Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

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ナンバーズ189 名探偵と獅子王の真実

遊馬達はキングハサンの指示で魔術協会の三大部門の一角、アトラス院に向かった。

 

アトラス院が存在する地点はエジプト領のから少し離れた砂漠のど真ん中だった。

 

アトラス院は砂漠の遺跡のような建物らしく、とりあえず遺跡を目印に探そうとしたのだが……。

 

「砂嵐やべぇな!父ちゃんもよく砂漠の砂嵐で苦労したって言ってたな!」

 

まるで外部の人間を排除するかのような凄まじい砂嵐が巻き起こっており、目を開けられないほどだった。

 

これではアトラス院の捜索は困難を極めると思われたが……。

 

「えっ……?キャッ!?」

 

突然マシュの姿が消え、何が起きたか困惑する間も無く遊馬達も砂の中に一気に呑み込まれるように落ちていった。

 

どうやら落とし穴のようなものが作動し、遊馬達は地上から一気に地下まで落とされてしまった。

 

落とされた先は真っ暗闇だが、ある程度の空間があり、呼吸も出来る。

 

安全確認を行おうとしたその時だった。

 

「どうやら全員来たようだね。怪我人もなく何よりだ。では明かりを付けよう。少しばかり目眩がするが、そこはご愛嬌だ」

 

部屋の明かりをつけ、遊馬達の前に現れたのはインバネスコートを着込み、片手にパイプを持った長身痩躯の男だった。

 

「やあ、こんにちは諸君。そしてようこそ、神秘遥かなりしアトラス院へ!」

 

その男は遊馬達を歓迎し、すぐにサーヴァントだと気付いたがあっさりと真名を明かした。

 

「私はシャーロック・ホームズ。世界最高の探偵にして唯一の顧問探偵。探偵という概念の結晶、明かす者の代表──キミたちを真相に導く、まさに最後の鍵という訳だ!」

 

シャーロック・ホームズ。

 

イギリス人作家のアーサー・コナン・ドイルが生み出した世界的に有名な探偵小説「シャーロック・ホームズ」シリーズの主人公。

 

「シャ、シャ、シャーロック・ホームズさん!??」

 

シャーロック・ホームズの大ファンであるマシュはホームズの登場に今まで見た事ないほどの大興奮な姿を見せていた。

 

「マジかよ!?ここで世界一の名探偵の登場!?」

 

「まさかシャーロック・ホームズが実在していたとは……と言うことは、相棒のジョン・H・ワトソンや宿敵のジェームズ・モリアーティも実在すると言うのか!?」

 

遊馬とアストラルもホームズの登場に興奮状態となっていた。

 

一方、ホームズは落ち着いた様子で遊馬達を見渡して口を開いた。

 

「キミ達が九十九遊馬とアストラル。そちらがミス・キリエライト。そちらがサーヴァント、レオナルド・ダ・ヴィンチ。そちらがサーヴァント、アテム。そちらがサーヴァント、エミヤシロウ。そしてそちらが──ほう。これは驚きだ。騎士王と円卓の騎士の一人が仲間とは」

 

ホームズは何と全員の名前と真名を言い当てていき、最後にアルトリアとベディヴィエールに驚きの様子を見せた。

 

「初めまして、騎士王アーサー・ペンドラゴン、サー・ベディヴィエール。同郷の人間として、会えたことを心から喜ばしく思います」

 

ホームズはイギリス人なので伝説の騎士達であるアルトリアとベディヴィエールに敬意を示した。

 

「ホームズさん、どうして俺たちの名前を……?」

 

「なに。初歩的な事だよ、諸君」

 

(お決まりの名台詞、来ました……!この方は本物のミスター・ホームズです……!)

