Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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えー、今回は再投稿です。
今日の0時に投稿した話で皆様の貴重な意見で遊馬の行動が遊馬らしく無いという事で書き直しました。
個人的に桜ちゃんが大好きでFate/Zeroを見て時臣は許せないなと思ってかなり暴走してしまいました。
今回は遊馬くんらしく書けてるかなぁ?と思って冷静に書きました。
今後ともよろしくお願いします。


ナンバーズ61 壊れた心の癒し

外道の魔術師……間桐臓硯の最期を見届け、遊馬は大きく息を吐いて自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。

 

「ふぅ……よし!次だ次!時間がないから次の行動だ!」

 

「遊馬、メディアとメディア・リリィを呼んですぐに桜と間桐雁夜の治療だ。エミヤとメドゥーサは二人のサポートを頼む」

 

アストラルが的確な指示を出し、エミヤとメドゥーサはすぐに頷いて行動する。

 

「カルデア管制室、メディアとメディア・リリィ!この二人を頼む!」

 

遊馬がカルデアと連絡を取るとギリシャ神話の過去と未来の二人の魔女、メディアとメディア・リリィが現れる。

 

「桜さん……ほら、さっさとやるわよ、小娘!」

 

「は、はい!って、昔の自分に小娘ってやめてもらえませんか!?」

 

「うるさい!サイコパスなあんたは小娘で十分よ!」

 

「ひ、酷いですよ!」

 

メディアとメディア・リリィはまるで姉妹のように言い争いながら早速桜と雁夜の治療を始める。

 

エルメロイII世はわずか数時間で目的の一つを終えて煙草に火をつけて一服した。

 

「一応これで間桐雁夜の協力が得られそうだな。それに、間桐邸という拠点を手に入れた……今夜は及第点だな」

 

雁夜は聖杯戦争で勝ち抜き、桜を救う事が目的だった。

 

その桜は救われ、間桐家の当主である臓硯が消滅したことで間桐邸を拠点として使用する事ができる。

 

後はこの間桐邸をキャスタークラスのサーヴァントの力を使って強固な結界を張って難攻不落の拠点へと改造させる。

 

「一応アルトリアに連絡しなくちゃな」

 

「そうですね。それからチームAとチームBの皆さん、無事に作戦がうまく行ってるといいのですが……」

 

遊馬とマシュはチームAのジャンヌ達とチームBのクー・フーリン達の身を案じた。

 

するとタイミングよく遊馬とマシュのD・ゲイザーにチームAから連絡が入り、すぐに遊馬は連絡に出る。

 

「ジャンヌ、そっちは大丈夫か!?」

 

『はい、遊馬君。こちらは大丈夫です。ジルと無事に合流出来ました。幸い、カルデアの記憶を持っていたので特に何もせずに私たちが来るまで待機していました』

 

「そうか、良かった」

 

『ただ……』

 

「ただ?」

 

『ジルを召喚したマスターが連続殺人鬼で、その中には幼い子供も含まれていて……アタランテが我を忘れてその男を半殺しにしてしまって……』

 

子供を愛する守護者であるアタランテが子供を殺める連続殺人鬼の男を半殺しどころか本当に殺してもおかしくはない話だった。

 

「だ、大丈夫なのかよ……そいつ」

 

『手足を容赦なく叩き折り、体中が血みどろになるまで殴り続けて……正直とても怖かったです。一応、生きていますが……アタランテはレティシアとアストルフォが必死に抑えています』

 

『離せ……そいつにまだ痛みを与えなくてはならない!全身の骨が砕けるまで殴り続ける!!』

 

『落ち着きなさい、このバカ!これ以上やったら本当に死ぬわよ!!?』

 

『殺しちゃダメだよ!こいつは人間として最低だけど、殺すのはマスターが許さないよ!』

 

『おぉ……リュウノスケ……何と惨たらしい……』

 

ジャンヌのD・ゲイザーから響くジルを召喚したマスターをアタランテが半殺しにする修羅場が聞こえてくる。

 

「わ、分かった……すぐにそっちに行く」

 

今すぐ向かわないとジルのマスターがアタランテの怒りの拳で死んでしまう。

 

いくら連続殺人鬼でも殺してしまうのはまずい、この国の法で裁かれるべきだと遊馬は考える。

 

ジャンヌと一旦連絡を切り、マシュと共にストリームバイクで向かおうするとD・ゲイザーに次の連絡が入る。

 

『おう!マスター!こっちは終わったぜ!』

 

クー・フーリンから晴れ晴れとした表情で連絡してきた。

 

「クー・フーリン!みんな無事か!?」

 

『おうよ!言峰とアサシン達はぶっ倒したぜ!ネロ嬢ちゃんとエリザベート嬢ちゃんの歌声にノックダウンだぜ!』

 

