アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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結2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いです、助けて、ください……私が、死んだら、妹達に待つのは破滅だけなの!!」

 

「許してください、なんでもしますからっ!!」

 

「ん?」

 

「今……何でもするって言ったよね?」

 

 

自分を見下ろす圧倒的強者。

その緑色のフードの奥に揺蕩う暗がりがざわりと。

ぼんやりと浮かぶ二つの丸が、わずかに歪んだような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、アルシェ。起きて!」

「ファッ!?」

 

アルシェ・イーブ・リイル・フルトは、研究所の仮眠室で目を覚ます。

自分を見下ろしているのは、バレイショ魔導研究所のガウンを着た中性的な少女ニニャだった。

手には赤色の宝石が組み込まれた白銀製の《アルケミスト・ロッド》が握られている。

 

「一時間後には、今月の定例研究会よ。ちゃんと身嗜みを整えておかないと」

「あ、ごめんニニャ。目覚まし寝たまま止めてたみたい……」

 

仮眠室共用の目覚まし時計は、無意識に止めた時に倒してしまったのか横になっている。

この目覚まし時計は便利ではあるが、何故か女の子がアイダホの名前を甘ったるい声で呼ぶという変な仕様。

ニニャがいうには仮眠中に低い声で怒鳴られた事もあり、色々謎の多い代物だ。

 

「じゃ、私は先に行って会議室を整えてくるから。遅れたらダメよ?」

「うん、分かった。すぐに行くから」

 

ニニャがドアを閉めた後で、欠伸をかみ砕きながらアルシェは寝間着を脱ぐ。

こちらに来てから体が歳相応の成長を始めた様で、胸周りが明らかにふっくらとした感触を示し始めている。

そういえば、尻周りが下着と少しばかりフィットしなくなっているような気もする。

 

(次の休暇で下着、買ってこないと)

 

かつての心因的な疲弊と、ワーカーとしての過労。

元貴族とは思えない程の困窮から解放されたからだろうか。

 

(後は、もう少し生活のリズムが整っていればね。最近、残業が多い……昨日は帰れなかったし。肌荒れしないといいなぁ)

 

この研究所務めを始めてから、就寝時間や領主の館にある自室に帰る時間がずれる事が多い。

特に最近は魔法の創造物の調整が佳境を迎えており、ニニャも自分も仮眠室の利用が増えている。

アイダホは冬ぐらいには落ち着いてゆっくり出来るとは言っていたが。

 

(ああ、妹達をじっくり構いたい。癒されたい)

 

自分と同じく領主の館で世話をされている妹達の事を思いながら、研究所支給のガウンに袖を通す。

緑と黒を組み合わせたガウンで、耐火、耐爆、耐酸、耐刃、対魔の付与が為されている。

もっとこの研究所が大きくなれば、階位ごとにガウンの意匠やネクタイを増やすそうだ。

と言っても、今この研究所に居るのはアルシェとニニャ位だが。

他はアイダホが放浪時代に集めたという低位から中位のゴーレムでオートメーション化されている。

 

「ん、よし……」

 

顔を洗面器に満たされた水で洗い、タオルで拭ってから櫛で軽く髪を梳いて寝癖を直す。

ベット横のサイドテーブルに置いてあった、タレントの魔眼を制御する眼鏡をかける。

最後にベットに立て掛けてあった杖、アイダホから授与された無数のルーンが刻まれた《智者の杖》を手にして仮眠室から出る。

研究所とあって、むき出しの壁材と室名が描かれたプレートがあちこちに張られている無機質な通路を歩いていく。

時折資材を担いだウッドゴーレムとすれ違うが人気は殆どない。

 

暫く歩くと、ドアの両脇をアイアンゴーレムが挟むように守っている会議室が見えた。

侵入者を見ればすぐさま拘束しようと襲い掛かるゴーレムは、目の前を過るアルシェには何も反応しない。

軽く息を整える。ドアの前に立ち、ノックしてから入る。

 

「申し訳ありません。遅れました」

「いや、こちらが早く来過ぎた様だから気にしなくてもいいぞアルシェ」

「アルシェ、角砂糖は二つでいい?」

 

