誰かが何かを願ったら。 作:イリヤスフィール親衛隊
なにかを書くのは実に約三ヶ月ぶりという……。ポケモンとモンハンに現を抜かし過ぎましたね。書いていてブランクを感じた今日この頃。
そして過去に自分で書いたものを時間をおいて見直した時のなんとも言えない気恥ずかしさと言ったら……。とにかく早く続きを書かないとなぁ、と思いつつ新作を書くという。
まあ、なにはともあれ思いつきの走り書きではありますが楽しんでいただければ幸いです。毎度のごとく続くかどうかはモチベ次第。
ふぅ、さて、一狩り行くか……。
なにもできなかった。
魔術の師も義理の妹も恩人も級友も後輩も友人も隣人も知人も。
彼ら彼女らが炎に呑まれていく様を、ただただ見ていることしかできなかった。
なにもできなかったから死なせた。
己の無力が殺した。
熱を帯びた痛み。今では黒く変色してしまった黄金の刀身が心の臓を貫く。
傷口から血の滴る柄を握り締めた少女は、己の為したことに対してか、直視していられないほど悲痛の表情を浮かべていた。
どうしてそんな顔をする。決めたのは君だ。やったのは君だろう。なのに、どうして君はそんなにも苦しそうにしている。
「ごめん……なさい…………」
なぜ、謝る。なぜ、泣いている。痛みで朦朧とする意識の中で、それでも手を伸ばし少女の涙を指で拭う。少女は驚くように目を見開いて、再び大粒の涙を流してみせる。
嗚呼、そうか。本当になにもできなかったのだ。なにもできなかった。無力が過ぎた。目の前で少女が泣いている。つまり、少女一人救うことができなかったのだ。
正義の味方になりたいくせをして、こんな体たらくではいけないだろう。そう、己を叱咤する。
意識が遠退いて行く。伸ばしていた手を少女の頭へと乗せる。一瞬、少女の体が硬直するように震えるが、直ぐにそれを受け入れた。
正義を吼えるだけでは決してなにも為せない。そんなこと解り切っていたことだろうに。
ごめん。こちらこそ、なにもできなくてごめん。そう言葉にしようとするが、声が出せない。
身体から力が抜けていく。立っていられず少女の肩に顔を埋めるように倒れこんだ。
意識が深い闇に呑み込まれるように途切れる。
∇∇∇
「やあ、ぼくだよ。え?誰かって?やだなあ、だから、ぼくだよ」
「あはは、そう深く悩まなくていい。大丈夫、キミの記憶は間違っていない。ぼくがキミを一方的に知っているだけで、キミとぼくとは正真正銘はじめましてというやつさ」
「ぼくのことはそうだなあ…………まあ、通りすがりの親切なお兄さん的な認識にとどめておいてくれ」
「さてさて、少年くん。お兄さんとしてはもう少しキミと無駄で中味のない話をしていたいんだけどね」
「もっと余裕をきかせられたらよかったんだけど、なにぶん準備が十分でなくて……。今だって、キミの中にある『魔法の鞘』のおかげでこうして干渉できているだけなんだ」
「うん、いや、なんでもない。キミが理解する必要はないよ。こっちの話さ。それでね、親切なお兄さんがこうして通りすがることになった理由についてなんだけど……」
「うーん、本当は回りくどいのは大好きなんだけど、あいにく今は少しでも時間が惜しいんだ。だから単刀直入に」
「ねぇ、少年くん。お兄さんと契約して、世界を救う正義のヒーローにならないかい?」
そう言って、自称通りすがりの親切なお兄さんは胡散臭い笑みを浮かべた。
∇∇∇
「よぉ、目ぇ覚めたか坊主」
目覚めて、一番最初に目に入ったのは夜の闇を優しく照らす焚き火の光と、青い髪と赤い瞳が特徴的な大柄の男だった。
「ヤレヤレ、まさか二度も命を狙って、二度も殺し損ねた相手を、今度は助けることになるなんてな。運命ってやつはつくづくわかんねぇもんだぜ」
その相貌から思い出されるのは、髪の色と同じく青い戦装束を身に纏わせ、紅き魔槍を縦横無尽に振るい戦場を駆けた獣のごとき男。
「間違っちゃいねぇよ。たしかに、オレは
その筈だったんだがなぁ……。と男はフードを被り木の杖を地面に突き立てるようにして見せる。
「どういったわけか。気づいたらこの有り様だ。今の俺はドルイドとしての側面で召喚された
「それで、聞きてぇんだが……。オマエさん、なんで生きてる?いや、違うな。なにがあった?」
生きてる……。そうだ、どうして生きてるんだ。たしかに心臓を貫かれて……。
心臓の位置に手をやっても、そこには血の流れた痕跡どころか、傷すらない。しかし、服には貫かれた時に破れた穴が残っていることから、あれが夢でないことは間違いない。
「オマエ、なにが起きてるのかさっぱりだって顔してんな」
その通りだ。自分の身になにがあったのか以前に、なにが起きているのかすら把握できていない。
「そうだな……どこから話したもんか…………」
