いやー、色々話の展開が難しいです。
フランとアンデルセンとナーサリーを連れて遊馬達はアパルトメントに戻る。
その途中で装甲に覆われた大型ロボットに襲撃を受け、遊馬達は難なく撃退したが……その構造がとても不思議なものだった。
「なぁ、アストラル。ハートランドでロボットはかなり見慣れてるけど、ロボットってこんな蒸気機関で動くものか?」
大型ロボット……通称ヘルタースケルターは蒸気機関で動く謎のロボットだった。
どうみてもこの時代のものでもなく現代のこの世界でも使われていない謎の技術だった。
「……通常だとロボットは電気、もしくはオービタルのように膨大なエネルギーを持つ源が無ければ動くことは出来ない。しかし、蒸気機関でこれほどまでに高度なものを作れるとなると、下手をしたらこれを作った者はDr.フェイカー並みの科学力を有しているぞ」
アストラルはヘルタースケルターを製作した謎の存在をハートランドで百年に一人の天才と謳われたDr.フェイカー並みの技術を持つと断定した。
「Dr.フェイカー並みの技術者か……一体何者なんだ?」
「分からない、だがそれが敵側にいることは戦いは更に厳しくなることは間違いない」
「ああ。油断せずにいかないとな!」
「その通りだ」
謎が謎を呼ぶ敵陣営に遊馬とアストラルはより一層の警戒を高めた。
すると再びジキルから連絡があり、今度はロンドン警視庁……スコットランドヤードが襲撃を受けたとの事だった。
次から次へと休む間も無く問題が発生し、遊馬達は急いでスコットランドヤードへ向かった。
ヴィクターの時と違い、血の匂いは漂っておらず、門のところに一人の男が歩いていた。
その男にジャックは思わず声を荒げた。
「あっ!おかあさん!あいつだよ、あいつが『P』だよ!!」
「何!?」
遂に魔霧計画の首謀者であるPと対面することとなった。
その男はジャックの言った通りのイメージでキャスターのサーヴァントに相応しい姿をしていた。
「おやおや、ジャック……あなたはそちら側についてしまったのですね?残念です、あなたの残虐性に期待していたのですが」
「黙れ」
Pの一言に既にブチ切れていたアタランテが矢を放ち、Pの長い髪を撃ち抜いた。
「それ以上、貴様のその歪んだ心でジャックを弄ぶな……」
「あなたの目的は何なんですか……P……いえ、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス!!!」
アタランテに即発されたのか少し怒りを出しているルーラーはPの真名を看破した。
「パラケルススって、有名な錬金術師じゃねえか!?」
「魔術だけでなく医学の発展を貢献した学者が何故こんな事をしている!??」
アストラルの質問にP……パラケルススは目を見開きながら驚いた。
「これは……私が見つけた五大属性にも属さない未知なる属性の精霊……!?美しい……是非とも研究してみたいものですね……!」
「ふざけるな!!アストラルは俺の大切な相棒だ!!勝手に研究されてたまるか!!パラケルスス、てめえは何でこんな事をしているんだ!!」
「魔霧計画の完遂……私にも都合と事情がある。スコットランドヤード内部には私が必要としているものがあったので中にいる人たちには犠牲になってもらいました。ですが、必要な事でした。やむなき犠牲……」
「てめえらの身勝手な都合で誰かの命を奪っていいはずがねえ!!」
「大義の前ではそれは仕方のない事です」
「大義だと……?誰かの命を平気で奪うことが何が大義だ!そんな大義、俺がぶち壊してやる!!」
遊馬はパラケルススの言う犠牲や大義に、かつて敵として対峙してしまった仲間の背負った覚悟に比べ、あまりにも精神が欠如していることに怒りを抱く。
今ここでパラケルススを止めるために遊馬はデッキからカードを引く。
「俺のターン、ドロー!『ガガガマジシャン』を召喚!更に手札から『カゲトカゲ』を特殊召喚!レベル4のガガガマジシャンとカゲトカゲでオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れよ、『No.39 希望皇ホープ』!!」
遊馬は希望皇ホープをエクシーズ召喚し、希望皇ホープは遊馬達の怒りを受けてその赤い瞳を鋭く輝かせていた。
「素晴らしい……!これほどまでに強力な使い魔を使役するとは……しかし、私はここで消えるわけにはいきません。退散させていただきます」
パラケルススは宝具と思われる短剣を取り出すと刀身を輝かせて眩い閃光を放った。
僅かな一瞬、遊馬たちが目を閉じた隙にパラケルススは何らかの魔術を使ってその場から逃走してしまった。
アストラルやルーラーはパラケルススの気配を追ったが霧の影響もあり、気配を完全に見失ってしまった。
「見失ったか……」
「パラケルスス……何を企んでいるのか不明だが必ず阻止しなければ……」
