毎日が日曜日の朝に   作:まさきたま(サンキューカッス)

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久しぶりの戦闘回なのですが、長すぎるので12000字程で一度切って投稿させていただきます。


第八話「小学生と更年期(前編)」

「真壁、すまねぇ!! 世界を滅ぼそうとする謎の怪人が出現したから今回も映画パスだわ!」

「お願い、もっとまともな言い訳考えて! 傷付くから! そんな言い訳されたら、直接嫌いって言われるより傷付くからぁ!」

 

 何時も真壁の誘いは間が悪い。モジャの奴からの念話により、オレの仮面ライダー映画はまたお流れとなってしまった。ぐぬぅ、怪人共め! かっこいい見た目しやがって、腹が立ってきたぜ!

 真壁が泣きそうになってしまっている。やはり、言い訳が奇想天外すぎるようだ。とはいえ、オレは親しい奴には嘘を吐きたくない。そして、本当の事を言うとまるで信じてもらえない。

 

「真壁、聞いてくれ。お前が嫌いだからこういう事を言ってるわけじゃないんだ。」

「じゃあ、何なのよ? 嘘つくにしても、もう少しまともな・・・」

 

となると、正直に理由を言いつつ、常識的な断りの言い訳をするしかない。・・・つまり!

 

「ああ、本当の事を言うと、急に別の女(ナツメ達)と約束が入っただけなんだ」

「照東君のバカぁぁぁぁ!! うわぁぁぁああん!!」

 

 上手いことごまかせたと思ったのに、真壁は泣いて何処かへ行ってしまった。解せぬ。

 

だが今は追いかけている暇はない。明日謝るとして、今は現場に急行せねば。

 

 

 三度目の、怪人との戦いが始まろうとしていた。

 そして、今回の戦闘が、長きにわたる魔法少女とライダーの闘いの「終局」、そして新たなる敵との「前哨戦」の幕開けとなるとは、この時オレは想像だにしていなかった。

 

 

 

 

 

 

『モジャ! 応答頼む、何処へ向かえば良い!?』

『この街の南にある、水族館の前に来て欲しいモジャ! 近くに居たナツメが先行して敵に当たるする事になる、お前は空から封印結界の中を移動して来て貰いたいモジャ。』

『分かったぜ。・・・そう言えば敵が出たっていう事をどうやって探知するんだ?』

『怪人が出たら、地脈から魔力が急激に無くなるから簡単に分かるモジャ。お前でも慣れれば自力で分かるモジャよ。』

『ほーん。』

 

 念話を飛ばしながら、封印結界に入る為オレは人気の無さそうな路地裏に駆け込み、キョロキョロと周りに人が居ないか確認する。よし、誰も────

 

「あらー、照東クンだっけ? こんな所で何してるのかしら?」

 

 路地裏には何故か天使が居た。

 

「あ、えっと、真壁のお母さん、どうも・・・?こんな所で何を・・・?」

「うふふ、私が大通り歩いちゃうと豚が面倒なのよねー。だから普段こういう人気の無い道を歩いているの。」

 

 何てこったい、真壁一族はホントに間が悪い。

 

「あなたこそコソコソ隠れて何をしてたの? 何だかとっても怪しかったわよー? 周りをチラチラ見てなかった?」

「えっ、それは・・・。」

 

 不味い。今は時間が無いって言うのに。何とか適当に話を合わして、この天使を撒かないと。

 

「あーオレは、その、実は今から人と会う約束があるんです! 失礼します!」

「約束? こんな路地裏で?」

「会うのは、えっと、この先です! 近道何ですよここ、つまりショートカットなんです! ハイ!」

 

えっと、この先って確か・・・そう言えば公園だったな。

 

「・・・この路地の先って、ええ!? そ、そう言うことなの照東クン!」

「はい、そうです!!」

「ご、ごめんなさい・・・。え、えぇ~? お相手は誰なのかしら?」

「え、相手? あー、えっと・・・そう、お宅の下の娘さんです。サチちゃんともう1人、女の子です!」

「お相手はサチなの!? しかも3人!? ちょ、ちょ、何とんでもない事言ってるの照東クン! 君、そう言う人なの!? 流石の私もビックリだよ!?」

 

 一体、この天使は何を驚いているんだろう。

 

「そう言う訳なので、それでは失礼します。」

「行かせないよ!? 何しれって通ろうとしてるの!?」

「あ、えっと、すみません急いでいるので・・・離してくれます?」

「何でさも私が悪いみたいな反応してるのあなた!? 話を聞かせてくれるまで・・・ちょっと、待ちなさい!」

 

 悪いが時間が無い。このまま強引に路地裏を駆け抜け、早く別の場所を見付けて封印結界を─────

 

 

 

ダン!

