毎日が日曜日の朝に   作:まさきたま(サンキューカッス)

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書きたかった念願の日常回。
1話や2話に比べ短めですが、今後も日常回は一万字前後を目安に執筆させて頂くつもりです。


第三話「女王の初恋」

私の中学生活は、地獄だった。

 

 

「変態女が来たぞ!」

「鞭で調教されちまう! 助けてくれえ!」

「女王様!ご機嫌如何ですか!」

 

 

 いつも通りの朝だ。

 

 こうなることが分かって居たから私は出来るだけ目立たないように教室に入ろうとはした。が、結局目ざとい男子達に見咎められ、いつもの如く私を指差して狂ったように騒ぎだした。

 

 

 真壁しずか、即ち私がこのクラスへ登校する度、嘲りと嘲笑が木霊する。

 

 

全ての元凶はクソババァだ。私の母が急な来客に慌ててしまい、自分のSMグッズを私の学生鞄に咄嗟に隠しやがったのだ。それに気付かず、私はその鞄を学校へ持っていき教室で開いてみたらあら不思議。私は女王様と揶揄される存在になり果てた。

 

思春期の多感な年齢の為か、恰好の弄りネタとなり私は変態女変態女と連呼される事となり、そして。

 

「ねぇ、1発殴って貰っていーですかー? あはは!」

 

もう半年はこんな扱いを受け続けている。こんな学校に行きたくない。むしろ私はよく半年も通い続けているのだと、そう自分を褒めてやりたいくらいだ。

 

コイツらに怒って言い返したり手を出したりしても、きっと更に女王様扱いされるだけ。この馬鹿共が飽きるまで相手にしては思う壺。

 

無視、無視、無視を・・・。

 

「ねぇねぇ話し掛けてるの無視しないでよー、あ。そう言うプレイですか!!」

「お前学校でプレイとかレベル高すぎるだろ!」

「あははははは!」

 

────無視を、無視をっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとこっち来いお前。」  

 

 

耐えて、堪えて。そう自分に言い聞かせ目をつぶっていた私に語りかけてきた、嘲りとは違う低く怒ったような声。

 

目を開けその誰かの顔を確認する前に、私はその誰かに手を引かれ、連れ出された。

 

 

「・・・え? 誰?」

 

 

ようやく目が合った私の手を握るその生徒に見覚えは無い。もしや、またくだらない冗談に付き合わされるハメになるのだろうか?

 

そのまま教室の外まで手を引かれ連れ出された後、私はようやくその男子に声をかけられた。

 

「5分、入ってこないでくれ。頼む」

「は?」

 

全くもって意味が分からない。何なのだろう、この男は。

 

「待っててくれよな。5分過ぎたら好きにしていいからな!」

 

そう言って彼は、再度クラスに入っていった。

 

頭に疑問符が大量に浮かぶ。用があったから連れ出したのでは無いの? 連れ出しといて私を放置? どう言う了見だ?

 

そう怒って彼を問い詰めようと教室のドアに手を当てようとしたその時。

 

 

「大の男が群れて、1人の女揶揄して楽しんで恥ずかしくねーのかよ!! 殴ってほしけりゃオレがぶん殴ってやる!」 

 

教室から怒号が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレが、出会いだったのよね」

 

 

彼は、1人で私をからかってきた男子達にまとめて喧嘩を売ったらしい。見ず知らずである。話したことも無い。クラスが一緒になったことも無い。そんな私の為に1人、激怒していたのである。

 

そして見事にボコボコにされたとか。3人がかりに勝てる訳が無いのだ。ただ、それ以降男子達は私をからかう事をし無くなった。つまらなくなったのか、それとも彼が何かしたのか。

 

そしてその彼も、それ以来私に会いに来ない。普通こう、女の子助けたなら何かと理由を付けて会いに来るモノじゃないのか? 男子なら。つまりそう言う目的でも無いらしい。

 

私からお礼を言いに行こうにも、クラスが違うから会う機会がまず少ない上に、彼は放課後そそくさと帰ってしまう。そもそも名前すら聞いていなかった。孤立していた私に、彼の情報をくれるような友達はいない。

 

ようやくお礼が言えたのは次の学年で同じクラスになった時だった。

 

 

 

 

 

「あー、その事は忘れてくれ。」

 

 

やや照れ臭いが、彼を呼び出してキチンと感謝を伝えてみるも、対応は至極素っ気ないモノだった。

 

 

「あんだけ啖呵切ってボコボコにされちゃ世話がねーよな。情け無いったらありゃしねぇ。忘れてくれな。」

 

ポリポリと頬を引っ搔く彼。

 

そんなことは無い、私はとても助かった。そう伝えたのだけど、ただ彼に苦笑いされただけだった。

 

何故、私の為に怒ってくれたのか? 会った事も無かった私に?

