毎日が日曜日の朝に   作:まさきたま(サンキューカッス)

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第二話「ボクっ娘と欲望センサー」

日曜日の朝。

それは少年少女にとっては夢を与える放送時間帯。

 

日曜日の朝。

それは大きいお友達にとっては日頃の疲れを癒す時間帯。

 

日曜日の朝。

それは、ボクにとっては・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、どうして裸子植物だの被子植物だの分ける必要があるんだ? 覚えて役に立つのか?」

「ガーデニングとかに使えるんじゃ無いかな?」

 

 

 

 ボクは照東真帆、小学5年生の女の子。

 

 親は居ないけど、親友と呼べるような友達がいるし、兄さんが何かと気を遣ってくれているからあまり寂しい思いはしていない。

 

 今日も、来る学期末テストに備えて、その親友である春野ナツメ、通称なっちゃんと一緒に理科のお勉強会をしている。

 

 一人称がボクってのが数少ないアイデンティティだったりする。こんな呼び方を始めた理由は・・・まぁ、今は置いておこう。

 

「疲れたー!! そろそろ休憩しよう! な、マホ?」

「なっちゃんは始めたばっかりじゃないか・・・。」

 

 すでに勉強会が始まって二時間ほど経過しており、良い時間にはなっていた。

 

 が、一時間強程も勉強をしているボクを尻目に、寝転んでボクのマンガを読んでいたのだコイツは。ようやく勉強し始めたと思ったらコレである。

 

 目を爛々と輝かせた親友は居間のテレビに目を移し、

 

 

「録画してるんだろ? 見ようよ、今日の魔法少女!」

「・・・してるけど。まーいっか。」

 

 

 

 なっちゃんが忍者みたいな動きでテレビの前に移動し陣取ったのを見て、諦めてボクも隣に座る。

 

 実はボクも、今週の展開は気になってはいたのだ。

 

 兄さんは超重度な仮面ライダーオタクであり、ソコを常日頃から弄っているボクには大きな声で言えないのだが、ボクは仮面ライダーの次に放送されている魔法少女のアニメがかなり好きだったりする。

 

 画面を縦横無尽に跳ね回る、フリフリした可愛い衣装を纏った女の子。

 

 ボクは良く言えば中性的、悪く言えば男の子にも見えるような顔立ちだ。恐らくこんな格好してもあまり似合わないだろう。

 

 でも、一度で良いから着てみたい。兄さんに負担をかけたくないから言ったり出来ないが、派手で可愛い魔法少女服は密かな憧れだったりする。

 

 妖精さんが目の前に現れて、変身して可愛い衣装を着て、街の平和を守る魔法少女。クラスの皆には秘密で、魔法少女の仲間達と大冒険。

 

 

「はぁ、良いなぁ。」

「うむ、今週も面白かった。参考になる。」

 

 あっという間に30分が過ぎてしまった。今週も魔法少女達は仲良く可愛く敵を倒し、ハッピーエンドを迎えた。

 

「ふぅ、じゃあ勉強を再開するよなっちゃん。」

「いや、少し待ってくれ。頭の中でこう、さっきの技をイメージしてみたいんだ。」

「・・・イメージしてどうするの?」

「そりゃあ・・・そりゃ、えっと、ごっこ遊びに使うんだ!」

「・・・あ、そう。」

 

 

 下手くそな言い訳をしてやはり勉強を再開しようとしないなっちゃんを置いて、ボクはふたたび教科書を開く。

 

 先程の魔法少女とは似ても似つかぬ謎なポーズを取る親友をさておいて、奨学金を手に入れるため、ボクは1人真面目に勉強に励むのだった。

 

 

 

 

 

 

「此処で別れようぜ、じゃあなマホ!」

「ああ。なっちゃんもキチンと勉強しなよ?」

「気が向いたらな? んじゃまた明日。」

 

 勉強会は夕方の5時くらいにお開きとなり、なっちゃんを送っていくついでにボクはスーパーへと買い出しに行くことにした。

 

 家事全般はボクの担当だ。バイトをしてお金を稼いでくれている兄さんの負担を減らそうと始めた家事だったが、思うほか性に合って居て炊事洗濯裁縫何でもござれになっている。

 

 今日は秋刀魚が安い日だった筈。是非とも買っておきたい。頭の中に今日のセール品を思い浮かべ、財布の中身を見つつ少し遠めだが安い店を目指し買い出しに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に買い物を終え、帰り道。

 

 秋刀魚は広告で見たより小さかったものの、確かに安い。良い買い物が出来た。塩焼きにでもしてみようか?

 

 そんな他愛も無い事を考えて歩く夕焼け。

 

 ──これが、いつも通りの日常。

 

 

 

 ふと、小さな何かが、目の前を横切ったのに気付いた。

 

 

「何だろう。」

 

 興味本位でその小さな何かを目で追う。

 

「・・・猫か。」

 

 

 目で追った先には、黒い子猫が道端で何処か虚空を見つめていた。

 

 何を見ているんだろう。

 

 ・・・まだ、兄さんが帰ってくる時間じゃない。

 

「おい猫さんや、何を見ているんだい?」

 

 子猫に話し掛けてみる。

 

 人間が近付いているというのに、その子猫は微動だにせず何処かを見つめたままだった。ひょっとしたら魔法少女の使い魔だったりしないかな?なんて馬鹿なことを考えてしまった。

 

「にゃあ、にゃあ。おーい、猫さんやーい。」

 

 構って貰おうと猫の鳴き真似をしても反応無し。・・・少し悔しくなってきた。

 

 素手で触ったらばっちぃよね。そう考えボクはその辺に落ちていた枝を拾い、猫を突っついてみることにした。

 

 

 

 何時だって、落とし穴は予期せぬ所に用意されているモノだ。

 

 現実や日常と言った“地上”から有り得ない非日常と言う“空”へと堕ちる落とし穴。

 

 それは、今回たまたまこの子猫だったと言うことだ。

 

 

 

 

 ボクが拾った枝ごしに猫に触れた瞬間、世界がセピア色に染まった。

 

 

 

 

 

「・・・え?」

「これでも食らえ!! 豪雷雨(レイニーボルト)!!」

 

 

 ボクの困惑した声をかき消すように、甲高い声がした。

 

 ソレを契機にセピア色の空から、無数の雷が逃げ場無く降り注ぐ。

 

 

「・・・え?」

 

 ボクの近くに、1つ落雷した。雷が落ちた部分の道路が溶岩のように赤く光っている。

蒸せるようなアスファルト臭、不快な熱気が顔を直撃した。

 

 

 

 ・・・死んでいた。少しズレて雷がボクに直撃していたなら、ボクは黒焦げの炭になっていた。

 

「なっ!! (かみなり)!?」

 

 何が起こっているのだろう? コレは夢なのだろうか?

 

 買い物に行ったのも夢? それとも帰り道で寝ちゃった!?

