LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり

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第十五話 襲来

ここはエ・ランテルの中では、中級に分類される宿屋、幸福の花瓶亭。

銅、鉄級を経て一人前の冒険者を名乗れるランクに歩みを進めた、銀、金級の冒険者が主な客層だ。

 

廊下は、この世界では高価な《コンティニュアル・ライト/永続光》による照明で照らされており、宿の作りは実用性を重視しているのか特に絢爛とは言えないが、隅々まで掃除が行き届いていた。

 

この宿屋の三人用の客室に、現在モモンガ達は滞在している。

 

本来なら銅級冒険者は、もっと安い新人冒険者御用達の宿に滞在し、自分と同じような冒険者と知り合う機会を増やすのが基本である。

 

しかし冒険者組合ではモモンガ達の実力を既にある程度評価しており、他の新人達と顔を繋ぐことは、そこまで意味があるとは考えていなかった。

だが、いきなり最高級の宿屋を勧めるのは、流石に他から浮きすぎてしまう可能性が出てくるので、間を取りこの宿を推薦したのである。

 

モモンガは床に荷物を下ろすと、ベッドに腰掛けた。

現在の時刻は午後5時を少し回ったところ。 まだ依頼に出発するのは早い。

モモンガは、二人に気になっていたことを尋ねることにした。

 

「それで、どうだった。 あのイグヴァルジという者の強さは?」

「私の見立てでは、レベル15から20程度かと。 申し訳ございませんが、戦うところを見なければ正確な実力まで測るのは困難です」

「セバスの意見と同じです。 しかしながら、雑魚には変わりありません。 あれで上位冒険者など・・・、この分ではオリハルコンやアダマンタイト級も、たかが知れているかもしれませんね」

 

レベル15~20、か。

モモンガは、心の中で呟いた。 確かンフィーレアに組合を出た後聞いた話では、ミスリル級がこの都市で最強と話していた。 ということは逆に考えると、この都市の周辺ではその程度の実力で対処出来るだけのモンスターしか現れないということではないだろうか。

 

未だ、この世界のモンスターの情報を多く得ている訳では無いが、エ・ランテルが現在の戦力で存続できている事実を鑑みると、その可能性が高い。

 

あと何回か依頼を受けてその推測が確信に変われば、今まで危険過ぎると考えやってこなかった、ナザリック周辺の大規模な捜査を実行してもいいかも知れない。

例えばナザリックの北にある森林、エンリが言うところのトプの大森林とか・・・。

 

だが、モモンガは思考が緩みかけたのを感じ、かつての仲間の言葉を思い出す。

 

(相手の実力を一部の情報だけで判断するのは危険。 ピンチっていうのは、大抵が慢心のすぐ後に来るんだから、でしたよね。 ぷにっと萌えさん)

 

モモンガは、気を引き締めると二人に話した。

 

「だが、まだ安心は出来ん。 この世界独自の魔法や戦術があるかも知れんし、もしかしたら、オリハルコン、アダマンタイト級の中には我々を脅かしうる人材がいる可能性もある。 今は気を引き締めて、あらゆる知識を吸収することに努めるときだ。 まあ、この都市には驚異となるような者がいない可能性が高いと分かったのは収穫だったがな。 一先ずは我々も、レベル20相当の力に抑えておこう」

「「はっ」」

 

もし、何かの拍子にミスリル級冒険者と戦闘になったとしても、すぐさま命の危険に発展する可能性は低そうだ、とモモンガは思う。

勿論、セバスとアルベドに言ったように侮ってかかるのは危険だし、モモンガ自身もイグヴァルジに対しては、新人にも優しい親切な男、とそこそこ高評価だったので、進んで敵対したいとも思っていないが。

 

暫く話しているうちに、モモンガは腕時計で午後6時になったことを確認した。

 

「さて、そろそろ行くとしようか。 冒険者組合が特例として、この依頼を引き受けさせてくれた以上、遅刻などしては面倒なことになるからな」

「承知致しました」

 

モモンガは部屋の鍵を施錠すると、西門を目指し宿を出た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

門の前に二人の兵士が立ち、門番をしていた。

モモンガはその内の一人に話しかける。

 

「冒険者組合から依頼を受けてきた、アインズ・ウール・ゴウンだ」

「アインズ・・・、ああ、あの冒険者組合、期待の新人ね。 あそこの詰所の中に隊長がいるから、仕事内容を聞いてきてくれ」

 

詰所は石づくりの、小さな二階建ての建物だった。

予備の装備を保管したり、少人数の兵士が休憩する目的に使う分には、あまり大きな建物は必要ないということだろう。

詰所のドアをノックし中に入ると、金色の口ひげを生やした中年の男が、何やら日誌のようなものに記入していた。彼はモモンガ達が近づくと顔を上げる。

 

