LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり

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第五十四話 法国の足跡

―――スレイン法国、光神殿内最奥聖域、アーラ・リィ・レイン。

 

聖域というと大仰に聞こえるが、つまるところ、アーラ・アラフがこの世界に来て、一度老衰で死ぬまでの間に使っていた私室である。

そこは彼女の信奉者によって、神官長による定期的な清掃以外は一切の物に触れることなく保たれてきた。

 

現在その部屋の前に、アーラ・アラフとクリスト。 そしてモモンガとアルベドが居た。

 

「急について何も言わずに来て欲しいとは……。 一体どういう理由があるの? モモンガ様の御手を煩わせるからには、少しは説明を―――」

 

「いい、アルベド。 我々は、この神殿や都市のことは何も知らないからな。 説明できないこともあるのだろう」

 

アルベドは不信感を一切隠そうともせず、モモンガを守るように立ちながら、アーラ・アラフ達を睨みつけている。

それに対して、アーラ・アラフはともかく、クリストは真っ向から睨み返しており、まさに空気は一触即発というに相応しかった。

 

これは今に限ったことではなくアルベド自身、モモンガが選択した事とは言え、人間達の勢力に身を寄せることは当初から懐疑的ではあった。

無論、今の所、最終的にはモモンガの意思に従う姿勢を見せているが、既にアルベドはギルドシステムの支配からは逃れている、ということはモモンガにとって重大な懸念事項だ。

 

もしアルベドがモモンガに対して不信感を抱いてしまえば、思わぬ行動に出るかもしれず、かと言ってスレイン法国内でも危うい状況にある今、アルベドを優先するあまり彼らを刺激するのもまずい。

 

モモンガは既に無いはずの胃が、きりりと痛むような錯覚に襲われた。

 

(はあ、厄介な板挟み状態だな……。 だけどアルベドの心配も尤もかもしれない。 今の所、このアーラ・アラフというプレイヤーと自分や協力関係にはあるけど、お互いに信頼関係はないし………)

 

結局両者は互いの目的が共通していることから即興で手を結んだだけだ。

 

モモンガは、仲間達と作ったナザリックがこれ以上仲間が望まないであろう方向へ行くことを阻止したい。

アーラ・アラフはスレイン法国を守りたい。

 

(しかし……、だとすればこの国はプレイヤーが作った、若しくは関わった国という可能性が高いが、歴史はどのくらいなんだ? 自分達と同時に転移してきたってのはありえないとして……。 そもそも、この都市はギルド拠点なのか? この神殿は精巧な装飾と、良質の建材が使われていて、かなりユグドラシルっぽいけど街の建物は……、ユグドラシルの拠点の建物としては質素過ぎる気がしたが。 しかも拠点NPCも見かけないな)

 

モモンガの疑問は尽きない。

 

その時、アーラ・アラフが移動開始から、初めて口を開いた。

 

「ちょっとモモンガ殿と二人で話したいことがあるの。 悪いけれどクリストと……アルベド殿は部屋の外で待っていて欲しい」

 

「なっ……。 モモンガ様、そのようなことは保安上、危険過ぎます! 何を企んでいるか―――」

 

「貴様、先程から聞いておれば……。 我らが神への侮辱も大概にすることだな! ……とは言え、部分的には貴様と同意見ではある。 アーラ・アラフ様、あのアンデッドと二人きりになることは危険すぎます。 貴方様に何かあれば、スレイン法国は………」

 

動揺するクリストを諌めるように、アーラ・アラフは鋭く言う。

 

「これは命令です。 ……今後の法国の未来を左右する程大事なことを話し合う。 あなたがどんなに止めようとしても今回ばかりは聞くつもりは無いわ」

 

「私も異存は無い」

 

モモンガも、アルベドを制してアーラ・アラフの提案に乗る決意をする。

それは、この法国内で部外者である自分が、下手に相手の最高権力者らしいプレイヤーの誘いを断るのは拙い、と思ってのことだったが、それ以前に、あまりに不確かなこの世界について情報が得られるかも知れない、という好奇心が大きい。

 

未だ納得は言っていないらしい、アルベドとクリストだが、自らの主の意見にこれ以上の異論を挟むことは控えた。

二人を扉の前に立たせ、アーラ・アラフとモモンガは私室へと入っていった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