 

ずっと知りたかった、その疑問をぶつけて見る。彼はたった1人で喧嘩を売って、怪我をして。一体何を得たのだろうか?

 

 

「・・・誰にも言うなよ? 恥ずかしいからさ。」

 

 

少し顔を赤くして、彼はこう答えた。

 

 

「オレはなりたいんだ。ヒーローって奴にさ。本当にソレだけだ。だからアンタがオレに感謝する必要は無い。オレが、勝手にやりたいことをやっただけなんだ。」

 

そう言って彼はそっぽを向いた。

 

 

 

 

 

成る程。この男は、ただの馬鹿だったらしい。

 

 

 

 

 

コレが私“真壁しずか”と、ヒーローになりたいお馬鹿な少年“照東頼徒”の出会い。

 

 

私の、初恋の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿って言ってやるなよ、酷いな真壁は。」

「馬鹿に馬鹿と言って何がいけないのかしら。」

 

私は照東君を追いかけ、同じ高校に入った。高校に上がる頃には孤立状態も無くなり、チラホラと話し掛けてくれる人も増えてきた。

 

目の前の藤と言う男子生徒もその1人だ。

 

藤君は照東君と仲が良いため、私が積極的に彼に話し掛けるようになってからは必然的に話す事も増えてきた。

 

「そりゃ確かに高校生にもなって真面目にヒーローになりたいって奴はアレだけどよ、本人は真面目も真面目、大真面目なんだ。」

「そのヒーローになりたいってのが馬鹿丸出しじゃないの。」

「やっぱり女の子には分かって貰えないんだねぇ。ヒーローに憧れる、その熱い本能って奴をさ!」

「貴方も、ヒーローとやらになりたいの?」

「えー、あー。そうだな、なってみたいな。」

「歯切れが悪いわね・・・。」

 

やっぱり藤君も内心、彼を馬鹿だと思っているのではないかしらね、これは。

 

 

ヒーローになりたい。そんな夢を語るのは、きっと子供の頃だけ。大人になると段々分かっていく。現実にヒーローは存在しない。

 

 

皆、そう思い込んで居るのだ。

 

 

藤君は少々勘違いしている。

 

私は照東君の夢を、ヒーローになりたいって事を馬鹿にしてる訳では無い。

 

 

 

私は、間違いなく彼に救われた。

 

どんな方法で、どんな結果で、自分勝手な想いで有ったとして、誰かを救うことが出来たのなら。

 

その誰か()にとって、彼は間違いなく・・・

 

 

 

「とっくにヒーローになってるっつの。気付け馬鹿。」

「ん? 真壁、何か言ったか?」

 

はぁ、とため息が出た。

 

「別に、何も言ってないわよ。今から妹迎えに行かなきゃいけないんだけど、来る?」

「ほー真壁の妹か。興味有るな、付いていって良いのか?」

「ええ、幼稚園終わった後は公園で遊んでる筈なの。良ければ付き合ってあげてちょうだい。」

「はは、この年でおままごとに付き合わされるかもしれねぇ訳か。今日は暇だしその妹さんって奴と遊んでみるか!」

 

藤君はそう言って笑う。割と人が良いんだよね藤君。

 

実際、最近は変質者がこの辺に出るらしいから、私としても男子が1人近くに居るだけで安心だったりもする。

 

なんかテンション高めな藤君を連れて、私は幼稚園の近くの、噴水のある小綺麗な公園へと歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「け、警察を呼べぇ!!」

「なんだアイツ!?」

「変質者、変質者が出たわよ! 逃げて皆!」

 

公園が近付くにつれ、辺りが急に騒がしくなってきた。近くで大騒ぎになっている。本当に変質者が出たのか。念の為、藤君を連れてきて良かったかもしれない。

 

「お、おい真壁。なんかヤバイ事件起こってるぞ、どうする?」

「そうみたいね。妹が心配ね。」

 

早めに迎えに行って上げないと、一生のトラウマになってしまうかもしれない。そう考え私は歩きを早めようとして、重大な事に気付いた。

 

「・・・嘘。」

「どうした!?」

「声がしてるのって妹が、サチが遊んでる公園の方向・・・! そんな!?」

「あ、おい待てよ!」

 

何故今まで気付かなかったのか。今、騒ぎが起きてるのは、人集りが出来ている道は、サチの待ってる筈の・・・!

