6月5日
川内に仕掛けてもらった盗聴器が大活躍中。執務室内での会話や電話でのやり取りが丸聞こえだ。1番期待してるのはSebicの入手ルートだが、そう都合よく取引が行われたりはしなかった。
当たり前か。そもそもSebicはそのプログラムをインストールするために専用の機材が必要で、しかもそれがまた高価なんだよな。お手軽に買うようなもんじゃない。
今あるのは恐らく鎮守府の運営資金や資材の違法売買なんかで横領した金で買ったんだろうけど。
まあ入手ルートについてはいいか。憲兵長との真っ黒なやり取りは録音できてるし、どうせSebicの在処は割れてるからとりあえず資料改ざんや艦娘への虐待って名目で踏み込んでもらって、その後の調査で
入り口が指紋認証じゃなきゃ忍び込んで映像に撮ることも選択肢に入ったんだけどな。
6月6日
胸糞悪い光景に遭遇した。昼間から酔っぱらってる二人組の憲兵が工廠の裏で駆逐艦に向けて発砲してやがった。しかも実弾だ。この鎮守府で『射的』と呼ばれている虐待の一種で、話には聞いてたけど実際目の当たりにすると見るに堪えなかった。
艤装を展開してるからいくら撃っても無傷とか、そういう話じゃない。跳弾ってことにして二人の眉間に風穴空けてやりたかったが、そんなことをすると面倒事が艦娘の方に向かう恐れがあったからそれは断念。
代わりに芝居を打ってその場からご退場願った。もちろん穏便にだ。
ただしそいつらの行為は胸に潜ませておいた小型カメラでしっかり録画させてもらったので、告発の際には然るべき処罰を嘆願しておこう。
6月7日
今さらだけどここの憲兵って犯罪はしても仕事はしないのな。毎日ちゃんと鎮守府内を巡察してる俺がバカみたいじゃん。
今日なんか川内三姉妹とばったり
よくよく考えてみれば見て回る先々で敵視されたり怖がられたりして精神的にダメージ受けてばっかな気がする。情報収集のためには必要なことだからしょうがないんだけど、ここまで嫌われてると誤解が解消してもお互い気まずくなりそうだよな。
俺がいると今までのことを思い出すかもしれないし、場合によっては転属も視野に入れるべきか?
6月9日
相談というほどのもんでもなく、ふとこの前こんなこと考えてたな、と思い出しただけのことだった。だから何の気なしに五十鈴と川内に「俺はここを辞めた方がいいと思うか?」って聞いてみたら、かなり強めに反対された。
五十鈴には「そこまで思い詰める必要はないわ!」と説得され、川内には「2人の誤解は私が解くから!」と半泣きで言われた。予想してなかった深刻な感じの反応をされて「お、おう……」みたいな返答しかできなかったんだけど。
軽い雑談のつもりで別に思い詰めてるわけじゃないし、神通と那珂のことを気にしてるわけでもない。
でもそんなこと言ったら怒られそうな雰囲気だったから黙っておくことにした。
6月12日
今日も今日とて憲兵のお仕事。先輩の憲兵は無気力、提督は無関心なおかげで新人で下っ端の俺に雑務が回ってくる環境が出来上がっている。自然に書類全般に触れる機会が作れて大助かりだ。
しかし提出書類の改ざんがひどい。最も顕著なのが違法出撃だ。
有事の場合を除いて、各艦娘は1ヵ月ごとに出撃回数及び出撃時間の上限が定められている。しかし十九渕鎮守府では一部の艦娘、特に潜水艦達の出撃回数が異常だ。ここ2年分ほど遡ってみたが、ほぼ毎日、多い時には日に2度も出撃させられている。
轟沈だけは出さないようにしているみたいだがそれも艦娘を守るためではなく、轟沈した際の報告書提出を避けるのと、大本営に届け出している在籍艦数の辻褄を合わせるためだろう。潜水艦は狙っても建造しにくいらしいからな。
その代わりなのか比較的建造しやすい駆逐艦や軽巡洋艦といった艦種は大破進撃が頻繁に行われてる。五十鈴や川内も経験あるらしい。笑えない。
それでも報告書類には規定以内の出撃回数、出撃時間が記されている。轟沈も大破進撃もなしだ。たった2年で7人が轟沈しているにも関わらず。
だがそれも一部だろう。轟沈したのと同型の艦娘を建造するまでに不必要として解体されていったやつだっている。その数50人以上。
これらの建造と解体も無許可で行われている。そして建造資材を稼ぐために潜水艦は休憩もろくに取れないほどの激務に見舞われている、ってところだろう。
艦娘をなんだと思ってんだ。
6月15日
今日は青葉さんと会った。1ヵ月ぶりの再会に積もる話をする……ことはなく、積もりに積もった不正・違法行為の証拠を受け渡した。
鎮守府内での不正行為の書類(コピー)や五十鈴達から得た犯罪行為の証言、川内に設置してもらった盗聴器で傍受した会話の録音や巡察しながら小型カメラで録画した艦娘に対する虐待行為の映像もある。
後半ふたつはあまり公にできるもんじゃないだろうけど、内々で処理するなら充分すぎる証拠のはずだ。軽く目を通した青葉さんの表情が険しくなるくらいのものは用意できたってことで。
ついでに告訴状も俺の署名入りのやつを一応添えておいた。俺の名前で受理されるかは分からないが、まあないよりはいいだろう。
これで俺がやることは全部終わった。あとは大本営から派遣される国家憲兵にしょっ引いてもらうだけだ。さっさと鎮守府を掃除してほしい。
6月17日
青葉さんから監査が行われる日が通達された。
決行日は5日後の6月22日。さっさと掃除してほしいとは思ってたけど、それにしたってフットワーク軽すぎない?
これはあれだな、向こうも向こうで監査に入る下準備を整えてたんだろう。証拠だって前からつかんでたに違いない。じゃなきゃ俺が提出した証拠類を精査して告発するかどうか決定し、手続きを終えて正式に承認されるまでが実質1日とかありえないわ。
というか監査に入る予定があるような鎮守府にいきなり放り込むとかひどくない?俺新人なんだけど。
周防大将、結構人使い荒いなぁ。
6月21日
五十鈴と川内が妙にソワソワしてる。監査日の前日だからな。
明日の今頃には提督と憲兵、総勢42名がお縄についてるだろう。
突入は明朝6時。寝坊しないように今日は早めに寝ておくか。