部屋の広さは、幅十メートル、奥行十五メートル程か。 壁、床とも仄かに香りが漂う木材で覆われており、天井には小さな光球が幾つか浮かび、部屋全体を照らしている。

 

置かれているものは、椅子、机、箪笥、本棚など実用品が殆どだ。

幾つかユグドラシル由来のマジックアイテムの存在も見受けられる。

 

アーラ・アラフは車椅子を押し、部屋に一つ取り付けられた大きな見晴らし窓の前まで行くと、一つ手を叩く。 

すると、そばに置かれていた肘掛椅子がふわりと浮き上がり、モモンガの方へと滑ってきた。

 

「かなり長い話になるでしょうから、どうぞお座りください」

 

「え……、は、はい。 これはどうもご丁寧に」

 

今まで、スレイン法国としての上位者としての威厳を保ち、時にはモモンガに強い言葉を投げつけてきたアーラ・アラフの突然の口調の変化に、モモンガもつい鈴木悟としての言葉遣いで応じてしまう。

 

モモンガが恐る恐る椅子に腰を下ろすと、再び椅子は宙を滑り、窓の前へと移動していった。

 

「この部屋は完全防音ですし、この窓は現在、外部からの視界は遮るようになっています。 つまり、ここでは演技無しで……、あくまでプレイヤー同士として話せるということ。 伴の二人を外したのもその為です。 あなたとは一度、法国の神とか、ギルドの主とか……、そう言った立場を超えて話したかった。 二人のプレイヤーとして」

 

「………そうですね。 考えて見ればあなたも……、一緒でしたか」

 

モモンガは、ユグドラシル終了の日に突如としてこの世界へと放り込まれ、その後はNPC達が期待するような主であろうと心がけてきた。 そしてそれはアルベドがいる以上、今も同じだが……、もしかしたらアーラ・アラフも同じなのではないかと気付かされた。

 

これほど、法国の民から崇拝されている存在ならば、普段から、そのイメージに沿う行動をしなければならないだろう。

 

「話す前に一つ断って置きますが、私個人としてはあなたに恨みはありません。 勿論、神都が襲われた時は頭に来ましたし、あなたの態度に怒りはしましたが、後で聞いてそれは不幸な行き違い……、というよりあの悪魔に仕込まれたものだと分かったので。それに、あなた達二人による死者は出ていませんし。 ……ただ、やはり国民は自国民を大勢殺した悪魔を恨んでいますし、それはあなたの存在を知る上層部からの、あなたへの不信感にも繋がっている。 その状況で私があなたに対して普通に接すると、法国を動揺させる可能性があったので、表面上はきついことも言わせて頂きました」

 

「そうでしたか……、いえ、私もあの時はとんでもない間違いを犯してしまう所でした。 それに感謝こそすれ、特に責める資格がある事柄はありませんよ」

 

「では、その件についてはお互い和解ということに致しましょう。 ……無論、あなたとアルベドさんが私とクリストと戦ったという件についてで、その悪魔のNPCに関しては別の問題ですが……、その悪魔の件も暴走ということで理解していますから、あなた達に責任を問うことはありません」

 

「……はい」

 

重要な懸念事項だった、昨日の問題があっさりと終りを告げたことにモモンガは拍子抜けする。

無論、アーラ・アラフの語調からして、法国の民の感情を含めた問題は別の事柄なのだろうが……。

 

アーラ・アラフが一つ咳払いをした。

 

「他ならぬあなたに言っても釈迦に説法でしょうけれど、ナザリック地下大墳墓の戦力は強大。 勿論、私も聞きかじりから部分的に知るだけですが、千五百人の侵攻者を返り討ちに出来る位ですからね。 ……少なくともスレイン法国はひとたまりもないでしょう。 上層部の面々には、混乱を避けるために強気な態度を見せていますが、冷静に判断すれば、勝ち目など無いに決まっています。 ……ですが、だからこそ私達とあなた達は強固な同盟を組む必要があると思いました。 ただでさえ絶望的なこの状況で内部の問題まで抱えてしまえば、どうしようもありませんから。 私達が助かる唯一の可能性は互いに信頼関係を築き協力する以外にはない。 私はあなたにスレイン法国の全てを話します。 だからあなたも私の話の後でアインズ・ウール・ゴウンの全てを教えてください」

 

