アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。














結14

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ・ランテルは城塞都市だ。

王の直轄地でありバハルス帝国との境界線を担う要衝であるこの街は、三重の堅牢な城壁に囲われた難攻不落と謳われている。

 

 

(かつては、が付く現状ではあるな。全く、予定通りとはいえ容易く陥落したものだ)

 

形式上監禁された自室の窓から、ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフは眼下の街を見下ろしていた。

彼の行動の自由は現状貴賓館の自室の中でのみ保証されている。

部屋の外にはアイアンゴーレムが見張っていて、出入りはアインズ・ウール・ゴウン軍の兵のみが許されていた。

 

彼が見る限り意外なほど、町は平穏な装いを保っていた。

城壁の上に居るのは王国の守備兵であるし、市場も普段通りに開かれている。

城門も開け放たれていて、普段通りの臨検が警備の兵達によって行われていた。

 

各正門の脇に体長数メートルの総ミスリル製のゴーレムかアイアンゴーレムが音もなく佇んでなければ。

三重の城壁の最も内週部の城壁内の出入り口のみ、アインズ・ウール・ゴウン軍の兵士達が臨検を行っていなければ。

都市長パナソレイ・グルーゼ・ヴァウナー・レッテンマイアの館等の重要な建物の上に赤い生地に金糸で禍々しく紋様が彩られた旗がはためいてなければ。

 

後は街を行き交う人々の顔に怯えや不安が滲み出ていなければ、エ・ランテルの日常は戦時下においても変わりないと思える程だったろう。

 

(不安なのは仕方がないだろう。あのミスリルのゴーレムを打倒出来る可能性があるのは最高峰の冒険者であるアダマンタイト級のみ。そして、この街にはそのような猛者はいない)

 

エ・ランテルにおける冒険者チームで最強とされるのは「天狼」「虹」「クラルグラ」。

何れもミスリル級であり、あれより格下であるアイアンゴーレムを倒せるかなといったところだ。

加えて彼らは基本王国の軍事行動とは不干渉の関係であり、占領軍に対して理由なき敵対は行う事は出来ない。

駐留軍や行政区の警備兵ではアイアンゴーレムすら全く太刀打ちできないだろう。

つまり、エ・ランテルにおける王国軍の命運は完全に詰んでいたのだ。

 

(私の様に裏側を知らなければ、不安と恐怖でどうにかなってしまってもおかしくはあるまい。まさか、パナソレイが素で慌てふためくさまを見られるとは思わなかった)

 

あの人を食った演技者である迎賓館の主の事を思い出し、ザナックは苦笑する。

彼こそがこの街の堅牢さを一番認知していた人物の一人でもある。

故にその堅牢さが薄紙を裂くように破られたと認識した彼は、普段の演技ではない本当の驚愕と狼狽を周囲に見せた。

本当に彼にとって不運な話である。エ・ランテルでの役職は失われるだろうから、後々で人事の世話をしてやろうとザナックは思った。

 

(だが、それはしょうがなくもある。通常の攻城戦の埒外を行かれればああもなるな)

 

 

まず、不可視の状態で魔法の絨毯に乗ってやって来た分隊が、エ・ランテルの頭上で【霞の鐘】を鳴らす。

この鐘は音色を聴いたものを朦朧とした状態にするものであり。

数回鳴らしただけで地下などに居たごく一部を除きほぼ都市の住人全員が朦朧とした状態となった。

そしてその間に都市近郊まで接近していたゴーレム部隊が擬装を解いて一気に接近し各門を占拠。

同時に魔法の絨毯に分乗したアインズ・ウール・ゴウン軍本隊300人と義勇兵達が一気に中枢を占拠した。

 

この作戦の間鐘は定期的に鳴らされ、エ・ランテル側は全く抵抗の余地を見いだせなかった。

朦朧としている間に各門と中枢を差し押さえられ、留守役のザナック第二王子や側近、パナソレイ都市長ら要人を全て人質にされてしまう。

残された軍や市民達にもはや選択肢はなく、身の安全と都市の運営の維持を条件に彼らはアインズ・ウール・ゴウン軍にあっさりと降伏した。

 

同じく朦朧としていたザナックがこの部屋に軟禁され、やって来た占領軍司令官ヘッケラン大隊長から教えられた事である。

彼はアインズ・ウール・ゴウン軍の行動はしっていたが、仔細までは知らされていなかった。

あまりに知り過ぎていると不審な点が目立ち、彼の内通と売国がばれるからだ。

 

