エジプト領にてニトクリスとの戦いに勝利した遊馬達は堂々とピラミッドに入った。
玉座の間には目的の人物であるオジマンディアスが玉座に堂々と座っていた。
「ニトクリスを下したか。良い、褒めてつかわす。して、何用だ異邦のマスターよ。余に首を預けに来たか、あるいは情けを乞いに来たか。どちらでも良いぞ? 望むままに殺してやろう」
「オジマンディアス、オレの大事な後輩達に手出しはさせないぜ」
オジマンディアスの挑発に遊戯は軽くキレながら遊馬達の前に出る。
「ふっ、冗談だ。それで、アテム。追放した貴様が何故戻ってきた?」
「単刀直入に言う。オジマンディアス、獅子王と決着を付けるためにオレ達と共に戦ってくれ!」
「──はははははっ! アテムよ、貴様本気か? そのような現実離れをした夢を見ようとしているのか? 空想を知らぬ余にはない際のいいだ、ふはははははっ!」
オジマンディアスは遊戯の発言に現実味が無いと高笑いをした。
「許さねえ、よくも遊戯さんを──!」
「遊馬、待て!」
遊戯を馬鹿にされた事に遊馬は感情的になって怒りから希望皇ホープを召喚しようとしたが、咄嗟に遊戯が止めた。
「遊戯さん……」
「遊馬、何を言われても相手のペースに乗ってはいけない。デュエルと同じだ」
「っ……はい……」
遊戯に諭され、遊馬は悔しさから唇を噛み締めながら大人しく下がった。
「……オジマンディアス王、ちょっといいかしら?馬鹿にするのも大概にしなさい。遊戯や遊馬達は本気なんだから。それと、愉快でもないのに笑うのもやめなさい。あなた、ちっとも面白いと思ってないでしょ」
三蔵は錫杖を軽く鳴らし、僧侶としてオジマンディアスに指摘をして睨みつけた。
「──玄奘三蔵。余に何か意見があるようだな。よい。その偉業に免じて、一度のみ質問を許す」
「ありがとうございます……やっぱりみんなが言っていた通りの人ね。多くの場所でこの国の人たちの話を聞きました。冷酷で尊大で、でも合理的に民を守る王の話を。あなたは獅子王とは違う。国の人たちの生活を第一に考えている。それが一番国を豊かにする方法だって知っているから。それを王の務めと思っているから。なのに──」
三蔵は人々の話からオジマンディアスが立派な王であると評価した。
しかし、それと同時にオジマンディアスの矛盾点を指摘した。
「なのに、あなたはその務めを放棄しようとしている。空想を知らない、と言ったわね?あなたは獅子王と戦えば共倒れになると読んだ。だから戦わなくなった。遊戯から聞いた大邪神の存在もあってその考えが強くなってしまった。その結果が国を閉じる道を選んでしまった。自分からこんな砂漠を、この世界に呼んでおいて! 獅子王には、大邪神には勝てないから、自分の国の民たちを神殿に閉じ込めようとしている! この矛盾を、いえ、この諦めを捨てる道が提示されたのに、なんで素直にいいよって言えないの!」
三蔵は遊馬達も知らなかったオジマンディアスの真意を指摘する。
「たわけ、勝算なき戯言に乗ってなんとする!加えて、獅子王や大邪神を倒したところで何があろう! 人理焼却により世界は燃え尽きる。であれば、獅子王や大邪神を斃したところで無駄な事。余は、余の権限で余の民を救うまで! 他のものなど、どうなろうと知った事ではない!」
オジマンディアスの考えは第五特異点でエジソンが聖杯を使って新たなアメリカを作って永遠に残そうとした行いとほとんど同じ考えだった。
つまり、オジマンディアスは世界が人理焼却によって未来が訪れない事に絶望して諦めてしまい、方向性は異なるが獅子王と同じ道を歩んでしまっているのだ。
「フッ……」