世界に名を馳せる魔術師の一人が魔霧計画の首謀者の一人と知り、遊馬たちは不安を抱きながらスコットランドヤードを後にした。
☆
ジキルのアパルトメントに戻ると短時間で色々な事が起きて心身共に疲れて来たので遊馬たちは休むことにした。
横になって眠ったり、飲食をしたりとそれぞれが休んでいる中……アタランテは……。
「『アリスは不思議なウサギを追いかけました』……」
「ウサギを食べるの?」
「食べるんじゃありませんよ!お姉さん、次のページです!」
「ああ、分かったよ」
アタランテは両側にジャックとナーサリーに挟まれながらナーサリーの不思議の国のアリスの本を読み聞かせていた。
ジャックは本を自分で読むよりも誰かに読み聞かせてもらいたかったので遊馬に頼もうとしたが、不思議の国のアリスの本は全て英語で書かれていた。
流石に英語では全く読む事ができなかったので、代わりにアタランテが読み聞かせを挙手した。
アタランテはジャックとナーサリーに本の読み聞かせを出来て、とても幸せそうにしていた。
「良かったですね、アタランテ……」
戦いの最中であるが、穏やかで幸せそうなアタランテの姿を見れてルーラーは安心したように笑みを浮かべた。
一方、遊馬はテーブルを借りてデッキ構築をしていた。
「なあ、これはどうだ?」
「ふむ……だとするとこちらのバランスが悪くなるな」
「ねえねえ、これも使ったらどうかしら?」
レティシアもデッキ構築に参加し、色々な意見を交えながらこれからの戦いに備えていく。
すると、モードレッドは何か考え込んでいる様子で遊馬を見つめていた。
ソファーから立ち上がるとそのまま玄関の方へ向かう。
「……おい、ガキ」
「ん?なんだよ、モードレッド」
「外を出る。見回りしながら考えたいことがある」
「じゃあ俺たちも行くぜ!」
「いらねえ。一人にしてくれ」
「お、おい!?」
モードレッドは不機嫌になりながらアパルトメントを出てそのまま霧の中、一人で出てしまった。
☆
モードレッドは霧に覆われたロンドンの街を見回りしながら途中現れた敵を倒していく。
敵をいくら倒してもモードレッドは霧のように心が晴れず、最後の敵を倒してクラレントを担いでため息を吐く。
「そんな曇った剣ではいつか敵にやられますよ?」
「っ!?父上……」
そこにはD・ゲイザーを装着したアルトリアが立っており、苦笑を浮かべながらモードレッドに近づく。
モードレッドの様子がおかしいのでこっそり後をつけていたのだ。
「こういう時は一人でいると危険ですよ。さあ、戻りましょう」
「……父上、少しだけ話したいんだけど……」
「……良いでしょう」
アルトリアとモードレッドは周囲を警戒しながら親子としての話を始めた。
「父上、オレさ……このロンドンを守る為にたくさんの敵と戦ってきた。民を傷つける奴、向かって来る奴は容赦なく斬り伏せてきた。だけどよ、あいつは……ガキは敵であるはずのジャックとナーサリーを救って仲間にしやがった……」
モードレッドの心を曇らせる原因……それは遊馬の行動だった。
ジャックとナーサリーは確かにモードレッドから見ても哀れな存在だと思った。
しかし、二人はロンドンで人々を襲ったサーヴァント……当然倒すべき存在だとモードレッドは慈悲を捨て、斬り伏せて倒そうと思った。
しかし、本来救えない存在であるジャックを遊馬は救い出し、虚ろな存在であるナーサリーを遊馬のかっとビング精神を受け継いだジャックが友達になりたいと気持ちを伝えて仲良くなった。
「父上……なんであいつは、ガキはあんなに真っ直ぐなんだよ……それに眩しいくらいに心が光り輝いている……何なんだよあいつは……」
モードレッドは人類と世界の未来という余りにも重すぎるモノを背負いながらも迷う事なくまっすぐ自分の道を進んでいる遊馬に苛立ちや疑問を抱いていた。
「……モードレッド、確かに相手はサーヴァントですから当然倒すべき敵です。あなたの考えは間違っていません。ただ……」
迷うモードレッドに対し、アルトリアは遊馬と共に多くの戦いを過ごして来たサーヴァントとして遊馬の信念を語る。
「マスターは元いた世界で多くの仲間と友を失いながら最後まで戦い抜きました。それ故にマスターは仲間を何が何でも守り抜く……救える、助けられる命は救い出す……その強い信念を持って戦っているのですよ」
「守る、救う……信念……あいつとは全く違う信念だな……」
モードレッドの脳裏には敵として対峙した一人の男の姿が映っていた。
その男も人類を救済すると言う確固たる信念の元に戦っていたが、同じ救いでも遊馬とはまるで異なる道である。
「あいつ?」
「いや、何でもない……そろそろ戻るか。腹減ったしな……」
「そうですね、ブーディカ女王が何か作ってくれるでしょうから帰ったら一休みしましょう」