 

「何で!? 何が起こってるのさ!?」

 

 混乱の極地に居たボクは気付かなかった。喚き騒いでなんかいないで、もっと取るべき行動があることに。

 

──ピカリ。

 

 この場を離れるべきだったのだ。一刻も早く。

 

 気付いたときには、眩し過ぎて目が焼けるような一筋の光がボクに向かってー

 

 世界がスローになった。雷がゆっくり迫ってきている。体は動かない。精神の加速に体が付いてきていない。走馬燈、と言う奴か。

 

 ってことはボクは、このまま死ぬんだろうか。何だかんだシスコンな兄さんはすっごく悲しむだろうなぁ。もっとワガママを言ってみても良かったかもしれない。

 

 そんなのイヤだ。怖い、ボクはまだ死にたくない。助けて、誰か。

 

 テレビの中のヒーロー(魔法少女)のような、誰か──

 

 

 

 

 

 突如、光がボクの前にて掻き消えた。と、同時に世界が、等速に戻る。

 

「ふぅ、間一髪。危ないところだったわね。」

 

 

 目をつむり頭を抱えつつ、いつまで待っても訪れぬ「死」に訝しんでいると、正面から優しい声がした。

 

 

 

「子供・・・。どうしてここに入ってこれたのかしら。大丈夫よ、もう心配無いわ。」

 

 

 

 

 

 恐る恐る目を空ける。

 

 突然巻き込まれた非日常の世界、その中でボクを助けてくれたその人が目に映った。

 

 

 

 顔を覆う仮面、赤く大きな昆虫を思わせる2つの瞳。

装甲が見るからに硬く、その中でも一際目立つ大きなベルト。

 

 

 

「・・・そっち(仮面ライダー)!?」

 

 

 どっからどう見ても仮面なライダーがソコに居た。

 

「此処は危ないわ、少し捕まってなさい」

 

 若干野太い声で女言葉を喋ってる、オカマさんっぽいライダーさんはボクをさっと体の前に抱きかかえた(お姫様だっこ)

 

 

 おお、なんかコレはコレで悪くないかも?とか緊張感の無い思考が頭をよぎる辺りボクは凄くテンパって居るようだ。

 

「ウルフ! 少し1人で持ち堪えて!」

「了解! 任せろ!」

 

 テレビから飛び出てきたままのヒーローに抱きかかえられ、思考がショートし微動だにできないボクは戦線を無事に離脱できたのだった。

 

 

 

 

 

「ココならもう大丈夫ねぇ、じっと待ってて頂戴。ごめんなさいね、今は時間が無いから後でゆっくり説明してアゲル。」

「・・・はっ!? ココは何処!? ボクは誰!?」

「あらあら絶賛混乱中ねぇ。」

 

 雷がピカッてしてオカマ声の仮面ライダーが現れて拉致監禁で誘拐の身代金?

 

「あ、そーだ猫博士。私の代わりに説明しといてあげれない?」

『俺が出て来たら益々この娘混乱するネコよ?』

「もー混乱しきってるわよぉ。へーきへーき。」

 

 道路脇に居た黒い小動物がトコトコ歩いてきた。・・・わーい猫が喋ってる。凄いなー憧れちゃうなー。

 

「って猫が喋る訳あるかーーー!! なんだ君達は!? 仮面ライダー!? のくせに猫が小動物で! 何で裏切ったんですか!?」

『おお、少し正気に戻ってきたネコ。後は任せて行けマザー。』

「了解、ウルフも一人じゃ辛いでしょうしねぇ。」

 

ぷしゅー。

 

 なんか仮面ライダー(オカマさん)の背中から生えた筒? みたいなモノから煙が吹き出したと同時に、凄い速度で駆け出しすぐに見えなくなった。

 

メカメカしい仮面ライダーだな。

 

『さて、娘。早く落ちつけネコ。』

「何なんだよもう・・・ボクが何をしたって言うのさ?何でもするから元の場所に帰してくれよぉ・・・。」

『安全確保が済んだら帰してあげるネコ。もう少しの辛抱だネコ。』

「兄さーん・・・。助けてよぉ・・・。」

『な、泣くなネコ!あわわ女の子のあやし方とか知らないネコ!え、えっとえっと・・・?』

 

 気付けば涙が溢れていた。さっき死にかけたのだ。ソレを思い出してしまってから、体の震えが止まらなくなった。

 

『そ、そ、そうだネコ!そもそも娘、なんでお前さんココに来れたネコ!?ここは空間隔絶装置により隔離された世界の筈ネコ。』

「分かんないよ、空間隔絶なんちゃらってなんなの?」

『あー、こっちに来たときの事を思い出して欲しいネコ。何かに触ったりし無かったネコ?』

「こっちに来たとき?このセピア色の世界に来たときって事?なら・・・」

 

 確か道端に居た、微動だにしない子猫が気になって突っついて・・・。

 

『子猫を突っついた・・・ってそうか、子供ならそう言う事もするネコか。俺の配慮不足ネコ、済まないネコ。』

「あの子猫のせいなの?」

『俺の趣味で、空間隔絶装置・・・まぁ、町に被害を出さない為の装置を子猫の形にしてあるネコ。ソレをお前が突っついたせいで巻き込まれた可能性が高いネコ。』

「ボクのせい?」

『あー、いや、俺の不注意ネコ。次から形を変えるネコ。』

「よし、ならキミのせいだね。えい!」

『・・・ネコッ!? や、止めろネコ!千切れるネコ!』

 

 話半分の理解ではあるが、この小動物が諸悪の根源の様だとだけ分かれば十分だ。

 

「うるさい、キミのせいなのだろう! だいたい何だそのよく分からない口調と言うか語尾は! 猫が語尾に付けるならニャンだろう! ネコって何だネコって!! ボクを馬鹿にしてるのか!?」

『止めろネコ! コレはあくまで遠隔操作してるだけのラジコンの様なモノだからコレを攻撃しても俺にはダメージ来てないネコ! ただ修理に金がかかるから止めるネコ!』

「つまりキミはマスコット的な小動物では無く子猫のラジコンを操る口調が気持ち悪い人って事だな! なら益々遠慮は要らないな!」

『うわーーー! 右目壊れたネコ!カメラは高いから止めてネコ!』

 

 コイツと話してると怒りが収まらなくなってきた。もういっそ踏んづけてやろうか。

 

 思い切り足をあげ全体重を乗せるべく重心を傾ける。

 

 

『「や、止めろって言ってるネコ!」』

 

 

 必死で命乞い?をする黒い子猫。絵面だけだとボクは極悪だな。と少し冷静になって、気付いた事がある。

 

 この、人を小馬鹿にしたような語尾の猫の声が少しおかしいような。今、道端のゴミ箱の中からも同時に声がしたような?

 

『そ、そうネコ。攻撃を止めて話し合うネコ。・・・おい、何処見てるネコ?』

 

 ・・・あのゴミ箱に向けて石を投げてみよう。

 

 

 

こんっ『こんっ(衝突音)』

 

 

 

 子猫の口から変な音が聞こえた。

 

 

 

「当たりだね! さてはソコに隠れているな!」

『うにゃー見つかったネコ!?』

 

 どうせなら本人に色々復讐したいし、ゴミ箱をこじ開けてやろう。そう考え取っ手を持ち上げようとするも、

 

「『さーせーるーかー!!』」

 

 中からゴミ箱の蓋にぶら下がってでもいるのかピクリともしない。忌々しい奴め。

 

「『ふう、諦めたかネコ。勘弁して欲しいネコ。』」

「ボクとしてはストレスが溜まる一方さ。仕方ない、猫ラジコンの方を粉砕させて貰うよ。」

「『止めるネコ!この悪魔!』」

 

 いきなり殺されかけたのだ。そのくらいの権利は有るだろう。と言うかなんでこんな目に遭わされてるのだ?

