6月25日
色々あったがとりあえず一件落着。五十鈴と川内に砲撃されたり提督が護送中に自殺するという問題はあったが、もう俺が頭を悩ませる必要はない。そうであれ。
明日からはしばらくの間横須賀鎮守府での生活になる。久しぶりだが先輩達は元気にしてるだろうか。
6月26日
横須賀に戻ってきた。2カ月ぶりだ。
俺との再会を先輩達は泣いて喜んでくれた。早く帰れと言われたから泣いてるだけかもしれないが。
ここにいた時に強くなりたいっていうから俺が昔やってたトレーニングを教えたのがまずかったんだろうけど、それなりに加減したしあれ以上どうしろってんだ。血ヘドを吐かないで強くなれるわけないだろ。
それから五十鈴と川内が稽古をつけてくれと言い出した。別に向こうに戻ってからならいいけど、艦娘って対人格闘を学ぶ必要あんまりなくない?
戦場では何があるか分からないとはいえあんまり役に立たない気がする。ほぼ遠距離での撃ち合いだから、近接戦闘する機会なんてほぼないと思うんだけど。まずは艦娘として海上戦闘で必要になる基本能力を底上げする方が先決じゃないのか?
まあ艦娘が水上で戦っている感覚を俺は知ることができないので、その辺の判断は自分達でやってもらえばいいか。
6月27日
時間ができたってことで周防大将に呼ばれて顔を合わせた。相変わらず渋い。
話の内容を要約すると「よくやった」ということらしい。期待に応えられたなら何よりだ。
今回のことで思うところはあるし周防大将の言葉も額面通りの意味だけじゃないだろうけど、まあ下っ端の俺は特に何を言うでもなく、そして余計な詮索もしない。基本従順だからな。
とにかく願わくば平穏な憲兵ライフを送りたい。無理そうな予感がするけど。
なんかやってることが想像していた憲兵としての仕事とかけ離れてる気がするんだよなぁ。
午後からは俺も聴取を受けた。聴取という名の口裏合わせだったが。
これで書類上、俺は証拠の提供と突入の際に提督達の気を引き付けた、程度の役割を果たしたことになる。たぶん名取、神通、那珂の3人も突入時の証言に関して同じようなことになってるだろう。
6月29日
そういえばここは川内が建造された鎮守府だった。よく考えるとあいつは俺の先輩なんだよな。全然そんな感じしないけど。
今日、横須賀の艦娘と談笑してる川内を見かけてそんなことを思った。
そして小耳に挟んだんだけど、どうやら川内は以前と比べて人が変わったらしい。ここにいた時は何度もうるさいと注意されるくらい夜戦夜戦と騒いでいたのに、今はすっかり大人しくなった、ということだった。
川内は割と元気な奴ではあるけどそこまでのイメージないからその話を聞いてちょっと新鮮だった。
まああんな鎮守府に何年もいたんじゃそりゃ性格も変わるよな。川内は手を出されていたわけだし、あそこの艦娘の中でもトップクラスでつらい目に遭ってたんだから。
柄にもなく少ししんみりしてまた夜戦好きになれるといいなって励ましたら川内だけじゃなく五十鈴にまで微妙な顔された。意味分からん。俺なんか変なこと言ったか?