「おう!」
モードレッドとアルトリアは子と親の絆を少しずつ深めながら帰路につく。
すると……。
「……父上」
「ええ……」
二人が振り返りながら剣を構えると、霧の中から魔力が迸る。
それは英霊の座から英霊がランダムに呼び出され、サーヴァント召喚の前触れだった。
魔力が収束し、人の形を成してサーヴァントが召喚される。
しかし、そのサーヴァントの姿を見てモードレッドは思わずクラレントを落としそうになるほどゲンナリする。
「……マジかよ」
☆
アパルトメントにいる遊馬たちは帰りが遅いモードレッドを心配していた。
「大丈夫かな、モードレッド」
「アルトリアさんが向かったから大丈夫だと思います。色々あった親子ですから二人で話したいこともあると思いますし」
何かあればD・ゲイザーで連絡が来るので心配はないだろうと話していると、アルトリアとモードレッドがちょうど帰って来た。
「ただいま戻りました、マスター」
「戻ったぜ……すまん、面倒な奴を連れて来ちまった……」
「面倒な奴?」
モードレッドがゲンナリした表情をし、最後に部屋に入って来たのは……中世ヨーロッパ風の洒脱な衣装を身に纏った伊達男だった。
「お初にお目にかかれる!キャスター・シェイクスピア、霧の都へ馳せ参じました!」
「シェイクスピア!??」
「四大悲劇に『ロミオとジュリエット』を執筆した英文学史上の最高作家……!?」
アンデルセンに続き世界にその名を轟かせる有名作家がサーヴァントとして召喚され、遊馬たちは驚きを隠せなかった。
「おお!貴方がマスターの少年ですね?よろしければ我輩と契約していただけませんかな?」
「契約?いいのか?」
「もちろん!その代わり、貴方の物語を紡がせて──」
「──させませんよ?」
ドゴォン!!!
「ゴハァ!??」
突如、シェイクスピアが何かに叩きつけられて撃沈させられた。
「「「……え?」」」
一体何が起きたか分からず、この場にいたほとんどの者が呆然としてしまった。
すぐに落ち着きを取り戻し、シェイクスピアを叩きつけた者を見つめる。
「「「ルーラー……?」」」
それは旗を鈍器代わりにしてシェイクスピアの頭を思いっきり叩きつけたルーラーだった。
「よし……宝具を展開していない、今のうちにキャスターにトドメを……!!」
目が血迷っているように見開いており、もう一度旗を掲げて気絶しているシェイクスピアにトドメを刺そうとしていた。
「お、おいっ!?何やってるんだ、ルーラー!!?」
「どうしたんですか、ルーラーさん!?」
「離してください!このサーヴァントは危険です!早く倒さないと取り返しのつかないことになります!!」
遊馬とマシュが慌ててルーラーを抑え込み、ルーラーはジタバタと暴れて一刻も早くシェイクスピアを倒そうとしていた。
そんなルーラーを見てアストルフォはすぐさま事態を解決するためにジークに指示する。
「あちゃあ……ルーラーが何か錯乱しているね……ジーク、ルーラーを抱きしめるんだ!そして、語りかけるんだ!」
「抱きしめて語りかければいいのか?」
「うん!それで万事解決だ!」
「分かった」
疑うことを知らないのかと言わんばかりにジークはアストルフォの言う通りにすぐに行動に移した。
「ルーラー!」
「ジーク君?」
ジークはルーラーの前に立つと、迷う事なくそのまま無理矢理自分の胸へと抱き寄せた。
「……あひゃあ!?ジ、ジーク君!?何をしているのですか!??」
突然抱き寄せられて混乱するルーラーにジークは顔を静かに近づけながら口を開く。
「ルーラー、君がキャスターとの間に何があったのか分からないが落ち着いてくれ。今の君はいつもの君じゃない……頼む、俺が最も美しく、愛おしいと思っている君に戻ってくれ……」
儚くも真剣な眼差しでルーラーを見つめるジーク。
そんなジークの説得に遊馬たちは思った。
(((……これ、愛の告白?)))
もはや愛の告白がサラッと混ざった口説きのような説得にルーラーは錯乱どころか思考回路がショートするほどに顔が真っ赤になった。
「頼む、ルーラー……」
「ひゃ、ひゃい……」
呂律がまともに回らないほどにルーラーは頭がボーッとし、そのままジークの胸の中で幸せそうに目を閉じるのだった。
「……シェイクスピアを介抱するか」
「そうですね……」
「遊馬、念の為に契約しておくんだ」
「おー」
遊馬はシェイクスピアの手を握ってフェイトナンバーズを生み出し、シェイクスピアをソファーに寝かせて起き上がるのを待った。
.
なんか最後はジーク君とルーラーのイチャイチャになりました。
もう二人はいいから早く結婚しちゃえばと思いたくなります(笑)
次回から本格的に物語が加速するかなと思います。
そう言えばロンドンだから魔術協会の時計塔があるんですよね……桜ちゃんと凛ちゃんのために滅ぼしたいと言う邪な気持ちが……。