アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。


結4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フールーダの執務室。

側仕えも秘書に相当する直弟子も人払いされた室内で、来客用のソファーに座る二人の人物。

漸くにして己の願いの一つを叶えた興奮を収めたフールーダは、アイダホに帝都見学の意義について尋ねていた。

 

「して、アイダホ様、魔法省を(無断で)見学されたとの事ですが如何でございましたか?」

「羨ましいと俺は思うよ。ここは完成してるからね。武器、防具、支援装備、ポーションから支援用のアイテム。それらを一貫して研究し生産するまでの道筋が出来ている。こちらはまだその卵を温めて孵化させているところだ。これからどれだけの人材が、予算が、時間が必要か考えるだけで頭が痛くなる」

「アイダホ様、貴方様がお望みであれば、私は全身全霊をもって貴方様にお力添えをいたします」

「ああ、ありがとう。今後も貴方には世話になるよフールーダ」

 

バレイショ、または国の街にこれ程の組織と施設を作り上げるまでどれ程のものがかかるか。

内心では今から頭が痛い。恐らく、十年以上かけて漸く形になる位ではなかろうか。

勿論、これからの行動で上手くやればもっと短縮できるかもしれないが。

 

「アイダホ様。ご提案がございます」

「ん?」

 

アイダホは茶請けの、帝都で屈指の菓子職人が作ったケーキを口にしている。

そんなアイダホに、フールーダは真剣そのものの声音でこう主張した。

 

「貴方様にはそれに相応しき力がございます。手に入れてしまえばよろしいではないですか? この魔法省を。この帝」

「グフッ! ……ちょ、ストップ」

 

フールーダの言葉を、アイダホは強引に遮った。

彼が何を言うか察したからだ。

それを為すのはアイダホにとって本意ではない。

 

「知っていると思うが今日、皇帝ジルクニフと会見してきた。大森林の領主として、今後の関係について話あったよ」

「はい、ジルはいかがでしたでしょうか?」

 

まるで教え子の評価を別の学校の教師に尋ねるかの様なフールーダの物言い。

アイダホは数秒だけ沈黙し、老魔法使いとは目を合わさずに評価を口にした。

 

「いい君主だ。当面は専制君主制で行かなければいけないからな。彼をお手本にしたいと思っている。俺は魔法剣士としての能力に自負は抱いているが、指導者としては、一貫して支配者として育てられ身内を排してまでそうなった彼には及ばない」

 

ここまで話してもいいかなと迷ったが、素直な心境を語る事にした。

フールーダに幻滅されても、行き過ぎた崇拝が少しでも引き戻されるならそれでいいとも考えた。

 

事実、近隣諸国で言うならジルクニフは頭一つ抜けて優れた指導者だ。

周辺諸国では「鮮血帝」と呼ばれて異名だけが先行しているが、国民から絶大な支持を得れるだけの行政手腕を持つ。

旧弊な貴族達を一掃し、次々に改革を実行して強力な軍と官僚組織を構成する事に成功している。

 

(あれだよな、トブに拠点作らずに彼に出会ってたら部下として全面協力してもよかったんだよなぁ)

 

もっと早くにジルクニフがこの世に生まれ出てその才能を示していて、流浪していたアイダホが彼に出会っていたら。

今の人類の版図はバハルス帝国の旗で覆われていて、アイダホはフールーダと共に彼の子孫の後見人になっていたかもしれない。

 

(というか、俺にはトップは正直合わないと思うんだよね。糞親父が糞兄貴を可愛がってたのも、俺や弟を予備扱いしかしなかったのも今じゃ無理はないと思う。あーいう、形はどうであれごく自然にリーダーをやれる奴ぁ一種の才能なんだろうなぁ。はぁ、俺はナンバースリー位でいいよ。ジャマイカンポジションって奴?)

