Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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ギリギリ間に合いました……今回もいろいろ詰め込みすぎました。
衝撃的な展開が次々と起こるので期待してくださいませ。

※35話と69話のタイトルが同じでしたので35話の方を変更しました。
どうもすいませんでした。


ナンバーズ70 奇跡の開放召喚!

イスカンダル軍とダレイオス軍の戦争……それは静かに終わりを告げた。

 

「これまでか……」

 

イスカンダルは寂しそうな表情を浮かべると、展開していた王の軍勢が崩壊し始めた。

 

王の軍勢はイスカンダルの配下たち全員の魔力を使って行われるため、展開中はイスカンダル自身の魔力消費は少なく済むため、規模の割に燃費は良い。

 

しかし、軍勢の総数が減るに従って負担が増し、過半数を失えば強制的に結界は崩壊するデメリットがある。

 

イスカンダル軍とダレイオス軍の正面戦争による衝突で両軍共その大半が倒れ、消滅していった。

 

それにより、王の軍勢を展開できなくなり、結界が静かに崩壊していった。

 

イスカンダルも激しい戦いで大幅に魔力を失ってしまう。

 

その一方でダレイオスも遊馬から令呪で供給された魔力もほぼ全て使い切り、不死の一万騎兵が解除されて戦象と不死の軍団が消滅した。

 

互いにもう後が残されてない二人は目を合わせると武器を捨て、身につけた装飾や余分な服を脱ぎ捨てて出来るだけ動きやすい格好にした。

 

「ライダー……?」

 

「ウェイバーよ、見ておれ。ここからは王と王の戦いではない……」

 

イスカンダルはマントをウェイバーに渡すとその大きな拳を握りしめる。

 

イスカンダルとダレイオスはゆっくりと近づくように歩き、そして……。

 

「漢と漢……最後の戦いだ!!!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎──ッッ!!!」

 

二人同時に動き、イスカンダルとダレイオス、二人の拳が互いの左頬を思いっきり殴り付ける。

 

「なっ!??」

 

ウェイバーが驚く中、強靭な肉体から放たれた拳は互いを吹き飛ばし、それぞれの左頬が赤く染まり、血が流れる。

 

「な、殴り合い……?」

 

「そうだ。互いの軍が崩壊し、最後に残ったのは己の体のみ……さすれば、最後の戦いは殴り合いになる!」

 

「む、無茶苦茶な……」

 

「それが漢ってもんだ。最後までしかとその目に焼き付けておけ!!」

 

イスカンダルは歓喜の笑みを浮かべて再びダレイオスに殴りかかった。

 

ウェイバーは手の甲に刻まれた令呪を見てイスカンダルを支援するための命令を下そうと思ったが、ボロボロになりながらも最後まで王として威風堂々と戦い続けるイスカンダルの姿を見て令呪を手で隠した。

 

「っ……ライダー!令呪は、令呪は使わないからな!!」

 

「ウェイバー……?」

 

「お前のことだ、どうせ余計なことをするなと怒鳴り散らすんだろ!?だったら、必ず勝て!!あんたの最高の勝利を僕に見せてくれ!!!」

 

必死に令呪を手で抑え、涙をその目に浮かび上がらせて耐えながらイスカンダルへと声援を送った。

 

イスカンダルは未熟者だが、本当に良きマスターに召喚されたと心の中で感謝した。

 

「おうっ!最後までしっかりと見ておれ!!行くぞ、ダレイオスゥ!!!」

 

「イスカンダルゥッッ──ッ!!!」

 

イスカンダルとダレイオス、己の全てをかけた最後の戦いが繰り広げられる。

 

 

一方、大聖杯では衝撃的な事態となっていた。

 

凛と桜が遊馬の聖杯で十年後の遠坂凛と間桐桜を依り代に擬似サーヴァントとなった存在、イシュタルとパールヴァティーが召喚された。

 

「……って!ここ大聖杯!?どういうことよ!?私たちが解体したはず──」

 

「り、凛!?」

 

「えっ……?」

 

イシュタルが振り向き、時臣の姿を見て目を皿のように丸く見開いて驚愕した。

 

「お、お、お父様!??」

 

