まだ全然進めてませんが、運良くモルガンを手に入れたので育てて頑張って攻略したいと思います!
今回はマシュの過去の話です。
と言っても本作では色々と運命が変わっているので原作ほど重い話ではないです。
映画第二弾の上映から一夜明けた次の日。
遊馬とアストラルは医療室に訪れていた。
そこには忘れがちだがカルデア医療部門のトップのロマニが遊馬の体の精密検査を行っていた。
その周囲にはオルガマリーとダ・ヴィンチちゃん、エルメロイII世とナイチンゲール。
そして……目をキラキラさせながら興奮しているエレナがいた。
今回はエレナが心の底から待ち望んでいたモノ……遊馬の中に宿るヌメロン・コードを調べる為だ。
第五特異点で判明した遊馬の魂が数千年前に分かれたアストラルの半身で、その魂にはヌメロン・コードの極一部が宿っている。
遊馬はその事をもう一人のアストラルであるアナザーから詳しく話を聞いたが、自身に宿るヌメロン・コードについては謎が多い。
そこで神智学の祖で高次の存在「マハトマ」やその集合体「ハイアラキ」と接触し、多くの叡智を得たとされるエレナに詳しく見てもらう事にしたのだ。
ヌメロン・コードに興味があるオルガマリーとダ・ヴィンチちゃん、そして時計塔のロードの名を持ち、これまで多くの魔術師も目を見張る考察力を持つエルメロイII世が同席する。
ちなみにナイチンゲールはエレナが暴走した時用の抑止力として他の事務作業をしながら同席している。
「よし、検査結果が出たよ。まあこれはずっと前からやってたから結果は同じだけどね。遊馬君の肉体は異世界人とは言え、僕らと同じ人間そのものだ。魔術回路は無しだから魔力もないの一般人だ。まあ、そんな子が毎度毎度とんでもない召喚獣を呼び出したり、アストラル君と合体したりというとんでもない事をしているのが本当に信じられないけど……」
ロマニは遊馬の肉体を精密検査を行い、いたって普通の人間だということを証明する。
「さ、さぁ、遊馬!早速だけど、あなたのヌメロン・コードを見せて!」
「お、おう……」
精密検査が終わったところでエレナは大興奮で息をハァハァさせながら近づき、そのテンションに遊馬も唖然と鳴る。
「エレナ、念を押しておくが遊馬に変な事をしたらタダでは済まさんぞ」
「とても興奮していますね。すぐに鎮静剤を打ちましょうか?」
「ご、ごめんなさい……」
アストラルが睨みつけ、ナイチンゲールが鎮静剤の注射を構え、エレナは肝が冷えてすぐに心を落ち着かせて改めて遊馬と対峙する。
「それじゃあ、遊馬。いつものように出してみて」
「わかった」
遊馬は目を閉じて意識を集中させ、自分の中にある力を顕現させる。
遊馬の胸元から淡い光を放ちながら、パズルのように形を分解したり、元に戻ったりする一枚のカードが顕現する。
それこそがこの世界とは異なる異世界の過去と現在と未来の全てが記され、あらゆる世界の運命を全て決める力を持つ神のカード『ヌメロン・コード』。
そして、遊馬の前世の存在……二つに分かれたもう一人のアストラルである『アナザー』が手に入れてその魂に宿したヌメロン・コードの『未来』を司るその一部の力である。
ヌメロン・コードの顕現に合わせて遊馬の背中から美しい双翼が生え、目を開くと赤い瞳が虹色に輝く。
目の前にヌメロン・コードが現れ、エレナは表情をうっとりさせる。
「ああっ……やっと目に出来たわ。私が考えたアカシック・レコードがこうして目の前にあるなんて。では、早速だけど調べさせてもらうわ」
アカシック・レコードは宇宙と数多の世界の全て……過去と現在と未来が記されているとされるエレナが生前から考えていた記録層である。
エレナは興奮を抑えて研究者として意識を切り替えて調査を始める。
「ふむ……遊馬の体から出ているヌメロン・コードからは魔力とも違う不思議な力の波動出ていて……見えるけど、触れられないわね。まるで触れられない幻か立体映像みたいな不思議な感じね」
