木場きゅんに憑依した俺は皆に勘違いされながらも生きていく   作:暁紅

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ルシファーとルシファーの妹

 

瓦礫の上に立つ少年と空中に浮かんでいる少女は互いに睨み合っていた。

 

それは、予期せぬ出会い出会ったからだ。

 

ヴァーリは兵藤一誠(仮)と共に失踪した木場祐斗を探して周囲を全速力で探している途中に、突如崩壊する家と強大な魔力反応を知覚しその場へと急行したのだ。

 

まさか、現魔王の妹を特にルシファーの血筋を助ける事になるとはかなり計画外であった。

 

それは少女も同じく、彼女ら天翼種には殲滅対象がある。

 

第一位が現魔王、堕天使幹部、熾天使達である。

第二位が現魔王の血筋、木場祐斗一向達である。

 

事実ヴァーリは第二位なのだが、下級の者達は決して戦うなと言われているのが、曹操、虞淵、ヴァーリ、奏汰の四名である。

 

今ヴァーリの前に立っている彼女では勝てないと言われていたのだ。

 

「はぁ!だからなんだってんだよ関係ないね!ご主人様の(一誠)を虐めたんだ、だったら下僕である私にやる権利がある!」

「なんだ独り言か?随分と弱気なようだな」

「うるせぇぇなぁぁ!!」

 

先程までの余裕が無くなったのか、はたまた猫をかぶっていただけなのか、そんな事はヴァーリには分からないがそれでも関係ない。

 

兵藤一誠に関わっていると思われる者は何がなんでも潰すも決めているからだ。

 

二人の間に流れる空気は凍りつく。冷たく凍てつく。

 

基本戦闘は先行が有利とされているが、二人とも言ってしまえばカウンター型であり先行が不利なのだ。だからこそ、相手が出るのを待つ事になる。

 

でも、そんな時間すら待てねぇと少女は二対の剣を魔力で型どり、双剣を構え後方に魔力を吹き出し突貫する。

 

二対の剣先を前に伸ばし、自身ごと巨大な槍になり家ごと突き穿つ。

 

「避ける訳にもいかないか...アルビオン!!」

『あぁやるぞヴァーリ』

 

本来なら避ける場合なのだが後ろを軽く見て、リアス達が避ける様子がないのを確認をすると受け止めるため両手を前に突き出す。

 

「な、舐めるなぁァァァ!!!」

「『うぉぉぉおおおおお!!』」

 

両手に剣が当たると甲高い音が響き渡る。

 

当たった直後に剣は回転を初め、ドリルのようにヴァーリの鎧を砕き始める。

 

削られた白銀の鎧は粒子となってリアス達の方へ流れる。

 

だがヴァーリとて作なしに受け止めたのではない。

 

受け止めたそばから機械的な音声で『Divide』と流れ、背中にある機械的な龍の翼から青白い粒子が溢れる。

 

これは少女の魔力を半減し自分の力となすものなのだが、たったの一回でヴァーリの魔力上限まで達しすぐに背中から余剰分の魔力が排出され始めた。

 

五回半減されたところで分が悪いと判断した少女は攻撃を中止し廊下へと足を下ろす。

 

「はは、所詮はこの程度かアズリール達は過剰評価しすぎなんだよ」

「なっに、」

 

少女の降り立った方へ向いたヴァーリだったが、すぐさまその場に崩れ落ちる。理由は両肩と両膝に貫通している実物の剣であろう。

 

確かに白龍皇の力は強大だ。相手の力が大きければ大きいほど大量の力を吸収でき、決して自分の魔力等が尽きることがない。

 

言ってしまえば赤龍帝以上に厄介である。

 

それでも効かないのは魔力攻撃であり、実物の剣を半分になど出来るはずがない。

 

そこを突かれ生き物の柔らかい部分であり急所でもある関節を見事に貫かれたのだ。

 

これを横に飛んだ時に咄嗟に行ったのだから彼女がどれだけ化け物じみているか分かる。さらに逆に言えば彼女でも天翼種の中では弱いのだ。その事を知らないヴァーリが知れば絶句してしまう。

 

「くっ、毒か」

「ご名答!かの大英雄達を殺したヒュドラの毒なんだから、結構効くでしょう?アハハハハ!」

 

抜く時の痛みに耐えながら四本の剣を抜いた後にヴァーリを襲ったのは目眩と倦怠感だった。その原因が本当にヒュドラの毒なのだとしたらとてもではないが耐えきれるものでは無い。

 

ヒュドラの毒はヘラクレスの十二の功業の一つに登場するヒュドラが持つ最強級の毒である。

 

ヘラクレスは倒した後に間違えて師匠でもあった不死のケイローンを射抜いてしまい、結果は不死を献上して死を選び、後に自分も受けた時は焼身自殺を行った。二大英雄を死に至らしめた毒はかなり凶悪なのだ。

 