 

ホームズの台詞として恐らく1、2を争う有名な言い回しであり、本物の名台詞を聞けてマシュのテンションは鰻登りである。

 

「キミたちと私は既に接触を果たしている。こうして顔を合わせる前に、情報を介してね」

 

「情報……?ハッ!?まさか、魔術協会の地下で私たちが求めた資料を一箇所にまとめておいたのはあなたなのか!?」

 

「ほう、流石は異世界から来た精霊。凄まじい理解力だ。その通り、あれは私が用意したものだ」

 

第四特異点のロンドンで崩壊した魔術協会の地下の書庫に一箇所にまとめて置いてあった資料。

 

誰が置いたのか分からずにいたが、書庫を整理して資料をわかりやすく置いていたのはホームズだったのだ。

 

しかし、あまり分かりやすく纏めては敵であるマキリに気付かれてしまうのでアンデルセン達のような本当の知恵者が真実の目的を求めて来た時のみ意味を成すように配列して置いたのだ。

 

「キミ達はあの情報を知る必要があった。傍観者ではなく、この殺人事件の解決者になる為にはね」

 

「殺人事件……?」

 

「ああ、殺人事件だ。私もかつて体験したことのない規模の。『人理焼却による根底からの霊長類の殺害』。まさに神話級の殺人事件だ。であれば、私が現れるというのも当然だろう?」

 

ホームズはソロモンの人理焼却を殺人事件として調査していたのだ。

 

そんなホームズにアルトリアとベディヴィエールは疑問符を浮かべていた。

 

同じイギリス出身のサーヴァントだというのは分かったが、一体彼が何者なのか理解出来ていなかったのだ。

 

そんな二人に根っからのシャーロック・ホームズファン……シャーロキアンであるマシュが熱く語って説明をした。

 

シャーロック・ホームズシリーズの原作を読み込んでいたマシュの感動と尊敬を受けたホームズは「私のことをよく理解している良い読者」と好意的だった。

 

「マシュ、せっかくだから……はいコレ」

 

ダ・ヴィンチちゃんは熱く語っているマシュにあるモノを渡した。

 

「ダ・ヴィンチちゃん?これは……色紙とペン?」

 

「サインでも貰ったら?せっかくホームズに会えたんだし」

 

「そ、そうですね!ありがとうございます!あ、あの!ミスター・ホームズ!お願いがあります!どうか、サインを下さい!」

 

「私のサイン?ははは、こんな風に求められたのは初めてだよ。良かろう、私のファンであるミス・キリエライトに特別にサインをあげよう」

 

ホームズは快く色紙にサインをしてマシュに渡した。

 

マシュはサインを受け取ると今まで見たことないほどのウキウキ気分となり「一生の宝物にします!」と大喜びだった。

 

ひとまず和やかな雰囲気は置いておき、ホームズは再び真剣な表情で話す。

 

遊馬達に協力したいのは山々だが、依頼の順番があり、その依頼者は……バベッジだった。

 

第四特異点のロンドンでバベッジは僅かな理性を代償にホームズに調査を依頼していたのだ。

 

調査の為にアトラス院に来たのだが、中心部に行く為には地下迷宮のような通路を突破しなければならない。

 

しかも地下迷宮には罠が山ほど設置されているので流石にそれをホームズ一人で対処するのは難しいので遊馬達を待っていたのだ。

 

アトラス院に向かう目的は同じなので、遊馬達はホームズと共に地下迷宮の攻略に乗り出した。

 

地下迷宮を歩きながらホームズはアトラス院について軽く説明する。

 

アトラス院は西暦以前から存在しているエジプトを根拠とする錬金術師の集団。


時計塔のような中世を発祥とする西洋魔術に傾倒した現代錬金術とは別物で、魔術の祖と言われる錬金術師の集まり。

 

魔術回路の数が少ないことも特徴で、単体では自然干渉系の術はまったく使えない。

 

故に神秘を学ぶ過程において魔力に頼らず、多くの道具に頼り、その在り方は科学技術の発展による発展に近かった。

 

「自らが最強である必要はない。我々は最強であるものを創り出すのだ」という格言を信条とし、多くの武器や兵器製造しており、その最たるものが魔術世界で言う、七つの禁忌……『七大兵器』として展示されている。

 

ホームズの話を聞き、遊戯は千年パズルに触れる。

 

「古代エジプトの錬金術か……」

 

