ホープの殺意が更に高まりました(笑)
今回はクリスマス前なので……少々ラストにイチャラブを加えました。
監獄塔編には似合わないと思いますが、どうしてもこれだけが頭から離れられなかったのです。
ご了承ください。
「うぉおおお!かっとビングだ、俺!!」
遊馬は一刻も早く監獄塔から脱出する為に第二の扉を潜り、続く第三の裁きの間に向けて走る。
それをアストラルは飛び、空とメルセデスは走って追いかけ、アヴェンジャーは遊馬と並走しながら今まで気になったことを聞く。
「ところで、マスターのそのかっとビングとは何だ?何かの掛け声か?」
「かっとビングは父ちゃんから教わった精神だ!」
「マスターの父?」
「おう!かっとビング、それは勇気をもって一歩踏み出すこと!かっとビング、それはどんなピンチでも決して諦めないこと!かっとビング、それはあらゆる困難にチャレンジすること!これがあったから俺は今までも、そしてこれからも頑張って一歩前に踏み出せるんだ!!」
「言わば一種のチャレンジ精神のようなものだ。遊馬にとっての行動理念でかっとビングは世界を変える力を持っている」
「そんな馬鹿な……」
遊馬とアストラルの自信満々に言う『かっとビング』の説明にアヴェンジャーは額に手を当てて頭痛を覚えた。
たかがそのような精神で世界を変えるなど不可能に決まっている……アヴェンジャーはそう思った。
しかし、遊馬とアストラルを見ていると本当に世界を変える力を秘めているのでは?と不思議な感じを抱いた。
「こいつには怠惰は似合わんな……」
アヴェンジャーは遊馬に怠惰は似合わないと呟いたが、実は遊馬は勉強が苦手であまりせずに寝ていることがほとんどだった。
もっとも、カルデアに来てからはオルガマリーの鬼の教育でそれは改善されたのだが。
「ここか!おらぁっ!」
遊馬は第三の裁きの間の扉を蹴破ると次の敵の姿が見えた。
「主よ!此なる舞台に我を降ろしたもうたは貴方か!ならば宜しい、私は悲劇にも喜劇にも応えられようぞ!」
「今度はジルか!」
次の敵はジル・ド・レェだが、どうやら遊馬達との記憶は無いらしく、まるで舞台に立つ俳優のように言葉を並べて遊馬を生贄にしようとしている。
「遊馬!ジルの宝具は面倒だ、このナンバーズで一気に決めろ!」
アストラルは遊馬に新たなナンバーズを渡し、その効果を見て頷きながらデッキからカードをドローする。
「おう!俺のターン、ドロー!『レスキューラビット』を召喚!効果発動!このカードを除外し、デッキからレベル4の同名通常モンスターを2体特殊召喚する!来い!『ちびノブ』たち!」
『『ノッブノブー!』』
「レベル4のちびノブ2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」
デッキから2体のちびノブが現れ、遊馬はすぐさまオーバーレイを行い、エクシーズ召喚を行う。
「我が故郷の名を持つ小さき竜よ!その心を震わせ、燃え盛る魂の一撃を撃ち込め!!」
光の中から鋭い眼差しが輝き、口から炎を吐きながら飛び出した。
「現れよ!『No.82 ハートランドラコ』!!」
現れたのは遊馬の故郷『ハートランド』の名を持つゼンマイ仕掛けの機械のドラゴンだった。
腹に『82』の刻印が刻まれたハートマークが描かれ、ピンクと白を基調としたカラーリングは子供のドラゴンのようにとても可愛いが、強力な効果を持つ。
「ハートランドラコの効果!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ハートランドラコは相手にダイレクトアタック出来る!」
ハートランドラコがオーバーレイ・ユニットを一つ食べると腹のハートマークが輝きを増し、全身にピンク色のオーラを纏う。
「更に魔法カード!『鬼神の連撃』!!モンスターエクシーズを1体選択し、オーバーレイ・ユニットを全て取り除き、このターン二回攻撃出来る!!」
「無駄な事を!最高のCooooooolをお見せしましょう! 『螺湮城教本』!!」
