転生した時の特典がおあつらえ向きだったんだけど   作:けし

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投稿間隔が短くなったかな?でも今回はいつもより少し長めかも知れません。

進行スピードが亀すぎて申し訳ないです。

文化祭って何が楽しいのだろうかと考える今日この頃。


大晦日 仮想世界と現実世界

「プレイヤーキル?」

 

「ああ。カエデ、お前『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』って名前、聞いた事ないか?」

 

「なんか前線とかの街で噂されてるらしいな。俺は最近ここから動いてねえからよく知らないんだが」

 

年も明けようとする12月の末。前線より少々下の階層にホームを構えるカエデ達のもとに、キリトやアスナ達が大晦日を共に過ごそうと訪れていた。

 

アスナやサチ、そして最近キリトとよく行動するというシリカと言う名の少女はリビングで、いわゆるガールズトークに興じていた。

 

一方で、最前線で【黒の剣士】と二つ名を冠するトッププレイヤーのキリトと、戦闘能力は最前線クラス(無自覚)であるカエデはとあることを話していた。

 

「じゃあそこから話すぞ。『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』ってのは、プレイヤーキル専門の殺人ギルドだ」

 

「…マジでか」

 

「こんな事冗談で言うかよ。とにかく今度こいつらを殲滅するための作戦を決行するんだとさ。つーわけで色々頼んで回ってるんだけど、お前この話、受けてくれないか?」

 

「即答はできない。まあ考えとくよ」

 

「そりゃそうだよな」

 

「それはそうと、お前アスナとどこまでいったんだよ」

 

「は?なんでアスナ?まあ、最近は一緒に行動することが多いな」

 

「……わかった。聞いた俺が悪かった」

 

「??まあいいけど、とにかく飯食おうぜ。腹減っちまった」

 

「だな」

 

先ほどまでの重い雰囲気は霧散し、とりあえずは楽しむことにした2人だった。

 

 

 

 

 

 

「11時20分……。さて、詩乃のやつは一体何してんのかな」

 

カエデは1人外に出て夜風に当たっていた。ホームのすぐ前にある川に架かる橋の上で物思いに耽っていた。

 

キリトから聞いた『笑う棺桶』というギルド。そして前線のプレイヤーで組んだパーティで行う掃討作戦。リスクとメリット、その他を天秤にかけていた。

 

(これからのことを考えると、潰しておいた方がいいのかもな)

 

眼の前のデメリットと長い目で見るメリット。それらを考えて、どちらを取るか。カエデの中で、答えは既に決まっていた。

 

(潰しちまおう。俺のユニークスキルなら、大きな危険はないはず)

 

一旦決めてしまえば、心がいくらか楽になる。それがカエデだ。そんな心境でふと思い出したのは、幼い頃から共に過ごした詩乃のことだった。

 

1人残したことに罪悪感を感じないわけではないが、正直なところ連れてこなくてよかったとも思っている。剣で戦うこの世界は詩乃には決定的に向いていないことを、なんとなく悟っていたのだ。

 

弓矢があるなら似合ったかもな。そんな事を思いながら、仮想世界の満月を眺めていた。

 

 

 

 

それから眠気覚ましに辺りをぶらついてから自分のホームに帰ってくると、爆睡しているキリト達がいた。アスナは口の端からよだれを垂らし、なぜか顔をニヤつかせてキリトのそばで寝息をたてていた。

 

サチもソファの上で毛布にくるまって寝ていた。

 

「たく、はっちゃけすぎだろ…」

 

思わず苦笑いを浮かべ、キリトとアスナに落ちていた毛布を被せる。そして食器や残り物の片付け、掃除を済ませて、自分の部屋に戻った。カエデの家事力は高かった。

 

35層にあるカエデのホームは、木製の二階建てだ。一階が吹き抜けの広いリビングダイニングと、襖で仕切られた和室で、階段を上った二階にはいくつかの個室がある。カエデの要望で屋根裏部屋と地下室も作ってあった。

 

屋根裏部屋の存在はサチには話していないが、こちらは主にカエデの趣味用。何が趣味かは言わない。そして地下室は主に特訓用だ。

 

ここまで作るのには少なくない金をはたいたが、長い目で見ればいい買い物をしたと思っている。

 

カエデは二階の自分の個室で横になっていた。

 

