木場きゅんに憑依した俺は皆に勘違いされながらも生きていく   作:暁紅

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世界は刻一刻と崩れ壊れる。

 

「くっ...ここ...は」

「目覚めたようだな小娘」

 

ソーナは目覚めるといきなりの真っ暗に何が何だか分かっていなかったが、数秒で目がなれ近くから聞こえた男の声の方を向く。

 

そこに居たのは大量の瓦礫からソーナを護るように覆い、左手が関節の逆方向に曲がっている黒髪の男であった。

 

「す、すみません!今助け」

「止めろ、下手に動けば倒壊する。ひとまずお前が魔力を回復させてからだ」

「魔力?何故その事を?」

「覚えてないのか?」

 

男は疑問気な表情で空から光が落ちてきた後の事を教えてくれた。

 

結界を破壊した極光はすぐさま二発目が放たれ、街の至るビルに衝突し破壊の限りを尽くした。

 

咄嗟に魔力で水を作り水の触手で近場にいた全員を、水のドームの中に入れソーナは護ったのだと。

 

だか、魔力が無限に続く訳もなく、数十分後には魔力切れでドームは消えあわや瓦礫の下敷きになっていた所を、彼が身を挺して護ったのだ。

 

「すいません、記憶が曖昧で」

「致し方ないだろう、気にするな。それに今の問題はここからの脱出だ」

「そう...ですね」

 

ソーナは未だに頭が追いついていないのでどことなく上の空で返事をする。

 

その直後だ。男は何かに気づいたように上にある瓦礫を見上げる。

 

「ソーナアレを感じるか?」

「何故私の名前...強大な魔力、いや違う。天翼種!!」

「全員身を屈めろ!!」

 

小さな空間に男の怒号が響き渡る。

 

やっと安全だと安堵していた彼らは目元に涙を浮かべながらその場で、頭を抑えながら地に伏せる。

 

男は辺りを見渡し全員伏せたのを確認をすると

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」

 

数十キロはあるであろう瓦礫を全て持ち上げ、天翼種がいるであろう場所に投げつける。

 

あまりの規格外の怪力に人外のソーナや、地に伏せた人間達は目を点にしている。

 

瓦礫が全て飛んでいき久しぶりの光が身体に当てる。

 

外に、外に出たのもつかの間羽を生やした二人の少女に囲まれる。

 

「アレ?こんな所にいたのか」

「せっかくの一張羅が埃で汚れた!お前ぶっ殺してやる!」

 

天翼種(フリューゲル)達の見目麗しい外見とは裏腹に、持っている力は魔王以上。

 

彼女らこそが本当の人外であると断言出来るほどに力の差は圧倒的に離れている。

 

それも、今目の前には二人もいるのだ。怪我人を庇いながら戦うなど死ねと言っているようなもの。

 

魔力も殆ど尽きたソーナの頭には絶望の二文字がよぎる。

 

それでも諦めないと首を横に振り、高速でいくつもの選択肢を選び脳内で再現が全て死。脳が焼きちぎれんばかりに熱くなる。

 

だとしても止めない。

 

そんな彼女の頭に男は手を置く。

 

「深く考えなくていい。私が何とかしよう」

 

男が一人前に出る。確かに先程の怪力などを含めれば少しは戦えるだろう。

 

だが、人間の彼では少し程度なのだ。今ここにいる全員を逃がすにはとてもではないが時間が稼げるとは思えない。

 

「私も、やります」

 

震える膝を叩き立ち上がる。

 

正直いえば彼に任せ逃げたい。だが、それは駒王町の代理管理人として許容できるものでは無い。

 

男は止めようとするが、覚悟を決めた彼女の目を見て諦めたのか頭を横に振る。

 

「全く君はかなり頑固のようだな」

「よく言われます」

「そうか。ならば君を信じよう。背中を任せる」

「はい」

 

人間?とソーナは肩を並べて天翼種に向かい合う。

 

宙に浮かんでいる二人は呆れたようにため息を吐きながらも、魔力をフル活用し電撃を放つ。

 

町中で大戦闘が始まった中、とある場所では別の問題が発生していた。

 

「リアス早く」

「どこに行ったってどうせ私なんて...もういやいやいやいやいやいやいやいやいや」

「リアス!!」

 

唯一の眷属である朱乃は引きずるように駄々をこねるリアスを屋敷から出そうとしていた。

 

のだが、リアスは相変わらず外に出たがらずに部屋のベットへと戻ろうとしていた。

 

眷属全てを失い。

周りからは笑われ蔑まれ。

 

絶望のどん底にいる彼女にとっては家から出て逃げるよりも、部屋にこもりベットで寝ることの方が大事なのだ。

 

「いい加減にしなさい!!」

 

ここ一年何も文句を言わずにずっとずっとついてきてくれた唯一の眷属は主に吠えた。

 

どれだけ我慢をしたのか。それは彼女の身なりを見れば分かる。それなのにリアスは自分の駄々をつき続けたのだ、爆発するなと言う方が無理だろう。

 

「毎度毎度!!昔の貴方はどこにいったの!!もう無理よ...私にはもう無理...」

「あ、けの?」

「リアス...もう戻れないの?昔の時には」

「もど、る?どこに?どうやって?」

 

リアスの目には光が宿らない。やる事なす事全てに絶望した彼女はもう元には戻れない、それが分かった。

 

朱乃は目元に涙を浮かべながら最悪の言葉を呟こうとする。リアスは耳を両手で抑え聞こえないようにするも、強引に剥がし

 

ドゴンッッ!!