「おお、君たちが、組合からの冒険者か。 私が、このエ・ランテル共同墓地警備隊の隊長だ」

「よろしくお願いする。 私がアインズ・ウール・ゴウン、この二人は私の仲間だ」

「話は聞いているよ。 第三位階魔法が使えるなら、銅級でも問題はない。 ただ、墓地を巡回して、アンデッドを見つけたら倒すだけの単純な仕事だからな。 おーい、ゴードン、こっちに来てくれ」

 

隊長の呼び声に応え、二階から一人の男が階段を降りてきた。

 

「ゴードン、仕事内容について詳しく説明してやってくれ」

 

隊長の指示に応え、ゴードンがモモンガ達に説明を始めた。

 

「はい。 それでは今日のあなた達の仕事について説明します。 エ・ランテル共同墓地は、街の西側外周部全域を占める広大な墓地です。 なので巡回をする際は、墓地北部、中央部、南部の3つの区域に分け、3チームが手分けをして巡回を行っています。 今日の、あなた達の担当は北部ですね。 巡回は3時間おき。 今夜の8時に最初の巡回を始めて、後は今日の11時、明日の2時、5時にもそれぞれ行ってください。 一回の巡回は、大体一時間かからずに終わりますから、休む時間は、それなりにあります。 巡回ルートに関しては、そこの壁に貼ってある地図を確認してください」

 

「なるほど、承知した。 ところでアンデッドを見つけた場合は、とにかく倒せばいいのか?」

 

「基本はそうですね。 スケルトンとかゾンビでしたら、あなた方なら問題ないでしょう。その場で倒して、後で報告してください。 ただ、もっと上位のアンデッドが出現した場合は無理をせずに、情報を得てから、一旦援軍を呼びに来てください。 アンデッドの中には、自分が殺した相手を、アンデッド化させるような奴もいますから。 最近出現した強いアンデッドだと・・・、一ヶ月前に百足状の骸骨(スケルトン・センチュピート)が出ましたよね、隊長」

 

話を振られた隊長は、ため息をつく。

 

「そうだな。 あの時は、警備兵のチームが発見したんだが、偶然近くに冒険者のチームがいて助かった。 下手をすれば死者が出ていただろう。 あと、お前は最近入ったから話でしか知らないだろうが、4年前にスケルトン・ウォリアーが出たときは酷かった。 巡回していた警備兵5人と、救援に駆けつけた鉄級冒険者2人が死亡して、白金級の冒険者を組合から派遣してもらい、ようやく退治できたからな」

 

スケルトン・ウォリアーはユグドラシルでは、レベル16のアンデッド。

レベル7のスケルトン・ソルジャーの上位種であり決して強いアンデッドではなかったが、最大の戦力がミスリル級冒険者というこの街にしてみれば、非常に危険なアンデッドだろう。

 

「墓地内を巡回しアンデッドを見つけた場合、可能なら討伐、か。 理解した。 これから明日の朝までよろしく頼む」

「ああ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

都市の城壁内部にあるにも関わらず、その墓地の内部には陰鬱な空気がわだかまっている。

あちこちに並んでいる墓標は、年月により風化し、朽ちつつある物もあれば、ごく最近建てられたであろう新しいものもあり、それはこの墓地が長年に渡り死者の行き着く地として、在り続けたことを示していた。

 

「ふう。 広いなこの墓地は。 確かにここを全て見回るのは重労働だな」

 

モモンガ達は、警備隊から借りた松明を片手に、最初の巡回を行っていた。

アンデッドたるモモンガは、暗視能力を持っており、本当は光源などなくとも行動可能なのだが、これも普通の冒険者に溶け込む努力の一つだ。

 

「そうですね。 しかし、冒険者とやらも想像以上の弱さでした・・・。 モモンガ様、このようなくだらない仕事は、至高の御方たる貴方様には、あまりにも役不足なのでは? 今からでもお命じ頂ければ、私とセバス、いえ、どちらか片方でも情報収集は十分に可能でございます」

 

「・・・アルベドがそう言うのも理解は出来る。 だが、ここはもう少し気長に待つべき時だ。 我々はまだ、この世界での立ち位置が定まっていないからな。 冒険者として名声を得ていけば、権力者との接点や、貴重な情報を得ることが出来るし、それによりナザリックの利益となる選択肢も見えてくる」

 