すると遊戯はオジマンディアスの発言に対し、馬鹿にしたように鼻で笑った。
それに気づいたオジマンディアスはギロリと睨みつける。
「アテムよ、何か言いたいことがあるなら言ってみろ」
「ならはっきり言ってやるぜ。オジマンディアス、オレはあんたのことを偉大なファラオとして尊敬していたが……ガッカリだ。期待外れだったな」
「何……? 貴様、どういう意味だ?」
「自他共に認めるエジプト最強のサーヴァントのオジマンディアスが腰抜けで器の小さい男だという意味だ!」
「アテム、貴様! 余を愚弄するか!同じファラオとしても容赦せぬぞ!」
同じファラオである遊戯に侮辱され、オジマンディアスは青筋をビキリと浮かべ、怒りを露わにしている。
「黙れ! あんたが民を守ろうとする意思はオレも同じだ。だが、三蔵が言ったように、どうして世界を救おうと、守ろうと考えないんだ!」
「無駄だと言ってるのだ! 既に滅んだ世界で余に何が出来るというのだ!?」
「……そうか、今はっきりと分かった。オジマンディアス、貴様はかつてのオレと同じだ」
遊戯は千年パズルに触れながらかつての戦いの記憶を思い出す。
自分の心の弱さから闇に堕ち、大切な相棒を失い、己の心を失いかけた。
遊戯は今のオジマンディアスにかつての自分を見ている気分で怒りと同時に深い悲しみを抱きながら叫ぶ。
「オジマンディアス、貴様は強く、完璧なファラオだ。だが、心の底では傷付くことを恐れ、自分の国という殻に引き篭もろうとしている! 貴様はただの臆病者だ!」
「余が、余が臆病者だと……!?」
オジマンディアスは生前含め、恐らくは初めて臆病者と言われ、衝撃を受けて固まる。
「遊馬とアストラルとマシュ、そして……彼らと契約しているサーヴァント達は今まで戦い続けて前に進み、ここまで来た。世界の未来と言う、とてつもない重圧を背負って戦い、獅子王や特異点の戦いの果てにいる魔術王と全力で戦おうとしている……」
遊戯は遊馬達の背負っているモノの大きさとその揺るぎない覚悟を知り、深く感銘を受けていた。
「オジマンディアス! 貴様がエジプト最強のサーヴァントと名乗るなら彼らに恥じない、偉大なファラオとしての生き様を見せてみろ!!」
だからこそオジマンディアスを強く批判しながらも、諦めてしまったその心を動かそうとしていた。
「────────」
遊戯の言葉にオジマンディアスは絶句し、深く考え込んだ。
そして、数秒間の沈黙の後、突然大笑いし始めた。
「くはははははは! 生き様を見せろ、と来たか!そこまで言われるとは思ってもみなかった。だが余は貴様達、勇者にとって常に障害。優れた王とはまた、倒される暴君である。よって、余は如何なる時代、如何なる世界であっても、お前達の敵として君臨した。ファラオ・オジマンディアスは世界を救えぬ。支配し、脅かす側の王であるが故に、な……」
オジマンディアスは遊戯を見つめると一瞬だけ羨望の表情を浮かべた。
遊戯……アテムは王であると同時に勇者でもあり、世界を救い、大邪神を倒した。
歴代のファラオでも成し得なかった偉業にオジマンディアスは密かに嫉妬していたのだ。
「アテム、玄奘三蔵、中々の問いであった! だが貴様らの言には一つ、致命的に足りないものがある! 心底から余を笑わせた褒美だ。このオジマンディアスの手でそれを補ってやろう!」
「え……足りないものって何……?私、また失敗しちゃった?」
「何をする気だ、オジマンディアス!」
「言うまでもなかろう? 貴様らが世界を救うに足るものか否か──その証明がされていない。故に、その機会を余が与えようと言ったのだ!」
オジマンディアスはこの特異点の聖杯を出現させると、自ら傷をつけてその血を聖杯に注いだ。
