木場きゅんに憑依した俺は皆に勘違いされながらも生きていく 作:暁紅
もう最終回見えてきたのに中々辿り着かねぇな。再来週はテストで死にかけるし...今年は受験.....終わるな色々と
戦闘開始から一時間。二人の死闘は正しく神話のそれと同等であった。
結界で覆い核爆弾にすら耐える耐久度まで格段に底上げした地面は、戦闘の凄まじさから凸凹になって至る所にクレーターができている。
「しかし、所詮はその程度か」
「なん...で......」
復讐者は地面に横たわり空を仰ぐ男に告げる。
祐斗は何が起きたのか理解が出来ていなかった。半龍となった復讐者の防御力は凄まじく、剣は軒並み皮膚を裂けず『次元切断』が付与された剣すらかすり傷しか付けられなかった。
攻撃の手段を殆ど封じられた裕斗はどうにか起死回生の一撃をと多彩な攻撃を繰り出していた。
「流石に、『
剣にオーフィスの魔力を纏わせた一撃は圧倒的な防御力を打ち破り明確なダメージを負わせる。
結果、身体中に走っている数多の傷からは血が零れ、片膝をついて男を見つめる。
「どうした紛い物。その程度で終わりか?」
「あ゛...ぁぁ゛...」
言葉とは呼べないうめき声を上げる裕斗は、呆れたような声を悔しそうに聞く。
復讐者の龍の鉤爪は鋭利に伸び、容易く裕斗を切り刻んだ。
腹部には大きく空いた風穴。臓器の重要な部分は辛うじて動いているが、腸や胃は地面に撒き散っている。
血管も裂け血が溢れ横たわる裕斗のそばは真っ赤に染まっている。
横たわる裕斗は現状の腹部の状態が分からず手で確認しようと動かすが、視界に入るのは無残な物だった。
右手は肘から先を失い赤い鮮血を垂らし、左手に至っては視界にすら入らない。それは、肩から先を失っていることの証明だ。
その上足も同じで、何度立ち上がろうとしても膝から先の感覚が一切ない。
四肢は復讐者によって分離されてしまったのだ。
大量の血を流しすぎたせいか、視界は徐々に暗くなり死を告げる音が耳のそばでなっているような気がしてくる。
「動けないか...哀れだな木場祐斗いや、遠山隼司だったか?」
なんでその名前をと心の中で聞き返す。
遠山隼司。それは転生する前の日本に生きている時の名前だ。ここに来てからは一度も名乗っておらず、誰も知ってきるはずがない。
「驚いているのか?ふっ..俺の眼は過去を見る。それが例え前世であったとしてもな。すべて知っているさこの世界が何のために作られ、何故俺らが生きているのかな!!」
上がっていた息はどこへやら、すでに整っていて立ち上がりさまに大声を上げる。
「あぁ、つまらない。これほどつまらない存在だったのかと俺は悔やんだ。だがお前は違う。別世界から来たお前は別だ。この世界の理から外れ異常な存在たる貴様はな!!
だから俺は恨んだ。本来主たるべき俺を壊し、自分は悠々自適に暮らす貴様をなぁぁ!!
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。俺が何をした?何が悪いことをしたか?ふざけるな、巫山戯るな......ふざけるなぁァ!!
と、怒りを燃やしていたが、終わると意外と呆気ないんだな。復讐者の後に残るのは無だと知っていたんだけどな...あぁ、残念で仕方が無いよ紛い物」
情緒が不安定な言葉は重々しく裕斗の心を抉る。自分が来なければ彼はこの世界で普通に生活できていたはずなのだから。
彼自身が言った通り彼が本来の主人公なのだから。
朦朧とする意識は彼の嘆きに苦しみに悲しみに怒りに激情に引き戻される。
視界は未だ暗いままだが、耳や脳が彼の復讐者たる言葉を聞き逃す事は無い。
「そうだな、次はどうしてやろうか。お前を殺す前にお前の家族の頭を並べるのも良さそうだな」
「やめ...ろ...」
「なんだ反応したのか?アハハハアアアア!!あぁそうだ感情を見せてみろ。俺と同じ憎悪をぶつけろ!!お前の家族を皆殺しにしてやるよ、無限を無様に殺してやるよ、友達をバラしてやるよぉぉ!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
復讐者の言葉に身体は燃え盛るように熱くなる。
血はマグマのように煮えたぎり、無限の魔力はその全てを解放する。
人間が一番力を発揮するのは愛である。友愛、親愛、仁愛、寵愛、情愛、熱愛、慈愛、敬愛、恩愛、憎愛、愛憎、愛悪。
愛とは人間が人間たる由縁と言っても過言ではなく、今の裕斗の頭に渦巻くのは愛に由来する憎しみである。
自分の不甲斐なさ。力があれば守れるはずなのにその力がない。自前の魔力さえ封じられ残っているのは残念な残りカス。
惨め。それ以外の言葉が見つからない。
だからこそだ。家族を守りたい、そのための力が必要なのだ。それでたとえ自分が死ぬとしても。
「アハハハハハハハハァァ!!最高だ、やっぱりお前は最高だよ。四肢もいで立ち上がるのはお前ぐらいだよ!!」
身体の足りない部分を魔力で補い立ち上がる。
オーフィスの黒い魔力ではなく、赤く紅い自前の『消滅』の魔力で手足を作る。
腹の風穴も同じく紅で埋め、血管を強引につなぎ戦闘ができる状態まで強制的に持っていく。
そして、左右の手には本来白黒の夫婦剣を投影する。夫婦剣は刀身から塚まで紅く輝いている。
「覚悟を決めた」
「覚悟だと?」
「敵を殺す。お前を殺す覚悟だ」
貧弱な瞳ではなく、殺意に満ち溢れた鋭い眼光で射抜く。
「クロウもう少し付き合ってくれよ」
『全く呆れた相棒だな。敵を元気にさせるなんてな』
「その方が倒しがいがあるだろ?」
『全くだ。昔より血が滾る』
二人の男も覚悟を確認し合い拳を強く握り構える。
その構えに武術的何かは無く、自分が最も使い安く戦いやすいデタラメな構え。だが、それがいいと挙動一つ一つに細心の注意を払いながら視る。
「木場祐斗改め遠山隼司。お前を殺す男だ」
「兵藤一誠改め復讐者の男。名はないがお前を殺す男だ」
互いに口を歪ませ不敵な笑みを浮かべ合いながら睨み合う。
「「勝負!!」」
互いは地面を砕く速度で動き始め、拳と剣はぶつかり合い大きな衝撃波を起こした。