LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり

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黄昏の王国
第十話 滅びた村


小規模の村と思われる、粗末な家が集まっている場所。

 

正午を周り、傾き始めた太陽が照らすその地は、今まさに地獄の様相を呈していた。

 

村のあちらこちらに転がる無残に傷ついた遺体。 目に見える範囲でも、五、六十体はあるだろう。

 

死因は剣や槍で出来た傷による失血死が多いようだったが、所々に黒く焦げた遺体も存在する。

 

(村に火が放たれた形跡は無いようだし、もしかしたら魔法によるものかも知れないな・・・、雷か火かは分からないが)

 

先程から遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で、村の様子を観察していたモモンガは、そう思考を巡らせた。

 

悪戦苦闘の末、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)の操作法を何とか理解し、ナザリックから10km程の距離にあるこの村を見つけ出した。

 

だがモモンガが見つけたときには既に村人は死に絶え、家や家畜を囲んでいたらしい柵も壊されていた。

 

(ふむ・・・、こうして見る限りでは生き残りはいないようだな。 この世界に来て始めて見る人間だというのに残念だ。 しかしどうするか・・・、こちらの世界の情報を出来るだけ早く得なくては行動の指針も建てられんし、その為には知的生物との接触が手っ取り早いと思ったんだが)

 

ならば蘇生魔法で村人たちを生き返らせて、話を聞き出すか? とも考えたが、この世界に魔法があるのか。もしあったとしても蘇生魔法が一般的なものでないなら、余計な面倒事を引き寄せるのでは無いか、と考えモモンガはその案を自ら却下した。

 

「セバス、この村を見てどう思う?」

 

「はっ。・・・失礼致しますが、どのような点に関して申し上げれば宜しいでしょうか?」

 

一口に、この村を見てどう思ったかと言っても様々な方向からの見方がある。

 

セバスは不敬かもしれないと恐れながらも、主の意図にそぐわぬ感想を述べるのは避けるべきと判断し、モモンガに尋ね返した。

 

「ああ、すまんな。 少し言葉が足りなかった。 そうだな、この村を襲ったのはどのような者、あるいは者たちか。 そいつらはどのような目的を持っていたか・・・、とりあえずこの二つに関して推察してみてくれ」

 

「はっ。 私ごときの意見が至高の御方たるモモンガ様のお役に立つかは分かりませんが、私の所見を述べさせて頂きます。 まず、村の地面に残っている足跡ですが、村人らしき者たちの死体が履いている簡素な靴によるものの他に、金属製の重靴によるものと思われる深い足跡が多数存在します。

また村人の傷も確認できるだけで、剣、槍、矢、それに恐らくは魔法と思われるもの、と多様性があります。 ここから見るに、村を襲ったものは武装した複数の集団。 マジックキャスターも含まれている可能性が高いかと」

 

「マジックキャスターか。 まあ、この世界に魔法があるのか。 もしあったとしても私が知る魔法と同じものなのかは不明だが・・・、もし私の知る魔法だとしたら、第三位階の《ファイヤーボール/火球》辺りが使われたか?」

 

《ファイヤーボール/火球》は魔力系魔法職を選んだユグドラシルプレイヤーなら、殆どの者が習得していただろうと思われるポピュラーな魔法だ。

ただ着弾後周囲に燃え広がる火球を打ち出すだけという単純な魔法だが、それゆえに汎用性が高い。

 

焼き殺されたと思われる遺体には一部では無く全身が炎に包まれた痕跡が残っているため、第一位階や第二位階の魔法では威力不足に感じる。

 

(んっ? そういえば、焼死体を見ているというのに、どうして冷静に分析ができているんだ?

別に今までの人生でこれほどの死体を見たことは無いが、少なくとも忌避感や嫌悪感は感じるはず・・・。

まあ、今はいいか。 当面の間の行動方針を立てる方が先決だな)

 

モモンガは自分の精神に違和感を感じるが、今は目の前の出来事に集中することにした。

 

「セバス、続けてくれ」

 

「はっ。 目的は間違いなく略奪だと思われます。

備蓄庫らしき建物が破壊されて、中には何も残されておりませんし、家畜も全て運び出された後・・・。

畑には掘り返された痕跡が多数あることから、作物も盗んでいったのでしょう。

もし金銭目的ならば、村人の服装を見ても、それ程裕福とは思えないこの村を襲うことは効率が悪いと思われますし、初めから食料の略奪が主目的だった、と推察致しました」

 

「なるほどな。 セバス、お前の推察はかなり的を射ているように思う。 この状況を見るに、それが一番妥当だろうな。 ・・・よし、この村へ実際に行ってみるか」

 

(現地の人間に話を聞くのは難しそうだが、もしかしたらこの世界のことが記された本や、地図は残されているかも知れないからな・・・。 それに家の内部には、まだ生存者が残っている可能性もゼロではない)

 

だが、その言葉にセバスはモモンガの予想外に動揺した。

 