「……恐らくはヌメロン・コードがマスターの魂と完全に一体化しているからだろうな。目に見えているのはあくまでイメージにしか過ぎないのだろう」
我慢出来ずにエルメロイII世も意見や考えを出す。
遊馬の胸元から出ているヌメロン・コードは遊馬とアストラルを含めて誰が触れようとしてもすり抜けてしまい、まるで幻か立体映像のようなものとなっている。
「マスター、そのヌメロン・コードの力を自分の意志で使えるのか?」
「うーん……使うというか、ヌメロン・コードの力を無意識に引き出してカードにしたって感じかな」
「カードに?」
遊馬はデッキケースから2枚のカードを取り出してエルメロイII世に見せる。
遊馬が見せたカードはヌメロン・フォールと未来皇ホープ……遊馬がシャイニング・ドローで創造したカード。
すると、2枚のカードとヌメロン・コードが波紋のような光を放って共鳴反応を見せた。
「そうか!そういう事なのね!遊馬はカードを使ってモンスターを召喚する『魔術』を使うデュエリスト。デュエリストにとって一番大事な力の源はカード、だからこそ遊馬はヌメロン・コードの力を一番引き出せるのが未来の力を秘めたカードの創造なのね!」
ランクダウンマジックのヌメロン・フォールとランク0の未来皇ホープはデュエルモンスターズでは他に存在しない遊馬だけが持つ唯一無二のカードである。
「アストラル、あなたはそちらの世界でヌメロン・コードを使ったことがあるのよね?どんな感じだった?」
オルガマリーはアストラルがヌメロン・コードを使ったことがあるのを思い出し、どんな感じなのか聞いてみた。
アストラルは顎に手を添えて考える動作をしてその時のことを思い出す。
「どんな感じか……そうだな、ヌメロン・コードは一度だけ使って私達の世界の過去と未来には手をつけなかったが、イメージとしては……自分の想いを描く感じだな。例えるなら既に描かれている絵を書き足すか、物語を書き換える……そう思ってくれれば分かりやすいか」
世界の全てを書き換えることが出来るヌメロン・コードを使った感想を聞いたエレナはすぐにメモを取る。
ふと遊馬はヌメロン・コードを見ながらある事を思い出す。
「そう言えば、ラーマとシータを助ける時にヌメロン・コードを握りしめたまま未来皇ホープと合体した時に羽根の剣を作ったな……」
ラーマとシータの呪いを解く為に遊馬は無意識にヌメロン・コードの力を使って呪いの亡霊を倒した。
それを聞いてエレナは耳を疑い、遊馬への質問攻めが続くのだった。
今回の調査と遊馬がアナザーから聞いた話で以下のことが判明した。
・ヌメロン・コードは遊馬(アナザー)の魂が手に入れた後に数千年近く掛けて一つに混ざり合い、完全に一体化しているので切り離しは不可。
・遊馬のヌメロン・コードはアストラルが使用したヌメロン・コードの本体のように世界を変えるほどの大きな力はない。
・ヌメロン・コードの本体から切り離された1%にすら満たない極一部の欠片ではあるが、その秘められたエネルギーはとてつもなく膨大なものである。
・ヌメロン・コードの力を遊馬が一番引き出せる方法は未来皇ホープなどデュエルモンスターズの新しいカードを創造すること。
・普段は思い通りに力を引き出せないが、遊馬自身の強い想いや感情の高まりでヌメロン・コードの力を一時的に使う事が出来る。
・遊馬が時折見る未来を暗示する夢見の力は恐らくは未来を司るヌメロン・コードの力によるもの。
・遊馬の背中に生えた双翼は未来皇ホープとヌメロン・コードによって創り出された力でこちらは遊馬の意思でいつでも顕現させる事ができる。
・遊馬の虹色の両眼は魔眼の知識があるオルガマリーに見てもらったが、特に魔眼のような力は無くヌメロン・コードの力の余波で色が変わっただけで今のところ何かの能力を有しているかどうかは不明。
