Fate/Zexal Order   作:鳳凰白蓮

104 / 195
大変お待たせしました。
少し更新をお休みして心に少しゆとりが出来ました。
今回は前編後編に分けて更新します。
後編は今日中に投稿しますのでお待ちください。


ナンバーズ102 七つの大罪

監獄塔……最後の試練、第七の裁きの間。

 

長かった監獄塔の戦いも遂に最後となり、遊馬とアストラルは連戦に次ぐ連戦で流石に疲れが出たので最初の部屋で休んでいた。

 

すると、何処かへと出かけていたアヴェンジャーが部屋に入ると不機嫌な表情をして部屋を見渡す。

 

「……女は何処だ?」

 

「ふあぁっ……女?」

 

「フン。呆けた顔をするな。あの女だ、オレがメルセデスと名付けた女。オレがいない間に何処へ行った?行く先など、シャトー・ディフにはあるまいに」

 

「メルセデス?あれ、どこ行ったんだ?」

 

部屋にはメルセデスの姿がなく、空たちも休んでいたがメルセデスを見ていないようだった。

 

「……まあいい。構うものか。行くぞ、準備しろ。最後の裁きの間の準備が整ったようだ。今度はあの獅子の力を使っても上手くはいかんぞ、必ず第七の支配者を殺せ。迷うな。惑うな。どうせ、道は一つしかない」

 

デステニー・レオの特殊勝利はもう意味を成さないとアヴェンジャーは予め遊馬に釘を指す。

 

部屋を出て裁きの間へ向かう間、アヴェンジャーはこの監獄塔……シャトー・ディフに関する事を雑談のように話した。

 

まるで自身が経験したように話し、裁きの間を挑む遊馬を何かを比べていた。

 

そして……遂に第七の裁きの間へと到着したが……。

 

「誰もいねえじゃねえか」

 

「アヴェンジャー、どういう事だ?」

 

「……フン。ひとつ、昔話をしてやろう。暇潰しだ」

 

「「昔話?」」

 

アヴェンジャーは突然昔話をし始め、遊馬とアストラルは首を傾げた。

 

アヴェンジャーのこれから語り出す昔話を知っているルーラーは少し顔を暗くして目を閉じ、ジークと式は興味深そうに耳を傾ける。

 

それは世界で最高の復讐劇とも言われる話。

 

ある海で働く誠実な男がいた。

 

この世が邪悪に充ちているとは知らずに生きていた。

 

しかし、悪辣な陰謀が導いた無実の罪によって孤島にある牢獄、イフの塔……シャトー・ディフに囚われてしまう。

 

鋼の精神によって屈することなく十四年の地獄の日々を乗り越え、監獄島から生還した男は──『復讐鬼』となった。

 

人間が持つ善性を捨て、悪魔が如き狡猾さと力を手に入れた。

 

自らを地獄へ送った者たちを一人ずつ恐怖を与えながら手に掛けた。

 

アヴェンジャーは地獄へ送った者たちの恐怖や絶望した表情を思い浮かべて凶悪な顔をして大笑いをした。

 

「……それ、お前の経験か?アヴェンジャー……」

 

とても他人の話をしているようには思えず、まるで復讐をやり遂げたように話しているアヴェンジャーに対して遊馬は静かにそう尋ねた。

 

「フッ。逸るな。年長者の話は最後まで聞くものだ」

 

男は復讐に耽ったが、最後の一人を見逃した。

 

自らの悪を捨てたのだ、最後の最後に善性を取り戻したという者もいる。

 

そして、こうも言う。

 

「──愛を、得たのだと」

 

「愛?」

 

男は確かに復讐を止めた。

 

失われた筈の愛を取り戻したのだろう。

 

男は、復讐鬼たる自身を愛し続けた寵姫と共に何処へなりとも消え失せた。

 

「……ハッピーエンドに聞こえるけど?」

 

「……だろうな。性質の悪い小説家めの所行で、遍く世に広まった話ではある。男の人生は物語となった。或いは、物語こそが男の人生であったのか。いずれにせよ、物語は思考の喝采を浴び、無数の想いを受け、復讐の神話となった。かつて男は復讐の神を叫んだが、哀れ、男自身がソレに成り果てたのだ」

