今回も長かったです、ざっと22話ですからね。
ZEXAL IIとサーヴァント達が魔神柱と戦っている頃、クー・フーリンとクー・フーリン・オルタは決着をつけようとしていた。
クー・フーリンはゲイ・ボルクの槍術とルーン魔術を駆使し、クー・フーリン・オルタは『噛み砕く死牙の獣』の鎧で獣の如く荒々しく攻める。
鎧自体に武器として鋭い爪や棘、刃が無数に付属した怪物のような意匠となっている。
更には尖った部分などが体に突き刺さると、そこを基点に四方へ無数の棘が伸びるという、ゲイ・ボルクそのもののような性質も備えているのでクー・フーリンは擦り傷でも受けないように全力で攻撃を回避する。
「どうした!避けてばかりで攻撃しないのか!」
「オレには使えねえ反則的な宝具を使っているお前が言うんじゃねえ!」
クー・フーリンはもしもその状態のクー・フーリン・オルタがスカサハと戦ったら負けることは予想出来る。
それほどにヤバイ宝具を相手にクー・フーリンは静かに逆転の時を待っていた。
「もういい……とっとと消えろ!!」
クー・フーリン・オルタは間合いを詰めて腕を振り下ろした。
爪と棘がクー・フーリンに襲い掛かろうとした……その時。
グサッ!!
「なっ!?」
「うぐっ!」
クー・フーリンは左手でクー・フーリン・オルタの爪を受け止めた。
しかし、左手は爪で貫かれて大量の血が噴き出す。
更に突き刺した無数の棘が内部に広がり、クー・フーリンの左手から内臓に向かう。
「馬鹿が!このまま内臓を破壊してくれる!」
「それは……どうかな!」
クー・フーリンは不敵の笑みを浮かべて貫かれた左手の指でルーンを描く。
次の瞬間、クー・フーリン・オルタの足元から炎の竜巻が巻き起こる。
「何っ!?」
「『
それはクー・フーリンのキャスタークラスとしての宝具『灼き尽くす炎の檻』。
炎は無数の細木の枝で構成された巨人となり、クー・フーリン・オルタを胸部の檻に閉じ込めて炎で焼き尽くしていく。
「ぐぁあああああっ!??」
突然の炎にクー・フーリン・オルタはダメージが与えられるが、クー・フーリンも重体になりつつある。
左腕の内部に広がる棘が内臓に向かい、このままではクー・フーリンは瀕死の重傷を負ってしまう。
「ガキ共には刺激は強いが……仕方ねえ!」
クー・フーリンは歯を噛みしめながらゲイ・ボルクの矛先で左腕を突き刺し、そのまま力を込めて左腕を切り落とした。
「自分の左腕を切り落としただと……!?」
左腕を切り落としたことで棘の侵食が無くなったが、左肩から大量の血が溢れ出る。
「右腕だけあれば充分だ!!」
痛みに耐えながらクー・フーリンは魔力を解放してゲイ・ボルクを強く握り締める。
「行くぞ、狂王!!この一撃、手向けとして受け取るがいい!!!」
それはクー・フーリン最強の一撃。
生涯一度たりとも敗北しなかった英雄の持つ破滅の槍。
魔槍ゲイ・ボルクの本来の使用方法。
クー・フーリンが全身の力と全魔力を使い、魔槍の呪いを最大限発揮させた上で相手に投擲する特殊使用宝具。
「『
放たれた真紅の槍はマッハを超えるスピードで飛び、一直線にクー・フーリン・オルタに向かう。
「オォオオオオオーーッ!!!」
クー・フーリン・オルタは自分の全魔力を噛み砕く死牙の獣に込め、焼き尽くす炎の檻を無理矢理振り払い、回避が出来ないことは既に分かっているので真正面から突き穿つ死翔の槍に立ち向かい、ゲイ・ボルクを破壊しようとする。
激突する二人のクー・フーリンが放つ『突き穿つ死翔の槍』と『噛み砕く死牙の獣』。
真紅の閃光と衝撃波が火花のように激しく飛び散る。
