アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。













結10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、みんな、すまんかった」

 

アインズ・ウール・ゴウン軍本陣。

 

人間だけで言えば義勇兵を含めても800人程度の野営地の中央。

一番大きな本営用の天幕の中で、総大将である筈のアイダホ・オイーモは天幕内に居る人間達に頭を下げていた。

 

「元々決裂が前提でしたし、誰か殺したり怪我させた訳じゃないんですけどね……肝を冷やしましたよ」

 

アインズ・ウール・ゴウン野戦軍の大隊長であるヘッケラン・ターマイトは、先ほどの会見を思い出した。

 

 

 

 

 

 

会見の場の流れは、アインズ・ウール・ゴウン側の想定したままだった。

 

戦の邪魔だから立ち去れ、去らねば帝国軍諸共撃破するまで。

 

使節は終始威圧的な態度であり、交渉と言うよりは恫喝だった。

果てにはアイダホが被ったマスクから、同伴しているメンバーに対してまで因縁をつける。

徹底的に喧嘩を売るスタイルだったが、ここまでで言えばアインズ・ウール・ゴウン側の望む展開である。

無礼と暴言を吐かせて、アインズ・ウール・ゴウン側の大義名分を稼ぐ為にこの会見は行われているのだ。

アインズ・ウール・ゴウン側も、ノラリクラリとはぐらかしておけばいいので十分だった。

 

 

ただ、使節に随伴していた、老貴族の一言で会見の場が凍った。

 

 

 

 

内容的には、アインズ・ウール・ゴウン、この国名を嘲笑しただけである。

 

 

 

 

ただ、そこからのアイダホの様子は一瞬で激変した。

 

 

「国を腐らせた老害如きが、俺達の信念の名に唾を吐きかけるか!!」

 

 

先ほどまで、幾ら自分に対する誹謗中傷染みた事を言われても気にも留めなかったアイダホが。

老貴族に向かって激昂に満ちた罵声を浴びせ、どこからか取り出した長大な宝剣を彼に向けたのである。

 

 

 

この時、アイダホが何について怒っていたのか。

 

仲間達と栄光と冒険に満ちた時代を過ごしたユグドラシルのギルド名を貶された事か。

 

流民達をまとめ上げて作り上げたギルド名を冠した国、彼の理念を込めて付けた国名を侮辱されたからか。

 

 

ただ、その思いに至る前にアイダホは魔力を流し込み、対空宝剣を起動させていた。

魔力が砲塔のようなブレードに充填され、いざ放たれそうになった時。

 

 

「大将、いけませんっ」

「アイダホ様っ」

『殿ー!!』

 

陣幕を飛び越えやって来た、ハムスケのタックルにアイダホは反射的に両手を上げ。

更に背後からヘッケランとアルシェが必死の心持ちでしがみついた結果。

 

「あっ」

 

不完全な状態でエクスキャリバーは発射され、上空の低い位置にあった雲を真っ二つにするだけに留まった。

 

 

……かくしてハムスケのジャンピングボディプレスで会見の机と会見そのものは粉砕され。

ハムスケの威風とアイダホの殺意に晒された貴族達は、泡を食いながら慌てて王国軍の陣営へと逃げ帰っていった。

これで肝が据わっている貴族が居たのであれば、会見の陣中で剣を抜いた事を責められたがそんな胆力を持つ貴族などこの場にはいなかった。

眼前に着地して机を粉砕した大魔獣の威容と、その大魔獣にもう少し前に居たら机ごと圧し潰されていたのだからむべなるかなである。

 

ともあれ、相手の使節を皆殺しにしかねなかった件については危なかった。

一方的に相手に非を晒させた上で、徹底的に殴り倒すつもりだったのにケチが付く寸前だったのだから。

 

「カッとなってしまったのは問題かもしれませんが、別にあの場で連中を倒しても問題なかったのでは?」

「いや、後々で他国に『会見中に使節を手にかけた』等と言われたら困るんだ。実際、剣を抜いてしまったしなぁ……怪我や死人が出なかっただけマシだけど」

 