モモンガは自分達がこの世界で、異質とも言えるレベルの実力者である可能性が高い、と感じ始めていた。

だが、まだナザリック地下大墳墓の戦力を広く知らしめるのは、リスクが高すぎるように感じる。

なぜなら、世界が自分達の存在を知った場合、どのような行動に出るのかは不明だからだ。

 

恐れるか、取り入ろうとするか、排除しようとするか。

各勢力の正確な実力と、他のプレイヤーの存在について十分な知識を手に入れるまでは、大胆な行動は起こすべきでは無い、とモモンガは判断していた。

 

「・・・情報といえば、ガゼフ・ストロノーフという戦士のことを聞くのを忘れていたな。 巡回が終われば、警備兵にでも聞いてみるか。 王直轄領の兵士なら、ガゼフについても知っているかも知れないしな」

 

「後は冒険者組合の人々も、何か情報を持っているかも知れません。 目的は違えど、同じ武に生きる者ですから」

 

「そうだな」

 

三人は、話をしながらも巡回コースを順調に巡っていく。

しかし、話をしながら歩いているからといってモモンガが見回りの手を抜いている訳ではない。

 

モモンガのスキルの中に《不死の祝福》というものがある。

これは、自分の付近にいるアンデッドを探知する効果を持つスキルであり、これによりモモンガは忙しなく辺りを見回すことなく、ただ歩くだけでアンデッドの探索が可能となる。

 

「!? これはっ」

 

モモンガのスキルに、アンデッドの反応があった。

だが、モモンガはすぐに、がっかりしたようにため息を吐き、ある方向を指で指し示した。

 

「この方角を50m程進んだところに反応がある。 だが反応が微弱すぎる。スケルトンか、ゾンビだろう」

 

一行が反応があった場所へ向かうと、一体のスケルトンが佇んでおり、モモンガ達を確認すると、腕を振り上げ走り寄ってきた。

 

《マジックアロー/魔法の矢》

 

モモンガの手から放たれた十個の光球がスケルトンに突き刺さり、ばらばらに粉砕する。

あまりの手応えのなさにモモンガは、げんなりしながらも、一応は初めて討伐したモンスターということで証明部位は、所得しておくことにした。

 

「スケルトン系の証明部位はどこだったか・・・。 腕の骨とか言っていたか? セバス」

「はっ。 スケルトンは右の前腕骨となっております。 私が回収しておきましょう」

「頼む」

 

その後は特に異常は無く、一回目の巡回は無事に終わった。

モモンガは、隊長にスケルトンの腕を見せる。

 

「巡回途中、スケルトンを一体討伐した。 セバス、出してくれ・・・、これが証明部位だ」

「おおっ。初の巡回でスケルトンを討伐とは・・・、はは、幸先がいいのか悪いのか分からんな、とにかくご苦労だった。 それは後で冒険者組合に持っていくといい。 マジックアイテムでアンデッドの一部であることを確認してから、報酬が払われるだろう」

 

その後、モモンガ達は次の巡回まで、詰所の中の椅子に座り待機する。

手持ち無沙汰になったモモンガは、視線を宙に漂わせぼんやりと思考に耽った。

 

(アルベドには冒険者として名声が高まれば、色々とメリットが出てくるといったが、いつのことになるやら。 いっそのこと、自分でアンデッドを作って、それを討伐したことにしたいくらいだが・・・。 やめといた方が無難か。 もしかしたら、それを確かめる術を組合は持っているかも知れないし、バレたら罰金程度では済まない気がするしな・・・)

 

考え事をしている内に、あることを思い出したモモンガは、詰所にいた隊長に尋ねた。

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「ん、なんだ? 悪いがアンデッドの出現記録とかなら、ゴードンに聞いてくれ」

「いや、そうじゃない。 ガゼフ・ストロノーフという戦士について知っていることはないか?」

 

隊長が、モモンガの顔をまじまじと見つめる。

その表情には、呆れが混ざっているようだった。

 

「君は、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフを知らないというんじゃないだろうな? 王国でも一、二を争う有名人だぞ」

「この国に来て日が浅くてね。 名前と、いくつかの逸話なら知ってるんだが。 なんでもゴブリンとオーガの群れを一瞬で焼き滅ぼしたとか?」

「ははっ、それくらいあの方にとっては朝飯前だろうさ。 何せ、王国が誇る魔神使いだからな」

「魔神、使い?」

 

今までモモンガが聞いたことのない言葉だった。

 

「ああ、人知を超える力をその身に宿した最強の戦士のことさ。 私も実際にお会いしたことは無くて、話に聞くだけなんだが、すごいらしいぞ。 赤竜(レッドドラゴン)のブレスを超える炎を操るとか・・・」