 

噴水公園への一本道!!

 

 

「サチっ!!」

 

 

走る、走る、走る。

 

何が起こっていると言うのか、果たして妹は無事なのか!?

 

スカートがたなびくのも、髪型が乱れるのも一切気にせず全力で疾走する。

 

「あ、おいお嬢ちゃん止まれ! 公園に変質者が出たんだ!見ちゃいかん!」

「どいてください! 妹が、妹が公園で待ってる筈なんです!」

「すまねぇ道を空けてくれ!公園に用が有るんだ!」

「おいこら! 待ちなさい!」

 

公園への入り口を通せんぼしてきた人の良さそうなおじさんを躱し、私と藤君は公園の中へと入って行った。

 

・・・現実は残酷で冷酷だった。

 

目に映ったのは想定する限り、いや想定すらしてなかった最悪中の最悪の光景で。

 

変質者は、本当に居たのだ。妹の、サチのすぐ隣で。

 

 

 

 

 

 

 

「オーッホホホホホ!! じょーおー様と呼ぶが良いです!!」バシン!

「サチちゃんストップ! 目覚める!ホントに何かに目覚めちまう!!」

「うるさいです! サチちゃんでは無くじょーおー様と呼べですよ!!」バシン!

「じじじじょーおー様! おやめ下さい!」

「オーッホホホホホ!!」バシン!バシン!

 

 

 

紙で出来たSM用の仮面を付けたサチ()のすぐ隣に、照東頼徒(変質者)が縄跳びで縛られ、私のお母さんのモノであろう鞭で何度も打たれていた。

 

 

 

「幼稚園児にあんなプレイを要求するなんて!」

「自分の欲望になんて忠実な!」

「違うんです誤解なんですってばー!! 誰か縄ほどいて(バシン!)あひぃぃぃい!!」

「ブタさんは人の言葉を喋るなです!」バシン!

 

 

 

 

・・・。

 

 

 

 

「「変質者だぁぁぁーーー!!?!?」」ガビーン

 

 

 

私は藤君と同時に絶叫したのでした。

 

 

 

初恋は実らないもの。

 

とは言え神様。これは、これは無いでしょう・・・。

 

真壁しずかの乙女心とか恋心とかそう言うのは全て(サチ)の鞭で打ち砕かれてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

バシン!

「あひぃいん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

照東頼徒に何があったか?

 

事の起こりは昼頃である。

 

 

 

 

 

 

 

今日はオレの学校が半日で終わる日だった為、HRが終わるや否や即座にナツメ、サチと待ち合わせておいた公園へと向かっていた。魔法少女としての「武器」と「固有能力」を調べる為だと聞いている。

 

魔法少女としての武器。

 

例えば、ナツメの武器は杖だという。固有能力は「電気操作」、杖を媒介にして電気による攻撃を可能とする、遠距離戦に強い魔法少女なのだとか。

 

一方、サチの武器は鞭。固有能力は「束縛」で鞭を用いて相手の動きを止める事に特化した技を持っているらしい。オレはまだ見たことが無いので、今日見せて貰うことにする。ナツメとは相性の良い能力と言えるだろう。

 

 

前回の襲撃においてオレは自分の特性を理解せず突っ込んだせいで足を引っ張ることとなった。同じ愚を犯す訳にはいかない。

 

 

「んじゃ、お兄さん。まずは封印結界の張り方からレクチャーだな。」

「封印結界、ねぇ。それがどんなモンなのかまずは教えてくれないか?」

「任せるモジャ、封印結界とは手っ取り早く言うと“魔力により移された鏡の世界”、即ち“現実とソックリな別世界”への転移魔法モジャ。」

「その世界なら戦闘で施設やモノがいくらぶっ壊れても現実には影響無いって寸法よ!」

「ああ、魔法少女の定番な・・・。」

 

 

ご都合主義結界って奴だな。

 

 

「こうモジャっと魔力を空間に纏う感じで、膨らませていくモジャ。」

「風船膨らませる感じでやると良いぜ!」

「お、おー。言ってる意味はよく分からんがやってみるぜ!」

 

 

 

 

かなりぐだぐだな説明で、封印結界の習得は中々手こずるのを予想していた。が、結論から行くと、オレは拍子抜けするほどあっさり封印結界とやらを習得出来た。

 

