アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。














結13

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁやぁ、音にこそ聞け、近くば寄って目にも見よ。それがしこそは、アインズ・ウール・ゴウン総帥が家臣の一位、ハムスケなりぃ!!!』

 

 

 

完全に混乱状態の本陣の手前に、突如砂ぼこりが発生する。

上位瞬間移動(グレーター・テレポート)により、一瞬で送り込まれたそれは大魔獣。

トブの大森林の一部を支配していたのは有名であるが、それがこの地に送り込まれた理由はただ一つ。

ハムスケが、大森林の大領主たる存在の家臣であるからだ。

 

スノーホワイトの艶のある毛並み。

クリっとした黒いつぶらな瞳。

そしてふっくらとした大福のような威厳に満ち溢れた姿。

 

 

『此度、ここに参ったのは我らが大領主、アイダホ様に対立せし王国の将を討ち取らんが為っ、腕に覚えがあるのなら我が前にでよっ、出ぬのであれば全てを蹂躙するまででござる!!』

 

 

ハムスケの名乗りに対する返事は、

 

「う、撃てぇ!!」

 

本陣の周りに展開していた、弓兵隊の一斉射撃だった。

百を遥かに超える矢が一斉に放たれ、ハムスケ目指して殺到する。

 

ハムスケが登場したタイミングは完全に不意打ちだった。

当然、リ・エスティーゼ王国軍本陣と周囲の部隊は唖然としていただろう。

その間に巨体に似合わぬ敏捷性を持って突進して近衛兵を蹴散らし、ランポッサ三世の首級を挙げるのも楽だったのではないかと。

その奇襲効果も、どや顔で発した長々しい名乗りと台無しとなり。

立ち直った弓兵隊の指揮官により、攻撃を浴びせられることになったのだが……。

 

 

 

『フンっ!!』

 

ハムスケが身震いをし、長い尻尾が振り回される。

伸縮可能で10m以上まで伸びる尻尾が縦横無尽に跳ねた。

 

「なっ!?」

 

周囲から驚愕に満ちた声が漏れ出た。

矢の雨は大半が振り回された尾で悉く弾かれ、力なく地面へと舞い落ちる。

僅かに届いた少数の矢も、その毛の表面であっさりと弾かれ一本たりとも体に突き立つことは無かった。

最後にブルンと大きく尻尾を打ち振るったハムスケは、ふふんと鼻を鳴らして見せる。

その勝ち誇る表情は所謂【どや顔】と見てもいいだろう。

 

『惰弱でござるなぁ、それがしを射貫きたいのであれば攻城兵器くらい持ってきてくれねば傷もつかんでござるよ?』

 

元々の体毛の強靭性、アイダホと出会ってからの冒険で大幅に上がった物理防御力。

更にアイダホから与えられた物理防御の首輪(伸縮可)(グレーダープロテクション・カラー)と、己の研鑽と共に発生した外皮強化(インプルーヴド・ナチュラル・アルモア)によって更なる強化が施されている。

それこそ投石器から投じられる巨石か大型の射出機から撃たれる巨大な鏃でも無ければ掠り傷も与えられないだろう。

あれだけの矢を射かけられてかけらも堪えた様子も見せない大魔獣に、王国軍は第二撃を浴びせるのも忘れ完全に及び腰となった。

怯えが前に出てしまった兵や騎士達をハムスケは鼻で笑う。何と不甲斐ない相手だと。

 

『……さて、その程度であればおぬし達など狩るにも値せぬ存在。ならば、今すぐ大将首を頂戴するでござるよ!!』

「待て! 私が相手になろう!!」

 

親衛隊と、ミスリルの鎧を着こんだ少年騎士に守られた老王めがけて低く姿勢を構えたハムスケの前に男が立ちはだかった。

 

「ガゼフ戦士長!!」

 

王のそばにいた少年が安堵を含めた声を挙げる。

他の兵達も、普段であれば彼の存在に顔を顰める貴族達ですら歓声をあげた。

 

「戦士長、彼であれば大魔獣でも打倒できるはず……!!」

 

目の前の大魔獣の脅威は、弓の一斉射撃を苦も無く凌いだ事で誰でもわかるように知らしめられた。

理解した者達からすれば、普段忌み嫌っている存在でもそれを何とか出来るのであれば歓迎できてしまうのだ。恥知らずにも。

そんな彼らとは正反対にレエブン候だけは直属の部下達に何やら指示出しをしていたが、大半の者たちが大魔獣に気を取られ気づく者はいなかった。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。大領主に仕えし大魔獣よ、貴様の相手は我が剣を持って務めさせて貰う!!」