互いに全魔力を込めた宝具の一撃なのでこれで勝負が決まる。
クー・フーリンのゲイ・ボルクが突き穿つか、クー・フーリン・オルタの噛み砕く死牙の獣が薙ぎ払うか……力と力のぶつかり合いとなる。
「グォオオオオオオオオッ!!!」
「ぶちかませ!!ゲイ・ボルク!!!」
クー・フーリンが思いを込めて叫ぶと胸に秘めた聖杯が光り輝き、手の甲に刻まれたナンバーズの『07』の刻印が強い光を放つ。
聖杯の力とナンバーズの奇跡の力がゲイ・ボルクに込められる。
ゲイ・ボルクから真紅の光が最高潮にまで輝き、噛み砕く死牙の獣の鎧にヒビが入る。
「バ、バカな!??」
次の瞬間、クー・フーリン・オルタに纏われる噛み砕く死牙の獣が破壊される。
「突き穿て!ゲイ・ボルク!!」
奇跡の力が込められたゲイ・ボルクが更にスピードを上げ、クー・フーリン・オルタの胸に向かう。
「ちっ……」
自分の運命を悟ったクー・フーリン・オルタは舌打ちをしながら小さな笑みを浮かべた。
次の瞬間、真紅の眩い閃光が広がり、光が収まってクー・フーリンの目に映った光景は……。
「はっ、こいつはもう癒しのルーンを使っても助からねえな……」
心臓をゲイ・ボルクに貫かれたクー・フーリン・オルタの姿があった。
癒しのルーンを使っても助からないと悟り、その場に座り込んでいた。
クー・フーリンはもうクー・フーリン・オルタは戦う意志がないと近づく。
「終わりだな、狂王。この勝負はオレの勝ちだ」
「チッ、まさかオレが負けるとはな……」
「ケルト軍はもう終わりだ。お前はもうすぐ消えて、メイヴはマスター達が倒してくれる」
外の魔神柱の邪悪な気配が急激に弱まっていくことを感じ、直に倒されるだろうと確信する。
「そう言えば、なんでお前はメイヴと一緒に戦っていたんだ?お前の目的は結局何だったんだよ?」
オルタナティブと言ってもクー・フーリン・オルタはメイヴが『クー・フーリンを自らに並ぶほどの邪悪な王にしろ』と聖杯に願い、召喚した邪悪で歪んだ存在。
そんなクー・フーリン・オルタは何を考えて戦っているのか、クー・フーリンは静かに尋ねた。
「……ふん、お前には分からねえよ」
クー・フーリン・オルタは「狂王」として国を作るに当たって自分に敵対するもの全てを滅ぼす事を掲げ、自身が最強の「王」である事を証明するためだけにひたすら戦い続けた。
「愚かだな、お前。その先には破滅しかねえんじゃねえか?」
「そうだとしても、オレにはこの道しかなかった……だが、悔いはない」
「そうかよ……」
自分とは全く違う考えや行動をするクー・フーリン・オルタにクー・フーリンは不思議な虚しさを感じていた。
「あばよ、光の神子……」
「じゃあな、狂王。お前との戦い、悪くはなかったぜ」
二人のクー・フーリンは別れを告げると、クー・フーリン・オルタは目を閉じて静かに消滅し、ゲイ・ボルクとフェイトナンバーズが床に落ちる。
クー・フーリンはゲイ・ボルクとフェイトナンバーズを拾い上げる。
「狂王、今度マスターに召喚されたらその力を貸してやれよ」
最初は気に入らないと思っていたが、戦い、言葉を交わした事で少しずつクー・フーリン・オルタの事を認めていた。
もしも遊馬がクー・フーリン・オルタを召喚しても、クー・フーリン・オルタは遊馬を裏切らない、大きな力になってくれると確信している。
「さてと、マスター達のもとに戻るかな……」
左腕を失い、戦いの疲れからゲイ・ボルクを杖代わりにして体を支えながら遊馬達の元へ向かう。
☆
二十八体の魔神柱とメイヴとの戦いが終わり、ZEXAL IIは遊馬とアストラルに分離して戻る。