 

(この世界にも竜がいるのか。竜の死骸は、素材として有用で捨てる部分がないくらいだからな。 いつか狩りに行きたいが・・・、それよりも気になるのは)

 

「ならば、どうしてバハルス帝国との戦争でそれを使わない? それ程に帝国の兵隊は強いのか?」

 

隊長はその質問に肩を竦めた。

 

「まさか。 まあ帝国騎士団の実力は、王国の寄せ集めの軍団とは比べものにならないだろうが、魔神の力の前ではどちらも大差ないだろう。 私もそれに関しては詳しくないんだが・・・、多分、同じ魔神使いであると言われている帝国の皇帝、魔帝ジルクニフの存在があるからだろうな」

「魔神使いは複数いる、というわけか?」

「ああ、私が知る限りでは、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。 バハルス帝国の皇帝。 そして新王国の」

 

隊長がそこまで言いかけた時、詰所の扉が開いた。

そこにいたのは、冒険者組合で一度会った男。

 

「よう。 ちょっと心配になってな。 様子を見に来たぜ」

 

ミスリル級冒険者、イグヴァルジだった。

後ろには、一緒について来た仲間らしい剣士の男もいる。

 

「おお、どうしたんですか? イグヴァルジ殿。わざわざこんなところまで・・・」

 

隊長の言葉づかいが、モモンガに対するものより丁寧だ。

それは、イグヴァルジはこの都市で一目置かれる存在であることを示していた。

 

「いや、俺が用があるのは、そっちの三人なんだ。 どうだ? 順調にやってるか?」

「順調と言えば順調だが・・・、まだスケルトン一体しか倒せていないな」

「はははっ、俺も駆け出しの頃は、この仕事をよくやったけど、一体も遭遇しない日の方が多かったぜ」

 

なぜ、この男がここに来たのだろう。モモンガは気になり尋ねた。

 

「ここへは、何をしに?」

「ほら、最終的に決めたのは組合長だけどよ。 アンタらを推薦したのは、俺もだろ? 無いとは思っていたが、問題が発生していたら俺の立場も悪くなるからな、ちょっと気になっただけだ」

「ふっ、その心配は無用だ。 どんな仕事でも、一度引き受けたからには、きちんとこなすさ」

「ほぉ」

 

イグヴァルジは心の中で、とりあえず、一般常識に欠けていたり無責任そうな者たちでは無い、と評価した。

彼も、本当にモモンガ達がこの程度の仕事で失敗するのでは無いか、と心配していた訳ではない。

 

当初の計画では、後から警備兵の一人に、この新人達の評価を聞くつもりだったが、よく考えると冒険者と警備兵は大抵別々に巡回するようになっており、接する機会は少ない。

そんな状態で聞き込みをしても、十分な情報が手に入りそうもないので、適当な理屈をつけて自分で見に行くことにしたのだ。 剣士のブラウンは、特にすることも無いらしいので一緒についてきてもらった。

チームの他のメンバーである魔術師と四大神の一柱、火神に仕える神官は、宿の酒場で酒を飲んでいたが。

 

 

「まあ、安心したよ。 スケルトン如きは楽勝だったか?」

 

モモンガはその問いに少し迷うが、宿屋で決めた当面はレベル20程と言うことで通す、という計画を思い出す。

レベル20もあれば、スケルトン程度、苦戦することすらが難しいだろう。

そう判断し、モモンガは問いかけに答えた。

 

「まあな。 正直言って物足りない気もするが、まあこの街としてはアンデッドの発生は少ない方がいいんだろうな」

「ちげえねえ」

 

イグヴァルジは一見、新人を気遣う先輩を装いながら、少しずつ情報を集めていく。

次はどの質問をしようか、そう思案しかけたとき、イグヴァルジの鋭敏な聴覚が墓地の中から西門が叩かれる音を捉えた。

 

「おい、開けろぉ、開けてくれ!」

「ど、どうしたんだ、一体」

 

門の向こうから聞こえてきた鬼気迫る声に、警備兵は慌てて鉄で出来た門を開ける。

すると、まだ門が完全に開ききらない内に、一人の警備兵が転がり込んできた。

 

「お、おい。 お前巡回に行ってたんじゃないのかよ? 七人組で出発したろ。他の六人はどうした?」

 

その兵士は息も絶え絶え、といった様子で激しい呼吸を繰り返している。

その内、ようやく息が落ち着いて来た兵士は、恐怖に慄く声で告げる。

 

