ULTRAMISSION ORB   作:彩花乃茶

6 / 27


~~ムサシ~

 

「ぐぁっ!?」

 

 戦神がベゼルブ達の攻撃により背中から倒れた瞬間・・・光の柱が2本空から降りてくる。

「シュァ!」

 

「ダァッ!」

 

その光の正体はウルトラマン。かつて共に戦った仲間であるウルトラマンダイナと最近ウルトラマンになったばかりだという新たな光、ウルトラマンオーブだ。

「貴方達は・・・?」

 

「オォォォォシャァッ!!」

 

「ダァッ!」

 

 戦神がその2人に驚くのもつかの間、オーブはバキシムに飛び膝蹴りを決め込み、ダイナはベロクロンに殴り掛かる。そしてその2体を怯ませるとすぐさまその2体を操っているベゼルブへと向かって行った。

「オォォォ・・・セイっ!」

 

 オーブは回し蹴りでベゼルブの爪を弾くと回転の勢いを乗せたパンチで追撃をする。

「ダァァァァッ!」

 

 ダイナも頭突きからのドロップキックでベゼルブを怯ませると・・・戦神は2人を止めるかのように手を伸ばした。

「待ってください!殺しては・・・殺してはいけません」

 

「オォォォ・・・シュワッ!」

 

 そんな戦神の声に気づかなかったオーブは腕を十字に重ねて光線を放ち、ベゼルブの1体を撃破する。

「・・・ッ!」

 

 ダイナも姿を青く変化させる。ダイナのタイプチェンジ、ミラクルタイプだ。ミラクルタイプとなったダイナは空間を超高密度圧縮させて衝撃波を飛ばす技、レボリュームウェーブでベゼルブを攻撃する。その攻撃を受けたベゼルブは発生したブラックホールに吸い込まれてこの場から消えてなくなった。

「・・・ぁぁ・・」

 

 たとえ怪獣でも相手の命を奪いたくない。怪獣との共存を望み、ようやくスタート地点に立てた僕にはそんな女王の気持ちがよく分かる。だからこそ僕はこの時戦いに参加するのを躊躇っていた。

 

 

 

~~ライゴウ~

 

 戦神となったカガリ様や突如として現れた2人の光の巨人が大型ベゼルブ達の相手をしてくれるなか、我々と同じぐらいの大きさの小型のベゼルブや、我々よりも5倍ほど大きい中型ベゼルブが戦神の張るバリアの穴を潜って攻めてきた。

「ここから先、絶対にベゼルブを通すな!」

 

「「「「「オォォォォォ!!」」」」」

 

 私は軍を率いてその侵攻を食い止めにかかる。しかし小型や中型とはいえベゼルブはベゼルブ。光弾や雷撃によって私の軍を攻撃してくる。

「怯むな!民を守れ!!」

 

 逃げ惑う民を守るため、私の部下たちが次々とベゼルブに敗れ、命の灯火が消えていく。2~3人で1匹を倒すこちらに対して、ベゼルブは1匹で数人を倒す。我々は軍と言っても他の星に侵攻などしないので実戦経験は少ない。というよりもほぼない。そのためこちらが圧倒的劣勢となっていた。

「くっ・・・」

 

 私も覚悟を決めて刀を抜き、ベゼルブへと斬りかかる。しかしそのベゼルブに襲われていた部下の1人はその場に倒れながら大量の血を流していた。

「た、隊長・・」

 

「・・・よく頑張った。お前は勇敢な戦士だ」

 

「カノンを・・・民を・・・守ってくだ・・さ」

 

 勇敢に戦った戦士の1人の最後を見届けた私は背後に迫って来たベゼルブに刃を振るうも・・・その刃は爪によって受け止められてしまった。

「くっ・・・」

 

