俺は北上にからかわれたい。   作:LinoKa

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第7話 ダブルフラッシャー

 

日曜日になった。今日だよ、今日。昨日から一睡もしてない。

ていうか、一睡もできなかった。

ていうか、眠れるわけなかった。

ていうか、寝れる方がおかしかった。

ていうか、

 

「いやもういい。しつけぇ」

 

自分の脳内にツッコミを入れるほど、頭が機能してなかった。大丈夫だ、アレから北上と少しは話せるようになったろ。落ち着け、俺。

俺は深呼吸すると、私服に着替えて部屋を出た。あまり私服に気を使う人間じゃないけど、今日くらいは少し考えた。まぁ、あまり服に気を使わない奴が考えた所で、まともな案なんか出るわけないから、結局普段と変わらないけど。

待ち合わせ、というと大袈裟だが、鎮守府の玄関で集合。まぁ、他の場所だと他の艦娘に見られるかもしれないし、妥当だろう。

そう決めて、玄関を開けた直後、うな垂れた北上と、何故かニコニコ微笑んだ大井が立っていた。

 

「…………はっ?」

 

大井は俺を見るなり、手に持ってるボードの上の紙に文字を書き始めた。

 

「女性を待たせる、減点10」

 

え?なんか採点されたし。その採点キツくない?

 

「ごめん、提督……」

 

北上は謝って来たよ。

 

「ど、どしたの?なんでいんの大井?」

「お構いなく。さ、私を差し置いて北上さんと二人きりのデートをどうぞ」

「や、お前なんで……つーかなんか言葉に棘ない?」

「お構いなく」

「いやお構いなくとか言われても……構うよ」

「お構いなく」

「あの、ほら……あ、もしかしてお前もゲーム欲」

「デートの相手の女性を差し置いて、他の女性と話す。減点20」

「よし、行こうか北上!」

 

なんかよくわからないけど、怖かったので北上の手を引いた。

 

「あの、どうしたの大井」

 

北上の耳元で囁いた。

 

「………朝早起きしたら、私のベッドに潜り込んでた大井っちに見つかっちゃって」

 

こいつら部屋離さないとダメだな………。北上は木曾辺りと二人部屋にしてあげよう。他の所は問題児をかき集めたってことで。

 

「ごめんね、提督」

「いや、全然平気」

 

うん、なんとなく上手くいかないなんて分かってたから。

 

「………あの、そもそもバイクで行こうと思ってたんだけど」

「良いですよ。どうぞ?」

 

あ、良いんだ……。これ多分、あいつ盗聴器北上に持たせてやがんな………。まぁいいや、下手なこと言わなけりゃ良いんだし。

俺は車庫からバイクを出して、ヘルメットを北上に放った。あ、バイクのヘルメット被る北上、似合ってなくて可愛いな。それ結局似合ってるんだけども。

 

「後ろ」

「んっ」

 

北上は俺の後ろにまたがった。すると、キュッと後ろから腰に抱きついて来た。

 

「っ?き、北上?」

「何?」

 

あ、この声。ニヤニヤしてるのが1発でわかった。この野郎は本当に……!

からかわれてる、と分かってても心臓がドキドキする。本当に、意地悪い奴を好きになったもんだよ。

すると、隣から大井が口を挟んだ。

 

「………ウブ過ぎ。減点20」

「出発前から半分になってますけど⁉︎」

「ゴチャゴチャうるさい。減点……」

「さ、行きましょう北上さん!大井、行って来まーす!」

 

バイクを走らせた。

後ろからは、北上が抱き締めてきている。

 

「……………」

 

背中に、柔らかい感触が……。イカンイカンイカンイカン!落ち着け、別に俺はそんなつもりでバイクで行こうとしたわけじゃないから!落ち着け俺………。

 

「ね、提督」

「はひっ⁉︎な、なんでしょう⁉︎」

 

変な声が漏れた。

 

「ぷっ、焦り過ぎだよー」

「ご、ごめん……」

「いや、別に謝らなくても良いけど。今更だけどさ、モンハンって、どんなの?」

「えっ?」

「ゲームってあんまやらないんだよねー」

 

それで良くモンハンやろうと思ったなこの人……。まぁ、実際俺もあの時出まかせ言っちゃっただけだから、モンハンあんまやったことないんだけどね。

 

「まぁ、モンスターを狩るゲームだよ。剣、鈍器、ボウガン、弓とかで」

「ふぅーん。難しい?」

「………モンスターによる」

 

本当にな。あの世界の食物連鎖とかどうなってんだろうな。ゲームだから仕方ないとは思うけど、草食竜のが肉食竜より少ないんだもんな。まぁ、ディアブロスみたいなとんでも草食竜もいるんだけど。

 

「ふぅーん……」

「興味なければ、別に無理して買うことないと思うけど」

「何、奢りたくないってこと?」

「いや、普通に。ゲームじゃなくても良いよってこと」

「んー、それも悪くないけど、ゲームでいいよ」

「あら意外。ゲームに興味持つようには見えなかったわ」

「いや、興味あるのはモンハンじゃなくて」

「?」

「提督が興味持ってるものに興味あるんだよー」

「………………」

 

こいつは何故、ピンポイントで俺の弱点を狙撃して来るのだろうか。

 

「何、照れてる?」

「うるせぇ!」

「やーい、純情男ー」

「うるせぇバーカバーカ!」

「聞こえませーん」

 

こいつ……!さっきまでしおらしくなって謝って来た癖に………!いつか逆襲してやる。

…………あれ?今更だけど、なんでさっき謝られたんだろ。

 

 