 

 路地裏を抜け、通りに足を踏み出したオレの前に飛び込んできたのは、視界いっぱいのお城みたいな建物でした。

 

────あれ? ここ公園じゃなかったっけ?

 

「しずちゃんなら兎も角、まだ5歳のサチをラブなホテルに連れ込もうなんていくら何でも早すぎるわよ! 待ちなさい、ジックリ貴方の性癖を矯正してあげるわ!」

 

 

 それは────そりゃまあ、当然まだサチちゃんには早いわな。

 

 

 

 

 

 

 

「違うんですよー!! 道を間違えたんです!!」

「どこで間違えてしまったの!? 大丈夫まだ戻れるわ、まっとうな人の道へ! 私が戻してあげるからコッチに来なさい!」

「そっちの道じゃ無いです! それに、貴女に矯正されても結局は道を踏み外してしまうと思います!」

「そんなこと無いから! ・・・ちっ、豚共! あの子を囲いなさい!」

「「「イエス! マム!」」」

「いきなりどこから沸いてきたんだこの豚共!?」

 

 先程まで閑散として殆ど人通りの無かった路地裏に、独り佇む天使の一声で突如ワラワラと四方から豚が這い出てきた。

 

「なんか重度の人は私を陰ながらつけ回してるみたいなのよね・・・。私の視界に映らないから気にしないようにしているけれど。さぁ豚共! やってしまいなさい!」

「「「イエス! ユアハイネス!!」」」

「チクショォォォ!!」

 

 結局オレは亡者の様に迫り来る豚を躱しながら、無事に封印結界に逃げ込むのにかなりの時間を費やしてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

「あーもう畜生! すっかり遅れちまった!」

 

 最終的にラブホの一室に強引に逃げ込み、奴らの視界から消えれたと同時に封印結界の中へ逃げ込んだ。知らない人の目の前で、封印結界に入って姿を消すのはリスクが高すぎる。どこに怪人の手先がいるか分からないからな。

 

 セピア色に空が染まったのを確認し、オレは即座にラブホの窓から飛びたった。モジャに指定された水族館へと向かうため、ふわりと浮き風の中を疾走する。

 

『ブラック、まだ着かないモジャか!? 既に奴らは3人揃ってしまってて、ナツメ達が押され気味モジャ!』

『悪い!! 今飛んで向かってる!』

 

 モジャの言い草だと、どうやら今の戦況はあまり良くない様子。一刻も早く駆け付けねば。彼女達を守ると宣言したのはオレなんだから!

 

 この街の水族館は、この街の南に広がる、太平洋に面して建てられている。小学校に通っていた頃、遠足で行ったことがあるから場所は覚えていた。方向に当たりを付け、ひやりと冷たい風を感じながら空高くへ翔び上がる。

 

──見えた。あの、辺り。僅かに魔力も、感じる。

 

 遮二無二、息を止め衣装のリボンを大きく風にはためかせながら、オレはナツメ達のもとへと急行するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿呆共はもう去った。行くぞ3番。」

「はい。」

 

 水族館の陰に、人影が2つ並んで立っている。目の前で繰り広げられる炎の柱と降り注ぐ雷の応酬を冷めた目で眺め続ける女と、感情を見せず微動だにしない機械染みた装甲を纏った男。

 

「ふん、くだらん仕事だ。3番! 何をしている、早く来い!」

「はい。すみません。」

 

 その冷めた眼の女は、その表情とは裏腹に苛立った声で側に控える全身装甲の人間に呼び掛ける。

 

 女の声に反応し、全身装甲の男は機械的な動きでトコトコと歩き出した。人間味のない、機械染みたその動きに対してふん、と鼻息を吐いて女も歩き出す。その男の肩には、地脈から吸い上げた魔力を蓄えたタンクが担がれていた。