スレイン法国の全てを話す。

そういった後、アーラ・アラフは長くなりますが、と前置きをし滔々と話し始めた。

 

そのスレイン法国の起源まで遡る物語にモモンガは黙って耳を傾ける。

 

「私は六百年前、ギルド拠点、神聖都市レインフォールと共に、五人のギルドメンバーとこの世界に転移して来ました。 ギルド名は睡蓮(すいれん)。 私のプレイヤー名は、ふらフラワーという名前でしたね。 今のアーラ・アラフは、ユグドラシル時代の名前をそのまま使うのは恥ずかしいので、転移後暫く後に改名した名前です」

 

ふらフラワー。 特に聞き覚えのある名前では無かったが、そもそもユグドラシルの全プレイヤーの中でモモンガが把握している者などほんのひと握りに過ぎない。 

 

記憶にあった方が凄い偶然か、とモモンガは思った。

 

「神聖都市レインフォールは、元々の拠点レベルが1150。 攻略時のボーナス150、それに課金で伸ばした分を含めて1800レベルの拠点でした。 ……転移して暫くは、突然の事態に混乱しながらも、かつての世界ではありえないような美しい自然と、贅沢な暮らし、それと突如意思を持ち自分たちに絶対的な忠誠を誓ってくれるNPC達に囲まれて私は楽しかった。 それまでの人生で一番……、初めて自分が素晴らしい人間になれた気がした。 ただ、ある日。 周辺への情報収集に出ていた仲間の一人が、連れてきた存在がありました。 それは……、人間の集団でした」

 

「人間……、もしかして、この世界に元々住んでいた者達ですか?」

 

「ええ、粗悪な繊維で編まれたボロ切れを身にまとって、まさに骨と皮だけに痩せていました。 アンデッドであるスルシャーナを含めた仲間達は、その人間達に同情して、拠点の中に迎え入れ、食べ物を与えましたけど……、私は拠点内に部外者を入れることに反対しました。 人間の欲なんて底が知れない。 彼らに食事を与えれば、次は服、次は酒、次は金、と際限なく増長するに決まっている。 そもそもこの世界のことを、まだまだ把握できていないのに不用意に部外者を受け入れるのは危険すぎると……。 ただそれは建前で、本音を言うと、この完成された楽園に邪魔者が入ることが受け入れ難かっただけです。 当時の私は、そのボロ切れを纏った人間達を、図々しく汚らわしい落伍者、としか思っていませんでした。 視界に入れるのも嫌なくらい。 ……もしかしたら、私のカルマ値が若干悪に偏っていたせいもあったかも知れませんが」

 

意外だ、とモモンガは思う。

現在のスレイン法国を守ろうとするアーラ・アラフの姿と、話で聞く当時の姿はとても結びつかなかった。

 

「ただ、まあ、六人の中で治癒魔法に最も長けていたのは私でしたし、他の五人からの心象をあまり悪化させるのもどうかと思い、時折彼らに関わることもありました。 その時は彼らは心からの感謝と敬意を私に向けてくるものですから……、その内、心境に変化が生まれましてね。 人間は例え悪人であれ自分を慕う者を、憎むことは難しいということでしょうか。 たまに彼らの相談に乗ったり、乏しい知恵でアドバイスしたり……少しずつ関わるようになっていきました。 仲間からは、やっとあのひねくれ者が素直になったか、とからかわれもしましたが」

 

アーラ・アラフの表情が緩む。 その時の思い出は彼女にとっても忘れ難い楽しいものだったのだろう。

 

「そしてやがて、受け入れた人間達の請願もあり、私達は周辺国家にいる人間達の保護を行うようになります。……そこで見た光景は悲惨なものでした。 男は労働者として劣悪な環境下で使い捨てられた後は、潰され食料に。 女は牧場で、若い内は狭い仕切りの中で子供を産むことのみを強要され、ある程度の年齢になれば男と同様潰される。 種付けは、男性労働者の唯一の娯楽だったようです。 そんな光景を見た私の心には、凄まじい怒りが湧き上がった。 他の種族と比べ力で劣るというだけで、私達と同じように考え、苦しむ者達がこんな目にあっていい筈がない、と。 ……その時にはこの世界の人間も、根本的には私と何も変わらない存在だと理解していましたから。 そうして他種族から奪い取るように保護した人間は十万人を超え、彼らはレインフォールの中に住まわせました」