 

そんなガゼフに相対するハムスケは、戦士長を見た途端に口の中をモゴモゴさせていた。

時折目をぱちくりさせたり、口をまたモゴモゴさせたり先ほどの威勢がどこへ行ったのかという風情だ。

 

「………どうした? 答えよ!!」

 

ガゼフの問いにハムスケはピクリと体を揺らすと、更に数秒だけ口をモゴモゴさせる。

妙な様子に怪訝そうにガゼフは眉を潜めたが、それを誤魔化す様にハムスケは大音声を張り上げた。

 

『う、了解でござるっ!!?』

 

両手を前に繰り出してシャドーボクシング染みた真似をし、尻尾をブンブン揺らしている。

威嚇と見るか、何かを誤魔化したと見るかは人それぞれであるが、この場にいた殆どの人間は威嚇と判断した。

 

 

『ふ、ふっはっはっは!! かの名高き戦士長であれば、そ、それがしの相手が務まるかもしれんでござるなぁ!!』

 

ハムスケが毛を逆立てると同時に、大福型の全身から凄まじい闘気が膨れ上がる。

スキルとしての効果はないが、ガゼフをしても鳥肌が立つような緊張感をもたらした。

更にハムスケが何やら呟くと、体毛に描かれた文様の幾つかが眩く輝きハムスケの体を何種類かの光が染み込んでいく。

ハムスケが複数の補助魔法を立て続けに発動させたのだ。

 

(支援系、補助の魔法か。厄介な……!!)

 

王国の至宝の鎧に包まれたガゼフの背中に、冷や汗が幾筋も流れ落ちていく。

かつて在野に居た頃、魔法の便利さを何度も見て来た彼だからこそ理解できる脅威。

魔法使いの支援を幾重にも受けた戦士と、そうでない戦士は素人と熟練程の差が出来る。

それを実地に見て来たガゼフは、その生物としての脅威度だけでなく魔法すら扱えるハムスケをかつてない強敵と判断した。

 

(至宝を装備しても、俺の剣の腕で大魔獣を討ち取れるか……いや、やらねばならない。俺が倒れれば、陛下が死ぬ!!)

 

自分が倒れれば、王がこの地で倒れるのは回避不可能になる。

このハムスケの前では本陣周りの騎士達や近衛兵たちなど、腐った木のドアも同然だ。

彼らを悠々と蹴り破り、王はハムスケに討ち取られ命を落とすだろう。

 

「それだけはさせん、いざ、勝負っ!!!」

『いざ、尋常に勝負っ!!』

 

 

剣を構えて突進するガゼフ。

迎え撃つ様に突進するハムスケ。

 

 

王国最強の戦士と、大領主が率いる大魔獣の一騎打ちが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそのはるか上。

 

 

「よーし、加減して戦士長が苦戦しているって感じでキープ。戦士長は殺すな。後、王の近くに居るミスリルの鎧を着た奴はそれ以上に絶対傷つけるなよ? 絶対だぞ?」

 

 

ハムスケに指示出ししている男は戦場を俯瞰していた。

 

 

「アルシェ、ニニャ、右翼はどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

芋ゴーレムが何本もの槍に串刺しにされる。

 

「ムッキー!!!」

 

奇声と共に芋ゴーレムが大きく膨張したかと思うと爆発した。

ゴーレムの中には煙幕が大量に仕込まれており、あちこちで爆発する度に王国軍の視界を深刻なレベルで奪っていく。

 

 

「ニニャ、第三煉瓦小隊を前進させて、いい具合に貴族の陣営が取り残されてる。旗印は……粛清対象よ!」

「分かったわ。目にもの見せてやる、私は生きている腐敗貴族が大っ嫌いなのよ!!」

「ちょっとニニャ、ファイアーボールを連射するのはやり過ぎっ」

 

ゴーレム軍団は右翼の一部を食い破り、切開するように押し広げていく。

芋ゴーレムの大半は既に煙幕になってしまっているが、そのおかげで広範囲に渡って視界は酷く悪化していた。

楽器や声による指示出しは芋ゴーレムの奇声やあちこちで爆ぜている花火による騒音によりかき消される。

 

「で、伝令はどうした。何故誰も戻って来ない!?」

 

