お盆前はやっぱり色々やることが多いですね。
次回は頑張って土日には更新します!
インド神話のサーヴァント、ラーマの抉れた心臓をナイチンゲールが全力で治療している間、遊馬と話をする。
「悪いけど、俺はお前の奥さんのシータが何処にいるか分かんねえんだ」
「じゃあ何故お前がシータを……?」
「実はこの世界に来る前に夢を見たんだ。日が登らない果てしない湖が広がる世界でお前とシータの二人を見たんだ」
「何だと……?夢で……?」
「あと、変なのを見たんだけど……猿みたいな、邪悪なオーラが見えて、二人に呪いがかかってるって言ってたんだ。えっと……確か、二人はもう喜びを分かち合うことは出来ない……永遠にその呪いは解けないって……」
遊馬の言葉にラーマは目を覆い隠すように右腕を被せた。
「少し、長い話になる……」
ラーマは遊馬達に静かに語り始めた。
それはラーマが主人公として物語を描かれる『ラーマーヤナ』。
ラーマーヤナは神々をも使役する羅刹の王・魔王ラーヴァナに連れ去られたシータを取り戻す為に、ラーマが戦う物語。
ラーマはシータを取り戻すために十四年間も戦い、遂に魔王ラーヴァナを倒すことができた。
しかし、彼はその過程で致命的な失策を犯してしまった。
猿同士の戦いに介入し、味方の猿スグリーバを手助けする為に敵対していた猿バーリを殺した際、ラーマは背中から騙し討ちにしたのだ。
卑怯な行為に怒ったバーリの妻はラーマに呪いを掛けた。
『貴方はたとえ后を取り戻すことができても、共に喜びを分かち合えることはない』
シータを取り戻したが、不貞を働いてるのではないか……そういった疑念が民に広まり、ラーマもまた疑ってしまった。
そうしたばかりに、シータと永遠に引き離されてしまった。
「その呪いは英霊になったこの身でも、余とシータを引き裂いている……同時に召喚されることはない、聖杯戦争でもそれは叶わない……」
「そんなに強い呪いなのかよ……」
「恐らくは沖田の病弱と同じように抗えないスキルとして英霊の座の霊基に刻まれているのだろう……そうやって二人が一緒になれないように……」
「だが、この特異な状況の聖杯戦争なら可能性が……余はこの目で見ていないが、余には分かる……シータはこの世界の何処かで囚われている……!!」
ラーマは拳を強く握りしめてそう断言する。
それは互いが深く愛し合っている夫婦だからこそ分かる不可視の絆だった。
「お前とシータの事情は分かった。それはそうと、その心臓の重症はどうしたんだよ?誰にやられた?」
「相手は……クー・フーリン。アイルランド最強の英霊だ」
ラーマが対峙したサーヴァントの名に遊馬達は驚愕する。
「──何だって?これ、クー・フーリンのゲイ・ボルグにやられたのか!?」
「そうだ。シータの居場所を知るために、クー・フーリンと刃を交えた時に……」
「……ラーマ、これを見てくれ。お前と戦ったのはこれに描かれたこいつか?」
遊馬はクー・フーリンの2枚のフェイトナンバーズをラーマに見てもらった。
「そ、そうだ、その──いや、違う。余が戦ったクー・フーリンとは少し違う。余が見たのは雰囲気がもっと禍々しく、身体中に刺青が刻まれていた……」
ラーマが対峙したクー・フーリンと遊馬達の仲間であるクー・フーリンとは姿が違っているようだった。
念の為にカルデアに確認してもらったところ、クー・フーリンはカルデアにおり、食堂で他のサーヴァントと共に食事している姿が確認された。
「うーん?つまり、俺たちの知るクー・フーリンの兄貴とは別人?」
「偽物……とは考えにくい。ラーマを追い詰め、尚且つゲイ・ボルグで心臓を抉ったからな」
「となると、つまり……」
遊馬とアストラルは考えを巡らせて周りを見渡すと、一人の人物に視線が集中する。
「「あ!」」
「な、何よ……」
それはレティシアだった。
マシュと清姫も遊馬とアストラルの考えに気づいてポンと手を叩いた。
「そうだ、そうだよ!オルタナティブだよ!」
「それだな、それが一番可能性が高い!」
「つまり、ラーマさんが出会ったクー・フーリンさん……それはクー・フーリンさんではなく、オルタナティブの存在ってことですね!」
別側面、もう一つの可能性……それらによって存在する反転した英霊・オルタナティブ。
目の前にいるレティシアも元々はジャンヌの反転した存在と仮定して聖杯から生まれたジャンヌ・ダルク・オルタであり、カルデアにいるアルトリア・オルタやランサー・アルトリア・オルタもアルトリアの反転した存在として誕生した。
