誰かが何かを願ったら。 作:イリヤスフィール親衛隊
気分が乗ったので執筆。とりあえず、これ書いてて面白くないなぁと思うようになるまでは細々とやっていくつもりです。
さて、レート潜るか。
いつかどこかのそう遠くない未来で、『正義の味方』となった一人の男がいた。
無銘。それは名前のない英雄。架空の英霊。大衆の望む『正義の味方』という概念を背負った誰か。
だが、その個人を特定することは最早叶わない。男が英雄として祀られた時点で、その存在は人々の記憶、歴史から忘れ去られているのだから。
故に、男には自らが『正義の味方』であるという事実しかない。
男にとって、それ以外のすべてはただただ欠落し、欠損し、剥がれ落ち、摩耗し、ひたすらに失われていくものでしかないのだ。
∇∇∇
「一度、固定されて召喚された英霊のクラスを書き換えられたことにも驚きだったが、まさか、生身の人間の肉体を依り代に霊基を卸すなんて真似ができるやつがいるとはなぁ……」
前者はともかく後者はうちの師匠でもギリできるかできないかってレベルだぞ……。そう感嘆の声を漏らすキャスターに、しかし、相づちのひとつもうつ余裕がなかった。
殺されて、妙な夢を見て、目覚めたら自らが英霊になってしまっていたなどとは簡単には信じられないでいる。
「正確には英霊擬きだな。肉体のベースはあくまで人間だ。だからその分、英霊としての出力は著しく低い」
「まあ、それでも人間の時とは随分と勝手が変わっちまってるだろうがな」
そう言われて、手を握ったり開いたりと感覚をたしかめてみる。微妙に違和感は拭えないものの、その程度である。
「肉体と霊基の親和性がよっぽど良かったんだろうなぁ。記憶の混同はないか?」
それも問題ないようだ。あるのはどこまでも自分の記憶だけ。そう、自分の記憶だけだ。
「…………そうか。なら、問題ねぇな」
一瞬、なにかを考え込むような素振りを見せたキャスターだったが、すぐに切り替える。
「この調子だと、オマエさんから得られる情報はほとんどなさそうだ」
本当に申し訳ない。情報交換は結局、公平性に欠ける結果になってしまった。
「安心しろ。
「オレには考えるより動く方が性に合ってるってな。なあ、坊主」
セイバーのヤロウを止めてぇんだろ?そう問いかけ、目を細めてこちらを見やるキャスターに、間髪入れずに当然だと回答する。
あまりにも早い返しに、目を丸くしたキャスターだったが、すぐにニカリと笑みを浮かべ、だったらこういうのはどうだと提案する。
「オレはこの狂った聖杯戦争を終わらせてぇ。そのためにはセイバーと戦わなくちゃならない」
「そして、オマエはセイバーを止めてぇ。奴さんの性格からして戦闘は避けては通れねぇだろうな。つまり、セイバー打倒でオレたちの利害は一致してる」
オレと協力しねぇか?そんなキャスターの言葉に即答しようとするが言い淀む。
わからずじまいのことが多く、現状の凌ぎ方すらままなっていないこちらとしては、その言葉にむしろこちらからお願いしたいくらいだと即答したい。そうしたいところなのだが……。
悔しいがキャスターは強い。クラスは変われど彼が歴戦の英雄であるという事実は変わらない。
一方の自分はといえば、いくら英霊のようななにかになったといったところで、中身はそう変わらない。戦力どころか足手まといになるのではないだろうか。
「オレがランサーのままだったんならな、最優のセイバーといえども一突きで殺れたんだが……」
「あいにくとこの身はキャスターだ。セイバー相手取るには戦力が足りねぇ」
それに、障害はなにもセイバーだけじゃねぇしな……。そう言って立ち上がり燃える廃墟街へと視線を向けるキャスター。
「それと、足手まとい云々は問題ねぇよ。いくらその身が英霊のそれでも、オマエさんがまともに戦えないであろうことは大体想像がついてたからなぁ」
「霊基には確かに経験が宿っちゃいるだろうが、だからといってそれだけで戦えるほど戦場は甘くねぇ。経験は在るだろうが、その経験はオマエさんのもんじゃねぇからな」
大きな木の杖を肩に担いだキャスターの赤い瞳がこちらを見据える。
「安心しろ。最低限、セイバーの前に立っても恥ずかしくないぐらいのレベルに仕上げてやる」
それは……一体どういう…………?
