誰かが何かを願ったら。 作:イリヤスフィール親衛隊
三日連続投稿。やればできるもんなんですね。まあ、相変わらず内容は短いんですが……。
感想をくれた方々。お気に入り登録をしてくれた方々。そして、少しでも目を通してくれた方々。このような拙作に時間を割いていただき本当に心からありがとうございます。読んでくれる人がいるというのはやはりいいものですね!感想などもらうとドキドキするのは二年ほどハーメルンに居ますが未だ馴れません!まあ、だからといって感想がなかったら執筆意欲が落ちちゃうんですがね……(遠回しな催促。
冬木の心臓。超抜級魔術炉心・大聖杯の鎮座する大空洞。そこには漆黒の騎士鎧に身を包んだ独りの少女がいた。
顔の上半分を覆っているバイザーのような仮面。その隙間から覗く龍のそれの如き黄金の瞳は、ここではないどこかをただひたすらに見つめ続ける。
すべては理想がため。身に余る願望がため。そのために己以外を斬り捨て、終には己という存在すら否定してみせた少女は。
「空っぽ、だな……」
ポツリと誰にも聞こえない声量で男は呟いた。色素の抜け落ちたような白髪に、無機質な鋼のような瞳。そんな赤い外套の男は、心ここに在らずといった風に遠くを見つめる少女を見て、率直な感想を漏らした。
まったく、見ているこちらが痛々しい。そう内心で呟いて溜め息を吐く。
どうにかしてやりたいという思いはあれども、それは残念ながら自分の役目ではない。男には解っていた。自分では彼女を変えられないと。自分では救うことができないのだと。
なにが正義の味方だ。今となってはそのフレーズは皮肉にもならない。泣いていた少女になにもしてやれぬまま、彼女の涙はとうとう枯れてしまった。
嗚呼、なにもできなかったこの身が呪わしい。結局、あの時から自分のなにが変わった。いや、なにも変わっていない。
正義の味方に憧れていたあの時も、正義の味方に失望した今も、変わらずこの身は無力ではないか。
誰でもいい。彼女を救えるのなら、それが誰であろうが構わない。だから、来るならば急いでくれ。すべてが手遅れになる前に。
∇∇∇
霊基に刻まれた経験から最適解を導き、それを手本として、まるでなぞるかのように実行に移す。
なんともいえない感覚が体を走り抜けた。それは違和感と相俟って、不快感へと変わっていく。
戦うという恐怖に足がすくみそうになる。だが、実際には足は軽やかにステップを踏んで剣舞の基幹を築く。
剣を振るうことに躊躇いがある。しかし、それでも、握るそれがまるで自らの腕の一部であるかのように無駄のない型で振るわれる。
スケルトンの武器を双剣で受け止め、弾き飛ばし、首を落とし、投擲で頭蓋を砕く。
牽制を兼ねた複数の剣弾を中空に投影し、一斉掃射。射ち漏らしを剣撃で確実に仕留めていく。
戦いの中で理解が進む。経験が自分のものではないがために起こるであろう弊害について。
戦える。だが、勝てない。瓦礫に腰を下ろし、沈黙を保っているキャスターを横目で見やる。
改善するべき課題は山程ある。それでもセイバーを止めなければならない。そのためならば。そのためにも。
躓いている暇はない。
最後のスケルトンの頭蓋をはね飛ばしたところで、一息吐く間もなく、甲高い女性の悲鳴が廃墟に反響し耳に響いた。
それを認識して次には、大地を蹴って駆けていた。
∇∇∇
「なんなの、なんなのコイツら!? 」
悲鳴の主であるところの女性。オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアは炎に包まれた街の中を逃げていた。
一体なにから?