まだ不明なことは多いが、ヌメロン・コードの事を調査出来てエレナは大満足だった。
かなり時間が掛かった調査と質問攻めで疲れ切った遊馬とアストラルは自室に戻り、ベッドに横たわって一休みをする。
「つ、疲れたぁ〜」
「エレナが予想以上に興奮していたな……だが色々わかって良かったな」
「そうだな。自分の中にヌメロン・コードがあるって変な気分だけど……」
「遊馬、君は……」
「分かってる。俺は俺……だろ?」
「ああ……」
遊馬とアストラルは笑みを浮かべて軽く拳をぶつけ合った。
既に自分の正体について迷いを振り切っている遊馬は自分のことに対する全ての事実を受け入れている。
「あっ、そうだ!今日はもうフリーだし久しぶりにカードの整理とかやるかな!」
「そうだな。特異点ごとに増え続けるフェイトナンバーズにアナザーの新しいカードもあるからな。ここで一度カードの整理をして次の特異点に向けたデッキ編集も行おうか」
「それじゃあ早速始めるか!」
遊馬はベッドの上にカードを広げてアストラルと一緒にカードの整理を行う。
カードの整理は種類や用途に分けていくのが意外に大変でアストラルが細かい指示を出しながら遊馬が一枚一枚分けていく。
数時間かけてやっと整理が終わると遊馬は疲労感からそのままベッドに横たわる。
「終わったぁ……」
「お疲れ様だ、遊馬」
「おーう……こうして見ると本当にカードが増えたよな……特にフェイトナンバーズ。見ろよ、デッキ以上の枚数だぜ」
「私と出会うまでモンスターエクシーズを1枚も持ってなかった頃とは段違いだな」
「そうだな……特異点の戦いでは使い切れないけど、人間界に戻ったらフェイトナンバーズ達を使ってシャークやカイト達を驚かしてやるぜ!」
遊馬はフェイトナンバーズを使って凌牙やカイト達とデュエルをするのを心の底から楽しみにしている。
「えへへ、楽しみだぜ……」
フェイトナンバーズは英霊達と契約した遊馬だけのナンバーズ。
フェイトナンバーズを使ってみんなを驚かせ、共に戦う日を必ず実現すると改めて心に誓う。
すると遊馬は疲れから意識が朧げになってうとうとしていき、いつのまにか眠りについてしまった。
眠ってしまった遊馬を見てアストラルは宙に浮いたまま横になって一緒に眠る。
フェイトナンバーズのカードを弄りながら眠ってしまった遊馬の指先にはマシュの2枚のフェイトナンバーズが触れていた。
マシュのフェイトナンバーズが淡い光が点滅しており、遊馬にある光景を見せる……。
「何だ……?」
遊馬が眠りの中で見た景色……それはいつも見慣れたところだった。
「カルデア……?」
それはカルデアだったが、そこは見たことない施設の部屋だった。
そこには複数のカルデア職員が集まっており、驚くべき人物もいた。
「あいつは……レフ!?」
それはカルデアの裏切り者でその正体はソロモン七十二柱の悪魔であるレフだった。
レフの隣には不安そうな表情をしたロマニがおり、二人の存在に遊馬はある推測を立てる。
「まさか、これは過去のカルデアなのか……!?」
遊馬が見ている光景は過去のカルデアだと推測すると、そこに見たことの無い男がいた。
「誰だ……?あのおっさん……?」
癖のある長い白髪を三つ編みに纏めた少し若々しい男がいて、その男は遊馬の知っている誰かにどこか面影が似ていた。
そして……大きな部屋の中心……そこには信じられない光景があった。
「マシュ……!?」
それは遊馬のもう一人の相棒であるマシュがいたが、自分の知っているマシュよりもかなり幼かった。
そのマシュは大きな機械に縛り付けられて両手両足に拘束具を付けられていた。
すると、マシュの足元に英霊を召喚する時に現れる魔法陣が現れ、マシュの体にデミ・サーヴァントの霊衣と鎧が装着された。