 

「どうして、プレイヤーが現地で国を作ったのかと思いましたが……、そういう経緯があったんですか」

 

「ええ、その後、保護した人間達に六人のプレイヤーの知識を繋ぎ合わせて、この世界で生きるための知恵を教え、法を敷き、森を切り開いて農業を行わせました。 ……ただ、その時の人間は今のように魔法やユグドラシルのスキルなど使えませんでしたし、他の種族も同様。 あと、アンデッドなども存在していませんでしたね」

 

「それは……、どういうことですか?」

 

モモンガとしても、アンデッドの発生、人間が使う魔法など、ユグドラシルと同じようなシステムがこの世界にあることには疑問を感じていたが、もしかしたらその理由を知っているというのだろうか?

 

「説明はもう少し後に。時系列を辿った方が分かりやすいでしょうから。 ……私達が転移してから約三十五年後には、レインフォールの人口は爆発的に増加し、三十万人を超えていました。 これまで慢性的な飢餓状態にあった人間に十分な食料を与えてきたのですから、まあ、当然の成り行きでしょう。 それで徐々に、スレイン法国は土地不足に悩まされることになっていったのです。 特に農業用地の不足が深刻でしたね。 だんだんと、レインフォール周囲の森を切り開いたりするだけでは対応が出来なくなっていました。 一応不足分の食料はダグザの大釜で何とかしていましたが、コスト面の問題から、いつまでもそれを使うわけにも行きませんし……。 そして私は将来には更に深刻になるであろう土地不足と、かねてからの懸念を解消する為に、仲間達にある提案をしました。それは、周辺の人に害を成す他種族国家の殲滅、及び土地の奪取。 既に仲間の内、種族が人間であった五人には明らかな老化の兆候が出ていましたし、もし五人が居なくなればスルシャーナ一人で人間を守ることになる。 それはスルシャーナの手に余るのではないかと心配でしたから。 ……ただ、そこで私は思いもよらぬ反論にあいました」

 

軽快な口調で話し続けていたアーラ・アラフの声の調子が重くなる。

ここからは彼女にとって、あまり楽しい話題では無くなるのだろう、とモモンガは察した。

 

「他の五人は、例え過去がどうであれ分かり合える未来も有るはずだ。 自分達のエゴで他の種族を滅ぼすなんて許されない。 お前は個人的な怒りに囚われているだけではないか、等と私に対して非難の矛先を向けてきました。 その時は、そもそも人間を助けることを決めたのはあなた達なのに、どうして今になって尻込みするのかと怒りましたが………、多分これにはカルマ値が関わっていたと思います。 他の五人のカルマ値は善に傾いていましたが、私は逆に悪に傾いていた。 経験からすると、善は利他的、悪は利己的になる傾向があるようです。 他の五人は、他の種族のことをも慮り侵攻は躊躇ったが、私は人間さえ良ければ、他種族はどうでも良いと考えていました。 そして、依然として解決策の出ない不毛な議論に嫌気がさした私は、当時ギルドマスターであったことを利用して、拠点内のNPCを独断で動かし、周辺地域を侵略しました」

 

「それは、選択としては理解できますが……、仲間が止めようとはしなかったのですか?」

 

「私は説得などに応じる姿勢は見せませんでしたから。 仲間達が、私を止めるには最早私を殺すしかないという状況でしたが、幸い彼らにそこまでの意思は無かったようで……、短期間の内に現在の帝国、王国、聖王国、都市連合がある地域を奪取。 我々は小さな都市国家から、それなりの国土を持つ国家へと躍進しました。 ……ただ、それが大陸に居た竜達の目を引くことになってしまったのですが。 私としては更なる領土拡大を目論んでいたのですが、大陸各地から竜が集まり圧力をかけてきました。 ユグドラシルには無い強大な魔法を扱う竜達は強かった。 ギルドの拠点NPCと私個人では対抗できないと悟らされました。 仲間達はこれを好機と見たのか、竜たちに迎合して私を止めようとし、私も計画を停止せざるを得なかった。 我々は竜にこれ以上の他国家への侵攻を行わない旨を約束し、竜達もプレイヤーの力を恐れ全面戦争は避けたようとした為に停戦が成立。 それから私達人間のプレイヤーが老衰で死ぬまでは、国内は安定していました。 侵攻の件で私と仲間の間には軋轢が生じていましたが、大きな衝突までには至りませんでした。 ただ、プレイヤーと同時に人間種のNPC達も老化に伴い亡くなってしまいました。 老衰により無くなったものは、蘇生不可能がこの世界のルールなので失われた戦力は戻りません。 なら、どうして私が、今ここにいるのかという疑問はお有りでしょうが、それは、もうすぐお話しします」