遊馬は地面に転がる聖杯とフェイトナンバーズを拾い上げ、メイヴのフェイトナンバーズをデッキケースにしまう。
「マシュ!」
「はい!聖杯回収、任務完了です!」
マシュは聖杯を遊馬から受け取ると、盾の中に収納した。
聖杯を回収し、これでアメリカの特異点が解決され、別れの時が来る。
「おー、無事に終わったようだな」
「兄貴!そっちも終わって──っ!?ク、クー・フーリン!お前、腕が……」
クー・フーリンが戻って来たが、左腕を失っている事に気付き、遊馬達が駆け寄る。
心配そうで涙目で見つめる遊馬にクー・フーリンはニッと笑みを浮かべて右手で遊馬の頭を撫でる。
「心配するな、聖杯のお陰で左腕ぐらいすぐに戻る。ほらよ、あいつのフェイトナンバーズだ」
「大丈夫なのか……?」
「おう。まあ少し疲れたからカルデアに戻ったら少し休みてえな。まずは弓兵に美味えツマミを作ってもらって、酒を飲んで寝るか!」
遊馬を心配させないためにクー・フーリンは豪快に笑い飛ばした。
そんなクー・フーリンにスカサハは優しい笑みを浮かべて話しかけた。
「セタンタよ、よくあの狂王に勝てたな。今回ばかりは素直に褒めよう」
「おう、それより師匠!マスターの召喚には必ず応えろよ!」
「ああ。ユウマ、師として弟子のお前を鍛えるのを楽しみにしているぞ」
「望むところだぜ!すぐに召喚するからちょっと待っててくれよ!」
遊馬とスカサハは師弟として修行をする時を楽しみに待つ。
そこに一騎のサーヴァントが走って来た。
「む……どうやら全て終わってしまったようだな」
「あ、李書文!」
それはベオウルフとの戦いを任せた李書文だった。
「その様子だとベオウルフに勝ったんだな?」
「もちろんだ。少し危うかったが勝ったぞ。それから、ベオウルフを倒した後にこれが残された」
李書文が遊馬に渡したのはベオウルフのフェイトナンバーズだった。
ベオウルフは一度レティシアと戦ったのでフェイトナンバーズが残る条件が達成されていたのだ。
「あ、そうだ!李書文!消える前に俺と契約してくれるか?」
「……そうだな。良いだろう、お主達には迷惑をかけたからな」
李書文は遊馬と契約を交わしてフェイトナンバーズを生むと、李書文はスカサハに話しかける。
「スカサハよ、あの約定……忘れてはいないだろうな?」
「もちろんだ。残された時間は少ないが……」
「何、構わぬよ……少し離れるか」
「そうだな。ユウマ、しばしの別れだ。また会おう」
スカサハと李書文は少し前に交わした約定……槍を交える為にその場から離れて消滅する前の最後の戦いを行う。
遊馬達はこのアメリカで出会ったサーヴァント達と最後の会話をしていき、再会を約束しながら次々と消滅していく。
アルジュナとバニヤンの二人は遊馬にこれからも力を貸すと約束して最後に契約を交わして消滅していった。
すると、ナイチンゲールは優しい笑みを浮かべながら手を差し出した。
「ユウマ、握手をしてくれませんか?」
「え?お、おう!」
遊馬とナイチンゲールは握手を交わした。
「私は連れ添った患者が退院する時、こうやって手を握りあうのが、私の密かな楽しみだったのです」
「へぇー。意外に可愛いところがあるんだな」
「……可愛い、という表現は正しくありません。これぐらいの喜びは看護師としての嗜みです」
遊馬に可愛いと言われてナイチンゲールは今まで見た事ないほど頬を赤く染め、まるで乙女のように照れた様子を見せた。
アストラルやマシュ達は相変わらずな遊馬に「またか……」と呆れ果てた。
「……まったく。あれほど激しい戦いをしてそんな悪質な冗談を言うほど元気があるとは、貴方を侮っていました、ユウマ」