 人間とベゼルブとの力比べでは体格差で当然のようにベゼルブが優勢となる。そのため力負けしてしまった私はベゼルブに押し倒され。今にもその爪に刺されてしまいそうなところを何とか持ちこたえている状態となってしまう。

「先ほど部下にカノンの民を任されたばかりだというのに・・・私もここまでか・・」

 

 私はここまでかと諦めようとした瞬間・・・私を襲っていたベゼルブが何者かに背中を刺されて倒れた。

「エサカ・・お前何故?」

 

 そこにいたのは私が罠にハメたはずのエサカだった。

「私は貴様を・・・」

 

「今はそんなことよりも民を守ることの方が先決だ。そうではないのか?」

 

「そうだな・・!」

 

 私はエサカの言葉に頷くと、見知らぬ黒い服の男とともに近衛の2人が駆けつけてくる。すると黒い服の男は中型ベゼルブの頭に飛び乗り、その頭部を刀で突き刺すと近衛の2人が銃撃による追撃を与え・・・中型ベゼルブを一匹仕留めた。

「何者かは知らんが、協力感謝する!」

 

「あまり期待はするな。幾ら個の戦闘力があるのが数人増えたところで、根本的に力で負けている」

 

 黒い服の男は着地しながら私にそう告げてくる。確かにベゼルブ1匹1匹が我々より強いが、あくまで身体能力だけで知恵や技術は人間であるこちらが有利だ。そしておそらくこの男の実力は私以上とみる。エサカとその近衛という増援とともにそのような御仁が手を貸してくれるのだからこの崩れかかった戦況を持ち直すこともできるだろう。

 

 

 

~~サイキ~

 

「嘆かわしい。痛ましいよね。傷つけ合い、血を流す。殺し合いで全てを決める」

 

 彼らとベゼルブ達の戦いをモニター越しに観て、涙を流す。他の命を奪うことでしか維持することができない平和とは本当に平和と言えるのだろうか。

「こんなものが平和なものか!こんな宇宙はもうたくさんだ!」

 

『マイフレンド。あれを観て!』

 

 パーテルに言われて私は戦神へと視線を向けると、戦神はその瞳から金色に輝く光の涙を流していた。女王様は自分達の民だけでなく、次々と力尽きていくベゼルブ達にも涙を流してくれているんだ。

「分かるよ女王様。こんな戦い、辛いだけだよね。・・・もう終わりにしよう。クイーンと女神はそのために巡り合ったのだから」

 

 私がそう口にした途端、女王様も同じことを考えたのかクイーンの目の前までジャンプをして距離を詰めてきた。

 

 

 

~~エサカ~

 

 ジャグラーやルチア達の協力もあり何とか小型ベゼルブとの戦いも一段落を迎えると、立ち上がった戦神はいきなりクイーンベゼルブの近くまで跳び上がった。

「どうして自らクイーンベゼルブの前へ?」

 

「まさか・・・対話か。女王様はクイーンベゼルブと対話をしようとしているのではないだろうか?」

 

 カガリ様は民はおろか攻めてくるベゼルブ達をも労われる御方だ。

「クイーン!クイーンベゼルブ!」

 

 戦神はクイーンベゼルブへと呼びかけ始めると、それに気づいたクイーンベゼルブの動きが止まった。

「えぇ、話し合いましょう」

 

 どうやら戦神となっているカガリ様にはクイーンベゼルブとの意思疎通が可能なようで、話し合いでこの場を納めようとしているのだ。

「女王・・・」

 

 私は女王の話し合いが成立することを祈った。

 

 

 

~~サイキ~

 

『争いなど無意味だと・・・驚きました。私もそれを伝えたかったのです』

 

 クイーンと女神の波長が重なり始める。

『えぇ、私もそう思います』

 

『脳波がシンクロしてる!対話してるよ!』

 

 その事実にパーテルも驚いているが・・・私はそれ以上に動揺していた。

「私は・・・こんな指示など出していない」

 