「なっ! お言葉ですがモモンガ様。 まだ、どのような驚異が存在するかも判明していない、ナザリック外部への探索は危険すぎるかと。 調査でしたら隠密能力に優れたシモベを派遣された方が」

 

「いや、確かに現時点では不明な事が多すぎるというのはセバスの言うとおりだ。

しかし、だからこそ私自身で情報を仕入れ、適切な判断が出来るようにする必要がある。

まあ、そう心配するな。 もちろん護衛は連れて行くさ」

 

(とはいったものの、誰を連れて行くのがいいか・・・。 この世界の生物の強さが分からない以上、ナザリックの最大戦力の一つである階層守護者レベルの護衛は欲しいな。 それに、この世界で見つけた知的生物は今のところ人間だけ。 ほかの種族が存在するのかも分からないし出来るだけ人間に近い容姿を持つ者の方がいい。 とすると・・・)

 

結局モモンガは、村の調査に同行し自身を身近で守る為の護衛を二人。

 

そして村の付近に近寄るものが無いか警戒する為に、隠密能力に優れたシモベを複数動員することにした。

 

このことを話したシモベたちは、モモンガを間近で守る護衛が二人ということに不安を抱き増員を進言してきたが、あまり多くで行動すると、万が一事情を知らない何者かに自分達が目撃された場合、村を襲撃した張本人たちと見なされる恐れがあると説明し、護衛は最終的に二人に決定した。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「醜い傷ですね。 切れ味の悪い剣で力任せに振り抜いたのが一目瞭然です。

この村を襲ったものの実力はせいぜい素人に毛が生えた程度と思われます」

 

アルベドは地面に転がる死体を見ながら、冷静に分析した。

 

「そうか・・・。 ならば、いきなり実力者に出くわすような事態は避けられたようだな。

セバスの見立ても同じか?」

 

「・・・はい。 実力に関しては私もアルベド様と同様の見立てです」

 

モモンガはセバスの声色に、感情を押さえつけているような響きを感じた。

 

(この光景を見て思うところがあるのか・・・。セバスはたっち・みーさんの作ったNPCだし、もしかしたら影響を受けているのかも知れないな)

 

今壊滅した村の近くに立っているのは、モモンガ、セバス、アルベドの三人。

 

まだ、この世界にどのような驚異が存在するか全く情報を得られていない為に、モモンガは防衛系戦士職に特化した百レベルNPCであるアルベドと、本来の竜形態での正面戦闘力ではアルベドやコキュートスをも凌駕するセバスを護衛として選んでいた。

 

もっとも、アルベドは体型が人間に似てはいるが、角や瞳の形といった人ならざる特徴も持っている。

 

その為、全身を漆黒の全身鎧、ヘルメス・トリスメギストスで覆い真の姿を隠していた。

この鎧は特別な能力は持っていないものの、神器級アイテムであり並みの武器では傷一つつけられない。

また、この鎧は三層構造になっており、アルベドが持つダメージを鎧に移し替えるスキルを使えば、超位魔法ですら三回は耐えることが可能だ。

 

モモンガも、いつもの豪奢な装飾に彩られたローブではなく、赤茶色の簡素なローブを羽織っていた。

 

モモンガはここに来る前に、もし何者かに発見された場合は偶然ここを通りかかった遠方からの旅人という設定で通そう、と決めていたが、あの派手すぎるローブを長旅で好んで着る者がいるだろうか、と思い当たり、今の地味なローブに着替えることにした。

 

だが、いたずらに装備の質を落として安全性を犠牲にしたわけではない。

このローブには、登録した装備に瞬時に着替えられるデータクリスタル『速攻着替え』が組み込まれており、いざという時には直ぐに元の装備を装着できるようにしていた。

 

骸骨の顔は、ローブのフードを深く被り嫉妬する者たちのマスクを装着することで隠し、手にはガントレットを装着している。

 

「さて、最初は生存者探しと行こうか」

 

モモンガは手を掲げて、魔法を発動した。

 

「《ワイデンマジック/魔法効果範囲拡大》《ディテクト・ライフ/生命感知》」

 

《ディテクト・ライフ/生命感知》は効果範囲内の生物の居場所を感知する魔法。

 

魔法による強化で効果範囲を拡大されたそれは、村全体を一度に探知した。

 

「おっ、これは」

 

モモンガの魔法が、二体の生命反応を捉えた。

 

場所は、ここからも見える小さな小屋。 恐らく物置か何かだろう。

 

二体の生命反応をほぼ同じ位置に感じたことから、身を寄せ合っているのだろうか。

 

まだ人間だとは限らないが・・・。

 

「セバス、アルベド、あの小屋だ。 ・・・ふぅ、この世界に来て初めての人間との接触になるかもしれん。

出来るだけ友好的に接して、可能な限り情報を得たいな。 敵対は向こうが私に攻撃をしてくるか、私が命令するまでは避けてくれ」

 

モモンガ達一行は、ゆっくりと小さな小屋へ近づいていった。

 

 

 

 


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