Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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体調不良で日曜日に投稿できなくて申し訳ありませんでした。
皆さんの励ましの感想、ありがとうございました。
皆さんも体調に気をつけてください。
今週の日曜日はちゃんと投稿出来るように頑張ります。


ナンバーズ77 邪竜と聖女

叛逆の騎士……モードレッドと再会し、父親(?)であるアルトリアは疲れた表情を浮かべていた。

 

するとブーディカがニコニコと笑顔でモードレッドに近付いた。

 

「こんにちは、モードレッド♪」

 

「あぁ?何だよ、お前──」

 

「これからよろしくね〜」

 

「わぷっ!?」

 

ブーディカは一瞬でモードレッドの背後に回り込んでギュッと抱き寄せた。

 

突然抱きしめられ、更には豊満な胸に顔を埋められてモードレッドは混乱する。

 

「むぅーっ!?ぷはっ!?な、何だよいきなり!?」

 

「私はブーディカ。あなたの親戚のお姉さんみたいなものだよ」

 

「ブーディカ……?あれ、どこかで聞いたような……」

 

「彼女は私たちの時代よりも前の女王。勝利の女王、ブーディカですよ」

 

「はぁ!??」

 

アルトリアのブーディカの紹介にモードレッドは驚愕した。

 

ブリテンよりも前の時代、ブリタニアの女王……大先輩であるブーディカがいることに驚きを隠せなかった。

 

「お、お前、いや……あなたがあのローマを震撼させた……」

 

「まぁ、最後は結局は負けちゃったけどね。それにしても君がアルトリアの子供かぁ〜。アルトリアにそっくりだね。これからよろしくね」

 

「お、おう!」

 

母性溢れる性格と大先輩であるブーディカにモードレッドはすぐに心を許した。

 

次にマシュが自己紹介する。

 

「あの、初めまして、モードレッドさん。私はマシュ・キリエライトです」

 

「フォウフォウ!」

 

「こちらはフォウさんです」

 

「マシュにフォウね……マシュ、お前はデミ・サーヴァントか?」

 

モードレッドはマシュをデミ・サーヴァントだとすぐに見抜き、マシュは肯定の頷きをする。

 

「はい、私はデミ・サーヴァントです。もっとも、私の中にいる英霊が誰なのか分かりませんが……」

 

「ふーん……で、そこにいるお前、令呪があるってことはお前がマスターか?」

 

モードレッドは遊馬を見定めるように睨みつける。

 

「おう、俺は遊馬。九十九遊馬だ」

 

「私はアストラル、遊馬の相棒だ」

 

するとモードレッドはアストラルを疑惑の目で見つめる。

 

「てめえ、精霊だな?どうして精霊がそいつといるんだよ」

 

「私と遊馬は相棒にして一心同体の関係だからだ」

 

「一緒にいちゃ悪いのか?俺とアストラルはずっと一緒に戦ってきたからさ」

 

「ふん……それにしても小せえな。まだガキじゃねえか」

 

モードレッドは誰かと比べているのか遊馬がまだ幼いことを馬鹿にしてマスターとしてやっていけるのか疑問に思っていた。

 

「ガキで悪かったな。でも俺はマシュ、アルトリア、ブーディカのマスターなんだよ」

 

「こんなガキが父上とブーディカ女王のマスターだぁ?なんか頼りねえな……」

 

「モードレッド」

 

コツン!

 

アルトリアはモードレッドを戒めるために手甲を嵌めた拳で軽く頭を殴った。

 

「痛っ!?何するんだよ、父上!」

 

「私のマスターにそのような口を利くのではありません。それに、マスターはあなたが思っている以上に素晴らしく、そして強い人です。見かけで人を判断するのではありませんよ」

 

「……父上がそこまで言うなら信じてやっても良いけど、オレは自分の目で見たものしか信じられない。お前、オレと契約したかったらオレを満足させる力量を見せてみろ!」

 

「上等だぜ、俺を認めさせてやるよ!」

 

「はっ、期待しないで待ってるぜ」

 

「何だと?絶対に認めさせてやる!!覚悟しておけよ!」

 

「てめえ、生意気だなコラァ!」

 

「けっ、お前もな!!」

 

遊馬とモードレッドの間で軽く火花が散り、まるで喧嘩するような友達みたいな関係になる。

 