7月1日
今日から7月、夏だ。梅雨明け間近ながら横須賀はすでに暑い。
そんな中、十九渕鎮守府の面々の解除作業はこれといったアクシデントもなく終わったようだ。これで本当に一安心である。
ただ青葉さんが難しい顔してたからやっぱり何か問題あったんだろうな。無関係でいたいもんだ。
そんなことをポツリとこぼしたら漣に「いやー、それは難しいんじゃないですか?」と言われた。
相変わらず一言多い奴だな。
7月2日
川内との約束を果たしてきた。「私のしたいことを手伝って」っていうあれだ。有耶無耶になりかけたけど覚えてたんだな。
その内容はまあなんでもないことだった。
俺と川内と五十鈴、3人で横須賀の街にくり出して買い物したりうまいもの食べたり、要するに遊びに出かけただけだ。
想像以上に普通のことだったけど、あいつら元の鎮守府じゃ外出禁止されてたからな。そもそもしっかりとした休日自体が設けられてなかったし。そういう意味じゃ確かに有意義な羽の伸ばし方にはなったと思う。
ちなみに出かける際は2人とも私服だった。川内は横須賀時代に買ってた自前、十九渕鎮守府生まれの五十鈴は川内の伝手でここの艦娘に借りたらしい。いつもの格好で街中にいたら目立つもんな。
借り物の五十鈴は清楚系なワンピースドレス。ネイビーカラーを基調に、首回りと腕は白いレース系でいかにもお嬢様チック。少し恥ずかしそうだったが似合ってた。
川内は対照的にショートパンツ+ニーハイの健康的な脚線美で、こっちは普段のイメージに違わない出で立ちだった。
まあどっちも素材はいいから大抵のものは着こなせそうだしな。
あと気になったのはずっと俺達を尾行してる奴がいたことだ。といっても川内の同僚だったっていう瑞鶴と夕張なんだけど。
なんなの?出刃亀?
嫌な感じの視線じゃなかったし五十鈴達も気付いてないようだからスルーしたけど、これが青葉さんだったら速攻でとっちめてたね。あの人無断で写真撮ったりするからな。
あれは取材じゃなくて盗撮だと思うんだ。
7月4日
最近、駆逐艦の電がよく俺の方を窺っている。俺を見かけるとチラチラ視線を飛ばしてくる。それは嫌悪でもなければ惚れた腫れたの熱っぽいものでもない。
ただずっと気まずそうにしてるし、痺れを切らして俺の方から話を聞きに行った。
その結果電は涙目になり、あいつの姉妹艦の姉3人には警戒されたが。それでも話を聞くことには成功した。
肝心の理由は、ずっと誤解して怖がったり悪い人だと思い込んでいたことを謝りたかった、ってことらしい。それで電が楽になるならってことで電、そして姉3人から謝罪は受け取った。
とはいえあいつらは「誤解した」んじゃなくて「誤解させられていた」、つまりは騙された側なんだからそう気に病む必要はない、とフォローはしておいた。
鎮守府内の治安を維持・改善するのが憲兵の仕事だからな。元より憲兵は提督に毛嫌いされやすいからそんなこと一々気にしてないし。
そんな感じの説明したら響に「ハラショー」って言われた。
軍人なんだけど、基本的に駆逐艦ってのは子どもっぽさが色濃い。有り体に言えば単純ってことでもあって、どうやらあいつらはその話を聞いて俺への印象が改善したらしい。ちょろすぎるだろ。
まあもしかしたら十九渕鎮守府でまた一緒に仕事するかもしれないからわだかまりが残ってるよりゃいいけどさ。
7月5日
俺が電を泣かせた、っていうのが噂になってた。そしてそれが勘違いだって電達が必死に火消しをしてくれたらしい。
らしいってのは俺が知った時にはだいぶ事態が進行してたせいで詳しくは知らないからだ。
とりあえず電達が奮闘したおかげで更なる勘違いが発生し、それに見舞われた俺はようやく事の次第を知ったわけだ。
さすがに駆逐艦に手を出して4股かけるとかねーわ。いや、電達が俺の名誉を守るのに必死すぎてそう見えたらしいんだけどさ。
本当にそうだったら俺はロリコンの上にクズじゃねーか。
いきなり部屋に押しかけて来た五十鈴と川内に真顔で「わたし達に手を出してくれなかったのはそういう趣味だったから?」って問い詰められた時は意味分からなさすぎて固まったからね。
っていうかその言い分だと2人には手を出していいってことなのか?
7月6日
いいらしい。ただ直接聞くなと怒られた。
確かにデリカシーに欠けてたかもしれない。悪かった。