奇跡的にと言うべきなのかヴァーリはどうにか意識を保ち生きているが、あと数分もすれば倒れてしまうだろう。

 

「ち、逃げろリアス・グレモリー」

「無理よ私じゃ」

「ふざけるなぁァ!!」

 

毒に全身を蝕まれているせいか鎧は解除され中からは苦痛に顔を歪ませているヴァーリが出てくる。

 

額から流れる汗の量は尋常ではなく、関節から流れるちと混ざり合い池を拡大させていく。

 

動くはずのない身体を無理やり動かし背後にいるリアスの方を向いて叫ぶも、見ている箇所にはリアスはいない。毒により殆ど視界も奪われたようだ。

 

「なんのためにそこの女が命をかけたと思っている!貴様を生かすためだろ!それなのに貴様が命をむだにしてどうする!」

「じゃあどこにいけばいいのよ!私にはもう行く場所なんて......朱乃だけなの...朱乃だけだったのに...」

 

血を大量に流し顔が真っ青になった朱乃を抱えながら泣き叫ぶ。

 

今まで溜めに溜めた悔やみや苦しみが爆発したのだ。

 

家にすら自分の居場所はない。両親は温かく迎えてくれるが逆にその温かさが苦しかったのだから。

 

眷属に裏切られたのにも関わらず誰も責めてこない。責められらない。なら何をすればいいのか。

 

部屋にこもってみた。数日で飽きた。

ボードゲームを極めてみた。数週間で飽きた。

自分の体を傷つけた。数ヶ月で飽きた。

 

やっては飽き、やっては飽き、何度新たに経験しても何も思えないしまいには考えることをやめた。

 

もう何もしない。どうせ悪魔の寿命は長い。簡単にはしなないのだと腹を括って。

 

半年程だろうか何もしなかったのは、でもその間に朱乃が話しかけてこなかった事は一度もない。

 

『美味しいお菓子をみつけたの食べない?』

『雪よリアス』

『桜が綺麗に咲いたわ見に行かない?』

『新学期が始まったわ出てこない?』

 

だが、その全てを拒絶し否定した。その結果最後の眷属の一人も死なせてしまった。

 

もう何も思えない。思いたくない。知りたくない。気づきたくない。関わりたくな

 

「甘えるなァ!」

 

青年の叫びはリアスの心を抉る。

 

「それは貴様の逃げだ。眷属が逃げた?だからなんだ新しく作ればいい」

 

やめて

 

「誰も責めてこない?好都合開き直り新たにやり直せばいい」

 

ヤメテ

 

「何も成したくないと本当に思っているのであれば、貴様はとうの昔に死んでいるはずだ!なら何故今のお前がある!過去とはなんだ!未来とは貴様にとってなんだ!」

 

 

うるさい

 

無駄に伸びきった紅色の前髪をかき揚げ立ち上がる。

 

殆ど瀕死状態であり、動けないヴァーリに近づくと胸ぐらを掴んで持ち上げる。

 

「うるさい!!なんで、なんで、私だったの...私ばっかり...こんな目に」

「は、自意識過剰も程々にしろ」

 

彼女の姿はヴァーリにとって昔の自分を見ているようだった。

 

悪魔と人間のハーフとして生まれヴァーリは幼少期虐待受けていた。

 

父にとっては遊びで作った子だったのか、本気で愛して出来た子だったのか分からないが、ハーフ人間であった事で白龍皇の光翼が宿り穢らわしいと罵倒された。

 

日に日にます暴力に耐えきれずどうにか家から抜け出すことに成功する。

 

偶然通りかかったアザゼルに保護され、本当の親というものを知った。だが、まだこの時には憎しみは抜けきってはいなかった。

 

生きる希望を憎しみにしていたさなか、木場祐斗との衝撃的な出会いと共に生きる希望も変化する。

 

普通に生きたい。

 

なんら不思議のない当然な事であったが、昔からしたら考えられない事だ。

 

だからなのか無性に彼女が放っておけない。だからこそこんな事に手を出しピンチにまでなってしまった。

 

「今貴様はやっと真の人生を歩める。悩み、模索し、経験し、失敗し、成功する。これらの積立で人生とは進んでいく。

 

なんだ、一回程度の失敗で泣き叫ぶなど弱いにも程がある。どれだけ自分が甘やかされきたのかようやく理解したか?貴様の居た世界はまだまだ生ぬるかったんだリアス・グレモリーいや

 

リアス

 

指先も完全に駆動を停止させ動くのは辛うじて首から上だけ。流石にこれ以上お遊びに付き合うのも疲れたと感じ始める。

 

「ゲオルグもういいぞ」

「なんだもう少し待ってやろうと思っていたが、もういいのか呆気ないな」

 

どこからともなく男は現れた。

 

身に纏う漆黒は世界の理から外れ。

 

変色した右の金眼。腰からぶら下がった小さい魔導書。右手を拘束するようにまとわりつく銀の鎖。

 