モードレッドの暴走っぷりにアルトリアは頭を抱え、マシュとブーディカは苦笑を浮かべていた。

 

「って、こいつと言い争ってる状況じゃねえ。父上、オレがこの地で拠点にしている場所がある。そこにこの事態を解決する為の協力者がいるからそこで話をしないか?」

 

「協力者がいるのですか、それは心強い。早速案内をお願いします」

 

「おう!」

 

モードレッドはアルトリアに頼られて嬉しいのかルンルン気分の軽い足取りで案内する。

 

その姿を見ると、多少荒っぽいところはあるが、どうしてモードレッドが叛逆の騎士としてアルトリアに叛逆したのか疑問に思ってくる。

 

大通りから路地裏を歩き、石造りの建物が並ぶ住宅街を進んでいく

 

「……………………」

 

口を閉ざし、目を閉じて神経を研ぎ澄ませていたアストラルはゆっくりと遊馬に近づく影にいち早く気づいた。

 

「──遊馬、後ろだ!」

 

「おうよ!!」

 

遊馬はアストラルの言葉を瞬時に聞き取ってはホープ剣を呼び出し、背後に現れる影を振り払った。

 

振り払った影は何かでホープ剣を防ぎ、軽やかな動きで後ろに下がった。

 

その影の正体を見た瞬間、遊馬は驚愕することとなる。

 

「お前は……!?」

 

両手にナイフを構え、顔に大きな傷をつけて露出度の高い服を着た少女……それは遊馬が昨夜見た夢に出て着た謎の少女だった。

 

「……あなたは、ねえ、なんだろう。人間?それとも魔術師?」

 

「俺は人間だよ。でも、魔術師なんて下らない存在じゃない。俺はデュエリストだ!!」

 

「デュエ、リスト……?何それ……?でもそれはいいや。それよりも、あなた、美味しそう……?」

 

「──は?」

 

謎の少女の発言に遊馬は思考が停止するほどに驚愕した。

 

何を言いだすんだこいつはと思い、謎の少女はペロリと唇を舐めると物欲しそうな目で見つめて来た。

 

「あなたの魂と心臓……いままで見たことないほどにおいしそうに見える……ねえ、たべさせて?」

 

「お前はアホかぁっ!?そんな事を許すわけねえだろ!??」

 

「気をつけろ、ガキ!こいつは危険なサーヴァントだ!アサシン、ここで倒してやる!」

 

モードレッドが遊馬の首根っこを掴んで無理矢理下がらせて自ら前に出る。

 

「ケチ……でもいいよ、わたしたちがおいしくたべてあげるから!」

 

「遊馬、来るぞ!」

 

「下がってて下さい、遊馬君!」

 

アストラルとマシュが前に出て、謎の少女が地を蹴って襲いかかろうとした──その時。

 

「お待ちなさい!!」

 

「止めろ!!」

 

建物の屋根の上から二つの影が降り立ち、遊馬達の前に現れた。

 

その影の正体に真っ先に気がついたのはモードレッドで驚きの後にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「よぉ、久しぶりじゃねえか。まさか、またお前ら二人とこうして会うとはな……」

 

「……あなたも元気そうですね、赤のセイバー」

 

「今回は初めから俺達は君の敵じゃない。力を合わせよう、赤のセイバー」

 

遊馬達は目を凝らしてモードレッドと話す二つの影を見つめる。

 

一つはどこか儚い雰囲気を出し、現代風のシャツとズボンを着用し、手にはどこかで見たことのある佩剣を構えた美少年。

 

そして、もう一人は……。

 

「ジャンヌ……?」

 

そう、美少年の隣にいたのはまぎれもないオルレアンの聖女、ジャンヌ・ダルクだった。

 

しかし、そのジャンヌは遊馬達には一言も発せず、ただアサシンと対峙して旗を構えており、明らかに遊馬達の知っているジャンヌとは別人のようだった。

 

「……遊馬、彼女からはナンバーズの力が感じられない」

 

アストラルは手をジャンヌの方にかざしてナンバーズの力の流れを読み取ろうとしたが、ジャンヌからは一切流れていなかった。

 

「じゃあ、俺と契約しているお姉ちゃんじゃないってことか?」

 

「おそらくは……」

 

「どういう事だ?」

 

次から次へと謎の事態が重なり、状況が混沌としていく。

 