すると、千年パズルから淡い光が放たれ、まるで何かに共鳴するかのような反応だった。

 

何事かと周りが驚いていると、遊戯は千年パズルがアトラス院に封印されている道具か何か共鳴しているのではないかと察知した。

 

「……千年パズルはこの世界とは違う異世界だが、古代エジプトの錬金術によって生み出されたアイテムなんだ」

 

遊戯は千年パズルに隠された秘密を静かに語り出した。

 

千年パズルを含む七つの千年アイテムは元々は遊戯達の住んでいた世界の古代エジプトで国の繁栄を願うアテムの父・アクナムカノン王が弟の神官アクナディンに命じて作らせたもの。

 

敵国に攻め込まれ危機が迫る状況の中、アクナディンは王家に古より受け継がれていた『千年魔術書』の一部の解読に成功し、そこに記されていた闇の錬金術で卑金属を神秘の力を持った貴金属の七つの宝物へと鋳造する事になった。


しかし、その製法には99人の人間を生贄を捧げる必要があり、生贄に選ばれたのがかつては王宮に従事していた墓作り職人が墓荒らしとなって移り住んだ村……盗賊村のクル・エルナ村の99人の住民の命が捧げられた。

 

完成された千年アイテムの最初の所持者となったアクナムカノン王とアクナディンを含む六人の選ばれた神官団は精霊と魔物を呼び出し、その圧倒的な力で敵国の侵略を返り討ちにして王国を守った。

 

それ以降、千年アイテムは国の守護と同時に罪人の裁くために使われた。

 

しかし、それは同時に王国が破滅に向かう最悪な運命の始まりだった。

 

それは……冥界を統べる大邪神ゾークは自身が現世に降臨する為に千年魔術書に冥界への扉を開く儀式と道具の使い方を記した闇の錬金術を残し、千年魔術書を通じてアクナディンを利用して千年アイテムを生み出させた。

 

つまり、千年アイテムは王国を守護する神器であると同時に大邪神ゾークを現世に降臨させる為の鍵だったのだ。

 

千年アイテムに隠された恐るべき真実に遊馬達は驚愕していた。

 

「千年パズル……千年アイテムにそんな秘密があったなんて……」

 

「そして、同時にデュエルモンスターズの起源でもある……」

 

千年アイテムによって罪人の裁判を行い、人の心に宿る魔物を具現化させて石板に封印し、その魔物を遊戯や当時の神官達が操っていた。

 

ペガサスはその当時の様子が刻まれた数々の石版からインスピレーションを得て、デュエルモンスターズをこの世に生み出したのだ。

 

「なるほどねぇ〜、ふむふむ。実に興味深い話だね」

 

ダ・ヴィンチちゃんは遊戯から聞いた話を興味深そうにメモを取っていく。

 

その姿に遊戯はギロリと睨みつけて千年パズルを輝かせる。

 

「ダ・ヴィンチ……遊馬のサーヴァントで仲間のあんたにこう言うことを聞きたくは無いが、千年アイテムと闇の錬金術の話を聞いてどうするつもりだ?まさか、カルデアで千年アイテムに似た闇のアイテムを作るつもりか?」

 

「いやいやいや!そんな事はしないさ!私は非人道的な行為は認めないから!私はただ、デュエルモンスターズのカードを制作するための情報を集めているだけさ!」

 

「デュエルモンスターズのカードを?」

 

「実は遊馬君の為にカルデア製のオリジナルのデュエルモンスターズのカードを作ろうとしているんだけど、なかなかうまくいかなくてね。一応遊馬君とアストラルの持ってるカードの複製には成功したけど、新しくカードを作るとなると難しくて……そこでデュエルキングの君からデュエルモンスターズの起源を聞いて、何か切り開くきっかけを思いつけば良いと思ったんだよ」

 

「そうだったか……すまない、疑ってしまって。お詫びになるか分からないが、前にペガサスから託された名もなきカードの話をしよう……」

 

遊戯はすぐに非礼を詫び、ダ・ヴィンチちゃんの為にペガサスのカード作成の話をした。

 