 

 これで、この日の仕事は終わり。2人は自らの組織の元へと帰還する。

 

 フェアリーズと、装甲の戦士。この2つの勢力の争いを隠れてやり過ごし、地脈から回収した魔力を持ち帰るだけの簡単なお仕事。

 

 こんな任務を成功させたところで出世には響かないが、彼女に与えられているのはこんな雑用だけ。彼女がイライラとしてしまうのも仕方が無い事かもしれない。彼女の同期はと言えば、やれ女幹部だの研究室部長だのとエリートコースに乗りどんどん出世している。対照的に自分は何時まで経っても雑用係の平社員。

 

 自分が能力的に劣っているとは思わない。ただ、自分には運がなかった。それだけだ。たまたま同期に割り振られた研究だけが成功し、自分に割り振られた研究は失敗した。割り付けられた研究が逆だったら、きっと私が研究室部長だっただろう。それだけの差だ。

 

「遅いんだよ、歩くのがさぁ!! お前仮にも戦闘型の改造人間なんだろ!? もっとシャキシャキ歩けねぇのか!!」

「申し訳ありません。現行の最新型と比較して、旧型の改造人間である私の出力は劣っております。これ以上の速度は出せません。」

「そうかい。私には旧型の下僕がお似合いってかい! ビビの奴の性根が透けて見えるね。口では優しい事言って、内心では私を見下してやがるのさ! どうせ戦闘なんて何処でも起きねぇんだ、だったら最新型を現場に寄越せってんだ! 研究室にこもってばかりだからそういった機微が分かってねぇ。・・・私なら、もっとうまくやれるってのに。」

「では、その提言をビビ博士に報告いたしましょうか?」

「要らん! 却下されるだけだ、私をこれ以上惨めな気持ちにさせるな。くそったれ!」

 

 ゲシッと近くの壁を蹴飛ばす女。自身のウチから湧き出る苛立ちを抑えきれないようで、ぶつくさと怨み節を呟きながら何度も壁を蹴り続ける。

 

「・・・もう良い。早くお前は歩け。帰還地点で待ってる連中が煩いからな、時間厳守だ。私は煙草を一服してから追い付くさ。」

「分かりました。」

 

 そう言って男はまたノロノロと、使い古された機械のように歩き出す。忌々しい事に、魔力タンクは普通の人間ではまず持てる重さでは無い。奴がいかにノロいとしても、自分でタンクを抱えて走るなんて芸当は不可能だ。だから女は壁にもたれ、煙草を吹かしながら男がゆっくり離れていくのを眺めているしか無い。

 

 最新型なら、あの程度の重量なぞ担いまま走って移動出来るんだがなぁ。どいつもこいつも私を馬鹿にしやがって!

 

 タンクを運ぶ改造人間との距離が大分離れ、そろそろ追いかけようかと女は思い立つ。咎める者はいないので煙草をその辺に投げ捨て、水族館ほ壁から一歩前へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅刻遅刻ー!!」

 

 

 

 その一歩目を踏み出した瞬間!女は凄まじい衝撃で吹っ飛ばされた。

 

「って痛ぁぁぁ!! 何なの? 何事なの!?」

「ってあわわ! ぶつかっちゃった、本当に申し訳ねぇ!」

 

 衝撃を感じた方向を女が見上げると、なんとゴスロリ服を着た黒髪の少女が心配そうな表情でこちらを見下ろしていた。どうやら、彼女にぶつかって突き飛ばされてしまったようだ。

 

「だ、大丈夫ですか?俺、急いでたもので・・・」

「・・・まったく、気を付けてよね。どっか怪我したかもしれないわ、あんた何処の誰よ? キッチリ貰うモノは貰うわよ。」

 

 女は不機嫌さを隠そうともしない。年下の少女とは言え、不注意なのは向こうの筈だ。例え子供だろうと文句をキッチリ言う大人、それが彼女である。

 