すると、アサシンは両手のナイフを消すとその体が霧に包まれて姿が消えていく。

 

「このままじゃ負けそうだから逃げるね……バイバイ」

 

「あっ、待ちやがれ!」

 

モードレッドは手に宝具と思われる美しい剣を取り出して魔力を込めようとするが、肩に手を添えられて中断させられた。

 

「待ちなさい、モードレッド。気配がもう消えています。無駄な魔力を消費するのはいけません」

 

「……分かったよ、父上」

 

モードレッドはアサシンを逃した悔しさを飲み込んで剣を消し、ジャンヌと少年に向かって話しかける。

 

「お前ら二人も来い。色々話し合わなきゃならねえからな」

 

モードレッドの申し出にジャンヌと少年は静かに頷き、遊馬達と共にモードレッドの拠点へと向かう。

 

 

モードレッドが案内したのはマンションタイプのハウジング、アパルトメントでその一室に入る。

 

「おい、戻ったぜ!」

 

「あー、おかえり……って、随分大所帯だね……」

 

出迎えたのは眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の青年だった。

 

「ジキル、紹介するぜ!オレの父上だ!」

 

「へぇ、モードレッドの父上……って、もしかしてアーサー王!??」

 

「当たり前だろ!」

 

青年──ジキルは既にモードレッドの真名を知っていたので、そのモードレッドが父上と呼ぶ存在はアーサー王しかいない。

 

まさか伝説の騎士王であるアーサー王に会えるとは思いもよらなかったのでジキルは反射的に跪いた。

 

「お初にお目にかかります、アーサー王。私はヘンリー・ジキルと申します。偉大なる騎士王である、あなた様にお会いできて光栄です」

 

イギリス人にとっては崇拝すべき王の一人であるアーサー王ことアルトリアに対して失礼のない挨拶をした。

 

「いいえ、私はもう既に大昔の王ですからそこまで畏まらなくても……」

 

「そういうわけにはいきません!」

 

「へへっ、ジキル。聞いて驚けよ、父上の隣にいるのは勝利の女王、ブーディカ女王だぜ!」

 

「ブ、ブーディカ女王!?し、失礼しました!ブーディカ女王陛下、あなた様にもお会いできて光栄です!」

 

「え?あ、良いんだよ、そんなに畏まらなくて……私もアルトリアと同じく大昔の人間だから……」

 

イギリスにその名を馳せる王と女王の突然の登場にジキルは混乱しながらも頭を深く下げて敬意を表する。

 

その光景を見て遊馬は思った。

 

「うーん、アストラル……俺の国だったら大昔の天皇様や将軍様を前にしているようなものか?」

 

「その認識で間違ってはいないだろう」

 

遊馬は多くの英霊……サーヴァントを共に戦う大切な仲間として扱っていたために少し感覚が麻痺していたが、やはり人々にとっては信仰の対象になる偉大な人たちなのだと改めて思い知らされた。

 

「ジキル、シードル貰うぜー」

 

モードレッドはこの時代にはまだなかった冷蔵庫から勝手にリンゴを発酵させたアルコール飲料であるシードルのビンを取り、ソファーに座る。

 

「あ、それは僕のお気に入りのソファー……全く……」

 

ジキルの迷惑を関係なく自分勝手にくつろぎ始めるモードレッド。

 

アルトリアはゆらりとモードレッドの背後に立つ。

 

「……モードレッド、そのビンをテーブルに置きなさい」

 

「ん?なんだ、父上も飲みたいのか?それならその冷蔵庫に──」

 

「いい加減にしなさい」

 

ゴツン!!!

 

アルトリアは鎧を解除し、モードレッドからシードルのビンを奪うと同時に素手で思いっきりモードレッドの頭に拳骨を喰らわせた。

 

「フニャアアアアアッ!??」

 

頭を殴られたモードレッドは猫のような奇声を放つ。

 

魔力がこもってない、ただの腕力から落とされた拳骨にモードレッドは頭を抱えて悶え苦しんでいた。

 

「い、痛ぇ……な、何するんだよ父上!?」

 

モードレッドは涙目になりながらアルトリアを見上げる。

 

しかし、鎧を解除したアルトリアは体から魔力の代わりに怒気を発しており、その背後から獅子のオーラが見えるほどに怒っていた。

 