ペガサスはデュエルモンスターズのカードを作成する為に世界中の遺跡を巡っていた。

 

ペガサスは精霊達が住まう異世界、デュエルモンスターズ界に伝わる三体のドラゴンの噂を聞き、そのドラゴンが描かれた壁画を見て強いインスピレーションを掻き立てられた。

 

そのインスピレーションからペガサスは一つの仮説を立て、三体のドラゴンの真の力を解き放つ事ができるカードを生み出した。

 

ペガサスは更にこう話していた、人は過去や未来、見ることが出来なくてもイマジネーションを膨らませる事で無限の世界を知る事ができる。

 

そして、カードに込められた想いを真のデュエリストによってその力を引き出す事が出来る。

 

その話を聞いたダ・ヴィンチちゃんはペンを強く握りしめるほどのインスピレーションを得た。

 

「ありがとう……お陰で良い刺激になったよ。遊馬君!アストラル!待っててね、カルデアに帰ったら最高のカードを作るから!」

 

「期待してるぜ、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

「楽しみにしている」

 

遊馬とアストラルはダ・ヴィンチちゃんが作るオリジナルカードが出来るのを楽しみに待つ。

 

 

ホームズは色々な話を聞く中、遊馬達にあることを尋ねた。

 

それは魔術王ソロモンのことだった。

 

情報があまりにも少なく、遊馬達は一度対峙しているのでホームズは少しでも情報を求めた。

 

しかし、実際にその情報を口にしようとするとソロモンの影響かどうかは不明だがうまく説明することは難しかった。

 

遊馬とアストラルに関しては直接呪いを受けたり、暴走してDARK ZEXALになったり、監獄塔に魂が囚われたりと色々大変だったのでソロモンのイメージに対して少しあやふやになっている。

 

そんな中、マシュはソロモンの言動が安定していないという違和感があったと思い出した。

 

その時のことをマシュはホームズに説明すると、ソロモンについて一つの仮説を立てた。

 

ソロモンは鏡のような性質を持ち、他者からの心や言葉に対して態度を変えている。

 

自分が無い、多重人格でもない……ソロモンは数多の属性を持っている。

 

ソロモンは人理焼却を行い、人類を滅ぼして次の仕事に移ろうとしていた。

 

本来ならばソロモンと戦う者は存在しないはずだったが、ここに一つの奇蹟が起きた。

 

それが遊馬とアストラルとマシュ……カルデアの存在だ。

 

この奇蹟とも呼べる存在がこの人理焼却を覆し、ソロモンを打倒できる唯一無二の存在であるとホームズは信じている。

 

すると、突然地下迷宮に警報のブザーが響き渡り、地下迷宮の罠である防衛装置が作動し、次々とアトラス院で作られた自律型の使い魔が現れる。

 

「私からの忠告、いや宣言だ。私が諸君らの前に現れた最大の理由はここにはカルデアの目が届かない事にある。事前に言っておくとだね。私は──ドクター・ロマンを信用していない」

 

ホームズの宣言……それは遊馬達にとって信じられない内容だった。

 

 

遊馬達は使い魔を倒して地下迷宮の奥へと進み続け、辿り着いたのはとても地下とは思えない場所だった。

 

広い空間に学院のようなものがあり、天井には偽りとは言え美しい青空が広がっていた。

 

この場所こそ目的地であるアトラス院の中心部である。

 

中心に聳え立っている三本の塔があり、古代エジプトで神殿に建てられる記念碑の石柱であるオベリスクがある。

 

そのオベリスクがアトラス院最大の記録媒体、擬似霊子演算器トライヘルメス。

 

カルデアにある電子演算器トリスメギストスの元となったオリジナルである。

 

ホームズは既にアクセス権を持っており、トライヘルメスを利用してある記録を検索する。

 

それは……2004年の日本で起きた、聖杯戦争の顛末だった。

 

日本の聖杯戦争と聞き、アルトリアとエミヤは自然と視線が鋭くなって緊張した面持ちとなる。

 