アイダホはニニャにそう返しつつ、エルフメイド達が配膳したお茶を飲み干した。

素顔を晒している彼が食べたり飲む時、同席しているヘッケランやイミーナは気になるのか凝視する事がある。

どうやって口に該当する場所にものを入れたり飲ませたりしているのか。

本人に聞いた事もあるが、本人もよく分からないらしい……それでも気になるのか、何人かはちらほらと見ていた。

 

「アイダホ様、おかわりは如何ですか?」

「ああ、入れてくれ。角砂糖も二つ」

「かしこまりました」

 

ドルイドのエルフメイドが恭しく一礼し、ティーポットに入った紅茶を手際よくカップにそそぐ。

隣にいた神官のエルフメイドが、帝国産の銀製のトングで摘まんだ角砂糖(都市連合から入手した砂糖を加工)を銀の小皿へと置いていく。

遠くで銀製のコンポートを手にしたスカウトのエルフメイドも、乗せられた茶菓子を要望した者たちに配膳している。

 

(いいなぁ……エルフ戦闘メイド)

 

配膳しているエルフメイド達は全員超軽量の皮鎧と専用のメイド服を装着し、各々が適した武器と防具も備えている。

緑色の胸甲にはアインズ・ウール・ゴウンの紋章が焼き付けてあり、アイダホの自尊心をかすかに擽っていた。

無骨な装具がその可憐さを妨げず、皮鎧も動きを阻害せず尚且つ見栄えにも配慮したのは言うまでもなく衣装データ集【メイド衣装百下百全】の恩恵だ。

武装メイドであるプレアデスの衣装は決定版のあれだけではなく、他にもいろいろと試行錯誤を重ねた結果没案も多数存在した。

その中にそれらを流用して量産型戦闘メイド用の服が幾つか勘案されたので、それをアイダホはデータから引き出して作り上げたのだ。

データが完成した頃にメイド命三人衆の内二人が引退し、残りのヘロヘロもログインする余裕がなくなった結果量産型戦闘メイドは日の目を見ることは無かった。

それをこうして形に出来た事は、アイダホとしては非常に満足のいくことでもある。

その点、戦闘スキルの無いツアレを陣内に連れて来る事が出来ないのは残念ではあった。

本人は行きたそうな顔をしてたが、安全性を考えてバレイショに残置させたのだ。

 

脳裏に浮かんだ戦闘メイド服姿のツアレ……。

戦闘に全く向きそうにない華奢な女性が、武装したメイドしている。

動きにくそうな、困惑した顔でこっちを見ていたりする。

これぞ、ギャップ萌えかもしれない。タブラさんも萌えを共有してくれるだろう。

 

(試着品は一応作ったから、バレイショに無事戻ったら着てみて貰おうか)

 

そんな事を考えている内に、王国貴族達によってささくれた心が癒えた事にアイダホは気づく。

やはり、メイドは人類の叡知であり至宝であると確信しつつ、彼は次の手を打つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バハルス帝国軍 魔法省陣地

 

 

 

「師よ、こちらにおられましたか」

 

目の前に並ぶ己の従者達を見て悦に浸っていたフールーダ・パラダインは、高弟の言葉によって現実に引き戻された。

 

「如何した?」

「皇帝陛下より、明日の初戦による先陣を務めよ、との事です。王国に魔法省の威を示し、ガゼフ戦士長を前線へ引き出して、あわよくば捕縛するようにと」

「承った、と伝えよ」

 

部下にそう素っ気なく伝えた後、フールーダは再び気味の悪い悦の混じった顔で眼前に広がる光景をみやる。

大きな天幕と、幻術によって隠蔽されたそれらは、帝国の新しい戦力は老魔法使いの前に勢ぞろいしていた。

 

「む……」

 