「あ、その、えっと・・・」

「あら、隠す気? 言っとくけど私は執念深いから。絶対逃がさないし、どんな手使ってでも追い詰めてやるから。観念してとっとと親の名前と電話番号よこせコラ。」

「いや、その・・・違うんです。さっき倒れたときからパンツ見えてますよ?」

「あん? ってきゃあ!? 何見てんのよこの変態レズ女!」

「ひぃ!? ごめんなさい!?」

 

 年下で、女とは言え突き飛ばされた挙げ句パンツ丸見えにされてしまったなんて、流石の女も初めての経験だ。これは謝罪と賠償と誠意のある対応を求めなければならない。

 

「もー怒ったから。何? 子供だったら謝って許して貰えるとか思った? アンタにも親居るんでしょ親。金ならそいつらから頂くから。とっとと親の所に案内しなさいクソガキが。」

「その、ウチは・・・。4年前に親が、他界してまして。」

「チッ、使えねぇ親も居たもんだ。・・・あ! でもさ、どうせ誰かに引き取って貰ってるんでしょ? その年齢ならさぁ。ソイツの所に案内しろや。」

「この人ヤバくない!? さっきから発言がゲス過ぎない!?」

「は? 被害者は私なんだが? お前に突き飛ばされて怪我したかもしれないんだが? それなのに私を非難出来るとかお前の面の厚さどうなってるんだ? 死んじまったてめぇの親共のお里が知れるな。いいから案内しろってんだよオラァ!」

「もうやだこの人!! 関わり合いになりたくないよ! 誰か助けて!?」

 

 目の前の少女に泣きが入ってきた。くく、良い兆候だ。ここまでくれば、あとはこのガキを脅して透かして家まで案内させるのはたやすい。たっぷりといちゃもん付けてガッツリ誠意を頂くとしよう。

 

 

 

「随分と遅いようですが、如何されましたか?」

 

 

 

 少女が悲鳴を上げ、女が脅し取った金の使い道を考えていると。丁度全身を機械で纏われた男が荷物を運び終え、再び女の元へと戻ってきた。

 

 

「・・・。」

「待ってろ3番! 今私はこのガキに多大な迷惑をかけられてね、社会のルール違反って奴を教え込んでやってるのさ!!」

 

 ぎゃあぎゃあと喚く女を無視して、ゴスロリ服の少女と、全身装甲の男が無言で睨み合う。そして、気付いてしまった。

 

「こ、コイツ怪人だあああぁぁぁぁ!? ってことは! お前も悪い奴だな! と言うか、封印結界内に入ってきてる時点で敵だった!?」

「敵性の精霊側戦士の存在を確認! どうされますか?」

「・・・ん? あーー!! そうじゃん、コイツ敵じゃん! おい3番、ぶっ飛ばせ! バレちまったら仕方ねぇ、証拠隠滅だ!」

 

 お互いに、ここが結界の中であり、一般人はいないという事実に同時に気付いたのだった。少女は即座にどこからともなく手鏡をその手にかざし、戦闘態勢を取る。

 

 一方女の命令を受け、改造人間はゴスロリ少女を一瞥していた。そして即座に、自身の腰に備えてある銃火器を、そのまま次々に()()()()()()()()。その数、合わせて6丁。彼は今からジャングリングでもするのだろうか?

 

──否。彼はなんと空中に銃を放り投げたまま、器用に空中で回転する拳銃を握らずに右手の指を添え、その引き金を引いたのだった。銃撃の反動で銃身は後方へ吹っ飛ばされる。それを彼は器用にも左手で掴み、再度真上に放り投げ。この時、彼の右手は既に別の銃の引き金にかかっていた。

 

 これぞ、改造人間たる彼の絶技。極限の拳銃連射術、6丁流。突然に、命を賭けた死闘の火蓋は切って落とされた。

 

「うわぁぁ! アブねぇな!」

 

 その命を刈り取る凄まじい連射に反応し、素早く空へ飛びたった少女はなんとか事無きを得た。当然、少女もこのままやられっぱなしではない。跳び上がった反動でくるりと縦に一回転、身を華麗に翻し・・・、薄く笑みを浮かべ、両の腕を大きく広げた。ユラリと体を揺らし、そのまま鏡を眩く光らせる。そして、彼女は唄うように魔法を発動した。

 

「お返しだ! 本邦初公開! やっと実戦投入レベルに仕上がった俺の新必殺技! 鏡の無限宴(ミラーコートパーティー)!!」

 