「凛、お前なのか!?それに、イシュタルとはギルガメッシュ王の時代にいたメソポタミア神話の美と豊穣と戦の女神……まさか神霊をその身に宿しているのか!?」

 

「えっと、それはその……あれ?お父様が生きているってことは……アーチャー!!」

 

「何だ、凛」

 

「状況を説明しなさい!最重要事項のみを簡潔に!!」

 

「承知した。ここは別世界の第四次聖杯戦争。我々は大聖杯を解体するためにここにいる。君の父君は見ての通りご健在だ。そして、君達を召喚したのは幼い頃の君達だ」

 

「はぁ!?幼い頃の私が召喚した!??」

 

イシュタルは召喚者である凛と桜を見てガーン!と衝撃を受け、固まってしまった。

 

隣にいたパールヴァティーは少し遠くにいる雁夜を見て呆然としながら呟いた。

 

「雁夜、おじさん……?」

 

「桜ちゃん……?本当に君なのかい……?」

 

「は、はい……でもおじさんは……あの時……」

 

「サクラ、落ち着いてください」

 

パールヴァティーは信じられないような様子で頭を抱えながら混乱していき、側にいたメドゥーサが支えて落ち着かせる。

 

そして……聖杯で二人のサーヴァント、しかも自分たちによく似た存在を召喚して呆然としている凛と桜だったが、更なる変化が起きる。

 

聖杯が再び輝きだすと中から金色と黒色の二つの光が飛び出してくると、それが凛と桜の前で止まる。

 

「な、何……?」

 

「えっ……?」

 

そして、二つの光が大きくなるとそのまま凛と桜を包み込む。

 

二人は悲鳴をあげる間も無くその光の中に包み込まれ、意識が遠のいて行く……。

 

 

凛が目を覚ますとそこは全てが真っ白の空間でそこに金色の光が目の前に現れた。

 

金色の光は人の形となり、凛はそれを英霊だとすぐに察した。

 

「あ、あなた……誰?」

 

『……ねえ、あなた。あの男の子、そんなに大切?』

 

その英霊から高い声が響き、口調からも女性だと推測出来た。

 

「遊馬お兄様の事……?当たり前よ!お兄様は私の大切な妹の桜を助けてくれたんだから!それに、私に桜と姉妹に戻るためのきっかけと勇気をくれた。頼り甲斐のあるお兄様だもん!」

 

即答した凛の答えに金色の英霊は静かに頷いた。

 

『……それほど大切な人なら、私の力を貸してあげてもいいわよ』

 

「あなたの力を……?」

 

『ええ。でも、一度私の力をその身に宿せばあなたが本来歩むべきだった道が途絶える事になる』

 

「私が本来歩むべき道……」

 

凛の歩むべき道、それは遠坂家の当主となり、魔術師として大きく成長し、根源を目指す事である。

 

しかし、遊馬が現れ、引き裂かれた姉妹の絆を結び直してくれた事でその運命が大きく変わってしまった。

 

魔術師の道か、未知なる世界への道。

 

幼い凛に突然の選択が迫られた。

 

凛は目を閉じて胸に手を当てながら考えた。

 

しかし、既に答えは出ていた。

 

「お願い、あなたの力を貸して!私は……私の大切な人達を守りたい!」

 

例え魔術師としての道が失われようとも、大切な人たちを守り抜く為の力を願った。

 

『分かったわ。私の力を、貸してあげる……』

 

その答えに金色の英霊の体が粒子となり、それが凛の体の中に入っていく。

 

「ま、待って!あなたの、あなたの名前は!?」

 

『私は冥界の女主人、エレシュキガルよ』

 

「エレシュキガル……?」

 

聞いたことのない英霊の名に凛は首を傾げた。

 

『そうよ。最後に一つ、私の力は強いからその力を使い間違えないでね。下手をしたらあなたの大切な人達を傷つけてしまうから』

 

「あっ……」

 

金色の英霊──エレシュキガルが凛にそう忠告すると、粒子が全て凛の中に完全に入った。

 

凛は再び胸に手を当てると自分の中に強大な力が宿っていることを感じ取った。

 

