木場きゅんに憑依した俺は皆に勘違いされながらも生きていく 作:暁紅
いやーどうにかここまで来た。これで最終回までの道筋は決まったぜ、やったね。
前の話を見てない人は前の話を見てね。ではどうぞ。
堕天使製造計画から十ヶ月程経った。堕天使になりたい者は規定の百人もゆうに超え二百人集まり、本格的に計画が始動し始めようとしている。
「明日だろうな産まれるのは」
「いよいよか」
「何かドキドキする」
「俺は別の意味でドキドキだ。一応言っておくが俺には知識があるだけで、実経験は殆どない。そこら辺忘れるなよ」
ラブラブ過ぎる馬鹿夫婦に真剣なトーンで言い放つ。
そう、この会話通り二人の間には子供が出来、出産予定日まで明日となっている。
コカビエルはその事も踏まえ堕天計画は出産予定日と同じ日にし、産婦人科医の代わりに自分も立ち会う事になった。
アルブラの病弱は未だ治っておらず、出産が近づくたび弱くなっていっている。どうにか立って歩けてはいるが、顔色も悪くあまり出産はオススメ出来ない。
それでも二人は産みたいと決意が硬いため渋々折れ、念の為に立ち会うようにした。母体の身体が弱いと出産ごに母体が死ぬかもしれないためだ。
三人はいち早くヘルモン山へ到着していた。
二百人に及ぶ天使達が欲望の限りを尽くしている間に出産する手はずだ。
何重にも防御壁を展開している部屋にアルブラを閉じ込め、男二人は外の山から下を見下ろしていた。
「遂に明日か...長いようで短かったな」
「あぁそうだな。翌日いきなり堕天した時はどうなる事かと思ったがな、今となっては笑い話だ」
「すまねえな」
「別に構わん」
地上から2814mも離れたここではかなり気温も低くなってきていて、二人が言葉を発するたび白い煙が出ている。
持ってきていた熱いコーヒーももう生ぬるくなってきている。
「これを一応渡しておく」
「なんだこれメモ用紙か?」
「最悪の場合はそこに行け」
「おいおい縁起でもねぇな」
「ミカエルは何を考えているのか読めん。それに準備しておいて損はない」
「まぁそうか」
ヘルモン山の麓にある術式で隠された小屋への行き方が記された紙を懐に入れ、一人寂しいであろうアルブラの所へ向かう。
「よしお前らいいな、自由に自分勝手に面白おかしく過ごせ!」
『おう!!!』
翌日遂に作戦決行の日となった。
頂上では好き勝手に行為に及んだり、酒を浴びるように飲んだりと本来ならありえない行動をする。
あまりのどんちゃん騒ぎに気づかれる可能性が高くなるが、これも想定済みだ。
戦闘が得意な者や名前がある程度有名な者もいるのでどうにかなる。なので、出産現場へと急いで向かう。
重い鉄扉を開けると白いベットに横になっているアルブラに、手を繋いでいるアザゼルがいた。
「作戦は決行された。陣痛はどうだ?」
「まだ大丈夫です」
「そうか。まぁ急ぐ事はない、バレるまでまだ時間は」
ある。その言葉を言う前に山を揺らす衝撃が爆音と共に訪れる。
天井に付けている電球は落ちて粉々になり明かりが失われ暗闇が訪れる。
「どうなってやがる!」
「こう言う事ですよ、裏切り者達」
頑丈に作られているはずの鉄扉は光の槍に貫かれ、ドロドロに溶け原型を留めていない。
そして、廊下の明かりに照らされ熾天使の一人ミカエルが、ゴミを見るような目で見下している。
「早すぎる、早すぎるぞ!」
コカビエルが叫ぶのも無理はない。想定では開始から四時間以降に襲われるはずだったのだが、十分足らずで捕捉され襲われてしまっている。
半年以上をかけて作り上げた隠蔽術式も何もかもが無駄になってしまった。
今すべき事は単純明快。アザゼル達を逃がす事だ、例え自分の命が消えるのだとしても。
「ミカエルゥ!!」
「貴方程度では私には勝てませんよ」
「行け!俺が殺る!」
「後で酒飲むぞコカビエル!」
布団事抱え込み、非常装置を発動させる。
出入口から最も離れた壁に触れると瞬時にひっくり返り、部屋の裏側に出る。友の命懸けの時間稼ぎを無駄に出来るわけがない。