 そしてそれは一瞬で、世界を作り替えてしまう、幻想的な魔法だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか、ナツメ達と合流する前に怪人と出くわすとは。コイツらはさては伏兵か何かだったのか? それにしても凄まじい連射だった、でも普通にマシンガン使えば良いのに。

 

 とは言えこいつは、今まで闘ってきた怪人共とは何かが違う。何かこう、向かい合っているだけで邪悪なモノをビンビン感じるのだ。中でも、あの機械っぽい怪人にあれこれ命令してるお姉さんは絶対に邪悪だと思う。人として色々ねじ曲がっているに違いない。

 

「何だ!? 何しやがった、あのクソガキ!」

「落ち着いてください。恐らくは、結界の様なものの一種に閉じ込められてしまったと推測します。物理的に破壊すれば脱出は可能かと。」

 

 敵の怪人共は怒号を挙げ、巨大な鏡の結界の中で銃を乱射する音が聞こえた。オレが作り上げた鏡の牢獄にまんまと捕らわれてしまったようだ。この技に攻撃力はないが、()()()()()に気付くまで奴らは脱出できない。1度ネタバレしたら次から使えないのが難点だな。要改良。さて、今のうちに仲間と合流しないと。

 

 ここからでも戦闘音は聞こえている。恐らく距離はそう離れて居ないはず。耳を澄ませ、位置を特定しろ。建物の陰に紛れ、一撃必殺の奇襲をかませ。

 

──かすかに、聞こえてくる。風を切る、凄まじい速度で物体が動く時にのみ零れ落ちる、ソニックブームの残滓。鈍く、それでいて鋭いその音波は少しずつ、確実に大きくなってきている。まるで、高速で此処に近付いて来ている様だ。位置は、方向は?恐らくは真後ろ・・・っ!?

 

「ってドワァァァ!!」

 

 間一髪、身を翻して後ろより迫り来ていた凶弾を跳躍し回避する。即座に我が身の背後を確認すると、水族館の屋上には既に此方を狙う怪人が銃を構えていた。しまった、もうあの性悪女に仲間を呼ばれていたか。

 

「兄ちゃん! 来てくれたか!」

「ナ・・・レッドッ!!」

 

 そして建物の陰からは、見知った変身姿の少女が現れた。そうか、怪人が居たということは此処が既に戦場だってことだ。

 

「新たな敵影発見。災厄級です。ウルフさん、どうしますか?」

「仕方ねえよ、ヤツがそのうち姿を現すのは分かってた。やることは変わらねぇ、此処で潰す。」

 

 水族館の屋上で此方を見下ろす3人の怪人。2度、相対した事のあるいつもの奴等だ。

 

 ガチャコン、と薬莢を落として怪人共は銃を再度構える。それを見てオレはふわり、とつまさきを浮かせ、奴らの銃撃の回避に集中する事にした。奴等の弱点は補給。つまり魔力が持つ限り無尽蔵に弾が撃てるオレ達に対し、奴等は魔力を薬莢に込めねばならない。つまり、使用回数に制限が有るらしいのだ。

 

「気を付けて、みんな。アソコによく分からない、大きい鏡の建築物が出現しているわ。魔女の能力かもしれない。」

「だとしたら、災厄級の能力かもしれん。警戒を怠るな。」

 

 奴等はどうやら、さっきの邪悪な怪人を閉じ込めている鏡の無限宴(ミラーコートパーティ)を警戒しているらしい。いや、ただの結界だから外には効果及ぼさないのだが・・・、まぁいい。警戒してくれるならさせておこうか。

 

『兄ちゃん、なんでアレ使ったんだ?』

『2人、此処にも怪人が居てだな。奴等を閉じ込める為だ。』

『あわわ、まだ怪人は居るですか!?』

 

 こっちはこっちで今のうちに念話で情報を共有する。

 

『厄介だな、人数的に不利なのは。兄ちゃん、結界壊れるけど、今のうちに私が全力で鏡ごと中の怪人を消し飛ばしてしまうのはどうだろう?』

『いや、やめておこう。あの体積を吹っ飛ばすにはかなり魔力使うだろ?魔力にも限りは有る。最悪、逃げるときに魔力がある程度残ってねぇといかん。5対3だ、無理に全員仕留めに行かずとも良い。』