「ありがとう、エレシュキガル」

 

凛はエレシュキガルに感謝すると、その体が金色に輝き出した。

 

 

一方、桜は凛と同じく真っ白な空間にいた。

 

「ここは……?」

 

『小さいですね……』

 

「……誰?」

 

桜が振り向くとそこにいたのは妖艶で露出度の高い黒い装束を身に纏い、バイザーで顔の上半分を隠した紫髪の女性だった。

 

『……私は別世界のとある女の子の成れの果てよ』

 

「別の世界……?」

 

別の世界がどうこうよりも、あまりにも不気味な姿をしていることに桜は警戒する。

 

「私をどうする気なの……?」

 

『別に私自身が何かをするつもりはありません。ただ、あなたに選んでもらうの』

 

「選ぶ……?」

 

『そう。あなたが私のこの力を使うかどうか』

 

「えっ……?」

 

その女性の纏う力……それは邪悪なる闇のような漆黒に煌めくものだった。

 

その漆黒に桜は暗い蟲蔵で大量の蟲に体を調練された事を思い出して体が震えだす。

 

『怖がるのも無理は無いですね。死んだ魂に狂った力を無理矢理埋め込まれたものですから。だけど、この力はあなたなら使いこなせます』

 

女性は桜を宥めるように頭を撫でた。

 

撫でられて桜は不思議と他人のような気がしなかった。

 

「……その力を入れたら、私はどうなるの?」

 

『私の力を宿せばあなたの運命は大きく捻じ曲げられます。でも、その代わり……その力であなたの一番大切な人を守り、一緒にいられますよ』

 

その言葉を聞いて桜の心はぐらっと揺れ動いた。

 

幼く力が弱すぎる桜が手を伸ばせば遊馬を守れるほどの大きな力を手に入れることができる。

 

しかし、その力は再び自身を闇に堕とすかもしれないという大きな恐怖があった。

 

ふと、ポケットに手を入れるとその中に入っていたものを取り出した。

 

「ホープONE……」

 

それは桜の勇気と希望のカード、希望皇ホープONE。

 

桜はカードを大切に抱きしめながら答えを導き出す。

 

例え闇に堕ちても、今の自分には支えてくれる人がいる、見守ってくれる人がいる、そして……闇を照らしてくれる光のような一番大好きな人がいる。

 

その人たちがいる限り、自分は何度だって立ち上がれる。

 

桜は幼きながらも勇気を振り絞って決意を固めた。

 

「お願い……私の大切な人を守る力を、未来を照らす力を私にちょうだい!!」

 

漆黒の女性はバイザーを外した。

 

『……やっぱり、あなたも欲張りさんですね』

 

そこには桜と同じ目と顔立ちの優しい表情をした女性がいた。

 

「あなた……もしかして……」

 

女性の体が粒子となり、桜の中に入り込んでいく。

 

不思議と嫌な感じはなく、まるで最初から桜自身の為にあるような力が入り込んでいた。

 

『頑張ってください。私は一番大切な人を守ることができませんでした。だけど、あなたは大切な人を守って、必ず幸せになってくださいね……』

 

その女性のその言葉には切なる祈りや願いが込められていた。

 

桜は右手から溢れる漆黒の闇を握り締め、胸に手を置く。

 

「ありがとう……私、頑張る!」

 

桜の感謝と決意の言葉と共に体が漆黒に包まれる。

 

 

聖杯から放たれた謎の光が凛と桜を包み込み、急いでメディアとエミヤが破戒すべき全ての符を使って救出しようとした……その時だった。

 

二人を包んだ光が弾け飛び、中から金色のオーラを纏った凛と漆黒のオーラを纏った桜が静かに出てきた。

 

その時、この場にいた全ての者達が驚愕した。

 

何故なら、その二人の少女に宿る力が魔術師という概念を越え……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「開放召喚(レリーズ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英霊……サーヴァントの力を宿しているからだ。

 

二人が無意識のうちに呟いた言葉が鍵となり、二人の体に大きな変化が起きた。

 

二人の体が大きく成長し、凛は髪が金色に輝いてその身に黒のドレスと赤いマントを羽織った姿となり、桜は妖艶な黒の戦闘装束に軽装の鎧を身に纏った姿となった。

 