それに職員たちが喜ぶのも束の間、マシュは拘束を破り、怒りに身を任せて職員と謎の男に向けて攻撃を仕掛けた。
十字の盾を出現させて振るい、施設はあっという間に火の海となった。
遂に謎の男に攻撃しようとしたが……マシュが伸ばした手をもう片方の手で押さえ込んだ。
そして、マシュは何かを押さえ込むようにその場に座り込み、鎧が消失しながら倒れてしまった。
「何だよ……何だよこれは……!?」
遊馬は何が起きたのか分からずに困惑し、意識が一気に目覚める。
目が覚めた遊馬は全身から汗が流れ出ていて、水分不足で気分が悪くなっていてすぐに洗面台に行ってコップに水を注いで喉に流し込む。
「はっ、はっ、はっ……」
心臓の鼓動が高くなり、気持ち悪さから吐き気が出そうになったのを胸を押さながら耐えて洗面台の前で座り込む。
「遊馬……大丈夫か?」
目が覚めたアストラルは遊馬に駆け寄るが、アストラルも顔色が良くなかった。
「アストラル……俺、マシュの……」
「私も見た……恐らくは君と同じ夢を……」
アストラルは遊馬と同じ魂を持つ半身同士でたまたま近くにいた事で遊馬が見た夢をアストラルも見たのだ。
「あれって……多分、人体実験……だよな……?」
遊馬はマシュのされたあの光景にアニメや漫画などのフィクションでしか見たことのなかった人体実験が連想されていた。
「くっ……見落としていた。世界を存続させる人理継続保障機関とは言え、ここは魔術と科学の区別なく研究者が集まった研究所にして観測所。そして、英霊の力を宿して戦うデミ・サーヴァント……その可能性を考えるべきだった!」
アストラルは怒りに震えて拳を握り締めた。
遊馬とアストラルの脳裏にはかつて桜が受けた魔術の悍ましい蟲を使った肉体の調整が思い出されていた。
魔術は時として他者の人の命をも平気で利用して踏み躙るモノ。
英霊の力をその身に宿すマシュにも魔術によって肉体を弄られてもおかしくはなかった。
しかし、遊馬とアストラルは自分達が特異な存在だと言うこともあり、気付けなかった。
それだけでなく、いつも笑顔で遊馬とアストラルの頼れるもう一人の最高の相棒とも言えるマシュにそれほどの重い過去があるとは思いも寄らなかったのだ。
遊馬は立ち上がってもう一度水を飲んで心を落ち着かせるとその体から真紅のカオスの光が溢れ出る。
「……アストラル、確かめに行くぞ」
「ああ……真実を確かめに!」
遊馬とアストラルは自室を飛び出して全速力で廊下を駆ける。
二人が向かった先はいつもカルデア職員が多くいる管制室だった。
そこに入ると次の特異点を特定するために多くの職員が働いていて、その中心にはオルガマリーとロマニがいた。
「遊馬、アストラル──二人共、どうしたの!?」
オルガマリーは遊馬とアストラルが明らかにいつもと様子が違うのと遊馬の体からカオスの光が溢れ出ていることに驚いていた。
ただならぬ様子の二人の来訪にオルガマリーだけでなくロマニやカルデア職員達も驚きを隠せないでいた。
遊馬とアストラルは体を震わせながらオルガマリー達を睨みつけて静かに口を開いた。
「……所長、隠さずに答えてくれ。カルデアは……あんた達カルデアは……マシュに、マシュの体に何をしたんだ!?」
「オルガマリー……君によく似た男がカルデアにいたはずだ、彼は何者だ!?」
遊馬とアストラルの怒号に近い言葉にオルガマリーは絶句した。
ロマニ達も同じく絶句し、誰もが口を開けない中……オルガマリーは震えながら口を開いた。
「……マシュから話を聞いたの……?」
「違う。夢で見たんだ……幼いマシュが人体実験をされてデミ・サーヴァントになった光景を……!」
「そこにはレフもいた……それはカルデアで起きた過去の出来事だと私と遊馬は確信している。私達は……カルデアの……マシュの真実を確かめに来た!」
遊馬とアストラルの話にオルガマリーは意を決して前を向いて二人に告げた。