感覚的に分かるのだ。どうすれば良いのか、が。

風船を膨らませる感じ。そう教えてくれたナツメの言葉が凄くしっくり来る。魔力をプクーッと膨らませていくと良いのだ。

 

モジャは「お前さんは魔力操作そのものの才能がある」とか何とか持ち上げてきた。

 

やや調子に乗った。

 

 

 

 

・・・それがいけなかったのだろうか。

 

 

「ブラック、お前そのスッゴい量の魔力持ってる癖して固有能力、コレだけなのか? 他に何も無いの?」

「メス豚に真珠って奴です! サチ知ってます!」

 

オレの武器と固有能力が判明してからの皆の言葉が大変お厳しい。

 

「うん、いつの間にか身に纏ってたこの(ゴスロリ)からオレの能力はそんな気はしてたんだが・・・。コレから魔力操作に慣れていけばもっと色々出来る気がする。つまりオレは成長性が非常に高いと言えるのだ!」

「初期能力が低すぎるだけモジャ。」

「喧しい!」

 

 

魔法少女の服と言うのは、個人の魔法少女(闘う女性)のイメージにより精製されるらしい。ナツメの赤い派手な服はアニメの魔法少女から。サチちゃんの違法性を問われる衣装は実の母から。

 

そしてオレのゴシックロリータファッションは・・・。

 

「仮面ライダーに出て来る敵側の幹部の娘の衣装なんだよなぁ、コレ。その娘は戦闘員じゃないんだよ・・・。それでその娘と同じ様な能力になっちゃったんだ。」

「仮面ライダーなんかから変身のイメージするからだ。魔法少女モノのアニメ見てないのか?」

「いい歳して見るモノじゃ無いだろソレ。」

「仮面ライダーもいい歳して見るモノじゃ無いです! サチ知ってます!」

「サチちゃんは座っててねー」

「ハイです!」

 

サチちゃんは相変わらずキレッキレの直球(ツッコミ)入れてくるなぁ。

 

オレはそう心の中でぼやいて、どうあがいても直接的な攻撃力の無さそうな“手鏡”に自分を映し、溜息を付くのだった。

 

その後、オレはサチちゃんやナツメの魔法を見せて貰い、彼女達と連携の訓練をする。

と、言ってもオレの固有能力は攻撃の役に立たない為、基本肉弾戦と言う話になった。具体的には急降下蹴り(ライダーキック)を軸に空と地を行き来しながらハートショットで牽制したり接近戦したり。つまり、ナツメとサチちゃんの連携の死角や隙をフォローする遊撃の役割を担うことになった。

 

コレで十分闘えるだろうと、モジャは言ったのでまぁ何とかなるだろ。

 

一通り練習した後オレは封印結界を解き、色彩の豊かな現実へと帰還した。

 

 

「これで終わりですか? 私、終わったならおままごとしたいです!」

「私もマホともうすぐ図書館行く約束が有ってな。ここら辺でお開きにしないか?」

「そうモジャねぇ・・・、新人教育は一通り終わったし、なら1度解散とするモジャ。」

「そっか、今日は皆いろいろ教えてくれて有りがとな。んじゃバイバイ。ナツメちゃん、サチちゃん」

「あぁ、じゃあなお兄さん。」

 

オレは2人に感謝を告げた(誰か忘れてないかモジャ!? と叫ぶ声は無視した。)。そして夕方からのバイトまでの空き時間をどうするか考えながら家への帰路へと足を向けようとして・・・。

 

「サチはおままごとしたいです!」

 

くいくい。

 

何か右足に抵抗を感じるなと思って振り向くと、サチちゃんがオレのズボンを掴んで引っ張っていた。

 

「1人じゃおままごと出来ないです!」

「そ、そうか。」

「お姉ちゃんが迎えに来るまでまだ結構時間があるのです!」

「え、えーっと?」

 

「サチは、1人で待つの寂しいです・・・。」

「よし分かった。オレは何の役をやれば良いのかな? 何でもやっちゃうぞー!」

 

幼稚園児に、シュンと哀しそうに下を向かれてしまっては放っておく訳にはいかない。

幸いバイトまでは時間がある。多少恥ずかしいのは我慢して、サチちゃんに時間ギリギリまで付き合ってあげよう。

 

