誰かが何かを願ったら。   作:イリヤスフィール親衛隊

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流石に日曜日は執筆休みました。できれば春休みが終わる前に完結させたいので、全体的に色々と早足で進みます。

追記:タイトル変更しました。



④「守りたい」

 

 

 

キャスターの張った結界の中。焚き火を囲む三人の影が炎の灯りで揺れる。場には微妙な空気が流れていた。

 

抱えた膝に顔を埋めるように俯き、時折なにかを思い出すように肩を震わせる女性。

 

なにを隠そう彼女こそが先程まで、明らかに自分より年下の少年相手に胸に顔を埋めるように大泣きしていたオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアその人である。

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

 

 

状況が状況であっただけに仕方がないとも思えるのだが、どうやらオルガマリー本人にとってはそうではないらしい。

 

「忘れなさい……」

 

ようやく顔を少し上げたと思えば、彼女は少年を半目で睨みながらそう言った。しかし、涙目である。

 

なんともいえない曖昧な表情を返すことしかできない。

 

「さっきまでのことをその記憶から忘却しなさい!」

 

その言のなんと無茶苦茶なことか。悪いとは思いながらも流石にそれは無理があると返す。

 

無論、そんなことは元から百も承知である彼女はもう一度その弱々しい睨みを利かせて再び俯く。

 

「このわたしが、あんな失態を……」

 

心底から後悔しているというような声音で呟かれたその言葉に、今まで黙っていたキャスターが口を開いた。

 

「いいじゃねぇか。可愛らしいもんだったぜ」

 

「うるさい!」

 

キャスターのからかいに語気を荒くする女性。

 

このままでは埒が明かないと思い、そろそろ建設的な話をしないかとキャスターに振る。

 

「そうだな。こっちとしてはアンタに訊きたいことが山程ある」

 

彼女も渋々といった風に顔を上げた。

 

「それはわたしだって同じよ……」

 

場の雰囲気が少しピリピリしたものに変わる。これでようやく前に進めると内心で安堵の息を漏らす。

 

「そうだな。まずは自己紹介からといこうや。オレはキャスターのサーヴァント。真名は《クーフーリン》だ」

 

なんですって……!?と彼女はとても驚いた様子だ。かくいうこちらも驚いている。

 

「なんでオマエさんまで驚いてるんだよ……って、そうか、そういや教えてなかったっけか?」

 

キャスターの言葉に頷いて返す。今までランサーだキャスターだとクラス名でばかり呼んでいたために、彼の真名について触れる機会がなかったが、その立ち振舞いや持ち合わせる能力から、かなりの武勇を誇る英霊であろうことはなんとなく予想していた。だが、それがまさか、あの《クーフーリン》だったとは。

 

なるほど、それならランサーだったらセイバー相手に勝ち目があったという話も信憑性が増す。ネームバリュー的にも英霊としての格にも然程の差はないのかもしれない。

 

そんなことを考えていれば、今度は自分に彼女からの視線が向けられる。

 

「それで、あなたは?」

 

なにやら語調が刺々しい気がするのだが。苦笑いしながら自己紹介をしようとして、ふと、疑問が涌く。

 

果たして、自らを何者であると表せばいいのだろうかと。全うな英霊ではなく、かといって最早人間でもないという。自らという存在がひどく証明が不安定なそれであるという事実に遅まきながら気づかされた。

 

黙り込んでしまったこちらに、彼女は懐疑的な視線を送る。はてさて、困ったことになった。このままでは円滑に話を進められず、今後に不和を生んでしまいかねない。

 

「あー、こいつはアーチャーだ。だが、どうにも記憶に欠落があるらしくてな。真名はおろか、大半の記憶がない状態だ」

 

あれやこれやと思考していると、キャスターが助け船を出してくれた。その顔は呆れたようでいて、まるでなにかを諦めているようだ。

 