ジルは不気味な魔導書から数多の海魔を召喚し、ハートランドラコを食い殺そうと襲いかかる。
「ハートランドラコでジルを攻撃!!」
しかし、それはハートランドラコの前では無力に等しい。
ハートランドラコは一瞬で姿を消すと、海魔の群れを潜り抜けてジルの前に現れた。
「な、何!?」
「喰らえ!ハート・バーニング!!」
「あぁあああああっ!??」
ピンク色の炎を吐き、ジルを燃やすが一撃だけではジルを倒しきれない。
「これで終わりだ!2回目のバトル!ハート・バーニング・フィニッシュ!!」
そして、2回目の攻撃……ハートランドラコは大きく息を吸い込んで再びピンク色の炎を吐き、ジルを燃やし尽くす。
ハートランドラコの攻撃力は2000。
2000の2回攻撃はとても強力でまともに食らったジルは耐えきれずに消滅してしまう。
「悪いな、ジル……後でカルデアで何かするからさ」
覚えているか分からないが敵とはいえ仲間を倒した事を悔いながら遊馬は第三の扉へ向かう。
『ドラ……?』
ハートランドラコは勝ったのに辛そうにしている遊馬を見て不安そうな顔をする。
「ん?ああ、ごめんよ。ハートランドラコ。お前のお陰で助かったよ」
『ドラッ!』
遊馬はハートランドラコの頭を撫で、嬉しそうに声を上げながらカードに戻る。
「ふう……よし!次行くぞ、次!!」
ハートランドラコのお陰で少し元気が出た遊馬は一刻も早くこんな戦いを終わらせるために扉を潜る。
再び最初の牢屋に戻り、次の裁きの間へと向かおうとすると、アヴェンジャーが険しい表情を浮かべていた。
「……先に、言っておく。お前が殺す相手、第四の裁きの間にいるのは、憤怒の具現だ。憤怒。怒り、憤り。それは最も強き感情であるとオレが定義するモノ」
「怒りか……確かに強い感情だけど、強過ぎる怒りは身を滅ぼすよな……」
「怒りにも色々ある。しかし、等しく正当な憤怒こそが最もヒトを惹きつける。時に、怒りが導く悲劇さえもヒトは讃えるだろう。見事な仇討ちだ、とな」
「仇討ち……」
「それを……ヤツは認めようとはしない!怒りを、最も純粋なる想いを否定する!第四の支配者に配置されておきながら、さも当然とばかりに救いと赦しを口にし続ける!許されぬ。許されぬ。おお、偽りの救い手なぞ反吐が出ようというものだ」
アヴェンジャーは再び表情を凶悪に変えてまるで人格が変わったかのように毒舌を吐き続ける。
「アヴェンジャー、顔怖えよ。そんなに第四の敵が嫌いなのか?」
「そうとも!ヤツだ、人が赦し神が赦そうともオレは赦さぬ!」
「そんな親の仇みたいに言うなよ……ん?」
遊馬はアヴェンジャーに反論しようとした矢先に目に止まったものがあった。
それは通路に倒れている人影を見つけ、反射的に駆け寄った。
「おい!お前大丈夫か!?」
遊馬は倒れている人を起こして薄暗い通路の中、わずかな灯りで顔を見ると……。
「えっ!?ジ、ジーク!??」
それは第四特異点のロンドンで共に戦った仲間、ジークフリートの心臓を継承した少年──ジークだった。
「……知り合いか?」
「我々の仲間だ。だがどうしてこんなところに……」
「おい、ジーク!ジーク!!」
「んっ……うっ……ユ、ユウマ……?」
遊馬が揺さぶりながら呼びかけるとジークはすぐに目を覚ました。
「大丈夫か?」
「ああ……ここは……?」
「えっと……アストラル、説明頼む」
「任せろ。ジーク、実は──」
アストラルはジークに監獄塔や七つの裁きの間などを簡潔に説明し、学習能力の高いジークはすぐに理解した。
「分かった。状況は理解した」
「ところで、ルーラーはどこいったんだ?二人はセットのサーヴァントだろ?」
遊馬は周囲を見渡すがジークと共にいるはずのルーラーの姿がなかった。
「何……?ルーラーだと……?」
ルーラーと聞いてアヴェンジャーはまたしても顔を凶悪に歪ませた。
「マスターよ……そのルーラーは何者だ?」
「え?ジャンヌ・ダルクだけど?」