 

うん、リーダーはモモンガになって貰って、指示を貰って行動する。これ位が丁度良いとアイダホは思っている。

正直、今は自分がリーダーを張らないと二進も三進もいかないから爪先立ちで頑張っている感じでありアイダホとしては不本意だ。

 

「だから、帝国に手を伸ばすつもりはないよ。俺が彼から帝冠を奪う事もな。彼が頑張れば地図の東半分は当面安定する。俺としてはそれでいい」

「そうでございますか……」

「ああ、貴方としては残念な事にな。無理に皇帝になって、武力で拡大しても、俺の指導力じゃ纏め切れず結局五十年も持たずに自壊して終わりだと思う。だから、現状では彼が帝国を纏めて導いていくのがいい事なんだろう。まぁ、そんな顔をしないでくれ。貴方にはこれからも協力して欲しい事は沢山あるし、引き換えとして知識やアイテムも応じて渡したい。帝国とも、貴方とも今後も良き隣人として接していきたい。それは忘れないで欲しいよ。これは、人類が生き延びていくに必要な措置だと俺は考えているんだ」

 

アイダホは人類種の保全、人類サイドに立つつもりだ。

彼の守るべきものの多くが、その範囲に入るから。

アイダホはフールーダに、人類の内部、そして外部との均衡を話した。

 

竜王国に隣接したビーストマン国の様に交渉すら出来ない相手ならともかくとして。

少なくとも話し合う事が出来て、融和が可能な相手なら必要以上に争う必要はないとアイダホは考えている。

それに人類外の仮想敵が居なくなった場合、今度は根絶やしの可能性も含めた人類同士の大規模な戦いが始まるのが目に見えていたからだ。

外部の強力な脅威が存在しても、王国と帝国は人間同士で争いを続けている。

諸外国も国同士の利権で小競り合いをしているのだ。

だからこそ、アイダホとしては人類外と人類との継続的な冷戦構造が一番良いと考えていた。

一定の脅威と均衡があればこそ、人類は行き過ぎた軍事的行為を慎むと期待しているのだ。

 

人間という種の抱える業に対し、かなり楽観的であると自覚はしている。

そのあたりは、政治システムの改善と成熟を待つしかない。

人類そのものが行き詰まり、全国家の企業化による管理社会等という未来は願い下げだ。

 

自分、スレイン法国、バハルス帝国、リ・エスティーゼ王国。

アイダホはこれら自分を含めた諸国を使い、竦みによる均衡の秩序を作り出せないかと考えている。

 

 

 

そして、その為にリ・エスティーゼ王国には。

現在の在り方としてのリ・エスティーゼ王国には終わって貰う。

ジルクニフとの会見で話した内容を、アイダホは噛み締める様にして反芻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

上位瞬間移動(グレーター・テレポート)を利用して瞬間移動でアイダホはバレイショに戻る。

帝都の街並みも悪くないが、やはりこの執務室のバルコニーから見るトブの大森林とアゼルリシア山脈の雄大さは素晴らしい。

 

(そういえば、そろそろ次のが生えてくる頃合いだな。確認しておこう……)

 

暫し風景を観賞した後で、見下ろした広い庭園に用事がある事を思い出す。

バルコニーから滑り降り、屋根から木々の上に飛び降りて庭園に降り立つ。

客人などが居れば普通に階段を下りていくが、今はショートカットしても小言は言われないだろう。

 

 

(よしよし、新しい芽が出てきてる。この分なら前回と同じ量を収穫できるだろ。バレアレ薬品店と、錬金術用のストックも同じ位分配するか)

 

領主の庭園には切り落としたザイトルクワエの頭頂部が置かれている。

そこに生えてくる薬草は希少種であり、万病を癒す効能を示すのだ。

奴が倒されて死体がゲームの如く消えず、死体を木材として切り出していて薬草を発見した時は驚いたものだ。

しかも、その頭頂部だけ切り落として保全してみたところ、定期的に薬草が生えて来た時は良い素材が入手できると喜んだものだ。

この頭頂部の周りには柵と魔法的防護が張り巡らされ、立ち入りが許されるのはアイダホと許可を出されたピニスン位である。

 

希少種の薬草は錬金術師にして開発部門に属するニニャが、来年以降に霊薬を作れないか開発を開始する予定だ。

バレイショの町内でバレアレ薬品店を営むンフィーレア・バレアレとリィジー・バレアレにも素材として提供され、ニニャと技術協力も行う予定ではある。

 

(最初は久しぶりに王国の下心でやってきた奴かと思っていたが、思わぬ拾いものだった。王国とエ・ランテルには悪いがおかげで優良なポーションという特産品をバレイショで生み出せるようになったのだからなぁ)

