LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり

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第三話 臆病な騎士と、決意の王

(んっ、痛いな)

 

頬の下に固い地面の感触を感じジルクニフは意識を取り戻した。

恐る恐るまぶたを開けると、滲んだ視界の中にぼんやりとした光が見えた。

 

「これは・・・、光る石か?」

 

どうやら、ここは周りを岩に囲まれた洞窟のような場所らしい。

 

壁面の所々から鋭い透明な石が突き出ており、それが光を放っているようだ。

 

(ドワーフの都市では光る鉱石を照明として使っていると聞いたが、それがこれか? 

《コンティニュアル・ライト/永続光》で光る石は見たことがあるが、人工的な物には見えない)

 

だとすれば、ここは、あの扉の地下か何かなのだろうか。

だがパルミナ周辺で光る鉱石が産出されるなど聞いたことが無い。

 

もし、こんなものが大量に採掘できるなら商人が放っておかないだろう。

 

この鉱石を利用すれば便利な照明道具が安く作れそうだ。

《コンティニュアル・ライト/永続光》の照明は、それなりに高くつくし・・・。

 

(ちっ、思考を脇道にそらしている場合じゃない。 今はここからの出口を探すことが先決だ。 一旦、深呼吸をするか。 じいも危機に陥ったとき最も重要なのは平常心と言っていたからな)

 

後ろ手を縛られている状態から足の力を使い立ち上がる。

 

大きく息を吸い込みゆっくりと吐いた

それを数回繰り返すと、皮膚の内側からつつかれるような、体のざわめきが少し収まったのを感じる。

 

周りを見渡す余裕が出てきた。

 

今、ジルクニフが立っている場所は洞窟の中でも袋小路になっているようだ。

二十メートル程先を見てみると、人が一人通れるくらいの細い出口がある。

 

出口からは強い光が入ってくるため、ここからはその先を見通すことは出来ないが、脱出の為にはあそこへ行ってみるしかない。

 

(周りの壁は自然の洞窟そのままのようだが・・・。 全く人の痕跡が見られないわけではないな)

 

そう思いながらジルクニフが見下ろしている地面には、大きな円の中に八つの角がある星のような図形が彫られている。

自然にできた物にしては形が整い過ぎていた。

 

この洞窟に住み着いていた、あるいは住み着いている何者かの手によるものだろう。

問題はそれがどの種族かということだ。

 

基本、人間は地下になど住まない。

 

洞窟に住まう種族は幾つかあるが、一番マシなのがドワーフだろう。

オーガやゴブリンなど野蛮な人食い種族とは異なり、文明的な社会を持ち高い技術レベルを保持している種族。

 

帝国とも友好関係にあるし、ジルクニフが次期皇帝だと説明すれば身柄を保護してもらえる可能性が高い。

 

(まあ、この推測は都合が良すぎるか)

 

ドワーフの鍛冶職人の腕の良さは有名だが水晶宮を作るほどの技術を保持している訳がない。

なにせ水晶宮は、世界でも最高のマジックキャスターであるフールーダが全力を挙げて研究しても、何一つ成果を得られなかった程の未知の塊なのだから。

 

今まで膜に吸い込まれた人間が一人も帰還していないことを考えると、人間に敵対的な種族の縄張りである可能性が高い。

 

「とりあえず、この縄をどうにかしなければな・・・」

 

軽く手に力を込めてみる。

 

全く手首が動かないほど、きつく縛られてはいないようだ。

だが、手首を回してみても抜ける気配はない。

 

一応、懐に護身用のナイフは入っている。

魔法が付与されている高価な物で刀身は電気を帯びている。

 

軽く触れただけでも電気のダメージは与えられるため、王族の嗜みとして軽く護身術を習っただけのジルクニフでも、暴漢程度が相手ならば有効に戦えるはずだ。

 

もし相手が戦闘訓練を積んだプロならば、ナイフで触れる間もなく息の根を止められるだろうが。

 

ジルクニフはナイフの他にも、常に着用者の周囲を快適な気温にするマント。毒を探知し一日一回まで傷を治す一角獣の指輪など高価なアイテムを保有している。

 