クー・フーリンたちBチームは第四次聖杯戦争で危険な存在である言峰綺礼とアサシンを捕縛するために向かった。

 

言峰綺礼は卓越した武人であり、クー・フーリンでも全力で殺す気で向かわないと勝てないレベルである。

 

心臓を穿つゲイ・ボルグを使うわけにはいかず、ゲイ・ボルグの槍術とルーン魔術を使って戦うが、言峰綺礼はそれと対等に渡り合えるほどの力を持っていた。

 

言峰綺礼はこのままでは敗北すると直感し、念話でアサシンを呼び出した。

 

言峰綺礼が召喚したアサシンは1個体で複数の存在となれる『百貌のハサン』で圧倒的な数でクー・フーリンを抑えようとしたが、そこでレオニダスの出番である。

 

レオニダスの宝具・炎門の守護者を使い、三百人のスパルタ兵士を召喚して応戦する。

 

百貌のハサンは自分達以上の数倍以上の数を持つ屈強なスパルタ兵の前に取り押さえられてしまう。

 

全ての百貌のハサンが集まったその時、Bチームの切り札……ネロとエリザベートの出番である。

 

ネロはすぐさま魔力を解放して招き蕩う黄金劇場を発動して言峰綺礼と百貌のハサンを劇場に閉じ込め、更にエリザベートが生前住んでいた居城を巨大アンプに改造した宝具『鮮血魔嬢』を同時に発動させた。

 

ネロとエリザベートはD・ゲイザーをマイクモードにする。

 

そして……カルデアにいる全てのサーヴァントすら恐れる悪夢のコラボレーションリサイタル……『ジョイント・リサイタル』が開幕する。

 

「余たちの歌を聴かせてやろう!」

 

「サーヴァント界最大のヒットナンバーよ!」

 

「「ミュージック、スタート!!」」

 

アンプから軽快な音楽と共にネロとエリザベートは音楽に合わせて楽しそうに口を開いた次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ボエ〜〜〜〜〜!!!」」

 

「「「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーー!??」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世のものとは思えない地獄のような音が言峰と百貌のハサン達を襲った。

 

超音痴破壊兵器と謳われているネロとエリザベートの歌は言峰と百貌のハサン達を一気に追い込み、戦闘不能状態にまで追い込んだ。

 

それもそのはず、ネロの招き蕩う黄金劇場で言峰と百貌のハサンの能力をダウンさせ、エリザベートの鮮血魔嬢は敵全体に強力攻撃防御無視と呪いを付与させる。

 

つまり……言峰と百貌のハサンは対抗する手段すらなく撃沈されたのだ。

 

エルメロイII世やエミヤが特に危険視していた言峰綺礼……それが二人の美少女サーヴァントの『声』にやられたのだった。

 

ちなみにクー・フーリンとレオニダスはダ・ヴィンチちゃんから貰っていた特製耳栓で何とか事なきを得て言峰と百貌のハサンの捕縛に成功したのだった。

 

『つー訳だから、マスター。早くこっちに来てくれ』

 

「分かった。バイクですぐに行くから待っててくれ」

 

『おう!じゃあな!』

 

D・ゲイザーの連絡を切り、上着にD・ゲイザーとD・パッドをしまう。

 

「よし……マシュ、急いで行くぞ!」

 

「はい!」

 

遊馬とマシュはAチームとBチームと急いで合理する為にストリームバイクで冬木の街を疾走する。

 

 

翌朝。

 

冬木に来て最初の朝、地獄から救われた少女、桜は優しい温もりに包まれたまま目を覚ました。

 

「ライダー……?」

 

大きなベッドで桜を優しく抱きしめながら眠っていたのはメドゥーサだった。

 

何故桜がメドゥーサをライダーと呼ぶのかというと、桜には自身に思い入れのあるクラス名であるライダーと呼ばれたいと言い、桜は素直に頷いてメドゥーサをライダーと呼ぶようになった。

 

「んんっ……おや?サクラ、目が覚めましたか?」

 

メドゥーサは桜の頭を優しく撫でながらベッドから降りてカーテンを開ける。

 

窓から眩しい太陽の光が部屋に差し込み、桜は瞼をこすりながらベッドから起き上がる。

 

「さあ、着替えて食堂に行きましょう。美味しい朝食が待ってます」

 

「だれが作っているの……?」

 

間桐の使用人は昨夜のうちに安全のため、暗示をかけて追い出してしまい、今この屋敷にいるのは桜と雁夜、そして遊馬達である。

 

「ご心配なく、カルデアには腕のいいシェフがいますので」

 

ライダーは笑みを浮かべ、桜をパジャマから私服へと着替えさせた。

 