 

 

 

リィジー・バレアレとはンフィーレア・バレアレと彼を護衛していた漆黒の剣がトブの大森林で捕獲された事件で関係を持った。

 

一時期前ほど、トブの大森林の奥を目指すものは居なくなった。

その全てが迷いの森で散々迷った挙句徒労だけを抱えて引き返した。

ゴーレムゾーンに到達したものはただ一人として存在しなかった。

何故なら最高位である冒険者、アダマンタイト級ですらレベル30を超えれないから。

要はアイダホの想定よりも、王国の冒険者達は脆弱だったのだ。

 

現状で唯一の出入り口であるオーレ・アイーダは帝国領土に近接しており、町を守るシティーガードとゴーレムによりツリーウェイは監視されている。

問題を起こせばオーレ・アイーダによる王国関係の商人の流通をストップすると勧告している為、ツリーウェイに対する潜入や偵察などは一切起こせなかった。

 

そんな訳でごく浅い外周部分での採取行為以外、冒険者達のリアクションが無くなって久しかった。

だが、運が悪い連中とはどこにでも居るわけであり。

迷いっちの設置位置に不慮があった場所を通過して奥に向かえてしまった連中……ンフィーレアとその護衛達が居た。

偶々貴重な薬草の群生地を見つけ、そこが丁度迷いの森の境界線であり、不慮のあった場所という不運具合。

相反する迷いの森の効能により、外側に出るつもりが何故か奥の方へと抜けてしまった。

そしてアイアンゴーレムに追い回され、しかも迷いの森の効能が返しとなり外に出られぬという悪循環。

少しずれた場所から逃げ出せば外側に向けられた迷子っちによって押し出されたのだが、そんな事は知らない一行は魔力で狂った方角に惑わされ内側に逃げてしまう。

 

逃げ場のない森の中で絶望的な心境で逃げ回っていたンフィーレアと漆黒の剣の前に姿を現したのは……

 

『よもや、ここまで至る人間が居るとは思えぬでござった。しかし、それがしが来たからにはもう逃さぬでござるよ。さぁ、覚悟するで……おろ?』

 

ハムスケであり、その威容を見た彼らはそれまでの疲労困憊も相まって気絶してしまった。

 

結局、ンフィーレアと漆黒の剣達はハムスケと通報されやって来たダークエルフの森林警備隊により拘束。

バレイショに連行され、館にてアイダホに面通しをさせられる事になる。

 

「あ、ははは、ダークエルフまで味方につけてたなんて……俺たち、終わった?」

 

ルクルット・ボルブは引き攣った声で絶望に満ちた弱音を漏らす。

 

漆黒の剣と依頼主を睨んでいるのは、軽装でロングボウを背中に担いだ褐色肌のエルフ達。

南方の大森林の奥深くへ逃避したダークエルフの部族から選出された移民の一部だ。

彼らがトブの大森林から逃げ出す羽目になった魔樹が滅ぼされた事が数十年かけて彼らの集落にも伝わり。

アイダホのもとに彼らの使者が遣わされたのだ。

 

使者は部族の総意としてアイダホに懇願した。

どうか、部族の一部だけでも故郷に戻る事を許して頂けないかと。

アイダホはこれを赦し、ダークエルフの旧居住地の一つを彼らに対して解放する。

アイダホとしては人間と亜人の共生モデルのテスト代わりでもあり丁度都合が良かった。

そしてダークエルフは、森林の管理者として、レンジャーとして彼の国の一員となっている。

 

自分達が踏み込んだ領域の危険度に気づいたンフィーレア達は顔が真っ青だった。

ああ、もうあの子には出会えないのかと片思いを寄せる少女の事を思ったり。

姉に再会できず朽ち果てるのかと嘆いたり、悲願の剣を手に入れれず倒れるのかと悔しんだ。

 

まるで刑場に引っ立てられる寸前の罪人の様な顔をしている五人に対し、アイダホはタレントを申告するように申し出た。

嘘は通じないとの脅しに命が惜しいので正直に彼らは話した。

更にアイダホは何やら眼鏡の様なマジックアイテムを取り出す。

全員を満遍なく観察しつつ、幾つかの質問をした。

職業や特技、王国の現状をどう思っているかなど細々と聞かれた。

 

そして深々と頷いた後、アイダホは彼らに提案した。

 

「王国の冒険者は辞めて、俺のトコで働かないか?」

 

結果、漆黒の剣はバレイショの街で暮らすようになり。

一員であるニニャは姉の救助と引き換えにアイダホに忠誠を誓い。

ンフィーレアの才能はアイダホにより高く評価され、結果彼の祖母が店を畳みこちらへと移住する事になった。

 

(あれは非常に美味しいイベントだった。腕のいいタレント持ち錬金術師と魔法使いが鴨葱でやって来た訳だし……お?)