(しかし、凄まじいマジックアイテムの数々だ。今更ながら、王国の魔術師に対する軽視が愚かしく思えて来る)

 

ザナック王子はアインズ・ウール・ゴウン軍の持つアイテムに感心していたが、アイダホからすれば全てゴミアイテムである。

空飛ぶ絨毯はサイズによっては小隊レベルの人数を運べる便利なアイテムであるが、速度も防御も大したことがなくて対空射撃の良い的でしかない。

隠蔽のアイテムは下位のものにすぎず、【霞の鐘】に至ってはレベル30以下のキャラクターにしか効かずプレイ開始から二日後位には何の意味も無くなる【初心者キラー】だ。

 

これらは廃棄されたユグドラシルプレイヤーの拠点にあった、無限のゴミ箱の中から回収したものである。

この世界の人間にとっては脅威のスペックを誇っても、ユグドラシル・プレイヤー達にとって、その程度の価値しかないのだ。

 

 

「失礼しますザナック殿下。護送準備が整いました。大広間に集合して頂きたくあります」

「わかった。今すぐ向かおう」

 

ノックをして入って来た義勇兵が、ザナックに大広間に向かう事を指示してくる。

義勇兵にしては仕草や物言いがこなれていた。

恐らく、法国から差し向けられた正規兵なのだろう。

 

(さて、いよいよ【今の】王国の終わりの始まりか)

 

出来れば終わりなど避けて通りたいものだと彼は思う。

しかし、それが避けれないのであれば最善の終わり方を模索するのも王族の務め。

このエ・ランテルは主を変える事になるだろうが、それも時代の移り変わりというものだろう。

 

(少なくとも、鮮血帝の良いように国土を切り取りされる末路は避けるべきなのだ)

 

手早く身嗜みを整えた後で、ザナックは義勇兵を追う様に自室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ・ランテルを望む街道を、草臥れ果てた軍勢がフラフラと通過していく。

軍勢の一部はエ・ランテルの近くで立ち止まって山と積まれた糧食を受け取り、先ほどと同じように覇気のない歩みで去っていく。

 

彼らはカッツェ平野から撤退してきたリ・エスティーゼ王国軍である。

22万を数えた大軍は15万人前後まで落ち込み、兵から騎士に至るまで顔に疲弊が出る程に沈み切っている。

 

戦闘開始の日と、次の日の会戦にてリ・エスティーゼ王国軍は大敗北を受けカッツェ平野から撤退。

 

アインズ・ウール・ゴウン軍の攻撃とバハルス帝国軍の追撃による死者は5万人前後。

カッツェ平野から逃げ遅れて帝国軍の捕虜になった者達が1万人前後。

そしてエ・ランテルに逃げる途中に隊列から離脱、つまり脱走した者たちが1万人前後。

合計で7万人以上を失い、装備や物資の大半を遺棄しての退却。

更に参加した貴族達の多くがカッツェ平野で斃れ、生き残った指揮官たちは明らかに多すぎる兵力に四苦八苦していた。

王室の第一王子、六大貴族のボウロロープ侯とリットン伯が戦死した事も大きい。

今までの対帝国戦において、最悪の部類に入る壊滅的な敗戦である。

 

「完膚なきまで負けたな」

 

本陣の護衛隊を取り纏めながら、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは呟いた。

幸いにも王国戦士隊の損害は小さく済んだが、彼らの表情は疲労と失意に満ちていた。

 

「ええ、おまけに敵から帰りの分の糧食まで恵んでもらうとは……」

 

隣にいる副長も、疲れ果てた面持ちでアインズ・ウール・ゴウン軍が設置した配給所を見やる。

各軍の馬車部隊が横付けし、糧食が詰め込まれた木箱や樽を積み込んでいる。

あれらは、戦闘終了後に各貴族軍がエ・ランテルから領地に戻るまでの糧食を市の倉庫街に預けていたものだ。

それらを予定通りに引っ張り出してしかるべき相手に渡している。

渡してくるのは、敵軍でありエ・ランテルを占拠しているアインズ・ウール・ゴウン軍であったが。

 

半ば壊乱して撤退してきたリ・エスティーゼ王国軍には、殆ど食料の余裕が残されていなかった。

このまま領地に帰ろうとしても、民兵達は勿論の事貴族達の分の食料ですら満足に無い有様だ。

そうなれば飢えて殺気立った脱走兵の群れと、帰路の村や町で強制的な徴発という名の略奪を行う愚連隊が無数に出没する結果になる。

 