桜を抱き上げてライダーは食堂へと向かった。

 

食堂に入ると既に誰かが食事をしていた。

 

「おっ、桜ちゃん。おはよう」

 

「おはよう、桜ちゃん!先に食ってるぜ!」

 

「おはようございます、桜ちゃん」

 

食堂のテーブルで食事を取っていたのは雁夜、遊馬、マシュだった。

 

雁夜は体の体調が万全ではないので消化のいいお粥で遊馬とマシュはオムライスを食べていた。

 

「お、おはよう……」

 

「おはようございます。オムライス……ということは、彼女が来ているのですね?」

 

「にゃはは!タマモキャット、参上なのだ!」

 

キッチンから颯爽と登場したのはタマモキャットだった。

 

「だれ……?」

 

ハイテンションに登場したタマモキャットに桜は首を傾げる。

 

「おお、これは可愛い天使!我が名はタマモキャット!以後、お見知り置きを!」

 

「キャット?」

 

キャットは猫だと分かる桜だが、タマモキャットにどこに猫要素があるのか分からず頭に大量のハテナマークを浮かべる桜だった。

 

「タマモキャットの作るオムライスは絶品ですよ。サクラも食べますか?」

 

「オムライス……食べる!」

 

「了解!疾風怒涛の如く作るのだ!!」

 

タマモキャットはビュー!と風の如くキッチンに突撃してオムライス作りに取り掛かる。

 

数分後には出来立て熱々のタマモキャット特製のオムライスが桜の前に置かれ、子供の好きな料理の上位に入るであろうオムライスに桜は目を輝かせ、スプーンを持って食べ始める。

 

「はむっ……もぐもぐ。おいしい!!」

 

「では報酬にニンジンをいただこう!」

 

「ニンジン?」

 

「あー、彼女の言動は気にしないでください。ほとんどの人は理解していませんので。さあ、冷めないうちに食べてください」

 

「うん!」

 

間桐に心を壊された桜に笑顔が戻ってきてメドゥーサは幸せそうな笑みを浮かべながら桜の頭を撫でるのだった。

 

朝食を食べた後、桜に会うために複数のサーヴァントが現れる。

 

「あらあら、随分と薄幸な女の子ね……」

 

「女神でさえ吐き気がする死ぬより辛い目にあったのに、よく頑張ったわね……」

 

「う、上姉様!?下姉様!?」

 

それはメドゥーサの姉のステンノとエウリュアレだった。

 

「ライダーのお姉さん……?」

 

「そうよ。ふふふ……これは可愛がりがある子ね……」

 

「メドゥーサが妹のように大切に思っている子なら、私たちにとっても妹同然の存在でしょう?サクラ、だっけ?今から私たちのことをお姉様と呼びなさい」

 

「お姉様……?」

 

「そうそう、素直な子ね。気に入ったわ」

 

「私たち好みに育ててあげる♪」

 

ステンノとエウリュアレが桜を自分好みに育てようとしてメドゥーサの顔が真っ青になる。

 

あの面倒極まりない女神が直々に桜を育てたらとんでもないことになること間違いなしである。

 

「ね、姉様!?そ、それだけは……それだけは勘弁してください!!」

 

「待てい!幼き美少女を愛でるのは余の務めであるぞ!」

 

「待て。女神と皇帝には荷が重いだろう子供の相手なら私が変わろう」

 

そこに更に美少女が好きなネロと子供の守護者のアタランテが乱入し、誰が桜を可愛がるかで揉め始めた。

 

「えっと……」

 

桜は何で自分のために争っているのかわからずにキョトンとしていると、ふわっと優しい香りが後ろからするとぎゅっと誰かに抱きしめられる。

 

「ああもう、可愛すぎるよ〜!」

 

「え、えっと……?」

 

「私はブーディカ、お姉さんと遊びましょうね」

 

「ちょっ!ブーディカ!?抜け駆けはいけませんよ!!」

 

いつの間にか女性サーヴァント達による桜争奪戦が始まってしまった。

 

桜の地獄の体験を知り、女性サーヴァントの母性本能が刺激された。

 

壊れた桜の心を癒せるようにと女性サーヴァント達が桜と遊んであげるのだった。

 

「……ふふっ、あははっ……」

 

桜は自然な笑みを浮かべて少しずつだが心が癒されて行くのだった。

 

「良かった……桜ちゃんに笑顔が戻って……」

 

雁夜は桜に笑顔が戻ってきたことに涙ぐんでいた。

 

「さて、とりあえず現状についてまとめよう」

 

エルメロイII世がまとめ役を名乗り出てホワイトボードに現状をまとめた。

 

・アルトリアはカルデアの記憶持ちで第四次聖杯戦争の悲劇を食い止めることに協力する意志あり。

 