そして、その血を一気に飲み干した。
「聖杯に宿りし魔神の陰よ。魔神アモンなる偽の神。是に、正しき名を与える!」
すると、次の瞬間にオジマンディアスの姿が黄金の魔神柱へと変化してしまった。
「七十二柱の魔神が一柱。魔神アモン──いいや、真なる名で呼ぶがよい。我が大神殿にて祀る正しき神が一柱! 其の名、大神アモン・ラーである!!」
「オジマンディアスが魔神柱になっちまった!?」
「かつてメディア・リリィがイアソンを魔神柱にしたのと同じ要領だが、今回の魔神柱は全くの別物だ……!」
アモン・ラーとは古代エジプトの最高位に類する神性。
デュエルモンスターズを除き、それほどの巨大な神性が顕現することは有り得ないが、魔神柱に名を与えて貼り付けたことで一時的な顕現を可能にしたのだ。
「ファラオ・オジマンディアス……?」
ニトクリスはオジマンディアスがアモン・ラーとして魔神柱となって顕現したことに唖然としていた。
「遊馬、アストラル、今度はオレに任せてくれ」
遊戯は宝具『伝説の決闘王』を発動し、アモン・ラーの相手に相応しいデッキ構築をしてデュエルディスクにセットする。
遊馬とアストラルは無言で頷くと遊戯は静かに歩きながらデッキからカードを5枚を手札にし、アモン・ラーと対峙する。
「行くぞ、アモン・ラー! 俺のターン、ドロー!」
遊戯はドローしたカードを見てニヤリと不敵の笑みを浮かべる。
「俺は魔法カード『ジョーカーズ・ストレート』を発動!手札を1枚捨て、デッキから『クィーンズ・ナイト』1体を特殊召喚し、デッキから『キングス・ナイト』『ジャックス・ナイト』の内1体を手札に加え、その後、モンスター1体を召喚出来る!」
「えっ!?もしかして、あれは六十郎爺ちゃんが俺とのデュエルで使った『絵札の三銃士』!?」
それは遊馬のデュエルの師匠・六十郎が使ったカードでもあり、トランプの絵札をモチーフにした剣士のモンスター達である。
「デッキから『クィーンズ・ナイト』を特殊召喚し、デッキから『キングス・ナイト』を手札に加えて召喚!更に『キングス・ナイト』の効果で『クィーンズ・ナイト』がフィールドに存在する時、デッキから『ジャックス・ナイト』を特殊召喚する!」
遊戯のフィールドにトランプの絵札のジャック、クィーン、キングをモチーフにした三人の剣士が並び立つ。
「たった1枚でモンスターが一気に三体も並んだぜ!」
「……遊馬、遊戯さんはただ単に絵札の三銃士を揃えたのでは無いぞ」
アストラルは絵札の三銃士を見つめながら静かに口を開いた。
「えっ?どういう事だよ?」
「……遊馬、君なら分かるはずだ。遊戯さんが何故絵札の三銃士を召喚したのか……」
「確か、絵札の三銃士は融合すれば『アルカナ ナイトジョーカー』を出せるけど……」
遊馬は六十郎が繰り出した絵札の三銃士を融合させた融合モンスター『アルカナ ナイトジョーカー』を思い出したが、アストラルは首を横に振る。
「違う……確かに『アルカナ ナイトジョーカー』も強力なモンスターだ。しかし、オジマンディアス……魔神柱を相手にする以上、遊戯さんは更に強力なモンスターを召喚するはずだ」
「更に強力なモンスター……ハッ!?」
遊馬はアストラルの推測を聞いてある一つの可能性を思い付いた。
それは遊戯をはじめとする伝説のデュエリスト達が数々の名デュエルを繰り広げたデュエル大会、バトルシティにおける一つの大きな戦術。
選ばれしデュエリストのみが召喚出来る、とあるモンスターを召喚する為の布石であり、下準備。
大型モンスターを生贄召喚するため、フィールドにモンスターを大量に並べる最速召喚戦術。