 

「復讐の神……」

 

遊馬は復讐を認めず、元の世界で仲間やライバルたちが行おうとした復讐を全力で止めて最後は和解させてきた。

 

しかし、アヴェンジャーの口から語られた復讐劇はあまりにも重く、簡単に否定をすることは出来なかった。

 

「男は、人類史へと刻まれた。人々が夢想する荒ぶるカタチのままに。そして、英霊と化した男の魂は、魔術の王が時を焼却せんとする頃になって──」

 

「……エクストラクラス。酷く特異なサーヴァントとして現界した。それがあなたですね、アヴェンジャー」

 

アヴェンジャーの話に割り込むように現れたのは行方不明だったメルセデスだった。

 

「結局のところ、私……私自身の事は何も思い出せませんでした。でも。分かるんです。どうしてか、あなたの事は分かるの」

 

「メルセデス……!?」

 

「ごきげんよう、ユウマ様。いいえ、あなたではありません。黒い彼を、私……」

 

「そこを退け。女。オレは積極的に女を殺しはしない」

 

「この塔は悪しきモノです。そしてアヴェンジャー様、あなたもそう。あなたは──やっぱり、この世にいてはいけない」

 

「勝手に決めつけるな!アヴェンジャーはちょっと捻くれてるけど、あんたの言う悪しきモノじゃねえ!!」

 

メルセデスのアヴェンジャーを否定する言葉に遊馬は怒りを覚えた。

 

それに対し、アヴェンジャーは静かに凶悪な表情を浮かべながら声を荒くした。

 

「メルセデス。否、否、己を失って彷徨う女。まさか、イフ城にありながらオレを否定するか?か弱い女などであるものか。貴様は強い、貴様はジャンヌにも匹敵する強き魂だ!本性を顕せ!このオレが、世にあってはならぬのならば!示せ。お前の全力を以て殺してみせろ!」

 

「私は、未だ分からない……私が、なぜ、此処にいるのか……でも、力を貸してくれるモノたちがある」

 

そして、メルセデスの思いに応えるかのように、メルセデスの周囲に現れたのは無数の死霊達だった。

 

それはオガワハイムで対峙したゴースト以上に強力な力を持った死霊だが、アヴェンジャーは冷静に分析する。

 

「シャトー・ディフに集う呪いの集合?いいや違うな。ソレには怨念がない、怒りがない。お前を慕い想う魂の欠片どもか!ははは、いいぞ。死霊にさえ愛される女とはな!よほどの道を歩んできたのだろう。お前は、いずれ名のある英霊かもしれぬ」

 

恐らくはメルセデス……本来の記憶を持つ英霊である彼女が生前に多くの人に慕われるほどの偉業を成したと推測される。

 

「──だが。怨念なき死霊など、微風に等しい!」

 

アヴェンジャーの姿が漆黒の霧に覆われ、両手には暗黒に染まった炎を纏い、戦闘態勢を取る。

 

「さあ、マスターよ!貴様も戦え!!」

 

「……分かったよ、これが監獄塔の最後の戦いだからな。メルセデス……行かせてもらうぜ!」

 

「七つの大罪をなぞらえた七つの裁きの間の最後の戦い……それならば、最後はこのナンバーズが相応しい!遊馬、このナンバーズを召喚するのは少々面倒だが、行けるか?」

 

アストラルは三枚のナンバーズを取り出して遊馬に投げ渡す。

 

「このナンバーズは……へぇ、こんな奴らもいるんだな。任せろ、アストラル!」

 

「待ってください、ここは私に任せてください!」

 

そこにルーラーが旗を構えて遊馬の前に出る。

 

ルーラーは聖女として彷徨える魂を浄化する力を持つ。

 

かつて聖杯大戦でその力を駆使して数多の子供の魂の集合体であるジャックを浄化した。

 

しかし、遊馬は首を左右に振ってルーラーの手を掴んで後ろに下がらせた。

 

