LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり

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第二十話 虹色の蛇

冒険者組合の2階にある会議室。

 

そこには今、冒険者組合長プルトン・アインザックと魔術師ギルド長テオ・ラケシル。

そして、クラルグラのメンバーとモモンガ達三人がいた。

 

彼らは昨夜のアンデッド襲撃に最も早く対処した冒険者として、聞き込みの為に招集されていた。

 

「それで、アインズ殿達が最初の巡回を終えた後に、アンデッドの大群が西門を襲撃したわけだね」

 

「ええ。 そして、私達がそのアンデッド達の対処に当たっている間に、他の場所で城壁が破壊されたようです」

 

「俺もその時の音は聞いたぜ。 まるで巨大な鉄球でもぶつかったような・・・、多分少しずつ城壁を削っていったってよりは、とんでもない力で無理矢理ぶち抜いたんだと思うな」

 

「しかし、そんなことが可能なんて、どんな化物だって言うんだ?」

 

モモンガは、慎重に考えながら話している。

昨日あの墓地で出会った女のことは、考えた末、黙秘することにした。

話した場合、あの女の情報を手に入れられる可能性があるというメリットはあるが、もしもこの部屋にいる誰かがあの女、もしくはその背後にいるかもしれない組織と繋がっていた場合、虎の尾を踏む結果になりかねない。

 

「それに墓地の中に大量のアンデッドが出現した理由も気になるな。 自然発生の数じゃ無いし・・・。 ラケシル、魔法か何かでアンデッドを召喚する事は出来ないのか?」

 

アインザックが、エ・ランテルの魔術師ギルドを束ねるラケシルに尋ねた。

 

「無理、だな。 思い当たるとすれば、《クリエイト・アンデッド/不死者創造》だが、一日で数百体のアンデッドを作るのは不可能だ。 もし墓地のどこかに大量のアンデッドを隠しておける場所があったとしても、あれ程大量のアンデッドを大人しくさせておくことは無理だな。 それについては、死霊術師であるアインズ殿もよく知っているだろう?」

「えっ」

 

まずい、とモモンガは冷や汗をかいた気がした。 骸骨は汗など流さないので、気がしただけだが。

 

(落ち着け、この世界の魔法はユグドラシルの物とほぼ同じみたいだし、ユグドラシル基準で考えてみるか)

 

確か《クリエイト・アンデッド/不死者創造》の魔法では、作成できるアンデッドの数に限りは無いが、作ったばかりのアンデッドは野生のものと変わらず、命令は出来ない。

もし作ったアンデッドを支配下に置こうとすれば、ネクロマンサーのスキル、アンデッド操作かトゥルー・ネクロマンサーの職業レベルを上げて、アンデッド操作を進化させたスキル、アンデッド支配などを使う必要がある。

 

そのスキルで、数百のアンデッドを支配するのは・・・、アイテムの力を使えば出来ないことは無いが骨が折れる作業だろう。

 

「ええ、《クリエイト・アンデッド/不死者創造》で作成したアンデッドを数百体も集めるのは難しいでしょうね。 ただ・・・、前に本で読んだことがあるのですが、第七位階に《アンデス・アーミー/不死の軍勢》という低位のアンデッドを大量に召喚する魔法があると聞いたことがあります。 もしかして、それが使われたのでは?」

 

モモンガの発言に、ラケシルが一瞬目を丸くし・・・、笑い声を上げた。

 

「はははは、いや、アインズ殿。 流石に第七位階魔法などというのは発想が飛躍しすぎですよ。 帝国にいる、かのフールーダ・パラダインは第六位階に到達している、とは聞きますが、第七位階とは、200年前に存在した魔神が使用したと語られるだけだ。 ・・・ただ、《アンデス・アーミー/不死の軍勢》といったね。 第七位階魔法の名前が記された本が存在するとは―――ぜひ私も読んでみたいね」

 

ラケシルの目が鋭く細められる。

その顔は、一途に魔法の知識を追求し続ける魔術師のものだった。

 

「い、いえ。 その本は、私の故郷のある施設に保管されているものですので、恐らく無理かと」

 

「そうか・・・。 まあ、そんな本は国宝級のものだろうしな。 現地の魔術師達が厳重に保管してあるのは当然か。 そうだ! アインズ殿、魔術師ギルドに加入しないか? あなた程の実力者を銅級から始めさせるような冒険者組合とは違い、魔術師ギルドは実力重視。 君ならすぐに、相応の地位を得られるだろう」

 

「ちょっと待て! ラケシル。 俺の目の前で、冒険者を引き抜こうとするな。 あー、アインズ殿、アルベド殿、セバス殿。 冒険者組合でも、今回のアンデッド襲撃で果たしたあなた達の働きを評価して、白金級への昇格を決めたのだ。 私達、冒険者組合も君達の実力を高く評価しているよ」

 

「本当ですか? そうしてくれるとありがたいですが」

 

「いきなり白金かよ・・・。 まあ、実力的には分不相応ってわけでも無いが」

 