「ち、父上……?」

 

「モードレッド……あなた、自分勝手にもほどがありますよ……?」

 

アルトリアの『親』としての怒気にモードレッドは今まで感じたことのない恐怖に襲われ、体がガタガタと震えていた。

 

「え、あ、あぅ、だ、だって……」

 

「だってじゃありませんよ?えっと、ジキルでしたっけ?申し訳ありません、うちのバカの所為でご迷惑をおかけしました」

 

「い、いえいえ……いや、あの、頭を上げてください!アーサー王に頭を下げられるなんて恐れ多い……」

 

「そうだぜ、父上!父上が頭を下げるなんて……」

 

「あなたは黙ってなさい」

 

「ひぃっ!?」

 

アルトリアはギロリとモードレッドを睨みつけ、生前でも感じたことのない恐ろしい形相にモードレッドは怯んでしまった。

 

「モードレッド、もう我慢出来ません。これからあなたに説教します。覚悟してください」

 

「せ、説教!?や、ヤダ!そんなの絶対に……」

 

「ジキル、申し訳ありませんが、隣の部屋を借りてもよろしいですか?」

 

「は、はい……ど、どうぞご自由に……」

 

「ありがとうございます。では行きますよ、モードレッド」

 

「い、嫌だぁ!!俺は逃げ──」

 

「逃しませんよ?」

 

アルトリアはモードレッドの頭をアイアンクローで掴んでミシミシと音を立てながら隣の部屋へと引きずる。

 

モードレッドは涙目になりながら近くにいる者達に助けを求める。

 

「ぎゃああああっ!??た、助けてくれ!ブーディカ女王!」

 

「え、えっと……ごめんね?」

 

「ガァン!?」

 

自分の子を叱る親の気持ちがわかるのでアルトリアを止めることができず、モードレッドはショックを受ける。

 

「アルトリア、あまり厳しくしないでね?」

 

「ブーディカ女王、ご心配なさらず。モードレッドには生前構ってやれなかった分、厳しくしないといけません。これは私に課せられた教育です。さあ、行きますよ。モードレッド」

 

「ちくしょおおおおおお!!!??助けてくれぇええええええっ!!獅子劫ぉおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

ズルズルと売られて行く羊のようにモードレッドは隣の部屋に連れて行かれ、扉が閉まると不気味な静けさが漂っていた。

 

「……アルトリアとモードレッドが帰ってくるまで先に話をしておくか」

 

遊馬の提案に一同は頷いた。

 

まず始めにこの部屋の主人であるジキルが自己紹介する。

 

「自己紹介がまだだったね。僕は、ヘンリー・ジキルという。ロンドンで碩学──科学者をしている。正式な魔術師では無いが、霊薬調合の心得があってね」

 

「ヘンリー・ジキル?アストラル……」

 

「ああ……ジキル博士とハイド氏のあのジキルか……」

 

それは二重人格を題材とした代表的な物語の主人公であり、もしかしたらそのモデルとなった人物の可能性が出て来た。

 

「……なあ、ジキル」

 

「なんだい?」

 

「お前……実は別の人格があるんじゃねえか?例えば裏の顔があるのか」

 

ギクッ!?

 

ジキルは遊馬の指摘に体がビクッと震え、汗をかいて必死に隠そうとしていた。

 

「え?あ、い、いや……何のことかなぁ……?どうして、そんな事を……?」

 

「経験から何となく」

 

「な、何となく……?君の人生経験はどうなってるんだ……?」

 

「いやー、こう見えて濃密な人生を送ってきたもんで。まあ、何でも無いなら別に良いぜ」

 

「あ、うん、そ、そうだね……」

 

歳の割に意外に侮れないとジキルは内心思うと、次は先ほど現れたもう一人のジャンヌと謎の少年が自己紹介する。

 

「初めまして、私はジャンヌ・ダルクと申します」

 

「俺はジークだ」

 

「私たちはルーラークラスで二人で一騎のサーヴァントとして召喚されました」

 

「二人で一人のサーヴァント???」

 

カルデアにもアンとメアリーのように二人で一騎のサーヴァントがいるが、それはあくまで二人が生前にコンビとして活躍したからこそ二人一緒に召喚されているのだ。

 

カルデアで朝食にジャンヌと話を聞いた限り、ジークと呼ばれる少年とは生前に縁がなかったはず……。

 

