LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり

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第十六話 陽動

薄く霧のかかる墓地の奥。

地形の起伏を超えて、多数の影が見えてきた。

 

「やはり、門を抜けようとしてくるか」

 

イグヴァルジは、暗闇に目を凝らし接近してくるアンデッドを確認する。

現在のアンデッド達との距離は約二百メートル。

見えるだけでも、40体近くのアンデッド達が、生ある者を滅ぼそうと、都市へ向かい押し寄せていた。

 

「どうだ、イグヴァルジ?」

野伏としてチームの目を務めているイグヴァルジに、ブラウンが質問する。

 

「スケルトンにゾンビが多いが、武器を持ってるのも、ちらほらいるな。 それに・・・、ありゃ、食屍鬼(グール)内蔵の卵(オーガン・エッグ)だ。 少し厄介なアンデッドも混じってやがる。 エルダーリッチは、まだ見当たらない」

「マジかよ・・・。 こんな街中に、そんなアンデッド達が出現するなんてどうなってやがる。 自然発生の数じゃねえぞ」

「もう少し近づいてから、攻撃を開始する。 アンデッドには牽制は無意味だからな。 おい、アンタらのチームの役割分担を教えてくれ」

 

「私が魔力系の魔法詠唱者で後衛。 セバスはモンク、アルベドは戦士で前衛だ」

「よし、距離が百メートル近くになったら俺とアンタで攻撃を始めるぞ。 ・・・3、2、1、今だ!」

 

掛け声と共にモモンガは魔法を発動した。

 

《ファイヤーボール/火球》

 

まっすぐに飛翔した火球が着弾し、アンデッド達の集団の中で爆ぜた。

猛烈な炎が、半径5メートル程の範囲に広がり、その中にいた4体のアンデッドが消し炭となる。

 

イグヴァルジは、弓に矢をつがえると叫んだ。

 

「《戦気梱包》」

 

矢が白く光ると、夜闇を切り裂くように飛んでいき、食屍鬼(グール)の頭に突き刺さる。

その一撃で、食屍鬼(グール)が倒れた。

 

(なんだあれは? イグヴァルジが何かを叫んだと同時に、矢が光った?)

 

「俺が、ゾンビ系の厄介なアンデッドを相手する。 アンタは、武器を持ったスケルトンをやってくれ」

「分かった。 アンタじゃ分かりづらいからアインズと呼んでくれ。 ・・・ところでさっきのは何だ?」

 

「あん? 《戦気梱包》 ―――なんのことだ?」

「その"せんきこんぽう"と叫んでから、矢が光る現象だ」

 

モモンガは野伏のスキルに詳しい訳ではないが、"せんきこんぽう"などというスキルは聞いたことはない。

もしかしたら、この世界特有のスキルか、或いは特別な技術、という可能性もある。

 

「はぁ? アインズ、アンタ武技も知らねえのか? いや、今まで魔法の修行ばかりしてきて、最近、実戦を始めたとかなら分からんでもないが・・・、幾ら魔法詠唱者でもそれは拙いぞ。 戦士にとっての魔法のようなものだからな、後で仲間にでも聞いとけ」

 

―――この世界の戦士が使う、特殊な技術なのか?

モモンガは、もっと詳しく聞きたかったが、流石に今は無理だろう。

 

武技、か。 警戒する必要があるな。

そう思いつつ、モモンガは《ファイヤーボール/火球》でアンデッドを焼き滅ぼしていった。

 

モモンガ達の遠距離攻撃で、アンデッドの数は減らされているが、それでも西門に20体程のアンデッドが接近している。 しかも、次々と新手のアンデッドもその姿を現していた。

 

「大丈夫だ。 遠距離攻撃を使うアンデッドは近寄っていねえ。 アインズ、近くのアンデッドを片付けてくれ。 やばいアンデッドが出現したら知らせる」

「承知した」

 

イグヴァルジが、遠距離からアンデッドを削り、モモンガが近づいてきたアンデッドを始末する。

壁の上に、恐る恐る登って来ていた衛兵達は、その様子を見て歓喜の声を上げた。

 