室内は魔法の光源で照らされ、魔力で動くシーリングファンがゆっくりと回転している。

会議室内は、十人程が座れる黒曜石製の円卓があり、既に着席者が三人居た。

暗がりの中から光点がぼんやり二つ浮かんでるアイダホ、そして人数分のお茶を淹れているニニャ。

 

「遅いぞアルシェよ。魔導を極める為の時間は幾らあっても不足ではないのだからな」

「も、申し訳ありませんパラダイン様」

「おいおい、そう責めるなよフールーダ。予定よりかは早いんだからさ。そうせっかちにならんでも会議は逃げないって」

「申し訳ありませぬ。どうも知識欲が抑えきれず急かしてしまいましたな」

 

そしてアイダホの隣の席に座り、長い白髭をゆっくりと撫でている老人、フールーダ・パラダイン。

 

バハルス帝国の主席宮廷魔法使い。

帝国魔法省最高責任者にして、皇帝ジルクニフの側近中の側近。

帝国魔法学院の開設者でもあり、通学していた時代の恩師でもある。

アルシェにとって、否、帝国で魔法に関わる人間にとって雲上人と言ってもいい存在だ。

 

その雲上人が帝国から正式に国家と認知されていない無所属の街の研究所に居る。

常識で考えればあり得ない話だ。魔導を追及する為にバハルス帝国大魔法詠唱者の塔にて、弟子達と日々研鑽に励むのが常とされる老人が。

皇帝たるジルクニフの横ではなく、茶菓子であるスイートポテトをモグモグ食べているアイダホの横にいる。

 

しかも、これから話す事を考えれば、あなた帝国での立場はどうしたのかと叫びたくもなる内容である。

 

「じゃ、全員揃ったし始めようか。フールーダ、進行役お願い」

「はい、では今月の研究会を始めましょう。討議内容はアイダホ様が優先すべきとする軍用ゴーレムの開発及び製造についてですな?」

 

そう、会議で話されるのは、アイダホが率いる軍勢で導入される魔導ゴーレム。

場合によっては対帝国戦に投入される危険性があるのだ。

無論、帝国の安全保障に深く関わる老人がそのリスクを知らない訳がないのだが、当のフールーダは話し合いに夢中だ。

 

「ああ、そうだ。前回の研究会で発表したように試作機は既に調整が済んでいて、量産機に向けての簡易化が行われてるのはみんなが知っての通りだ。今年の収穫期までには量産、そしてある程度実戦訓練をしておきたい。ぶっつけ本番は危険だからな」

「では、1ページにあるようにゴーレムの命令機能は削減し、術式の構成も簡易化を図るのですな?」

「そうだ。もう半年開発が早ければ汎用性を高めてたところだが、今は実用性の方が大事とする。それで5ページ目を見て欲しい。これはニニャの提案なんだが……」

 

フールーダが顎髭をしごきながらゆっくりと。

アルシェとニニャはせかせかと羊皮紙をめくり始める。

フールーダがここに滞在している時は、ニニャとアルシェと同じ緑色と黒を組み合わせたガウンを羽織っている。

勿論、デザインもそっくりである。

 

(パラダイン様、それって……)

 

アルシェは彼の装いに突っ込みを入れたくなったが止めた。

フールーダの魔法の深淵への追及に関しては、常軌を逸しているのは帝国の魔法使い達ではよく知れた事だ。

彼が帝国に忠義を尽くしているのも、帝国の術者への庇護が厚い事と魔法への理解があるからだ。

 

しかし、それ以上の魔法の深淵たる知識をアイダホが齎したのであればどうなるか?

不思議と神秘と謎の塊であるアイダホは、魔導の常識を覆すような技術なアイテムをポンと出してくる。

実際、アイダホは所蔵している魔法書の幾つかをフールーダに進呈しているらしい。

そしてフールーダとアイダホが接点を持つようになって暫くの後、フールーダの階位は第7位に上昇した。

その時の話をすると、何故かアイダホが足元をヒョイと引っ込めるのだが真相は不明である。

 

(パラダイン様がこの計画に加担するという理由。それは必要とあれば帝国よりも領主様を選ぶという事)

 