異形。いや奇っ怪。それがヴァーリ以外の心の内だ。

 

一歩歩む事に彼の足跡通り廊下を焦がし確固たる存在を刻む。

 

「ふむ、なるほどなこの程度なら赤子をひなる程度だな。拘束解除(フェッセルン・リリース)完全回復(エレクトリック・ヒール)完全再生(パーフェクト・ベッセルング)

 

影が光の当たる角度によって消えるように男は一歩でその場から消え、いつの間にか朱乃の横に移動する。

 

拘束解除の掛け声の元右手を覆っていた鎖がはじけ飛ぶ。

 

鎖が消えた右手は人間にあるまじきオーラーを放つ。絶対なる死を、絶対なる呪いを。並のものであればそんな物を宿した時点で死んでいたろう。あいにくゲオルグは並では無かったのだ。

 

死者の復活とは魔術において禁忌とされている。理由は単純明快、倫理を外れているからだ。

 

一人二人ならばいいが、十人百人を超えればそれは呪いとして身体を蝕む。

 

実際ゲオルグは一人山に篭もり修行する際に自身に禁術をかけた。何度も何度も何度も復活する禁忌の魔術を。

 

そのせいで、右手は呪いそのものとなり日常では封印しなければいけない。なのだが、代償として死して名を他社を蘇生する事が出来る禁断の力を得た。

 

血がほとんど空になり真っ青になっていた身体に血液が巡り、ひんやりとしていた肌からは人肌の温度が戻ってくる。

 

「次はお前だヴァーリよ、ヒュドラの毒はなかなか面白い研究したかったところだ丁度いい、汝の呪い厄災貰い受けよう、吸収(ギフト・フェアヴュンシェン)

 

ヴァーリ蝕んでいた毒は粒子となり身体から離れると、同じ呪いであるゲオルグの右手に引き寄せられ付着する。

 

目には目を歯には歯を毒には毒をと。

 

一通り仕事が終わるとはじけ飛んだ鎖がまた右手を拘束する。一時的に稼働させた右手の様子を少し確認した後、身体が徐々に影となり消えていく。

 

「先に行くぞヴァーリ、なるべく急げよ」

「分かっている」

 

二秒も経たずに身体は完全に影となり消え去る。まるで初めから何もいなかったように。

 

影とは神出鬼没なりや。そうゲオルグが言ったが全くその通りだとヴァーリは内心思う。

 

「で、どうするリアス。そこの女は助かった逃げるなら今だぞ?」

「逃げる?ずっと部屋に篭ってたのよ?運動も必要よ、ねヴァーリ」

「では貴様に背中をたくそう」

「ええ任せて」

 

朱乃を壁にもたれかからせてから、何かが吹っ切れたリアスはヴァーリと肩を並べる。

 

「やっと、茶番が終わったか。ヒュドラの毒が無くなった時はどうなる事かと思ったけど、その方が楽しいそうだ」

「だそうだ」

「なら上々ね、だって気づいてないのでしよ?」

「はっ、」

 

前兆なく少女を囲むように現れた四つの魔力の塊は音を置き去りにして加速する。

 

元来物が飛ぶには空気が壁となり邪魔をするのだが、リアスの消滅の魔力にはそれが意味をなさない。

 

空気の壁がなんだ。重力がなんだ。物理法則がなんだ。

 

「力で吹き飛ばす、過去も未来もそれが私の答えよ!」

 

地球や太陽の重力をも振り切る速度第三宇宙速度で消滅の魔力は少女に飛ぶ。

 

見えなくとも対処は出来ると四つ全てに魔力の剣を飛ばす。例え切断できなくても、数秒だけでも時間を稼いで回避するためだ。

 

だがそれを易々と許すほど甘くはない。

 

消滅の魔力の攻撃とともに、鎧を着直したヴァーリが急速に肉薄する。

 

「馬鹿な!死ぬ気か!」

「いや死ぬ気などない!」

 

右手を前に伸ばす。『Divide』聞き馴染んだ音がなり何かを半減にする。

 

後方に飛ぼうとジャンプした少女は突然ヴァーリの目の前に移動する。

 

距離が半減されたのだと思考が行き着く前に、強く握られた左の拳が顔面に突き刺さる。

 

元から後方に飛ぼうとしていたためにそのまま後ろへ飛び、丁度剣を破壊した消滅の魔力が少女に容赦なく降り注ぐ。

 

「やったな」

「ふぅ...疲れたわ」

 

互いの手の甲をぶつけ合わせ勝利の余韻を味わう。

 

完璧なコンビプレイだが、二人は先程あったばかりなのだと言われても、とてもではないが信じられない。

 

そう安心した時だった、あの放送が流れるたのは。

 

『全員全力解放を許可するにゃ、遠慮はしなくていい徹底的に殺せ』

 

死んだと思った少女は先程の時よりも何倍に膨れ上がった力と共に起き上がる。まるで不死身の化け物のように。

 

 

 


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