『そっか、了解。なら、目の前のヤツを何とかしないとな。』

 

 作戦会議は終わった。今から奴等の動向に集中せねばならない。1人も、死なせないために。仲間だけじゃ無く、平穏に暮らしている真壁や、藤や、天使、そして最愛の妹を守るため。オレは、命を燃やして奴等を倒さねばならない。奴等の、一挙一動に全感覚を傾ける。・・・奴等の話し声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「──にしても何なんだ、あの鏡で出来た・・・ウ〇コ?みたいな形の物体は。センスねぇなぁ。」

 

 なんか乱暴な口調のライダーが、オレの折角の必殺技を貶し始めていた。

 

「ウ〇コとはなんだこのライダー野郎! 形状がトグロ撒いてたらなんでもウ〇コ扱いかよ! 小学生かお前は!」

「俺は別に小学生じゃねーし! 小学生はウィ・・・じゃなくて! 何だよあの物体! お前がひり出したのか?」

「オレが魔法で出したんだよ、あの鏡の結界! ひり出したとか言うな、ウ〇コ扱いするな! アレがあの形をしてるのには理由が有るんだよ!」

 

 オレが作り出した、オレ唯一の必殺技「鏡の無限宴(ミラーコートパーティ)」に何てこと言いやがるんだアイツは!

 

「ほーう、どう言った意味があるのが言ってみろよ。」

「良いか、よく聞け! あの鏡の内部は1面万華鏡のように鏡が張り巡らせてあってな。脱出するには鏡を突き破って進むしかない。が、本人は直進していているつもりでも、螺旋状に作られた通路をクルクル回り続けてしまうように内部を歪めているのさ! 方向感覚の狂う鏡の牢獄ではそれに気付けない。中で直進を続ける限り、螺旋の頂点に達するまで鏡の牢獄を彷徨い続けるハメになる!」

「・・・兄ちゃん、それ隠さなきゃダメって言ってなかったか?」

「・・・あ、そうだったな!」

 

 オレの作り出した美しい螺旋状の結界を馬鹿にされつい解説してしまったぜ。まぁ、これでオレの魔法の恐ろしさが分かって貰えただろう。・・・唯一のオレの必殺技が、脅威を失ってしまった件については置いておこう。

 

「やっぱり変身するとは言え、所詮は小さな子供なんだな。こんな簡単な手に引っかかるとは。」

「何ですって! 子供扱いしないでください! こんなのブラックがバカなだけです!」

「ぐ・・・。」

 

 言い返せない。と言うかむしろオレだけ小さな子供じゃ無いのに。

 

「つまり、知らずに中に閉じ込められてしまったら、長い管の中を少しずつ、ゴール目指して進んでいくのね。」

「やっぱり、ほぼウ〇コじゃねぇか。派手でキラキラ光るプリズマティックウ〇コじゃねーか。」

「テメー! オレがこの魔法開発するのにどれだけ時間かけたと思ってるんだ、人の努力を馬鹿にするなって親に習わなかったのか!?」

「折角、鏡なんてオシャレな武器なんだからもっとビジュアルに拘るべきだとボクは思うけどね、白黒の魔女さん。」

「美的センスの問題だな。オレのコスモティックヒート見習えや。」

「オシャレだもん! チクショー!!」

 

 折角の新魔法のお披露目だってのに、敵さんからの評判が酷すぎる。こんなのってないよ。

 

「お、落ち着くんだブラック。アレだ、きっと怪人共の精神攻撃って奴だ、ブラックの心を折りに来ただけだ。乗せられちゃいけねえぜ。」

「レ・・・レッド。そうだよな、敵の言うことを真に受けては・・・!」

「でも私はぶっちゃけダサイと思ってました! しかも真っすぐ進んでくれなきゃ意味ないとか魔力の無駄だと感じました!」

「サディスティィック!! お前はちょっと黙ってなさい!」

「うおおおおおん!! うおおおおおん!!」

 

 涙が止まらねぇぜ! 次はもっとまともな技を開発してやるんだからなチクショー!

