LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり

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第十二話 一つの村の終わり

それからモモンガは、下位アンデッド創造で虚空からスケルトン・ウォリアーを十体作り出すと、手分けをして作業にかかった。

 

だが、ここでモモンガはアンデッドに指示を出す際にユグドラシルとの違いに気が付く。

 

デスナイトの場合は簡単な指示を与えておけば、後はある程度自分で考えて作業を進めてくれるが、スケルトン・ウォリアーの場合は細かい手順ごとに逐一指示を与えなければならない。

 

例えば村人の死体を埋葬するように命令するには、スコップを持て、穴を掘れ、村人の死体を入れろ、穴を埋めろ、と複数の指令が必要になる。

 

(デスナイトと違いスケルトン・ウォリアーには、自分で計画をたてて実行するだけの知能が無いということか? いや、むしろ自分で判断し動けるデスナイトの方が変化したのか。 ユグドラシルではマクロでも組まない限りは、ワンアクションごとに命令していたしな・・・。 他の召喚モンスターに関しても、どの程度の知能を持っているのかはその内調べておこう)

 

多少命令に手間が掛かるとはいえ、数の力で作業は急速に進む。

村人の遺体を埋める作業はアンデッド達が行い、モモンガ達とエンリは、村の家や家畜を囲っていた柵の残骸を壊して簡素な墓標を作った。

 

結局日が暮れる前にすべての村人を埋葬し終わり、村の外れの墓地に百近く並んだ新しい墓の前でエンリとネムが祈りを捧げた。

赤色に染まりだした陽光が住む者のいなくなった村の家々を照らし、明暗を濃くする。

確かにここで生きた人がいて、そして死んでいった。

 

粗末な建物と牧歌的な草原が広がるその風景を見ていたモモンガは、なぜか仲間達の誰もいなくなったナザリック地下大墳墓を連想してしまった。

 

「あの、本当にありがとうございました。 見ず知らずの私達の為に、ここまでしてもらって・・・」

 

エンリはモモンガ達に深々と頭を下げて礼を言う。

隣のネムも、姉を真似て子供らしい舌足らずな礼を言ってから、エンリの動作を真似た。

 

「礼には及ばない。 我々はこの地に来たばかりだからな、作業の途中に色々話を聞けただけでも見返りとしては十分だった」

 

エンリの話によると、この地はリ・エスティーぜ王国という国家の領土だという。

モモンガとしては、この世界のことがよく分かっていない現状では現地の勢力と迂闊に敵対はしたくない。

それにはまず、リ・エスティーゼ王国の情報を調べさせ、戦力はどれほどか、交渉は可能か、もし敵対したとして驚異はどれほどか、などを調べるべきだと考えた。

 

(しかし、なあ。 バハルス帝国に新王国とやらの存在も、この地域では無視できそうにないな)

 

バハルス帝国は、リ・エスティーゼ王国の東方に位置するという軍事国家。

数年前から毎年同時期に王国に対し、戦争を仕掛けてくるらしい。

ただ、この戦争では両軍が本格的に衝突したことはないらしく、せいぜい小競り合いが発生するのみで、村から徴用された若い男達の中に戦死者が出たことはエンリの記憶ではないそうだ。

 

だからといって、バハルス帝国の目的がただ王国を挑発するだけだとは思えない。

アルベドとセバスに帝国の意図について意見を求めたところ、農作物の収穫期に戦争を仕掛けることで、王国に徴用による大規模な軍団を組織させ、収穫を妨害する。そして本格的な侵攻を始める前に王国の国力を弱めるのが目的ではないか、という意見だった。

軍事に関しては素人のモモンガでも、ただ集められて、いきなり武器を持たされた素人の集団よりも、専業の兵士がいるという帝国の方が強そうだ、という判断はできる。 もし本格的に戦争になれば、国境近くのこの地域が最前線になるのではないだろうか。

 

(だが・・・、気になることはあるな)

 

モモンガは先程のエンリの言葉を思い出す。

 

『でもカルネ村から戦争に参加した人の話では、帝国が王国に攻め込んで来ないのは、ただ一人の男を恐れているからだって言っていました。魔神の力を持つ剣士、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフが本気になれば帝国軍なんてひと捻りの筈だって』

 

『ガゼフ・ストロノーフ? ほぉ、そんなに強い者がいるのか』

 

『はい! 一度ガゼフ様の戦いを見たことがあると話していましたが、百体以上のゴブリンとオーガの群れを剣を一度振っただけで焼き払ってしまったって』

 

『ゴブリンとオーガ、か』

 

ユグドラシルで、フィールド上に出現する敵としてのゴブリンという種族は一番弱いものだとレベル3、強いものだとかなり高レベルまでいたはずだ。

名前が同じということは、モモンガが知っているものと同じゴブリンなのだろうか?