++++

 

 

ゲーム屋に到着した。モンハンの前に、ゲーム機本体を買わなくてはならない。

 

「色は?」

「薄緑」

 

とのことで、北上は随分と地味な色を選んだが、この際ツッコマずに買った。

店を出て、軽く伸びをした。

 

「さて、帰るか」

「えー。せっかく出掛けたんだし、何処か寄ろうよー」

 

ふむ、確かに。そもそもゲーム買いに出てる時点でアレなのにそのまま帰るとかあり得ない。

 

「じゃ、どこ行く?」

「んー、どっか?デパートとか?」

「りょかい。近くにあるから。北上くらいの女の子をよく見かける店たくさんあったよ」

「ふぅん?それはつまり、出掛けてる時に若い女の子をよく見てるって事か」

「や、違うから!ただ、そのっ………カップルでそういう店入りやがるもんだから、『爆発しろクソリア充が』と念じてるだけで………」

「側から見たら、今の提督も十分リア充だけどね」

「そう?……………あれ?それどういう意」

「さっ、早く行こう」

 

どういう意味か聞こうとしたら遮られ、北上はバイクの後ろに乗った。

デパートに到着し、バイクを止めると、いざ入店。

 

「おおー、お店いっぱい」

 

北上は俺の前を小走りで移動した。珍しく、その後ろ姿が少し浮かれてるように見えた。

やっぱ、北上も普段は落ち着いてるけど、こういう時は年相応なんだなぁ、としみじみ思いながら、俺はその背中を追った。

すると、北上はゲーセンの中に入っていった。

 

「服見ないのかよ……」

 

まぁいいか。服を見に行っても、俺は「あ、あの服北上に似合いそう」と思っても本人に言う勇気はなくて、もどかし思いをするだけだ。それから、ゲーセンで遊んだ方がいい。学生の時に友達とゲーセンに通ってたどのゲームでも、そこそこうまく遊べる自信がある。

 

「提督ー」

「何?なんかやりたいのあった?」

 

さて、どのゲームだ?埼玉のアントニオが相手をしてやろう。そう思って、北上のある方に歩くとプリクラがあった。

 

「………まじ?」

「マジ」

 

マジかよ……。正気かバナージ⁉︎

プリクラとか無理なんだけど。まともに写真撮れる気がしない。俺、写真写り悪いんだよね。免許証とか犯罪者とか言われてるし。

 

「ほら、早く」

「え、ちょっ、」

 

半ば強引に北上に引っ張られ、俺はプリクラの筐体の中に入った。

俺が300円入れると、北上がなんかようわからんフレームを選び、いよいよ撮影開始。コーンな感じでポーズしてね、と言いながら、出来損ないのフュージョンみたいなポーズが画面に映された。北上はそれを全く無視して、俺と肩を組んだ。ちょっ、シャンプーの香りがふわっと漂って来たぞ。

 

「いえーい」

「え?あのポーズじゃなくて良いの?」

「良いの良いの。ほら、早くポーズして」

 

えっ、ポーズと言われても……。おれは咄嗟にM87光線のポーズをした。

 

「え、何それ」

「ウルトラ兄弟中最強の必殺光線。スペシウム光線より強いメタリウム光線より強いストリウム光線より強い光線」

「何言ってんだか全然、分からな」

 

パシャッと音がして、北上の台詞は遮られた。

続いて、次のフレーム。またも、北上は指示をもろに無視して、俺の肩に手をかけた。

 

「提督も肩組んで」

「え、なんで」

「提督にポーズをとらせるとロクなことにならないから」

「………え、でもっ」

「良いから、気にしないから。セクハラだなんて思わないから」

 

見抜かれてた。俺は失礼して、北上と肩を組んだ。脱力して、手をプランとぶら下げた時、ムニッと変な感触が手に走った。

見ると、垂らした手が北上の胸に当たっていた。

 

「やべっ」

「? どしたの?提督」

 

北上は気付いていないようだ。俺は手をズラして、不自然じゃないようにピースを作った。

すると、カシャッと音がした。写真を撮られた。

 

「おーしぃ、次ぃ」

 

北上がそう言うと、そこから一枚、更に一枚と撮っていった。その間、北上に胸の事で突っ込まれることはなかった。

で、ラスト一枚。

 

「最後、提督がポーズ決めて良いよ」

「え?マジ?」

「うん」

 

………まだ、気は抜けない。体が変に密着するポーズはダメだ。少し離れるようにしよう。

 

「あ、そういえばちょうど良いポーズあるよ。それにしよう」

「何?」

「北上は両手合わせて前に出して。あ、角の方向いてくれた方が良いかも」

 

北上は言われるがまま、そのポーズをした。俺はその前に片膝ついて、両手を上げて北上の手の前で合わせた。

直後、パシャっとシャッター音がした。俺は立ち上がって、「行こうぜ」と北上に声を掛けると、「待って」と止められた。

 

「今のなんのポーズ?」

「ダブルフラッシャー」

「は?何言ってんの?」

「二人でやる必殺光線」

「え?二人でやるの?」

 

何故か少し嬉しそうな顔をする北上。

 

「うん。ウルトラマンレオ」

「へぇー。一緒に撃つのは?………恋人?」

「いやいや。弟のアストラ」

「お、弟?」

「弟」

「……………」

 

何故かムスッとした表情になる北上。

 

「………え、何?」

「さっき、胸触ったこと大井っちにチクるから」

「待ってそれは待って。死んじゃうから待って。てかお前気付いてたのかよオイ」

 

北上は俺の制止を無視して、落書きする椅子の上に座った。

 

 


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