これから暫くは、墓地の巡回などの退屈な仕事をして行かなければならないのか、と思っていたモモンガは素直に喜ぶ。

イグヴァルジは一瞬不愉快そうな表情を浮かべたが、モモンガ達の実力を思い出し、それ以上の発言はしなかった。

 

(第七位階で、実在さえも確認できない領域とは・・・。 じゃあ、昨日の女は現地のものとは違う勢力である可能性がいよいよ高いか? それともう一つ、魔神使い、とやらについても聞いておくか)

 

「ところで・・・、これは墓地の件とは関係ないのですが、魔神使い、という言葉を知っていますか?」

「へっ? まあ知っているが・・・アインズ殿は知らないのかね」

 

アインザックは、軽く驚きの表情を浮かべた。

 

「ええ、私の前にいた国では聞いたことがないもので」

「そうか・・・。 じゃあ、簡単に説明しよう」

 

アインザックは一つ咳払いをしてから話し出す。

 

「魔神使い。 とはその身に魔神の力を宿す人間、もしくは亜人のことだな。 私が知っている限りでは、この国の戦士長ガゼフ殿。 新王国のラナー将軍。 バハルス帝国のジルクニフ皇帝。 後、竜王国を襲っているビーストマンの長もそうだと聞いたことがある」

 

「ほう・・・、その魔神使いというのはどのような事が出来るのですか?」

 

「うーん。 まあ、人によって違うそうだが、ガゼフ殿は炎を操ることが出来るそうだな。 それに、新王国のラナー将軍の森落としの逸話は有名だ」

 

森落とし、の言葉を聞いてラケシルが会話に割り込んできた。

 

「私も聞いたことがあるぞ。 新王国は当初、ザナック王子、ラナー王女と共に離反したレエブン侯の領地と、その周辺の貴族の領地を占領していただけだったんだ。 ただ二年程前、隣接しているブルムラシュー侯の領地に侵攻を開始。 迎え撃ったブルムラシュー侯の兵士の軍勢の上に、大量の木を出現させて、あっという間に制圧してしまったんだ。 噂では、近くの森を丸ごと転移させたんだとか」

 

「森を丸ごと・・・」

 

モモンガは衝撃を受ける。

ユグドラシルの転移魔法では、そのような離れ業を行えるものはなかったはずだ。

 

「ああ。 人間の限界を超える神の如き力を振るうもの、だから魔神使いというわけだ。 迷宮を攻略した、数万人に一人の傑物たちだな。 ・・・実は私も、迷宮に入ることは何度も考えたが、その勇気がどうしてもでなくてね」

 

ラケシルは、そう話しため息をつく。

アインザックもラケシルに同調した。

 

「まあ、もし迷宮を攻略すれば、一夜にして世界を変える力を手に出来るからな・・・。 ただ、王国のアダマンタイト級冒険者チーム、朱の雫も全滅したのだ。 攻略の可能性は限りなく低いが」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。 迷宮、というのはどういうことですか?」

 

「ああ、それも話さないといかんな。 今、王国にも一つあるが、魔神の力が眠る建造物のことだ。 その中に入り、試練を乗り越えれば魔神の力を手に出来ると言われている。 そして、数多の財宝や魔法道具もな」

 

(要するに、魔神使いの力っていうのは、ユグドラシルでいうダンジョンの攻略特典のようなものなのか? もしかしたら、昨日の女もそれと関係があるのでは・・・これはナザリックでも攻略を検討するべきか?)

 

「その・・・、迷宮っていうのは誰でも入ることが出来るのですか?」

 

アインザックが頷く。

 

「ああ、人間から亜人まで制限はない筈だ。 あー、だけど自身の魔獣を連れ込もうとした冒険者がいたけど、魔獣のほうは、迷宮の入口となっている黄金の膜に触れても入れなかったと聞くな。 それに動物も不可能だとか。 まあ、よく考えた方がいい。 もし攻略に失敗すれば、二度と戻れん。 今、王国にある迷宮も既に二万人以上を飲み込んだそうだ」

 

「そう、ですか」

 

ならば、異形種はどうなのだろうか。

動物や魔獣とやらがダメということは、もしかしたら入れない可能性もある?

なら、人間や亜人の傭兵NPCを召喚して、攻略させるのは?

 

モモンガはいくつかの選択と可能性について考えた。

 

「だが、魔法道具だけでも十分に凄いがな。 空を飛べる絨毯だったり、美味い酒が幾らでも湧く壺だったり。 ボンクラ貴族共めが。 そんな貴重なアイテムを山賊などに・・・」

 

「お、おいっ」

 

アインザックが慌てて止めようとするが、モモンガ達やクラルグラに、もう既に聞かれてしまったことを悟り、話し出す。

 

「いや、今言ったとおりなんだよ、クラルグラの諸君にアインズ殿たち。 ガゼフ殿が、迷宮から持ち帰った数々の魔法道具はガゼフ殿が迷宮を攻略した際、既に戦士長だったことから、国家の所有ということになったんだ。