それはこの場にいる二人の十年後の姿であるイシュタルとパールヴァティーと変わらぬ年齢の姿となっていた。

 

しかし、その身から溢れるばかりの力は全くの異質なものであった。

 

「もしかして……」

 

マシュは目を見開き、凛と桜の二人に何が起きたのかすぐに察した。

 

「桜ちゃん……?凛ちゃん……?」

 

遊馬は突然起きたことに戸惑いを隠せなかった。

 

「待ってて、お兄様……」

 

「必ず、私達が……」

 

「「助けるから!!」」

 

二人は魔力を解放し、先に動いたのは凛だった。

 

凛の手に歪な形をした槍・発熱神殿メスラムタエアが現れ、電撃を纏いながら風車のように回して高速回転させる。

 

「天に絶海、地に監獄。我が昂こそ冥府の怒り!出でよ、発熱神殿! 」

 

槍を地面に突き刺すと突然大きな地震が発生し、青い炎が燃え盛る。

 

「反省しなさい!『霊峰踏抱く冥府の鞴(クル・キガル・イルカルラ)』!!」

 

紫電の槍が地中から次々と沸き起こり、大聖杯と黒アイリに襲いかかる。

 

「ぐぁああああっ!??」

 

黒アイリは触手で縛っていた遊馬を思わず手放してしまった。

 

「なんて威力だ……凛がこれほどの力を……!?」

 

時臣は凛が大魔術に匹敵する強力な宝具を放ったことに興奮していた。

 

「桜!!!」

 

「うん!!」

 

桜は地を蹴って遊馬の元へ一直線に走り出した。

 

「くっ!?」

 

黒アイリは大聖杯から無数の人型の怪物を呼び出して桜を迎え撃つ。

 

桜は間桐の調練で凛よりも体が不安定でまだ完全に宿した英霊の力をコントロール出来ておらず、宝具を使用することが出来ない。

 

しかし、驚異的な身体能力で人型の怪物の攻撃を次々と躱していき、まるで舞を踊るように軽やかに進んでいき、確実に遊馬の元へ向かう。

 

「桜ちゃん……バーサーカー!桜ちゃんの援護を頼む!!」

 

雁夜は必死に戦う桜のためにバーサーカーを向かわせ、化け物を斬り伏せて行く。

 

その光景を見てイシュタルはフルフルと震えていた。

 

「……アーチャー」

 

「何だ?」

 

「全然状況が理解出来ていないけど、幼い私と桜があそこにいる子供を助けようと必死に戦っている……それを黙っているわけには、いかないわよね!」

 

「当たり前だ。凛、その英霊の力……君に扱えるのか?」

 

「当然、私を誰だと思っているの?でも、流石にここじゃあ宝具は使えないけど、援護射撃ぐらい出来るわ!さぁて、私とアーチャーの最強コンビを見せてあげましょう!」

 

「別に最強コンビという訳でもないが、まあ良いだろう」

 

イシュタルは巨大な弓である『天舟マアンナ』を構え、エミヤは黒弓を投影して次々と矢を放っていく。

 

パールヴァティーは三叉槍を構えて行こうとするとメドゥーサが立ち塞がった。

 

「……サクラ」

 

「ライダー!」

 

「あなたが女神の依り代となり、戦場に現れたことを私は好ましく思っていません。あなたには戦って欲しくない……」

 

「ライダー……でも、私は……」

 

「ええ、分かってます。だからこそ、私はあなたを守る為に共に戦います。行きましょう、サクラ」

 

メドゥーサは短剣を構え、パールヴァティーと横に並び立つ。

 

「ありがとう、ライダー!」

 

「あなたの背中は私が守ります。ですから、思いっきり行ってください」

 

「うん!」

 

パールヴァティーとメドゥーサは共に走り出して化け物を倒していく。

 

他のサーヴァント達もそれに続き、大聖杯から次々と溢れ出てくる化け物を倒していく。

 

そして、黒アイリから解放された遊馬はホープ剣と原初の火で化け物を倒していくが、余の数に突破出来なくなっている。

 