「カルデアにいるあの二人を呼ぶか……」

 

「え!?遊馬くん、あの二人を呼ぶんですか!?」

 

「後で混乱するよりも先に片付けようと思うからさ」

 

遊馬はD・ゲイザーでカルデアと交信し、カルデアにいる二人のサーヴァントを呼んだ。

 

デッキケースが輝き、蓋を開けて二枚のフェイトナンバーズを掲げると白と黒の光がそれぞれ飛び出す。

 

「ジャンヌ・ダルク、参りま──え?」

 

「レティシア、参上よ。遊馬、私の力が必要に──は?」

 

意気揚々とフェイトナンバーズから現れたジャンヌとレティシアは姉妹揃って同じ驚きの表情をして固まった。

 

「……えっ?わ、私……?」

 

ルーラーは突然現れた自分そっくりの二人のサーヴァントに目をパチクリとさせて呆然とする。

 

「ルーラーがもう二人……?」

 

ジークはルーラーと瓜二つのジャンヌとレティシアに困惑していた。

 

対するジャンヌとレティシアは額に手を当てて現実逃避をし始めた。

 

「……どうやら私たちは幻覚を見ているようですね」

 

「疲れているのかしら……?そう言えば最近デッキ調整で寝不足をしすぎたからね。という訳だから遊馬、膝枕をして。一時間ほど昼寝するから」

 

「ちょっとレティシア!?何が、という訳で遊馬くんに膝枕をしてもらうんですか!?」

 

「いいじゃない膝枕ぐらい。ケチケチするんじゃないわよ、ショタコン聖女」

 

「だからその呼び方はやめて下さい!」

 

「おーい、二人共。とりあえず落ち着いてくれ」

 

いつものように言い争いをする二人に遊馬は宥めて落ち着かせる。

 

いち早く落ち着いたジャンヌはルーラーとジークに目線を向けて早速質問をする。

 

「それで、そっちのジャンヌはジークさんですか?彼とどういう関係なのですか?」

 

「……まずは私とジーク君が参加した聖杯戦争……『聖杯大戦』について話さなければいけません」

 

「「「聖杯大戦?」」」

 

聖杯大戦。

 

それはルーマニアで行われた聖杯戦争で通常の聖杯戦争は七騎のサーヴァントで戦うが、この聖杯大戦はその倍の十四騎のサーヴァントが戦いを繰り広げる大規模な聖杯戦争である。

 

十四騎のサーヴァントは『黒』と『赤』の二つの陣営に分かれたチーム戦で戦い、聖杯大戦の管理者としてルーラー……ジャンヌが召喚されたのだ。

 

「なるほど……聖杯大戦ですか。それはかなり大掛かりな聖杯戦争だったんですね」

 

「確かにこっちのジャンヌはその聖杯大戦は参加してないわね。だって死んで英霊になってすぐに召喚されたのがフランスの特異点の戦いで、その後すぐに遊馬が召喚したんだから」

 

「あの、それでそちらの私に似たあなたは一体……?」

 

ルーラーはレティシアを不思議そうに見つめる。

 

「あー、私?私はジルが聖杯で作り出したフランスに復讐するために生み出されたジャンヌ・ダルクの偽物よ」

 

「ジ、ジルが!?」

 

「そうよ。まあ、今はレティシアって名前でやってるからそこんところはよろしくね」

 

レティシアと言う名前にルーラーは不思議そうにその名前を改めて聞いた。

 

「レティシア……?あなた、レティシアという名前なのですか?」

 

「そうだけど、それがどうしたのよ?」

 

「実は、私が聖杯大戦で召喚される際に私と似ているの少女……レティシアに擬似サーヴァントとして憑依したんです。その名前はどなたがつけてくれたんですか?」

 

「この名前は遊馬がつけてくれたのよ……あれ?そう言えば、遊馬はレティシアの名前をつけてくれる時に確か、女子高生みたいなジャンヌが頭に浮かんだって言ってたわよね?」

 

レティシアがまだジャンヌ・オルタだった頃、遊馬が名前を考えた時に脳裏にジャンヌそっくりの少女の姿が映った。

 

「あ、そう言えば。じゃああの子がレティシアだったのかな……?」

 

平行世界のルーラーが憑依した依代である少女・レティシア。

 

彼女とジャンヌ・ダルクと言う縁が名前の無いジャンヌ・オルタに自らの名を遊馬を介して授けたのだろうか?