まあ、聞くより見る方が理解が早いかとランサー、改めキャスターはとある方向を顎で指した。
それは夜空をオレンジ色に照らす、街を呑むように広がった燃え盛る炎。崩れ落ちた建造物。冬木の街は最早その原形をとどめてはいなかった。
その光景はまるで自らの原初の記憶の再現のようで。そう、丁度十年前の冬木の大火災の再来のようであった。
あまりにも茫然として言葉が出ないでいると、キャスターが口を開いた。
「なんとなく解っただろ?」
素直に頷くことができない。それほど衝撃的な光景だった。
これでは一体どれほどの人間が生き残ることができているのか。あまり期待はできそうにない。
「あぁん?人間なんざ人っ子一人生きちゃいねぇよ」
キャスターによって突き付けられた現実に、期待という甘い考えは切り捨てられ、再び茫然としたままフリーズする。
そんなこちらにはお構いなしにキャスターは言葉を続ける。
「気づいたら、街も人間も炎に呑まれてた。ただの炎じゃねぇぞ。アレは人間を殺すという指向性を持った呪いみてぇなもんだ。そして、後に残ったのは燃える
人間を呪う炎……。だったら、尚更どうして生きているのかわからなくなった。炎に呑まれなかっただろうか。
「炎に呑まれなかった、だと?」
そうだ。たしかに自分は死んだのだが、それは炎に呑まれたからではなく、彼女に、そう、他ならぬ自らの
「マスター殺し……。あのヤロウそこまで堕ちてやがったのか…………」
キャスターの言葉に思わずムッとして言い返す。その言い方はどうだろうか。彼女には、セイバーにはセイバーなりの考えと理由があってのことだろう。
あの時の涙も謝罪もきっと嘘ではない。
「ハンッ、甘ぇな。だが、悪くねぇ」
一瞬、呆れたようにこちらを見やったキャスターは、次には良いものを見たとばかりにニヤリと笑う。
「テメェを斬った女のために怒るか。ハハッ、そういうの嫌いじゃないぜ?その気概や好し。女のやらかしたことには黙って目を瞑ってやるのがイイ男ってもんだ」
呵々ッと快活に笑ったキャスターは、そろそろ本題に入るかねぇ、と真面目な雰囲気に切り替える。
「オレたちのやってた聖杯戦争なんだがなぁ……」
聖杯戦争。万能の願望機を巡り、魔術師同士が争い殺し合う魔術的儀式。
自らが本格的に魔術に関わることになった要因であり、大切な者たちと出会い、多くを学ぶことになったきっかけともいえるそれだ。
「いつの間にか、いや、違うな。おそらく街が炎に呑まれたその時だ。まったくシステムの違う別物にすり替えられちまったのさ」
「そんな異常事態に、まっさきに聖杯戦争を再開したヤツがいた」
まさか、それは……。
「ご明察。セイバーのヤロウだ」
そんな……。
「そこまでして聖杯に執着するなにかがあるんだろうな。オマエさんの言うアイツなりの理由ってやつも、そこにあるんだろう」
聖杯を求める理由……。心当たりはある。だが、あれは、あの願いは決して誉められたものではない。
彼女を、彼女の願いを止められなかったことが悔やまれる。たとえ彼女に恨まれてでも、自分は止めるべきだったのだろう。
「こっちはすべて話した。次はオマエさんの番だぜ?」
そうだった。一方的な情報提供では不公平だ。こちらも解っていることは少ないだろうが、可能な限りの情報は伝えようではないか。
「まずは、そうだな。二度目だが、オマエさんになにがあった?」
なにがあったとは、あまりにも問いかけがぼんやりとしていないか。キャスターがなにを聞きたいのかがまったくわからない。
「……オマエ、自覚がねぇのか?」
自覚?本当になんのことでどういうことだと首を傾げるこちらを見て、キャスターは呆れたように溜め息を吐き、がしがしと頭を掻いた。
「オレはさっき言ったよな?人間なんざ人っ子一人生きちゃいねぇって」
たしかに言った。そんな衝撃的な言葉を覚えていないわけが……。
……。…………。………………待てよ。人っ子一人生きていないって、それは間違いだ。生きている人間がここに、ちゃんと一人いるじゃないか。
「……マジで?マジで自覚なしか?」
なんだその言い方は。まるでここにいる自分が人間ではないと言っているようではないか。よもや生き残っているからというだけで化物扱いか、失礼な。
「言っている
いいか?よく聞け?とばかりにキャスターはこちらを指差す。
「オマエさんはもう人間じゃねぇ。その身に霊基を宿した、英霊に近しいナニかだ」
名前が出ない主人公。い、いったい彼はだれなんだ?(棒)
『第一話を四行で理解しよう!(理解できるとは言ってない)』
①主人公、セイバーに殺される。
②通りすがりの親切なお兄さんに出会う。
③キャスターと会話。
④主人公はもう人間ではないらしい。←イマココ