「そうか?でも冗談じゃあねぇよ、今のナイチンゲールは可愛くて良い笑顔をしているぜ!」
「も、もう……あなたはそう言うところも重症ですね……コホン」
遊馬の言葉に大慌てをするナイチンゲールはコホンと咳払いをしてマシュに近づく。
「ミス・マシュ。一つ、よろしいでしょうか」
「は、はい」
「私の願いは、世界中から病院を無くすこと。即ち、各家庭で充分な医療が受けられる事でした。百年経ってもそれが果たされないとは思いませんでしたが……それでも、私は確信していることが一つある。いつか、病気は根絶されるでしょう。絶望、怨嗟の内に亡くなる患者は存在しなくなる。自分の靴に接吻した兵士が、苦悶の内に死ぬのを看取ることもなくなるでしょう。私はその為に戦ったのです。今までも、これからも。貴女は貴女の目的のために、これからの時間を生き続けなさい」
ナイチンゲールは自分の願いを語り、悩みながらも少しずつ成長していくマシュに向けて言葉を送る。
「……はい。ありがとうございます、婦長」
「ミス・マシュ。夢と願いは違います。私の願いは夢ではありません。夢という単語にした瞬間、人はそれを遠くにあるものと勘違いしがちです。限りなく現実を睨み、数字を理解し、徹底的に戦ってこそ願ったものへの道は拓かれる。嗚咽を踏みにじり、諦めを叩き潰す。それが、人間に許された唯一の歩き方です」
マシュはこれからも強くなる。
李書文との戦いで見せた限界を超えるランクアップの輝き。
その輝きはまだまだ光を増していく。
そして、その輝きの光を共に照らしていくのは……。
「ユウマ。私は貴方に同志シドニー・ハーバートと等しい信を置いています。どうか、ミス・マシュへの助力を。貴方たちの進む道に、どうか光がありますように。では、さようなら。またお目にかかる日を、待ち望んでいます」
ナイチンゲールは遊馬とマシュに最後のエールを送り、笑顔を浮かべながら消滅した。
「……願ったものへの道は……戦ってこそ拓かれる」
マシュはナイチンゲールの言葉を復唱して心に深く刻みつける。
「私たちの願い、それは人理を修復こと……」
アストラルは大きすぎる願い……人理を修復、世界を救うと言う願いに未だに小さな不安がある。
しかし……。
「そして、人理を救ったら、みんなで俺たちの世界に行く!そして、世界一周だ!!」
遊馬の見つめるのはそれよりも先の未来。
それはマシュやアストラルの不安すらも打ち消す光り輝くものだ。
自分の前世を知り、アナザーと言葉を交わしたことで遊馬の心はより大きく、より強く成長したからこそ、その見つめる未来が来ると確信している。
マシュとアストラルもその未来を遊馬と共に必ず紡ぐと心に強く誓った。
「シータ……」
「ラーマ様……」
シータとラーマは手を握り合って互いを見つめていた。
「そろそろ別れの時間だ……もっと、もっと君と一緒にいたかった……」
「私もです……ですが、ひと時でもあなたと側にいられて私は幸せです……」
離別の呪いが解かれてもシータとラーマはサーヴァント。
この特異点が消えれば自分たちも消滅して英霊の座に戻る。
この世界で奇跡の再会を果たし、最後の一瞬まで一緒にいようとするが……。
「そこ、愛する二人の感動の別れのシーンをやってるけどその必要は無いわよ」
レティシアが呆れ顔で髪をかきながらそう告げた。
「必要は無い……?」
「それはどういう意味ですか……?」
「気付かなかったの?あんた達……二人共受肉しているわよ?」
「「……ええっ!??」」
受肉は霊体であるサーヴァントが肉体を得て現界する事である。
受肉さえすれば英霊の座に戻る事なく普通の人間と同じように生きることができる。