 

その真意は分からないがレティシアはこの名前をこれからも大切にしようと思った。

 

そんな中レティシアはふと、ルーラーの隣にいるジークと目が合う。

 

「……ん?」

 

レティシアは目を細めてジークを見つめる。

 

「何か……?」

 

「……貴方、何者よ」

 

「何者とは……?」

 

「どうして貴方からファヴニールの気配がするのよ?いや、違うわね……貴方自身がファヴニールね?」

 

レティシアはジークの中にあるもの……それが邪竜・ファヴニールだと気付いた。

 

「っ!?何故それを……!?」

 

「分かるに決まってるじゃない。私は復讐者としてファヴニールを召喚してフランスを滅ぼそうとしたのだから」

 

「「なっ!?」」

 

「私はフランスを復讐するためだけに生まれた。ファヴニールとワイバーンを召喚して全てを壊そうとした。だけど、それを遊馬達に邪魔されて、遊馬のドラゴンでファヴニールを倒されちゃった。その後は何やかんやあって、遊馬に救われたのよ……」

 

「レティシア……」

 

「心配しなくていいわよ、もう復讐するつもりなんてないから。えっと、ルーラーで良いわよね?こっちのジャンヌと被るし」

 

「ええ。私もそちらの方が呼び慣れているので」

 

「それで、話は戻るけど……ジークだっけ?何でファヴニールになってるのよ?あなたに一体何があったのよ」

 

「分かった。少し長くなるが聞いてくれ……」

 

ジークは大きく息を吐いて心を落ち着かせながら静かに語り出す。

 

それは短いながらも壮絶な人生を繰り広げたジークの物語である。

 

ジークの正体は聖杯大戦の参加者達である『黒の陣営』である『ユグドミレニア一族』により作り出されたホムンクルスである。

 

ホムンクルスはかず多く存在し、魔力供給を肩代わりさせられるために生み出された……ただ消費されるだけの自我の無き生命だった。

 

だが、奇跡的な確率で一人のホムンクルスが自我に目覚め、死への恐怖から魔術回路を駆動させ、魔力供給槽からの脱出に成功する。

 

しかし、歩くことすら設計されていない欠陥を抱えた体では城の外までは逃げることはできず、命運が尽きようとしていたその時……黒のライダーに助けられる。

 

その後、ライダーの助けを借りて脱走を試みるも、捕縛に現れた魔術師に暴行を受け、瀕死の重傷を負う。

 

だが、その魔術師のサーヴァント……ジークフリートは本心である心に従い、自らの心臓を抉り出してその心臓を与え、少年の蘇生に成功した。

 

サーヴァントの心臓を取り込んだことで肉体が大きく変化し、錬金術の永い歴史の中でも例のない存在となった。

 

「黒のライダー?ジークフリート?えっと、その二人ならカルデアにいるぜ」

 

「えっ……?い、いるのか!?ライダーとジークフリートがいるのか!?」

 

ジークにとっては大切な恩人である二人がいると聞いて遊馬に駆け寄って肩を掴んだ。

 

「ちょっと待っててくれ。今呼んでやるよ」

 

遊馬は再びカルデアに連絡して更に二人のサーヴァントを呼ぶ。

 

再びデッキケースが輝いて二枚のフェイトナンバーズを取り出す。

 

「やっほー!シャルルマーニュ十二勇士の一人、アストルフォだよ──えっ!?」

 

「ジークフリート……推参──何?」

 

アストルフォとジークフリートがフェイトナンバーズから飛び出し、ジークをその目に写すと、二人共とても驚いた表情を浮かべた。

 

そして、アストルフォは涙を浮かべ、顔を歪ませてジークに飛びかかった。

 

「ジークゥウウウウッ!!!」

 

アストルフォは嬉し涙を流しながらジークに抱き着いた。

 

「ライダー……いや、アストルフォ。久しぶりだな」

 

「うんうん!本当に、本当に久しぶりだね、ジーク!会いたかったよぉ〜!!」

 

スリスリと甘えるようにジークに頬ずりをするアストルフォ。

 

側から見れば再会した恋人同士のようにも見えるが……残念ながらアストルフォは男である。

 

