思えたその時だ。
カキーン!
…金属が球に当たる時の快音が響いた。
(…え?)
流星が打たれた方向を見上げると…打球がレフトのポールの内側ギリギリに…入ったのだ。
いかがでしたでしょうか?
後書きは後編の方に書かせてもらっています。
では、後編へどうぞ!
追記:話の内容を少し変えました(7/27)
『デートチケット』編、見たい?
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見たい!
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別にいい