「察しが悪ぃなぁ。オレがオマエを鍛えてやるって言ってんだよ」
「ついて来いよ半人前。お前に英霊の何足るかってやつを叩き込んでやる」
∇∇∇
街外れから廃墟街の中へと場を移す。本当に酷い荒れようだ。絶えることのない炎が灯りとなって、その街の有り様を一層際立たせている。
住み慣れたはずの街であるというのに、まるで異界のように思える。いっそのことここが本当に異界で、あの平穏がまだどこかに残ってはいないだろうか。もし、そうだったならば……。
……いや、現実を見よう。これからセイバーを止めなければならない自分が、あるかもしれないなどという幻想に縋っていてはいけない。
どれほど歩いたことだろう。急にキャスターが立ち止まった。こちらに背中を向けたまま、前方を見据えたまま言葉を発する。
「鍛えてやるとはいったが、あんまり時間とってる余裕はねぇ」
ああ……。と続きを言われずとも納得してしまう自分がいた。察しが悪いとは言われたが、キャスターと接した少ない時間で、朧気ながら人と成りは理解していた。
要するに、なんとなく予想していたのだこれを。
「だから、実戦の中で学べや。幸い、ここには丁度良いカモが嫌ってほどわきやがるからな」
ほれ、来たぞ。とキャスターの視線の先には数えるのが馬鹿らしくなるような
キャスターは視線をこちらに移し、言外に
ああ、もう、この際だ。師を選り好みするような余裕はないし、現状の事態が緊急を要しており、本来ならこんなことに時間を割いているわけにはいかないのだということも解っている。だからこそ、早急に強くならなければならないことも。
なら、やれるだけやってやる。
戦闘を意識した瞬間、手には二色二振りの双剣が握られていた。それは最早体に馴染んだと言っても過言ではない自らの十八番。
しかし、無意識に投影したものそれが問題だった。どうしてよりにもよってこれなんだと頬をひきつらせる。
それを見ているとどうしても、あのいけすかない
スケルトンたちはもう目前まで迫っている。残念ながら投影し直している時間はない。仕方なく白と黒の夫婦剣を構え、廃墟街を駆け抜ける。
脳の認識と実際の身体能力がやはり上手く噛み合わない感覚に不快感を覚えながら、剣を振るった。
・・・・・・
・・・
「こいつは……」
瓦礫に腰を下ろし、少年の戦いを見守っていたキャスターは、その光景に眉をひそめていた。
黒と白の双剣。それらを次々と使い捨てるようなトリッキー極まりない戦闘。決して巧くはなく、寧ろ少年の戦闘への不慣れと拙さの滲み出るそれはしかし、見覚えのある、否、見逃せないものだった。
そうだ、あれは、あの戦い方はまるであの双剣使いのアーチャーそのもの。
覚えていないわけがない。ある程度手を抜いていたとはいえ一進一退の攻防を繰り広げた相手だ。その上、短いやりとりのなかであろうことか
意識してみれば、肌の色や髪の色はともかくとして、顔立ちにはどことなく面影がある気がしないでもない。もしや血縁か、とも考える。だとしたら少年に宿った霊基は……。そこまで思考してキャスターは頭を振った。
もし、そうだとしたら現状に辻褄が合わない。何故なら、あのアーチャーはセイバーの手にはこそ墜ちたものの、現在も変わらず現界を続けているのだから。或いは、側面の違いか……。
まったく、考えてばかりは性に合わないというのに。キャスターが溜め息を吐いたと同時に、少年の剣閃が最後のスケルトンの頭蓋をはねた。
「思ってたよりも形になってやがるな……」
せっかく半人前相手の指導に意気込んでいたというのに、手がかからないでいいことは結構だが、それはそれで指導する楽しみがなくなってしまうのは少なからず残念である。
そんなキャスターの思いは、甲高い女性の悲鳴によって掻き消された。
【悲報】主人公、二話目でも名前出ず。おい、マジでダレだよコイツ(半ギレ。
『第二話を四行で理解しよう!(理解できるとは言ってない)』
①正義の味方な名無しさんの話で導入。
②キャスターとの協同戦線。
③修行()とアーチャーについて。
④女性の悲鳴(不憫なあの人)。←イマココ