 

「どうしよう二人とも。なんか女の子にあそこまでガン泣きされると、罪悪感沸いてきたんだが。」

「あー。割と泣き虫みたいですね彼女。・・・どうしましょう?」

「そうねぇ・・・。今のうちに取り押さえて、捕まえてから謝ってあげましょう。一応現状は敵なんですもの。」

 

 なんか怪人が戦闘態勢を取り始めた。やばい、対応しないと。涙を拭かないと。

 

「ぜっだいゆるざねぇがらなあああああ!!」

「ブラック、落ち着けってば。そんな目で睨んでも全然迫力ないし。」

「確かに、魔女の言う通り目を真っ赤にして睨まれても可愛いだけだ。ちょっと待ってやるから涙拭けよ。」

「ほら、怪人共も待っててくれるらしいしハンカチ貸すから拭けって。」

「・・・ヂグショー。」

 

 ちーん。鼻を噛み、一息を吐く。うん、これですこしは落ち着いた。・・・確かにいろいろショックだったけど、まさかここまでガン泣きしてしまう事になるとは。魔法少女に変身中は、精神が女の子に引っ張られちまってるのだろうか? ・・・と、あまり人を待たせるのも良くない。そろそろ顔を上げるか。

 

「・・・よし! 待たせて悪かったな、怪人共。」

「きゃあああああ!!」

 

 ん? 悲鳴?

 

 ナツメに借りたハンカチで涙を拭いて、うっすら目を開けた先に見えた光景は。気を失ったナツメとサチちゃんが、怪人共に取り押さえられている衝撃映像だった。

 

 オイィ!?

 

「よし、赤い魔女と際どい衣装の魔女制圧! 残すはテメーだけだこの災厄級!」

「ちょ、おま、待つって言ってたじゃないか!?」

「敵対者の言葉をあっさり信じるとは、君は実に頭が悪い魔女なんだな。」

「うわああん! 怪人共はどいつもこいつも畜生ばかりか!」

 

 これは、確かにあっさり信じたオレもバカだったけど! このタイミングで奇襲かけるかコイツら!?

 

「おとなしくしな。別に取って食おうって訳じゃねえ。いくつか話を聞きたいだけさ。」

「君は一番頭が足りなさそうだからね。唯一強力な攻撃手段を持たないようだったし、君だけ残させてもらったよ。」

「おとなしくしなさいな、うふふ。」

 

 これはやばい。何とか隙を見つけ出さねば、このまま全滅か? ・・・それにしても舐めやがって、オレが一番バカで弱いと考えてやがるな。

 

「・・・聞きたいことってなんだよ。」

「まー、てめぇらの目的だわな。なんで精霊なんぞに協力してやがる? お前らは人間なんだよな?」

「それは・・・。」

 

 どうしよう。何処まで答えていいものか、どこまで時間を稼いでみるべきか?考えろ、考え・・・。

 

 

 

 

 

 

 バリン。

 

 どこかで鏡の、砕ける音がした。

 

「出ーれーたーぞー!! あんの糞ガキぃ! どーこーだぁ!?」

 

 どうやらオレの鏡の結界も破られてしまったらしい。これで戦力差は5対3。状況はますます悪化の一途を辿る。

 

「あの、奴らがちょうど戦闘中の様ですが。隠れていなくてよろしかったのですか?」

「あん? 黙ってろ3番! 私はあのクソガキに社会のルールぶち込んでヒィヒィ言わせることの方が任務より優先なんだよ!」

 

 先ほどより怒りで色々ヒートアップしているらしい女は、機械で全身を覆っている怪人を伴いオレの鏡の無限宴(ミラーコートパーティ)の頂上を突き破り佇んでいた。

 

「・・・誰だ! ち、新手の魔女・・・!? には、見えねぇな。おい魔女、何なんだアレは?」

「知らねぇよ。アレ? お前ら怪人側じゃねぇのか?」

「違う、あんな奴は知らないし・・・、うん、友軍でもないらしい。誰だアイツ。」

「あーあ、やれやれ。どうやら運悪く私の存在がバレちまったみたいだし、後処理もろもろ面倒くさいし。仕方がないから、お前ら全員ここで殺すから。」

「いえ、現状は貴方が自制ししていれば回避できた事態であると、上には報告させていただきますのでご覚悟を。」

「・・・ゲッ!?」

 