・ジルも同じく記憶持ちで召喚したマスターである雨生龍之介はアタランテに半殺しにされた状態で警察に突き出され、現在は警察病院で全治数ヶ月の入院中。メディアの魔術で暗示が掛けられてるので退院後大人しく服役予定。

 

・ジルは龍之介との契約は解除され、現在は遊馬と再契約を交わしており、間桐邸で待機中。

 

・言峰綺礼はメディアの魔術で間桐邸の一室で眠っており、少なくともこの特異点である第四次聖杯戦争まで眠ってもらう予定。

 

・百貌のハサンは遊馬と契約を交わし、現在は間桐邸で待機中(本人達は何の命令もされずに、寧ろ大変だったから休んでいてと言われて困惑している)。

 

・間桐雁夜は間桐桜救出と間桐臓硯消滅により聖杯戦争へ参加する目的が消滅。

 

・ランスロットは今は大人しいがいつアルトリア関連で暴走してマスターである雁夜の少ない魔力を根こそぎ奪いかねないので遊馬に託して再契約を結ぶ予定。

 

「間桐雁夜。我々の目的と聖杯戦争の真実を教えよう」

 

エルメロイII世は雁夜に聖杯が汚染されていることを教え、遊馬達の目的を話した。

 

聖杯が汚染されていることに雁夜は当然ショックを受けていたが、そもそもの目的が桜を助けることだったのでそこまで大きくはなかった。

 

「みんな……桜ちゃんを助けてくれて本当にありがとう。でも……時臣だけは、時臣だけはこの手で……!!」

 

雁夜は手を握りしめると、その瞳に黒い意志が宿るのを遊馬とアストラルは見逃さなかった。

 

それは遊馬とアストラルが何度も見てきた大切なものを傷つけられた者が宿す復讐者の瞳だった。

 

「……雁夜さん。時臣って桜ちゃんの本当の……」

 

「そうだ!あいつの、あいつのせいで桜ちゃんは……だから!!」

 

復讐に取り憑かれた雁夜の爪が食い込むほど握りしめた手を遊馬は両手で優しく包み込んだ。

 

「ダメだ、雁夜さん。あんたの手をそんなことで穢したらダメだよ」

 

「遊馬、君……?」

 

「確かに時臣は俺たちも許せない。だけど、実の父親を倒したら桜ちゃんが自分のせいだと思って自分を責めると思うし、確か桜ちゃんには姉ちゃんがいるんだよな?その子も悲しむし、雁夜さんを一生恨むと思う」

 

「だけど、あいつがいる限り桜ちゃんはまた……」

 

「俺たちは桜ちゃんの味方だ。桜ちゃんは俺たちが必ず守る。それに、そんな体じゃ時臣を殴ることすら出来ないだろ?だから、俺たちに任せてくれ」

 

遊馬の心の闇を照らす光のような笑みに雁夜は静かに目を閉じて小さく笑みを浮かべる。

 

この子になら任せられる……雁夜は根拠がなかったが、そう思えた。

 

「……託しても、いいのか……?」

 

「ああ。俺たちに任せてくれ」

 

「それに……雁夜が手を出さなくても遠坂時臣の命が危ういと思うが……」

 

「え?」

 

アストラルが気まずそうに指差し、その方向を見ると……。

 

「サクラを不幸にした元凶ですか……サクラの為に、私の手で八つ裂きにしてくれましょう。今宵は神話の怪物として一人の男に絶望と恐怖を見せてあげましょう」

 

「メドゥーサよ、私も力を貸すぞ。この身には悪しき獣の力が宿っているからな……その力を解放してサクラを不幸にした償いをしてもらおうか……」

 

メドゥーサとアタランテが体からドス黒いオーラを放ってマジで時臣を抹殺しようと模索していた。

 

メドゥーサは綺麗な紫色の髪が蛇に変化していき、アタランテは紫のオーラを纏って衣装が変わろうとしていた。

 

桜への想いと時臣への強い怒りで明らかに二人のサーヴァントとしてのクラスや属性が変化しかけていた。

 

「おいいぃっ!?二人共超怖ぇよ!?メドゥーサ、髪が蛇になってるから!アタランテ、何かオルタ化してね!?と、とにかく落ち着いてくれ、二人共!!」

 

遊馬達は暴走しかける二人を慌てて止めに入った。

 

雁夜は顔を引きつりながらその光景を見て呟いた。

 

「時臣……俺が手を出すまでもなく死が迫ってるな……」

 

憎むべき相手ではあるがギリシャ神話の怪物と狩人にターゲットをロックされている時点で憎しみどころか哀れみが出てしまうのだった。

 

 

遊馬達が会議をしている最中、エミヤは間桐邸の掃除をしていた。

 

