気を取り直してハンター試験です。読者の期待は裏切るものだと常々思っています。
三次試験が始まって71時間57分。試験終了まで、あと3分。
「なんかヒソカそわそわしてねえ?」
「そんなことないよ♦ ただ、ちょっと気になった玩具候補の果実が試験を突破できなさそうだと思って見当違いだったかと思っただけ♣」
「えーっと、たしか――」
俺は、何食わぬ顔ですっとぼけたことを言いながら確認すると、ヒソカは気になる人物たちの名前を挙げた。もちろん予想した通りの4人だ。
「まぁ、そういうこともある。勝負は時の運とも言うしな」
「そうだねェ………」
ヒソカが何かを言い掛けたところで試験を突破したものが通ってくる通路の1つが音を立てて開いた。そこには――
「ふぅ。なんとか間に合ったな」
「いてててて、本当だぜ。手がマメだらけだ」
「こうして私たちがハンター試験を継続できるのも全てはゴンの機転のおかげだ。改めて礼を言う」
「別にいいよ。あー、でも本当に上手くいって良かったあ!」
その時間ギリギリで滑り込み合格を果たしたゴン・キルア・クラピカ・レオリオと呼びあう受験生は互いに互いを、そして殊勲者となる中心人物のゴンを褒め讃えた。同時に『ビー』っというアラーム音と供に三次試験を終了するアナウンスが鳴り響いた。
「合格おめでとう。ギリギリだったとはいえ、素晴らしいね」
俺自身も何処かホッとした表情を浮かべながら柏手を打ち、4人の合格を祝う。それに釣られるようにして、未だハンターライセンス取得を目指すライバルであるはずの他の受験者も手を叩いて無事に三次試験を突破したものたちを祝っていた。
「世の中、何が起こるか分からんものだな」
「まったく、これだから青い果実探しは止められないよ♥」
「こんなところで落ちたら、帰って鍛え直しのメニューを更新しなくちゃいけないところだった」
俺、ヒソカ、イルミは誰にでもなくお互いだけが聞き取れる音量で言葉を交わすのだった。
――第287期ハンター試験 第三次試験(72h以内にトリックタワーから脱出せよ)通過者:26名(うち1名死亡)
* * *
時間は遡って三次試験開始してから約3時間後(残69時間弱)、キルア・クラピカ・レオリオは、おそらく三次試験官と思われる人間によってアナウンスされた内容について今期のハンター試験の継続を諦めかけていた。ともすれば、72時間の間、飲まず食わずで如何に、この場を凌ぎ切るかについて思考が割かれていたと言っても良い。なぜなら「自分たちの試験は此処までだ、理由は多数決をするための人数が揃わないから」という理不尽なもの。全くと言っていいほど、そのアナウンスに納得など行くはずもないが、しかしハンター試験において審査員の決定は『絶対』である。それは二次試験でも味わった苦渋であったし、既に『決』が出てしまった以上、今更どうこう言えることはないという諦観でもあった。ただ、1人を除いては――
「ねえ、
「「……………」」
「はあ!!?」
そのゴンの素朴な呟きにキルアとクラピカは呆気に取られ、レオリオは叫び声を上げる。
「ど、どうってゴン、お前そりゃあ何も起こらねえんじゃねえか?」
「本当にそうかな?」
あくまでも純粋な疑問としてゴンはレオリオの言葉に言葉を返す。
「待て、ゴン。それはどういう意味だ?」
「え? ど、どうって??」
ついで言葉を紡いだのはクラピカ、おそらく4人の中では一番頭の冴える青年だろう。まぁ、ちょっとカッとしやすく後先考えない神経質な面もあるが………とはいえ、今は関係ないのでそれは脇に置いておこう。
「つまりゴンが言っているのは、ここにいるのは我々4人だが、この〇×と残時間を示した5つ腕輪を4人で、1人が2つ嵌めたら、どうなるのか試したい、という意味で良いのか?」
「うん!」
クラピカがゴンの言わんとしていることを整理して周知する。それにゴンは力強く頷いた。
「だって、試験官は俺たちに『アクシデントが起きて5人揃わない状況が発生したから此処で終わりだ』とは言ったけど、俺たちが全員
その言葉に今度こそ3人は絶句し押し黙る。やがて、誰ともなく漏らした忍び笑いから始まり、最後はゴンを除いた3人ともが盛大に爆笑した。
「ったく、なるほどな! そういうことかよ!! それは試さなくちゃ損だな!!」
そう言い切ったのはレオリオ。意気揚々と多数決の腕輪を手に取り自分に1つ、そして、もう1つも嵌めようとしてクラピカがそれに待ったを掛けた。
「だが、その場合のリングを誰が2つ嵌めるのかは慎重に考えなければ」
それに相槌を打つように答えるのはキルアで、最終的に4人の中では一番理知的であると認められたクラピカが代表して多数決の腕輪を2つ嵌めることになった。
――カチ
4人で5つ。多数決の腕輪を嵌めると『ゴゴゴ……』という重たい音を立てて先へ進む隠し通路が開かれた。
「「「「おおお!!!」」」」
それに4人は、まだ試験が始まったばかりだというのに歓声を上げて喜びを顕わにし、誰ともなく抱き合った。そして隠し通路の先にある扉を見て改めて気を引き締める。
『扉を――
○:開ける
×:開けない』
「んなの決まってるよな?」
「うん。それじゃあ、せーの!」
ゴンは自分とクラピカの腕輪にある「〇」ボタンを、クラピカは自分の「〇」ボタンを、キルアとレオリオも同様に自身の腕輪の「〇」を押した。
