何かおかしい。少し、北上と話せれば良いと思っていたのに、なんかいつの間にかデートの約束をしてしまっていた。いや、北上とデート出来るのはグラブルでSSRが当たった時よりも全然嬉しいんだけど、何か違う。普通にお喋り出来れば良かったはずなのに……。
デート行くのは確定として、さりげなく声掛けられるようにならないとダメだ。このままじゃ、デートに行っても何も話せなくなるのがオチだ。
「…………いや、落ち着こう」
大丈夫、まだ日曜日まで何日があるんだ。焦って昨日みたいなことになれば今度こそ終わりだ。それより、デートの日のために仕事やらないと。
しばらく、書類に目を通してはなんか色々書き始めて、三時間くらい経過した。うん、俺にしては、良く集中力保ったもんだよ。
仕事増えるから出撃はない。開発と遠征と演習だけしちゃおう。
執務室を出て、まずは遠征メンバーの元へ。えっと、天龍と龍田に人選は任せよう。あいつ、面倒見良いし。
軽巡の部屋に向かい、天龍龍田の部屋をノックした。
「はぁ〜い」
龍田の声が聞こえて「俺だ」と答えた。
「あら、オレオレ詐欺かしら〜?」
「提督だって。天龍もいる?」
「いますよ〜。今、開けますね〜」
扉が開き、龍田がにこやかに出迎えた。
「あの、遠征の旗艦二人に頼みたいんだけど……」
「お話はお茶でも飲みながら中でしませんか〜?」
「へ?いやそんな気を使わなくても」
「良いから良いから〜」
「入っても良いって事?」
「大丈夫ですよ、私は見られても困るものありませんから〜」
龍田に言われ、俺は部屋の中へ。
部屋の中では、天龍が抱き枕しながら昼寝していた、まだ午前中だけど。龍田を見ると、すっごく良い笑顔だった。こいつ、ほんと良い性格してんのな。
「………お茶もらえる?」
「提督も中々良い性格してますね〜」
ニコニコしながら、龍田に緑茶を淹れてもらった。ズズッとお茶を飲みながら、天龍の寝顔を写真撮ると、龍田に聞いた。
「これ、青葉にいくらで売れると思う?」
「ダメですよ〜?天龍ちゃんをいじるにも、やって良いラインというものがありますから〜。流石にそれは見過ごせません〜」
「なんだ、一応姉のこと守ってあげるんだな」
「青葉にはもう私が売りましたから〜」
「お前すげぇな!よくさっき、いじるラインだの何だの言えたな⁉︎」
「写真を売ることはやっても良いラインですから〜」
「見過ごせないんじゃないの⁉︎てかやって良いラインなのか?」
「私だから良いんです〜」
「横暴!」
ホント、妹にいじられるとか天龍可哀想な。そんな事を話してると、横から「んっ……」と声が漏れた。直後、龍田は録音機を取り出した。
「たつたぁ……いつも、ありがとう………」
それを録音すると、龍田はすごく良い笑顔になった。
「お前のそういうとこ、ほんと尊敬するよ」
お茶を飲みながらそう言うと、龍田はそれを鮮やかに無視して聞いて来た。
「それで、何のお話でしたっけ〜?」
「ああ、そうだった。遠征。お前と天龍旗艦でボーキ輸送とタンカー護衛」
「了解しました〜」
「メンバーは……好きな奴連れてって良いから」
そう言って、お茶を飲み干した。
「ご馳走様、俺もう行くわ」
直後、また「んっ……」と、吐息が漏れて、天龍が起き上がった。
「ふわあぁあ〜……おはよう、龍田ぁ………」
すると、龍田は俺の方を見た。俺はため息をつくと天龍に言った。
「おはよう〜、天龍ちゃん〜」
「龍田ぁ?お前なんか声低くね……」
言いながら、俺の方を見た。すると、ギョッとした天龍は、後ろに手をついた。
「て、提督っ⁉︎なんでここにっ⁉︎」
「あら、天龍ちゃん〜?私は龍田よ〜?」
「はぁっ⁉︎な、何ふざけてんだよ⁉︎龍田ならそこにっ……」
「ああ、天龍……。実は、俺達入れ替わっちまったっぽくてな……」
自分で言うのもなんだけど、龍田の奴、俺の真似上手いな……。
「んなっ……⁉︎ま、マジかよ⁉︎なんでだよ!」
「いや、ちょうど前を通りかかった時にぶつかっちまってな」
「申し訳ありません〜。私がちゃんと周りを確認しなかったばかりに〜……」
「いや、俺もスマホいじりながら歩いてたから。龍田は悪くないよ」