すると、食堂のテーブルに遊馬が忘れていったD・ゲイザーが置いてあり、届けようとしたら通信が入った。

 

通信相手はアルトリアでエミヤは自然とD・ゲイザーにスイッチを入れた。

 

「もしもし、私だ」

 

『シロウですか?マスターは?』

 

「今会議中だ。要件なら私が話そう」

 

『分かりました。サクラは大丈夫ですか?』

 

「心配ない、桜はみんなで可愛がってくれているよ」

 

『そうですか、それなら安心です。実は……シロウにどうしても伝えておきたいことがあります』

 

「私に?」

 

『ええ、落ち着いて聞いてください。実はーー』

 

「ーー何だと……?」

 

アルトリアからの連絡にエミヤは頭が真っ白になるほどの衝撃を受けた。

 

それは第四次聖杯戦争の最大のキーパーソンであるとある人物。

 

エミヤとアルトリアに共通する縁のある人物である。

 

エミヤはアルトリアとの通話を終えると静かにD・ゲイザーのスイッチを切り、呆然と立ち尽くす。

 

「どういう事なんだ……?」

 

この特異点はエミヤ達の過去ではないと理解はしていたが、たった一人……その一人が存在しないというあまりにも大きな違いにエミヤは困惑するのだった。

 

 

夕日が沈み、街が暗く染まる頃……遠坂邸に複数の影が近づく。

 

「さーて、それじゃあ遠坂さん家にカチコミするか……」

 

遊馬は原初の火を引き抜いて肩に担ぐと雁夜は顔を引きつらせながら尋ねる。

 

「あの、遊馬君……そのカチコミって言葉は何処で習ったのかな……?」

 

「ん?先日入ったばかりの両儀式っていう女性サーヴァントから教えてもらったけど?敵対する者のアジトとかに殴り込みに行く時とかに使うらしいぜ」

 

雁夜はカチコミと言う言葉を日本の極道が使うものだと知っており、両儀式がどんな人かは知らないがもしかしたらそちら側の人間なのでは?と思うが口にしないでそのまま飲み込むことにした。

 

ちなみに遠坂邸に突撃して時臣を抹殺しようとしたメドューサとアタランテは間桐邸に残ってもらった。

 

あくまで話し合いなので本当に抹殺したらまずいので桜の面倒を見てもらっている。

 

「ところで、エミヤ先輩はどちらに向かわれたのでしょうか……?」

 

エミヤは遊馬達が出発する前にカルデアから予備のD・パッドを転送してもらい、何処かへと出かけてしまった。

 

D・パッドを使い、エミヤが何か策を講じているのかもしれない。

 

「まずは雁夜さん。時臣に何を言われても冷静でね」

 

「ああ……頑張るよ」

 

「行きましょう……」

 

遊馬は左手にホープ剣を出現させ、遠坂邸に突撃する。

 

遠坂邸に設置してある侵入者を排除するための結界や罠の魔術……それを遊馬はホープ剣と原初の火で斬り裂いていく。

 

「現れよ!『No.39 希望皇ホープ』!」

 

アストラルは希望皇ホープを召喚して遊馬と共に遠坂邸の結界や罠の魔術を斬り裂く。

 

そして、遠坂邸の結界と罠の魔術を全て斬り裂いて使用不能にすると、遊馬は玄関の扉を飛び蹴りでぶち上げる。

 

遠坂邸に突入すると遊馬は大きく息を吸い込んで叫ぶ。

 

「出て来いや!!遠坂時臣!!!屋敷をぶっ壊されたくなかったら大人しく話に応じやがれ!!!」

 

もはや脅迫まがいの遊馬の轟く怒号に貴族風の男性が静かに現れた。

 

その男こそ桜の実父、遠坂時臣である。

 

「やれやれ、随分と野蛮なことをするね……それ相応の覚悟があるのかな?」

 

「覚悟がなかったら最初からカチコミなんかしてねえよ」

 

「……来なさい。話なら客間で行おう」

 

時臣は冷静に、そして優雅に遊馬達を客間に案内した。

 

客間のソファーに遊馬達が座り、テーブル越しには向かい合うように時臣が座っている。

 

「久しぶりだね、雁夜。まさか落伍者の君がこんな小さな協力者を得てまでこの聖杯戦争に参加していたとは……それで、我が屋敷に殴り込みに来て何の用かな?」

 

時臣の蔑むような眼に雁夜はフルフルと震えて今にも殴りかかりそうな感じだったが、遊馬は雁夜の肩に手を乗せて落ち着かせる。

 

「遠坂時臣……あんたはなんで桜ちゃんを間桐に養子に出した?」

 

「決まっている。愛する娘……桜の未来を思ってのことだ」

 

