リールベルトに成り代わった男の物語   作:冷やかし中華

9 / 17
オリ主とパクノダとの馴れ初めを電波したので書いてみました。ハンター試験は終わりの方だけ。


成り代わって9日目

 どことも知れぬ都市国家の郊外、その廃屋崩れの建屋内に彼らの姿はあった。

 

 ――カツ、カツ、カツ。

 

 本来なら床のコンクリが剥きだしの場所であろうと、踏みしめるたびに「ギィ」と音を鳴らすように設えられた木製の通路であろうと、その足音を消して動けるであろう彼らではあるが、所謂『仮宿』と呼ばれる活動の基点となるような場所では、特に誰に気兼ねする必要も無く既に癖になってしまった必要最低限の動作が立てる足音以外は立てずにリーダーの指示があるまでは各々が自由に生活していた。

 

「まだクロロたちは来てなかったのね?」

 

 そう声を漏らして天井や周りの壁を力任せに破壊されて作られた小ホールのような場所に揃っている面子を見て、たった今、到着した金髪とメンバーの中では取り分け豊満な身体を持つ美女であるパクノダは言った。

 

「今、コルトピとこっちに向かってるって。それよりもヒソカは?」

「さあ? どうせ、またバックレでしょう。クロロも特に好きにさせているみたいだし、放って置けばよいのではないかしら?」

「どうなんだよ、マチ。今度は、あの野郎は来るのか?」

「知らないね。一応、伝令だけは入れてあるよ」

 

 口々に会話するのは既に集っていたメンバーたち。団長の不在について答えたのは、この世界でも有数の犯罪集団である幻影旅団の参謀役であるシャルナークと呼ばれる青年。自分たちのトップである人間について、確認できている限りの動向を周知し、そして既に最初の数回以外では呼び出しがあっても平然と無視を貫き続けている男の話題。その問いには到着したばかりのパクノダが幻影旅団の団長たるクロロ=ルシルフルと名乗る男の意向を踏まえて答えた。そして、シャルナークとパクノダの会話に入ってきたのはウヴォーギンと呼ばれる大男、まるで猛獣か何かを思わせるような雰囲気に、強化系特有のサッパリとした竹を割ったような性格を持っており、この幻影旅団と呼ばれる犯罪集団の中での腕っ節はメンバー一とまで言われている。水を向けられたのは仲間たちからマチと呼ばれている和装姿の美少女だ。いつも無断で活動をバックレる男のことを思い出したのか、心底面倒くさそうに動向については知らないとだけ首を振って答えた。

 

「そんなことよりもよぉ、ヒソカとか、さっさとぶっ殺して、あの車椅子の男を勧誘すれば良いんじゃねえか?」

「リールベルトは………誘ったとしても幻影旅団(クモ)には入らないでしょう」

「んなこたあ関係ねえよ、入れちまえばこっちのもんだ!」

 

 ウヴォーギンもヒソカと呼ばれた集団の中でも嫌われている気のある男のことを余りよく思っていないのか、さっさと殺して(追い出して)、代わりの団員候補を入れては如何かと声を大にするが、それに首を振って答えたのはパクノダだ。その表情は少し残念そうでもあるが、その境界線は明確であるからこそ今までどおりの付き合いを望むのであれば無理強いをするべきではないと分かっている故のものだった。

 

 彼女とリールベルトと呼ばれた男との出会いは、今から1年以上前に遡る。その日、パクノダは、たまたまプロイソス王国が運営する野蛮人の聖地とも渾名される天空闘技場の周辺を訪れていたのだ。目的は、近々開かれるという美術館に用があってのこと。その時の美術館は目的のものを展示する前であったが、建屋の内部構造を事前に把握し、展示品は何処に置かれるのか、普段の警備が敷かれている体制は如何なのかなど、下調べをするには何時足を向けても殆ど大差ない(本番の前に、もう一度だけ足を運べは事足りる)と思ってのことだった。そこで出会ったのだ、あの異常で異様な雰囲気を身に纏った車椅子の男に。

 

 

 * * *

 

 

「これ、落としましたよ?」

「あ、ああ。ありがとう」

 

 そういってパクノダは車椅子の男に近づき、男が()()()()()()()()()()()()()()にも関わらず、美術館の入り口にあったパンフレット、それに挟まれた何の変哲も無い栞を(あたか)もたった今、パンフレットの隙間から落ちたかのように装って手渡そうとして呼び止めたのだ。

