しかも来月の十一月は会社の方で免許取得が土日にあるのでマジで大変です。
今年もあと少しなのでいつも以上に更新が遅くなりますがご理解とご了承をお願いします。
マシュによるデンジャラス・ビースト襲来から少し時間が経過し、水を飲ませて酔いを覚まさせた。
記憶がしっかり残っているマシュは酒による自分の乱行に顔を真っ青にして遊馬達に土下座をした。
「遊馬君、皆さん、本当にすいませんでした……」
マシュは眼鏡と私服のパーカーを羽織り、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら必死に土下座をする。
「いやいや、気にするなって。悪いのはそこにいるダメ大人二人と……」
「そこの小さい獣の所為だからな……」
遊馬とアストラルがジト目で見た方にはオルガマリーの説教&鉄拳制裁を受け、首からは『私は純真無垢な女の子に酒を飲ませて如何わしい服を着させた悪い大人です』というプラカードを首から提げられて土下座をさせられている涙目のロマニとダ・ヴィンチちゃん。
そして、一週間のおやつ抜きを言い渡され、更には今日食べられるはずだったエミヤや美遊が作ったハロウィンパーティーの豪華な料理とスイーツも禁止され、楽しみにしていた料理が食べられなくなり、絶望してその場に倒れてしまったフォウ。
マシュのデンジャラス・ビースト騒ぎの犯人である二人と一匹が制裁を受けていた。
「さてと、今までのことを含めてこの二人の説教は別室で行いましょうか……フォウはあなた達に任せるわ。それじゃあ、ハロウィンパーティーを楽しんでね」
オルガマリーはジャックが付けているナマハゲの鬼の仮面に負けないほどの憤怒の表情を浮かべ、ロマニとダ・ヴィンチちゃんの首根っこを掴んでズルズルと引き摺って連れ去ったのだった。
倒れているフォウはとりあえずマシュが首根っこを掴まれた猫のように持ち上げてから肩に乗せる。
「フォウさん、えっと……い、一週間はあっという間ですから頑張りましょう!」
「フォーウ……」
マシュはフォウに精一杯の励ましの言葉を送ったが、逆にそれがフォウの心にグサッと刃の如く突き刺さるのだった。
「よーし、みんな!これから会う人にトリック・オア・トリートでお菓子をたくさんもらいながら食堂に行こうぜ!」
『『『おー!』』』
遊馬達は気を取り直してハロウィンを楽しむために意気揚々と歩き出した。
そこですれ違ったサーヴァントにハロウィンの合言葉とも言える「トリック・オア・トリート」でお菓子をたくさん貰う……はずだったが。
「誰もいねえな……」
「一人も通らないな……」
「いつもなら誰かしらとすれ違うはずですが……」
「どうしてかしら……」
このカルデアのサーヴァント数もかなり多くなり、大所帯で廊下を歩けばすぐにサーヴァントの一人や二人とすれ違うはずだが、何故か今夜に限っては誰とも会えなかった。
「おかしいな……みんな、ハロウィンを楽しみにしているはずだけどな……」
元々そう言ったイベントに興味がない一部のサーヴァントを除き、今夜のハロウィンは少なくとも全体の半数のサーヴァントが参加するはずだが何故か気配が全くない。
せっかくのハロウィンなのにこれではあまりにも寂しく、つまらないとちびっこサーヴァント達が駄々をこねそうになった……その時だった。
「あらあら、うふふ。可愛らしい招待客さんたちね」
すると突然、美しい音楽が流れて遊馬達の前に一人のサーヴァントが現れた。
現れたのは若々しくも美しく、黄色とオレンジを基調とした扇情的な踊り子の格好をした女性だった。
見たことのないサーヴァントに全員はすぐに意識を切り替えて警戒し、ちびっこサーヴァント達を後ろに下がらせると女性サーヴァントは母性あふれる優しい笑みを浮かべた。
「ハロウィン・パーティーにようこそ!私の名はマタ・ハリ。今宵一夜限りのお祭り騒ぎ。どうか楽しんでくださいませ」
「マタ・ハリ……遊馬、彼女は世界で有名な女スパイだ」
マタ・ハリ。
本名、マルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ。
第1次世界大戦時にスパイとして活躍し、女スパイの代名詞的存在となった女性。
「え!?あの人女スパイなの!?でもどうみても……踊り子のお姉さんにしか見えないぜ?」