「何を驚いているのよ。だってあんた達は遊馬とアストラルが合体したZEXALの令呪の三画と聖杯を使って呪いを解こうとしていたのよ?それだけの膨大な力を注がれたら受肉するに決まっているじゃない」
ラーマとシータは気付いていなかったが、同じく遊馬とアストラルの力で受肉したレティシアは既に二人が受肉していたことを知っていた。
「だから、あんた達はこれからも一緒。遊馬の元で第二の人生を歩むのよ」
「そう言う事だ!」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
遊馬はラーマとシータの間に入って二人の肩を抱いた。
笑みを浮かべる遊馬はラーマとシータにある提案をする。
「俺と約束しただろ?絶対に幸せになるって。だから、戦いが終わったら、二人とも俺たちの世界に来いよ!そこで新しい生活を送るんだ!」
それは二人をレティシア達と同じように自分の世界に連れて行って新しい人生を歩ませる事だった。
遊馬の他人の幸せを願うその優しく慈悲深いその気持ちにラーマとシータは涙が溢れてくる。
「ユウマ様……ありがとうございます……!」
「あなた様には本当に、感謝してもしきれません……!ありがとうございます……!」
本当に素晴らしいマスターに出会えたとラーマとシータは改めてそう思うのだった。
カルデアのサーヴァント以外のアメリカで召喚されたサーヴァントは消滅する。
遊馬はラーマとシータ、そしてマシュ達サーヴァントをフェイトナンバーズに入れてデッキケースにしまう。
「遊馬〜!」
「遊馬、お疲れ様!」
そこにかっとび遊馬号が降下し、小鳥とオルガマリーが降りて来た。
「やったわね、遊馬!アストラル!」
「これでこのアメリカの特異点も解決ね」
「おう!小鳥も所長もお疲れ様!」
「そろそろ私達もカルデアに戻ろう。ロマニもレイシフトの準備を整えたはずだ」
D・ゲイザーでカルデアに連絡を取り、レイシフトを行う。
アストラルは皇の鍵の中に入り、遊馬と小鳥とオルガマリーの三人は静かに目を閉じ、レイシフトを行ってアメリカからカルデアへ帰還する。
☆
カルデアに帰還するとロマニは遊馬達を有無を言わさずに医務室へと連れて行き、遊馬とマシュを重点的に検査した。
特に遊馬はラーマとシータを助ける為に無茶をし、マシュは李書文との戦いで一度死にかけたのでロマニは無茶をする二人に小言を言って叱りながら検査と治療をしていく。
流石に反論も弁明も出来ないので二人は大人しくロマニの検査と治療を受けていくのだった。
検査と治療が終わるが、既にカルデアでの時刻は夜なので遊馬達は就寝する為にそれぞれの自室に向かう。
「ふぁあっ……召喚は明日にするかぁ……」
「それがいい。それと、色々質問攻めがあることを覚悟した方がいいな」
遊馬の前世がアストラルの半身ということは既にカルデア中に広がっているらしく、多くのサーヴァントの質問攻めがあるのは容易に想像出来る。
「と言っても俺自身の記憶は無えからなぁ……アストラルも説明とか頼むぜ」
「もちろんだ。さあ、そろそろ寝よう。ホープ・カイザーやホープレイ・ヴィクトリーの怒涛の進撃で私達もかなり消耗したからな」
「ああ。おやすみ、アストラル」
「おやすみ、遊馬」
遊馬とアストラルは眠りにつき、戦いで消耗した体力と精神力を休ませる。
激しい戦いの疲れからすぐに深い眠りに入る二人。
明日からはまたカルデアでの騒がしくも安らぎの日常が戻って来る……はずだった。