 

廊下の壁が勢いよく吹き飛び、外に広がる阿鼻叫喚となった町を見せつける。

 

だが今はそんな事よりも問題なのが誰がこのような事を行ったのかである。

 

腐っても純血悪魔の一人にして、現魔王のサーゼクス・ルシファーの妹となれば警備は厳重であり、家に至っては何重にも結界が張ってあるはずなのだ。

 

それにもかかわらず、朱乃達が気付かぬうちに破壊するなど並大抵の人外や人間に出来ることではない。

 

リアスは恐る恐る穴が空いた方を見ると、そこにいた人物に目を点にする。

 

腰から生えた白い一対の翼に、頭上にある少し傾いている輪っか。

 

全体的に白を基調としたワンピースを着ながら、黒い漆黒のブーツを履き耳に付いている十字のイヤリング。

 

顔はかなり整っていてリアスや朱乃と並んでもなんらおかしくない美貌。

 

見たことない人物ではあるがその種族はすぐに分かる。天翼種なんだと。

 

「みーつけた!あぁ時間かかった。下にいるゴミ共喋らないから、いないんじゃないかって思ってたよ」

 

淡々と語る少女の言葉に衝撃を受ける。

 

ゴミ共と言ったのはおおよそ護衛のためにいた悪魔達だろう。なにせ、下からは血なまぐさい臭いなどが漂ってきているからだ。

 

彼らはみな上級悪魔、中にはそれ以上もいたのかもしれない。だと言うのに目の前の少女はかすり傷一つない様子で皆殺しにした。

 

勝てるはずがない。咄嗟にその判断が出来た朱乃では、あったが身体が恐怖に震えピクリとも動かない。

 

一年前の朱乃であれば動けたかもしれないが、この一年戦闘に参加することなくずっとリアスのそばにいたのだ。

 

身体が恐怖に耐えられなくなっていたとしてもなんらおかしくない。

 

「あぁ、喋らなくていいよどうせすぐ終わるし」

 

少女は手のひらの上に紫色の剣を作り出す。

 

それが一体どんな原理であるのか不明だが、ほとばしる雷から魔力の凝縮体であろあと思う。

 

少女はその剣先をリアスに向け告げる。

 

去ね(行け)

 

剣は手のひらから唐突に高速で進む。狙いは心臓一択だ。

 

当たり前だがリアスは動けない。身体を震わせ目元に涙を浮かべているだけだ。

 

情けない。これが私の主なのかと思うとそう思ってしまう。

 

敵の目的はリアスの命なのだろ。リアスが死ねば私はしなないのかもしれない。それに、どうせ身体は動かないのだから諦めたっていいはずだ。

 

そう諦めて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「られるわけがないわね」

 

覚悟を決めた直後、硬直していた身体は途端に動き始め身軽になる。今なら何でも出来るのではないかと思えてすらいる。

 

動き出した朱乃は、リアスを突き飛ばして剣の前に入る。

 

「え、」

「リアス生きて」

 

先程見くびったはずなのにリアスを突き飛ばして代わりになった彼女は笑みを浮かべた。

 

儚い笑み。正しく死ぬ寸前のそれを。

 

やめてと声に出す前に剣は朱乃の胸を深々く貫く。口からは血が溢れ、地面に横たわった彼女の胸からは大量の血が溢れる。

 

「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

いつもそばに居てくれた者の死。

 

文句を言わずに耐えて耐えて耐えた彼女は目の前に横たわり、血を流し続けていた。

 

あまりの衝撃に声にならない叫び声を上げ、天翼種を呪い殺すように睨みつける。

 

「おいおい、私は関係ないだろうに。あんたがさっさと死ねば良かったんだよ、まぁどうせすぐに会えるからいいじゃん」

 

少女は呆れたように言い放ち、二撃目の準備を終える。

 

今度は躱されてもいいように大剣のように太く大きい剣だ。

 

去ね(行け)

 

三秒かけて作り上げた剣は高速回転を始め、何物も貫き破壊するように突貫する。

 

空気の壁を引き裂き。

どうにか張ったリアスの魔力結界を破壊する。

 

せっかく朱乃が命を賭して助けてくれた命がもう消えようとした。

 

死という絶対的な恐怖を前に彼女は

 

「誰か助けて」

 

死にたいとすら言っていた彼女が助けを求めた。

 

だが、近場には誰かいるはずがない。護衛の悪魔達は皆殺しにされているのだからだ。

 

死を覚悟しリアスは目を瞑り、朱乃の手を握る。最後まで一緒にいてくれた彼女と死ねるのならば本能だと。

 

それなのにいくら待てど待てど死がこない。

 

なぜ?疑問に思いながら目を開くと

 

「ふっ、とんだ場面に来たようだな。祐斗のところへ向かうはずだったんだがな」

 

銀色の全身を包む鎧は太陽の光を反射し、より神々しく光を放つ。仮面の下に顔が隠れているので多少声が篭っている。

 

「なんで」

「物はついでだリアス・グレモリー。お前の兄はルシファーを名乗っているんだ、その妹がそれでは馬鹿にされるだろう。手を貸してやるだから立てルシファーの名が泣くぞ」

 

真のルシファーの血を引くヴァーリ・ルシファーは座り込むリアスに言い放つと、拳を天翼種へと向けた。

 


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