「い、いけるぞ。 エルダーリッチだって、この人達なら!」

 

イグヴァルジは、その声を聞き、誇らしい気持ちが溢れる。

 

「さあ、行くぜ! こいや、アンデッド共」

 

―――戦闘を始めてから、十分程が経過しただろうか。

未だ、エルダーリッチは姿を見せていないが、新手のアンデッドはもう途切れたようだ。

他の冒険者はまだ来ていないが、付近から、警備兵の増援が集まりつつある。

 

「・・・何か、おかしいですね」

 

セバスが、何かを案ずるように呟いた。

 

「どんなことだ?」

 

モモンガの質問に、あくまでも勘となりますが、と前置きしてセバスは自分の感じた違和感について話し始めた。

 

「いえ、先程から途切れることなくアンデッドがやってきていますが、なぜ少しずつ現れていたのでしょうか。ブラウン殿が自然発生とは考えにくいと言っていましたが、もし何者かが都市を攻撃する意図を持って召喚しているのなら、一度に全ての戦力を投入した方が、門を突破できる可能性は高いはず。 これでは、まるで我々を釘付けにするのが目的だったような・・・」

 

「面白い推測だが、これだけの戦力を時間稼ぎに投入できるような奴がいるか? それに、そんなことをして一体何をするつもりなんだ? まあ、もうすぐ俺のチームメンバーが来る。 合流したら、もう門の上で待っていても埓が空かなそうだし、こちらから探しに行こうぜ」

 

そして、目に見える範囲のアンデッドは掃討されたが、いつ新手が来てもいいように門の上からイグヴァルジは目を光らせる。だが急に目線が動かなくなり、その姿勢のまま、黙り込んでしまった。

30秒程経過したあと、ゆっくりとイグヴァルジは口を開く。

 

「セバスって言ったっけ爺さん。 今、仲間から《メッセージ/伝言》が来たがアンタの予想は当たっていたみたいだ。 警備兵達も聞け! 墓地の壁が・・・突破された。 今、内周部にアンデッドの大群がなだれ込んでいるらしい」

「内周部に!?」

「う、嘘だろ?」

 

兵士達が、悲鳴のような声を上げる。

内周部は市民達に開放されている、いわば居住区。

警備兵達の家族も、そこに住んでいるのだから。

 

「いや・・・、でも、門ならともかく、この城壁を突破だと? どんな化け者だよ!」

「知らねえよ、そんなの。 とにかく、援軍を回してくれ」

「で、でも、またアンデッドが来るかもしれない」

「既に都市の中に大群が入ってるんだぞ! そっちが優先だ」

 

不測の事態に、警備兵達は混乱し身動きが取れなくなっている。

 

(一体、何が起きているんだ?)

 

混乱しているのは、実はモモンガも同じだが仮面により―――いや、仮面が無くとも骸骨の顔では表情など無いだろうが―――周囲にその内心を悟られることはない。

 

一旦、イグヴァルジ達や警備兵から遠ざかると、出来るだけ音量を抑えた声でモモンガは言う。

 

「アルベド、セバスよ。 今の事態について、お前たちの考えを言ってみよ」

 

モモンガにとっては、半ば苦し紛れにでた言葉だったが二人にとっては全く違う風に捉えられる。

 

(私達に参考意見をお求めに・・・? いえ、きっとモモンガ様は、既に全てを看破された上で私達を試していらっしゃる! ここは、全身全霊をかけて考えなくては)

 

暫くの沈黙。

口火を切ったのはアルベドだった。

 

「このアンデッドは、自然発生したものではなく何者かが召喚したもの、という前提で考察しますと、最初に門に押し寄せたアンデッドは陽動。 本命は、城壁を壊し直接、城壁の中へアンデッドを送り込むことだった、と思われます」

 

「ふむ、しかしなぜそんな面倒なことを? これだけのアンデッドを召喚するとしたら、第七位階の《アンデス・アーミー/不死の軍勢》の可能性が高いが・・・。 それなら、都市の中で発動させた方が、早いだろう。 この世界では墓地の中でしか発動出来ないなんてルールがあるなら別だが」

