Zero編も6月中には終わらせたいですね。
そして7月に第4章のロンドン編を始めたいです。
遊馬たちの前に現れたアサシン……キリツグは息子のエミヤを前にして動揺を隠せないでいた。
「何故だ、士郎……何故お前がサーヴァント……英霊に……?」
「その言葉をそっくりそのまま返すよ、爺さん。何があったかはお互い、じっくり語ろう。だから……アイリスフィールを狙うのはやめてくれ」
「……それは出来ない。彼女を消すのが僕がこの世界に召喚された役目だからだ」
「……例え世界が違くても、アイリスフィールを愛していたんじゃないのか!?姉さんは……イリヤは二人の愛から生まれたんじゃないのか!?」
「愛しているからこそ……僕自身の手でやるしかないんだ……!」
キリツグは銃を取り出して銃口をアイリスフィールに向けようとする。
「ふざけるな……!!」
エミヤは怒りを露わにしてキリツグを睨みつけた。
それは敵に対する怒りではなく、愚かな行為をしようとする『家族』に対する怒りである。
「これ以上、イリヤを悲しませることをするな!!」
「すまない……例え、イリヤと士郎に恨まれても、これしか道が無いんだ……」
キリツグは感情を押し殺してフードのわずかな隙間から悲しそうな表情が見えた。
「そんな事は絶対にさせない……爺さんにアイリスフィールを殺させない……!イリヤに代わって、あんたを必ず止める!!」
エミヤの口調もだんだんいつもと違う感情的な感じになり、消した干将・莫耶を再び投影して全力でキリツグを止めようとした。
その時。
「現れよ、『No.41 泥睡魔獣バグースカ』」
二人の間に酒瓶を持ち、腹に『41』の刻印が刻まれた灰色のバクの姿をしたモンスターが現れた。
眠りこけているバクの口から紫色の吐息が放たれ、とっさに鼻と口元を押さえたキリツグだったが、何も吸わないように呼吸を止めたはずなのにその場に崩れ落ちる。
「なん、だ……!?」
「バグースカの能力。このカードが守備表示で存在する限り、フィールドの表側表示モンスターは守備表示になり、フィールドの守備表示モンスターが発動した効果は無効化される」
「つまり、バグースカのアルコールを含んだ吐息でみんな酔っちまうって事だよ。エミヤ、大丈夫か?」
「あ、ああ……何とかな……」
エミヤも酔った気分となり、立ちくらみがしてその場に膝をついていた。
「悪いけど、キリツグさん?あんたを拘束させてもらう」
「どうするつもりだ……?」
「あなたを説得する。あのままだとヒートアップして二人が戦いそうだったからな」
「あんたとエミヤは親子なんだろ?どんな事情だろうと、親子が争うなんて間違ってると思うし、悲しいからさ」
「エミヤキリツグ。一つ聞くが、あなたの目的は聖杯の器であるアイリスフィールを消して聖杯完成を阻止するためでは?」
アストラルの指摘にキリツグは静かに尋ねる。
「何故そう思う……?」
「……あなたの先ほどの雰囲気がとても辛そうに見えた。それは聖杯が完成する事で起こる災厄の事、そしてその恐ろしさを『誰よりも理解』しているからこそ全力で阻止しようとした……違うか?」
「……厳密には少し違う。僕は世界と契約しているサーヴァントだ」
「世界?」
「僕は人類を継続させるために世界から遣わされる『守護者』だ。この世界で聖杯が完成され、世界が破滅するのを防ぐために聖杯の器……アインツベルンのホムンクルスの破壊を命じられた。だが……」
「だが?」
「君達の持つ力……あの戦士と触れた時から、僕に様々な記憶が溢れてきた」
戦士とは希望皇ホープのことである。
「記憶?」
「本来契約した僕には無い別世界の『衛宮切嗣』としての記憶……戦いの記憶、愛する人の記憶……それが混ざり合ってきた……」
「まさか、ナンバーズに触れた事で記憶が……?」
ナンバーズはアストラルの記憶の欠片であると同時に人の心の闇を増幅し、その心を写す鏡でもある。
サーヴァントの記憶は召喚される毎にリセットされてしまうが、遊馬が召喚したサーヴァントは様々な記憶を持っている。
特異点での記憶、参加したことのある聖杯戦争の記憶など個人差はあるがそれぞれのサーヴァントの大切な記憶が宿っている。
それは遊馬とアストラルの絆や誰かとの大切な記憶を大事にしたいという願いから起こした『奇跡』なのかもしれない。
そして、戦闘中の僅かな時に希望皇ホープと交戦し、そしてアルトリアがキリツグの名前を呟いたことでキリツグに『エミヤキリツグ』としての記憶が入り込んだのだ。