「まさか……!?遊戯さんは『あの』カードを……!?」
「遊馬、このデュエルを一瞬も見逃すな!」
遊馬とアストラルはこれから召喚されるであろう、とあるモンスターの存在に緊張と興奮で心臓の鼓動が少しずつ早まっていく。
「行け!絵札の三銃士達よ!トライアングル・セイバー・クラッシュ!!」
遊戯は絵札の三銃士に攻撃命令を下し、華麗でコンビネーション抜群な剣技を繰り出してアモン・ラーを斬りつける。
しかし、幾ら素晴らしい剣の攻撃でもアモン・ラーには僅かな傷しか付けられていない。
アモン・ラーはこれで終わりかと威嚇するが……。
「何を勘違いしてるんだ?まだオレのバトルフェイズは終了してないぜ!」
遊戯は三銃士の攻撃から追撃のカードを発動する。
「手札から速攻魔法『神速召喚』!このカードは自分・相手のメインフェイズ及びバトルフェイズにレベル10のモンスター1体を召喚する。ただし、自分フィールドにクィーン、ジャック、キングの絵札の三銃士が全て存在する場合、デッキから闇属性以外の攻撃力?のレベル10モンスター1体を手札に加え、その後、レベル10モンスター1体を召喚できる」
「闇属性以外で攻撃力が?でレベル10のモンスターって……!」
「来るぞ、遊馬!みんな、気をしっかり持て!」
「今から遊戯さんがとんでもねえモンスターを召喚するぜ!」
マシュ達に警戒を促しながら遊馬とアストラルは自然と笑みが溢れてきた。
遊戯はデッキから神速召喚の効果で指定されたステータスのカードをデッキから手札に加える。
「絵札の三銃士を生贄に捧げ──」
絵札の三銃士を生贄に捧げ、遊戯は一枚のカードを掲げた。
そのカードは闇を祓うかのような眩き雷光を放ち、遊戯は勢いよくデュエルディスクに置く。
天空に雷鳴轟く混沌の時、連なる鎖の中に古の魔導書を束ね、その力無限の限りを誇らん。
「『オシリスの天空竜』!!召喚!!!」
遊戯を中心に無数の雷撃が周囲に拡散し、それが一気に集まって形を成していく。
そして……遊戯を囲むように現れたのは巨大な真紅の竜。
東洋の龍神を思わせる無限に伸びるような長い胴体に大きな翼。
金色に輝く双眸、額には青い宝玉のようなものが埋め込まれており、何より特徴的なのは鋭い牙が沢山がある大きな口。
しかし、その口は驚くことに二つ重なっており、一つの顔に二つの口が重なっているというあまりにも異質なものだった。
これこそが遊戯が持つ伝説にしてデュエルモンスターズ最強と謳われた三枚の神のカード、三幻神の一柱。
天空の神、オシリスの天空竜。
「すげぇ……本物の……オシリスの天空竜だ……!」
「感動的だ……デュエルモンスターズの伝説の神の姿を目にする日が来るとは……!」
遊馬とアストラルはオシリスの天空竜の姿を目に出来て感動で体が震え、涙が溢れそうになった。
一方、マシュ達サーヴァントの反応は違っていた。
今まで遊馬とアストラルのナンバーズや魔神柱など様々な姿形をしたモンスターを目にして来た。
しかし、オシリスの天空竜から発せられる圧倒的なプレッシャーは銀河眼の光子竜皇や超銀河眼の時空龍を初めて目の当たりにした時の衝撃に匹敵するものだった。
そのあまりの迫力にマシュ達は言葉を発する事ができず、息をするのも忘れてしまうほどに見惚れてしまった。
一方、ニトクリスは天空の神であるオシリスの天空竜から発せられる神気を感じ取り、胸の高鳴りが抑えられなかった。
「オシリスの天空竜……これが、アテムが従える神……!」
ニトクリスはファラオであり、天空神ホルスの子であり、化身とされる。
ちなみに、オシリスとはエジプトにおける豊穣神にして冥界の神とされるが、遊戯のオシリスの天空竜はオシリスとはもはや別物と呼べる存在である。