 

「そろそろ話して貰うとするか。何が目的なんだキミ達は。あの雷みたいなのは何のために行っているんだ?」

『・・・誤解ネコ。あの危険な雷は俺達の出したものじゃないネコ。』

「嘘をつくな!察するに空間隔絶装置とやらを作った目的は、あの雷みたいな兵器の実験か何かだろう?さてはキミ達はテロリストか何かか?」

『誤解も甚だしいネコ!?違うネコ、俺達は闘っているんだネコ!』

「闘っている?」

 

 意味が分からずボクが怪訝な顔をしていると、子猫は更に変なことを言いだした。

 

『そう。この世界を侵略しにきた、未確認生命体とその味方となっている人間と思われる存在・・・。通称、魔女。そいつらと闘っているんだネコ。』

「ははーん。さてはボクを子供だと思って馬鹿にしているのかい?そんなのいる訳無いだろ。」

『今、この状況でまだそんな常識に捕らわれているとは驚きだネコ。』

「どう言う意味さ?これでもアニメと現実の区別は付く年齢なんだ、本当の事を言いたまえよ。」

 

 歯牙にもかけない。そんな態度で猫の妄言を切って捨てても、奴の態度は変わらなかった。

 

彼処(あっち)を見るネコ。』

 

 子猫の指の示す仕草に釣られて、つい振り向くと。

 

「・・・は?」

 

 何も無い地面から、突如湧き上がる巨大な蒼い焔の柱。雲すら無きセピア色の空から無数に降り注ぐ雷の雨。

 

 2つは競合するのようにぶつかり合い、打ち消し有っていた。

 

『あんな光景は、現実で起こりうるネコ?』

「えぇー・・・?」

 

 その景色の余りの非現実さにまた頭が混乱し始める。

 

『聞いて欲しいネコ、奴らを野放しにしていると・・・』

 

 そんな思考が纏まらないボクに追い打ちをするかの様に、猫は衝撃的な言葉を続ける。

 

『世界が、滅んでしまうネコ。』

 

 

 

 

 子猫は語り出した。

 

 世界を侵略しに来たと言う未確認生命体。その存在自体は、太古から眉唾な存在として伝えられては来ていた。

 

 それは、妖精であり、精霊であり、日本においては座敷童や付喪神などと色々な呼称をされた存在。

 

 彼等が、この世界における大規模な災害を引き起こす鍵となる。ソレが、最近の猫自身の研究によりほぼ確定的となったらしい。

 

 そんな未確認生命体達の特有のエネルギー(便宜的に猫達は魔力と呼んでいる)が地震や疫病などに深く関わっていること、最近急に多発し始めた災害はほぼ全て魔力を操り引き起こされたモノで有ること。

 

 コレを知った猫は、彼等に対抗すべく魔力を利用する兵器を開発。また、奴等の下僕たる魔女達の攻撃に耐えれる全身装甲をも同時に展開出来るようになり、やっと魔女達に攻撃を仕掛けられるまでになった。

 

 魔女と呼ばれる存在については詳しいことは分からないが、どうやら話を聞いている限り人間らしい。魔力を天然で操ることの出来る人間で、何故か未確認生命体の側に付いている。詳しい目的も不明。

 

 ただ、魔力による災害はドンドン増加しておりこのままのペースだと百年ほどで人間は死に絶える計算だとか。

 

 

『止めねばならないネコ。俺のお父さんも、交通事故で死んだネコ。後になって調べた事だが、魔力により車が操られた形跡が有ったネコよ。』

 

 そう言って、猫は語りを終えた。

 

「そんな、そんなこと急に言われたって信じられないね・・・!信じるものか!」

『それも道理ネコ。今のは忘れて構わないネコ、俺達が魔女達を何とかしておくから安心して欲しいネコ。』

「・・・そうかい。」

 

 嘘を言ってるようには、見えない。話が大きすぎて正しく考えが纏まらないが、もしも。

 

 もしもネコの言ってることが本当なら・・・。

 

「ねぇ、猫。それって明日にも兄さんやなっちゃんとかが、死んじゃうかもって事?」

『それはお前の知り合いネコか? まぁ、魔女共を放っておけばその可能性は高いネコ。ああ、俺達が居るから心配は要らないネコよ。』

 

 この人達は、ずっと街を護ってくれていたのか。

 

「ごめん、猫。なんか酷い事言ってしまって。」

 

『気にするなネコ! 混乱した子供の言うことに、俺はいちいち目くじら立てるような猫じゃ無いネコ。』

 

 

 少し語尾がムカつくけど、なんかこの人(猫?)いい人っぽい?

 

 

「ねぇ、猫。ボクに出来ること、無いかな?」

『なら、少し魔力を提供してくれるとありがたいネコ。誰でも少しは有るモノで、装甲展開の燃料になるネコ。普段は少しずつ地脈からか、献血がてら協力者からも貰ってるネコ。出来ればちょくちょく来て貰えるとありがたいネコよ。』

「魔力って取られるとどうなるの?」

『特に何も無いネコ。強いて言うなら少し脂肪が燃えるらしく痩せてしまうくらいネコ。』

「何それ毎日行く。」

『女子は皆それ言うネコねぇ・・・。』

 

 脂肪から燃えるとか究極のダイエットじゃないか。ボクは太りやすいし油断してるとすぐ増えるからこれはむしろ、いや凄くありがたい事なのでは?

 

「ねぇ、どう魔力取るの? 全部あげるよ」

『急にアグレッシブになったネコね。ちょっと待ってて。』

 

 

──パカン。

 

 

 不意にゴミ箱が空いた音がしたと思ったら変な機械が外に置かれていた。

 

 ゴミ箱に視線を移した時には既に蓋は閉まっていた。ぐぬぬ早い。

 

『コレの手のマーク付いてるところにピーって音がするまで手を当てて欲しいネコ。』

「なんか温泉でよく見る血圧計みたいだね。」

『・・・言うなネコ。ん?』

「うん、当てたよ?これでいいのかい?」

『うむ、それで良いぞネコ・・・え?何この数値ネコ!?』

「おーい猫やい、どうしたのさ?」

『うわっ手を、早く手を放すネコ! コレは、まさか!?』

 

 

 何だろう、嫌な予感がしてきた。

 

 

「ねぇ、何か不味かったかい?」

『・・・。少し話があるネコ。』

 

 話? なんだろうか? この流れ、まさかとは思うけど・・・。

 

 いったいどうしたのさ、と口を開こうとゴミ箱に振り返ってみると、なんかゴミ箱から妙に毛の濃い手足が生えてきていた。うわ気持ち悪い!? 

 

「えっと、猫? てかオッサン!? 妖怪ゴミ箱爺!?」

『まぁまぁ、少し此方に来るネコ、くくく。これはお嬢ちゃんの安全の為ネコよ。』

 

 嘘だ、絶対何か企んでるぞこのゴミ箱妖怪!