アインズ・ウール・ゴウン軍曰く「このまま壊乱され国中に野盗が溢れ出るのはこちらとしても困る」との事。

相手は既に王国軍の窮状を見透かした上で、恩着せがましく食料の提供を申し出てきたのだ。

 

無論、受け取った後は直ちに領地へ帰還する事が供与の条件だ。

エ・ランテルに接近した場合は容赦なく殲滅するとも警告している。

加えて、エ・ランテルに居る第二王子と都市の要人達の命も保証しないとも付け加えている。

エ・ランテルの門と配給所の中間には、ガゼフが散々に押し捲られたあの大魔獣が配置され監視の目を光らせていた。

弱り切ったリ・エスティーゼ王国軍では、あれ一体で一軍が良いように蹴散らされ追い散らされるのは目に見えていた。

 

「……悔しいですね、もう、王国の後の支配者のつもりでしょうか」

「言うな、彼らの供与が無ければそれこそ最悪の結末が王国の民を襲うのだ」

 

ガゼフの言葉に、副長の肩はがっくりと下がった。

彼だけではない、周りの戦士達も、本陣の近衛兵達も、王と貴族達も。

全員が俯き、葬儀に参列する者達のような面持ちでただ戻るべき場所への帰路につく。

本陣では数少ない健在な軍を率いるレエブン候が、絶えず伝令を飛ばして各種の命令を差配していた。

ガゼフは蝙蝠と称されたどっちつかずの彼を奸物と毛嫌いしていたが、窮地に至っても王の傍で全軍を崩壊させぬよう努力する様には感心していた。

アインズ・ウール・ゴウン軍の軍使と交渉し、糧食の支援の手筈を整えたのはレエブン侯の采配によるものなのだから。

 

「戦士長、あれを!」

 

ガゼフが遠くの空を見上げると、箒に跨った数人の人影が飛び回り何かを追い回している。

何を追い回しているかは不明だが、こちらからは姿が見えないのだろう。

 

「帝国のロイヤル・エア・ガードか?」

 

帝国には飼い慣らされた魔獣ヒポグリフに跨り空を飛ぶ騎兵部隊が存在する。

彼らは魔法のアイテムにより姿を消して、敵地の奥まで空中偵察を行うとも言われている。

マジックアイテムを多用しているアインズ・ウール・ゴウン軍は、彼らの姿が見えるのだろう。

恐らく偵察しに来たロイヤル・エア・ガードを追い払っているのだ。

しかし、それはバハルス帝国軍がエ・ランテル目指して行軍している事を意味する。

 

「あの分では、帝国軍本営がエ・ランテルまで来るのも時間の問題か……」

 

ガゼフは占領されたエ・ランテルを見やる。

あそこの命運は既にリ・エスティーゼ王国の手から離れてしまった。

 

ここに留まって帝国軍を撃退する余力はない。

立て籠もるべきエ・ランテルは既にアインズ・ウール・ゴウン軍の手中に落ちている。

一時休戦して帝国軍に対して共に当たろうという案も出たが、アインズ・ウール・ゴウン軍に一蹴されてしまった。

まだ自国の領土の筈なのに、もはやリ・エスティーゼ王国軍には介入する余地はなかった。

 

エ・ランテル周辺の地図がどう塗り替えられるか。

それを決めるのはアインズ・ウール・ゴウン軍の総帥か、バハルス帝国の鮮血帝が決める事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ・ランテル近郊に到着した帝国軍は、都市部を包囲したもののそれ以上のリアクションを取らなかった。

攻城兵器は組み立てられ、ロイヤル・エア・ガードとフールーダ達の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)による空爆の準備も整った。

しかし、既に包囲が完成して数時間が経つのに、攻撃は開始されていなかった。

 

その意味は……。

 

 

 

 

 

 

「爺、城壁の中の様子はどうだ?」

「はい、中枢に対しての魔法の干渉は弾かれました。広域に渡り占術系の魔法を阻害する術式が張り巡らされておりますな」

 

高弟達が確認したところ、包囲下のエ・ランテルは実に落ち着いたものであるという。

確認できた市内は戦時下の普段通りであり、警邏の衛兵の数が多い事を除けば概ね変わりない。

つい最近占領した少数の軍に統制されている占領された都市とは思えない光景ではある。

 