ホームズは聖杯戦争の記録を調べたが過程や結末までは知る事はできなかった。

 

参加した七人のうちの一人はカルデアにとって重要人物だった。

 

それは……オルガマリーの父にして謎の死を遂げたカルデア前所長、マリスビリー・アニムスフィア。

 

「オルガマリー所長の父ちゃんが聖杯戦争に参加してた!?」

 

「しかも、トライヘルメスの情報によると……聖杯戦争の勝者になっていたのか……!?」

 

「そして、聖杯を手に入れた……!?」

 

その事実に遊馬達は驚きを隠せずにいた。

 

以前、最初の特異点で訪れた冬木でオルガマリーは聖杯戦争の事やマリスビリーが勝者などと言ったことは一言も口にしていない。

 

オルガマリーはマリスビリーが聖杯戦争に参加したことや勝利して聖杯を手に入れたことは知らないと思われる。

 

記録には続きがあり、マリスビリーは聖杯戦争時に助手を連れてきた。

 

その助手は後にカルデアのスタッフ、医療機関のトップとして在籍する事になった。

 

「……ロマニ・アーキマン、ですね?ドクターは……カルデアに来る前から、前所長と知り合いだったと?」

 

マシュはとても複雑な表情を浮かべながらホームズに尋ねる。

 

「イエス。そして、更におかしな事に。このロマニ・アーキマンという人物の経歴は一切不明だ。どう調べても聖杯戦争以前の記録を見つけ出せない」

 

情報収集に優れている名探偵のホームズでさえ見つけ出さないロマニの経歴。

 

ヘルメスを更に使えば判明するだろうが……年ごとに更新される何十億という個人データからたった一人の人生をサルベージするには時間がない。

 

「それがドクター・ロマンを信用していない理由だ。彼は間違いなく人間であり、魔術師ではないが……何かを隠している。それもとびきり、真相に近い何かを……」

 

マリスビリーと何かしらの深い関係があり、異例の出世でカルデアの医療機関のトップとなったロマニ。

 

カルデアに潜り込んだ裏切り者にしてソロモンの魔神柱でもあったレフの実例がある為、ホームズはロマニを怪しんでいる。

 

その事実に一同が困惑の様子を見せ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は……ロマン先生を信じる!!!」

 

 

 

 

 

 

遊馬の想いが込められた言葉がアトラス院に響き渡る。

 

その言葉にアストラル以外の誰もが困惑する中、ホームズは遊馬を見定めるように目を細める。

 

「……ほう、経歴も分からない、謎が多すぎるあまりにも不気味な男を信じるのか?」

 

「確かに……ロマン先生の過去に何があったか知らないし、怪しい事は確かにホームズさんの言う通りかもしれねえ。ロマン先生には俺たちには言えない何かがあるのかもしれねえ……」

 

遊馬はロマニとの最初の出会いから今まで交わしてきた言葉、見せてくれた表情を思い出していく。

 

「だけど、俺やマシュに向けた優しい言葉や表情……場を和ませてくれたり、美味そうにスイーツを食べていたり……何よりも、ひとりぼっちだったマシュのことを誰よりも大切にしてくれていたロマン先生の想いが全部偽りだなんて信じられねえ!」

 

数々の特異点の戦いからカルデアに帰還する度にロマニは遊馬達を笑顔で迎え、ドクターとして一生懸命治療や検査をし、時には食事やおやつを一緒に食べてたくさん話をした。

 

「もしも、ドクター・ロマンがレフと同じように敵だとしたらどうするつもりかな?」

 

「その時はその時だ。何かあったら俺やマシュがロマン先生をブン殴って目を覚まさせるだけだ!」

 

私もですか!?とマシュは驚いたが、ロマニと深い関係があるのはマシュだ。

 

ロマニに何かあったらその時行動するのは自分の役目だとマシュも決意を固めて頷く。

 

遊馬はロマニとのたくさんの思い出を胸に再び断言する。

 

「ロマン先生は俺たちの大切な仲間だ!」

 

何があっても仲間を信じ抜く強い心。

 