 私はクイーンに対話をしろなどと伝えていないのに、女神と対話をしているのだ。

『じゃあクイーンが自分の意思で対話してるってこと?』

 

 何故クイーンが自分の意思でこのようなことをし始めたのかと考えこんでしまっていると・・・クイーンの姿に変化が生じる。蟲のような顔は後頭部となり、あごの下だった部分の形状が変化して女神のような顔になっているのだ。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 戦神とクイーンベゼルブの対話で、クイーンベゼルブの姿が変化をする。

「女王・・」

 

 ライゴウとかいう将軍は「戦いは終わった」と判断して刀を納める。

「クイーンが・・・カガリ様を受け入れたのか」

 

 まさか本当に・・・本当に話し合いで戦いを終結させることができるのか。

「互いの心と心を1つにする。それで・・・」

 

 俺は半信半疑のまま成り行きを見守ろうとした瞬間、事態は動いた。

 

 

~~サイキ~

 

『互いの心と心を1つにする。それで・・・』

 

 心と心を1つに・・・そうか!

「戦神を油断させようとしているのか!ナイスフォローだよクイーン!」

 

 私はようやくクイーンの真意を理解できた瞬間、戦神の足元から大型ベゼルブが飛び出てきて尻尾を突き刺した。

「クイーン・・何故・・」

 

 戦神はクグツを注入されながらもクイーンへと手を伸ばす。

『成功だ!戦神にクグツが注入された!』

 

 パーテルが喜びの声を挙げるとともに戦神の目が赤く変化する。クグツに意思を委ねた証だ。

 

 

~~琥太郎~

 

 夢を見ていた。深い闇の中にカガリが消えていきそうになる夢だ。

「カガリ・・・カガリ!カガリぃぃぃぃ!!」

 

 俺は消えていくカガリに必死に手を伸ばす。すると闇はいきなり晴れて、目の前にカガリが現れた。

「琥太郎?」

 

「カガリ!!」

 

「何処・・・ですか?助けてください。・・・私はもう・・私でなくなってしまう」

 

 どうやらこちらからカガリは見えても、カガリの方から俺の姿は見えていないらしい。

「自分を見失うなカガリ!」

 

「助けて・・・助け・・」

 

「俺はここにいる」

 

 俺は背中からカガリを抱きしめてここにいることを告げると・・・カガリはようやく俺が近くにいることに気づく。

「琥太郎・・・」

 

「このままじゃカガリの意識は飲み込まれちまう」

 

 飲み込もうとしてるのが何かは分からないが、カガリが何かに飲み込まれそうになっているのは伝わってくる。

「俺も・・俺も一緒だ」

 

 目の前に見えていた世界が再び黒く染まり、抱きしめているはずのカガリも見えなくなってしまうと・・・俺もその『何か』に飲み込まれてしまった。

 

 

 

~~ムサシ~

 

「女王様!しっかりしろぉぉぉぉっ!!自分を!!見失うなぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 オーブは右手に光を集束させて光輪を作り出すと、それを戦神を刺しているベゼルブへと投げつけた。その光輪は戦神に刺さっている尻尾を切断しつつその大型ベゼルブを両断して撃破すると、戦神はクグツに侵されて苦しみ出した。

「女王様!!」

 

 すぐさま戦神へと駆け寄ろうとしたオーブはいきなり戦神に攻撃されてしまう。クグツに乗っ取られてしまったんだ。

「この星の人達を守るためにその姿になったんだろ!!」

 

 守るために戦神になった女王様は額にエネルギーを集中させ、城へと向けて光線を放とうとしていた。

「その事を思い出せ!コスモォォォォス!!」

 

 コスモプラックを空へと掲げてウルトラマンコスモスへと変身した僕はすぐさまバリアを張って戦神が放った光線から城を守った。

「ぁぁぁぁぁっ!!」

 

「っ!?」

 