急いでその場から駆け出した。山をくり抜いて作った新品のアジトの壁はボロボロに崩壊していて、夥しい量の血痕が残っている。
爆発音のする方を避けながら進んでいき、アザゼルとコカビエルしか知らない裏道へ入り込む。
構造途中で余ってしまい急遽適当に仕上げた道だったが、まさかこんな形で役に立つとは思っていなかった。
「ごめんなさい。私のせい」
「違う、そんな事は関係ねえ。単に誰かが情報を漏らしたって事だ」
走り上がっていた息を整える。いくら見つからないとしてもこの場に留まり続けていれば、最悪見つかってしまうかもしれない。
一度昨日貰っていた紙を見て、南口の方が近いのでそちらの方に一本踏み出した時、壁が砕け散り一人の天使が血まみれで飛び込んでくる。
「なぜだ...情報を話したら、殺さないやく」
「俺には関係ない事だ」
突然炎が発生し天使を燃やし尽くし、羽の一片すら残さず灰に還した。
灰になった奴は上級天使。いくら相手が強くてもここまであっさりやられるはずがない。
であればこんな芸当が出来るのは上級よりかなり上の天使であり、炎に関係する者は一人しか思いつかない。
「ウリエルか」
「これは、神への冒涜者らしくこんな裏道にいたか、死して侘びよゴミ共」
直径十mの三人を包む炎の結界が張られ、これで逃げる事も隠れる事も出来なくなる。
ウリエルの使う炎は他の天使には見られない敵を葬り去る力で、推進力にしたり結界を張ったり剣にしたりと凡庸性がかなり高い。
そのため、サシでやった場合アザゼルが勝てる可能性は限りなくゼロに近い。だとしてもはいそうですかと諦めるわけにはいかない。
「オラァ!」
「無駄」
光の槍を投擲するが、炎に包まれウリエルに当たる前に消失する。
これこそがウリエルの炎の恐ろしい所だ。全て燃やし尽くし神の炎。まるで、グレモリー家の消滅の魔力のような力だ。
当たり前だが炎には聖属性が付与されているので、堕天使したアザゼルには大ダメージとなる。故に一撃も受けてはいけないハードモードである。
今度は槍を剣のように変形させ、近接戦を挑む。
逆に近づけばウリエルも自分の炎に焼かれる可能性があるので、勝機があるとしたらそこしかないと実行に移すが、その事を警戒していないウリエルでもない。
「去ね」
「がハッ」
近づいてくるアザゼルに身体の捻りを加えた衝撃波をぶつける。中国拳法的に言うのであれば発勁と呼ばれるのだろうが、原理が少しばかり違う。
基礎的には体重移動による『突き飛ばし』で、異質な力によって吹き飛ばす。そのため、そこまで爆発的な威力は出ない。仙人や達人はこの事に該当はしない。
では、何を行ったのかそれは身体のしなやかさを活用した『拳骨』である。
天使と言えども肉体は人間にかなり近いので、空中で戦うより地面の方がやりやすい。それは足場が安定しているからに他ならず、しっかりと踏み込めるからだ。
だが、殆どはその踏み込みから一撃を放つ際に何割か力が落ちてしまう。それを身体を捻りしなやかさを活かして百%を掌に集め放ったのだ。
その一撃をモロに受けてしまったアザゼルは肋の骨が何本も砕け散り、炎へと自分から飛び込んでしまう。
「がァっァあ」
「痛いか、それが貴様の罪だ。では断罪の時だ、悔やみながら逝くがいい」
手元に剣のように展開した炎振り下ろす。
この時ウリエルは思い違いをしていた。アルブラを戦闘が出来ない弱い悪魔だと判断し、後回しにしてしまったのだ。
結果として彼女はアザゼルが傷つけられた怒りにより覚醒を果たした事になる。
「俺の剣が消えた...いや消滅したのか。女お前の力だな、まさかグレモリー家がいるとはな」
「お前を許さない...確実に仕留める、だからもっと力よ安定しろォ!!」
彼女が無意識に抑えていた力が爆発的に高まり、至るところがヒビ割れ黒い靄が出てくる。
いつも通りの暴走。だと一瞬思ったが暴走ではなく安定だった。
ヒビはドンドン広がり身体の全体を支配した時には、黒い靄も真紅の魔力へと変貌し完全支配下に置いた。