アストラルも遊馬を奪還するためにコントロールを切り替えた希望皇ホープレイVで化け物を焼き尽くしていくが、無限に増殖していく化け物に対処しきれない。

 

やがて、大量の化け物に覆い尽くされ、希望皇ホープレイVが破壊されてしまった。

 

「くっ、数が多すぎる!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「えっ!?」

 

遊馬が呼ばれて振り向くと、数多の化け物を潜り抜け、手を伸ばして飛んできた桜の姿が目に映った。

 

遊馬はホープ剣を消して手を伸ばし、桜がその手をしっかりと握りしめ、そのまま引き上げた。

 

桜は遊馬をお姫様抱っこで抱き上げると再び足に力を込める。

 

「しっかり掴まってて!」

 

「えっ!?あっ、どわぁああっ!??」

 

桜は全力疾走で駆け抜け、風の如きスピードで化け物の大群を一気に潜り抜けてアストラルの元へと運んだ。

 

まるでジェットコースターのような激しい揺れに少し酔いながら遊馬はゆっくりと降ろされた。

 

「さ、桜ちゃん……サンキュー、助かったぜ」

 

「うん!どういたしまして!」

 

「それにしても大きくなったなぁ……妹分が俺よりも大きくなってるって兄貴分としてかなり複雑だぜ」

 

「遊馬、感傷に浸るのは後にしろ。No.96が……」

 

アストラルに言われ、下を見るとNo.96が倒れこみ、体が点滅しながら消滅しかかっていた。

 

「おい!お前、大丈夫か!?」

 

「う、うるせぇ……それよりも、何で、俺を助けた……?」

 

「……そんな口を聞けるならまだ大丈夫だな。アストラル、とりあえずこいつを皇の鍵の中で休ませてやってくれ」

 

「……いいのか?」

 

「ああ。こいつとの決着は後でちゃんと着けるからさ」

 

「……分かった。君の判断に任せよう」

 

アストラルは手を輝かせ、No.96を粒子化して皇の鍵の中へと移動させる。

 

皇の鍵の中なら力を失ったNo.96も徐々に傷を癒せるはずである。

 

「まずはあそこにいる黒アイリを倒さなければ……このままだとジリ貧だ」

 

「大聖杯ごとぶっ倒すってことはできないか?先生!」

 

エルメロイII世に知恵を借り、タバコを吸って紫煙を吹かせながら考えを一瞬でまとめて答えを出す。

 

「聖杯の泥は言わば大樽一杯に貯まったニトログリセリンだ。それなら、樽の中身の爆発力を更に封じ込めるだけの火力で樽ごと一気に吹き飛ばす……荒療治だが、今はこれしかない」

 

「火力、ってことは……」

 

「ここは私にお任せください」

 

「大聖杯を全て消し尽くしてやる」

 

それはアルトリアとオルタの二人だった。

 

二人の聖剣であり、光を打ち出す神造兵器である約束された勝利の剣なら大聖杯を一気に吹き飛ばすことができる。

 

「遊馬、令呪を使って二人をブーストさせるんだ」

 

「オッケー!後は、確実に黒アイリを倒す。その為には……」

 

「分かっている、遊馬。ZEXALだ!」

 

「おう!桜ちゃんと凛ちゃんがあんなに頑張ったんだ。俺たちもかっこいいところを少しは見せないとな!!」

 

「フッ……そうだな」

 

遊馬とアストラルは確実に大聖杯と黒アイリを倒す為、そして幼いながらも命をかけて戦ってくれた凛と桜のために全力を尽くす。

 

「かっとビングだ!俺は俺自身と!!」

 

「私で!!」

 

「「オーバーレイ!!!」

 

遊馬とアストラルは赤と青の光となって天に昇り、その力を知らない全ての者が驚愕した。

 

「「俺達/私達、二人でオーバーレイ・ネットワークを再構築!!!」」

 

二つの光である遊馬とアストラルが一つに交わるように交差し、巨大な金色の『X』の光を放ちながら地面に垂直落下する。

 

「「遠き魂が交わる時、語り継ぐべき力が現れる!!!」」

 

