リールベルトに成り代わった男の物語   作:冷やかし中華

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ら、らんきんぐ入りしていた。びっくりした。
(過大な評価、お気に入り、感想、誤字報告 ―― 等、ありがとうございます)


成り代わって6日目

 ――1999年1月

 

 リールベルトに成り代わり、しかも演技をしている内に自分の元々の素性を忘れた間抜けです。(挨拶)

 

 当初こそ凄い混乱に囚われ、しかも間の悪いことに、それが幻影旅団のメンバーの前だったこともあり加速する勘違いという命の危機に曝されたものの、何とか無事に乗り切ってから4ヵ月もの時間が過ぎていた。俺自身のことは、まぁ、その内に思い出すかもしれないし、思い出さなければ、このままリールベルトとして過ごすのも、最早今更感があって苦にならないと開き直ることにした。

 

 ただ、ヨークシンでの一件以来、何故かパクノダやマチ、それにシャルナークたちとは頻繁にメールや電話やり取りするようになっている。これ嬉しいことなのだろうか……?

 

 その実態が世界を震撼させる犯罪集団だということに目を瞑れば、パクノダは綺麗だし、マチは可愛いし、シズクは天然だし、シャルは(カネは取るみたいだが)有用な情報提供者になってくれるらしい……などなど。各々が、それぞれの分野における専門家(スペシャリスト)と言っても過言ではない素晴らしい特技を持ち合わせている(知っていたけど)。とはいえ、(電子媒体を通すことが9割だが)付き合わされている身としては、いつ背中から刺されるのかと想像しまうことも多々あり、「正直、迷惑なんです……」という言葉がこれまでも何度か喉から出かかったことはあるのだ。特にシャルナークのヤツが面白がって強化系3バカを紹介してきたときとかな!

 

 ホント、アイツいい加減にしろ!!

 

 と声を大にして叫びたいところだったが、それは言えない。言ってはいけないことだと理解している。俺自身がこんな身体(なり)だったことも影響してか、紹介された強化系3バカからは興味深い視線を受ける程度で特段問題は無かったのだけが本当に不幸中の幸いだったといえよう。とはいえ「本当に心臓に悪いです」と何度言い掛けたことか。何故、俺はこんな連中と付き合いを継続しているのだろう(というか未だに飽きられずにいるのだろう)、という疑問の日々を送っていたところに何を血迷ったのか、ヒソカから「ハンター試験を受けに行こう♣」と強制連行されて今に至る。

 

「いらっしぇーい」

「ステーキ定食弱火でじっくり♥」

 

 これまでの道程で案内役の人間から合言葉になる注文内容(メッセージ)を受け取っていたことでスムーズに地下道まで通された。しかし、だがしかし、だ。本当ならヒソカに何を言われようとカストロをスケープゴートにする算段だったはずが、何故、こんなことに………と『Orz』の姿勢を取りそうになる俺であった。まぁ、強制連行だったしな、是非もないね!

 

 そして何の目的で作られたのかも不明な地下道にて、受付係を務めていた緑の人……ヒト?……から「43番」のプレートを受け取り、相変わらず妙な視線に晒される。

 

(まぁ、それはそうだろうな。)

 

 もう慣れたものだが、本当によくこんなところまで来たものである。しかし来てしまった以上は、やるしかないので試験が開始されるまでの暇な時間を使って『知識』の引用をすることに腐心することにする。そして、引き出し始めてから間もないタイミングで今回のハンター試験は、俺にとってイロイロと致命的ではないかということに気付いたのだった(遅)

 

 何と言っても考え付くだけで――

 

 一次試験の『マラソン』……途中には階段やら湿原やらある。

 

 これは別に問題無さそうだ、あの長い階段だけは不安だが、そこはホラ、ここまで俺を引っ張ってきた保護者(笑)のヒソカさんに何とかして貰おう。持つべきものは頼もしい友人だよね(棒)

 

 ちなみに現在の俺は、未だ表向きは下半身不随で()()()()()。元々、それほど重症でもなかったのか。あるいは日々の修練、リハビリの賜物か。もしかしたら、そもそも論として既に俺が成ったことで全てが変わっているのか。いずれにせよ念能力も用いた『鬼札』の開発は順調である。まぁ、これを使うことは生涯ないことを願っているが……という話はそれはさておき、今の俺が愛用している車椅子は、俺の天空闘技場での戦績が広告として有用だと判断したらしい、パドキア・ミンボ・プロイソスの三ヵ国で拡販を広げている電動車椅子を開発しているメーカー『パワー・モービル』というところが有力な支援者(パトロン)となってくれたことで、その関連企業や民間団体から寄贈された必要に応じて座りながらでもスクーター式にモデルチェンジ可能な、大変便利な電動車椅子である。なにこれ、ハイテク過ぎて怖い(かっこいい)

 