アーチャーというのはどこぞの誰かを思い出して釈然としない上、嘘を吐くことも忍びないが、かと言ってなにか上手い説明を思いつけるわけでもないため、この際仕方がないとキャスターの言に乗っておくことにする。

 

間が空いてしまったためか彼女はどこか半信半疑な様子だ。しばらく、考え込むような仕草をするものの、とりあえず納得しておくと頷いた。

 

そして、次は自分の番であると深呼吸を溜め息で誤魔化し、意気込んで立ち上がる。

 

「わたしは人理継続保障機関フィニス・カルデア所長。オルガマリー・アースミレイト・アニムしゅッ……フィアよ…………」

 

語気が段々と小さくなっていき、最後には消え入るように萎んでいく。それと同時に彼女は再び俯いてしまう。

 

フォローのしようもなく思わず目を逸らした。どうやらキャスターも同じようだ。こちらは完全に明後日の方向を向いてしまっている。

 

この後、まるで巻き戻しが起きたかのように場の雰囲気が冒頭のそれに戻ってしまうのだが、別段、それは予想外でもないことだろう。

 

 

 

∇∇∇

 

 

 

炎上都市冬木。少年の物語が進行するすぐ隣で、もうひとつ、少女たちの物語も既に幕を上げていた。

 

「やぁッ!!!」

 

儚げな印象を持ちながら、自らのマスターを守らんと力強く大盾を振るう勇敢な少女。

 

名をマシュ・キリエライト。正規の英霊とは異なる亜英霊(デミ・サーヴァント)と呼ばれる存在である。

 

「はぁッ!!!」

 

大楯を伴った突進で、数体のスケルトンを一度に吹き飛ばす。

 

「大丈夫ですか、先輩?」

 

背後を振り返り、気遣わしげな視線を先輩と呼称する少女へと向ける。

 

「わたしは平気だよ。それより、マシュこそ……」

 

戦うのが恐くないの?そんな言葉を少女は、藤丸立夏は呑み込んだ。恐くないはずがないだろう。怖くないはずがないのだ。

 

マシュは自分で気づいていないのかもしれないが、顔色はお世辞にも良いとはいえないし、手だって震えている。

 

だが、それでも、マシュは戦っている。それは、他ならない、立夏のために。ならば、その問いかけは、守られている立場の立夏がその問いかけを口にしてしまっては、マシュにとって侮辱になってしまうのではないか。

 

震えるマシュの手をそっと取る。せ、先輩!?と突然の事に驚くマシュ。冷たくなってしまった手を温めるように両手で包み込む。

 

あの……恥ずかしいです…………。と頬を赤らめて俯く後輩に立夏は、現在自分たちが置かれている状況下にも関わらず、ほっこりとした気持ちになって微笑む。

 

戦えない。サポートもろくにできない。そんな不甲斐ないマスターで、頼りない先輩ではあるが、それでも……それでも…………。

 

「あ、あの……」

 

俯いていたマシュが顔を上げる。その瞳は決意に満ちていた。

 

「わたしは平気です。先輩がそばにいてくれるだけで、平気です」

 

「戦えます。先輩の、マスターのためなら」

 

マシュの決意を受け止めた立夏は、自らを奮い立たせる、強くならなければならないと。マシュに守られてばかりではなく、マシュを守れるように。今は支えてあげることしかできなくて、それだって未だ拙く、力になれているとは言い難い。それでも……いや、だから……。

 

「一緒に強くなろう、マシュ」

 

「はい、先輩!」

 

守りたい、この笑顔を。花の咲いたような笑顔とは、きっとこのことを言うのだろう。そんなことを思いながら、同性であるとか関係なく、立夏は後輩の笑顔にただただ見惚れていた。

 

 

 






うちの所長がポンコツかわいい件。なんでこうなったんだろうか……。


『第四話を四行で理解しよう!(理解できるとは言ってない)』


①所長、恥ずか死す。

②主人公、自らの存在を見失う。

③所長、噛みまみた。

④ぐだ子(男前)とマシュ(マロ)。←イマココ


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