転生した時の特典がおあつらえ向きだったんだけど   作:けし

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VSサチ……??

結論から言うと、カエデはあのクエストをクリアした。

 

ニコラスの一撃は、カエデの全反撃(フルカウンター)を破ることは出来ず、倍以上の威力で跳ね返ってきて、それを直接食らって、HPバーを完全に0にした。カエデは改めてフルカウンターの威力を目の当たりにして、驚嘆していた。

 

だが知っての通り、全反撃は相手の攻撃を倍以上の威力にして跳ね返すスキル。ある意味で攻防一体ともいえるスキルだが、跳ね返すという性質上、自ら攻撃するようなスキルではなく、どうしても相手の攻撃に対する自らのアクションが受動的になってしまう。つまるところ後手に回ってしまうしかないこの能力の積極的な活用方法をこの戦いで考えてみようと思っていたのだが、結果は見事に空回り。どう頑張ってもやはり後手にまわるしかなかった。

 

もちろん、防御に回ってしまえば無敵ともいえるのだが、カエデの性格上、というか盾無し片手剣士(自称)という自らのジョブの関係上、防御に回ってしまうという考えはありえなかった。

 

というわけで、ここまで考えてカエデは「じゃあ逆に開きなおっちゃおう」という発想に至った。至ってしまった。

 

弱点がないわけではないが、そんなもんどうにかなる、という最早諦めというか自棄(?)な考えのもと、クエストクリア報酬を回収したカエデは、日付が変わったことを開いたメニューで確認して、サチになんていわれるかなあ、などと想像しながら森を出る道を急いだ。

 

今回、このクエストで回収した報酬は『還魂の聖晶石』。プレイヤー専用の蘇生アイテムで、このクエストでしか手に入らない超がつくレアアイテムである。ゆえに競争率が異常に高く、今回カエデはクライン達にチャンスを譲ってもらったというのもあってたまたまゲットできた。

 

『蘇生』。文字通り蘇らせること。これさえあれば、死んでしまったプレイヤーを復活させることができる。このアイテムに関する噂を聞いていた者たちはそう思っていた。

 

だが、すこし考えてほしい。このゲームが何と呼ばれているかを。茅場晶彦がその手で作り上げたゲーム【ソードアート・オンライン】は現実でも、そして仮想世界でも共通するその名は、『デスゲーム』。文字通り死のゲームである。そんなゲームで簡単に蘇生-死人を蘇らせる-ことが許されるだろうか。否。そんなことは創造主たる茅場が許すはずがない。

 

「…チッ。あの野郎、手の込んだことしやがって。……でも、無駄じゃないかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…遅い……」

 

「すみませんでしたホント許してくださいこの通り」

 

森を出たその後、クライン達と会って少し話をした後に、少し散歩も兼ねてあたりをぶらりとして来てからホームに戻ってきたカエデを待っていたのは、仁王立ちしたサチのお説教だった。

 

「なにしてたの」

 

「昔の知り合いに会って一緒に狩ってましたハイ」

 

サチの表情を見て、自分でも状況をよく理解できないまま本能に従って、これ以上ないほど綺麗なスライディング☆土下座を披露したカエデは、クリスマスクエストをやってきた事だけでもどうにか隠し通そうと頭を回転させて舌を動かす。もうすぐ日の出にもなろうかという時間帯になる。東の方角から、日光を思わせる光が差してくる。

 

「かくかくしかじか、こういうわけなのですがサチさん」

 

「ちゃんと省略しないで話す。嘘もつかない」

 

「あれぇ!?こういうときはあの『ご都合主義』ってやつじゃないの!?ねえねえちょっと!?ていうかさりげなく俺の嘘見抜いちゃってるし。サチさんあなたは俺の奥さんか何かなの?」

 

あっさりと嘘を見抜かれたことに驚愕して、こんなことを口走るカエデ。

 

「え・・///。そ、そんなぁ、『奥さん』だなんて///」

 

真っ赤になった頬に手をあてて、顔がゆるゆるになるサチ。

 

「え…っと、サチさん?どしたの?」

 

「あ…。な、なんでもない!」

 

そういって部屋に戻っていった。ガチャン!と鍵をかけて。土下座の体勢のまま外に一人残されたカエデは頭をぽりぽり掻いて溜め息を吐く。

 

「はあ。なんだってんだろうな。つーかとにかく、ごはん食べたい」

 

現在時刻はアインクラッド標準時で6:00。レストランもこの時間帯ではどこもオープンしていない。個人営業のお店も、この階層ではまだ開いていない。さしあたっては、自らの空腹をどうにかするためにサチにドア越しに必死の懇願をするのだった。

 

「サ、サチ!頼むから、頼むからここ開けてぇぇ!」

 

『ふ、ふん!イブの日の夜にパートナーを置いていくカエデなんて、知らない!」

 

「そんな!?た、頼むサチ!後生だから!ほんっとにカエデさんの一生のお願いですからぁ!なんでも言うこと聞くから!」

 

『…ホントに?今言ったこと、ホントなの?』

 

ほんとは「なんでもするとは言ってない」という言葉がその後につくのだけど、とは今更言えないカエデ。謎の罪悪感と後悔が渦巻く。

 

『カエデ?』

 

「…と、とにかく!サチの料理でいいから食べさせてくださいお願いします!」

 

ガチャ。カエデが望んでいた開錠の音。一切の軋みなく開く扉の隙間からサチが赤くなった顔を覗かせる。

 

「…上がって」

 

「はい」

 

東から朝日が差してきた通りに、まばらながらも人がでてくる。そんな中まるで夫婦漫才のようなやり取りをした二人は、ようやく家に入った。

 

 

ちなみにこの時カエデは、あれ?これって一応俺の家になるんだよな?とか、なんでサチの顔が赤いんだろう?とか考えたが、その一瞬後には今日の朝食について考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






あれ?予定じゃサチはこんな子になるはずじゃ……。

どうしてだ?

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