東方幻想奇録   作:大栗蟲太郎

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第七話

天狗の首領
天魔

登場


漫画家が生まれた日

翌日、成三は椛と天魔の屋敷に来ていた。

 

「……大きなお屋敷ですね」

 

屋敷で天魔の部屋の前で待機するように言われた成三は思わずため息と素直な感想をこぼす。

 

「そりゃ、私達の頭領のお住まいだからな」

 

椛は天魔がどういう存在なのかを伝えた。

自分達よりも遥かに強くて聡明なことを。

 

「良いか?絶対に無礼を働くんじゃないぞ?」

 

椛は成三に固く、そして強く忠告をする。

 

「分かってます……」

 

成三はこれから天魔に呼ばれる事を意識すると、緊張をしてしまう。

これまで外の世界で礼儀は学んできたが、うっかり口を滑らせたら……椛が嘘をつくとは思えないため、そう考えると身の毛もよだつ。

 

そうこうしている内に、中から一人の鴉天狗が出てきた。

 

「犬走椛とそこの外来人。中に入れ」

 

そう言って、鴉天狗は中に入るように手で促す。

 

それに従い、成三は天魔の部屋に入る。

 

成三は忘れずに、部屋に入って失礼しますと言った後にお辞儀をして天魔の前へ。

 

椛も後からやってきて、成三の隣へ行く。

 

天魔は背中に大きく黒い翼を生やした容姿端麗な女性だった。

が、その佇まいからは、強者の風格が漂っている。

 

「さて、椛。話とは…この人間が関わっている事かしら?」

 

天魔は椛に問う。

 

「はい、天魔様。この人間にこの山での活動権、並びに居住権を下さらないかと」

 

その椛の申し出に周囲がどよめく。

そんな申し出、前例など無かったから。

 

椛のそれを聞いた天魔はさらに椛に問う。

 

「その人間が、この山に利益を齎すのかしら?」

 

と。

何の利益もない部外者に、この山に住ませるわけには行かないから。

 

その問いに、椛が答えた。

 

「あります、この少年は漫画を描いて商売することができます」

 

その言葉を聞いた天魔は話を続けるように促す。

 

「この成三の描く漫画は中々の出来でした。売り上げは期待できるかと」

 

椛は真っ直ぐ天魔を見詰める。

 

「よし、お前の熱意は分かった。だが、売る場所はどうするのだ?」

 

再度、天魔は椛に重要なことを尋ねる。

 

「人里に鈴奈庵と言う貸本屋がありました。本を売るにはそこが適任かと」

 

椛は滔々と意見を述べた。

 

「ふむ、環境も整っていたか…。ならよい。だが……」

 

そこで天魔は視線を椛から成三に移す。

 

「少年よ。君の意見を聞かずに話を進めてしまったが、この話に異論はあるか?」

 

「い、いえ!無いですよ」

 

即座に否定をする。

 

「分かった。では、君を仮にと言う形で山に迎え入れよう。そして、一ヶ月以内にノルマを達成できたら、君を正式に山の一員として認めよう。しかし、達成できなければ君を山から追放する。これでいいな?」

 

成三を一旦様子見をすることに決めた天魔は、正式な居住権を持たせることへの条件を与えた。

 

「……分かりました」

成三はその条件を飲み込む。

 

「そうか、ならこれから漫画の執筆活動を頑張りたまえよ?」

 

天魔は彼女なりにエールを送る。

 

「はい!」

 

成三は意気込んで言葉を返す。

 

「なら椛。彼を家まで案内してあげなさい。誰も使っていない家があるはずだから」

 

天魔は椛にそう指示をする。

それに二つ返事で了承した椛は彼を連れて部屋の扉の近くまで行く。

そして、二人は天魔の方を向き直り、「「ありがとうございました」」と頭を下げて礼を述べ、屋敷を後にした。

 

「はぁ、緊張した…」

 

屋敷から出た椛に案内されて辿り着いた新しい家の前で成三は緊張から解放されて、ホッと一息付いた。

 

「まあ、誰でもあんな状況になれば緊張もするさ」

 

椛はそんな成三を励ます。

 

「でも、ボクはノルマを達成できるだろうか……」

 

不安からつい弱音を吐いてしまう成三。

そんな彼をまた、椛が励ます。

 

「大丈夫だ、何せ私が見込んだ漫画だぞ?もっと自信を持て」

 

「……うん、ボク頑張るよ!」

 

深呼吸して、自分の顔をビンタした成三は強気な表情をする。

 

「その意気だ。後で荷物は送るから待っていろよ?」

 

「それじゃ、まずは掃除から始めるかな。荷物、よろしくね」

 

成三は家の中に入っていく。

 

一人になった椛は、呟いた。

 

「妖怪の山に迷い込んできた漫画家の少年…。果たして彼はここに富をもたらしてくれるのか……」

 

椛は彼の家を後にする。

 

そして、時を同じくして天魔の屋敷。

 

「良かったのですか?あの少年にあの様な条件を出して」

 

一人の鴉天狗が天魔に尋ねる。

 

「構わないさ。彼がこの山に利益をもたらしてくれるのなら」

 

「ですが……」

 

「それに、ダメなら切り捨てる。それでいいだろう?」

 

「……はい」

 

「大丈夫、私たちは事の成り行きを見ていればいい」

 

「……承知致しました」

 

「さて、フェアにいこうじゃないか。それなら文句も言われないからね……」

 

そう言うと、天魔は成三の家の方向を見る

 

そんな思惑も知らない成三は、椛を待ちながら家の掃除をしていた


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