「……分かりました。貴方達、いいえ……貴方達を含む、カルデアにいる人間とサーヴァント達に全てを話します。カルデアが……私の父が、犯した大罪を……マシュの過去を……」
オルガマリーはマシュの過去とカルデアの大罪を遊馬とアストラルだけでなく、カルデアにいる全ての者に知ってもらう為、カルデア中の全てのスピーカーをオンにして放送する。
始まりはカルデアの先代にして初代所長……オルガマリーの父・マリスビリー・アニムスフィアだった。
カルデアは人類の未来を見守るという大義のもとに非人道的な試みも少なからず行われた。
それこそが『英霊』と『人間』の融合──『デミ・サーヴァント実験』。
サーヴァントは使い魔として使役しているものの、英霊は人間を遥かに越えた存在である。
英霊がその気になればマスターであれ命を失い、座に還ることになる。
それでは、安全な兵器とは言えないと考えたマリスビリーはより確実な英雄の力を求めた。
英霊は縁となる聖遺物を触媒にして召喚されるが、カルデアはその触媒を『人間の子供』にした。
英雄を呼ぶに相応しい魔術回路と無垢な魂を持った子供。
これを用いて英霊と子供を一つの存在にし、英霊に『人間』になってもらおうとした。
そのコンセプトの元、マリスビリーは秘密裏にカルデアで人工受精による子供達を作り出した。
今から16年前の西暦2000年……その年にマシュが産まれた。
マシュは……人工受精と遺伝子操作によって作られた人間。
そのような点ではマシュはイリヤやアイリスフィールのようなホムンクルスと近い存在である。
しかし、基本的には質の良い魔術回路を持って生まれただけの普通の人間。
それから、10年後の2010年、マシュが10歳に成長した時に英霊との融合術式は行われた。
英雄の召喚そのものは成功し、マシュの中に英霊が呼び出された。
しかし、その英霊は目覚めなかった。
その英霊は高潔な心の持ち主でカルデアとマリスビリーの行いを認めなかった。
『自分が退去しては触媒となった少女は死亡する。だから退去しないが目覚めもしない』
英霊はマシュを生かすためにその身に宿り続けたが、カルデアとマリスビリーには一切協力しなかった。
マシュは『英霊融合』の術式が正しいことを証明したが、同時にそれ自体が間違いであることも証明したのだ。
英霊はたとえ反英雄であろうと人間との融合を拒否する。
そうして融合実験は頓挫し、その一年後……マリスビリーは所長室で亡くなっていた。
マリスビリーの死亡には事件性はなく、自殺と認定された。
マリスビリーの亡き後、娘であるオルガマリーが仕事を引き継ぎ、カルデアの二代目所長となった。
ロマニはオルガマリーからなんとか許可を取り、マシュをスタッフ入りさせた。
融合した英霊は眠ったままだが、マシュのマスター適性は一流のものだからだ。
しかし、その一方でオルガマリーは恐怖に震えていた。
理想の父親が亡くなったかと思えば、その父親が裏で酷い実験を起こしており、ショックで一ヶ月近く拒食症に陥っていたほどだった。
そして、オルガマリーはマシュに自由を与えることでいつ復讐されるか気が気ではなかったが、オルガマリー自身はマシュから目を背けなかった。
魔術師の中ではかなり珍しいが、生真面目な性格で間違った事を許せないからこそオルガマリーはマシュと向き合った。
そのお陰でマシュは一人の人間として認められ、カルデア内での自由を獲得した。
遊馬とアストラルはカルデアの大罪とマシュの経歴を知り、呆然としていた。
「それが、俺がマシュと出会うまでの過去……」
「なんてことだ……いや、待て……そうだとしたら……!」
アストラルは今までの事を頭の中で整理し、大きな疑惑にたどり着き、すぐにロマニに尋ねた。
「ロマニ!マシュは……マシュはあとどれだけ生きられるんだ!?」
アストラルの衝撃的過ぎる言葉に遊馬は耳を疑った。