「ぜ、全員死んじまった。 俺達は、中央部を巡回していたんだが、その途中、墓地の南側から別の区域を巡回していた三人が走ってきたんだ。 そいつらによると、突然数十体のアンデッドの大群に襲われて、他の仲間達が殺されたんで急いで逃げてきたと。 そんで俺らは、俺は・・・」

「落ち着け、それでどうしたんだ?」

 

目を見開き、再び息が乱れかけた男に、仲間の兵士が語りかける。

 

「仲間内でも、数十体のアンデッドの大群なんてすぐには信じられなくてな。 まず確認するべきだとか、すぐに逃げるべきだとか、意見が割れた。 でも、そうやって話し合っている内に、始めの奴らが逃げてきた方角とは別の方向から電撃が飛んできて、一瞬で二人殺られた。 そんで必死で門に向かって逃げたんだけど・・・、遠くから、火の玉や電撃が次々と飛んできて・・・、生き残ったのは俺だけだ」

 

火の玉や電撃。

その言葉に周囲がざわつく。 まさか邪な意図を持った魔道士が紛れ込んで、事件を起こしたのだろうか?

だが、その懸念が最悪の形で覆された。

 

「お、俺は見た。 あの骨と皮だけの顔に、黒いローブ・・・、本で見た通りだ。 間違い無い、あいつはエルダーリッチだ!」

 

兵士の叫びに場が凍りつく。

そして次に来たのは、恐怖によるざわめきだった。

 

エルダーリッチ。 御伽噺にもよく登場する、邪悪な魔法詠唱者の死体から生まれるというアンデッド。

アンデッドとして偽りの生を受けた瞬間から、常人には決して手の届かぬ領域、第四位階の魔法を行使するという、強力なマジックキャスターだ。

 

当然、この都市の警備兵が敵うような相手では無い。 遠距離から魔法で消し炭にされてしまうのが関の山だろう。

 

だが一人の男の声が、その場に響き渡った。

 

「こうなりゃ、もうアンタ達の出る幕じゃねえ。 ソイツと戦うのは・・・、冒険者の仕事だ」

「い、イグヴァルジ殿」

 

声の主はミスリル級冒険者イグヴァルジだった。

警備兵達が、絶望と恐怖に凍りつく中、イグヴァルジの内心は興奮に満ちている。

 

(城壁の中に現れたエルダーリッチの討伐・・・、いいじゃねえか! この偉業を成し遂げれば、俺はまた一歩英雄へと近づく!)

 

だが、高揚するイグヴァルジに、仲間のブラウンが横槍を挟む。

 

「いや、しかし俺達二人じゃ厳しいぞ。 エルダーリッチには、近接戦闘を仕掛けるのが定石だが、その為には前衛が近づく間に相手を牽制し、魔法から保護するマジックキャスターが必要だ。 お前の弓は、刺突耐性を持つエルダーリッチ相手には通用しないだろうし・・・」

「分かってるよ、おい! 警備兵ども。 誰でもいいから、黄金の輝き亭からクラルグラのメンバー二人を墓地に連れてこい。 流石に酔いつぶれるまで飲んではいねぇだろ。 それと、冒険者組合にも報告してこい!」

 

その言葉に、十人以上の警備兵が素早く反応し、都市内に駆けていく。

用件に対し、明らかに人数が多すぎる。 どさくさにまぎれて逃げ出してしまったのだろう。

 

「さぁて、時間稼ぎと行くか! 俺の予想では、仲間が来るまで十五分。 ギルドから増援が来るまで三十分ってところか」

「やるしかないな・・・」

 

クラルグラの二人は、城壁の上に登り、墓地の奥からアンデッドが現れるのを待ち受ける。

 

それを見てモモンガは俯き、じっと思考していた。

 

「どうなさいました? モモンガ様」

 

アルベドが、心配そうに問いかける。

モモンガは、警備兵やイグヴァルジ達には聞こえないように、小声で答えた。

 

「いや、我々だけでエルダーリッチを討伐して名声を取るか、時間稼ぎに協力し、現地の者達の戦いを見て、情報を取るか悩んでいたんだ」

 

しかしまあ、とモモンガは呟く。

 

「まずは、情報からだな。 勢い余ってやり過ぎないように、手加減をしつつ時間稼ぎに専念しろ」

 

モモンガ達は城壁を登り、イグヴァルジ達の横に立った。

 

「我々も助太刀しよう。 時間稼ぎ程度なら、造作もないこと」

「へへっ、言うじゃねえか新人が。 ま、お手並み拝見ってところだな」

 

警備兵達は皆、魔法による攻撃を恐れ、壁の下から動けない。

彼らには、今、城壁の上に立つ五人の姿が御伽噺の英雄のように見えていた。

 

 

 

 


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