しかし、その強さも気になるところだが、百体以上を一気に焼き払ったという点が気になった。

モモンガの知る剣士のスキルは、範囲を重視したものは少なかったはず。

もしかすると、魔法も使えるのだろうか?

 

『それは、かなりの広範囲だな・・・。 その方は魔法剣士、だったりするのか?』

 

『うーん、どうなんでしょうか。 炎を自在に操るってことは聞いたことがあるのですが、そこまで詳しくなくて。 ・・・帝国との戦争では、理由は判りませんが、直接戦うことは無いみたいですし』

 

モモンガは、その王国戦士長の名をしっかりと記憶した。

王国の戦力を計る上で、真っ先に調べなければならない相手だろう。

 

 

そして、もう一つ。

こちらはエンリからあまり有益な情報は聞き出せなかったが、カルネ村の北西の方角で、四年程前にリ・エスティーゼ王国の王族と貴族の一部が離反して周辺地域を占領し、リ・エスティーゼ新王国を名乗っているようだ。

 

今も軍事的なにらみ合いが続いているが帝国への対策もあるため、王国が大規模な軍事行動を起こしたということはエンリの記憶には無いらしい。

 

 

(うーむ。 情報としては不十分だが、こんな小さな村の娘では、こんなものか。 やはり、もっと人が集まるところに行く必要があるな。

ん、そういえば、この二人はこれからどうするのか・・・)

 

流石に、ここまで世話を焼いてきた相手が野垂れ死になどということになったら、後味が悪い。

モモンガはこの二人に対し、ギルドメンバーやNPCに向けるものとは異なるが、小動物に対して覚えるような愛着が湧き始めていた。

 

「それで、君たち二人はこれからどうするんだ? 二人だけではもう、この村で暮らしていくのは無理だろう」

 

「あっ、それなんですが、ここから西に行ったところにエ・ランテルという大きな都市があるんです。そこに薬師のンフィーレアっていう友達がいて、彼に手伝ってもらえるように頼んで、その街で仕事を探してみようかと思ってます。 あの、そこでお願いがあるのですが・・・」

 

「どんなことだ?」

 

「もしかしたら、あなた方は冒険者なのではないですか? もしそうだったら、エ・ランテルまで連れて行って欲しいんです。 お金は、もしもの為に地面に埋めて隠して置いた物がありますし、足りなかったら、あとで働いて必ず払います」

 

「・・・冒険者、というものについて説明してもらってもいいか? いえ、我々の知るものと違うかも知れないからな」

 

「は、はい」

 

エンリの説明によると冒険者は、依頼により、モンスターを狩ったり、行商を護衛したりして報酬をもらう。

いわば、モンスター専門の傭兵なようなものらしい。

 

王国では街道付近といえども、モンスターが出る確率は低くはないので、カルネ村では、薬草の行商の際など、街の冒険者組合に依頼を出して冒険者に護衛してもらっていたということだった。

 

(なるほどな。 確かに、魔法使いと、全身鎧の戦士、筋骨隆々の男という組み合わせでは、戦いを生業にしているように見えたのも不思議じゃない。しかし冒険者ね・・・。腕にさえ自信があれば、誰でもなれるのか? 現地の通貨や情報を手に入れ易そうだし、冒険っていうのも興味が沸く。ちょっとやってみたいな)

 

「うむ・・・。 そうだな、実は我々も冒険者になることも視野に入れてこの国へ来たのだ。

そのためには冒険者組合に行かなければならないのだろう? エ・ランテルにはいずれ行かなければならないわけだし、道案内ついでについてきてくれると助かる。 どうせ、ついでだし、金は必要ない」

 

「ほ、本当ですか? ありがとうございます」

 

「ああ、だが今日はもう日が暮れそうだ。 出発は明日にしよう。 我々はちょっとこのあたりを見張ってくるから家で休むといい。 護衛は・・・コイツに任せよう」

 

モモンガは、召喚から数時間経っているにも関わらず一向に消える気配のないデスナイトに目をやる。

 

(えっ、なんで消えないんだコイツ。 召喚時間はとっくに経過しているよな。 スケルトン・ウォリアーはもう消えたし・・・)

 

そして、モモンガ一行はエンリ達と一時的に離れ、村周辺の森の中へ入っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

モモンガは、エンリ達の目につかないところまで来ると、魔法を発動した。

 

〈ゲート/次元門〉

 