 

 気が付けば、ゴミ箱から生えたその手にはベルト状のモノ(ライダーベルト)が何時の間にか握られており、ジリジリとボクに迫ってきていた。

 

 アレだよね、そのベルトは単に魔力とやらを取る機械なだけだよね? 違うよね?

 

 ね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マザー!! 今奴から見て上手くビル陰に隠れている! このまま方向転換、一旦撒くぞ!」

「分かったわ! ウルフ!」

 

 久々の魔女との戦闘は、お互いに決定打が決まらないまま、長期戦になりかけていた。やや焦る気持ちが沸いてくる。

 

 活動時間は残り30分を切っている。まさにジリ貧だ。

 

 このままだと競り負ける。とは言え策も無く、一か八かの突撃しかないかと考え始めたその時、猫博士から通信が入った。

 

『聞こえるか! マザー、ウルフ!? よし、そっちに敵影は無いネコね? 今、友軍が1人そっちに向かってるネコ。』

「友軍だと? どっから沸いてきた、まさか北九州の奴等か?なんでこんなとこまで来てるんだ!?」

『残念ながら違うネコ、聞いて驚け! 新しい装甲展開者ネコよ!』

「新人ちゃん? そんなの聞いてないわよ? 訓練生もまだ闘える段階じゃないし、そもそも今は装甲ベルト自体無いじゃ無い!」

『そうだよ、ボクも聞いてないよこんなの・・・。』

 

──ん?

 

 今のこの場では猫しか使えないはずの通信から突如、聞き慣れぬ声で泣き言が入ったぞ?

 

 

「「・・・女の子の声?」」

 

 

 ・・・猫博士が、何をしでかしたか想像が付いてしまった。

 

 

「ちょ、猫!? 新人ってまさか!」

「今の、さっき私が送っていった娘の声よね!?」

『その娘が試作型の特殊装甲ベルトを起動出来たネコ。これで状況は大分改善したネコ!』

 

 

 頭のいかれたマッドサイエンティストと忌み嫌われ研究所から追い出された過去を持つだけある。猫博士(うちらのボス)は、いきなりとんでもない事を言いだした。

 

「馬鹿か! 女の子に肉弾戦させるつもりか博士!」

「危険すぎるわよ! てゆーか特殊装甲ベルトってたしか誰も起動出来なかった奴じゃないの!!」

『ようやく起動出来る人間が現れたって話ネコよ! 危険ってのもむしろ逆ネコ! 何時流れ弾が飛んでくるか分からない状況で生身のままなんかより、装甲展開してる方がよっぽど安全ネコよ!』

「だからって・・・!」

『もうすぐ到着ネコ!』

 

 

 その通信と同時に、背後でズサーっ!! と誰かが立ち止まる音がした。

 

 

「うぅ・・・どうしてボクがこんな目に・・・?」

 

 

 振り向きざま、年相応の泣き言を言うその少女が展開した特殊装甲を見て、俺が思わず感じてしまったのは同情ではなかった。

 

 一番近いモノは畏怖であった。俺やマザーなんかとはまるで、存在感が違う。

 

 確か、特殊装甲ベルトってのは、生まれ持ちの高い魔力を有する選ばれた人間しか起動出来ない装甲ベルトと言う話だ。

 

 溢れる魔力をふんだんに利用し展開した装甲の頑丈さは、俺達の装甲(ソレ)の比で無い。ただ誰も展開出来なくて博士が拗ねてたけど。

 

 大人と同じサイズにまで展開された装甲を纏い、堂々佇むその姿は一見すると中に居るのが年端のいかぬ女の子とは思えない。何より、

 

「すげぇ。凄まじい魔力が溢れてやがるっ!」

 

 重苦しい、仰け反ってしまいそうになるオーラは、ソコに起因しているのか。

 

 成る程、これは・・・っ!

 

「これはまた、すんごい援軍が来たモノねぇ・・・。」

「どうしてこうなったのさ・・・。」

 

 まさにこの不利な状況を、一気に覆す爆弾だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 見知らぬ男(というか妖怪)に乙女の腰を触られ勝手にベルトを巻き付けた挙げ句、全身に変な防具を着けさせられ戦場に立たされるハメになるとは。

 

 兄さんは何処だ。代わってくれ、頼むから。兄さんなら嬉々として変身!とかするのは分かってるから。

 

 

「ホント頼もしい味方が来たわね。ねぇ、あなた。アタシはマザーって呼んでね、これはコードネームなの。本名相手に知られたら不味いのよね。」

「同じく俺はウルフだ、お嬢さん。そーだな、お前は・・・」

「あ、ええと、マホって言います。」

「本名は不味いんだって。変身して無いとこ奇襲されたら終わりなんだから。えーと、マホか・・・マホ、魔法、ウィザード。そうだな、とりあえずウィザードと呼ぶ。ウィッチだと魔女になっちまうしな。とりあえずよろしく、ウィザード。」

「あら、オシャレじゃないの。よろしくウィザードちゃん?」

 

 解せぬ。ボクの意思が提示されぬままトントン拍子に話が進んでいく。

 

 解せぬ。

 

「よ、よろしくお願いします?」

「えぇ。さて、休憩は終わり。奴等にそろそろ反撃と行くわよ!」

「ガッテン、マザー。さーてウィザード安心しな、勿論お前さんを矢面には立たさねぇよ。腰元に銃あるだろ?それで俺達の後から援護してくれ。魔力の弾を撃つだけだから反動とかは無い、心配するな。」

「あ、ありがとうございます。」

 

 腰に銃? あ、付いてる。何だかトイザらスでよく見る安いオモチャみたいなデザインだ。

 

「ウィザード、良く聞け。今はお互い相手を見失ってる状況、即ち遭遇戦となる。この状況で俺達が目指すべき展開と取るべき行動、分かるか?」

「え?うーん、こっちが先に相手を見つけて奇襲・・・を目指して索敵だと思います。」

「残念、外れだ。」

 

 あれ、違うの? 何なんだろう。

 

「運良くこっちが先に見つけられると良いけど、逆に相手に先に見つかる可能性もあるわ。可能性は半々ね、相手に奇襲されるのは致命的よ。」

「無尽蔵に魔力使ってくる敵に対してこっちの燃費は悪い。こちらが望むべきは短期決戦さ。」

「では、どうするんです?」

「こうするのさ、離れてな。」

 

 

 言われたまま距離を取る。

 

──何だろう、またまた嫌な予感がしてきた。

 

「コスモティック・ヒートォ!!!燃えよ蒼炎!!」

 

 

ブワッ

 

 熱気が装甲ごしに伝わる。近くの小さな店に巨大な蒼い炎柱が湧き上がった。

 

 え? 良いのコレ。現実になんか影響とか無いの? ウルフさんが火を出すのを止めてもまだ轟々と燃え盛ってるけど。

 

「さーてバラけて隠れるぞ、急げよウィザード! コレで奴等はこっちにおびき寄せられる筈さ!」

「ウルフ、派手にやるじゃ無いの! これから毎日店を焼くわよ!」

「阿呆ですかー!! 敵に位置バラしただけじゃ無いですかーー!!」

「わーっはははは!! まぁ見てろ!」

 

 こんなの怪しすぎて正面から近付いてくる訳が・・・。一応言われるまま、自動販売機の陰にボクは隠れたが。

 

 ウルフさんやマザーさんもビル陰へと姿を消した。いや、無理だろこの作戦と呼ぶのもおこがましい待ち伏せ・・・。

 

「・・・っちだ! 探せ!」

「分かりました!」

 

 そんなボクの感想をあざ笑うかのように2人の敵さんらしき存在は、道のど真ん中を走りながら突き進んできた。敵はかなりの馬鹿のようだ。

 

『コレが策って奴よ、どうだウィザード? さて仕上げだ、俺が合図をだすから一斉に銃擊だ。その後、俺とマザーが突っ込む。ウィザードは隠れて姿を見せないままで良い。』

『大丈夫、心配無いわ。奴等を貴方に近付けたりはさせないから。』

『分かりました。が、頑張ってください!』

 

 そうこう言い合っているウチに、2つの陰がドンドン近付く。それにつれ、段々2人の姿がはっきりと見えてきた。

 

『来たぞ! 銃を手に構えておけ!!』

 

 

 

 ・・・えーっと?