あっけらかんにルーラーがジャンヌと答える遊馬にアヴェンジャーはこれまでにないほどに驚愕した表情を浮かべて声を荒げた。
「ジャンヌ・ダルクだと!??馬鹿な!オルレアンの聖女が何故こんな小僧と!?」
「決まってるじゃねえか。ジークとルーラーは恋人同士なんだからさ」
遊馬の発言はアヴェンジャーにとっては爆弾級のとんでもない事だったので珍しく固まってしまった。
「……こ、恋人だと!?あの人間と神に裏切られ、炎に消えた無念の聖女に恋人だと!??」
アヴェンジャーは激しく動揺しており、見たことないほどもの凄く慌てていた。
すると、ジークは顔を左右に振って遊馬の言葉を否定した。
「ユウマ、俺とルーラーは恋人ではない」
「え?違うの?だって、ジークとルーラーは互いを強く想いあってるじゃん」
「それに第四特異点での君とルーラーの関係は誰が見ても恋人同士にしか見えないが……」
遊馬とアストラルは第四特異点でのジークとルーラーの様子を見る限り、どうみても恋人同士にしか見えないほどイチャイチャしていた。
「……正直、恋人とはどんなものか俺には分からない。少なくとも、俺はルーラーが何よりも大切だ。ルーラーも俺を想ってくれているはずだが……」
「じゃあ、ルーラーにちゃんと気持ちを伝えたら?そういうことはキチンと言葉にして伝えた方がいいと思うぜ」
「そうだな……ルーラーもあの時にちゃんと言葉を伝えてくれた。今度は俺の番だ……!」
「その調子だ!かっとビングだ、ジーク!」
「ああ、かっとビング……だな」
遊馬とジークはハイタッチを交わし、ジークはルーラーにキチンと自分の思いの全てを伝えると決めた。
「ところで、ユウマ。そこにいる者たちは……」
「ああ、紹介するぜ。こっちは捻くれ者のアヴェンジャー」
「いい加減殴るぞ、マスター……」
「そして、こっちは俺がカルデアで契約しているサーヴァントの空」
「こんにちは、ジーク君。私は空……ん?どうしたの?」
ジークは空を見て少し呆然としていたが、その訳をすぐに答えた。
「……すまない、あなたの声がルーラーにとても似ていたから」
空とルーラーの声があまりにも似ている……と言うかほぼ同じなのでジークは驚いてしまった。
「あらそう?そう言えばカルデアにいるジャンヌやレティシア達とも声が似ていたわね。まあ、とにかく、よろしくね」
「あ、ああ……」
ジークは式の声に戸惑いながらも握手をした。
「それで最後にメルセデス。何か記憶を失っていて自分が誰か分からないらしくてさ、俺たちと一緒に行動している」
「メルセデスです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む」
自己紹介が終わるとジークは遊馬と共に行動し、ルーラーを探しながら第四の裁きの間へと向かう。
第四の裁きの間の扉を開くとそこにいたのは白銀の鎧に身を包んだ騎士だった。
その騎士の正体をジークは知っていた。
「……ユウマ、あの男はかつてルーラーと共に戦ったジルだ」
「ジルだって?でもあいつは魔術師のはずだろ?」
「遊馬、恐らくあの男は我々が知るジルの過去の姿だろう。フランスの百年戦争でルーラーと共に戦地を潜り抜けた軍人としてのジル・ド・レェだろ」
ジルはかつて元帥まで上り詰めた紳士で信仰心のある男だったが、ジャンヌが処刑されたことで心が壊れて絶望し、悪鬼の道へと進んでしまったのだ。
「あいつが第四の支配者か?」
「違う。ヤツは、その奥にいる者だ。見ろ」
ジルが第四の裁きの間の支配者かと思ったが、アヴェンジャーは否定した。
そして、部屋の奥から現れたのは……。
「ルーラー……!?」
「えっ……?ジ、ジーク君!?」
それは聖なる旗を掲げる聖女……ルーラーこと、ジャンヌ・ダルクだった。
「ジ、ジーク君!どうしてここに!?」
「それはこちらの台詞だ。ルーラー、君がどうしてここにいるんだ?裁きの間の支配者とはどういうことだ?」
「……私はアヴェンジャーを止めるために此処へと至りました」