アルシェは、もし帝国とアイダホが決裂して戦争になった場合。

フールーダはアイダホ側に付くと確信している。

この魔導の究明に憑りつかれた老人は、ジルクニフよりも未知の知識を供与するアイダホを選ぶだろう。

そうでなければ、帝国を脅かす可能性がある兵器の製造計画に携わる訳がないのだ。

それは帝国と、皇帝ジルクニフに対する明確な裏切りなのだから。

 

(でも、私はそれを止める事も、そのつもりもない)

 

元帝国の貴族であるアルシェであるが、実家を取り潰した帝国に対する未練はない。

仲間達はこの領地を貴族の依頼で探りに来て捕まって以来、完全にこちら側に組み込まれている。

妹達はアイダホに保護され、そしてフルト家に仕えていた者達は領主の館で働いている。聞き分けのない両親はまだ眠ったままだが。

生まれ育った家も既に競売にかけられ、かつての名残も消えているだろう。

気がかりとすれば学院時代の級友や後輩達。満足に別れも告げられなかった。

自分に気をかけてくれたジエットは元気にしているだろうか。彼の事は時々思い出す。

 

(今の私は、バレイショ魔導研究所所属の研究員なのだから。覚悟を決めないと)

 

アルシェは説明が続いているゴーレムの構造の図面に目線を落とす。

まずは、これを実用化させる。これらが完成し量産化されれば、戦場は一変するとアイダホは言っている。

 

(私は、この街の、いずれ出来る国の、魔導を司る者にならないといけないのだから)

 

ならなければいけない。

自分と、妹達の未来の為に。

アイダホからかけられた期待に応える為に。

 

 

 

 

 

アルシェとニニャは、アイダホにとって現時点における最重要人材だった。

何れは魔導の全面導入による、総合力の強靭化を目指す術者の軸となるべき存在だ。

 

その根拠はニニャはタレントによる才能、アルシェは常軌を逸した成長速度による。

 

ただアルシェの成長度はかつて元師であるフールーダから、今後の成長的余地は厳しいと指摘されている。

あと少しの所まで来た第4位までは確実、だが、その後の第5位に至れるかが生涯をかけた宿命になるだろうとも。

正直、タレント【魔法の習得を倍の速度で行える】の特異性を見込んでいるニニャの方が断然期待が持てる。

 

アルシェの現役時代は第4位までが限界。

死ぬまで研鑽して5位に至れるかどうか。

この世界の魔法使いとしては文字通り大成の領域だろう。

だが、アイダホからすれば全然物足りないの一言だ。

その程度では大した事なんてできない。

とてもだが、彼が要求するレベルではない。

モモンガやウルベルト、タブラ・スマラグディナらの超位とまではいかずとも、最低でも第8位までは到達して欲しいのだ。

ニニャはタレントを使い、潤沢な資料とアイテムと触媒、実験施設とその機会を与えればこれまでより更に上位に昇格するだろう。

 

無論、アイダホも二人に随分な無茶を期待しているのは理解している。

普通の手段で研鑽をしたところで即座に結果が出る訳でもないし、出るにしても何十年かかるかどうか。

 

だからこそ、ユグドラシルのアイテムと知識がものをいうのだ。

 

(平均的な魔法使いが生涯かけて第3位を目指すのに対してアルシェはたった数年でそこに至った。異様な早熟である特性は捨て難い……問題は既に成長限界が近いって事。となれば)

 

アイダホは、とっておきの切り札を投入する事にした。

 

(上限の蓋をとって、もっと上を目指させればいい。この指輪の奇跡で!)

 

取り出した指輪は、二つの星が砕けている。

だが残りの一つは見た瞬間に抑制が無ければアルシェが嘔吐するレベルで、凄まじい魔力を含有している。

かつてギルマスの夏のボーナスを須らく吸い上げた魔性のアイテム。

超位魔法ウィッシュ・アポン・ア・スター《星に願いを》を経験値消費無しで使える流れ星の指輪(シューティングスター)

アイダホはこれを二つ所持しており、残り四つの星を温存している。

 

アイダホは転移して暫くの後、指輪を二回使用している。

彼が望んだ願いは、【モモンガとの再会】【ナザリックへの帰還】。

勿論、叶っていたら彼はトブの大森林で為政者などやってはいない。

この時ばかりはアイダホも荒れ狂い、「ふざけんな、課金分返せよ糞運営!!」と周囲に当たり散らしハムスケを怯えさせていた。

 