「キリツグさん。あんたは一人で災厄を防ごうとしたんだよな。すげえよ、一人で全部やろうとするなんてさ」
「だが、我々と目的は一緒だ。アイリスフィールを殺すことなく災厄を防ぐことが出来る」
「……それは確実で容易な方法なのか?」
「簡単かどうかは分かんねえよ。何が起きるか、何が待ち構えているか分からないからな。でも、他に方法があるなら、犠牲が無い道があるならそれに賭けるべきなんじゃ無いのか?」
「……甘いな、君は。虫唾が走るほどに……」
キリツグは遊馬の考え方を『甘い』と言うが、それを否定するかのようにエミヤが立ち上がった。
「爺さん、確かにうちのマスターは甘いさ。だがな、マスターはその甘さを貫く為の強い信念と力を持っている。そして、有り得ない、無謀だと思われてもそれをぶち壊す数々の奇跡を起こしてきた」
「士郎……」
「俺はアイリスフィールを守りたい。爺さんだって本当は殺したく無いのは分かってる。だったら、別の道があるなら俺もそれに賭けたい。頼む、俺を、俺たちを信じてくれ……」
エミヤの必死の懇願は別世界の義母を救いたい、姉を悲しませたく無い、そして……大切な父に手をかけて欲しく無いと言う家族としての強い願いが込められていた。
「……困ったな、士郎にそこまで言われたら断れるわけがないじゃ無いか。アイリを救える道があるなら僕もそれに賭けてみるか……」
遂にキリツグも根負けし、アイリスフィールを犠牲にする事なく災厄を防ぐ道を選んだ。
こうして酒盛りからの聖杯問答、ギルガメッシュとの対決、そしてキリツグとの対話と言う短い時間で濃密な夜が終わりを迎えた。
その後、ウェイバーとイスカンダルは今後どうするか一晩考えてから答えを出すと言い残して遊馬達と別れた。
拘束したギルガメッシュはメディア達キャスター陣による封印魔術で厳重に拘束されてそのまま間桐邸に連れて行った。
遊馬達はこの世界でのあらかたの問題が片付いたところで、明日の夜に大聖杯に向かい、いよいよ大聖杯の解体作業を行う事となった。
そして、それはこの世界……特異点との別れが近づいていることを意味し、次の日に遊馬達が大聖杯に向かおう話し合いをしたその時だった。
「やっ!ぜったいに行かせないもん!!」
「「桜ちゃん……」」
「サクラ……」
桜がメドゥーサに抱きつき、小さな手で遊馬の服を握り締めながら離さないと言わんばかりの様子だった。
桜は子供の直感か遊馬達の雰囲気からもう二度と会えないかもしれないと察知したのだ。
「お願い……私を置いて行かないで……」
桜は涙目になってメドゥーサを見上げ、そのウルウルとした幼女の上目遣いにメドゥーサの心に大ダメージを与えた。
「はうっ!?ああっ、マスター!いけません、サクラのあまりの可愛さに私の理性が崩壊しそうです!!」
「落ち着け!!メドゥーサ!!?」
一体どうしたらいいのだろうか。
拒絶することもできないこの幼き少女のワガママはある意味遊馬達にとって現状最大の脅威といっても過言ではなかった。
「だったら連れて行ったらいいじゃない!」
そこに堂々と現れたのは凛だった。
「つ、連れて行くって、桜ちゃんを大聖杯に!?」
「もちろん私もよ!」
「はぁ!??」
「だって、大聖杯は遠坂家と間桐家にとっても関係大有りなものなのよ!私はまだ子供だけど次期遠坂家の当主として見届ける義務があるのよ!私達が次に進むためにも大聖杯の終わりを見届けたいの!」
凛の言う事には筋が通っていた。
もともと大聖杯は始まりの御三家と言われる二百年前のアインツベルン、間桐、遠坂の者達が作ったとされる。
その子孫であり、次期当主である凛にもそれを見届ける義務と権利がある。
「何かあったらすぐに逃げればいいし、それに守ってくれるでしょ?ね、アーチャー?」
凛は近くにいるエミヤに有無を言わせない満面の笑みを浮かべると頭を抱えながらその場に崩れた。
どうやらエミヤにとって凛は大きな悩みの種でもあるようだった。
「……はぁ、遊馬。仕方ない、連れて行こう」
「アストラル、マジかよ……」
「下手に禁止して勝手に行動されるよりは許可を出してこちらの保護の下で動いた方が安全だ。以前、小鳥達が勝手に行動して色々大変だったからな」
「あー、そう言えばそうだったな……」
小鳥や遊馬の仲間達は少しでも遊馬の役に立とうと行動したものの、逆にそれが仇となって敵に捕まったことが何度もあった。
勝手に行動されるよりも一緒に行動していつでも逃がせるようにしておけばまだ安全である。
「仕方ないか。分かった、二人共連れてくよ」