 

 先頭を走る敵、が視認出来た。

 

 赤いヒラヒラでフリフリの、宝石が散りばめられた服を着た、同世代くらいの女の子。カラフルな杖を持って、真っ赤な髪を束ねて、優雅に走る彼女はまるでアニメから飛び出してきたかのような・・・。

 

 

 見るからに、完全に、魔法少女だった。

 

 

「2人とも、スミマセン。現時刻よりボクは寝返って魔女になりますどうか許してください。」

『ちょっと!?』

『な、何言い出してるんだウィザード!!?』

「いやだって・・・。だって。」

『ふざけてる時間は無いわよ! 奴等を何とかしないと世界が滅んじゃうわよ!? 貴方の大切な人だって!』

「そ、そそそそうですよね!! ビジュアルに騙されちゃ駄目ですよね! ご免なさい血迷いました!」

『しっかりして頂戴よ・・・。』

 

 ボクは正気に戻った。

 

 でも・・・でも。良いなぁ。

 

 どうせ変身するならあっちの、あーゆう魔法少女的なフリフリが着てみたかった・・・。いや、ビジュアルにケチ付けてもしょうが無いかぁ。

 

『そろそろ仕掛けるわよ。構えて。』

「りょ、了解です。」

『んじゃ、行くぜ!』

 

 えーと、照準って上に付いてるトゲだよね?うん、コレで・・・

 

『カウントダウンに合わせて!3・2・1!』

 

せーの!

 

一斉掃射(バレルファイア)!!!」

 

 

 刹那、直視出来ぬほどの眩い光の弾幕が魔法少女2人を襲った。

 

 

「・・・待ち伏せか!! 汚い真似を!」

「レッド!?大丈夫ですか!?」

「致命弾は防いだ! 敵の位置が掴めんから少し距離取るぞ、遠距離からジリジリ攻める方針に変更!」

 

 奴等が進行方向を変えようとと立ち止まったその時。

 

「そうはさせねぇよ! コスモティックヒート!」

 

 ウルフさんが立ち塞がり、両手を大きく掲げる。と、同時に2人を蒼い炎が飲み込んだのだった。

 

「ウワァァ!? ウルフさんが、ウルフさんが人殺しを!!」

「馬鹿! 今の炎は避けられてる、出て来るなウィザード!」

「え?」

 

 一瞬の意識の空白を付いて、勝手にボクが死んだと思い込んでいた赤い魔法少女が。装甲を纏った事により生まれた死角、すなわち真横に化けて出た。

 

 

「ラッキー、見つけたぜ? コソコソ隠れてた新型の怪人さんよぉ? 電撃波(エレクトリカルバズーカ)食らっとけ!!」

 

 あっと叫ぶ暇も無く。ボクの目に映る視界1面が、激しい光と凄まじい爆音に包まれた。避ける、なんて考えすら沸かないウチに。爆熱に体を支配される。

 

 身構える事すら出来ず、ボクは高圧の電流と熱により火達磨となった。何て、事だろう。こんなにも熱いのは、苦しいのは、生まれて初めてだ。息が出来ないっ!

 

「ウィザードォ!! 博士よぉ、だから言ったんだ危険だって!」

「なんてこと・・・っ! もう許さないわよ! 悪逆の魔女!!」

「はっはー!ざまぁみやがりませ怪人!」

「おっし残り2体、気を引き締めろサディスティック!」

 

 2人からは悲痛な叫びが聞こえ、敵の魔女からは不快な嘲りがこだまする。

 

「・・・アチチ。よくもやったね!」

 

 にしてもホントに熱かった。脇腹を少し火傷したかもしれない。不意打ちで他人に危害を加えるとはなんたる連中だ(自分は待ち伏せしないとは言ってない)。

 

 やはり魔女は、悪い敵なようだ。1度でも見た目に騙され、危うく魔女に堕ちかけた事を反省した(魔女側が騙そうとしたとは言ってない)。

 

「・・・え? 無傷?」

「無傷なもんか! ちょっと火傷したさ、許さないぞ!」

「ほぼ無傷じゃねーか! なんだこの新型怪人!?」

 

『当然ネコ! 私が精魂込めて開発した特殊装甲、「玄武」を抜いて怪我なんか有り得ない。その装甲は核戦争の最前線を気楽に散歩出来る位なんだネコ!』

「いや、脇腹火傷したんだけど。ヒリヒリするんだけど。」

『細かい事を気にするなネコ!!』

「いや、十分スゲーよその装甲・・・。」

「てか核戦争に最前線って有るのかしら?遠距離で撃ち合うモノじゃないの?」

「畜生、なんて厄介な!」

 

 みんな色々好き勝手言ってるけれど、乙女の肌だぞ!火傷は細かい事なんかじゃないやい!

 

『相手方に恐らくウィザードに対する決定打は無いか、有ったとしても相当な溜めが必要と思うネコ。ウィザードは恐がらず援護に徹して欲しいネコ。』

「えー。わ、分かったよ。・・・いや、任せて!此奴らはボクがぶっ飛ばしてやる!」

 

 とは言え確かにこういう悪い敵を放置するのは良くないね! ボクを火傷させた分やり返さねば、て言うのもほんの少しあるけどね!

 

 兄さんやなっちゃんを守ることにも繫がる、そう考えたらやる気も沸いてきたし!