「あのね、あのね! お兄ちゃんにはパパの役やって欲しいです! サチがママでね、このクマのキーホルダーが子供のクマちゃんです!」

「お、そーかそーかオレがパパかぁ。照れるな、さてどう始めれば良いかな。」

「えーっとね! パパは仕事してるから夜に帰ってくるです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、サチちゃんがねだる通りにあれよこれよと付き合った結果。

 

オレは幼稚園児に異常に手際良く、彼女の持参したピンクの縄跳びで卑猥な型に縛られた末、

「愛し合うのです!」

と絶妙な力加減の鞭を振るわれ、必死で許しを乞うハメになる。

 

最後の方には変質者扱いで通報された挙げ句、仲の良い2人の同級生にその姿をバッチリ目撃され、性犯罪者でも見るかのように蔑まれたのは、正義のヒーローの払うべき代償なのだろうか?

 

 

 

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!! 妹に何て事させてるのよっ! 照東君の、大馬鹿!!!」

「その、個人の趣味にどうこう言わんがこんな子供を巻き込んじゃいかんぞ照東?」

「ホントに誤解なんだって! 助けてアヒンッ!!」

「わーいお姉ちゃんだー!」バシーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴等に、まだ気付かれてはいないのだな?」

 

とある、ホテルの一室。此処にもう数年は居座り続けている1人の男が居た。

 

男の後には黒い服を着た男が何人も膝を着き、男の言葉を待っている。

 

「はい、計画はもうすぐ完遂致します。」

「ご苦労。・・・本当に妨害は無いのか?」

「ええ。」

 

老成した威厳のある顔立ちの男が、ワインの入ったグラスを片手に窓際に立つ。その側に、眼鏡を掛けた若い女性が控えており、資料を片手に報告する。

 

「精霊側の戦力に、人間側の戦力。共に、見事に互いを敵と認識し潰し合っております。お館様の、件の策は実に見事でございました。」

「・・・ああ。」

 

そう、告げられた男の顔は意外にも、余り明るいモノは無かった。

 

「もう1度聞くが、本当にまだ気付いてないのか?奴等は。」

「・・・はい。」

 

何かを確認するかのように、その男は再度問う。

 

 

 

 

 

 

「その、つまりだね! ワシが用意した悪役っぽい衣装の数々。これらの出番はまだなのかね!」

「我々の存在に気付かれて無いのですから当然です。と言うか出番ない方が好ましいでしょう。」

「おかしいじゃろ!もう何年間くらい闘い合ってるの彼奴達(あのバカども)!?」

「4年になります。」

 

 4年前。ワシはとある部下が「魔力による兵器、魔力を持つ生命体の使役」と言った研究をしている事を知った。周りは鼻で笑い、研究している本人達以外の誰もが1分待たずに話を遮り距離を取るような内容だった。そんな、途方も無い与太話を、ワシだけはソックリ信じる事にした。

 

 これは、ワシ自身が魔力というモノに心当たりが有ったからだ。幼い頃、確かにワシは魔力を持っていた。当時誰もが信じなかったが、ワシには確かに妖怪が見え、触れ、話せた。年を取るに従って、段々とそう言ったモノを感じることは出来なくなってしまったが、そう言う存在は決して眉唾なモノでは無いと知っていたのだ。

 

 魔力により、強制的に精霊を操り、ソレによる武力で人類を征服する。齢40を超えて、ワシはそんな夢を持った。

 

 だが、そんな途方も無い計画を実行するに当たり、ワシの様に魔力に気付いている者達から何かしら妨害が行われるのは目に見えていた。

 

 である為、我が組織が魔力の簒奪を始めた際に、一手間加えたのだ。予め精霊と人間の魔力を持つ戦士達に、互いに互いが原因であると言う情報をそれとなく流してみる。これは恐ろしいほど綺麗に思惑通り事が進んだ。

 

 仕上げに、同士討ちをしていたその事実に気付き、戦士達が絶望したタイミングで高笑いしながら顔を暗く加工した映像を奴等の目の前に放映する。そしてモニター越しにネタばらししてやるのだ。そこからワシと奴等との、世界の命運を賭け命懸けの闘いが始まる。

 

 そんな感じの予定だったのだが・・・。

 

「じゃろう!? 精々最初の方だけ殺し合ってくれたら良いかなくらいの同士討ちの計略だったのに!! もう我が計画は終盤では無いか!」

「素晴らしい事です。」

「イヤじゃ! ワシはもっと、もっとこう・・・悪役したいんだ!」

「おい皆、いつもの如くお館様がご乱心だ! 取り押さえて差し上げろ!」

「「了解!」」

「何をする離せーーー!! ワシは今からネタばらししにいくんじゃあ!!」

「その必要は有りません。」

「離せーっ!!」

 