「これを使う価値が君にはあるよアルシェ。君はニニャと共に『逸脱者』になってもらう。俺の森を、国を魔法をもって守護する存在に。以後の国家の基盤を作り出す為の投資と考えれば、この奇跡を使うのは十分有意義だろう」

 

自分に奇跡を行使する事を聞いて恐懼するアルシェに、アイダホはこの指輪を使う意義を説く。

ニニャにしても、彼女と同じ価値を持ち、同じ責任感を持って欲しいからだ。

 

「アルシェ。君ならわかる筈だ。帝国魔法省とフールーダ・パラダインが帝国に寄与したあまりにも大きな恩恵を。ニニャ。君ならわかる筈だ。王国が術者(キャスター)を蔑ろにした結果、国力から軍事力まで帝国に大きく遅れを取っている事を」

 

二人の目に理解が浮かんだのを確認してから、アイダホは言葉を続ける。

 

「俺はどこまでいっても前衛の戦闘職だ。いくら戦闘で魔法を使えてもそれだけだ。俺や身の回りだけなら、それでも十分だったろう。だが、君らも知っているようにこれからはそれでは済まされない。これから必要なのは組織的な術者の養成と技術の蓄積。国造りの要になる魔法の数々。今までは第3位が到達点であり、第6位は奇跡だった。だが、数十年後の俺の国では第6位は普通で、第9位を一流とする。最高導師は超位を使える、これが理想だ」

 

アルシェとニニャの目と口が、どっかのアクターの如く埴輪みたいになってるのを見てアイダホは当然だと思う。

アイダホは今までの魔法の世界を完全に塗り替えるつもりなのだから。

そして、その先鞭を自分達で付けろというに等しい要求を突きつけられているのだ。

 

「これを実現出来れば、帝国はもちろんの事、王国はこちらへと口出しできない様になる。それだけの技術と軍事力、国力と豊かさを生み出せる」

 

将来的には法国も。これは口の中に留めておいた。

執務室には盗聴や念視対策は施されているが、法国の目と耳はどこにあるか分からない。

 

「その為の初歩が秋の作戦だ。必要なものがあれば、申し出る様に。俺の手の及ぶ範囲で可能な限り用意しよう。二人の奮闘を期待する。

 まずは、その第一歩として……指輪よ。I WISH (俺は願う)!」

 

奇跡を呼ぶ指輪の片割れは消失し、代わりにアルシェは己の限界を超えた天賦の才を手に入れる事になる。

彼女が数多の願いをかなえる星一つの奇跡につり合う存在になれるのか。

 

それはこれからの歴史が語るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワールドアイテムの一つ、20の内の一つ。

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)

 

アイテムボックスにしまってある、とあるギルド跡地で発見した切り札だ。

見かけは七枚の花弁を付けたバックラーなのだが、コマンドワードを唱えると七枚の神の城壁に匹敵する防御力を発揮する。

同じ20の超位攻撃すら相応のダメージを吸収して花弁の枚数の消滅と引き換えに防ぐことが出来る。

 

そして、これが一番大事なのだが。

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)と同格かそれ以下であればワールドアイテムの干渉をも防ぐ事が可能。

それはすなわち、法国の切り札である漆黒聖典所有のワールドアイテムの脅威を防げる可能性が大いに高まったという事になる。

ロンギヌスと傾城傾国が熾天覆う七つの円環(ローアイアス)を上回るか。

または熾天覆う七つの円環(ローアイアス)を凌ぐ上位のワールドアイテムを持ってこない限りは、だが。

 

(これが手に入ったおかげで、背中が随分と寒くならなくなったような気がする。何十年も探した甲斐があった)

 

漆黒聖典のロンギヌスと傾城傾国、そしてツアーが所蔵する八欲王のワールドアイテム。

あれらはこの世界において破格の戦闘力を誇るアイダホにしても脅威だった。

幾重ものスキルと全身を固めるゴッズアイテム、パッシブスキルで身を守るアイダホを唯一屈服させれる鬼札。

それを防ぐアイテムを手に入れるのは自分を守る為に当然だった。

 