 

「一旦引きますよレッド!加虐の檻(サディスティックリング)!」

「生憎だな、ソレは見飽きてるんだよ!」

 

 ボクを砲撃した魔女の背後から叫び声が聞こえ、目をやると黒タイツを着た魔女が黒い鞭を大きく振るっていた。

 

 たちまちその枝分かれした鞭が肥大化し、地面に巨壁となり突き刺さる。ボクは油断しその壁の合間に閉じ込められてしまったが、その黒い牢獄は間髪入れずウルフさんの出した蒼い炎柱により焼き払われた。

 

「あらぁ? それじゃ逃げきれないわよ魔女共!」

 

 マザーさんが銃を撃った方向に、逃げて背を向ける2人の魔女達が目に映った。はっとしてボクも即座に銃を構えるが、残念ながらソレを撃つ機会は無かった。なぜなら、

 

「オラ! ココで終わりなんだよお前らは!! コスモティックヒート!!」

 

 既にウルフさんが強力な追撃をしていたのだ。マザーさんが牽制とすれば本命はウルフさん。彼が手を向けた方向に続々大きな炎柱が沸き上がり、それを魔女達は必死で躱していくが、やがて。

 

「おっし!! ヒット!畳み掛けるぜマザー!」

「ナイスよん! ウィザードちゃんも付いてきて頂戴!」

「はい、分かりました。」

 

 蒼い炎柱が魔女の1人を捕らえるのが目に映った。頑張って右へ左へと右往左往していたが、とうとう躱しきれなくなった様だ。一瞬、奴等が何故か動きを止めたのが気になったがそんなことを気にしている余裕は無い。

 

 奴等を追い詰めるべく突進する2人に付いていく形で、ボクも銃を片手に駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終幕だな。あっけないもんだ。」

「手を上げなさい魔女。話の内容如何によっては生かしてあげなくも無いわよ。」

「手を上げろ。観念しな、ボクを丸焼きにした報いを受けて貰うぞ。」

 

 何を思ったのか、逃げるのを止め突如単騎で突っ込んで来た敵の魔女。そんな無謀とも言える魔女の突撃をウルフさん達は手際良くいなし、ボク達は包囲する事に成功した。

 

「まだ、負けてねぇぞ私は・・・。」

 

 フラフラとしながらこちらに杖を向ける彼女に、恐らくもう隠し札は無いだろう。立っているのもやっと言う感じだ。何か切り札有るならとっくに切って来ないとおかしい。

 

 それでもなお立ち上がる彼女を動かす原動力は何なのだろうか。まぁゆっくり吐いて貰う事になるのだろうが。

 

 世界を滅亡へと導く魔女。

 

 そんな存在を見逃すわけにはいかない。兄さんやなっちゃんと言ったボクの大切な人を危険に晒す訳には行かない。兄さんが良く言う、正義だのヒーロー云々は分からないけれど、大切なモノを守りたい気持ちは当たり前のようにボクだって持ってるんだ。

 

 ただ彼女(魔法少女)にも譲れない、何か闘う理由が有るのなら、ソレを聞いておきたい。今なお睨みつけてくる彼女の目は、歪んでいるようには見えなかった。

 

「もう1人の魔女が見当たらねぇな? 何処へ隠した、吐け。」

「・・・。」

「もう何も手は無いんでしょ? 降伏なさい、悪いようにはし無いわ。」

 

 立っているのがやっと。魔女からはそう言った印象を受ける。

 

 何故彼女は折れないのか。そもそもなんでボク達と彼女は闘っているのか。まさかとは思うが・・・。

 

「お前ら、怪人なんぞと話すことは無い。負ける、訳にもいかねぇ。私は、私はっ・・・!」

「動くな! おい撃つぞ魔女!!」

「仕方ないわ、1度気絶させるわよ。銃擊用意して!」

 

 まさか、まさか彼女は騙されているだけなのでは無いか? だとしたらなるべく怪我はさせたくないが。そう口を開こうとした時に、魔女の顔が歪んだ。

 

 

 

──ニヤリ。

 

 

 

 有利なのはこちらである。引き金を引くだけで魔女は意識を失う筈だ。なのに、何を嗤う?

 

 今までで1番の嫌な予感が背筋が凍らせる。

 

「な、何だよ、何笑ってやがる魔女。」

「奇跡ってのは起こるもんだな怪人共。諦めず粘ってみるもんだ。」

「何の話なの? 何を言ってるの!? 答えなさい魔女っ・・・ウガァァ!?」

「マザー!?おいどうした!」

 

 突然だった。

 

 魔女を共に包囲し、引き金を引こうとしていたマザーさんが脈絡も無く短く叫び声をあげた。

 

 かと思うと全身に力を失い、膝を着く。

 

 目に映ったのはマザーさんの焦点の合わぬ目。何も言わぬまま、マザーさんはぱたりと顔から倒れこんだ。

 

 ボクは目を離さず見ていたが魔女(コイツ)は何もしていない・・・様にしか見えなかった。一体奴は何をしたのか。

 

「マザーさん! 何をした魔女!?」

『ウルフの10時方向に魔力反応ネコ! 何処だ、隠れてやがるネコか!?』

「猫、ウィザード、上だ!! 新手が空に居やがるぞ!」

「カッカッカ! 運が向いて来やがったぜ!」

 

 つまりこの魔女は何もしていない。新手の魔女が来たというのか!

 

 ウルフさんが銃をマザーさんの後の空に構える。

 

 セピア色の空に浮かぶ白い太陽が沈まんとする夕焼けを背に、黒がメインのゴシックロリータ調の新たな魔法少女が此方に両手を向け笑いながらフワフワ浮いていた。

 

「飛行能力持ち・・・なんてこった災厄級の魔女じゃねぇか! どっから沸いて出たんだ畜生め! 赤いのは無視して奴を撃ち落とせ、最早コイツは武器も出せてねぇから大したことは出来はしない。それより(災厄級)を何とかしないと逆にコッチが殲滅されるぞ!」

「は、はい! 撃ちます!」

 

 言われるがままに、先程の一斉掃射(バレルファイア)と同じ要領で銃を連射する。だが、ボクが焦っているのとそもそも距離が遠いからか、狙いが荒くなってしまい当たる気配が無い。

 

 

─────その銃、遅いわよ?

 

 

 そう、彼女が呟いたのが聞こえた気がした。悠然と佇むその魔女は、ボクとウルフさんの必死の銃擊を当たり前のようにスイスイと空を無尽に舞い踊り躱していく。

 

 空でフィギュアスケートを踊っているように手を胸に包むと、ハート型の魔法となり正確にこちらを撃ち抜く。

 

 その姿は優雅で、見惚れてしまいそうになるくらい(サマ)になっていた。

 

 わざわざ見せつけるかのように姿を見せた彼女の行動は当然、ソレだけで終わらない。

 

 両手を垂らし、くるりとターンしながらボク達の方向へ飛んで来たのだ。ひらりひらりと銃撃を擦らせること無く躱しながら。

 

「おいおい奴さんいきなりこっちに突っ込んで来やがったぞ! 舐めやがって! 撃て撃てぇ!!」

『気を付けるネコ!此方に来るって事は近接型の武器を持ってる可能性が高いネコ!』

「つまり近付かれたらゲームオーバーって事だね! この距離なら当ててみせるよ!」

 

 指が千切れる勢いで引き金を引き続ける。が、空気を掴むが如く捕らえられる気配は無い。

 

 それでも照準を彼女の移動先を予想し、指と銃口を動かし続けて・・・、そして。

 

──急に、忽然と。

 

──彼女が消えた。

 

 

 

 

 

「・・・はい?」

「なっ!? 消え・・・」

『しゃがめウルフ!! 急加速して突っ込んで来ただけネコ、狙いは・・・』

 

 

 

 

 

「マジカル・メテオインパクトォ!!」

 

 

 

 

 

 凄まじい轟音が鳴り響き、ウルフさんが向かいの道路のビル壁まで吹っ飛ばされてしまった事を認識出来たのは、全てが終わった後大口開けてボンヤリと音のした方に振り返った時だった。

 

 

 

「ぐっ!ウルフさん!?そんなっ!」

 

 

──形成逆転。

 

 たった1人で戦況をひっくり返した、災厄級と呼ばれた魔女。未だにその戦い方は不明。だが、恐ろしい力を持っていることは容易に想像が付く。

 

 

 一方、赤色の魔女は既に回復していた。仕留めるべきだったのだ、包囲していたウチに。

 

 既に彼女は何時の間にか再度、電気を飛ばしてくる魔法の杖を取り出し、こちらに向けて構えている。

 

 そう、さっきとは真逆。今はボクが敵に囲まれている。

 

『今すぐ逃げろネコ、悔しいが完敗ネコっ!もう

2人は助からないからお嬢ちゃんだけでもっ!!』

「そんな・・・」

 

 2人はひと言ふた言声を掛け合った後、こちらに武器を向けた。そもそも逃げられるのだろうか?2人を見捨てて逃げてしまうしかないのか!?