桜の持つ『架空元素・虚数』。

 

それは魔術の世界においてとても貴重な才能で、将来は稀代の魔術師として大成することを約束されるほどの力である。

 

しかし、既に遠坂家には長女が生まれており、その子も桜に負けず劣らずの素晴らしい才能を持っていた。

 

だが、原則として魔術は一子相伝。

 

桜を凡俗に落とすくらいなら、貴重な実験体としてホルマリン漬けにされるなら……桜の未来の為に間桐へ養子に出したのだと時臣は語った。

 

「じゃあ、あんたは桜ちゃんが魔術師として大成する為に間桐に養子に出したのか……?」

 

「そうだ。そして臓硯殿は約束してくれた。桜を間桐の当主にしてくれると。だから私は……」

 

「残念だが間桐臓硯は私達が倒した。もうこの世にはいない」

 

アストラルの突然の宣告に時臣は優雅な雰囲気が崩れるように立ち上がった。

 

「な、何だと!?何故だ!?何故臓硯殿を殺めた!??これでは桜が魔術の修行を受けられないではないか!!」

 

「下らない……」

 

「下らない……?何が下らないと言うのだ!?」

 

「遠坂時臣、貴様も根源という下らないものを目指しているのか?」

 

「根源こそ魔術師が目指す到達点だ!私たち一族は根源を目指す為に魔術を追求し、それを次の世代に子供達に託して来た!桜と凛は素晴らしい才能を持っている、きっと私以上の素晴らしい魔術師になれる!」

 

「根源か……正直、あんなものに価値があるとは思えないがな」

 

「あんなもの……!?ま、まさか……根源に接続したというのか!?」

 

根源に至ることは魔術師の最大の目標、目の前にいる精霊がそこに至ったということに時臣は興奮していた。

 

「貴様達が目指しているものとは少し違うが私は似たような物に触れてその力を使ったことがある。だが、あんなものを目指す価値は無い」

 

「価値が無いだと……!?価値があるに決まっている!そのために私は、遠坂家を元より……凛と桜が魔術師として成功し、二人が幸せになるために考えてーー」

 

「いい加減にしろよ!!!」

 

時臣の言い分に遊馬は立ち上がって声を荒げた。

 

「……時臣、あんたは娘の幸せを願っていると言ったけど、それは違う」

 

「違うとは何だ!?私は考えに考え抜いてーー」

 

「魔術師になりたいなんて桜ちゃんは望んだのかよ……魔術師として成功したいって一言でも言ったのかよ!?あんたの思いはただの押し付けだ!!」

 

「魔術師の家系に生まれた者ならそう思うのが普通だ!だからこそ間桐に養子に出して臓硯殿に託したのだ!」

 

「これを見ても、そう言えるのかよ……これがあんたが望んだ答えなのかよ!?」

 

遊馬はD・パッドを起動して動画閲覧モードにしてある動画を流した。

 

それは昨夜、遊馬達が間桐邸に突入して桜が蟲に調練されている場面をD・ゲイザーで録画していたものだった。

 

桜に何が起きたのかを時臣に見せつけるために。

 

「な、何だこれは!?何故桜がこんなことに……!??」

 

間桐の異様にして大人でも吐き気が出るほどの不気味な魔術に時臣は目を疑った。

 

何故だ?

 

何故桜があんな目にあっている?

 

私はこんなのを望んでいない……何なのだこの魔術は!?

 

時臣は間桐の魔術の恐ろしさに体が震えていた。

 

「これが間桐の魔術だよ、時臣……」

 

雁夜はマシュに体を支えてもらいながら立ち上がり、時臣に近づく。

 

「俺が何で間桐を去ったのかその理由が分かったか……?間桐は人を喰らう不気味な蟲を使った外道の魔術だ。ジジイは蟲を使って俺の両親や大勢の人間を喰らってきた……それにな、ジジイは桜ちゃんを間桐の当主にするつもりは初めからなかったんだよ。優秀な間桐の魔術師を産むための胎盤にするつもりだった……」

 

「そ、そんな……それじゃ、私と臓硯殿との約束は……」

 

「そんなの、最初から守る気なんてないに決まってるだろ……お前は騙されていたんだよ。お前は……桜ちゃんを幸せにするどころか自ら地獄に叩き落としたんだ!!!遊馬君達が桜ちゃんを救うために臓硯を倒したんだ!!!」

 

雁夜が声を荒げて少ない力を振り絞って胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 

「わ、私は……何て事を……」

 

時臣は自分がしてきたことが裏目に出て桜が不幸な目にあった事実に打ちひしがれ、その場に崩れ落ちた。

 

その時。

 

バァン!!!