そんな話をしてると、天龍が口をパクパクしながら後退りし、そのまま部屋を飛び出した。
「だっ、誰かぁー!て、提督と龍田がっ……提督と龍田が混ざり合ってるぅー!」
「「ぶふっ⁉︎」」
俺と龍田は揃って吹き出した。そのまま天龍は「だ、誰かー!」と、どこかに走り去った。俺と龍田は顔を見合わせ、走って部屋を飛び出した。
「ま、待てええええ!その言い方はマズイ!その言い方は不味いから!」
「て、天龍ちゃん、落ち着いて!からかっただけ、からかっただけだからぁ〜‼︎」
慌てて追いかけて、なんとか広まる前に止められた。
++++
遠征を頼みに行っただけなのに、随分と疲れてしまった。続いて、肩をコキコキと鳴らしながら執務室に帰ってると、球磨型の部屋からちょうどバッタリと北上が出て来た。
「あっ」
「おっ、てーとく」
ヤバい、何話そう。
「なんか天龍が叫んでたけど、なんかあったの?」
「いや、何もない、けど……」
「ふーん……。ま、天龍が叫んでるのはいつもの事か」
いつも叫んでんのかあいつ……。まぁ、バカは騒ぐ事とか好きそうだし。
って、違う違う違う!どうする?こんなチャンス滅多にないぞ!何か、何か言え俺!
俺は心の中で深呼吸して、勇気を振り絞ると、北上に言った。
「あ、のさ………」
「んー?」
「飯、まだだよね?」
「うん。これから行こうかなって思ってたとこ」
「じゃあ、その………いっ、一緒に、食べない……?」
あああああああ!言っちまったああああああ‼︎これで断られたら俺明日から一ヶ月部屋に引きこもる!なんなら提督やめるまである!いや、提督やめるどころか人間やめて海の藻屑になって、もういっそのこと深海提督になるまで……!
「良いよー」
「………深海の対応になってや………今なんて?」
「え?良いよって」
「ま、マジで?」
「うん。早く行こうよ」
北上は俺の手を取って走り出した。
「………そうか、俺は死ぬのか……」
「何バカ言ってんの?早く行こうよ」
そのまま、食堂に到着した。北上と最初から二人きりで食事なんて、多分初めてじゃないか?しかも、今回は俺から誘ってるんだぞ?何これ、奇跡?
「提督、何食べんの?」
「うどん」
「へー、やっぱそういう感じかー」
「え?ど、どういう風に見えてたの?」
「いや、私も同じだからさー。大井っちがいると『栄養バランスを考えて(以下略)』だのなんだの言われて定食にしないとうるさいんだけど、一人の時はテキトーに麺類にしちゃうからさー」
「あ、それ分かるわ。麺類最強だよな」
「そうそう。ラーメン然りうどん然り焼きそば然りパスタ然り………あ、でもトマトラーメンだけは無理」
「それな。いやほんとそれ。トマトラーメンって何?ナメてんの?」
「ていうか、もうトマトが無理」
「そうか?単品なら美味いだろ」
「単品なら、ね。でもさ、ほら……ソースとか塩とか付いただけでゴミカスみたいになるのに、タンメンとか味噌汁に入ってたりもするじゃん……。なんでトマトを別の何かと融合させちゃうのかな……」
「それ分かる。あいつ何かとしゃしゃり出て来て全部台無しにするんだよな」
そんな話をしながら、食券を買ってカウンターに出した。
…………あれ?なんか、話せてない?いいんじゃないこれ?普通に調子良いんじゃないの?
そんな話をしてると、うどんが完成したのか、カウンターの奥から二人分のうどんが出て来た。………トマトが5個ずつ乗った。
「「…………へっ」」
間宮さんはニコニコしながら俺と北上を睨んでいた。
「残したら、お説教ですからね」
「「………………」」
俺と北上はうどんの器を持ち上げた。
「…………提督の所為だからね」
「トマトの話題を出したのお前だろ⁉︎」
「責任とって、私のトマト全部食べて」
「おまっ……!入れんなよこっちに!」
北上は自分の方のうどんに入れられないように、俺の前を走って移動した。
で、振り向くと、目の下に指を当てて舌を出した。
「へへーんだ」
「っ………!」
あ、あのやろっ……!そんな、仕草されたら………‼︎
可愛過ぎて許しちまうだろうが!煽られてんのに!
俺は仕方なくため息をついて、北上の後を追った。
この後、「食べ物で遊ぶな」と間宮さんに超怒られた。