 

『お嬢ちゃんの装甲ベルトの防御力は段違いネコ、遮二無二走って奴等を撒ける可能性は高いネコ! 逃走ルートを今から送るから何とか逃げ延びるネコ! 俺は、もう人が死ぬのを見たくねぇンだネコよ!!』

「マザーさんは!? ウルフさんは!?」

『2人は、何も知らない皆を! お嬢ちゃんのような平和な世界の人間を守るためだけに命を懸けている男達ネコ! 頼むから気にせず逃げてくれネコ!』

「でもっ・・・でもっ!」

『逃げろって言ってるネコォ!!』

 

 

 

「諦めたか!? 怪人よ。なら自らの行いに後悔して死ぬが良い!!」

 

 急激に魔女の杖を中心に光が集まり、回転し、煌めく。

 

 ウルフさん達を見捨てて逃げることも出来ず、かと言って動くことも出来ず。その場で棒立ちしてしまっていたボクは魔女に杖を向けられて居ることすら見えていなかった。

 

『ぐ、仕方ない! 腕を前に出して頭を守るネコ! 凄まじい魔力だがギリギリ耐えられる計算・・・何ィ!? こんな出力何かの間違いネコォ!!?』

 

 猫が何かを言っているが頭に入ってこない。何故ボクは2人を切り捨て早々逃げ出さなかったのか。

 

 ・・・アレは駄目だ。そうボクは、直感的に感じていた。

 

 赤色の魔女の繰り出すあの一撃は気張れば耐えられる一撃なんかじゃない。なんとしてでも躱さないと死んでしまう、正真正銘の致命弾だ。

 

 

 

電撃乱舞(エレクトリカルパレード)!!」

 

 

 

 そう気付いた頃には、杖からねじり出された光の奔流が目の前数メートルまで迫ってきていて・・・。

 

 

 

 また、世界がスローになった。本日2度目の走馬燈のようだ。

 

 不敵に笑う災厄級、押し寄せる巨大なエネルギー。

 

 どうせならひと思いに殺せよな。少しずつ迫ってくる死を身動きできず受け入れるなどどんな罰ゲームさ。

 

 精神の加速に肉体が付いていかず、先程のようにマザーさんが割り込んでくれることも無く、ボクは今度こそ・・・

 

 

 

 

 

 

──あれ?

 

──なんか歩けるぞ?

 

 加速しきった走馬燈の世界をボクは悠々歩いていた。

 

 困惑しながらキョロキョロと辺りを見渡す。やがてボクの装甲ベルトの正面に付けられた円形の留め具のようなモノがが狂ったように回転している事に気付き、その隣の液晶には・・・

 

 

 残り8秒と表示されていた。

 

 

 

「ってわぁぁぁ!?」

 

 その表示の意味を悟ったボクは慌てて走りだし魔女の放った死の魔法を躱した。もう安全だろう。 

 

 ・・・まだ数秒だが、時間はある。すぐ近くに、杖を構えボクを撃ち殺そうとした魔女が目に入った。

 

「よくもやってくれたな!」

 

 迷わずボクは赤色の魔女の背中に回り込んだ後、引き倒してを思いっ切り踏みつけたのだった。

 

 

 

 

 

 

「加速、完了。」

 

 

 

 息を付く間もなく、世界が等速に戻る。

 

 

 

『あ、あああ!! ああああああ!? また猫は救えなかった、殺しちまったネゴォオ!? おお? おおおおお? ウィザード、生きているネコかウィザードォ!! 応答するネコォ!!』

「あ、うん無事さ猫。」

 

 猫さんはすっごく取り乱していたようだ。ホントに良い妖怪(猫?)なのかもしれない。

 

 

「テメェ!! レッドからどけぇ!!」

 

 

 状況を把握した災厄級が激高する。先程までの優雅な佇まいがなりを潜め野生を剥き出しにしてきた。こっちが本性なのだろうか?

 

 だが、そちらが災厄級とやらだとしてもボクの先程の加速能力なら対応は可能だろう。発動さえすれば停止していた彼女に対応出来るとは思えない。

 

 発動条件がまだよく分からないが・・・恐らく死を意識する事だろうか?

 

 なんにせよ、勝機は十分にあ─────

 

『ネコォ!? 何をしたんだウィザード、いきなり魔力がソコを尽きかけてるネコ! このままじゃ装甲が消滅するネコよ、とっとと逃げるネコ!』

 

 

 ・・・え?

 

 

『く、防御機構シャットアウト! すまんがバリアを切って見てくれだけでも維持するネコ、今のはウィザードは生身にダンボールで武装してる程度の防御力ネコ!』

 

 

 ・・・ちょっと?

 

 

『これだけやってもあと数分しか装甲が持たないネコ・・・。マザー、ウルフ起きろ!! ウィザードをなんとか逃がすネコォ!!』

 

 

 あれ?ボクの勝機どこ?

 

 

 ・・・違うね、これはむしろ絶対絶命のピンチってやつだね。うん、兄さんが好きそうなシチュエーションだ。

 

 兄さんはピンチこそチャンス! 窮地こそ不敵に笑って前へと踏み出し見せ場に変えろ! とか言ってたがこの状況に陥ったらホントに実行するのだろうか。

 

 ・・・やりかねないなぁ、兄さんなら。

 

 

 

『ぐ、何とか喋って時間を稼ぐネコ・・・何か、何か手を考えるネコ。』

 

 

 ・・・待てよ? 前へ踏み出す、ね。

 

 

「猫、大丈夫さ。ボクに任せて。」

『ネコッ!? な、何をする気ネコ?』

 

 

 そう言って猫と通信を切り、ボクは災厄級に向かって話し掛けた。

 

「・・・心配せずとも次は君だよ、悪逆の“魔女”め。」

『何を言ってるネコォ!?』

 

 窮地こそ不敵に笑って、前へ踏み出し見せ場に変えろ!だっけか。

 

 何時だってボクを守ってくれた、味方でいてくれた兄さんを信じてみよう。きっとそれが正解の筈さ。

 

「何が魔女モジャ!! お前達の目的は分かってる、悪魔はどちらモジャ!!」

「おーともよ、テメェの悪事はまるっとお見通しだ!!」

 

 

──あれ? なんか2人分声がしたぞ?