「SAOがスタートしてから1年と少し……か…。はは、なんとかやっていけてるみたいだな」

 

天井を見上げて、これまでの事を思い出していた。

 

「なんで今日はこんな感傷的な気分なんだろうな…」

 

仮想世界でこんな大晦日を過ごすことになったからかな、とカエデは考えた。実はここで大晦日を迎えるのは2回目だったりするのだが、当時はゲームスタートからわずか3カ月も経っておらず、カエデを含む全プレイヤーに大晦日を楽しむような余裕がなかった。思い返してもあの頃に何をしてたかさえも曖昧だ。

 

始まった当初は、知っていたとはいえ少なくない困惑を覚えた。「知っている」と「やったことがある」というのは大きな違いだ。だが、知っていることでこうして生き延びてきた。前世では気弱で根暗だったカエデからしてみれば驚くべきことかもしれない。

 

ふと、現実の事を考えた。

 

「詩乃は何してるんだろうか…。あいつのことだから、実家に帰るなんてしないんだろうなあ。てか、下手したら俺の部屋で年越してるかも知んねーわ」

 

カエデの現実での家は、詩乃と同じアパートだ。詩乃が二階、カエデが一階に住んでいる。合鍵は渡した覚えはないが、たまに部屋に押し入ってきた時にちゃっかり取っているかもしれなかった。そういうところは抜かりない。無駄に。

 

そんな事を考えながら、カエデは睡魔に身を任せた。

 

遠くから、仮想世界の除夜の鐘が聞こえた。

 

 

(だからお前は凝りすぎだってんだよ!茅場晶彦ォォ!!)

 

 

カエデの茅場に対する評価はきっと、いつまで経っても変わらないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズルルルっ。ズルルルルっ。

 

 

麺をすする音が響く。自分1人で過ごす大晦日は、こんなにも寂しいものなのだろうか。何もない部屋で、詩乃は1人、年越しそばを食べていた。見事に碧の予想通り彼の部屋で、だ。

 

「はあ。なにか、寂しいというか、悲しくなってくるわ」

 

テレビで紅白を見ながら、碧の部屋で年末を過ごしていた詩乃は、蕎麦を食べた後、やることがなくなって手持ち無沙汰になっていた。ちなみに碧本人の身体は少し離れた病院にある。

 

碧がいなくなってから1年以上経つ。初めは毎日のように、彼のことを思い出しては泣いていたが、半年も経つと慣れてしまったからか泣くことは無くなった。だがその代わり、彼のことが恋しくなった時は、こうして彼の部屋に行き、いつまでも入り浸るのが習慣になっていた。以前、大家にもこう言われた。

 

『こうなっちまったらいっそのこと、同室にしたらどうだい?』

 

激しい動揺を覚えて、その時は慌てて拒否したものの、後から考えてみればむしろそっちの方が良かったのではないかと思うようになった。

 

そして、詩乃にはある疑念があった。

 

「やっぱり碧って、()()()()んじゃないのかしら」

 

その疑念とはつまり、SAOがデスゲームとなること。そう思った理由は割と些細なことだが、パラメータ化するとCかBくらいはあるであろう詩乃の直感がそう囁いているのだ。

 

(あまりにも用意が良すぎるわ。仮に彼があまり物を買わないと言っても、冷蔵庫とかが空っぽというのはおかしな話だわ。それに電化製品のほとんどがコンセントを抜いてあった。…ここまでくると確信犯としか思えないわね…)

 

実際その通りだったりするのだが、まだ詩乃には真実のほどは分からない。詩乃としてはそのことも確かに問い詰めなければいけないと思っている。だがやはり彼が生きて帰ってくる事が最優先事項だ。

 

「やっぱり、貴方がいないと物足りない……」

 

1年経って、悲しみは乗り越えた。だが、それでも喪失感を克服することはできなかった。胸に大きな穴が空いたような、そんな気分は、いつでもどこでも詩乃につきまとって離れない。

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、彼と過ごす普通の日々。学校まで一緒に行って、帰る時もまた一緒に帰る……ただそれだけ。

 

「貴方さえ無事なら…他の人なんてどうでもいい。だから、…早く帰ってきて…」

 

テレビから聞こえる除夜の鐘の音に、詩乃はそんな願いを込めた。

 

 

 


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