「彼女の本業はダンサーだ。それと同時に位の高い男性とベッドを共にする高級娼婦でもある」
「高級娼婦……まあ確かに美人だよな……」
「マタ・ハリはその魅力を利用して敵国の関係者や軍関係者を篭絡し、情報を引き出していたという」
「なるほどな……」
女だけが持つ美貌で男を狂わせるのは古の時代から続く女の最大の武器と言っても過言ではない。
「うふふ、可愛い坊やね。どうかしら?これから私と甘い夜を過ごしてみない?」
「「なっ!?」」
「悪いけど、そう言うことは姉ちゃんとの固い約束で俺が成人して責任取れるようになってからって決めてるから」
「あら、随分しっかりしているわね。でも……ひと時の快楽に身を委ねるのも悪く無いわよ?」
「そんな事をして姉ちゃんにバレたら鬼のように怒られてぶっ飛ばされてちまうよ……でもその前にここにいる小鳥にフライパンでボコボコにされるな……」
「ちょっと!?どうしてそこで私の名前が出てくるのよ!?」
「じゃあその手に持ってるフライパンは何だよ!?」
いつの間にか小鳥の手には一撃で相手を撃沈させる伝家の宝刀とも言えるフライパンが握られていた。
「えっ?こ、これはその……遊馬がマタ・ハリさんにデレデレした時に使うとっておきよ!安心して、私のフライパン捌きは上達したから一撃で撃沈出来るわ!」
「安心要素が何処にも無えよ!?」
「うふふ、本当に可愛らしい。それなら、拙いですが、私の踊りを楽しんでもらいましょう。よいしょ、と……」
そう言うとマタ・ハリは自分の服を脱ぎ始めた。
マタ・ハリの最大の武器である己の肉体を使った妖艶な魅了を行おうとし出し、小鳥とマシュが慌てて遊馬の目を塞ぎ、アストラルはこの状況を打破する画期的な方法を思いつく。
「そうだ!子供達よ、今からあのお姉さんが綺麗なダンスを見せてくれるぞ!」
「え?」
アストラルの言葉にキョトンとしたマタ・ハリは手を止める。
するとちびっこサーヴァント達は一斉に前に出る。
「「「「「じぃーっ」」」」」
ダンスをすると言うマタ・ハリに子供達が興味津々で見つめる。
「あ、あら?えっと……あなたたちも、サーヴァント?」
「私は桜!デミ・サーヴァントだよ!」
「私は遠坂凛。エレシュキガルのデミ・サーヴァントです」
「私はジャック・ザ・リッパーだよ」
「ナーサリー・ライムです!」
「私は開拓者のポール・バニヤン!」
「そ、そう……」
マタ・ハリは遊馬を魅了するためのストリップダンスをしようとしたが、綺麗なダンスを期待しているちびっこサーヴァント達の純粋な目に汗をかき、たじろいでしまう。
そして、マタ・ハリの選択は……。
「こほん……それじゃあ、今から私の自慢のダンスを見せてあげるわ。しっかり見ててね?」
「「「「「わーい!」」」」」
マタ・ハリはその場で華麗なダンスをちびっこサーヴァントに披露する。
舞姫と言う言葉にピッタリな美しいダンスにちびっこサーヴァント達は大興奮だった。
「ふぅ、作戦は成功だな……」
「マタ・ハリさんって子供好きなのか?」
「ああ、そうだな。それと、彼女の人生はかなり色々あったからな……」
生前のマタ・ハリは幼稚園の教諭を一時期目指して勉強していたが周囲の環境で上手くいかず、更には夫婦生活は最悪だった。
しかし、マタ・ハリは子供達の事を心から愛し、大切に思っていた。
目の前にいるちびっこサーヴァントにマタ・ハリは一瞬だけ自分の子供達の姿を重ねてしまい、自分の男を狂わせる魔性の性分よりもこの子達の笑顔を壊したくない気持ちが勝ってしまった。
マタ・ハリは忘れかけてしまった純粋な母性溢れる優しい笑みを浮かべてちびっこサーヴァント達へ最高のダンスを披露する。
それからマタ・ハリのダンスが終わると遊馬は早速質問をする。
「マタ・ハリ。ところでさ、あんたの目的はなんだったんだ?」
「私の目的はあなた達の一時的な足止めです」
「足止め?」
「別に戦う必要はありませんでしたので私の召喚者の願いに了承しました。幸い、私の宝具は洗脳宝具でもありますから」
「はっ!?洗脳宝具!?」
「ええ。まあこちらは使うことはありませんでしたが……」
マタ・ハリのその美貌と妖艶な舞踊で見た者の思考回路を麻痺させ、抵抗出来なかったものを操り人形にするという珍しい洗脳宝具。
最悪これを使ってでも遊馬達を足止めをしようとしていた。