 すると戦神は僕へと襲い掛かって来たので、僕はその攻撃を受け流しつつ肩を掴む。戦神が暴れまわるせいで僕もエクリプスへと変わる暇がない。

「このままじゃ・・」

 

「ヴぁぁぁぁぁっ!?」

 

 このままでは埒があかないと考えていると、戦神はいきなり頭を抱えて苦しみ出した。きっとまだ女王様がクグツに抗っているんだ。

「負けるな!女王様!」

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「まだ女王がクグツに抗っているのか・・」

 

 戦神がクグツに侵され、今もなお抗っている光景を見た将軍は自身では何もできないので成り行きを見届けるしかないと言わんばかりにその光景を見ていると、その肩をエサカが叩いた。

「命の樹の種があれば何とかなるかもしれん」

 

「命の樹の種?何故だ?」

 

「命の樹の果実、その種だけがクグツを解毒できるのです」

 

 クグツの毒に侵されたことを認めたくはないが・・・俺もその種の解毒作用によって救われた身だ。サイキが言っていたことだが、身をもって体感したからこそそれは信用できる。

「・・・生憎私も、私の部下も手負い・・。今、女王陛下を救えるのはお前達だけだ。任せたぞ」

 

 将軍は俺達に命の樹の種の回収を頼んでくる。まぁ言われなくてもそうするつもりだったがな。

「時間がない。とっとと行くぞ!」

 

「ま、待ってくれ師匠!」

 

「私も行くぞシショー!」

 

 俺は真っ先に命の樹へと走り出すと、ルチアとシズクも付いてくる。

「近衛隊長として私もカガリ様のために動かなくてはな」

 

 比較的怪我が少ない近衛隊長のエサカも付いてきて4人で命の樹へと向かっていると、俺達の目的を理解してか小型のベゼルブ達が行く手を阻んできた。

「ルチア!シズク!」

 

「「はい!」」

 

 エサカ達は銃を構えると空から迫ってくる小型ベゼルブ達を迎撃しにかかるが、それでも怯まずに迫ってくるベゼルブはいる。

「ムンッ!」

 

 そんな小型ベゼルブ達を俺が斬り伏せてカバーしようとするも、やはり数ではこちらが圧倒的に不利なせいで次々と着地したベゼルブが四方から襲ってくる。

「ここは私が食い止める!カガリ様を頼む!」

 

 エサカは1人でこの場のベゼルブを食い止めると言い出し、俺達に種を任せると言ってくる。

「隊長!私も手伝う。ルチアはシショーと種を取って来てくれ」

 

 1人では危険だと判断したシズルは自分も残ってエサカを援護するつもりのようだ。

「行くぞ!」

 

 俺は2人を信じてルチアとともに命の樹の根元へと走る。そして樹に光り輝く果実が実っていることに気づいた。

「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 その果実目掛けて俺は刀をブーメランのように投げつけ、幾つかの果実を切り落とした。

「っ!!」

 

 俺はそのうちの1つから落ちてきた種を跳び上がって掴み取ると落下してきた刀が地上に突き刺さった。

「ルチア!刀を頼む!」

 

「はい!」

 

 着地した俺はルチアに刀を任せてオーブとダイナが戦う方へと振り返った。オーブもダイナも戦っている相手は超獣たち、そう易々と倒せる相手ではないか。

「あっちのは・・」

 

 慈愛の戦士と言われる青いウルトラマン・・ウルトラマンコスモスの方も暴れまわる戦神を押さえ込むのに手を焼いているようだ。

「ガァァァァァイ!!これを女王に打ち込め!!」

 

 そう叫んだ俺はオーブへと向けて種を投げつけると、オーブはその種を掴み取る。そして光を纏わせて槍状にした。

「ウゥゥゥラッ!!」

 

 オーブはその槍を戦神へと投げつけると、その槍は戦神の額に直撃した。

「うぅ・・・ァァァ」

 