遊馬の強さの芯にホームズは呆れたような笑みを浮かべた。

 

「なるほど、それが君の心の強さか。私は彼を重要参考人として見ている。そこまで言うなら、その信念を貫いて見せてくれ」

 

「おう!」

 

ひとまずはロマニについての話はこれで終わりとなる。

 

遊馬達はロマニにはこの事は追求せず、ロマニが自分の口から語るのを待つ事にした。

 

次にホームズはカルデアの記録を探っているうちにある答えを見つけてしまった。

 

それはマシュに力を譲渡した謎の英霊の真名である。

 

遊馬は夢でその英霊と出会っており、性別は男性で騎士のような姿をしていて、マシュの命を守るために力を譲渡した誇り高く、そして優しい心を持つ。

 

ホームズはその謎の英霊について遂に答えを見つけ、マシュにその真名を告げようとしたが……。

 

「ま、待ってください!ホームズさん!まだ、真名は言わないでください!」

 

マシュはホームズが明かそうとした英霊の真名を明かすのに待ったをかけた。

 

ホームズはキョトンと驚く中、マシュは胸を押さえ、心臓の鼓動を感じながら……その身に宿る霊基が発する言葉を口にする。

 

「私の中の、英霊が……言っているんです。まだその時では無い……この地で、あの男と再会する時まで待て、と……」

 

マシュの中に宿る英霊は誰かとの再会を待ち望んでいるらしく、ホームズに真名を明かすのを待てと伝える。

 

「だから、どうかお願いします!」

 

「あの男……?なるほど、そういう事か。仕方ない、今回は君の中の英霊の願いと私の大ファンであるミス・キリエライトに免じて、真名を告げるのはやめておこう。今の君なら私が告げなくても問題はないだろう」

 

ホームズは英霊とマシュに免じ、自分の意思を曲げて真名を明かすのを止めた。

 

そして、ホームズは遊馬達に最後の疑問についての答えを告げる。

 

「さて、最後に獅子王の持つ聖槍ロンゴミニアド。これが何であるのか、諸君らは知る必要がある」

 

獅子王……モードレッド曰く、聖槍を持つ別の可能性のアルトリア。

 

「ロンゴミニアド……アーサー王物語の終焉の戦い、カムランの戦いでアーサー王がモードレッドとの一騎討ちでエクスカリバーの代わりに使用した槍……」

 

「アルトリア、ロンゴミニアドってどんな宝具なんだ?」

 

アストラルはロンゴミニアドの一般的に知られている情報を口にし、遊馬はアルトリアに直球でどんなものか尋ねる。

 

「ロンゴミニアド……実は、聖槍はただの槍ではありません。その正体は水平線の彼方、世界の果てに立つ塔。世界の裏側の最果てにて輝く塔なのです」

 

「「「塔!??」」」

 

アルトリアの衝撃的な答えに遊馬達は耳を疑う。

 

ロンゴミニアドの正体と獅子王の目的……それをアルトリアとホームズが説明する。

 

ロンゴミニアド……それは『塔』であり、この世界を貫いている巨大な光の柱。

 

これは聖槍の在り方がカタチとなったものであり、本来の姿である。

 

『槍』はその塔が地上に落とした影で塔の能力、機能をそのまま使える個人兵装。

 

『塔』は世界の果てに在り続けるもの。

 

『槍』は塔の管理者が持ち続ける武器。

 

例えるならば、塔が本体で槍は子機という事である。

 

『聖槍は健在なり』と人間に示したものであり、実際に塔としてあるようだが、『世界の果て』にあるため人間には永遠に辿り着けない。


塔は世界の果てに聳えながら人界の全てを見通し、見守っている。

 

一方、聖地エルサレムに現れた聖都。

 

その正体はただの都市ではなく、聖地の上に一夜にして築かれたが、あの都市が『聖槍』なのだ。

 

「あの聖都がロンゴミニアドなのか!?」

 

「なるほど、一夜にして現れたと聞いてどうやって作ったのか疑問に思っていたが、ロンゴミニアドを利用して建てたのなら納得出来る……」

 