 

当時の事を思い返しつつ、庭園をブラブラと歩いていると休憩所にメイドが居るのが目についた。

 

「ツアレ」

「あ、アイダホ様……ご機嫌麗しゅうぞんじます」

 

休憩中なのか。

ツアレがポーチガーデンの下に設置されたベンチに腰掛けていた。

手には近くの花壇から摘み取った花で作ったのだろう。

きれいな輪を描く花飾りが握られている。

慌てて立とうとするツアレを制し、アイダホは向かい側のベンチに座った。

隣に座れば彼女が恐縮してしまうだろうと気遣ったのだ。

 

「花の冠か。綺麗に出来ている。上手だぞ」

「は、はい。ありがとうございます……」

 

アイダホはそれとなく世間話をしようと幾つか話題をだしたが、ツアレの返事で細切れになってしまう。

まだ男性恐怖症は深刻なのだなと内心嘆息しつつ、アイダホは話題を切り替える。

 

「ニニャ……妹とは上手くいっているか?」

 

ニニャという名前はツアレの妹の本名ではない。

ただ、公式にはこちらの名前が使用されている。

ニニャ曰く苦労と姉への思いを名として刻む為だそうだ。

そんな訳で、ニニャの本名は姉と二人で接する時に使う、ごく限られた場合だけらしい。

 

「はい、あの子とは仲良くやっております。もう二度と生きて会えないと思えていたあの子と引き合わせて頂いて……貴方様に頂いた御恩は」

「ああ、いい。ツアレ、お前を助けるのはニニャの願いであり彼女の才能を私と私の国で運用する為の条件だった。そこまで気にする必要はない」

「いえ、アイダホ様。貴方様がいらっしゃらなければ何れ私は打ち殺されていたでしょう。この恩義はこの命に代えてでもお返ししたいのです」

 

ツアレがアイダホを見る。

妹と同じ綺麗な碧眼に浮かぶのは、敬意、忠誠、そして……何よりも強い感情。

 

(………好意か。なんでまた、俺に)

 

アイダホはツアレの好意に気づいていた。

感謝や恩義だけでない、男に対する女としての慕情を。

アイダホとしては「救われた感謝の気持ちを愛情と勘違いしている」と考えると同時に困惑も覚えていた。

 

(全く、困った。彼女も俺みたいな化け物にそんな感情を向けるとか……今までの人生が人生だから仕方ないかもしれないが。これが吊り橋理論って奴か?)

 

 

ニニャと本人からの話を合わせれば、彼女の今までの人生は不幸と屈辱の極みだった。

 

13歳で好色な貴族に拉致され、六年間も「玩具」として弄ばれた。

娼婦や情婦ですらない、その貴族の歪んだ性欲を発散する為の玩具。

13歳で力尽くで女にされ、それから六年間あらゆる悍ましい欲望を満たす為の道具として扱われた。

人としての尊厳などどこにもない。行き過ぎた遊びで何度も心身を壊されかけた。

 

そして彼女に飽きたと宣言した貴族がやった事は、ツアレを娼婦として売り飛ばす事だった。

 

アイダホが潰したあの娼館は、通常の娼館とは違う場所だった。

娼婦に対して暴力を振るい、加虐を加えながら犯すといういかれた違法娼館。

後でツアレと元娼婦達に事情聴取し、助けた時の負傷の激しさに納得した。

 

 

制圧の効率を重視しての一撃死は生温かった。

従業員も客も全身の骨を砕いた上で瓦礫の圧力でゆっくりと圧死させるべきだったと後悔もした。

あの幻魔の何とかも警備責任者をしてたのだから、あっさり死なせず生まれて来た事を後悔させる位やっておくべきだった。

 