「ルーラー、悪いけどここは俺とアストラルにやらせてくれ。最後だからこそ、自分たちの手で決めたいんだ」

 

「遊馬さん……」

 

ルーラーはサーヴァントとして遊馬を守ろうと思うがあまりに遊馬の気持ちを無視してしまった。

 

サーヴァントとして間違ってない事だが、その事を恥じて旗をしまって大人しく下がった。

 

「申し訳ありません、出過ぎた真似でした」

 

「気にすんなって。思いは受け取ったからよ!」

 

「遊馬さん、アストラルさん、御武運を!」

 

「おう!」

 

「よし、行け!遊馬!」

 

「行くぜ!俺のターン、ドロー!永続魔法『強欲なカケラ』!このカードがフィールドに存在する限り、通常ドローをする度にこのカードに強欲カウンターを1つ置く!」

 

遊馬の前にデッキから2枚ドローを行うことが出来る『強欲な壺』が割れた破片が1つ置かれる。

 

「『ガガガシスター』を召喚!その効果でデッキから『ガガガ』と名の付いた魔法・罠を手札に加える。俺は『ガガガウィンド』を手札に加えて発動!手札からガガガモンスターをレベル4で特殊召喚する!ガガガマジシャンを特殊召喚!」

 

ランク2から10まで幅広いモンスターエクシーズを呼び出せるガガガマジシャンとガガガシスターのコンビが立ち並ぶ。

 

「行くぜ、ガガガマジシャンの効果!レベルを4から8に変更する!更にガガガシスターの効果でガガガシスターとガガガマジシャンのレベルを共に合計した数となり、レベル10となる!レベル10となったガガガマジシャンとガガガシスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!」

 

『『ガガガッ!』』

 

ガガガマジシャンとガガガシスターがオーバーレイし、地面に吸い込まれて光の爆発を起こす。

 

「現れよ!『No.35 ラベノス・タランチュラ』!」

 

現れたのは一つ目の不気味な大蜘蛛のモンスターだった。

 

しかし、本命はこのモンスターではない。

 

ラベノス・タランチュラから更なる力を持つナンバーズへと進化する。

 

「遊馬!次だ!」

 

「おうっ!」

 

遊馬はアストラルから渡された2枚目のナンバーズを掲げ、そのナンバーズをラベノス・タランチュラの上に重ねる。

 

「このカードは自分フィールドのオーバーレイ・ユニットを2つ以上持ったランク8から10の闇属性モンスターエクシーズの上に重ねてエクシーズ召喚する事もできる!ラベノス・タランチュラ、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

ラベノス・タランチュラが光となり、地面に吸い込まれて光の爆発を起こす。

 

「現れよ!『No.84 ペイン・ゲイナー』!」

 

ランク10のラベノス・タランチュラがランク11の三つ目の大蜘蛛のモンスターへと進化した。

 

「遊馬!これが最後だ!」

 

「オッケー!かっとビングだ、俺!」

 

これだけでも高ランクモンスターエクシーズをエクシーズ召喚出来たが、モンスターエクシーズの中でも数少ない最高ランクのナンバーズを呼び出す。

 

「そして、このカードは自分フィールドのランク10・11の闇属性モンスターエクシーズの上に重ねてエクシーズ召喚する事もできる!ペイン・ゲイナー、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

ペイン・ゲイナーが光となって地面に吸い込まれ、今まで以上に大きな光の爆発を起こす。

 

「傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲……七つの大罪を司る夢幻の糸よ!今こそ、その糸を一つに束ね、罪深き者の魂を導け!!」

 

光の爆発の中から七色に輝く七つの光の玉が現れ、一つに合わさると更に大きな光の爆発が起こり、その中から巨大な影が現れる。

 

「「現れよ!!『No.77 ザ・セブン・シンズ』!!!」」

 

現れたのはこの監獄塔の七つの裁きの間を戦い続けてきた遊馬とアストラルに相応しい『七つの大罪』の名を持つナンバーズだった。

 

本来ならザ・セブン・シンズは数あるナンバーズでも人の持つ大罪である『七つの大罪』の名を持つことから、かなり大きな力を有しており、アストラルでも制御することは難しかった。