アルブラが十二分に魔力を扱えれば悪魔最強になれる。誰が言ったか分からないがその言葉は現実の物となる。
「はァァァ!!」
「ぬっ悪魔がァァァ!!」
燃やし尽くし対消滅。互いに相殺しあい殆どダメージにはなっていないが、どちらが押しているのかは一目瞭然だった。
炎は無制限に使える物ではなく、顕現出来る一定の量が定まっている。
その殆どを結界に使ってしまっているので、戦闘においてあまり使えない。だから格闘術を習得したのだが、それが仇となり戦闘が万全に行えない。
覚醒した直後で力が上手く扱えていないおかげで今は耐えられているが、次第に慣れ始めかすり傷を負い始めている。
「あぁぁあああ!!」
「貫け
魔力で象った槍は最強の矛となりウリエルを穿つ。
それに対し死を覚悟をしたウリエルは結界を解除し、最強の盾『
最強の槍と最強の盾。矛盾の対決は双方の力の消滅の形で現れた。
一命を取り留めた。そう思ってしまったウリエルはいつの間にか背後に回っていたアザゼルに気づくのに遅れてしまう。
「吹き飛べやァァ!」
「何ィッ!」
確実に肋を砕いたはずの男は立ち上がっていて全力の拳を奮ってきた。咄嗟に防御するが、その一撃は何物よりも重い。
骨は砕け散り強引に破られ、顔面に拳が迫りそのまま撃ち抜く。
殴られたウリエルはそれで意識を失いはるか後方へ吹き飛んで消えていく。死んだか生きているか分からないが、立ち上がれるわけがないと理解している。
肩で息をしているアザゼルはその場に膝から崩れ落ちる。別に骨が治った訳でもなくて、アドレナリンで痛みを消し強引に殴ったのだ。
そのせいで身体は震え殆ど力が入らない。だとしても立ち上がる。そうしなければならない。
血反吐を吐きその場で痛みから倒れてしまったアルブラを抱えあげ、足を引きずりながら進む。
何ら変哲もない木製の小屋なのだが、深い霧に覆われていて特殊な入り方をしなければ辿り着く事は出来ない。
アザゼル達はどうにかその工程を終わらせ小屋に入る。
中はシンプルな木の壁なのだが、異質な存在の煖炉に小さなベットが一つだった。
とにかく彼女の安全を確保するために小さなベットに横にする。
「大丈...夫か?」
「くぁっあはぁ」
「どうすれば」
「煖炉に火を灯せ。陣痛だ」
窮地に現れたのは血まみれで、左手をだらんと垂らしているコカビエルだ。
最初は意味が分からずボケっとしていたがすぐに理解し、急いで煖炉に火を灯し温める。
「よし、俺に続け、ヒッヒッフー」
「ヒィッヒッフゥゥ」
「ヒッヒッフー」
「ヒィ!ヒッフゥー」
今のアザゼルに立ち入る隙はなくただ祈るばかりだった。神を裏切ったのだがそれでも神に祈る無事に産まれてほしいと。
彼女の苦痛の声を聞き耳を閉じたくなるが我慢し、耐え抜き遂に産まれる。
「おぎゃーおぎゃー」
「産まれたか...」
すぐに暖炉で軽く炙ったあったかいタオルで子供を包み、アザゼルに渡す。
「これが俺の子か...ふはは何だろうなこの感覚」
「私にも...見せて」
「おうほれ」
ベットで横になっているアルブラの横に赤ちゃんを置く。
産まれたばかりでまだ殆ど毛もない可愛い我が子の頬を突っつく。柔らかく反発し鳴き声から笑い声に変化した。
「良かった...最後に見れて」
「最後って縁起が悪いだろうが、お前はこれからも」
「無理だよもう。ほら足を見てみて」
言われた通り見てみると太ももから下が消えていた。
考えるまでもなく原因は明確だ、先程の戦闘による覚醒だろう。
元々身体の弱かった彼女の身体では全てに耐えきれず、徐々に身体を消滅させていっている。
「何か何か」
「無理だ出来ることは無い」
頭を抑え始めるアザゼルの肩にそっと手を置き、残酷なようだが事実を突きつける。
認められない。認めたくない。これから幸せになるのに、幸せになるはずだったのに。
彼女は消えようとしてて、それに自分は何も出来ない。自身の無力さを今痛感してしまう。
「すまねぇ俺がもっとしっかり」
「ううん。これでいいの、最後に好きな貴方を守れただからもういい。けどね最後は」
「あぁ...分かってるよ」