「アストラル、どう言う事だ!?」
「遊馬、私はナンバーズから人間界の知識を得ている。デザインベビーには倫理的な大きな問題点があるが、遺伝子操作によって遺伝子に何らかの不具合や欠陥などの大きな危険も孕んでいる!だからこそ人間界ではデザインベビーを作ることは法で禁止されているんだ!」
「遺伝子の欠陥って……!」
「マシュはただのデザインベビーじゃなく、デミ・サーヴァントになるために作られた存在だ。恐らくは様々な薬を体に打ち込まれたに違いない。それに英霊と言う膨大な力の存在を宿すと言う肉体や魂に大きな負荷が掛かるのは容易に想像がつく……」
アストラルはナンバーズで得た知識を総動員させてデミ・サーヴァントの実験で誕生してからのマシュの肉体に掛かる負荷があまりにも大きいと推測する。
「っ……ドクター!どうなんだ!?マシュは……マシュは……!」
「……マシュは魔術回路の質は良くてもその体は無垢すぎる。無菌室で育った体は外の世界には順応出来ない。彼女はその活動限界までカルデア内のみで生活できる娘だったんだよ」
「活動限界って……」
「普通の人間と違い、寿命が設定されているという点だ。カルデアで設計されたデザインベビーたちはその大部分は失敗に終わった。マシュは数少ない生存例だ。それでも、その細胞の劣化は早い。彼女の肉体はあれ以上老いることはない。だから老化で死ぬ事はない。ただ、生命力の枯渇で息絶えるんだ。電源の切れたロボットのように、ある日、突然に」
ロマニの口から語られたマシュの残酷過ぎる運命に遊馬とアストラルは恐ろしいほどの絶望に心が蝕まれ、更なる真実が告げられる。
「彼女の活動時間は長くて18年。あと1年あるかないかだ」
マシュの命があと残り僅か……その残酷過ぎる真実に遊馬とアストラルは絶望に打ちのめされてその場で崩れる。
「そんな……」
「くっ……」
異世界で初めて出来た大切な仲間を……相棒を救うことが出来ないのか……。
たとえこの世界の未来を救ったとしても、マシュの命が救うことが出来ないのかと遊馬とアストラルは自分達の無力さを呪った。
「だけど……マシュの運命は、未来は……既に君達のお陰で書き換えられている!」
ロマニの強い想いが込められた言葉に遊馬とアストラルは唖然となる。
「えっ……?」
「どう言うことだ……?」
「これはとても信じられないことだが、マシュの肉体は……細胞に寿命があるはずだった。しかし、遊馬君……君と契約してからその全てが変わったんだ」
「俺とマシュが契約してから……?」
「カルデアが爆破され、人理が焼却されたあの日……マシュは遊馬君と遊馬君の化身でもありヌメロン・コードの力を宿した未来皇ホープと強い繋がりで結ばれた」
遊馬がカルデアに訪れ、マシュと出会った運命の日。
遊馬はマシュに御守り代わりに未来皇ホープのカードを渡し、それが後にマシュが瀕死の危機に陥った時に命を繋いだ。
冬木市にレイシフトをした際にマシュはその身に宿る英霊の力をデミ・サーヴァントとして覚醒し、そしてアルトリア・オルタとの戦いの際に宝具を使用し、遊馬との絆の証であるフェイトナンバーズも覚醒した。
異世界の大いなる力を持ち、奇跡を起こす精霊の魂の半身である遊馬。
無限大の未来への可能性の力を持つモンスター、未来皇ホープ。
遊馬と未来皇ホープの存在がマシュの運命を大きく変えた。
「実は……マシュの肉体に変化が起きていたのは冬木市から戻って検査した時にすぐに分かったんだ。だけど、まだ小さな変化で今後何が起きるか不明点が多かったからマシュには話さなかった」
ロマニはマシュの担当医師としてマシュの肉体と細胞に起きていた変化にすぐに気付いていた。
「遊馬君の半身のアストラル君のナンバーズによる魔力に代わるエネルギー供給、これまでの特異点における戦いによるマシュの心身の大きな成長……」