 

しかし、遊馬とアストラルはこの監獄塔で七つの大罪について多くのサーヴァントと対峙し、その欲望や罪に触れることでカオスへの理解を深めていった。

 

それにより、ザ・セブン・シンズを制御することに成功したのだ。

 

不気味だが純白に輝く巨大蜘蛛……その姿に死霊達が怯む。

 

それもそのはず、ザ・セブン・シンズはモンスターエクシーズでも指で数えるほどしか存在しないとされる最高ランクのランク12で攻撃力4000の超大型モンスターなのだ。

 

「フハハハハ!ザ・セブン・シンズ、まさにこの監獄塔の七つの裁きの間、最後の戦いに相応しいモンスターではないか!!」

 

ザ・セブン・シンズの登場に歓喜の声を上げたのは隣にいたアヴェンジャーだった。

 

「七つの大罪ね……確かにこの監獄塔の戦いには相応しいモンスターね」

 

「まさかナンバーズにこれほど強大な力を持つ存在がいたなんて……」

 

「そう言えば、ナンバーズは人の心や欲望を写すとアストラルが言っていた。つまり、あのナンバーズは人々の持つ七つの大罪を写した存在かもしれないな……」

 

空とルーラーとジークもザ・セブン・シンズから放たれる力に感心した。

 

そして、死霊達が怯む中……メルセデスに力を貸すために更に巨大な死霊が姿を現した。

 

「で、でけぇ!?」

 

「なんて巨大な死霊なんだ……」

 

大きさはザ・セブン・シンズにも匹敵し、巨大な死霊は腕を振り上げて攻撃してきた。

 

それに続いて他の死霊達も一斉に攻撃をし、ザ・セブン・シンズを破壊しようとした。

 

「させるか、ザ・セブン・シンズの効果!戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードのオーバーレイ・ユニットを1つ取り除く事ができる!オーバーレイ・サクリファイス!」

 

ザ・セブン・シンズが4つあるオーバーレイ・ユニットを1つ体内に取り込むと、その体が鋼鉄のように硬くなり、死霊達の攻撃を弾き返した。

 

「よし、一気に行くぜ!俺のターン、ドロー!この瞬間、強欲なカケラの効果!強欲カウンターを1つ乗せる!」

 

強欲なカケラに光が灯され、カケラが宙に浮いて灯された光が大きな壺の形となる。

 

「そして、ザ・セブン・シンズの真の効果発動!!」

 

ザ・セブン・シンズの体が光り輝き、口から無数の糸を吐き出す。

 

「彷徨える死霊たちよ、七つの罪を司る大いなる力の前にて深き眠りにつくがいい!!」

 

「1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを2つ取り除き、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て除外し、除外したモンスターの中から1体を選んでこのカードのオーバーレイ・ユニットとする!スパイダー・シルク・レイン!!」

 

2つのオーバーレイ・ユニットを取り込むと糸が無限に分裂し、雨のように亡霊たちに降り注いだ。

 

これこそ、ザ・セブン・シンズの真の能力。

 

鉄壁の守りで己を守り、裁きを下す糸で敵を一掃する断罪の一撃。

 

降り注がれた糸は亡霊たちの体を貫き、霊体を粉々に砕いた。

 

亡霊達は一斉に消滅してその内の1体がカードとなってザ・セブン・シンズのオーバーレイ・ユニットとなった。

 

しかし、巨大な亡霊はザ・セブン・シンズ効果でも除去することはできなかったが、まだ攻撃は残っている。

 

ザ・セブン・シンズの攻撃を最大限に発揮するために遊馬はドローしたカードを発動する。

 

「魔法カード『アームズ・ホール』!デッキトップを墓地に送り、デッキ・墓地から装備魔法を手札に加える!俺は『エクシーズ・ユニット』を手札に加えて発動!ザ・セブン・シンズに装備!」

 

ザ・セブン・シンズが光に包まれると、純白の輝きが更に増し、七つの大罪を背負うモンスターとは思えないほどの聖なる光を宿していた。

 