 なお、その天空闘技場にいる200階クラス(フロアマスター)の実情を何も知らない支援者からは「是非、このままフロアマスターに!」などと言われているが、ハッキリ言って渦中の人である俺から言わせれば「無茶言うな」という話である。いやさ「挑戦権を獲得するくらい(=10勝)は、なんとかなるかもしれませんけどね?」けれど、それはそれ、これはこれって話なわけですよ。ヒソカとなんか天空闘技場が設けるような一定の縛りがある場所でさえ戦いたくないっつうの。「命を大切にね」ってデンコちゃんも言ってただろうが。

 

 

 閑話休題

 

 

 二次試験の『豚の丸焼き』と『ニギリズシ』……ちょっと面倒くさいが別に問題はないように思われる。

 

 だが、そのあとにある再試験の『クモワシのタマゴ獲り』はアカン。崖からダイブとか、気が狂ってるとしか思えない。俺、車椅子やぞ! 車椅子!! もう、ここも保護者(笑)のヒソカさんに何とかしてもらおう。さきほど仄めかした『鬼札』、つまり俺が開発中の奥の手を明かす時は、それを見た相手が死ぬ時だ。まさに別世界の住人達が会話していたという『知識』から引用するに――

 

 『切り札は先に見せるな』『見せるなら、さらに奥の手を持て』

 

 ――というやつだろう。なので少なくとも此処でヒソカが手伝ってくれなかったら、俺は二次試験の再試でエスケープする所存である。というか、どう考えても障害を持った人間に優しくないだろ。差別だ、差別。訴えてやる。嘘です、ごめんなさい。

 

 厳しさを増していくのが伝わるのが三次試験の『トリックタワー』……72時間以内に1階のエントランスに降りてこいというのは良い。それは別に問題ないのだが、たしかアレって人1人が通り抜けられる隠し扉を潜ってタワーの中に入るんじゃなかったっけ? と、そのことに気づいた俺は愕然とした。まさに――

 

  \(^o^)/オワタ

 

 ――である。

 

 さてタワーを降りられないとしたら、あの吹きさらしの場所(トリックタワー)で3日間、飲まず食わずで過ごすことになる。殺す気か!! おら、そんな試験嫌だ。おら、そんな試験嫌だ。と思わず熱唱してしまうかもしれないほどの危機到来である。まぁ、いざとなったら『奥の手』を晒す覚悟でダイブしかないよなぁ。腹を括るか。そう考えていると――

 

「おいおいおい、お前、来る場所間違ってんじゃねえのぉ?」

「自分の足で立てないボンクラが一体何しにハンター試験を受けようってのよぉ?」

 

 これから立ちふさがるであろう苦難に頭を抱えそうになっているところに他人を下に見て悦に浸ることしかできない有象無象が寄ってきたことに怒りが爆発しそうになった。だが、それをグッと堪えてニコニコした表情を作って顔を向ける。人間とはガチギレしている時よりも、何でもないような顔をして笑顔を浮かべている時の方が怖いということを骨の髄に叩きこんでやろう。そう考えていると不埒な男どもは、その両足が突如なくなったかのよう膝を突き、ついで阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡った。

 

「はい♠ これでキミ等もリールベルトとお揃いだね♦」

「こんなゴミどもと俺を一緒にするなよヒソカ。お前と言えど、あまりワケ分からないこと言ってると殺すぞ?」

「あ、それイイね♣」

「いや嘘だ。本気にするな。あと、その股の間にあるものを何とかしろ。布越しとはいえ、ソレを俺に向けるな変態」

 

 世の中、冗談が通じないヤツもいる。しかも、それが飛びっきり性質の悪いヤツである場合は言葉には細心の注意を払わなくてはならない。俺が即座に自身の言葉を撤回すると「なーんだ、やっとリールベルトが本気になってくれると思ったのに、残念♥」と大仰な仕草で答えるヒソカを尻目に、そのヒソカによって両足の腱を断たれたらしい男2人に「他者に対して喧嘩を売るのは構わないが、もっと周りを良く見てやることだ」とだけ告げて、俺は血みどろになった床を避けるようにして今いる場所から移動したのだった。

 

 ――ジリリリリリ

 

 やがて287期ハンター試験の受付を終了する & 一次試験の開始を報せるアラームが鳴り響き、隠し扉とみられるところから1人の男性が壁面を伝うパイプの上に姿を現した。

 

「承知しました。一次試験、405名が参加と言うことですね。

 申し遅れましたが、私一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」

 

 先頭を行く試験官は、自らが話したいことを告げると次第にペースを上げていく。ヒソカに合図を送りつつも、とりあえず階段までは適当にやるかと車椅子を操作した。

 

(しかし、有力な支援者が付いてくれて本当に助かったな。こんなの何十キロも手で車輪を回して移動とかだったら完全に愉悦のネタだったじゃねえか……って、まさか、それを狙ってたんだろうか? あの野郎!)

 

 などと勝手な被害者意識を持ちながら俺の前を走る男の背中を見やる。いや、先ほどの件もあり受験者の全員が全員、ヒソカと(その知り合いと認知されたらしい)俺を避けてくれるので本当に助かっている。そんなこんなで俺は大階段が見えてきたところでヒソカに声を掛け、そのまま運んでもらうのだった。やはり持つべきものは頼りになる友人だな(確信)


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