憲兵さんの日記   作:晴貴

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2話 いざ鎮守府へ

 

 

5月10日

 

 海軍に入隊し、憲兵としての基礎基本を叩き込まれることおよそ1ヶ月。俺は来週から正式に憲兵として鎮守府に赴任することになった。

 いやー、この1ヶ月は頭も体もフル回転で疲れたなぁ。先輩達の指導はもちろん、最低限の知識を頭にねじ込むのがきつかった。

 

 しかし俺はそれをやり遂げた!来週から勉強しなくて済む!……わけはなく、働きながら勉強は続けなきゃいけない。まあそれでもペースが落ちるだけ楽になるのは違いない。

 ちなみに俺が赴任することになるのは十九渕(つづらふち)鎮守府という。生まれて初めて関東圏外での生活だ。

 まあ鎮守府内に寮があるらしいので、基本的に敷地内での生活になるからどうだってこともないんだけど。

 しかし休日になれば外出できるので、今のうちに観光地や名産品でも下調べしておくか。

 

 

 

 

 

5月14日

 

 意気揚々と、やって来ました十九渕鎮守府。

 色々あって疲れたから一言だけ。

 家に帰りたい。

 

 

 

 

 

5月15日

 

 昨日目にした光景は夢だったかもしれない……という願いは叶わなかった。

 念のためここに着いてからの一連の流れを軽く記しておく。

 

 鎮守府に到着した俺は、ここの艦娘である五十鈴(いすず)に連れられて憲兵の詰め所に案内されたが、ぶっちゃけこの時点で嫌な予感はしてた。

 だって五十鈴の目、死んでたんだもん。ハイライトが消えてるっつーの?

 五十鈴は文句なしの美少女だったけど、その目のせいで不気味さを覚えてしまった。正直言って怖い。

 

 んで、憲兵長や先輩方にあいさつしたあと、ここの鎮守府の提督の元へ。年齢は四十代半ば、やや小太りの提督は開口一番「君は艦娘は好きかね?」と尋ねてきた。

 詳しくは知らないが、好きか嫌いかで言えば好きである。彼女達は深海棲艦に対する人類にとって唯一の対抗手段であり、また艦娘といえば全員が美女または美少女であるということで有名だ。

 彼女らの内面性を知らない俺には今のところ嫌いになる要素がないので肯定しておいた。

 すると提督と憲兵長の笑みがさらに深まった。

 

 はっきり言おう。見てて不快になる顔だった。

 とはいえいきなりそれを指摘できるわけもなく、もやもやしたものを抱えたまま初日の業務を言われた通りにこなした。

 そして寮の自室に戻りあとは寝るだけというタイミングで部屋の外から声をかけられた。声の主は憲兵長。

 何用かと思い顔を出せば、そこにいたのは憲兵長と、今朝俺を案内してくれた死んだ目をした五十鈴だった。

 

 疑問を口にする暇もなく、憲兵長は自分の背後に立つ五十鈴を親指で指しながら、あのニヤついた笑みで俺にこう言った。

 

 就任祝いだ、五十鈴(コイツ)を好きにしな――と。

 

 

 


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