溢れ出る涙を払い唇を合わせる。
彼女が完全に消えるまでずっとずっとそれは続き、心の底から彼女は笑顔のまま消えていった。
最後にか弱い力で頬を触れた手も消滅。完全にこの世から彼女は消えた。
「うぁああっああ」
ただ泣き叫んだ。それしか彼には出来ないからだ。
子供はこのまま連れていけば確実に死んでしまう。そのため、善良な民間人に預け生き残った半数の堕天使を率いる事になった。
奇妙な出会いから始まった奇妙な関係は、たったの一年にも満たない期間であり、彼ら人外にとってはあっという間の時間だ。
だが、アザゼルは今まで生きてきた期間よりも熱く強い思い出がそこにはあった。
△△△△△△△△△△△△△
「てなわけだ」
「そんな事が...」
「それでだ。祐斗は言わば俺の子孫であり、先祖返りして俺たちの力を得てしまったんだろうと思われる」
あの後から延々と血は引き継がれ、どんどん血が薄まり力も弱くなって行ったのだが、時々先祖返りとした力を取り戻す者もいた。
結局その者も魔女狩りと称して殺されていった。
その中でも祐斗は特別でアザゼルとアルブラの直の子供と、同等の力を持っていた。それが会議の時に一時的に覚醒し、結果として自分を攻撃し倒れてしまった。
どうにか手足の消滅は回避出来たのだが、次禁手を使えばどうなるか分からない。そんな事態なのは変わらない。
「これは私怨だ」
「あぁいいぜ」
サーゼクスの拳を避けることなく、手をおおっぴらに広げ殴られる。
これはある意味いつか伝えねばならないと思っていた事だ。そうすれば殴られるのは容易に想像出来、最悪殺される事も想像した。
もっと殴ってもいいのだがサーゼクスは一撃でやめ、椅子に座り直す。
「いてて。まぁてなわけでだ、今後の方針としては絶対に力を使わせるなよ。次は分からねえからな」
「任せろ。確実に止めてやる」
虞淵は頑固たる意思で宣言し、未だ寝ている裕斗の元へ全員で向かう。
△△△△△△△△△△△△△
そこは山である。
富士の樹海。迷いの森などとも呼ばれているそれは、人外ですら避けて通る。
過去に何度も挑んだ調査隊は見事帰らず、天使、悪魔、堕天使、妖怪。種族問わず入れば帰らないため不干渉を決定した。
そのはずの森を一人の青年が登っていた。
山登りの適した格好ではなく、どこかの学校の制服の青年は、全身ボロボロにしながらひたすらに登っている。
登り始め一時間遂に歩みを止めることのなかった足は止まる。
そこは少し開けた場所で、目の前に巨大な穴がある。
青年はなんら臆することなく穴へ入る。すると、置くから唸り声が聞こえる。
『GEYAAAA』
「やはりここにいたか。これで俺の願いは叶う」
出てきたのは四足の王道の黒いドラゴン。なのだが、金と黒のオーラを全身から放っていて明らかに威嚇している。
「クロウ・クロワッハだろ?」
『ほほう俺の正体に辿り着いたか』
突然流暢に喋り出した龍の正体は
ケルト神話において戦いと死を司る龍で、邪龍と呼ばれる存在ながら二天龍と同等の強さを秘めている最強格の龍である。
この場所は実はこの龍の隠れ家であり、勝手に侵入してきた人や人外共を始末したに過ぎない。
この事を予め調べて知っていたのにも関わらず青年はこの場に来たのだ。ではその理由は何なのかクロウにはまるで分からない。
「俺と契約しろ」
『契約だと?この俺にか...フハハハハハハ。いいぞ面白い聞いてやる』
「復讐だ。俺の全てを奪った一人の男を殺したい。そのためにお前がいる」
『ほほうなるほどな...いいだろう。但しその身体は』
「全てくれてやる。だから力をよこせ」
まさかの即答にまた笑ってしまう。それ程までに目の前の人間は常軌を逸していた。
そのせいなのか異様に引かれ興味が湧いてくる。
『名前はなんだ、俺だけ知らないのでは契約ではないだろう。それと復讐の相手の名前もだ』
「兵藤一誠、相手は木場祐斗だ」
ここに運命が狂わされた一人の人間の復讐劇が始まった。この後一誠は家に戻らず失踪届けが出されるも、見つからず戸籍上死亡した。