種を包んでいた光が消えたが種は無事に戦神に取り込まれたようで、俺の時と同じように戦神の体内のクグツが解毒され始めた。

「よしッ!おいルチア!やったぞ!」

 

「流石私の師匠!」

 

刀を回収したルチアも喜びの声を挙げる。というかまたあいつ俺のことを師匠と・・・。

「だから師匠ではないと・・・おいルチア!後ろだ!」

 

「えっ?・・・」

 

 俺は背後からルチアに迫るベゼルブに気づき、その事を伝えるとルチアはあろうことか俺の刀で・・・それも蛇心流の構えで戦おうとした。

「まさかッ・・おいよせ!」

 

 刀の長さが違う。まだ見様見真似程度で稽古をしてないどころかまともに教わってすらいない。そんな剣術で挑むのはあまりにも無謀すぎる。

「たぁぁぁぁぁっ!!」

 

「やめろ!ルチアぁァァァァァ!!」

 

 俺の静止を無視したルチアは見様見真似の蛇心流で小型ベゼルブへと斬りかかる。

「え・・・っ?」

 

 その刃は小型ベゼルブに当たりはしたが斬り切れてなく・・・小型ベゼルブの爪はルチアの腹部を貫いていた。

「そん・・な・・。し・・・しょ・・」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 目の前の相手を・・・慕ってくれた人を守れなかった俺は声にならない声を挙げる。するとこちらの異変に気づいたシズクとエサカがこちらへと走って来た。

「そんな・・・ルチア・・」

 

「・・・くっ・・」

 

 シズクはその場にへたれ込み、エサカは悔しそうな顔をしながらもルチアが仕留めそこなった小型ベゼルブを斬り倒す。

「ルチア。しっかりしろルチア・・目を覚ませ!」

 

 虚ろな目でルチアに近寄ったシズクは必死に呼びかけるも・・・その目は覚めることなく、刺された部分から血だけがたれ流れる。

「止まれ!止まれ!」

 

 シズルは刺された部分に布をあてて、その血を止めようとしていると・・・そんなシズルにも別のベゼルブが迫って来た。

「ッ!!」

 

「ハァっ!」

 

 俺は即座にその小型ベゼルブの尻尾を切断すると、エサカがベゼルブにトドメを刺した。

「大丈夫だ・・。きっと・・だからルチア・・」

 

 涙を流しながらきっと助かるとルチアに呼びかけるシズルだったが・・・エサカも俺もルチアが既に亡くなっていることを理解していた。刺された腹部を押さえても貫通してしまっているのだから反対側からも血が出るのは当然だ。血の量は既に致死量。いいや・・それ以前に刺されて倒れた段階でルチアの命は・・・。

「・・・ルチア・・」

 

 俺はルチアに視線を向けながらここまでのこいつのことを思い出す。蛇心流を教わりたいと言ってきた事。俺を『師匠』と呼び始めたこと。俺の目を見て何に裏切られたのかと尋ねてきたこと。短い付き合いながらも、それなりに記憶に残ることはあった。

「・・・ッ!」

 

 更に迫って来た小型ベゼルブを斬り倒す。そしてエサカへと迫っていた小型ベゼルブも貫いた。

「ウオォォォォぉっ!!」

 

更に俺は追加で押し寄せてきたベゼルブ達の中に身を投じた。

 

 

 

~~サイキ~

『命の樹の種は凄いね。マイフレンド』

 

 せっかく揃っていたクイーンと戦神の波長が再び離れてしまうと、パーテルがそうに語った。

「関心してる場合じゃない!!」

 

 光の戦士はそれぞれベゼルブや超獣たちを相手にしはじめる。あの戦うことで物事を解決しようとする野蛮な光の戦士のことだ。きっとベゼルブ達を倒したら次はクイーンを倒さんと攻撃してくるだろう。

「このままでは・・・」

 

 

~~エサカ~

 