続けて飛んできたメッセージを受信し、フールーダは軽く周囲を見渡した。

ここは人払いをしてあるうえに、先ほどの高弟の様に正面の出入り口を通過しなければ入れない。

フールーダは小さくキーワードを唱えて天幕の入口を閉じると、マジックアイテムで周囲に音を遮断する空間を作り出した。

 

「はい、私です。如何なされましたかな?」

 

メッセージによる会話はしばらく続いた。

会話が終了した後で、フールーダは長い髭を軽くしごき上げて己の中での明日の行動を若干変更する事とした。

 

(ジル、明日私が行う事をお前が知れば、お前はさぞや私を裏切り者と糾弾するだろうな。だが、これは致し方が無い事なのだ)

 

皇帝ジルクニフの指示から、幾らかは離れた結果にすると決めた。

それを為す事に対してフールーダに躊躇や良心の呵責は全くなかった。

 

(私は魔法の深淵を覗きこみたいのだよ、ジル。そのためであれば何をするにしても迷いはしない。まぁ、今回は多少【お前の意に添わぬ結果】になるだろうが……背中にナイフを突き立てる訳でもない。この程度であれば許容の範囲であろう)

 

フールーダ個人の範囲での許容であるが。

そう誰ともなく心中で呟くと、フールーダは己の僕達を満足げに見上げた。

 

(これらを得られたのは、あの御方のおかげ故にな。お前は知らぬとはいえ、この程度の譲歩はよかろ?)

 

フールーダ・パラダインの前に立つ僕達。

 

(この、我が死霊魔法により作り上げられた軍用アンデッド部隊の完成を見れば!)

 

凶悪なデザインを施された漆黒の全身鎧。

フェイスガードの無い兜と、朽ち果てた眼窩の中より放たれる赤い双眸。

専用に製造された、人間にはとても保持できそうにないサイズの魔力が付与されたグレートソードを右手に握り。

幾重にも防護の付与を施された特注のアダマンタイト製タワーシールドを左手に装備している。

 

これこそが、魔法省が鋳造した装備によって武装した、フールーダ・パラダイン虎の子の死の騎士(デスナイト)である。

 

(しかし、しかしそれだけではない!! 更に補助及び支援用に追加したのは、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)分隊!!)

 

そしてその背後に控えるのが体長数mの6体の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)

アイダホから譲られた数本の【支配の頸】をフールーダが解析し、一部の術式を応用した結果儀式などを用意無くても簡単に支配する事が可能になった。

今までも骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を支配し軍事的に運用する試みはあったが、人類の最高峰とされてきた六位の魔法までを無効化するという致命的な相性の悪さにより断念されていた。

支配の儀式を行おうとも、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の六位までの魔法無効により、支配掌握は阻まれていたのだ。

この一点により、より格上の死の騎士(デスナイト)の支配掌握が優先されていた。

 

(だがぁ、今は違う!! いまや我が身は第七位まで至った!! この竜の無効化スキルを我が魔法は凌駕した!! そして、あの素晴らしき死霊支配のマジックアイテムの術式を応用する事により! 今まで不可能であったこの竜の支配を可能としたのだ!!!)

 

戦争前の忙しい最中を縫って行われたカッツェ平野における骨の竜(スケリトル・ドラゴン)狩りは笑ってしまう程簡単に成功した。

既に支配した骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に上空を抑えさせ、地上に張り付けた上でデスナイトが組み伏せフールーダが支配の魔法を使用する。これだけ。

最初の一体を掌握した後はかつての困難が何だったのかと思える程に捕獲は進み、合計六体の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)がフールーダ・パラダインの軍門に下った。

これらは死の騎士(デスナイト)共々カッツェ平野の陣地へと移動し、既に張られていた大天幕に隠蔽され調整を受けていた。

 

全ては、王国軍の度肝を抜き。

王国の王族貴族達にこの世には彼らの想像をはるかに超えた存在が生まれるという事をその身を持って教育する為に。

 