「エクシーズ・ユニットを装備したモンスターエクシーズはランク×200ポイント、攻撃力がアップする!」

 

「ザ・セブン・シンズのランクは12!よって、12×200で2400の攻撃力がアップする!これでザ・セブン・シンズの攻撃力は4000+2400で合計6400だ!!」

 

モンスターエクシーズ最高ランクのランク12だからこそ、エクシーズ・ユニットの真価を発揮し、ザ・セブン・シンズは亡霊を打ち破る為の最高の攻撃力を得た。

 

「これで決める!」

 

「ザ・セブン・シンズで攻撃!」

 

ザ・セブン・シンズの目が輝き、背後に巨大な蜘蛛の巣が張られる。

 

蜘蛛の巣から鋭い槍が無数に作られ、矛先が亡霊に向けられる。

 

「「ジェノサイド・スパイダー・シルク!!!」」

 

糸の槍が一斉に放たれ、最後の亡霊を貫いた。

 

これでメルセデスに力を貸した亡霊が全て消滅した。

 

最後に残った敵はメルセデス……アヴェンジャーは呆然とするメルセデスの間合いに入る。

 

「これで茶番も終わりだ……消えろ!」

 

黒炎を纏った拳でメルセデスを吹っ飛ばし、容赦ない一撃で壁に叩きつけた。

 

「メルセデス!!」

 

遊馬はメルセデスに駆け寄ろうとしたが、壁に叩きつけられたメルセデスは首を左右に振り、心配は無用と言わんばかりに静かに手を前に突き出した。

 

そして、メルセデスの体が消滅していき、優しい笑みを浮かべながら口を開く。

 

「お気に病まれる必要はありません。私は、為すべきと感じた事を為したまで」

 

メルセデスは虚ろな目で上を見上げた。

 

「亡霊たちが力を貸してくれたのは、彼の言う通り……私の生前の在り方ゆえ、なのでしょうか……私は、本来の第七の『裁きの間』の支配者。あなたたちを殺そうとする障害の一つです。何らかの理由でその役割は失われ、記憶も、共に消失していたようです」

 

メルセデスは本当に第七の裁きの間の支配者だったが、彼女の本来の記憶は失われてしまった。

 

「今も、まだ、思い出せはしません。ただ……あなたの行く道が、どうか光に照らされていますように……彼の言葉の多くは欺瞞に満ちているけれど、あの人ことだけは胸に残っています。『──待て、しかして希望せよ』……なんて悲しい。けれど、願いの籠もった言葉なのか……」

 

アヴェンジャーの口癖であるあの言葉を呟き、メルセデスは静かに目を閉じて一筋の涙を流す。

 

「ははははは!死ね!死ね!痕跡一つ残さず消え失せろ!怨念なき力なぞあまりに無力!確かに、相性の観点ではオレには有効だが──届かなかったぞ、女。お前の刃は余りにも優しすぎた」

 

「そのよう、ですね……私は、決して、本当のメルセデスではないけれど……あなたの道にも光がある事を祈ります。アヴェンジャー……いえ……」

 

メルセデスは淡く笑みを浮かべる。

 

そして……今まで知らなかったアヴェンジャーの真名を口にする。

 

「『エドモン・ダンテス』」

 

メルセデスはアヴェンジャーの真名を口にした直後に消滅した。

 

「エドモン……?アヴェンジャー、それがお前の真名なのか?」

 

エドモン・ダンテス。

 

『復讐者』として世界最高の知名度を有し、日本では『巌窟王』として知られている。

 

しかし……。

 

「否!否!!」

 

「えっ?」

 

「オレを奴と同じにするな!エドモン・ダンテスだと──それは無辜の罪で投獄された哀れな男の名!そして恩讐の彼方にて、奇跡とも呼ぶべき愛によって、救われた男の名であり──決してこのオレではない。我が身はアヴェンジャー、永久の復讐者なれば!ヒトとして生きて死んだ人間(エドモン)の名なぞ!相応しい筈があるまいよ!」

 