だが、それらはグロック卿に奪われることは無かった。

 

グロック卿の貴族としてのプライドが追剥のような行為に抵抗を感じさせたという理由もあるだろうが、もしジルクニフから奪ったアイテムを保有していることが露見すれば暗殺の決定的証拠となってしまう、という理由の方が大きいだろう。

 

流石に帝国に伝わる至宝、精神防御のネックレスなどであれば、そのリスクを負ってでも奪っていただろうが、あれは紛失防止の為余程の事がなければ持ち出さない。

 

 

だがナイフを持ち込めた所で、手を縛られていては使えない。

 

焦りを覚えつつ周りを見渡すと、先ほどの光る鉱石が目に入った。

 

(これはかなり鋭いようだし、もしかしたらナイフの代わりに使えるかもしれん)

 

背中に刺さらないようにゆっくりと近づき、縄を鉱石にあててみる。

脆いものではないようで、強く力をかけてみても壊れる気配はない。

 

(縄を切るのは難しそうだが、この先端部分で結び目をほどくことが出来れば・・・)

 

無理な体勢でも作業に悪戦苦闘しながら、十分程が経過。

 

運が良かったのか、なんとか縄をほどくことに成功した。

 

「ふぅぅ、や、やった」

 

袋小路の出口から、今にも恐ろしい怪物が入ってくるのではないかという緊張の中の作業。

 

普段使わない筋肉を動かしたことで腕がつりかけているが、それ以上に精神的な疲れも大きかった。

 

少し休んだ後、ジルクニフは懐からナイフを取り出し出口へと歩く。

 

(モンスターに出くわしたりすれば、まず助からん。 極力隠れながら進まなければ)

 

足音を殺しながら、ゆっくりと進んでいく。

 

「ん、んがっ。 固っ、なんだ?」

 

進んでいく・・・途中で、後ろから間抜けな声が聞こえてきた。

 

先程ジルクニフも横たわっていた図形の中。

眠そうな目をしばたたかせているバレットが転がっていた。

 

徐々に目が慣れてきたバレットは数メートル先に立っているジルクニフに気が付く。

バハルス帝国次期皇帝。 先程自分が保身の為に裏切った存在。

 

その手にはナイフが握られていた。

 

まだ起きたばかりでジルクニフ以上に状況を把握していないバレットだが、本能が働いたのかナイフを見て顔を青くする。

 

ジルクニフが一歩ずつバレットの方に近づいて来た。

 

「ひぃぃっ。 い、いや、実はさっきのは裏切るふりをして、相手の懐にもぐりこんでですね、それで・・・」

 

咄嗟の言い訳にもジルクニフは歩みを止めることはない。。

ジルクニフはバレットの近くにかがみ、ナイフを近づけてきた。

 

バレットは思わず目を瞑ってしまうが、予想していた痛みは無い。

 

縛られていた手に、縄の感触を感じなくなり、ゆっくりと目を開けると地面に、切られた縄が落ちていた。

 

「ど、どうして?」

 

てっきり怒りに任せめった刺しにされるものと考えていたバレットは、ジルクニフの真意を測りかねた。

 

「相手の懐に潜り込んでね・・・、まあ信じがたいが、今回はそういう事にして、裏切りは無かったことにしよう。 そんなことを追及している場合でもないからな。 どのみち、ここを出なければ二人とも助からん」

 

「で、出る? ここは一体どこなんですか?」

 

「私にもわからん。 どんな目的で作られたのか、どんな怪物が潜んでいるかもな。 ・・・お前は、コネで護衛団に入れたと言っていたが、全く剣が使えないわけではないんだろう? 流石に、明らかに護衛団の足を引っ張るような、ただの新兵をコネだけでねじ込めるはずが無いからな」

 

「一応、実家は貴族なので、幼いころから剣の修行はしていました。練習試合ですが、銀級冒険者の剣士に勝ったこともあったので自信はあったんですけど・・・」

 

ジルクニフは少し驚いた。

 

「銀級に勝ったのか。 なら、それなりの腕は持っているという事だな。 どうして最初に屋敷の便所に逃げ込んでいたんだ?」

 