「となれば、囚われている筈のザナック第二王子も、都市の要人達もどうなっているかは不明か」

 

陣中用の簡易玉座のひじ掛けを指先でトントンと叩きながら、ジルクニフは眉をしかめる。

 

「陛下、包囲を完了しましたが攻勢はかけられないので?」

 

帝国の近衛の精鋭たる四騎士、その中の一人であるバジウッド・ペシュメルがやや砕けた口調で皇帝に質問する。

バジウッドの問いに、ジルクニフは苦々しげに返事を返した。

 

「したいところではあるのだがな……密偵によれば、アインズ・ウール・ゴウン軍の本営が既にエ・ランテル入りしているのだ。あの魔法による広域の防御はまさにそれを実証している」

 

本陣の天幕の中にどよめきが発生する。

本営が既に来ている。つまり、あの大魔獣の主であり、恐るべき魔法の使い手の主があの都市の中にいるのだ。

 

「お前達も聞いただろう。数千人の兵士を一撃で吹きとばした魔法を」

「は、はい。王国軍左翼七万の本陣の幾つかを消滅させたっていう魔法ですよね?」

「その通り。私も確認したが、あれらは明らかに第9位かそれ以上に至る魔法。対軍……そう、小国の軍であれば一撃で跡形もなく壊滅させられる超技。神話の領域の魔法である」

 

バジウッドの言葉に応えたのは、ジルクニフではなくフールーダ・パラダインだった。

彼は天幕の中ではない、どこか果てしないものを見ているかのようにうっとりとした顔で続けた。

 

「私達のファイアーボールの爆撃など、あの高みに比べれば児戯にも等しい。小賢しい戦略も戦術もあの一撃の前では全くの無力であり無意味。

 どれだけ大きな砂の城を築いても、高波を受ければ一瞬で消し飛ぶ。それと同じよ」

 

淡々と語るフールーダと、徐々に眉間に深いしわが寄っていくジルクニフ。

数年越しで念願のエ・ランテル打通を成し遂げ、王国征服への一歩を踏み出した支配者とは思えない表情だった。

 

「ともあれ、エ・ランテルをどうにかしなければ進む事はできませぬな。帝国領土から王国領への大規模な街道はエ・ランテルの周辺に集中しています。

 エ・ランテルを横目に王国領内へ侵入しても、後方を遮断されてしまえばどうにもならなくなる」

「だが、そのエ・ランテルにはあの領主が陣取っている。奴がいる限りは攻城戦を仕掛けるのは危険だ……糞、以前の会談の時の態度は欺瞞だったという事か」

 

苦々し気なジルクニフの呟きが、足早に入って来た伝令によってかき消される。

 

「も、申し上げます。アインズ・ウール・ゴウン軍の軍使が参りました。エ・ランテルを含めたリ・エスティーゼ王国の領土についての事と申しております」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ・ランテルの迎賓館の大広間。

 

普段なら迎賓館を維持する為に奔走しているメイドや下男などは影すら見当たらない。

その代わり広間の上座に当たる位置に、普段であればランポッサ三世が座るこの館で一番上等な椅子とその予備が据えられていた。

更に間にはトブの大森林にかつて存在したという魔樹から切り出した一枚板で出来た豪奢なテーブルが置かれている。

 

「ようこそいらっしゃったバハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス殿」

 

四騎士とフールーダ・パラダイン達を引き連れたジルクニフを待っていたのは、緑色のローブを着た暗黒だった。

思わずバジウッド達が前に出そうになるが、それを制したのは他ならぬジルクニフである。

 

「いや、領主殿自らの出迎え痛み入るよ。カッツェ平野での王国軍への完勝は見事だったからね。剣を交える前にこうして君と交渉で物事を決められるのはこちらとしても願ったりかなったりだ」

 

 

 

 

ジルクニフは知らない。

この交渉劇に彼にとって最悪の伏兵が潜んでいる事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アイダホ的には頑張りましたが、結局アインズ様の初撃でぶっ倒れた分位の損害は出ました(2万は捕虜か脱走だけど

ろくに統率が取れない数だけは多い軍隊が一斉に逃走を始めた場合、こけて踏み潰されたり殺人的おしくらまんじゅうしたり止めようとする奴らとの殺し合いとか二次的な損害が一番ひどいと思います

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