遊馬とアストラルの肉体と魂の全てが一つに交わり、究極の力がその姿を現わす。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL!!」」

 

希望と絆の英雄、ZEXAL。

 

その顕現にアイリ達は驚愕し、対峙した黒アイリは困惑した。

 

「な、何が起きている……?お前達は、一体何なのだ!?」

 

「「俺/私は異世界の英雄、ZEXAL!俺/私のターン!全ての光よ、力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!」」

 

ZEXALは右手を金色に輝かせてシャイニング・ドローをし、更に甲に刻まれた令呪を輝かせる。

 

「「令呪によって命ずる!アルトリア!オルタ!その手に持つ最強の聖剣を持って、大聖杯の全ての呪いを吹き飛ばせ!!」」

 

「「承知!!」」

 

アルトリアとオルタは約束された勝利の剣を構え、その刀身に魔力を込めてそれぞれの聖剣から眩い金色の光と黒色の光を放つ。

 

聖剣に魔力が最高潮に込められるまでの間にZEXALは二人にとっての最強の剣士を呼び出す。

 

「「魔法カード!『グローリアス・ナンバーズ』発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分の墓地の『No.』Xモンスター1体を特殊召喚する!蘇れ、希望皇ホープ!!」」

 

空中にナンバーズの独特な数字の刻印を円に並べたものが浮かび上がり、地中から希望皇ホープが這い上がるように蘇った。

 

「「その後、自分はデッキから1枚ドローする!シャイニング・ドロー!!」」

 

更にもう一枚、シャイニング・ドローでカードを創造し、グローリアス・ナンバーズのもう一つの効果を使用する。

 

「「グローリアス・ナンバーズの更なる効果!墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの『No.』Xモンスター1体を対象として発動する!手札1枚をそのモンスターの下に重ねてオーバーレイ・ユニットとする!」」

 

手札1枚を希望皇ホープのオーバーレイ・ユニットにし、これでZEXALの勝利の方程式が全て揃った。

 

そして、それと同時にアルトリアとオルタの準備が整った。

 

「束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流。受けるが良い!」

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!」

 

並び立つ二人は呼吸を合わせ、巨大な光を放つ聖剣を振り上げ、二人同時に振り下ろす。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!!」

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!!」

 

二つの聖剣から放たれた二つの極光。

 

それは化け物を一掃し、大聖杯と黒アイリに襲いかかる。

 

「あぁあああああああああっ!!?ま、まだだ……まだ我は消えぬ、消えてなるものかぁああああああっ!!!」

 

黒アイリは大聖杯から更なる膨大な魔力を得て何とか聖剣の極光を防ごうとする。

 

このままでは聖剣の極光が逆に黒アイリに喰われて膨大な魔力を得てしまう。

 

しかし、黒アイリは知らなかった。

 

絶望の中には必ず、希望の光があることを。

 

「「希望皇ホープで攻撃!!!」」

 

「何!?」

 

ZEXALが命じ、希望皇ホープは左腰のホープ剣を抜いて黒アイリに向かって飛翔する。

 

「「この瞬間!希望皇ホープの効果!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、攻撃を無効にする!ムーンバリア!!」

 

希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを胸の水晶に取り込み、振り下ろそうとしたホープ剣を消滅させた。

 

「自ら攻撃を消して、何のつもり!?」

 

「それはこうするんだよ!」

 

「私たちと希望皇ホープの最大パワーを見せてやろう!」

 

ZEXALは手札からカードを1枚デュエルディスクに挿入する。

 

「「手札から速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』を発動!!モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を二倍にして、もう一度攻撃が出来る!!!」」

 

希望皇ホープの真紅の目が鋭く輝き、消滅したホープ剣が現れ、左手で右腰のホープ剣を引き抜いて構え、ダブル・アップ・チャンスの効果を受けて二つの剣の刃が眩い金色の光を放つ。

 

「魔力が増加した!?」

 

ダブル・アップ・チャンスの効果で攻撃力が2500の2倍の5000まで上昇した。

 

そして、ZEXALは更なる力でホープの力を高める。

 

「「更に手札から速攻魔法!『ムーンバリア』!!」」

 