 女の方が、女性が出していい声じゃない感じの悲鳴を上げた。本当にあの人、オレ苦手だわぁ。じぃ、と四方から見つめられてその女は、うっとうしそうに名乗りを上げた。

 

「あーもう全部そこのクソガキのせいだかんな! よく聞けゴミども! 私は世界を掌握する秘密結社“ASAHI”の構成員、その名も黒井雲子(くろいうんこ)だ! 覚えておけ!」

「な、なにぃ!?」

 

 この女も最初は怪人かと思っていたが、どうやら別の組織の人間らしい。オレの敵であることに変わりはなさそうだけれど。新たな敵勢力だとでもいうのだろうか?

 

「ASAHIってなんだ!? お前は一体何も────!」

「「「ウ〇コだと!?」」」

 

・・・。

 

「ウッソだろあいつ、鏡のウ〇コから出て来て更にウ〇コを名乗るとか正気かよ!」

「ボクは下品なネタは嫌いなんだけどなぁ・・・。黒井って、黒井って。不覚にもクスリと来てしまったよ。」

「黒いウ〇コ・・・ねぇ。きっと私と同じく胃潰瘍なのかしら。」

 

 怪人共、あいつらまだそのネタ引っ張る気かよ!

 

「それにしても可哀そうに。今までの人生で何度、その名前で虐められてきたんだろうね。」

「きっと想像を絶する苦難に満ちた人生だったんだろうな。同情するぜ。」

「良いのか? お前らそれ以上私の名前をからかい続けるなら相応の覚悟をして貰うぞ? 具体的に言うと私今から此処で泣くぞ? 三十路手前の女の号泣は見るに堪えないぞ?」

「オレも泣きたくなってきた。鏡の無限宴(ミラーコートパーティ)はウ〇コなんかじゃないやい・・・。」

 

 怪人共は精神攻撃が得意なようだ。オレの心はボロボロだ!

 

「もう許さねぇからなクソガキに装甲戦士共! ・・・ここで死んでもらうから。」

「わー、怖ぇ。ウ〇コが怒っちまったーい。」

「こ、これ以上煽るの止めようぜそこの怪人! あのババアの目の座り方見ろよ、ガチ切れしてる奴だから! 年甲斐もなく頭が茹ってるから!」

「クソガキィ!! 私はまだギリ20代だよ! 年甲斐とかババアとか絶対に許さんぞ!」

「うわーい、こっちが地雷踏んじまったか。」

 

 年甲斐もなくぶち切れたババアは、自らのスーツの上着とカッターシャツに手をかける。そして大胆にも、その場に脱ぎ棄てた。なんだ? ババアのストリップか? ・・・思わずオレは、見るに堪えず目を背けようとした。でも、下に着ていたのはなぜか水着。スルリとズボンをも脱ぎ捨て、彼女はさながら一人だけ真夏のビーチに居るような違和感のある姿に変身した。なんだアイツ、更年期かな?

 

「あの人、何で水着になったんでしょう。・・・ウルフさん、少し見とれてません?」

「ばっか言うな、見とれてなんか! ・・・なんだよ、思ったより体引き締まってるなオイ。」

「ウルフも若いわねぇ。」

 

 ウゲー。向こうの怪人はあんなのストライクゾーンなのか。アイツの性格知ったら絶対無理だぞ。・・・というか何するつもりだ?

 

 これは元々「怪人との3度目の闘い」の筈だったが、突如乱入してきたババアにより雲行きが大きく変わってきた。水着姿のババアと、機械仕掛けの謎の戦闘員。いつも闘ってきた、3人の怪人達。敵は多く、味方は怪人の手中。

 

 オレは、どうすべきか。どうすればナツメ達を守れるか。答えを探し、魔法で出した手鏡で余裕ある表情を作れないのを誤魔化す為に口元を隠しながら。戦場で1人、オレは佇む。

 

 




次回、1か月以内に投稿予定です。

追記 6月2日
仕事がやばいくらい忙しくなり、次話の投稿が遅れる可能性が高いです。申し訳ありませんが、なるべく早く投稿いたしますのでご容赦ください。

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