「……遊馬君。遊馬君。起きてください。寝ている場合ではありません。起きないとて(ムニャムニャ)します。いいんですか。実行には、私の全身全霊、大いなる蛮勇を持って挑まなければいけませんが、致し方ありません。いいのですね?本当に──(ムニャムニャ)しますよ?」
「ごめんなさい、すぐに起きます」
マシュの言葉が耳に届き、遊馬はすぐに頭を覚醒させて目を覚まして起きる。
「……やっと起きられましたね」
「だってあんなことを言われたら起きるって。ちなみにマシュは俺に何をするつもりだった?」
「それはその……遊馬君の頬っぺを指で押したり、耳を触ったり、足の裏をくすぐったり、その不思議な髪を徹底的に調べて……」
「すぐに目覚めて良かった……ところで、何で戦闘モードになってるんだ?」
マシュの悪戯に遊馬はすぐに起きて良かったと思いながら、マシュは何故かデミ・サーヴァントの戦闘モードになっていた。
「周りを見てください。どうやら突発的なレイシフトです。私達二人だけ……のようですが」
周りを見渡すと青い空に白い雲、そして木々が所々に生えている野原が広がっていた。
「アメリカから帰って来てすぐこれか……アストラル!」
遊馬が呼ぶと皇の鍵が光って中からアストラルが現れる。
「遊馬、どうし──ここは、一体……?」
「どうやらどっかの特異点にレイシフトしたみたいだ。なんか変なところだな」
「はい。まるで異世界?のようです。なんだか落ち着きません」
「そうか?俺はアストラル世界やバリアン世界に行ったことがあるから別に普通だけどな」
「とりあえず、周囲の状況から確認だ。カルデアと連絡を取りつつ、警戒して行こう」
アストラルの提案に同意して早速行動を開始しようとした──その時だった。
「キャ──」
「おや──あちらで何か物音が。フォウさん……ではない、陽気な声が──」
「キャー!どいてくださーい!」
何かが空の果てから高速で飛来し、こちらに向かって来てる。
「遊馬君!危ない!」
マシュが遊馬を庇って前に出たが……。
ドカァン!
「──はうっ」
飛来して来たものとマシュが顔面激突してしまい、マシュはその場で倒れてしまう。
「マ、マシュ!??」
「だ、大丈夫か!??」
「大丈夫です(涙)シールダーです……っ(涙)」
顔面に激突した痛みとシールダーでありながら盾で防御できなかった自分の不甲斐なさが同時に来てマシュは顔をさすりながら涙目となっていた。
「あらあらー、私ったら出会い頭の濃厚な顔面☆激突!申し訳ありませんー!」
「喋る……ステッキ?」
「何なのだこれは……?」
軽快な高い声と共に跳ね上がったそれは子供のおもちゃにあるような「魔法少女のステッキ」そのままの外観でヘッド部分には黄色の五芒星に羽の生えたリングが飾っている。
「おやおや?なかなかの魔力反応?ひょっとして、あなたがたも異邦人ですかー?それに、そこの青い人はもしかして……精霊さんですか?ややーこれはツイていますねー!これならぜひ、お助け願いたいんですけどー?」
「ってかさ、お前は……何?」
「あ!聞いちゃいます?それ聞いちゃいますぅ〜?しからば名乗りあげましょう!魔性の人工天然精霊、その名も──!」
ババン!と何処からか効果音が流れながらそのステッキは名乗りを上げた。
「愛と正義のマジカルステッキ、マジカルルビーちゃんです!イッツミー!」
「マジカルルビー……?」
「人工天然精霊……?」
「あ、先程は顔面失礼しました(ぺこり)」
「いえ、それはもう──ッ!」
「遊馬!」
「ああ!」
遊馬達はルビーを持ってその場から急いで下がると、炎の攻撃魔術が襲って来た。
「あら、ステッキの方だった?まだ生きてたの?ずいぶん頑丈なのねー。宝石魔術系の礼装は、伊達じゃないってとこかしら」