ルーラーはアヴェンジャーを止めるために自ら監獄塔に入り込み、無理やり裁きの間の支配者として現れたのだ。
「忌々しい聖女め……このオレは恩讐の彼方より来たる復讐者!いいかマスター!なんと言おうがアレは『裁きの間』の支配者だ!故にお前は戦い、勝つ他にない!生き残りたければ──聖女を!殺せ!!」
「断る!!!」
「なん、だと……!?」
即答でアヴェンジャーの指示を却下すると、ジークの肩に手を置く。
「ジーク、ルーラーは任せた。俺たちはジルを何とかする」
「ユウマ……」
「任せろよ、ルーラーは絶対に殺させない。殺さない方法で俺たちが勝てばいい話だ」
「そんなことが可能なのか……?」
「ずっと考えてたからな。敵を殺さずに勝つ方法を。実はデュエルなら数少ないけどあるんだよ。俺たちはそれに賭ける。だから、ジークは思いっきりルーラーに想いをぶつけてこい!」
遊馬に諭され、ジークも覚悟を決めてルーラーと向き合う。
「……分かった。行ってくる」
「かっとビングだぜ、ジーク!」
「ああ!かっとビングだ!」
遊馬とジークは笑顔を見せて拳を軽くぶつけて気合いを入れる。
そして、ジークはかつてアストルフォから譲り受けた剣を鞘から抜いて構え、ルーラーに静かに近づく。
「ジャンヌよ、お下がりください!神と貴女に捧げた剣、今こそ振るう時であると心得た!」
「ジ、ジル!ダメです!彼には──」
キィン!!
「むうっ!?」
「ジーク君の邪魔はさせないわ」
ジルがジークに刃を向けるよりも早く空が刀を抜き、ジルに近づいて刀を振り下ろしていた。
「邪魔をするな!!」
「それはこちらの台詞よ。私の故郷では昔からこういうのよ。人の恋路を邪魔する奴は!!」
空は刀で剣を弾き返し、ジルが一瞬無防備になった隙に遊馬が間合いに入る。
「とりゃあ!」
「ぐふっ!?」
そして、遊馬はジルに強烈なドロップキックを喰らわせてぶっ飛ばす。
鎧越しとはいえドロップキックの大きな衝撃がジルの腹部に伝わる。
「馬に蹴られちまえ、だな!ジークの邪魔はさせないぜ!!」
「貴方の相手は私たちよ!」
遊馬と空は全力でジルの足止めをする。
一方、ジークはルーラーに一歩一歩、静かに確実に近づいている。
「ジーク君……」
「ルーラー……」
ルーラーはジークと戦いたくない気持ちが強く、思わず旗を手放しそうになってしまう。
しかし、アヴェンジャーを止めるためには戦わなければならない。
そんな大きな葛藤がルーラーの心を苦しませる。
今のルーラーはかつてシェイクスピアの宝具で極限まで追い詰められているほどに精神状態が危うくなっていた。
そんなルーラーにジークは両手を大きく広げて口を開く。
「ルーラー、あの時の答えを言うよ」
「あの時の、答え……?」
「ああ。俺の、今の想いだ……」
ジークは己の想いと最も欲する気持ちを全て打ち明けた。
「ルーラー、俺は君が愛おしい。君の全てが欲しい。君の美しい心と体、その魂を……俺だけの唯一無二の最高の宝になって欲しい」
「えっ──ひゃ、ひゃいっ!!??」
突然の愛の告白にルーラーは一気に顔を赤くして心臓の鼓動が高まり、思わず旗を落としてしまった。
そんな姿を見てアヴェンジャーは唖然とした。
「あれが……あの、ジャンヌ・ダルク……?」
アヴェンジャーはルーラーのあまりの変わりようにもはや表現出来る言葉を失うほど衝撃を受けた。
今のルーラーは人と神を信じ、最後に裏切られて裁きの火の中に消えたオルレアンの聖女ではなく、ただの一人の恋する乙女に成り下がっていた。
「何だこれは……?」
「とっても素敵だと思いますよ?」
アヴェンジャーの問いにメルセデスはワクワクしながら見守っていた。
.
ジャンヌことルーラーは人間要塞とか言われてますけど、ジーク君が関わるともの凄くポンコツになるんですよね。
これにはアヴェンジャーさんもビックリ。
賛否両論あるかもしれませんが、どうしてもこれだけは書きたかったんです。
皆さん、すいません。
次回はルーラーを殺さずに勝つ戦いをします。