それは希望皇ホープがムーンバリアで攻撃を無効にするイラストが描かれていた。

 

「「モンスターの攻撃が無効になった時、自分フィールドの『希望皇ホープ』Xモンスター1体を対象として発動できる!そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の倍になる!」」

 

ダブル・アップ・チャンスにチェーンで発動してムーンバリアの効果により希望皇ホープの元々の攻撃力である2500の2倍の5000となり、更にそこからダブル・アップ・チャンスの本来の効果が発動し、5000の2倍の10000へと攻撃力が上昇した。

 

『ホォオオオオオオーープ!!!』

 

希望皇ホープから闇を照らす光の如き聖なる光を放ち、それが真紅の炎のようなオーラを纏う。

 

実に4倍の攻撃力上昇となり、背中に火星の幻影を見せ、二つのホープ剣と背中の双翼を真紅に輝かせながら黒アイリに突撃する。

 

「「希望皇ホープ!!ホープ剣・マーズ・スラッシュ!!!」」

 

振り下ろした真紅の双剣が黒アイリを斬り裂き、その直後に聖剣の極光が濁流のように呑み込んだ。

 

「美しい……」

 

黒アイリは希望皇ホープの姿を最後に目に焼き付けて消滅していった。

 

聖剣の極光は大聖杯の魔力を泥を全てなぎ払った。

 

そして、光が鎮まる頃には僅かな魔力の粒子が湯気のように漂っていた。

 

「終わった、のか……?」

 

「大聖杯から感じる呪いのような邪悪な魔力は感じられない……やったのだろう」

 

大聖杯から世界を破壊する泥の魔力は全て消滅し、一同は安心してホッとため息を吐いたり、その場に座り込んだりしていた。

 

これでこの特異点は解決した──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃははははははは!いやー、まさかあんな無茶苦茶な方法で大聖杯をぶっ壊すとはやるじゃねえか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──はずだった。

 

大聖杯の塵のような魔力が収束し、一つに固まると黒い人型のようなものが現れた。

 

ZEXAL達はすぐに警戒して戦闘態勢を取ると、黒い人型はその姿を露わにしていく。

 

「よう、世界を救う異世界の勇者様よ」

 

そして、現れたのは全身に痛々しい刺青を刻み、赤いスカーフのようなものを巻いた黒髪の少年の姿をしていた。

 

「誰だ、お前……」

 

「あいよー!オレ様は最弱英雄アヴェンジャー!またの名を、『この世の全ての悪』……『アンリマユ』様だぜ!以後お見知り置きを」

 

「「アンリマユ!??」」

 

それは第三次聖杯戦争でアインツベルンの魔術師が召喚したサーヴァント。

 

そして、敗北して大聖杯に取り込まれた際に願望機としての機能を汚染した元凶でもある存在だった。

 

何故アンリマユが現界したのか困惑する中、アンリマユは少年のような笑みを浮かべながらZEXALに向かって口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者様よ、オレ様をお前さんの仲間にしてくれねぇか?」

 

「「…………は???」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも突飛な発言にZEXALは唖然としてしまうのだった。

 

特異点を終結させる最後の対話がZEXALに待ち構えるのだった。

 

 

 




凛ちゃん&桜ちゃん、デミ・サーヴァント化!!!
いやー、これは色々悩んで考えた挙句やってしまいました。
開放召喚はいわゆる変身みたいな感じでプリヤの夢幻召喚みたいなものです。
エレシュキガルをどうしようか悩んでいたところ、凛ちゃんがいるじゃないかと思い、その身に宿しました。
凛ちゃんがデミ・サーヴァント化するので桜ちゃんもしたいなと思い、ふとプリヤでサクランスロットを見つけて思いつきました……。
これはどうしても、どうしても書きたかったんです!
一応バーサーカーのランスロットとは別枠みたいなものです。
プリヤのサクランスロットはもはや別物みたいですからね……。
サクランスロットは怖いですけどここでは妖艶な感じなので大丈夫です!

そして、最後に出てきましたアンリマユ!
アンリマユ君は個人的に好きなキャラですので出しました。
遊馬との対話が実現すればいいなと思います。
次回、いよいよZero編最終回です!

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