取り合えずツアレを拉致した貴族が存命だったので攫った上で処刑方法を実践。

ツアレだけでなく他にも数々の女を拉致しては手籠めにするような変態だったのでゆっくりじっくりと念入りに殺しておいた。

あれで彼女達が救われる訳でも人生が取り戻せる訳ではないが、彼女達の苦しみの億分の一でも味わってから逝った事を願うばかりである。

 

 

 

男性から一方的に性的、物理的に虐げられてきた人生。

誰も助けてくれず、徹底的に踏みにじられ、蹂躙されるだけだった。

そんな人生からあっという間に救い出してボロボロの体を全快させ。

生き別れの妹と再会させその後の生活も全て保障してくれた男が居たらどう思うか。

自分の救い主に、勘違いした感情を抱くのは無理はないかもしれない。

 

(ダークエレメントが白馬の王子様とか洒落にならんだろ。早く勘違いから気づいてくれるといいが)

 

「野に咲く花」。ツアレにはそういう喩えが似合うような気がする。

決して目立つ事は無いけど健気に咲いていて、そんな花だからこそ男は守りたくなる。

万事控えめで淑やかな態度は、人外であり人間ではないアイダホでも何か響くものがあった。

 

彼女は良き女性だ。

男性不信の気があるので暫くは無理だろう。

だが何時かは運命の男性に出会い、今までの不幸を取り戻せるだけの生活を迎えれるかもしれない。

それは、本来の彼女が迎えるべき人生だったのかもしれない。

好色貴族に目を付けられる、その不運さえなければ。

 

全く間の悪い女だ。アイダホはそう思う。

 

性悪な好色貴族に攫われる等といった不幸がなければ。

ニニャと共に故郷で静かに暮らし。

何れかは伴侶を得て子を為し歳を経ていっただろうに。

 

当たり前の、平穏な人生を歩めただろうに。

たとえそれが、王国の悪政による厳しい搾取と不平等のただ中であっても。

 

 

 

 

「どうか、されましたか?」

 

無言だったアイダホに、ツアレは声をかけた。

 

「いや、なんでもないよ。俺は執務室へ行く……じゃあな」

「は、はい。アイダホ様。お気をつけて……」

 

アイダホはやや足早に庭園から去っていく。

ツアレはその後ろ姿が消えるまで、深々と頭を下げていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(法国のいう全体の救済も悪くはないが、ツアレみたいな女性が救われる国も良いんじゃないか。そっちの方が、俺としてはしっくりくる)

 

違法娼館の娼館の一室。

ベットに座り込み、痣や打撲の痕だらけの顔。

死んだ魚のような目つきでアイダホを見上げたツアレ。

 

領主の館の庭園。

ベンチに座り、花々で綺麗な花輪を穏やかな面持ちで作るツアレ。

ニニャと並んで座って、楽しそうに語り合うツアレ。

 

どちらのツアレがいい?

勿論、後者がいいに決まっているとアイダホは考えた。

化け物らしくはない。ないが、自分の勝手でやる分には化け物らしいから問題ない。

カルマだの善悪だのは関係ない。アイダホがやりたいと考えたからやるだけなのだ。

 

【自分が助けたいと思った相手を助けたい。その為に自分がやりたい事を好きにやる。他人の思惑なんざどうでもいい】

 

(それに、俺達のギルドだって、元々は弱者の救済の為なんだ)

 

これで人類の象徴らしく人間種であればしまりのある展開だったんだが。

自分は所謂【異形種】。つまり化け物な訳で。

 

(それでいいじゃないか。人がツアレを救わないなら、俺みたいな化け物が救っても問題はない。そうだろ?)

 

アイダホの脳裏に、懐かしい赤いマントと白き銀の鎧が過る。

素直に尊敬できたあの人なら、何時もの台詞を言って肯定してくれただろう。

 

(国造りの為に……ギルドの名前、借ります。同じ理念の為ですから許してくれますよね? たっちさん、モモンガさん)

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウン。

 

それが、アイダホが作る新しい国の名前。

それが彼の抱く理念の象徴。

そして、何れ訪れるかもしれぬ友達への指標。

 

 

その月の翌月。

アインズ・ウール・ゴウンは、正式に建国を周辺諸国へと通達する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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