貴族の陣営から出された伝令の騎士達は不可視の絨毯の上に居る、イミーナの魔法の弓による超超距離射撃によって片っ端から射殺されていた。

 

「伝令の旗担いで馬乗っていればそりゃ目立つから撃ちやすくて助かるわ……しかし、この弓も出鱈目よね。射程も速度も破壊力も。流石伝説級(レジェンド・クラス)というべきかしら?」

 

イミーナには遠視&透視の機能が付与されたゴーグルも与えられていたので、ほぼ七面鳥狩りの様に伝令を悉く狩り倒した。

長弓の名手でも射程は100m前後。

魔法を抜きにすればそれが常識の世界。

あらゆる性能を数倍以上に高めた狙撃を受ける等と誰が想像できるだろうか。

姿を完璧に隠蔽された、空の上の移動する射撃場から等と。

そして粗方の伝令を射殺し終えたイミーナは、手頃な【粛清対象】の貴族の陣営を見つけては当主の頭をヘッドショットしていくことになる。

 

視界、音声は遮断され。

伝令等のオーソドックスな命令の伝達方法は全て遮断され。

右翼のリ・エスティーゼ王国軍はまともな作戦行動を一切取れなくなった。

空を飛んでいるアインズ・ウール・ゴウン軍の指揮所も視界の悪さは同じだが、王国軍に無くて彼らにあったのはマジックアイテムだった。

それらのおかげで王国軍の大混乱も、自軍のゴーレム軍がどこまで移動しているか、どこと戦っているなどをほぼ把握している。

 

攻撃を受けているのは右翼六万五千人の内数千人だったが、残りの六万はアインズ・ウール・ゴウン軍に対してまともな反撃も出来なかった。

王国軍の陣形は長大な横陣を敷くことで帝国軍に対峙していた訳だが、アインズ・ウール・ゴウン軍は右翼の陣形の端から攻めかかった。

広域に突撃させた芋ゴーレム達の自爆により戦場は煙幕に満たされ。

上空からの指揮により統制された煉瓦ゴーレムと虎の子のアイアンゴーレムが縦列のまま横列を寸断していく。

民兵の槍はもとより、騎士の剣やハルバートでは耐性によって大したダメージを与えられず、鈍器染みた拳や手に固定された棍棒によって殴り倒されていった。

身近な部隊は陣形変更して対抗しようとしたが、アイダホの上位瞬間移動(グレーター・テレポート)によって王国軍横列の真上に飛ばされてきた芋ゴーレム達の直上からの落下と自爆を受けまともな抵抗が出来なかった。

 

「き、来たぞ。ゴーレムの群れだ!!」

「引け、ひけー、退くんだ!!」

 

ニニャの誘導によってゴーレムの群れが目指すのは、右翼の貴族の本陣だった。

彼らは騎士を殴り飛ばしながらやってくるゴーレム達を見るなり、民兵達に防戦を命じて後退を始めた。

 

そうやって次々と指揮を統括すべき貴族達が後方に撤退していくことにより、右翼の前衛の統制は完全に失われた。

指揮官たちは後ろに逃げ出し、しかるべき命令は伝令が撃ち殺されることでやってこず、あちこちでゴーレムが暴れまわっている。

取り残された下級騎士達や民兵達は棒立ちになって狼狽えるか、恐慌状態になって部隊が壊乱し始めていた。

 

「撤退しろー、もう駄目だ。本陣がエ・ランテルに後退し始めたぞー!!」

 

そんな士気が崩壊した部隊に、【何故か狙撃されない王国軍の騎兵達】が声を枯らして触れ回る。

 

「後退の命令だ。このままじゃゴーレムにみんな殺されてしまう!」

「早くエ・ランテルに後退しろ。アインズ・ウール・ゴウン軍か帝国軍につかまる前に、急げ!!」

 

【王国の騎士達】は叫びながら、民兵達に触れ回る様に馬を走らせていく。

騎士とは彼らの支配者である。ゆえに彼らのいう事は聞くべきである。

 

恐慌状態で何も命令を受け取る事も出来ずオロオロしていた民兵達は、【王国の騎士である】彼らの叫びを免罪符に後方へと走り始めた。

 

「はっはっ、みんないい具合に逃げていくぜ」

「こら、笑ってないで叫べよ! 恐怖と焦りを煽れ、万の軍団も心が怯えで竦めば糞の役にも立たんってな!! にぃーげぇーろー!!」

 