GuoooooOOOOO……
それはまるで地の底から響いてくるかのような低い声。生者を喰らわんと進軍するスケルトンたちからである。
「なんだってわたしばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」
気づけば燃える廃墟街に立ち尽くしていて、さして間も置かずにスケルトンたちに見つかり、追い回されている。
まともに思考を転らせる暇すらなかったオルガマリーは未だ自らの身になにかが起きているのかすら把握できていないほどに混乱していた。
「もうイヤ、来て、助けてよレフ!いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」
ヒステリックな叫び声だけが虚しく廃墟にこだまする。
「きゃッ!?」
足元への注意が疎かだったために、瓦礫に足をとられて転倒してしまう。
「……ッ」
痛みに表情を歪めながらも立ち上がっている間にもスケルトンたちとの距離が大幅に縮まってしまった。
「ヒィッ!?イヤァァッ!!!!」
腰がひけており、尚、情けない声を上げながらも魔弾を行使し正確無比にスケルトンを撃ち抜いていく。
だが、数は一向に減る気配がない。むしろ、時間を追うごとに増えている気さえする。
「イヤッ!イヤァッ!!こっちに来るなッ!!」
魔弾を撃ちながら曲がり角を曲がる。しかし、運悪くそこは行き止まりだ。
「うそ……」
振り替える。まだ引き返せるかもしれないという淡い期待は、ゾロゾロと立ち塞がったスケルトンたちの存在によって木っ端微塵に砕かれた。
退路はない。
「イヤ……ッ」
恐怖に顔を歪ませ、後ずさる。そんなオルガマリーにスケルトンたちはカタカタと嗤うように歯をカチ鳴らした。
「死にたくない……ッ!だって、わたしは……まだ……まだ…………ッ」
そうだ、自分はまだ■■■■■■■いない。誰にも■■■■■いない。オルガマリーの瞳から涙が流れ落ちる。
「助けて……ッ」
誰か。助けて。
『ああ、助ける』
誰かの声が聞こえた。次の瞬間、オルガマリーへと伸ばされていたスケルトンの腕が斬り飛ばされた。
∇∇∇
「あのヤロウ先走りやがって……ッ」
悲鳴が聞こえた瞬間に、迷うことなく脱兎のように駆け出した少年に舌打ちしつつ後を追う。
少年には最初に伝えたことだが、この街に、いや、下手をすればこの世界に生き残っている人間は誰一人としていない。
この冬木という街がどういうわけか外界から隔離された異界のような状況下であるため断言はできないが、このような厄災が街ひとつなどという規模で収まるわけがないとキャスターは断言できる。
人間が誰一人としていない。少なくともこの街には。だとすれば、先程の悲鳴の主は一体何者なのだ。
そんな疑問を最初に浮かべなければならないところだろうに、それをあの少年は……。
「マジで半人前かよ……」
罠であるという可能性を真っ先にかなぐり捨てたのだ。疑いを持つということは、なにも戦場でなかったにしても、生きるために必要となってくるスキルだろう。
なにごとも疑うことでより理解が進む。人間同士の信頼や信用も必然、疑いによる理解から生まれてくるものであることは時代を経ようと変化ない筈だ。
それに、疑うことは一種の生存のための防衛術でもある。真正面から突っ込んでいくばかりでは、どうぞ罠にかけてくださいと言っているようなもの。相手側からしたら良いカモにしかならない。
「まったく、手の掛かる
戦闘指南以前に、根本的なところで意識改革が要るなこりゃあ。キャスターは思わず苦笑いしてしまう。
その姿を彼の師匠が見ればきっと『実に愉しそうだな』と評したことだろう。
「っと、追いついた……か?」
ようやく少年の元まで辿り着いたキャスターの目に入ったのは、恥も外聞もなく大泣きしながら少年に抱きついている女性と、どうしたらいいのかわからないといった困り顔で、とりあえずといった風に女性の頭を撫でながら慰めている少年という光景だった。
キャスターとしてはなにやってるんだお前的な感想を抱くも、横やりを入れる気も起きず黙って見守っておくことにする。
少年がキャスターに気づき、助けてほしそうな視線を送るも、キャスターは少年の視線の意図にわざと気づかないふりをしてサムズアップした。
もう、主人公の名前なんてドーデモイイヤ(諦め。
因みに、所長を泣かせたのは個人的な趣味です(ゲス顔。
『第三話を四行で理解しよう!(理解できるとは言ってない)』
①黒い騎士の少女と赤い外套の男。
②課題、戦うということ。
③所長のフルネーム。
④キャスター、サムズアップ。←イマココ