そして、空から降りて来たのはピンク髪の少女だった。
「このピンク髪ですよー!私をマスターごとブッ飛ばしてくれたのは!WORKING!WARNINGです!」
ルビーを襲ったのは遊馬達にとって戦ったばかりの敵だった。
「てめぇは……メイヴ!!」
「おや?お知り合いですか?」
「我々がつい最近戦った、敵の首魁だ!」
「とても危険なサーヴァントです……しかし、何故ここに!?」
遊馬達は再び現れたメイヴに警戒するが、当の本人からは全く違う反応だった。
「あら、私の顔をご存知なの?ちょっと嬉しいな。でもね、それは少し違うの。教えてあげるわ!今日からあなた達を支配する、女王の名前を。一度だけよ、よーく聞きなさい。二度目は私の番犬の
華麗なポーズを取り、男を魅了するである可愛いウィンクをしてメイヴは堂々と名乗った。
「
「「「…………は?」」」
遊馬とアストラルとマシュは心の中で何を言っているんだ?と思い、三人は互いに目を合わせて頷くと踵を返した。
「よーし、ルビー。お前のマスターを探しに行くぞー」
「まずはそのマスターの見た目などの身体的特徴などを詳しく教えてくれ」
「出来るだけ早く見つけましょう。どんな方かはまだ知りませんが、不安になっているかもしれないので」
遊馬達はメイヴを放置して急いでルビーのマスターを探しに行こうとした。
「ちょっとちょっと待ちなさいよ!あんた達、何で私を無視するのよ!!?」
メイヴは慌てて走って回り込んで遊馬達の前に滑り込む。
そんなメイヴに対して遊馬達は哀れみの目で見つめ、ため息をついて話す。
「メイヴ……お前さ、魔法少女って言う歳じゃねえだろ?」
「前にテレビで魔法少女アニメを見たことあるが、あれは小学校高学年か……最悪高校一年ぐらいがギリギリの年齢制限だろう。それにメイヴ、君はサーヴァントであるが……少女という年齢ではないだろう?」
「そうですね……女王メイヴの伝承を考えると、少女と言うにはちょっと……と言うかもう既にアウトだと思います。クー・フーリンさんとスカサハさんが今の貴方を見たら呆れ果てるか大爆笑しますよ」
遊馬達からの容赦ない言葉の刃が次々と心臓を貫くゲイ・ボルクの如くメイヴの心に深く突き刺さり、精神的ダメージを負いながらなんとか踏みとどまった。
「グスッ……う、うるさーい!そこまで言わなくていいじゃない!本当は自分でもギリギリだと思っているんだから、そこは合わせなさいよね!?と・も・か・く。いつも通り颯爽と
メイヴの話からしてどうやらアメリカで対峙したメイヴとは少し異なる存在のようだった。
以前ぐだぐだ本能寺の時に戦った戦国武将を名乗った残念サーヴァント達と同じような感じなのだとすぐに理解した。
「それじゃ、そこのルビーとかいう魔法の杖を、こちらによこしなさい?」
メイヴの狙いはルビーで魔物を大量に召喚し出した。
「お前の狙いはルビーか!」
「てやややー!このルビーちゃんが
「……ルビー、君のマスターはどんな人物だ?」
アストラルはルビーからマスターはどんな人物なのか尋ねた。
「ワーオ、いきなり告白タイムですかー?ルビーちゃんのマスターはとってもフツーの女の子なんですよー?でも、ときどきすごーく強いんです!友達思いのがんばり屋さんなのです!まあ、欲望スイッチがバチコーンすると、思わず流されちゃうのも女の子らしいのですが。でもちょっと怖いですよね、あれ。優等生な女の子が暴走するとなんかもうモンスターって感じ、しません?」
「モンスターか……なるほどな」
アストラルはルビーからマスターの話を聞き、マシュに目線を向けた。