今までの特異点での体験から考え、ある結論に辿り着く。
「つまり……この特異点を引き起こした可能性があるケルトのリーダーが聖杯に願ってクー・フーリンのオルタナティブを召喚した、って事だな」
遊馬達はケルト軍に現れたクー・フーリンをクー・フーリン・オルタと名付ける。
「さて……ひとまずクー・フーリン・オルタの話はこの辺にしておいて、今後我々がどう動くか話し合おうか」
アストラルが話の進行役となり、遊馬達とレジスタンスが協力して今後どう動くか話し合う。
現状はケルト軍が優勢でアメリカ軍が劣勢……アメリカには規格外のサーヴァントのカルナがいるが、ただでさえサーヴァントの数が少ないのでこのままではアメリカ軍が敗北する可能性が高い。
遊馬達も出来ればアメリカ軍に協力したいが、大統王のエジソンの歪んだ思想には同意出来ず、協力は出来ない。
中々良い案が出来ず悩んでいるとレティシアはボソッと呟いた。
「ケルトの親玉を倒せば話は早いんだけどね……」
「それはつまり……暗殺、という事か?」
戦争ではそれを起こしている親玉を倒せば自然と軍が崩壊し、戦争に勝利することが出来る。
確かに暗殺は効果的……かもしれないが、今まで実践も考えもしたことのない案なので、遊馬はものすごく不安になる。
「暗殺か……そう簡単に上手くいくのかな……?」
「それならカルデアにいる本職に聞けば良いのでは?」
「本職?ああ、なるほど!」
遊馬はカルデアに連絡して暗殺の本職……アサシンクラスのサーヴァントに意見を求めた。
数あるアサシンクラスのサーヴァントの中で最も暗殺者の名に相応しい人物に連絡を取ると……。
「ダメだ、絶対にやめた方がいい」
「即答ですか、キリツグさん……」
それは魔術師殺しの異名を持つエミヤキリツグだ。
デュエルディスクに追加した機能でカルデアと通信する際に遊馬だけでなくみんなにも話が聞こえるようにソリッドビジョンシステムを利用して、カルデアにいるキリツグの姿を映し出して話すことができる。
キリツグはこの暗殺の問題点を客観的に指摘していく。
「たしかに敵の頭を叩くのは大規模な戦争においては効果的だが、今回は問題点が山ほどある。まずは情報不足だ。敵の戦力や拠点の位置や構造など暗殺に必要な情報が圧倒的に欠けている。これでは行き当たりばったりな暗殺になって成功率が格段に下がる」
確かに情報があまりにも不足している。
アメリカ軍とケルト軍の戦いが複雑化して上手く情報を入手出来ない状況なのだ。
「二つ目は敵戦力があまりにも未知数だ。詳細は不明だが大量に生まれる兵士達だけでも厄介だ。そして、文献を見るだけでもゾッとする化け物揃いのケルト神話のサーヴァント……どいつもこいつもステータスやスキルも宝具も並大抵のものでは無いだろう。万が一見つかりでもして戦闘になったらこちらも無事では済まない」
ケルトの無限に生まれる兵士たちに一騎当千のケルトの英霊達……あまりにも敵戦力の大きさや未知数に暗殺の成功率が更に下がる。
「三つ目、これはあくまで僕の直感だが……敵側にインド神話のサーヴァントがいる可能性もあるアメリカ側にインド神話のカルナがいた。もしかしたら、抑止力として敵側にもそれに匹敵するサーヴァントが召喚されていても不思議では無い。カルナの力を映像で見たが、あんな化け物はまともには太刀打ちができない。そんな奴が敵の頭の側にいたりしたらそれこそ暗殺は不可能だ」
聖杯戦争では強大な力に対して抑止力としてそれの天敵か、同等の力を持つサーヴァントが呼び出される事もある。
例を出すなら第一特異点のフランスでファヴニールに対抗するために召喚されたジークフリートだ。
「四つ目、ターゲットである敵の頭が聖杯を持っているなら、今までの特異点の敵の傾向から考えて持っているだけでなく、体内に取り込んでいる可能性もある。仮に暗殺が成功しても、最後の最後でとんでもない願いを込めて聖杯が暴走して敵味方問わず、甚大な被害をもたらすことも考えられる」
事実、第一特異点でジルが聖杯の力を使って宝具の力を暴走させたり、第二特異点ではレフが聖杯でアルテラを召喚し、第三特異点ではメディア・リリィが聖杯でイアソンを魔神柱にした。
キリツグの話を聞けば聞くほど暗殺への不安が募っていく。
「……仮にキリツグさんとかのアサシンクラスのサーヴァントを使っても難しいか?」
「難しいだろうな。まだ敵の頭の正体は不明だが、女王らしいとの情報だろう?王族なら自分が暗殺される事も考えているはずだ」