そして、アモン・ラーの中にいるオジマンディアスはニトクリスと同様に心が震えていた。
神であるファラオが強大な力を持つ神である三幻神を従えていることに驚きと興奮を同時に抱いていた。
実は遊戯はオジマンディアスとニトクリスに三幻神の存在を教えてはいたが、実際に召喚したことはなかった。
単純に遊馬と契約する前で三幻神を召喚できるほどの魔力が不足していた問題もあったが、遊戯はオジマンディアスと戦うかもしれないと考えて三幻神という最強の手札を見せなかったのだ。
「オシリスの攻撃力と守備力はオレの手札の数×1000ポイントとなる。今のオレの手札は3枚。よって、オシリスの攻撃力は3000だ!」
『グォオオオオオーッ!!!』
オシリスの天空竜は特定の攻撃力と守備力を持たず、プレイヤーの手札によって決まる。
「オシリスの天空竜の攻撃!!」
オシリスの天空竜の下の口が開き、口の中に雷撃を溜める。
「サンダーフォース!!!」
アモン・ラーの体を呑み込むほどの莫大な雷撃が放たれる。
雷撃によってアモン・ラーは多大なダメージを受け、体全体が焼け焦げていた。
「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
手札が1枚になったことでオシリスの天空竜の攻撃力と守備力は僅か1000となってしまう。
オシリスの天空竜の攻撃力と守備力はプレイヤーの手札によって決まる為、当然手札の枚数が少なければその力も弱まってしまう。
仮に手札が無ければオシリスの天空竜の攻撃力も0になってしまう。
その為、オシリスの天空竜が除去されないようなカードを用意しつつ、手札を増やしてオシリスの天空竜の攻撃力と守備力を維持すると言うかなり高度が戦略が求められるのだ。
すると、焼け焦げていたアモン・ラーの体が瞬く間に回復していった。
「何だと!?」
「大複合神殿だ!大複合神殿がアモン・ラーに魔力を供給し続けている!」
ダ・ヴィンチちゃんはアモン・ラーの回復の仕組みを一瞬で見抜いた。
大神殿は攻撃が防御のどちらかの戦闘形態を取ることができる。
オジマンディアスは大神殿を防御の戦闘形態にしたことで獅子王の攻撃から民を守ってきたのだ。
「自動回復か……そうこなくちゃ、張り合いがないからな!」
遊戯は倒し甲斐があると闘志を燃やすと、アモン・ラーの体から次々とモンスターが生み出されていった。
それはエジプトを代表するであろう純粋種の竜に並ぶ幻想種である神獣・スフィンクスだった。
このスフィンクスはオジマンディアスの宝具の一つである『
大量のスフィンクスを生み出して一斉にオシリスの天空竜に襲い掛かろうとしたが、それはあまりにも愚策である。
オシリスの天空竜は静かに口を閉じると、今まで閉じていた上側の口を静かに開いた。
「相手がモンスターが攻撃表示で召喚・特殊召喚に成功した時、オシリスの特殊能力を発動!」
遊戯は襲いかかって来る大量のスフィンクスに向けて人差し指を向ける。
「相手が召喚・特殊召喚したモンスターの攻撃力を2000ダウンさせ、0になった場合そのモンスターを破壊する!」
オシリスの天空竜は上の口に雷撃を溢れるほどに急速に溜める。
「召雷弾!!!」
生み出されたスフィンクスの数だけ上の口から球体状の雷撃が放たれる。
雷撃は避ける間も無く全てスフィンクスに直撃し、一瞬で塵も残さずに粉砕された。
「モンスター全滅!オシリスがいる限り、下級モンスターは全て粉砕されるぜ!」
相手が攻撃表示で呼び出したモンスターの攻撃力をダウンさせ、2000以下なら容赦なく破壊するモンスター制圧効果。