「素晴らしい、素晴らしいですぞ、アイダホ・オイーモ様!! 貴方様が賜れた技と業があればこそ、私はこの高みに至れた!! 勝利の暁には、更なる魔法の深淵と未知なる技術を我が身に授けてくださいませ!! ふは、ははははははははははははははははは!!!!!」

 

気炎と股座をいきり立たせながら、老魔法使いは絶叫する。

その絶叫は沈黙の障壁が遮った為、興奮した老人がローブにテントを作りながら口をパクパクさせているという珍妙な光景。

 

幸いなのは、その光景を見るものは彼が支配したアンデッド達のみであり。

彼らには呆れや困惑の感情が存在しない事だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜

 

 

 

遠くに野営地のかがり火が無数に見える位置に、三人の人影と人数分のランタンがあった。

人影は恐々と平野の向こう側や帝国軍の要塞の方を見たり、小声で何やら話し合っている。

 

彼らは農兵であり、野営地の外郭に張られた哨戒線の一つを担う見張り達。

二十代の元気のあまりない青年達であり、官給品のロングスピアと普段着という戦う気があるのかと言いたくなる貧弱な装備をしている。

彼らは灯りの届かない荒野を心細そうに見やりながら、荒野は寒くないか、ならもっと厚手の服を着ろだの、それは弟にあげただの言い合っている。

 

装備が最低な彼らであったが、その士気は装備と同じかそれ以上に低かった。

口から出るのは戦の事ではなく、ここ数年の暮らしがどんどん酷くなっている事ばかり。

働き手である自分達が抜けた村が無事に収穫を終えたのか、帰った時に初めに見るものが腐った作物なんてゴメンだとか。

自分達を酷使する事しか考えてない貴族達への不満や、兵役への見返りが殆どない事への怒りなど。

 

そんな益体も無い話題を彼らはひたすらに続けている……何やら鼻を擽る甘い柑橘類の様な香りを嗅ぎながら。

 

 

 

 

 

……そっち、はみ出さない様にしろ、せっかくの効果が無くなるぞ。

 

 

 

 

何かが彼らの前をそろりそろりと過っていく。

彼らは暗い雰囲気のまま、世間話を続けている。

 

 

 

 

……後、幾つ通過させる?

 

……三群で終りね。

 

 

 

 

 

確かに何かが沢山通過している。

様な気がする。ただ、彼らは気にも留めてない。

 

 

 

 

……しかし、どいつもこいつも間抜けだ。楽々と通過させてるなぁ。

 

……農兵だけに外周を監視させるとか、ザル警備にも程がありますよ。だからこんな簡単なトリックで……

 

 

 

 

目の前で誰かが話しているような気がする。

だけど三人には何も見えないし聞こえない。

陰鬱な顔で世間話を……

 

「おい、交代の時間だぞ」

「「「うわっ!?」」」

 

三人が我に返ると、自分達と同じ世代の農兵達が欠伸を噛み殺しながら立っていた。

どうやら、知らず知らずのうちに話に没頭していたようだ。

交代の時間に気づかなかったらしい。

 

「監視の任務なんて嫌なのはわかるけどよ、さぼってるのばれたら鞭で打たれるぞ?」

「ああ、悪い……少し話し込んでいたようだ」

「早く野営地に戻って白湯でも飲んで寝ろよ。明日は朝から戦列を組むらしいからな。出来るだけ寝ておけってさ」

「分かったよ。それじゃ後は頼む」

 

交代の三人にカンテラを渡し、彼らは薄っぺらい毛布が待っている農兵用の天幕へと歩いて行った……。

 

 

 

その日は、三人にとっても、彼ら以外の見張りにとっても何事もない夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アインズ・ウール・ゴウンを虚仮にした貴族に関してはご想像にお任せします


三人の歩哨は、web版で愚痴を言いながら見張りをしててルプーとレッドキャップに野営地ごと消毒された農兵達です
良かったね、今夜は無事に過ごせたよ!










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