「だよなぁ……」
アストラルやマシュ達もこれでは暗殺は不可能と察し、やむなく暗殺の案は諦めることとなった。
「これはあくまで僕の提案だが、やはり情報収集を徹底した方が良いと思う。この広大なアメリカで適したサーヴァントを知っている」
そう言ってキリツグが推薦したサーヴァントは……。
「と言うわけで、アメリカ軍とケルト軍の情報収集を頼むぜ。百貌のハサンの皆さん!」
「「「ハッ!」」」
カルデアから呼んだのは一騎で八十人以上の存在となっているアサシンクラスのサーヴァント、百貌のハサン。
アメリカは広大でアメリカ軍とケルト軍、二つの軍勢を一度に情報収集をする為に百貌のハサンは適任だった。
「十人単位のチームに分かれて行動して、それぞれのチームリーダーにD・ゲイザーを渡すからそれで記録を残してくれ。それから、絶対に敵サーヴァントと戦うなよ。必ず生き残って帰る事!良いな?」
「「「ハッ!承知しました!」」」
「散!!!」
百貌のハサンの代表格でもあるポニーテールの女性のハサン、通称・アサ子の命令でハサン達は一斉に散って情報収集へと向かう。
「情報の方はハサン達に任せて、俺たちはどうするか……」
遊馬がこれからどうするか悩んでいるとアストラルは静かに隣に立つ。
「遊馬、君の心は既に決まっているのではないか?」
遊馬のことを誰よりも理解しているアストラルは遊馬の心の中の望みを見抜いていた。
心の中の望みを見抜かれ、遊馬は苦笑いを浮かべながら頭をかく。
「……そうだな。あははっ、やっぱりアストラルには敵わないなぁ」
「私は君の一番の相棒だからな。そうと決まったら早速行動に移すぞ」
「おう!」
遊馬とアストラルはみんなの元へ戻り、遊馬は自分の考えを伝える。
「百貌のハサンのみんなが情報を集めている間に俺は出来ることをしたい。ナイチンゲール、ラーマの心臓の傷はどうなってる?」
ラーマの抉れた心臓の傷を治療しているナイチンゲールだがその表情は悔しそうなものだった。
「残念ながら、この少年の治療は叶いません。先ほど修復したはずの心臓が既に十パーセント以上損傷しています。底の抜けたバケツ……ほどには酷くはないですが、絶えず治療し続けなければ、すぐに死に至るでしょう」
「先ほどドクターに連絡してどうすれば良いか聞きましたが、呪いを解くにはその原因であるクー・フーリン・オルタを倒すのが一番ですが、それは難しいでしょう……」
現在、ラーマの心臓はナイチンゲールが治療を続けなければ損傷し続けるほど呪いがとても強い。
「ですが、ラーマさんの奥さん、シータさんに会えば治療の効果が上がると言ってました!」
「…… ふむ。ラーマは現在召喚されているサーヴァントの中では疑いようもなく最強だ。万全の状態であればカルナが相手でも五分の戦いを繰り広げるだろう」
シータに会えばラーマを救える可能性が高くなり、ラーマが万全の状態となればカルナとも互角に戦える。
遊馬は頷いて決心がつき、この戦争で生き残り、勝ち抜く為に今始めることを決めた。
「よし!それじゃあ、シータを探しながら各地に散らばっているサーヴァントを仲間にして戦力を整えよう!」
遊馬達の目的が決まり、全員が頷いて同意すると早速行動を開始する。
「移動は飛行船を使おう。ナイチンゲール、君は船内でラーマの治療を頼む」
「分かりました。船内なら移動しながらでも治療が可能ですので助かります」
「ラーマ、奥さんに会わしてやるから死ぬんじゃねえぞ。来い、かっとび遊馬号!」
遊馬は皇の鍵に触れ、上空に待機していたかっとび遊馬号を呼び出す。
「なっ……!?空飛ぶ船だと……!?」
「これは……なんて見事な……!」
ラーマとジェロニモはかっとび遊馬号に驚愕し、早速二人を連れて船内へと入れる。
船内には簡易ベッドを用意してあるのでそこにラーマを寝かせてナイチンゲールが治療の続きをする。
「よし、それじゃあまずはどこに行くか!」
「それなら私の仲間のサーヴァントの元へ向かおう」
ジェロニモには同じレジスタンスの仲間である二人のサーヴァントがいる。
「オッケー、早速会いに行こうぜ!かっとび遊馬号、発進!」
遊馬は舵を取り、かっとび遊馬号を発振させてジェロニモの仲間がいる街へと向かう。
☆
ジェロニモの案内で二人のサーヴァントがいる街へと向かうが、その街から煙が登っていた。
「火事!?襲撃を受けているのか!?」
「ナイチンゲールはこの場でラーマの治療を続けてくれ。私たちは地上に降りて戦闘だ!」