 

「もしくは、この事態を引き起こした者は、あくまでも自然発生が原因ということにしたい・・・、ということでしょうか。 その目的までは、分かりかねますが」

 

セバスが、アルベドの説明に被せる形で自分の意見を述べる。

 

「アルベドの考えが正しいとすると、いくつかの辻褄が合います。 初めに門を襲わせたのも、警備兵の目をそちらに引きつけ、壁を壊すところを目撃されたくなかったからでは? 門を襲ったような低級なアンデッドでは、この城壁を突破できるようには思えません。 壁の破壊は、この事態を引き起こした者が行った可能性が高いかと」

 

「お前たちの考えはよく分かった。 一先ず、その線で当たったほうが良さそうだな。 しかし、今後の行動はどうするべきか。 その首謀者とやらは、まだ墓地にいると思うか?」

 

「場合にはよりますが、まだアンデッドを召喚しつづけるつもりなら、その可能性もあります。 ・・・しかし、その者は目撃されるのを恐れているように見受けられますので、逃げるのも時間の問題と思われます」

 

モモンガは、第三位階が一流とされる世界で第七位階の魔法を使用できる存在がいるならば、把握しておきたい、という思いがあったが、発見できるか分からない者を探すのに本腰を入れすぎて、居住区にアンデッドがなだれ込むという、名声や情報を獲得できる機会を逃すのも惜しい、と感じる。

 

ならば・・・。

 

モモンガは、周囲の人間にも聞こえるように叫んだ。

 

「私は、アンデッドの大群の討伐に向かう! この門を襲撃されたのは恐らく陽動だ。 もう、これ以上新手が来ることはあるまい。 それに城壁を破壊された今、門を守る意義も薄いだろう。 隊長!」

「な、なんだ?」

 

警備隊の隊長は、何事か、と身構えた。

 

「私は、まだあなた方に雇われている身だが、今夜はもう墓地の巡回をしている場合でもなさそうだ。 ここを離れてもいいか?」

 

隊長は、何を言われているのか分からない、というような顔をしたあと、勢いよく何度も頷く。

 

「あ、ああ。 別に私は止めなどしない。 すぐに行ってくれ」

「理解してもらい感謝する」

 

「おい、俺達も行くぞ! 二人は、既にアンデッド共に当たっているらしい。 既にかなりの範囲に広まってるって話だ」

 

モモンガ達が走り出すと、それを見てクラルグラも壁が突破されたという方向へ向かう。

 

「なんという律儀な男だ・・・」

 

まさか、この状況で墓地の巡回依頼の続きを気にするものがいるとは。

冒険者どころか、警備兵でさえ、もはやそんなものは頭から吹き飛んでいる。

 

モモンガが、まだ依頼のことを覚えていたのは、アンデッドとなったことで、この状況でも平常心を保てていたことと、もう一つ。 サラリーマンとしての記憶が、雇用契約を一方的に破る、という行為に忌避感を感じさせていたからだ。

 

《下位アンデッド創造 ―骨のハゲワシ(ボーン・ヴァルチャー)―》

 

暫く走ってから、モモンガが周囲に人目が無いことを確認しスキルを発動すると、上空に10羽のハゲワシのスケルトンが現れる。

下位アンデッドなので、レベルは15と戦闘向きのアンデッドでは無いが、飛行能力を持ち偵察には向いている。

 

「墓地の中で、低級のアンデッド以外の者が存在していないか探せ。 ああ、それとエルダーリッチも念の為に探しておけ」

 

ユグドラシルでは、いくつかレベルの異なるエルダーリッチが存在するが《アンデス・アーミー/不死の軍勢》の魔法を習得しているものはなかった筈だ。

 

だが、もしかしたらこの世界では、自然発生したアンデッドでもレベルアップが可能で、そのエルダーリッチが《アンデス・アーミー/不死の軍勢》を習得し、この騒動を引き起こした。 もしくは、エルダーリッチを種族としているプレイヤーの可能性も視野に入れた命令だった。

 

 


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