「ア、ア、アストルフォ!!いい加減にジーク君から離れなさい!!」

 

隣にいるルーラーは耐えられなくなり、ジークに抱きついているアストルフォを無理やり引き剥がす。

 

「もう何するんだよ!って、ああ!ルーラーだ!久しぶり!」

 

「お久しぶりです、アストルフォ。それよりも、ジーク君にあまり抱きつかないでください!」

 

「えー!?いいじゃん!せっかくの再会なんだし、この後チューしようと思ったのに!」

 

「なっ!?そんな破廉恥なことはさせません!それ以前にあなたは男でしょう!?男の子同士で接吻なんていけません!」

 

「そんなの気にしない気にしなーい」

 

「気にします!!私がいる限り、ジーク君にそんなことをさせませんからね!」

 

「ぶぅ!ルーラーのケチ!どうせ自分がジークにキスをしたいから独占したいんでしょう?」

 

「ななな!?何を言いだすのですかあなたは!?わ、私は、ジーク君の相方としてそのような行為を防ぎたいだけです!」

 

「ルーラー……嘘が下手になったね。顔が真っ赤だよ?」

 

「はっ!??な、何をいうんですかあなたは!??」

 

「あははー!ルーラーの顔真っ赤ー!」

 

「アストルフォ!!」

 

ジークを巡りルーラーとアストルフォの言い争いが起こる。

 

ルーラーはともかく、何故男であるアストルフォが参加しているのか遊馬達はよく分からなかった。

 

すると、ジークはジークフリートと向き合うと互いに笑みを浮かべながら固い握手を交わした。

 

「ジークフリート……またあなたに会えて本当に嬉しい。改めてお礼を言わせてくれ、ありがとう」

 

「ジーク……礼はいらないさ。だが、お前には辛い運命を背負わせてしまった……許してくれ」

 

「謝らないでくれ。あなたがいたからこそ俺は……ルーラーと一緒にいることが出来たのだから」

 

「そうか……お前も、自分の夢を持てたのだな?」

 

「ああ……」

 

ルーラーとジークがそれぞれの再会を怒ったり喜んだりした。

 

落ち着いたところで今度は遊馬達カルデアの目的を話した。

 

人理修復と特異点の解決……それを聞いたルーラーとジークは互いに目を合わせてアイコンタクトを取るとすぐに頷いた。

 

「分かりました、私達も協力します」

 

「俺たちの力を君たちに貸す、存分に使ってくれ」

 

「サンキュー、ルーラー、ジーク」

 

「では、まずはこの霧を何とかしないと……」

 

アストラルがこのロンドンで発生している異常事態である謎の霧……それを解決するために話し合おうとしたその時。

 

カタカタカタ……!

 

「ん?なんだ?おわっ!?」

 

デッキケースが震え出して蓋が開くと中から緑色の光が飛び出した。

 

その光が遊馬の前で降り立つと、その姿に唖然とした。

 

「え?ア、アタランテ……?」

 

「あ、あなたは……!?」

 

それはアタランテでルーラーはとても驚いていたが、アタランテはルーラーには目を向けずに遊馬の手を取った。

 

「ユウマ……頼みがある」

 

「頼み?」

 

「頼む……私の全てを捧げても構わない、あの子達を……あの子達を救ってくれ……!」

 

「待てって、アタランテ。話が全然見えないぜ、あの子達って誰のことなんだ?」

 

アタランテがそこまでして救いたい子供達……それは想像を絶する存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が、私が、聖杯大戦で救うことが出来なかった子供達……『ジャック・ザ・リッパー』だ……!」

 

「ジャック・ザ・リッパー!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは19世紀のロンドンを震撼させた連続殺人鬼。

 

しかし、それは悲しき運命を持つ子供達。

 

誰もその子供達を救うことが出来なかった。

 

そして、一人のサーヴァントの儚き願いが未来を背負う幼きマスターに託される事となる。

 

 

 




ジークとルーラー……二人は一騎のサーヴァントとして扱うことにしました。
元々二人一緒に映る絵とかが多いので良いかなと思いまして。
この二人のカップリングは無自覚なジークと暴走するルーラーが好きです。

モードレッドはアルトリアの説教を受けています(笑)
良かったね、モー君!
父上がちゃんと構っているよ(笑)

次回はアタランテの願いと遊馬の決意を書きます。

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