 何故か、何時まで経っても全然気付かれる様子が無く、精霊側は人間側を、その逆もまた然りで完全に敵と認識しきっており、闘いを止める気配が無い。

 

 せっかく四天王とか女幹部とか色々任命したり、奴等の実力に合わせた雑魚敵とか用意したのに。

 

 未だに出撃したことが無い彼らは基本毎日飯食って訓練して寝てるだけのニートである。

 

「お館様、冷静になって下さい。もしかしたら、奴等は気付いてない振りをしているだけやもしれませぬ。」

「ぬぬ、どういう事だ。」

「そう、我らは敢えて泳がされているのです。明日にでも戦士達に此処を奇襲されることもあり得るかと。つまり、下手に動けば彼等の作戦が台無しになってしまいまする。」

「ぐぬぅ。」

 

 そう言う計画をホントに奴等が練ってくれてるなら良いのだが。

 

「或いは、奴等が気付いて居らずとも、日本政府が既に我らを察知し動いているかもしれませぬ。焦らずとも、すぐに敵は参ります。」

「むむむ・・・。」

「あと少しで御座います。精霊を意のままに操れるようになれば、高らかに声明を上げ我らの存在を知らしめようでは有りませんか。」

「で、あるか。」

 

 

 ギィと音を立て、ワシは再び椅子に座った。

 

「ならば、もう少し待とう。」

「ご英断で御座います。」

 

 ワインを口に含み、苛立ちを抑えようと転がす。部下達もホッとしている様子だ。ワシとて、今ネタばらししに行ったり悪役ぶったりする事に得が有るとは考えていない。ただ、そうしたいのだ。いわば欲望なのだ。

 

 美味しいご馳走を取り上げられた様な状況であるワシは部下を部屋から下がらせるよう指示を出す。今のままだとまた部下達に下らない八つ当たりをしてしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 だが、転機は急に訪れた。

 

ジリリリリリリッ!!

 

 部屋の電話が鳴り響き、部下の1人が即座に応答する。

 

 

「お、お館様!! カウンターが、外線で電話を繋いで良いかと聞いております!」

「外線だと? 何処からだ、ワシに電話なぞ。」

「けっ・・・警察です!!」

「何じゃと!?」

 

 

 まさか。まさか、本当に警察とな?

 

 

「本当に日本政府に察知されて居たのか!?」

「馬鹿な! 隠ぺいは完璧な筈!!」

「情報班! 報告をなさい!!」

 

 急に騒ぎ出した部下どもを一喝する。

 

「だまらっしゃい!! ワシが自ら応答しよう。貴様らは待機だ!」

 

 ワクワクが止まらぬ。遂に始まるのか。計画最終段階にして、遂に我が所行が明るみとなり、命懸けの闘いの火蓋が切られると言うのか!

 

 

 

「そちらは警察じゃのぉ? 初めまして、ワシは(あさひ)と言うしがない老人じゃ。・・・さて、ワシに何か、御用かのう?」

 

 期待を隠しきれず、やや震えた声で用件を問うてみる。この時予想だにもしていなかった、ワシが電話の先から聞かされた警察共の用件とは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・お久しぶりです、旭さん。」

「お、おう。」

 

 見るからにしょげきった目の前の少年に、どう対応したものだろうか? 

 

 件の魔力の研究をしていた部下の夫妻がワシの計画に反対した為、事故に見せかけ始末した後、その子供であった兄妹が高い魔力値を示していたため手駒になるかと引き取っておいたのだが。

 

 引き取った兄妹の兄の方がまさか変質者として警察の世話になっており、保護者として引き取りに来いなどど言う呆れ果てた用件だとは想像だにしなかった。

 

 

「その、何だ頼徒君や。悩みが有るなら、聞いてやった方が良いかね?」

「違うんです・・・。ご迷惑かけてスミマセン、けど誤解なんです・・・。」

「まあ何だ。あー、だな。」

 

 ワシは保護者では有るし、ハッキリと言わねばなるまいて。厳しい言葉では有るがなるべく、頼徒君に優しく語りかけるように気を付けた。

 

「幾ら性欲が激しくても、流石に幼稚園児はいかんよ。」

 

 彼は、そのまま無言でうずくまった。




次回は一週間以内に投稿予定です。早めに書けたらその日に投稿致します。

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