(俺はたった一人だ。まだ後継者も引き継いでくれる仲間も居ない。死んだり洗脳されたらそれで終わり。幾ら備えても不足はない。今の有様で俺が倒れたら全部終わりだ。この状況であの国が下手を打つとは思えないが、今年のイベントでパワーバランスが変化したらどうなるやら。最悪、法国が俺を傀儡にしようとするかもしれない)

 

アイダホは元特権階級故に知っている。

国家間に真の友人はいないのだと。

生き残る為には昨日まで手を組んでた相手の背中に、ナイフを突き立てねばならない時もあると。

 

法国は今のところ友好的には関係を続けられている。

アイダホも出来れば今後もよいお付き合いを、と思っている。

 

だが、今後も必ずそうあり続けれるとは限らない、とも考えていた。

アイダホが「彼らの望まない、危険な神」になった場合、彼らは自分を排除しようとするかもしれない。

その悪神の定義が「法国側の都合であり、アイダホ側からすれば不遜」だとしてもだ。

悪神となったアイダホに、ロンギヌスと傾城傾国。更には番外席次が差し向けられるのは当然の事なのだ。

 

完全に回避するなら連中の要求を全面的に呑んで、法国の七柱目に就任する事だろう。

しかし、それはアイダホにとってはご免被る事案である。今まであれこれやらされた身としてはだ。

アイダホとしては「なんで俺がそこまで砕身粉骨してお前ら保護しなきゃいけないの?俺はお前らの母親じゃないんだぞ!?」と言いたい。

ただ、六大神に保護され、それでやっと存在を維持できた経緯がある人類であるからこその歪みではないかとも考えてはいる。

 

(問題は法国だけじゃない。今のウチもよくない傾向だ。食い扶持は増える一方だし)

 

単騎の英雄だけでは、国を支え切る事は出来ない。

国殺しのドラゴンや巨人を倒せても、国家とそれに属する人々を維持し続けれる訳ではない。

国家は存在するだけで膨大な食料と資材と資源を消費し、国民は毎日消費しては糞を放り出す。

難民の寒村から始まったバレイショは、今や三か国に囲まれた森の国の首都へと変貌する寸前にまで至った。

守るべき場所も範囲も初期とは比較にならない程拡大し、来年あたりで更に飛躍する、予定だ。

 

(少なくとも今まで通りの俺だけってのには限度がある。抱えてるものは大きくて、今もなお増量中だ)

 

バレイショ、オーレ・アイーダ、更に新設中の穀倉都市だけで国民は既に2万に近づいている。

警備隊と称した国軍括弧仮も、森林警備隊とシティーガード、野戦隊で合計500人を超えている。

 

傾きが激しい王国からの流民で、人口は増える一方だった。

近年の帝国との継続的なカッツェ会戦という名の見栄っ張り合戦の後遺症だ。

 

働き手が減る一方なのに税だけはきっちり取られて首が回らなくなった村。

戦時徴用として余剰の穀物や食料を端金で買い叩かれ冬を越せなくなった村。

貴族の所持する治安戦力が疲弊して各地の治安が悪化し、元農民の暴徒に襲撃され生きていけなくなった村。

 

そんな風に王国から逃げ出した流民達が、逃亡先の一つとして選んだのがアイダホの領域である。

法国はお国柄故に受け入れに厳しく、帝国がおもな逃亡先だったのが二つに増えたのだ。

彼らの食い扶持を維持する為にストックの放出といくつかのアイテムの解放、帝国からの輸入を増やす必要があった。

食料の貯蓄の為に穀倉地帯の開発を行う事を決定した位だ。誠に遺憾ながら法国の援助も受けなければならなかった。

 

(こんな状況が続いたら絶対に首が回らなくなる。それだけに、秋の作戦は絶対に成功させる。その為に……)

 

アイダホは、執務室に貼られた大陸の地図を見た。

トブの大森林の東側に広がる人類圏最大級の国家。

リ・エスティーゼ王国。斜陽の大国。

 

(新しい国造りに必要なのだ。どの道緩慢に滅ぶのなら、俺と俺の国の為に有意義に滅んで貰おうじゃないか)

 

大陸の歴史を変える、アイダホの決意。

それを知るものは今はまだ居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




爺の即堕ちって全然萌えない(絶望
どんどんいろんな物担がされるアイダホさん
ギルマスー、早く来てくれー!! そして代わりにやってくれー!!






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