『多数決の結果――
○5:×0』
満場一致で扉を開ける「〇」が選択されると、扉に仕掛けられたロックが解除される音が響き、彼らの三次試験が本当にスタートしたことを報せたのだった。
彼ら4人が通過した部屋、もう誰も残っていないその待合室というには寂しい何もない空間に音が響いた。
<なるほど、やるね。この土壇場で、この機転。疑問に思っても中々辿りつける答えじゃない。>
それからの彼らが辿った道程は、凡そ正史通りである。5人で臨む多数決を4人で、同時に「〇」を押したりしなければならない関係上、その進み方は多少なりとも困難を極めたが(タイミングが合わずに回答不成立、やり直しとなったり。レオリオの下心が全開になったことで50時間の待機という代償を支払ったり。)、それでも彼らはめげずに先を進んでいく。途中、いろいろと揉めることの1つや2つもあったが、それでも彼らを決別させる結果になどならなかった。
また、50時間という待機の時間は、彼らにとってストレスも与えたが(レオリオは全く悪びれなかったせいで、しばらく肩身の狭い思いをしたみたいだが)、むしろ休息と言う面では良かったのだろう。多くの受験者が周りにいる状態で休むことを余儀なくされた飛行船でも全員が全員、ある程度のリラックスは出来ていたが、ここには申し訳ない程度のソファや娯楽用品が備え付けられていたし、なんだかんだ言っても気心の知れつつあった4人だ、それぞれの内情や置かれた環境について話せることを打ち明けたことで、より結束が強まったというのは言うまでもない。それが最後まで誰一人この三次試験を諦めずに臨めた本当の理由だったのかもしれない。
とはいえ、三次試験の残時間は既に60分を切っており、4人に焦りの気持ちが生まれ始めた時に、ついにゴールを示す扉が目前に現れることになった。
「どうやら、次でゴールが近いみたいだぜ?」
キルアの言葉に4人揃って多数決で表示された内容を見やる。そこには――
『これが最後の設問になります。覚悟はいいですか――
○:はい
×:いいえ』
4人は、ここまで来たならと覚悟を決めて多数決の腕輪に選択した結果を示し、本当に最後の多数決に臨むのだった。
* * *
三次試験として設けられた72時間が経過し、無事に合格した25名は試験官を務めたパイナップルヘアみたいなスタイルを持つ小柄なメガネの男とスタッフに先導される形でトリックタワーの外へ案内されることになった。
「諸君、三次試験の合格おめでとう。私が三次試験を担当した試験官のリッポーだ。そして諸君らがこれから望む四次試験の試験官も一部を同時に務めることになる。そこで必要なこととして、まず三次試験をクリアした先着順にこの籤を引いてもらおう」
そう言われて用意された抽選用の箱に俺から順番に籤を引いていく。俺の引いた番号は「404」と書かれていた。やがて全ての受験生が籤を引き終わったことを見計らってリッポーは口を開く。
「さて籤は引き終わったね。キミたちが何番の番号札を引いたかは、この機械に自動的に入力されているから引いた籤の結果は処分して貰って結構。それでは、本題だ」
リッポーは、そう告げると明日に始まるという四次試験の詳細について語った。それは俺の『知識』にもあったとおり、ハンター×ハンター(まだアマチュアだが)という内容であった。
四次試験『狩るものと、狩られるもの』の詳細、それは――
それぞれが持つ
各参加者ごとに一名ずつ「標的」が定められ、自分のプレート・「標的」のプレートは3点、それ以外の相手のプレートは1点として計算する。
最終的に、計6点分のプレートを持ってスタート地点に帰ればクリア。
――つまり、俺の引いた籤。そのターゲットは404番でクラピカということになるが、俺は既に無銘のナンバープレートを5枚所持している。つまり仮に俺の分をヒソカか、イルミに狙われても、あと1点分の番号札を稼げば四次試験は通過できることになるわけだ。まぁ、それがアリか、ナシかを確認するのが先か?
「――説明は以上だ。何か質問のある者はいるか?」
その言葉に、ここに残っていないものの受験番号は、全て「その他」に含まれるであろうことを認識しながらも、俺は試験官へ確認した。「自分と、自分のターゲット以外の受験番号は『1点』。この言葉に嘘はないか? 試験官と受験者で相互に誤解を生むような言い回しは極力避けて貰いたい」と。そして、俺の問いにリッポーは少し吟味して口を噤んだあと何かの可能性に思い至ったのか、一瞬だけ口角を上げて笑い「もちろん、自分と自分のターゲット以外のプレートは、すべて1点だ」と告げた。
「承知した」
おそらく、他の周りの連中は何言っているのか分からないという認識だったかもしれないが、別にそれはそれで構わない。俺は、俺の成すべきことをするだけだ。ただ、まぁ、問題があるとすれば――
「四次試験で使うゼヒル島って、基本無人の未開拓そのままの自然そのものなんだよなあ」
つまり、この車椅子モードの俺には指定期間を過ごすだけでも、億劫ということになる。本当に俺は、試験運が無いと思った瞬間だった。
あ、なにかリクエスト的なものがありましたら、評価時のコメントに添えていただけると助かります。