この二つの特殊能力は並大抵のデュエリストでは扱うことは出来ない。
遊戯の神がかったデュエルタクティクスがあって初めてオシリスの天空竜は真の力を発揮出来るのだ。
アモン・ラーはオシリスの天空竜を相手に戦いを長引かせたら不利だと判断し、全力の攻撃を繰り出した。
レーザービームのような攻撃を放ち、僅か攻撃力1000のオシリスの天空竜は呆気なく破壊され、遊戯にダメージが入る。
「ぐぅうっ!?」
「「遊戯さん!」」
オシリスの天空竜が破壊され、遊戯とアテムは心配するが、その表情を見て息を呑む。
一方、アモン・ラーは神であるオシリスの天空竜を倒し、勝利を確信したが……。
「……それはどうかな?」
遊戯の不敵の笑みは崩れていなかった。
「アモン・ラー。気付かないのか?何故オレがわざわざオシリスの攻撃力を下げてまでカードを伏せたのか」
遊戯のデュエルキングとしての神がかった戦術により、アモン・ラーは既に罠に落ちていたのだ。
「見せてやるぜ、オシリスの極限にまで高めた攻撃を!オレのターン、ドロー!」
遊戯はアモン・ラーを確実に倒すための罠を既に最初のターンからセットしていたのだ。
「罠カードオープン!『蘇りし天空神』!」
それはオシリスの天空竜の姿が描かれた専用カード。
「墓地に眠るオシリスを特殊召喚する。蘇れ!オシリスの天空竜!!」
その名の通り、墓地に眠るオシリスの天空竜を復活させ、更にその力を高める効果を持つ。
「オシリスは特殊召喚された場合、エンドフェイズに墓地に送られる。だが、このターンでアモン・ラー、貴様を倒す!蘇りし天空神の効果で手札が6枚になるようにデッキからドローする。オレの手札は2枚、デッキから4枚ドローする!」
オシリスの天空竜を墓地から蘇生するだけではなく、一気に手札を6枚にまで増やしたが、遊戯の展開はこれだけでは終わらない。
「更に魔法カード『強欲な壺』を発動!デッキからカードを2枚ドローする」
最強のドローソースカードである強欲な壺でオシリスの天空竜の攻撃力と守備力を上昇させるが、遊戯はもう1枚のセットカードで極限にまで力を高める。
「そして、これが勝利へのラストカード!罠カードオープン!『絵札の絆』!」
それは墓地に眠る絵札の三銃士が描かれた罠カードだった。
「絵札の絆は絵札の三銃士を手札・墓地から特殊召喚する効果を持つ。だがオレはもう一つの効果を発動させてもらう!オレの手札・墓地から『クィーンズ・ナイト』『ジャックス・ナイト』『キングス・ナイト』をそれぞれ1体まで除外し、除外した数だけ自分はデッキからドローする。オレは墓地の絵札の三銃士全てを除外し、デッキから3枚ドローする!」
遊戯のデュエルディスクの墓地から絵札の三銃士の幻影が現れ、三つの剣を掲げて刃を重ねる。
そして、絵札の三銃士は三つの光となってデッキに入り込み、遊戯はデッキから3枚ドローする。
「これでオレの手札は10枚。オシリスの攻撃力と守備力は10000にまで上昇!」
手札10枚と言うデュエルではなかなか見れない状況を作り出し、オシリスの天空竜の攻撃力と守備力が脅威の10000に上昇しする。
『────────!!!』
オシリスの天空竜は全身に力が漲り、大気を震わせるほどの咆哮を上げる。
「すっげぇぜ!手札10枚に攻守10000のオシリスなんてヤバすぎるぜ!」
「これが、三幻神を操る遊戯さんの実力……!」
遊馬とアストラルはアモン・ラーにわざとオシリスの天空竜を破壊させ、そこから墓地から復活させてその力を最大限にまで高め、更に手札を10枚にするという二手、三手先を見据えた見事な戦術に感動していた。
「行くぞ!オシリスの天空竜の攻撃!」