 

 

 動揺するな、落ち着け。弱みを見せるな不敵に笑え!

 

「話にならないね。すでに洗脳済みとは・・・。君は成り立ての魔女のようだから怪我をし無いよう手加減してあげようとは思ったが、そうは行かないらしい」

 

 ゆっくりと奴等に向けて足を進める。

 

 

『時間が無いネコ、無茶ネコ! 残り30秒で装甲が無くなるネコ・・・!』

 

 

 怖い。災厄級の魔女。もし装甲が剥がれ全てがハッタリだとバレれば、ボクなんか即座にひねり潰されるだろう圧倒的な存在。

 

 

 

 とは言え、猫の言うにはどうやら魔女は元は人間らしい。

 

 

 

「ウルフさんの仇を取らせて貰う。覚悟しろ。」

 

 

 だったら、騙せる事だって出来る筈!!

 

 

 

『く、あと15秒で装甲解除ネコ!』

 

 

 

 ニヤっと口元が歪む災厄級。

 

 心臓が飛び跳ねる。見透かされたか───────

 

 

「く、くくっ。かかったな怪人!! 今だやれオレンジ!!」

「・・・何だって!? まだ新手が居たのか!?」

 

 

 

 まさかの新手の存在を示唆され、ボクの混乱はピークに達した。もう1人の位置の分からぬ敵に奇襲なんかされたら、ボクはもうっ・・・!

 

 

 

 

──ビュオンッ!!!

 

 何かの飛び立つ音。目の前から、災厄級は忽然と消え去っていた。

 

 

 

『安心するネコ! 辺りに敵の気配は無いネコ!』

「ってハッタリか! 待て!」

 

 

 そう声をかけた時には、既に災厄級は空高く飛び立っており・・・。それと殆ど同時に、

 

 

ぷしゅー。

 

 

 ベルトがずり落ち、装甲が解除され、ボクは生身に戻ったのだった。

 

 

 

「・・・た、助かったぁ・・・。」

 

 

 そのまま尻餅をつき、へたれるように座り込んだボクを責めることは誰も出来ないだろう。こうしてボクはウルフさんやマザーさんも守り抜く事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『お手柄ネコ、ウィザード。』

「う、うん、ありがとう?」

『お礼を言うのはこっちネコ。無関係なお嬢ちゃんを巻き込んだ挙げ句危険にさらし、助けてもらうとか・・・戦士失格ネコよ。』

 

 

 少ししょげたような声の猫から通信が入った。マザーさんとウルフさんはまだ起きる気配がない。

 

 

「戦士・・・?」

『俺達のように魔女を討つべく立ち上がった人達ネコ。1つ、大義を失わず。1つ、無辜の民の為。1つ、決して引く事なかれ。特定の誰かのためで無く、この世界を守ることを誓いベルトを付ける事を選択した者達ネコよ。』

 

 世界を守ることを誓った、か。スケールが大きすぎてピンと来ない。そんな、見たことも無いような人のために命をも賭けられるものなのだろうか?

 

『本能として人間にも元々あるのだネコ。種の存続の為命をも捨てうる覚悟が。まぁ、ヒーローになりたい願望とも言い換えれるネコ。こういう事、周りに言ってる人居たりしないネコ?』

「それなら居ますね。めっっっちゃ身近に居ますね。」

『ほう。ま、そんな感じネコよ。』

 

 つまり今日巻き込まれたのが兄さんなら全てしっくりきた訳か。いや、本当にヒーローになられて、それで死なれたら困るし、むしろ巻き込まれなくて良かったと言うべきか。

 

『で、だ。結果として凄く助かった訳ではあるネコが、何で2人がやられた時逃げなかったネコ?』

「あ、う、えーと。よく分かんない・・・。」

『装甲ベルトには個人の隠された能力を暴き出す性質が有るのネコ。たまたま、お前さんが何らかの───瞬間移動(テレポート)あたりネコか? に目覚めたから良かったモノの!一歩間違えたら死んでいたんだネコよ!』

 

アレ? なんか猫の喋り方がすっごいトゲトゲしいぞ?

 

「あれ? ひょっとして猫、怒ってる?」

『激怒してるネコ!! 装甲ベルトを貸し出したのも、元々お前の安全の為ネコ!戦士2人と合流させたのも、味方が近くに居る状況で銃の後方支援してた方が安全だからネコ! そんな魔力垂れ流しで隠れたって見つかって襲撃されるのが目に見えてたからネコよ!』

「ええ!? ボクを無理矢理闘わせる為とかじゃ無かったの!?」

『そんな訳有るかぁネコ! 猫達は、会ったことの無い人の為命を賭けると誓った戦士! 一般市民を危険に巻き込ませないよう最大の努力をし続ける存在ネコ!』

 

 

 そう言えば1度も闘えとは言われてないような?

 

 

「ご、ご免なさい・・・。」

『分かれば良いネコ。・・・いや、そもそも趣味で猫の空間隔絶装置にした俺が一番の元凶ネコ、何を偉そうに言ってるんだネコ・・・。すまん、ウィザード・・・いや、マホちゃん。』

「いえ、そんな・・・」

 

 

 

「いや、猫は悪くねーよ。よくやってる。不甲斐ねえのは一瞬でのされて寝てた俺達だな。」

 

 フラフラと。こちらへ近付いてきたのは髪の短い糸目の男だった。

 

「えっと、ひょっとしてウルフさん?」

「おー、俺がウルフだ。って、装甲も外れたし今は藤って呼んでくれ。藤子朗(ふじしろう)ってんだ、よろしくな。」

 

 かなり重傷に思えるのだが、藤と名乗った男は平然と受け答えをしている。ただ足が震えているのは見なかったことにしよう。強がっている男子を立てるのは良い女子の秘訣だ。

 

「これはどうも。えっと、照東真帆と言います。」

「おう、照東ちゃんね・・・照東、照東?うわぁ。」

「な、何ですか! ボクの苗字が何かおかしいですか?」

「多分お前の兄貴同級生だわ・・・。仮面ライダーマニアだろ? その、席隣でな。休み時間の度仮面ライダーの話してくるの止めさせてくんない?」

「うわぁ。」

 

 藤さんは兄になかなかご迷惑をかけられているご様子。

 

「猫はマザーさん頼む、俺は妹ちゃん送っていくわ。」

『ウルフ、お前さん割と重傷ネコよ・・・』

「ポッド入れば1日で治るだろ。じゃ、帰ろうぜ妹ちゃん!」

 

 そうだ、ボクは早く帰らないと。もう良い時間になっている、今すぐ帰って料理の支度をし無ければ。

 

「俺達が、いや妹ちゃんがたった1人で闘い抜いて守った・・・」

 

 ウルフさん、いや藤さんが手をボクへと差し伸べる。

 

 

 

 

「日常へ、よ。」

 

 

 

 

 

 この日、たまたま兄の帰りがすこぶる遅く、魔女から逃げる途中で落としてしまった食材をスーパーで買い直してなお、兄さんに出すご飯が遅くならずに済んだのは幸いだった。

 

 

 ヒーロー。見知らぬ人のため、命を賭けれる人。

 

 

 兄さんが仮面ライダーが好きな理由が、ほんの少し理解できた気がした。


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