10人が逃げれば周りの数十人が逃げ、それに触発された数百人が我先にと続いて逃げ出していく。

恐怖による士気崩壊の連鎖は、数万の王国軍を見る間に蝕んでいった。

混乱と逃亡はゴーレム軍団と接敵してない後方にすら及び、一部では督戦の騎士達が壮絶な悲劇を巻き起こすありさまとなっている。

 

 

かくしてリ・エスティーゼ王国軍の左翼に続き右翼も、帝国軍と戦う前に軍団としての機能を失いつつあった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

活力の籠手が無ければ、とうの昔に息切れをしていただろう。

不滅の護符が無ければ、とうの昔に倒れていただろう。

守護の鎧(ガーディアン)を着てなければ、猛攻を凌ぎ切れなかっただろう。

剃刀の刃(レイザーエッジ)を握ってなければ、牽制すら覚束なかっただろう。

 

「<流水加速>!!」

 

神経と肉体の速度を上昇させても、大魔獣の動きは脅威だ。

その巨躯からは想像も出来ない速度で動いて攻撃してくる。

<流水加速>を使用して、漸くガゼフは攻撃の機会を許される。

 

(だが、連斬を使うまでになかなか至らん……技を使える隙が少なすぎる!! しかも、あれほどに回避に長けているとは……)

 

先ほど、辛うじて<四光連斬>で大魔獣に斬りつけたものの、

 

『カッー! <疾風走破>!<超回避>!』

 

武技の合わせ技で全て跳躍によって回避され<即応反射>による追撃も、

 

『<飛燕舞>でござる!』

 

空中専用の回避武技で避けられてしまった。

 

「魔法だけでなく、武技まで使用してくるとは」

 

ガゼフは愚痴の一つも零したくなった。

なんだこの怪物は。こんなとんでもない存在を差し向けて来るなんて酷過ぎる。

これなら、稀に辺境を荒らし回る野生の竜王と戦った方がまだ勝算があるというものだ。

この大魔獣。人間ともかなり戦った経験があるのだろう。

人間の戦い方を読んで、先手を打ってくる。

これでは、六光連斬だけでなく、切り札である究極の武技を使う事も出来ない。

 

『ふふん、我が殿の家臣序列1位は伊達ではないという事でござる……人間にしてはそこそこ出来る方でござったなぁ。しかし、それがしを倒すには遠く至らず!!』

「ぐっ!」

 

ハムスケの言葉に、ガゼフは押し黙った。

それは事実だったからだ。

闘いが始まってこの方、ガゼフが優位に立ったことはない。

終始押されているとしか言いようがない。

 

誰もが、このハムスケと言う名の大魔獣の恐ろしさを実感していた。

王国の最強の剣の使い手ですら、打倒には至らない魔獣。

彼が倒すことが出来ぬのなら、王国で誰がこの大魔獣を倒せるのか?

 

(こうなれば)

 

ガゼフは状況が絶望的なのを一番理解していた。

自分では勝ち目は限りなく薄く、自分が負ければ王の命が無くなる事を。

今日でリ・エスティーゼ王国が終わる。それだけは、避けなければ。

 

故に、ガゼフは捨て身を覚悟した。

 

(捨て身で隙を作り切り札を切るしか……!!)

 

剃刀の刃(レイザーエッジ)を構えたその時、

 

 

 

【そこまでだ、我が大魔獣よ】

 

 

 

拡声された声が戦場に響いた次の瞬間、ハムスケの真上に緑色のローブを羽織った暗黒が出現した。

 

 

【このカッツェ平野による戦いはもはや意味のないものである。既に、我らアインズ・ウール・ゴウンの勝利は確定しているが故に】

 

 

暗黒は大きく両手を広げ、王国軍に対し高みから言い放つ。

 

 

【エ・ランテルは我がアインズ・ウール・ゴウン軍の手に落ちた。お前達の後方は既に塞がれつつあるぞ】

 

 

リ・エスティーゼ王国軍の思考が真っ白になりかねない布告を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハムスケ大勝利
彼女のレベルは54、ガゼフはあの指輪足しても30ちょい
ユグドラシルのレベル格差は10レベル超えれば勝つのが難しい
故にまともに戦えばガゼフはハムスケに勝てません
今回延々と戦っていたのはアイダホの指示です
彼女が皆殺しのつもりでやれば、ガゼフは秒殺され本陣は蹂躙されていたでしょう




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