「「やったー!」」
「エミヤ、メドゥーサ、アタランテ。二人を頼む」
「承知した」
「お任せ下さい」
「私の命に変えても二人を守り抜く」
こうして桜と凛も遊馬達と共に大聖杯に向かう事となった。
大聖杯の解体という大きな試練に遊馬達は入念な準備とシミュレーションを行なっていく一方……。
「もきゅもきゅ……シロウ、とても美味しいです!」
「最高のプリンアラモードだ。流石は私のシロウだ」
アルトリアとオルタはエミヤが作ったプリンアラモードを美味しそうに食べており、エミヤは紅茶を飲みながら微笑んで見ていた。
「むむっ!私のシロウでもありますからね!」
「分かってる。いちいち突っかかるな」
「二人共、おかわりはどうかな?」
「いただきます/いただくぞ!!」
カルデアでは見慣れたエミヤとアルトリアとオルタの光景であるがそれを面白くないと思う者がいた。
「……………………チッ」
それはキリツグだった。
何故かキリツグはアルトリアを毛嫌いしており、息子であるエミヤと仲良くしている光景に苛立っていた。
「ん?爺さん、どうした?」
「い、いや……何でも……」
「お汁粉、お代わりはどうだ?」
「え、あ、じゃあ……いただくよ」
エミヤの優しい息子としての微笑みや行動にキリツグも思わず唖然となってしまい負けてしまう。
手間を掛けて作る時間がなかったので即席で作ったお汁粉をキリツグに出した。
生前からの好物なのかお汁粉を食べると、とてもホッとした様子を見せる。
しかし、この直後にその心の安らぎが崩壊する。
「さあ、お代わりのプリンアラモードだ」
「はい!シロウ、大好きです!!」
「流石は私たちの嫁だ。愛しているぞ、シロウ!」
ブチッ!!!
バキッ!!!
キリツグの堪忍袋の尾が引き千切られ、持っていた箸を握り締めて割ってしまった。
「……セイバー、うちの士郎とどんな関係かな……?」
キリツグはできるだけ笑顔でセイバーの元マスターとして息子との関係を聞こうとした。
しかし……。
「……オルタ、何か聞こえましたか?」
「いいや?何も」
二人はキリツグの問いを無視した。
「貴様ら……!!」
キリツグは席から立ち上がろうとしたがとっさにエミヤが肩に手を置いて抑えた。
「まあまあ、爺さん落ち着け……セイバーもオルタもやめないか」
エミヤは仲を取り持とうとしたが、セイバーはプリンアラモードを食べながら知らん顔をした。
「……英霊大嫌いで自分のサーヴァントとまともにコミュニケーションも取れず、結局三回の令呪の時しか言葉を発しないコミュ障な元マスターなんて知りませんねぇ」
アルトリアのキリツグに対する鬱憤を晴らすかのような言葉攻めにキリツグはプルプルと体を震わせていた。
「それに比べて息子のシロウは寧ろ自ら飛び込んでコミュニケーションを取りまくって好感度が上がりまくったからな」
「ええ。女を捨てた私の女を目覚めさせましたからね……あ、そうです。シロウ、もし良ければこのあと少し街を散策……いいえ、デートに行きませんか?」
「狡いぞ、青いの。もちろん私も行くぞ、両手に花で嬉しいだろ、シロウ」
「……レディ二人に誘われたんじゃ断れないな」
エミヤはデートに誘われて嬉しいのと断ったら恐ろしいのが混ざり合った複雑な心境だったが、一番恐ろしいのは目の前にいる養父だった。
「セイバァアアアアア!!よくもうちの士郎を誑かしやがって!!!貴様らには渡さんぞ、今すぐ表に出ろ!!!」
「上等です!積年の恨みを晴らすチャンス到来です!!行きますよ、オルタ!!!」
「やはりこの時が来たか!お手柔らかに頼むぞ、お・義・父・さ・ん♪」
「誰がお義父さんだ!!??」
せっかく協力関係になったと言うのに最悪な関係であるアルトリアとキリツグにエミヤは頭を悩ませた。
「なんでさ……」
時々無意識に口にする口癖を呟きながらエミヤはアルトリア達を止めに入るのだった。
この小説の独自設定ですがナンバーズに触れるか遊馬達と契約を交わすとサーヴァントに様々な記憶が流れ込むと言うことにしました。
元々サーヴァントの記憶はさじ加減で色々変わるから面倒なんですよね。
ちなみにジャンヌとネロはアポカリファやエクストラの彼女達とは別人で特異点と遊馬達との記憶しかないのでそう考えてもらえれば幸いです。
そして始まりましたアルトリア達とキリツグの婿舅対決(笑)
これからも頻繁に起こると思います(笑)
次回は大聖杯での対決が書ければいいなと思います。
虫ジジィは倒されていないので別の敵を出す予定ですのでお楽しみに。