「……アストラルさん?なぜじっとこちらを?アイコンタクトでしょうか?」
「いや、気にするな。遊馬、ルビーのマスターはどうやら小さな女の子らしい。友達思いの頑張り屋なら……私達が助けない道理は無いな!」
「当たり前だ!メイヴ、ルビーは渡さねえし、お前の企みを止めてやる!」
遊馬達はルビーとそのマスターのために戦う決意をする。
「おやおや、生意気なブタね……調教してあげようかしら……ん?」
「ちょっと待ったぁーっ!」
そこに元気な少女の声が響いた。
草原を全力疾走で駆け抜け、遊馬達の前で止まった。
「ぜぇ、ぜぇっ……走りすぎて、もうっ……ルビー!!」
走って来たのは長い銀髪に紅い瞳を持つカルデアにいるとある女性によく似た制服姿の可愛らしい少女だった。
「君は……?」
「イエース!マイ・マスター!ルビーちゃんはここですよー!?」
ルビーはマスターである少女に駆け寄る。
「ふうーん……戦車で轢いても壊れないなんて、新入りの魔法少女は
「むうぅ、また勝手なことを言ってるし……私は……私は!イリヤスフィール・フォン・アインツベルン!」
少女──イリヤの名前と苗字に遊馬とアストラルは何処かで聞いた覚えがあった。
「イリヤ、スフィール……?」
「アインツベルン……?」
イリヤはルビーの柄を握り、鬼気迫る表情で叫んだ。
「無敵の軍団なんて知らない!それよりなにより──
まだ状況や事情を把握してないが、大切な友達を全力で助けようとするイリヤの姿に遊馬達は心を打たれた。
「ルビー!──転身!」
「かしこまりました!」
ルビーから金色の光が放たれ、それがイリヤを包み込んでその姿を変える。
「コンパクトフルオープン!鏡界回廊最大展開!!☆」
それは偶然と奇跡が重なった少女の無限大の輝き。
「
無理矢理戦いに巻き込まれ、自分の大き過ぎる力に苦悩し、一度は戦いから逃げてしまった。
「
しかし、友の為に立ち上がり、自分の大切なものを守ると誓った、幼くも強い……最強無敵の魔法少女がここに降臨する。
「カレイドライナー プリズマ☆イリヤ!ここに推参ですー!!」
光の中から現れたのはピンク色を基調としたフリフリのスカートなどが特徴のとても可愛らしい……所謂『魔法少女』の名に相応しいデザインの衣装を身に纏ったイリヤだった。
まるでアニメで見たような魔法少女が目の前に登場し、遊馬達は唖然としてしまった。
「ほ、本物の魔法少女だ……すげぇ……!」
「見事だ……イリヤスフィールの本来の可愛さもあるが、あの姿こそが魔法少女と言うべき可愛らしさだ」
「ええ。メイヴさんの自称魔法少女とは比べ物にならないほどの素晴らしい可愛らしさです!」
それと同時に魔法少女に変身したイリヤの可愛さに驚きと感動を得るのだった。
「……ねえ!ちょっと!敵とはいえさっきから私に対するディスりは酷くない!?」
メイヴはイリヤの魔法少女としての可愛さに敗北感を感じ、更には遊馬達の地味に酷い言葉に涙目になりながら叫ぶのだった。
.
やった来ました!プリヤちゃん降臨です!
実は私、あんまりロリっ子はあまり好きじゃないんですが、プリヤはロリっ子の中で一番好きですね。
あと、これは個人的な感想ですが、イリヤちゃんと遊馬ってなんか似ている気がするんですよね。
性格とかはもちろん違うんですけど、美遊ちゃんか世界のどちらかを救うか迫られてイリヤちゃんは「美遊も世界も両方救う!」と言った台詞に遊馬との親近感を覚えました。
遊馬もシャークと世界、どちらかは選ばないって言って両方救おうとしましたからね。
イリヤちゃんと遊馬、この二人は結構最高のコンビになりそうな気がします。