木場きゅんに憑依した俺は皆に勘違いされながらも生きていく   作:暁紅

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次回過去編最終になると信じてください。そして、やっと最終章に入れます


堕天使への道のり

 

その日は何故か異様に仕事に追われた。

 

いつもの数倍にも及ぶミカエルからの虐め(雑用)をどうにか片付け、彼女の元へ帰宅する。

 

全身疲労困憊で満身創痍。四字熟語のオンパレードになってしまうが、それ程忙しかった。

 

結界に守られた家の敷地に入った時だある違和感に気づいたのは。

 

「結界が緩い?...まさか」

 

これでもアザゼルは頭の回転が早い。瞬時に最悪の事態が頭をよぎる。

 

誰かしらの天使がここに侵入しアルブラが殺される。これは最悪の想定だが、最低でも怪我をしている可能性は高い。

 

ドアなど気にしてる暇もないので、思いっきり蹴り破り家へ強行突入する。

 

それはリビングにいた。8の白い羽に赤い液体をつけ、高笑いしている見知った顔だ。

 

「コカビエルぅぅぅううう!!」

「ん?な、おい待て」

 

コカビエルの声など届くわけもなく、光の槍を細く長く圧縮し全身全霊で穿つ。

 

アザゼル自身ですらここまでの速度が出るとは思っていない。まさに火事場の馬鹿力だった。

 

玄関からリビングまでは5メートル。直進の道を一秒未満で走り心臓を狙う。

 

「チ、待てと言ってるだろうがァァ!」

 

このまま命をどうぞと差し出すわけもなく、二本の槍を作り盾の代わりとして使う。

 

槍同士が激突した瞬間一本目は砕け散り、二本目にも大きな亀裂が入る。

 

だとしても槍を止めた。それは大きな成果だ。

 

「何を血迷っているアザゼル!」

「何をだと......テメェがアルブラを、俺のアルブラを殺したんだろうが!!」

「殺していないわ!逆にお前の発言の方が致命的だ!」

 

通常の槍の間合いになって気がついたが、羽に付いている赤い液体からはトマトのような匂いがする。

 

さらに、奥からは顔を真っ赤にしているアルブラが両手で顔を隠している。

 

やってしまった。心の中でそう呟きながら自分も赤くなった顔を両手で覆う。

 

 

 

「はぁ...早とちりな上勘違いで仲間を殺すか...呆れて物も言えないぞ」

「すまん」

「さらにはその後に告白する...はぁ...」

「いやマジですまん。だからその事を言うな」

「俺の...俺の...俺の」

「お前もいつまでも引きずんなよ!」

 

あの後どうにか落ち着いたアザゼルに何があったのか説明をするため、改めて椅子に座り合う。その間もアルブラはボソボソ呟いていた。

 

結論としては簡単で、料理を手伝おうとしてケチャップを入れていた袋を、握り潰してしまい白い羽にかかってしまったのだ。

 

白は洗濯物の時にも醤油やケチャップが命取りなのに、かけてしまったので自暴自棄になり笑っていた。

 

その光景を見事に勘違いしたアザゼルの攻撃からの告白。B級映画でももう少しマシな話を作るだろう。

 

と、巫山戯た会話も程々にコカビエルは真剣な表情になる。

 

「ここに来た目的だが...一緒に堕天しないか?そうすればそこの悪魔とも結婚できる」

「はぁ?堕天?無理だろ。絶対にミカエル達が邪魔するだろうし、それに最悪熾天使全員出てくるかもしれねぇ」

「安心しろ。ガブリエルとラフェエルは手を出してこない。そう約束させた」

 

コカビエルはさも当然のように言っているがそれはとてつもなく難関だ。

 

まず、熾天使は天使の中でもトップクラスなため堕天などは決して許さない。

 

次に、買収などしようとも彼らは神至上主義のため根本的に無理だ。

 

なのに、コカビエルは約束させたと言う。その言葉が本当ならばかなり可能性は出てくる。

 

「半分か...頭数がいればなんとか」

「今集めているさなかだ。下手に広めれば他の二人の耳に入る可能性があるからな、慎重に集めている。予定では百人だろうな、今は二十人程度だな」

「なるほどな...」

 

普通に考えればメリットの方が大きい。デメリットを強いて言えば天使でなくなる事と狙われる事ぐらいだ。

 

天使に飽きていたアザゼルには別にデメリットとすら認識しないレベル。だが、アルブラも狙われる可能性が高くなってしまう。

 

即答は出来ない。これは二人の今後の人生がかかった大きな別れ目だ。

 

チラリと横を見る。もう落ち着いていつも通りのアルブラがこちらを見つめている。その瞳から伝わる思い。それしかないと覚悟を決める。

 

「その話乗った。俺も堕天するぜ」

「よし、お前が入ればかなり引き込みやすくなる、助かったぞ」

 

コカビエルはガッツポーズを取り、握手を求め手を前に出す。

 

これからは運命共同体となった友の手を握り返し、契約はその場でなされた。

 

 

すぐにコカビエルは家出て仲間を増やしていくらしい。

 

そして、残るは二人だ。いつもの通りであれば会話も弾むのだが、告白の件もあり互いに話を切り出せずにいる。

 

無言で茶を飲み、少なくなったので新たに無言で注ぐ。

 

「あぁそろそろ帰る時間だろ?帰らなくていいのか」

 

静寂を破ったのはアザゼルだ。

 

時刻はいつも間にか進んでいて、そろそろ帰らなければまずい時刻だ。

 

アルブラは一度深呼吸をして、覚悟を決める。

 

「私は帰らない」

「はぁ?おいそれは」

「アザゼルが今の種族を捨てるのなら、私も捨てるそれだけの事...それに、あの家に私の居場所はないから」

「......いいのかお前はそれで」

「うん。私はアザゼルの物だから」

「なっそれを言うのかよ!」

「うん」

 

さっきまでの静寂が嘘のように音が生まれ、笑顔の花が咲き誇る。

 

本格的に泊まるのであれば寝る部屋を用意しなければならないので、部屋に布団を運ぼうとするのだが

 

「一緒に寝ないの?夫婦って同じ布団だって」

「いやいや、まだ早いだろ。それはなほら色々進んでから」

「そっ...か...」

「あぁぁ!よし寝よう。一緒に寝よう」

 

女の泣き顔に逆らえる男は極限りであろう。無論アザゼルは逆らえず布団をしまい同じ布団で寝ることにする。

 

アザゼルの部屋に初めて入ったアルブラは多少興奮しながらも、互いに色々疲れたのですぐに布団へ身体を沈める。

 

呼吸の音が耳の横で聞こえ、彼女のいい匂いが鼻腔をつく。

 

邪な事を考えればすぐに堕天してしまうので、一生懸命素数を数え誤魔化すも、3.14までしか知らないので頭の中でゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。

 

布団に潜って十分、二人とも未だ眠れずにいた。隣に好きな人が入ればそれが普通の反応だ。

 

「ねぇアザゼル」

「なんだ?今素数を」

「襲わないの?本ではそうだったんだけど」

 

彼女の知識はかなり偏っている。一般常識は疎いのに関わらずこういう変な事はよく覚えている。

 

自分の羽が白黒に点灯しているが分かる。

 

耐えろ。耐えろ。と念じて一回目は耐えられたが、二回目の誘惑には勝てずにそのまま二人は熱い一夜を過ごし、先んじて堕天してしまう。

 


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