 

「あれ? 違うな。(それ)は私のではないよ」

「あら、そうなんですね。てっきり貴方のものかと思ったので声を掛けたのですが、余計なお世話でしたね。ところで誰かお付のヒトはいらっしゃらないの?」

「それが、こんな身体(なり)になって日も浅い上に、特に友人や家族も近くにいなかったので誰にも頼んでないんですよ」

 

 『下半身不随になって日が浅い』という風には、()()()()()()()()()()()()不信感にも似た何かを覚えつつ、同時に対象となっている人間が『念能力者』だということを身に纏っている雑なオーラの流れから把握してパクノダは人知れず息を呑む。もし自分が本気になれば、自身が幻影旅団という集団の中において、どちらかと言えば非戦闘員側に立っていることを抜きにしても、この程度の実力者なら訳も無く屠れるだろうという計算をして瞬時にそれが誤りなのではないかと悟らされた。

 

「あ、あの、まだ何か?」

「いえ。なんでもないの。ただ、ちょっと知り合いの男性に雰囲気が似ていたような気がしたから」

 

 取ってつけたような言い訳にも関わらず、男性は「そうですか。それでは私はこれで」と勝手に納得し、また覚束ない手つきで車椅子を操作しようとして、気付けばパクノダは車椅子を押す取っ手部分を手に取っていた。

 

「わ、えっと。まだ何か?」

「いえ。これも何かの縁でしょうし、美術館にいる内は移動を手伝いますよ。その方が貴方も周りの方も楽ではないかしら?」

「……………そうですね。言われてみれば、その通りかもしれません。ありがとうございます」

 

 他人に優しくされることが慣れていないとでも言わんばかりの動揺を自身が身に纏うオーラで表現(もちろん本人は全く意識などしていないだろうが)する男性にクスッとパクノダは笑い、同時に、また見つめられた視線にドキリと胸が弾むのを理解した。2人は互いに名乗ることもせず、ゆっくりと時間をかけて展示品を見て回る。その最中、男性は展示されている美術品のあれやこれやについて、有料のレンタル機器から流されるような取ってつけたような説明とは一味も二味も違う解説を聞かせてくれたのだ。それに惹かれるようにしてパクノダは、車椅子の男と美術館の中を見て回っている間に、自分の本来の行うはずだった目的を忘れて展示品に見入っていたことに気付いてハッとした。中でも特にパクノダが関心を持ったのが、今回の展示品の中で目玉と称されていた世界でも現存数の極めて少ないと言われる幻のライ王朝の青磁器『青雲文壷』だっただろう。彼は、それを一目見て「……違う」と呟いたのだ。もしかしたら、それ以外にもパクノダが気に留めなかった呟きもあったのかもしれないが、少なくとも、それだけはハッキリと彼の口から否定の言葉が告げられていたから気になったのだ。

 

「『違う』って、どうかしたのかしら?」

「あ、いえ。こちらのことです。何か貴女の気に障ったのなら、そのすみません」

 

 男は、それだけを呟き神妙な表情を作って美術品を眺めていた。パクノダは急かした訳ではなかったが、その『青雲文壷』について解説をねだり、男性は表情を和らげてスラスラとそれについて答えてくれた。最後に非常に気になる言葉を残して。『数千年前の品にしては、(それ)が持つ神秘の量が少なすぎる』と。それは、たまたま今度は何を呟かれても聞き逃すものかと耳に "凝" をしていたが故に聞き取れたことだった。もちろん、それが何を意味するのかは当時も、そして今もパクノダには分からないし、自分たちの扱う念能力と呼ばれる特殊なチカラを扱う者が作った品故に神秘(オーラ)を纏っているという意味とは違って聞こえたからだ。

 

 だが、その時のパクノダは男性に対して、それについての解説を求めるようなことはしなかった。それをすれば、自身もまた念能力者であることを暴露してしまう可能性を考えていたから。故に「気にはなるけど、忘れましょう」というのがパクノダの秘めた思いだった。

 

 やがて入館した時間も遅めだったこともあり、美術館そのものの閉館時間が近づいてきたことを報せる場内アナウンスが鳴り響いて会場を後にした。

 

「今日は、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ楽しい時間を過ごせました」

 