オシリスの天空竜は下の口を大きく開き、息を吸うように電撃を溜めていく。
先ほどとは比べものにならないほどの膨大なエネルギーの電撃が溜まり、王である遊戯は命令を下す。
「闇を切り裂け!!超電導波サンダーフォース!!!」
放たれた電撃は再びアモン・ラーに襲い掛かり、先ほどの3倍以上の攻撃力の前にアモン・ラーの攻撃は無意味となり、再び電撃に呑み込まれた。
電撃の後に煙が広がり、アモン・ラーの姿が見えなくなってしまった。
そして、煙が徐々に収まっていくと……。
「ぐっ……まさか、アモン・ラーがここまで一方的にやられるとは……」
変身が解除され、元のオジマンディアスへと戻った。
オジマンディアスは玉座に戻り、酷く疲れたように座り込み、じっくりとオシリスの天空竜を見つめる。
「これが、アテム……お前が従える神か。見事だ!」
オジマンディアスは遊戯とオシリスの天空竜の力を見せつけられ、認めざるを得なかった。
「しかも他にまだ神が二柱もいるとは末恐ろしいな!」
「ああ。だが、言っておくが。オレのマスターの遊馬とアストラルもその神に匹敵する力を持っている。オレじゃなく、二人が相手でもアモン・ラーに余裕で勝てただろう」
遊戯は遊馬とアストラルの実力を認めており、唐突に褒められて二人は思わず照れてしまう。
「さて、それでどうする?今度はオジマンディアス自身でオレと戦うか?このターンが終わると同時にオシリスは消えるが、オレの手札は10枚ある。10枚もあればデュエリストは万全の状態で敵を迎え討つことができるぜ」
例えオシリスの天空竜がこのターンのエンドフェイズに再び墓地に送られても今の遊戯には10枚の手札があり、このターンの召喚権もある。
オジマンディアス相手でも問題なく戦う事が可能である。
しかも遊戯自身が対等の力を持つと評価する遊馬とアストラル、そして契約するサーヴァント達も後ろには控えている。
既に世界を救うための力を示す試練はクリアしたと言っても過言ではない。
「──良いだろう」
オジマンディアスはそう言うと持っていた聖杯をマシュに投げ渡した。
「え……オジマンディアス王、これは……」
「くれてやる。アテムの三幻神の力の一端をみせてくれた褒美だ。だが、この時代は他の特異点とは違う。聖杯を得るのみでは人理は修復されぬ」
第六特異点は聖杯を手にしただけでは修復されない。
獅子王の聖槍と大邪神ゾークを止めなければ修復されないのだ。
「オジマンディアス、聖杯を渡したと言うことはオレ達に協力してくれるのか?」
「みなまで言わせるな。だが、聖都攻略には余は力を貸せん。他にやるべき事があるからな」
エジプト領は遊馬達の要望通り、獅子王との対決の為の全面協力はするが、オジマンディアス自身は別行動をする事となった。
何をするのかは秘密だったが、オジマンディアスは自分にしか出来ない戦いをすると判断して特に聞かないことにした。
こうして遊馬達はようやくエジプト領との共同戦線を行う事となった。
これでカルデア、山の民、エジプト領と獅子王陣営に敵対する全ての勢力が一つとなった。
ようやく獅子王陣営との決戦の時が近付き、遊馬達は気合いが入っていた。
しかし、一人だけ違っていた。
ドクン……ドクン……!
感じたことのない強い心臓の高鳴りとそれに共鳴するかのように十字の盾から光を発する。
「…………来る」
マシュは少しずつ近づいて来る何かに気付き、紫色の瞳が金色に輝く。
それはマシュにとって最も深い因縁のある相手との再会が待ち受けるのだった。
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