「あれはですね、隠れつつ反撃の機会を」

 

「そういうのは、もういい。 ここを出た後で罰したりはしないから教えてくれ」

 

バレットは軽く下唇を噛むと意を決したように、打ち明け始めた。

 

「本当に殺し合ったりとか、オレには無理なんですよぉ。 実家が、軍人を多く輩出している家だから、オレも昔から、軍人になるために育てられましたけど、騎士団に入って初めての街道警備でゴブリンとオーガの集団と闘ったときに気が付いたんです。 オレは本当は、根っからの臆病者だって。 命など賭けていない、練習試合でいい成績を残したからって、いい気になってただけ。 オレにはきっと戦うための何かが、根本的に欠けてるんです」

 

「・・・」

 

「結局、その戦闘は後ろの方で震えているだけで、何も出来ませんでした。 でも軍を辞めたら、家にもどこにも帰る場所が無いので、出来るだけ戦う機会を少なくしようとして、コネを利用し護衛団に入ったんです。 なにせ次期皇帝を襲おうなんて奴はそうそう居ませんし、いても四騎士の人達が何とかしてくれますから」

 

「だがそうは、いかなかった」

 

「はい。まさか四騎士が裏切るなんて思ってもいませんでしたよ」

 

バレットは俯いていた顔を上げ、ジルクニフと目が合う。

しかし、そこには軽蔑の視線は無く、燃えるような強い意思に満ちた瞳があった。

 

「お前のことはよく分かった。 しかし、今ここではお前は一番頼りになる戦力だ。 過去はどうでもいい。 力を貸せ」

 

「・・・分かりました。 どうせ生きて帰れないでしょうしね。 こんな狭い場所で、動かずに飢え死にするよりは、いけるところまで行って死ぬ方がまだしもいい。まあ、殿下と一緒に死ぬ騎士なんて、ある意味大出世ですね・・・。父さんあたりは大喜びしそうですよ。 でも伝えられないから無理か」

 

ジルクニフは、再び袋小路の出口へと歩き出した。

 

「伝えればいい。 私は、まだ生きているし、お前もまだ戦える。 お前に、私の為に剣を振るい、命を捨てろなどとは言わん。 大体、お前が命令を聞かなかったところで、ここでは与えられる罰など何もないしな。 だから・・・、必要ならば私を見捨てろ、お前は自分が生きる為に剣を振るえ。 国民の事も、私の事も、もう考えなくていい。 そんなものより自分の命の方が大事なのだったら、それを全力で守ればいい。 ただ、生きて帰ることが出来たら、フールーダにグロック卿が、私を暗殺したこと、次期皇帝は第三皇子を指名することを伝えてくれ。 正直言ってアイツには能力的に不安があるが、私の実の弟、第二皇子よりはマシだろうからな」

 

「・・・そんなこと言ってもいいんですか? オレは、ゴブリン達との戦闘と、今回の襲撃で、自分の臆病さと卑怯さを嫌というほどに知ってしまった。 身が危なくなれば、本当に殿下を見捨てますよ」

 

「良い。 ただでさえ、未知の危険が溢れる場所だ。お前が私という足手纏いを抱えていくのは、きっと限界が来る。 共倒れになるくらいならば、私が囮にでもなって、お前が生還し情報を持ち帰る確率を増やす。 それが、皇族としての役目を最大限果たす方法だろう」

 

バレットは自分以外誰にも聞こえない、小さな声で呟いた。

 

「役目、か。 わかりませんよ、そんなもの。 あなたが自分で望んで得たものでもないくせに・・・」

 

二人が出口をくぐると、視界が光に満たされ一瞬白く染まった。

 

 

 

 




オーバーロードも、マギも、かなり練りこまれた世界観を持つ作品なので、それをすり合わせていくのは難しいですね・・・。

辻褄を合わせる為に、独自の設定を追加することもありますが、出来るだけ自然に融合させていきたいと思います。
オリキャラも、登場しますが、ストーリーは概ね原作キャラ中心で進めていきます。

誤字、脱字などを見つけましたら、感想欄で指摘して頂けると嬉しいです。

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