ロマニはマシュの肉体の変化を細かく記録していった。
マシュはマスターである遊馬とその半身であるアストラルによってナンバーズの未知なるエネルギーを常に得ていた。
最初の冬木市の特異点から始まる数々の特異点での戦いによりマシュは心も肉体も大きく成長していった。
「そして、第五特異点でのマシュのランクアップだ!」
マシュは遂にその魂と肉体がランクアップを果たし、遊馬とアストラル、未来皇ホープと希望皇ホープと今まで以上に強い絆で結ばれた。
「遊馬君、アストラル君。マシュの肉体の細胞と遺伝子は今、人間としては既に最高レベルを超えている数値を出しているんだ。もはや遺伝子操作やデザインベビーの根底や運命すら壊すほどのね」
マシュは活動限界という変えることの出来ない細胞の寿命を迎えるだけだったが、遊馬とアストラルの出会いによって運命が変わった。
「そ、それじゃあ……!」
「マシュの寿命は……!」
「今の段階だと細かい寿命の断定は出来ない。あとはマシュ次第だが、少なくとも……一般的なおばあちゃんレベルは生きられるよ」
ロマニがグッドサインを見せながらマシュの運命が変わったと断言した。
「よっしゃあああああーっ!」
「よしっ!!」
遊馬とアストラルはマシュが人並みに生きられると知り、喜びが抑えられずに声を上げた。
「──遊馬君!アストラルさん!」
「フォウ!」
すると管制室に放送を聞いてマシュとフォウが来た。
遊馬とアストラルは喜びを笑顔に変えながらマシュに駆け寄る。
「マシュ!良かったな、寿命が伸びて!」
「本当に良かった……安心したぞ」
「……私はお二人に出会う前に自分の命が残り僅かだと知っていました。たとえ、短い命でも一生懸命に生きればそれで満足だと思っていました」
マシュは自分の寿命の事を随分前から知っていた。
カルデアで自由に動けるようになってからは様々な知識を得るために勉学に勤しみ、残り僅かな時間を精一杯謳歌しようとしていた。
「だけど、今は違います。遊馬君とアストラルさん、そして沢山の英霊の皆さんと出会って私はこう思うようになりました……」
マシュは大きく息を吸い込み、昔とは異なる『今』の自分の想いを宣言する。
「私は遊馬君とアストラルさんとフォウさんと、みんなともっと一緒にいたいです!たくさんのことを知りたい、見てみたいです!そして……生きることを、もっと感じていたいです!!」
マシュの願いと夢……それは人が生きるための欲望の力、カオス。
その想いの宣言に満足した遊馬は満面の笑みを浮かべてマシュの肩を抱く。
「その調子だぜ、マシュ!そのまま、まだ見ぬ未来に向かってかっとビングだ!」
「はい!マシュビングです!」
「フォウフォーウ!」
遊馬とマシュとフォウはかっとビングを高らかに叫び、管制室を後にした。
アストラルは遊馬達の後を追いながらマシュの背中を見つめる。
「マシュ……君と初めて出会った時から何故か不思議と好感を持っていた。その理由がようやく分かったよ。私達は似たもの同士の存在だ。世界を守る為に作り出され、そして……遊馬と出会い、運命が変わった……」
アストラルもアストラル世界を守る為に作り出された存在で遊馬と出会った事で運命が変わり、新たな未来を作り出した。
ほとんど同じ境遇で、同じ人間によって運命が変わった。
そんなアストラルとマシュだからこそ二人の相性が最初から良かったのだ。
「マシュ……君は私の大切な仲間だ。これからもよろしく頼むぞ」
アストラルは改めてマシュを大切な仲間と認め、戦い抜いて遊馬と共に未来を生きていこう心に強く誓うのだった。
.
よくよく考えるとマシュとアストラルってある意味似ているんですよね。
それなのでマシュの最後の方の台詞はアストラルが初めてデュエル飯を食べた時のオマージュにしてみました。
次回はカルデアの日常でその次はいよいよ第六特異点に突入します。