「……それで、あんたを召喚して俺たちの足止めを頼んだのは誰だったんだ?」
「私を召喚したのは──」
マタ・ハリが召喚者の名前を告げようとしたその時。
「だ、旦那様……!」
「えっ……?き、清姫!?」
そこに現れたのは負傷して着物がボロボロになり、廊下の壁に体を預けながらやって来た清姫だった。
負傷した清姫に遊馬達はすぐに駆け寄る。
「ど、どうしたんだよ一体!?」
「何があったんですか!?」
「まさか、カルデアに敵が現れたのか!?」
カルデアに過去に数回起きた謎の敵が現れたのかと思ったが、清姫は首を左右に振ってそれを否定し、震える唇で話しだす。
「敵ではありません……ネロさんと、エリザベートさんが……!」
「っ!?ネロとエリちゃんに何かあったのか!?」
遊馬は仲の良い二人に何かあったのかと心配するが、マシュ達はその逆でこの二人がセットの時点でとてつもなく嫌な予感が頭に過ぎる。
「ネロさんとエリザベートさんが今夜のハロウィンパーティーを占拠して……ハロウィンスペシャルコンサートを開催したのです……」
ネロとエリザベート。
タイプは異なるが見た目はとても美しく麗しいが、その歌声はサーヴァント界でも最恐最悪と恐れられている。
サーヴァントとは言え、とても人とは思えない破滅的な音痴による怪音波で、その危険すぎる歌声を知っているものは例え強い戦闘能力や宝具を持っていたとしても自分の身の安全のためには脱兎の如く逃げ出すほどの恐ろしさである。
そんな二人が何を血迷ったのか……否、恐らくはノリノリで良かれと思ってハロウィンパーティーを乗っ取り、ハロウィンスペシャルコンサートを開催してしまったのだ。
「ハロウィンスペシャルコンサート?」
「ネロさんとエリザベートさんのあの歌に……皆さんが次々とやられて犠牲に……!」
先にパーティー会場にいたサーヴァント達は全力で止めようとしたが、その歌には百戦錬磨のサーヴァントですら特大ダメージを受けて倒れてしまった。
ぶっちゃけこの二人が組めば、相手が聴覚を持ってない限りほぼ全てのサーヴァントを倒せるんじゃね?と思わせるほどだった。
清姫はその歌を聞いてしまい、ダメージを負いながらも脱出し、遊馬達の元になんとか辿り着いたのだ。
「くっ!何ということだ……!?」
「アメリカでのコンサート以降、静かにしていると思っていたら……!」
アストラルとマシュは予想以上の緊急事態に顔を歪ませる。
一方、ネロとエリザベートの歌を聞いたことのない小鳥達はキョトンとして首を傾げていた。
そして、この男は……。
「えー?ネロとエリちゃんの歌はあんなにいいのになぁ……」
遊馬は何故二人の歌がそこまで酷く言われるのか分からずに首を傾げていた。
遊馬だけがネロとエリザベートの超音痴の怪音波とも言うべき歌を理解し、絶賛している。
「君という男は……」
「遊馬君……あなたという人は……」
「遊馬の耳はどうなってるのよ……」
アストラルとマシュと小鳥は遊馬の持つあまりにも謎過ぎる耳の感覚に呆れ果てていた。
しかし、このままネロとエリザベートを放置しておけばカルデアは大変なことになる。
「まずいな……このままネロとエリザベートが歌い続ければ……」
「カルデアの崩壊の危機です……!」
本当はこのままコンサートが終わるまで避難していたいが、カルデアの崩壊の危機を見過ごすわけにはいかない。
「遊馬、行くぞ……!」
「ネロさんとエリザベートさんのコンサートに……!」
アストラルとマシュは覚悟を決めてコンサートに向かう事にしたが……。
「おう!楽しみだぜ、二人のハロウィンスペシャルコンサート!」
「「「はぁ……」」」
遊馬はかなり楽しみにしており、アストラルとマシュと小鳥はため息を吐いた。
清姫はマシュが背負っていき、マタ・ハリはせっかくなので一緒についていくことにした。
そして、いよいよネロとエリザベートによる夢と悪夢のハロウィンスペシャルコンサートが始まろうとするのだった……。
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マタ・ハリさんは調べれば調べるほど胸が締め付けられる思いでした。
カルデアでは少しでも幸せになればなと思います。
次回はハロウィン編最終回で出来れば十月三十一日までには投稿できるように頑張ります。