 

 

モモンガの脳裏にアウラとマーレが浮かぶ。

彼らは老化を無効化する職業レベルも所得していないが、同じく老化するのだろうか。

無論、エルフなので人間よりは長命な筈だが……。

 

そこまで考えて、モモンガは既に自分は追い出されたナザリックの未来を考えていることに可笑しさを感じる。

だが、やはり仲間が望まない方向にナザリックが行ってしまおうとしている今も、モモンガにとってアウラとマーレはぶくぶく茶釜が楽しそうに作っていた、仲のいい兄弟だ。

 

自分はナザリックを止めたい。 

だが、やはりナザリックに対する思いを捨てることは出来ないのだろう、と心のどこかで気がつかされた。

 

「私達の拠点NPCの構成は、設立当初のメンバーだった、スルシャーナを除く五名が二体ずつの……所謂ガチビルドの戦闘要員を作成。 その後、共同で二体の百レベルNPCを作成したので、百レベルは計十三体。 ただ……、総合的な能力を追求しようとすると、どうしてもビルドが偏りますよね」

 

モモンガは少し考え込むが、直ぐに納得した。

 

「強いキャラを作るなら、人間種のNPCにして、職業レベルのみで構成することが基本。 尖った性能を持つキャラを作ったりとか、ある程度性能を犠牲にしてロマンを追求したりとかでもない限り、異形種は避けるでしょうね」

 

逆に言えば、全NPCの殆どが異形種で構成されるアインズ・ウール・ゴウンはロマンを追求……、言い方を変えればネタビルドを好む者達の集まりだった訳だ、とモモンガはつい笑いそうになってしまう。

 

「そう、それで戦闘要員としてのNPC達も殆どが老衰で亡くなってしまい、ギルドは大幅な戦力ダウンを余儀なくされます。 当時、私達が居なくなった後のギルドを背負うスルシャーナに残されていたのは、異形種で作られた数少ない百レベルNPC、あと、ギルドの雰囲気を出すために作ったレベル三十~五十あたりの合計レベル600のNPC達の多く。 彼らは戦闘要員が人間種ばかりだった反動で、異形種が多かったので。 後はスケルトン・メイジのマジックキャスターだったスルシャーナがユグドラシル時代、経験値消費スキルで作成した三体の悪魔、そして傭兵NPC達となりました。 

……そして周りに親しい人間である私達が居なくなったスルシャーナは一人で国を運営していくことになります。 ……記録によるとスルシャーナに対する反発がこの頃から少しずつ増え始めたようです。 ……それを聞いたときは、やはりか、と思いました」

 

アーラ・アラフはモモンガの様子を伺った後、言葉を続けた。

 

「スルシャーナはカルマ値は善に傾いていたので、無闇に人間を害そうとはしませんでしたが、やはりアンデッドになり人間とは感覚がずれてしまっていました。 人間の生理的な感情に共感出来ない、と言いますか。 感情を無視して、合理のみで物事を判断してしまうことが多かったですね。 ある人の葬式が行われているのを見て、"人はいずれ死ぬ。 あんな大げさな儀式で大勢の人の時間を無駄にする必要があるのか"、などと言い出したり……。 私達、仲間のプレイヤーが生きていた頃は、それを諌めることで、スルシャーナも知らず知らずの内に人と感覚がずれていたことを自覚していたようでしたが、私達の死後は、主のすることを肯定しかしない拠点NPCと過ごすことが多くなり、徐々に人間との感性のずれが無自覚になっていったということでしょうね。 あくまでも推論ではありますが。 そして国内に徐々に不満が溜まり出したとき、新たにこの世界に転移してきた者達が八欲王と呼ばれる八人のプレイヤーでした。」

 

その後、アーラ・アラフはここからの話は推論と記録のみとなるが、と断った。

孤独に一人残されたアンデッドと、新たに現れた八人のプレイヤー。

話の舞台は次の時代へと移り変わってゆく。

 

 

 


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