 出口から外へ出ると、時刻は夕暮れにほど近い景色に変わっていた。男性はパクノダと別れ、今度は自分自身の手で車椅子を操作し帰途につく。未だ、互いに名を告げないことに若干の敗北感を覚えながらパクノダは最後に声を掛けた。「あの、せっかくだからお名前を聞かせてもらっても?」と。

 

「…………………リールベルト」

 

 車椅子の男性は少し考えるような仕草を見せてからポツリと答える。それを受けてパクノダは、また新しい疑問を覚えるが、それについては言及せずに相手が偽名を告げるというのならば自分も、そのレベルに合わせようと微笑を浮かべて答えたのだ。「私は『ノダ・クーパ』といいます。機会があれば、また逢いましょう」と。それが2人の最初の出会い。それから何故か、また自分の方から車椅子の男ことリールベルトのことが気に掛かり、先に逢いに行くという愚行を起こすとは、当時は思いもしていなかった。

 

「本当に、なんであんなことをしたのかしらね? まぁ、結果オーライだけど」

「パク、何か言った?」

「いえ、なんでもないわ。それよりもクロロも着いたみたいよ」

 

 数日後、幻影旅団によって行われたと見られる美術館の殺人強奪事件が、また世間を賑わせる事になった。もちろん悪い意味で、だが。

 

 

 * * *

 

 

 ――ところ変わってハンター試験(二次試験)

 

 『知識』のとおり、剃髪のハゲが『ニギリズシ』の作り方を盛大に周知(バラ)し、それにメンチがキレたことによって残された受験生の多くが審査に殺到する結果となった。

 

「ほら、言ったとおりになっただろ?」

「本当だね。俺、本気で手が滑りそう」

「♣」

 

 一次試験中の審査員ごっこで新しい果実候補でも見つけたのか、それともそれなりに付き合いが長くならないと読み取れないような楽しげな雰囲気を纏うヒソカと、そのヒソカの仲介によって知り合うことになった針男のギタラクルことイルミ=ゾルディックと二次試験を受けていると、半ば俺の予想した通りの結果を迎えたことに2人の男は苛立ちを露にし、殺気を沸き立たせていた。もちろん、イルミはキルアが近くに居ることもあって、そこまで本気ではないらしく、ヒソカの気配に上手く自分の気配を被せていたが。

 

「それなら、これをもっていけよ。とっておきの爆弾を用意した」

「なにこれ? これがニギリズシ??」

「そう。さっきのハゲも、そして順番待ちしている連中も似たようなものもってるだろ?」

「あ、本当だ」

 

 ポンッと擬音の聞こえてきそうな音を立ててイルミは手をたたき、そしてリールベルトの用意した『とっておきの爆弾(ニギリズシ)』を手に取ると意気揚々と列に並んで行った。そして――

 

「なによ、これ。凄いじゃない。ヒトって見た目に依らないのね!

 それじゃあ、いただくわ…………………………………………………………………………」

「メ、メンチ??」

 

 ナンバープレート301番の持ってきた見事なニギリズシを見て、メンチも、そしてブハラすらも、その表情を緩め、それに魅入る。それは素人が見ても『素晴らしい一品』と評して構わないほど精錬された腕によって握られた鮨のそれだったが故に、メンチは直前までの苛立ちも、それを持ってきた人間の人相にも気を止めずに目を輝かせたまま、ひょいっと口に放り込んで、暫く黙りこくった。

 

「…………………辛ぁぁぁぁぁ! なんてものを食わせるのよ!! このスカタン!!!」

 

 そう、それは酢飯(シャリ)鮨ダネ(ネタ)に凄まじい量のワサビと「何故、そんなものを用意した!?」とツッコミを入れたくなる各種調味料、そして森林公園内で取れた味覚を鋭く刺激する野生の実などを火で焙ってから磨り潰して仕込んだ、所謂『激辛ニギリズシ』だったのだから。

 

 メンチは涙目になりながら、アガリと称される緑茶や水などを口に運ぶが、一向に口の中の刺激(しびれ)が取れず、しばらくのたうちまわる結果となったが、それをみてほくそ笑む男が一人「うん、自業自得だよね!」と晴れやかな呟きを漏らし、それを運んでいったイルミもヒソカも、あまりにもあまりなリアクションが返ってきたことに多少の溜飲を下げたようだった。

 

 ――第287期ハンター試験 第二次試験(料理で審査員を満足させろ)通過者:0名


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。