 

「お父様!!」

 

扉が勢いよく開いて部屋に入ってきたのはツインテールで髪をまとめた赤い服を着た可愛らしい少女だった。

 

「り、凛……」

 

「凛ちゃん……」

 

その少女は時臣の娘で桜の実姉、遠坂凛である。

 

雁夜は時臣から離れると凛は目に涙を浮かべながら時臣に近づいた。

 

凛は幼いその小さな手で拳を作って時臣を何度も叩く。

 

「お父様のバカバカ!桜が幸せになる為に、寂しいのを我慢してきたのに……あんなの、あんなの酷いよ!!」

 

「凛ちゃん、まさか君は……」

 

「すまない、私が桜の間桐の仕打ちを凛に話させてもらった」

 

雁夜の隣に別行動をしていたエミヤが現れた。

 

「エミヤ!お前、まさか、凛ちゃんにあの映像を見せたのか!?」

 

雁夜がエミヤに突っかかり、エミヤは静かに頷いた。

 

エミヤはD・パッドで桜の姉である凛に先ほど遊馬が見せたのと同じ映像を見せたのだ。

 

桜に間桐で何が起きたのかを知ってもらう為に。

 

そして、凛ともう一人の女性にも見てもらった。

 

「凛だけではない。彼女にも見せてもらった。そうした方が良いと思ったからな……」

 

「彼女……?ま、まさか!」

 

雁夜が顔を真っ青にすると部屋に一人の女性が体をふらつかせながら入って来た。

 

「葵……」

 

「あ、葵さん!」

 

それは桜と凛の母親で時臣の妻である女性、遠坂葵である。

 

エミヤは葵の実家にいた凛と葵の元に向かい、桜の映像を見せて何が起きたのか説明したのだ。

 

「雁夜君……ごめんなさい……桜の為にそんな体になって……」

 

葵は雁夜が自分の体を犠牲にしてまで桜を助けようとした事を聞き、涙を浮かべながら雁夜に謝罪した。

 

「お、俺は良いんだ……俺は何も出来なかったから。桜ちゃんはこの子達が助けてくれて今は無事だ。間桐邸でサーヴァント達が一緒に遊んでくれている」

 

「そう……ありがとう……」

 

葵は時臣の元に行くと座り込んで嘆いた。

 

「時臣さん……どうして桜があんな目に……?桜が幸せになると思って間桐に養子に出したのに……」

 

「すまない、私も……私も騙されていたんだ……」

 

「……あんた達は魔術師という概念に囚われすぎなんだよ」

 

遊馬は時臣と葵に向かって怒りを抑えながら自分の気持ちを話す。

 

「桜ちゃんが魔術師として凄い才能があるのは分かったよ。でも、桜ちゃんが一言でも魔術師になりたいなんて言ったのかよ?まだ桜ちゃんは六歳だぞ?それなのに勝手に家族を引き離すなんておかしいぜ」

 

魔術師だから仕方ない……そう言う固定概念が強すぎた故に起きた今回の悲劇。

 

時臣と葵は何も言えずに黙り込んでしまう。

 

「親なら子供の成長を願い、子供の行く道を見守るのが務めじゃねえのかよ。俺の父ちゃんは俺の夢を応援してくれた、背中を押してくれた……だからこそ俺は周りから無理と言われたデカイ夢を叶えることができた。あんたらは桜ちゃんが成長し、自分の意思を持ってから魔術の道か人の道かを選択させりゃ良かったんじゃねえのかよ……?」

 

桜はまだ六歳で幼く、言われるがままに間桐の家に養子に出された。

 

その所為で桜の心は壊され、未来への夢も希望も無くしてしまった。

 

「桜ちゃんは心が壊されて夢も希望の無くしちまったんだ……自分は実の親に捨てられた、いらない子だと思ってるんじゃねえのか……?」

 

今はメドゥーサ達のお陰で少しずつ心が癒されているがそれでもまだ心に深い闇が残っている。

 

桜が辛い目にあってる……桜を誰よりも大切に思っている凛はすぐ近くにいた遊馬の右手の甲に令呪が刻まれるのを見つけると少し信じられなかったが桜を救った存在であると気付いた。

 

「あ、あなた!桜を救ってくれた人!?」

 

「え?あ、ああ……そうだけど……」

 

「お願い!桜を返して!!桜は私の妹なのよ!?」

 

凛は遊馬に駆け寄って上着を握り、桜を返してもらえるよう強く懇願した。

 

遊馬が口を開こうとする前にアストラルが凛の前に現れた。

 

「遠坂凛……と言ったか?残念だが、桜を返すことは出来ない」

 

「な、何でよ!?桜にあんなひどい目に合わせた間桐の当主は倒したんでしょう!?だったら桜を返しても良いじゃない!!」

 