エドモンは自分がエドモンであることを否定し、復讐者……アヴェンジャーであることを望むように宣言する。

 

「……だとしても、エドモンがお前の真名なんじゃねえのか?」

 

「……話は終わりだ。最早、このシャトー・ディフの役目を終える。七つの裁きは破壊されるのだから。後は、光差す外界へと歩むのみ、だが……シャトー・ディフを脱獄した人間はいない。そう、ただ一人は除いては幾億の怨念を伴って再構成された此処も同じく、やはり、出られるのは一人のみ」

 

エドモンの物語、『モンテ・クリスト伯』と同じく監獄塔……シャトー・ディフを脱獄できたのはエドモンただ一人だけ。

 

「……俺とアストラルは一心同体で、一人として扱えるから……」

 

「私たちとあなたのどちらかしか、出られないと言うわけか……?」

 

エドモンが何を言いたいのがなんとなく理解した遊馬とアストラルは目を細めて警戒する。

 

「察しがいいな。いいや流石に、その程度は理解できような残される一人は、当代のファリア神父となる。絶望を挫き、希望を抱くモノとして命を終える。それはそれで、嗚呼、意義深き事ではあるのだろうよ」

 

ファリア神父とは監獄塔で出会った老賢者でエドモンと同じく無実の罪で投獄された。

 

エドモンに様々な知識やモンテ・クリスト島の秘宝、そして最後には自らの死により自由を与えた。

 

二人は親子のような強い絆で結ばれている。

 

「おまえか、オレか。どちらが生き残り、どちらが死ぬか。さあ、仮初めのマスター。覚悟するがいい。当然ながらオレは朽ちるつもりはない。折角、再びこの世に舞い戻ったのだ。オレはオレの好きにするさ、お前を第二のファリア神父として、オレは生きる。そして、お前の物語は終わる。実に簡単だ。幕としよう。最後の舞台で、お前の魂は真に朽ち果てるのだ」

 

つまり……エドモンこそ監獄塔……七つ目の裁きの間の真の支配者。

 

遊馬とアストラルが真に越えるべき最後の壁だった。

 

「だが、もしも……!お前が歩み続けると叫ぶのならば!お前が!未だ、希望を失っていないのならば!」

 

すると、エドモンは先ほどとは打って変わり、まるで遊馬とアストラルに試練を与える先駆者のような振る舞いをする。

 

そして、再び全身に漆黒の霧を纏い、悪役を演じるように叫ぶ。

 

「──(オレ)を!殺せ!!」

 

「エドモン……」

 

「あなたは……」

 

「神の領分たる復讐を司るこのオレを!傲慢の具現──第七の『裁きの間』の支配者を!世界を救うために──さあ、遠慮は要らぬ!」

 

エドモンがこの最後の戦いを通じ、何かを伝えようとしているのか理解した遊馬とアストラルは静かに手を重ねる。

 

「アストラル」

 

「ああ。ここが正念場だ、かっとビングだぞ、遊馬!」

 

「もちろんだぜ。俺自身と……」

 

「私で……」

 

「「オーバーレイ!!!」」

 

遊馬とアストラルが赤と青の光となって一つに交わり、金色の光と共に究極の存在が姿を現わす。

 

「「エクシーズ・チェンジ!ZEXAL II!」」

 

遊馬とアストラルの一心同体全力全開の姿……ZEXAL IIとなり、エドモンと対峙する。

 

「現れたか、異世界の真なる英雄!ZEXAL IIよ!さあ、この人類史に刻まれた悪鬼の陰影、永久の復讐者である『巌窟王(モンテ・クリスト)』を越えてみせろ!!」

 

「「必ず、お前/あなたを越える!俺/私のターン!!」」

 

復讐者の漆黒の霧と決闘者の金色の光が裁きの間を埋め尽くす。

 

 

 




監獄塔を書く前からザ・セブン・シンズは必ず出そうと考えていました。
七つの裁きの間で七つの大罪を模してますから出さないわけにはいきませんよね。
次回は今日中に必ず更新します。
巌窟王エドモン・ダンテスとの最終決戦となります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。