それを貴族たちが自分の権限を利用して好きに持ち出してしまってね。 何しろ魔法道具は誰でも使用できるから、戦闘の素人でもそれなりの強さを手軽に手に出来る。 だけど、それで調子に乗った若い貴族が、魔法道具を見せびらかして、結局盗賊に奪われた例がかなりあってね。 エ・ランテル周辺で起こった盗賊による略奪事件でも、炎をガントレットから打ち出す魔法道具が使用されたという情報がある」

 

「炎を打ち出すガントレット・・・」

 

アインザックの言葉を聞いたモモンガは、カルネ村でエンリから聞いた村を襲った盗賊の話を思い浮かべた。

 

それから、アンデッド襲撃についての話題へと戻り、約三十分後、会議は一通り終わる。

 

最後にアインザックが、モモンガに話しかける。

 

「白金のプレートは、帰りに受け取って行ってくれ。 それと、これからも三人で行動するならチーム名を考えていたほうがいいと思うぞ」

 

「チーム名、ですか?」

 

「ああ、冒険者として有名になってくれば、君達を名指しで依頼する者も出てくるだろうからな。 その時にチーム名があった方が都合がいい」

 

ふむ、どうしようか。

モモンガは候補を考えようとするが、心配事を抱えすぎている為か、すぐには思い浮かばない。

 

まあ無理に自分で考えることもないか。

 

「アルベド、お前が考えてくれ」

 

「わ、私がですか? ですが、そのような恐れ多い・・・」

 

「いや、そう難しく考えるな。 思い浮かんだ物を言ってくれればいいさ。

ああ、アインザック殿。 実はこの二人は、かつて私の家に使えていた部下達でしてね。

家が没落したあとも、私を主のように思ってくれているのですよ」

 

モモンガはアルベドの態度に怪訝な顔をした部屋の中にいる者たちに聞こえるように話す。

やはり、どうしても二人が抱くモモンガへの敬意を隠すことなど出来ない。 ならばいっそ、そういう設定にすればいいと、宿で考えてきた台詞だ。

 

「で、では・・・」

 

アルベドは俯いて、30秒程考える。

 

そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「虹色の蛇、というのはどうでしょうか?」

 

「虹色の・・・? ああ! なるほどな。 いいじゃないか」

 

「ほ、本当ですか?」

 

虹色の蛇、それはギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのデザインを指している。

 

(この名前を有名にすれば、もし他のギルドメンバーがこの世界に来たときも、気づいてくれるかも知れないしな・・・。 ふふ、やはりアルベドに任せて良かった)

 

「ああ、とても素晴らしいと思うぞアルベド」

 

モモンガは思いの他、このチーム名を気に入ってしまった。

 

「ではそういう事で頼む、アインザック殿。 さあ、今日は一旦宿屋に帰るか。 いや、そういえばリィジーさんがお礼をしたいから、薬品店に寄ってくれと言っていたな」

 

三人は階段を降り、冒険者組合を出る。

 

そして、バレアレ薬品店へと歩くモモンガの後ろ。

鎧の中でアルベドが、恍惚として笑みを浮かべた。

 

(ああっ、モモンガ様・・・。 やはり貴方は私の心を理解なされておいでなのですね。 ギルド武器は、ギルド長である貴方にしか使えない武器。 私がチーム名に込めた、ギルドなどではなく貴方だけに仕えたい、という告白をモモンガ様は素晴らしいと言ってくださった・・・)

 

この時モモンガの頭の中は、この世界にいるかもしれない他のプレイヤー、魔神使いと迷宮。

そして、これから貰えるというお礼のことで一杯だった。

 

(お礼、か。 もしかしたら、この世界の珍しいアイテムでもくれるのか? まあ、役に立つかは置いておいて、冒険者としての、初の大仕事の記念の意味でもコレクションに入れるとしよう。 ああ、そうだ。 カルネ村を襲った盗賊が魔法道具とやらを所持しているんだよな。 昨日あの女が、装備による火属性耐性を突破した理由も気になるし、一つサンプルに欲しいな・・・)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「しかし、アインズ・ウール・ゴウンか。 何者だと思う?」

 

冒険者達が去り、アインザックとラケシルの二人だけになった会議室で、アインザックが尋ねる。

 

「うーむ・・・。 少なくとも、第三位階の魔法詠唱者で、国宝級の書物を読む機会があった者なのだろう? 物腰も教養を感じさせるし、高度な教育を受けてきた、かなりの地位にいる人物だったのでは?」

 

「だろうな。 仲間の二人は、かつて自分の家に仕えていたと話していたし、平民では無いのだろう。 いや、あれ程の実力者が未だに忠誠を誓っているのだ、もしかして・・・」

 

「王族、とかか?」

 

ラケシルは、自分で言った王族、という言葉がやけに真実味を帯びている気がした。

確かにそう考えれば、色々と辻褄があうが・・・。

 

「まあ、いずれにせよこれからだな。 虹色の蛇、か。 もしかしたら、いつか英雄と呼ばれるような存在になるかもしれん」

 

アインザックは会議室の窓から、組合を出て通りを歩き去っていく、モモンガ達を眺めた。

 

 

 


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