「ウワァァァァァァッ!!」

 

 短い付き合いながらもルチアが殺された事に私達以上にショックを受けていたジャグラーは怒りと悲しみに身を任せベゼルブ達を次々と斬り倒す。

「ジャグラー・・・っ!?」

 

 私はそんな彼を心配して加勢しようとすると・・・ジャグラーから黒いオーラが溢れ始め、顔の半分が魔人のようなものへと変化した。

「隊長・・今、ジャグラーが・・・」

 

 シズルもその瞬間を観ていたようで驚いていると、またもベゼルブを斬り倒したジャグラーの姿がまたも変化した。今度は顔だけでなく全身が鎧を纏った魔人のような姿となり・・・次々とベゼルブを斬り倒していくうちにそれが一瞬ではなくなってきた。

「修羅の道を行く気かジャグラー・・」

 

 怒りのままに剣を振るい、更なる力を求めんとするジャグラーに・・・私はどうすることもできなかった。

 

 

~~ジャグラー~

 

「俺に・・俺にもっと力があれば・・・」

 

 自分の力不足を後悔しながらも俺は荒れ狂うように刀を振るう。もっと力さえあればむざむざ目の前でルチアが殺されることはなかった。

「あぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 周囲にいた全てのベゼルブを斬り倒した俺は行き場のない怒りで叫ぶと・・・ようやく我に返って自分の両手を見る。その手はベゼルブの返り血で汚れているのではなく、別の手になっていた。

「これは・・・俺か?」

 

 俺の手はまるで鎧を纏ったようなものになっていた。そして自分の顔を触りながら手にしている刀に顔を写すと・・・俺の顔はまるで魔人のようなものへと変化していた。

「シュァ!!」

 

 自分が魔人のような姿になったことを自覚した俺はベゼルブと戦うオーブを見上げる。光の戦士として戦うガイに比べて・・・俺の見た目は光の戦士からは程遠いものになっちまったな。

 

 

 

~~エサカ~

 

「ジャグラー・・・」

 

 自身の姿が魔人へと変わったことを自覚した様子のジャグラーはベゼルブと戦うオーブを見上げている。私は彼に声をかけようとすると、シズルが私の手を掴んで首を横に振った。

「隊長・・」

 

 どうやらシズルは今のジャグラーに恐怖を感じているのようだ。

「大丈夫だ。たとえ姿は変わっても・・・ジャグラーはジャグラーだ」

 

 おそらくジャグラーは私が飲ませた命の樹の種と自身が抱いた怒りや悲しみの感情によって今の姿に変貌してしまったのだろう。だとしたらこれは私の責任でもある。

「ジャグラー」

 

「・・・命の樹がこの星の宝か?」

 

「命の樹がこの星の要。そして民の心の支えだ」

 

 私はジャグラーの問いかけに答えると、ジャグラーは命の樹を見上げた。

「俺にはあの樹が悪魔に見える。あんた等の神話は全部あの樹についての話だ。あの樹が全ての元凶だ。・・・違うか?」

 

 確かに私もクイーンベゼルブを目の当たりにしてからはそう考えたこともあった。何故クイーンベゼルブが戦神と対になるように語られているのか。それはもしやクイーンベゼルブと戦神に何らかの繋がりがあるのではないかと。もし2つに何らかの繋がりがあるとすれば、命の樹というのはその2つのルーツなのではないか。カノンに戻ってくるまでの間、私はそんな推測を立てていたがジャグラーも同じことを考えていたようだ。

「まさかお前・・・」

 

「あの樹が無くなれば戦いは終わる。もう犠牲は出ない。この戦いを終わらせて、あんたの女王様も守ってやる!」

 

 ジャグラーのやろうとしていることに予想がついた私は確認しようとすると、ジャグラーは『間違った手段』の救い方でカガリ様を守ることを約束し勢いよく跳び上がった。

 




次回「根」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。