聖都が聖槍と言う事実に驚いたが同時に納得するが、ホームズから語られる獅子王の目的に更なる驚愕が襲い掛かる。

 

獅子王は聖都に理想都市を作り、選ばれた人間を選んで招き入れたが、その実態は理想都市で生きる為ではなく、理想の人間として集めたに過ぎない。

 


選ばれた人間を保護したというが、真相は逃がさないように閉じ込めたのだ。

 

故に聖都に運ばれた人間は、みな聖槍の中に仕舞われたようなもの。


聖抜によって選ばれた清らかな人間というのは「清く正しい人間」ではなく、「何が起ころうと正しい行いしかできない人間たち」である。

 

ヘルメスのによると、聖槍には五百人分の魂が収納でき、獅子王は聖都を最果ての塔にし、聖都にいるものを聖槍に取り込ませる。

 


こうなれば生命として活動する余地はなく、生きるか死ぬかという話ではなくなり選ばれた人間は『善良な人間の要素』として管理される。

 


聖都は収束し、一つの塔になるが、その塔の中には圧縮された地獄があり、獅子王の元で人間の価値を証明するように永久に保管される。

 

無論、『塔』が出来るという事は、その一帯は全て『世界の果て』になり、『塔』という完全な世界を作る代わりに、『塔』の外の世界は消滅する。

 

その余りにも恐ろしい……人間とは思えない所業に遊馬達は怒りに震えた。

 

「何だよそれ……!?何が理想の世界だ!身勝手に選んだ人間を閉じ込め、それ以外の要らない人間を容赦なく殺し、最後は自分達だけ助かろうとしている……ふざけるな!何の権利があってそんな事が出来るんだ!」

 

遊馬はあまりにも身勝手な獅子王の行いに血が出るほどに手を強く握りしめていた。

 

そして、獅子王の目的を知ったアルトリアは聖槍を持つ別の自分が行おうとしている所業に体が震え、自分の手を見つめた。

 

「馬鹿な……そんな、事が……獅子王が……聖槍を持つ私が……そのような、悪魔みたいな所業を……!?」

 

アルトリアと獅子王は厳密に言えば別人ではあるのだが、アルトリアは過去の様々なトラウマが蘇り、罪悪感で頭を抱えてしまう。

 

人と国を救いたいと願い、アーサー王として戦った自分の気持ちが偽りだったのか?

 

本当は獅子王のような人を聖槍の中に閉じ込めて標本にしてしまうような人ですら、王ですらない悪魔のような心を持っているのではないかと自分を追い詰めてしまう。

 

全て自分が悪いのでは?と自分を極限にまで追い詰めてしまい、アルトリアはストレスで倒れそうになる。

 

「王!?」

 

ベディヴィエールが駆け寄るが、それよりも早くエミヤがアルトリアを支え、そのままお姫様抱っこで抱き上げる。

 

「シロウ……?」

 

「今は休め。話なら後でじっくりと聞く」

 

「……はい」

 

アルトリアはエミヤの言葉に従い、ゆっくり目を閉じた。

 

「マスター、アルトリアを休ませたい。ここで調べるものは調べ終わったはずだ」

 

「そうだな。キングハサンの宿題もこれで終わったし、村に戻ってみんなとこれからどうするか話し合おう」

 

「ホームズ、君はこれからどうする?」

 

アストラルは遊馬達に協力はするが、仲間にならないホームズに今後どうするのか尋ねる。

 

「君たちと一緒にアトラス院を脱出したらそこでお別れだ。私は私で他に追う者がいる。もしも、また縁があれば……その時は是非とも契約を頼もう」

 

「その時を楽しみにしているぜ、ホームズさん!」

 

「ああ、私も楽しみにしているよ。未来と希望を紡ぐ子供達よ」

 

遊馬とホームズは再会を約束する。

 

その後、遊馬達はアトラス院を脱出して外の砂漠でホームズと別れる。

 

そして、遊馬達はかっとび遊馬号で西の村へと戻った。

 

 

 


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