「確かに家族は一緒にいるのが一番だろう。しかし、桜は間桐で絶望して心は壊され、今の精神状態は一番危うい状態だ。もしかしたら君や両親を拒絶するかもしれない……」

 

アストラルの厳しい言葉に凛は絶望し、大粒の涙を流す。

 

「そんな……嫌だ嫌だ!!桜は私の妹よ!!桜に会えないなんて嫌だ!!」

 

桜を返してもらえないことから凛は泣きじゃくりながら今度は遊馬を叩いた。

 

腹部に痛みが走りながら遊馬は右手で優しく凛の頭を撫でて声をかけた。

 

「……君は桜ちゃんのこと、本当に大切に思っているんだな。でも今行っても拒絶されるかもしれないぜ?」

 

「それでも桜に会いたい!桜を抱きしめたい!桜にごめんなさいって謝りたい!だって、だって私は、桜のお姉ちゃんだもん!桜は……私が必ず守る!!」

 

凛は姉として妹の桜を守ると言う強い心を持って宣言した。

 

その姿に遊馬は弟や妹の為に命をかけて戦うカイトと凌牙の姿が重なった。

 

「……分かった!桜ちゃんに会いに行こうぜ。諦めずにちゃんと謝って抱きしめてやってくれよ、かっとビングだ!凛ちゃん!!」

 

「うん!行く!桜に会いに行く!!」

 

「オッケー!それじゃあ、エミヤ。凛ちゃんのエスコートを頼むぜ」

 

「喜んで。では参ろうか、凛」

 

「ありがとう、エミヤさん……じゃなくて、アーチャー!!」

 

凛はエミヤの事をアーチャーと呼ぶと、エミヤは珍しく優しい笑みを浮かべて頷いた。

 

エミヤは凛にアーチャーと呼んでもらいたいとあらかじめ言っていたらしく、どうやら二人には桜とメドューサと同じく縁が結ばれているようだった。

 

「あっ、あの……ごめんなさい。お腹を思いっきり叩いちゃって……」

 

「別に良いよ。桜ちゃんに会ったら抱きしめてやってくれよ」

 

「うん!えっと……あなたの名前は?」

 

「俺は九十九遊馬だ!そんで、こいつは相棒のアストラル!」

 

「私はアストラル。遊馬と共に戦う精霊と思ってくれれば良い。先ほどはすまなかった、君に厳しい言葉をかけてしまった」

 

「大丈夫……あれは桜を思って言ってくれたんだよね?精霊は初めて見るけど、あなたとても優しいのね」

 

「ふっ……さあ、どうかな……?」

 

アストラルは目を閉じて笑みを浮かべると皇の鍵に入ってしまった。

 

「ったく、あいつは……」

 

「それから、本当は最初に言うべきだったけど……桜を助けてくれてありがとう!」

 

凛は満面の笑みで遊馬に感謝した。

 

凛は桜をそれほどまでに大切に思っていると遊馬は実感し、凛の頭を撫でた。

 

「おう!どういたしまして!エミヤ、凛ちゃんを頼むぜ」

 

「では、行こうか。凛」

 

「ええ!」

 

エミヤは凛を手慣れた様子で抱き上げて遠坂邸を後にした。

 

遊馬達も遠坂邸を後にして間桐邸に向かおうとし、座り込んでいる二人に向かって話しかける。

 

「あんた達はどうする?桜に会いに来るか?」

 

「……今の私に、桜に会う資格は無い……桜を、凛を頼む……」

 

「私もです……私は魔術師の家に嫁いだから仕方ないと諦めていた……私は母親失格です……私達はこれからのことを考えなければなりません……」

 

時臣と葵は桜を地獄に突き出してしまったことに酷く落ち込み、更に遊馬の言葉によほど応えたのか自分たちが親として桜に会うことは出来ないと責めた。

 

二人が桜に会いに行く決心がつくのは話し合って考えるしか無い。

 

「そうか……でも、今度は道を間違えるんじゃねえぞ。親として子供を見守ってやれよ……子供は親が知らない間にすげぇ成長するんだからよ。それから……」

 

遊馬はまだ時臣と葵を許し切れていない。

 

それは二人を許す時は桜が二人を許した時であると思っているからだ。

 

「桜ちゃんに会う決心がついたら、ちゃんと謝って抱きしめてやってくれよ。親子の縁を切っても、あんた達は桜ちゃんの両親なんだからさ……」

 

遊馬の言葉が更に二人の心に突き刺さり、遊馬達は遠坂邸を後にして間桐邸に戻る。

 

そして、今夜……エルメロイII世が待ち望んでいたケイネスとの対談が始まる。

 

 

 

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次回はケイネス先生との対談です。
ソラウさんの為にディルムッドのスキルを何とかしたいなと思いますね。

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