モモンガの持つマジックアイテム、アインズ・ウール・ゴウンに所属する証である指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの効果により、ナザリック地下大墳墓、玉座の間まで一行は帰還した。

 

「ふう、一先ず初接触にしてはうまくいったほうか」

 

「しかし、モモンガ様。 まさか、貴方様が自ら人間の街などに行く必要はありません。 適当な下僕を派遣して、必要ならば適当な人間から情報を引き出したほうが早いのでは?」

 

人間の演技をする必要がなくなったアルベドが堰をきったように話し始めた。

 

「いや、現段階で現地の勢力と敵対する可能性は極力排除したい。 リ・エスティーゼ王国とやらが、どの程度の情報網を持っているかは不明な以上、迂闊な行動はしないほうがいいだろう。 それに、私自ら行くことに意味があるのだ」

 

「モモンガ様自ら向かわれることに意味が・・・」

 

アルベドはモモンガの言葉を聞き、反芻するように繰り返した。

 

「アルベド、ここに階層守護者達を呼んでくれ、私が留守中の報告が聞きたいからな」

 

「承知致しました」

 

アルベドの呼びかけを聞いて全速力で、ここへ移動したのだろう。

五分後には、全ての階層守護者が玉座に座るモモンガの前に跪いていた。

 

「私が留守にしていた間、何か異常はなかったか?」

 

「はっ。 マーレの魔法による隠蔽が功を奏したようで、侵入者、及びナザリック地下大墳墓の入口から半径一キロメートル以内に近づいた知的生命体もおりませんでした。 大墳墓内の罠など、防衛システムも正常に作動しております」

 

防衛戦構築の指揮を取っていた、階層守護者随一の知恵者であり最上位悪魔、デミウルゴスが答える。

 

「そうか。 我々の方でも収穫はあった。 アルベド、説明してやってくれ」

 

その後アルベドが守護者達に、カルネ村という盗賊に滅ぼされた村を探索したところ、二人の人間と遭遇したこと。 明日その二人と、エ・ランテルという都市に同行する約束をしたこと。

モモンガが自ら冒険者という職業につき、情報を集める計画であることを説明した。

 

「なっ、モモンガ様御自らそのような危険を冒す必要はありんせん。 情報など私達、シモベがいくらでもお集めしんす」

 

「私モ、モモンガ様ガ直接赴クノハ危険過ギルカト」

 

「僭越ながら私も同意見です。 そのエンリという娘を利用すれば、エ・ランテル内で足がかりを得やすいとは思われますが、至高の御方がどのような危険が存在するかも不明な地を探索するなど・・・。 その娘に、本当の御姿は知られていないわけですし、人型のシモベに現在のモモンガ様の服装をさせて送り込めば宜しいかと」

 

当然のことながら、モモンガが冒険者になる、という思いつきには誰もが反対してきた。

 

(やばいな・・・。 まさか、冒険というものに興味が湧いたことが理由とは言えないし)

 

だが助け船は、思いもかけない所から差し出される。

 

「あなた達、確かに私もモモンガ様が少しでも危険に晒されることを思うと身が引き裂かれるような思いです。 しかし、思い出しなさい。 モモンガ様が前の世界において、いつも単身ナザリックを離れ、この地下大墳墓を維持するために行動なさっていた事を。 モモンガ様にとって、未知とは自ら探索し明らかにしていくもの。 ナザリック地下大墳墓へ篭っているだけというのは、きっとモモンガ様の魂が許さないのでしょう・・・」

 

「アルベド・・・」

 

守護者一同は、誰よりもモモンガの身を案じているはずのアルベドの言葉に黙り込んだ。

 

「わ、分かってくれたか」

 

「モモンガ様。 先程の貴方様の言葉に、御自ら道を切り開かれる勇敢な意思を感じました。

ならば、それを汲み取るのが私の役目でございます。 ですが、モモンガ様。せめて、これから冒険者として人間の都市を探索する際は、私が御身をお側でお守りすることをお許し下さい・・・」

 

「・・・そ、そうだな。 任せたぞアルベド」

 

(やばいな。セバスはともかくアルベドは、こんな鎧を着たままじゃ不自然だし、ナーベラルかルプスレギナあたりを、鎧を脱いだアルベドということにして連れて行く計画だったんだが・・・。もう言い出せない雰囲気だな)

 

階層守護者達は自分たちの偉大なる主人、モモンガのナザリックを思っての決断に感動し、涙さえ浮かべている者もいる。

 

そうして紆余曲折ありながらも、新しい世界の夜は更けていった。

 

 

 

 

 


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