「患者がいたらすぐに教えてください。彼を担いで向かいます!」
「待て!それは流石に恥ずかしいぞ!?」
今の重症のラーマの言葉はスルーし、遊馬達はかっとび遊馬号から地上に降りて街に突入する。
街の中心では二人のサーヴァントがケルト兵を相手に戦闘していた。
二人とも男性のサーヴァントで、一人は緑の衣装に身を包み、右腕に弓を装着しているサーヴァントでもう一人は黒い服を着た二丁拳銃を構えたサーヴァント。
「二人とも無事か!」
「ジェロニモ!おっ、まさか援軍を連れてきてくれたのか!?」
「女子供ばかりだけど……ああ、女の子はみんなサーヴァントだ。子供はマスターで……えっ!?」
「なんか隣に精霊がいるし……どんな組み合わせだ?」
二人のサーヴァントは遊馬達の不思議な組み合わせに疑問に思っているが、遊馬達は話は後にしてまずは目の前の敵を倒すことに集中する。
「俺は九十九遊馬!こっちは相棒のアストラル!話はこいつらを全員ぶっ飛ばしてからだ!」
遊馬達はケルト兵に特に苦労する事もなくあっという間に全て一掃すると、その実力に二人のサーヴァントは感心した。
「いやー、中々やるね。あんたら」
「本当だね。あっという間にケルト兵を片付けるなんて」
「ジェロニモが連れてきたんなら信用出来るな。オレはロビンフッド。クラスはアーチャー。それで隣のコイツが──」
ロビンフッド。
シャーウッドの森に潜んだと言われる義賊で森の狩人。
「何だ、あっかやら明かしちゃうんだ。ズルいなあ、それじゃあ僕も明かさない訳には行かないか。僕はウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア。人呼んで──ビリー・ザ・キッド!」
ビリー・ザ・キッド。
アメリカ西部開拓時代の代表的なアウトローで拳銃王の異名を持つ伝説のガンマン。
日本でも有名な森の狩人と拳銃王に遊馬の目が感動と尊敬の眼差しをする。
「す、凄え!伝説の狩人にガンマンが二人一緒に揃うなんて!」
「そんなに感動しなくても……」
「なんかちょっと恥ずかしいね」
子供の純粋無垢な視線にロビンフッドとビリーは苦笑いを浮かべた。
その後、アストラルとマシュが現状を二人に説明している間にかっとび遊馬号からラーマを背中に背負ったナイチンゲールが飛び出して街の住人が怪我をしていないか診察を行なう。
「……なるほどねえ。このラーマって子を治療して、他のサーヴァントを仲間に引き入れて戦力を拡充する。だけど、暗殺はやった方がいいんじゃねえのか?汚れ仕事ならオレが手を貸すぜ?」
「無限湧きする連中が相手だからね。暗殺の方が確実だと思うけど」
二人は無限に現れるケルト兵を抑えるためにも暗殺を勧めるが遊馬は首を左右に振る。
「ダメだ。そんな事をして仲間を危険な目に合わせられない。ケルト兵相手なら……最悪、俺とアストラルの力で全滅させる……!」
その力強い言葉にロビンフッドとビリーもハッタリではなく確証があると察知し、ひとまずはその意見に従うことにした。
「だから今のうちに出来るだけ早く仲間を集めたい。二人共、ケルトではないサーヴァントの情報は無いか?」
「僕の知り合いは召喚されてないみたい」
ビリーはいないと言うが、対するロビンフッドは気まずそうな表情を浮かべている。
「ロビンフッド、どうしたんだ?」
「ああ、その……何つーか、ビリーと合流する前にさ、会ったんだわ。セイバーとランサーに。うん、まあ……セイバーとランサーだけどね?」
「セイバーとランサー……?あっ!」
その二つのクラスに遊馬は思いつき、デッキケースから二枚のカードを取り出してロビンフッドに見せる。
「なあなあ!それって、この二人のことか!?」
「ちょっ……!?何でお前があの二人のカードを……!??」
ロビンフッドはそのカードに描かれた二人のサーヴァントに驚愕し、遊馬はニッと笑みを浮かべる。
「この二人は大切な俺の仲間だ!ロビンフッド、案内してくれ!」
「へぇ、あの二人を仲間って呼ぶか。お前、中々肝が据わってるね……」
ロビンフッドはそのセイバーとランサーの事を知っているので、その二人を仲間と呼ぶ遊馬のマスターとしての評価が上がる。
.
この小説では暗殺の案が無くなりました。
FGO本編を見たときから感じていましたけど、有能なアサシンいないのにメイヴの暗殺は難しくね?と思ったので。
各地の仲間を集めて、シータを探しに行きます。
次回はセイバーとランサーと合流して、あの女好きのダメ大人なおっさんとのバトルになります。